説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】高活性でメタクリル酸収率の高いメタクリル酸製造用触媒を提供する。
【解決手段】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、銅原料として銅錯体を用いることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用されるメタクリル酸製造用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用される触媒としては、ヘテロポリ酸系触媒が挙げられる。ヘテロポリ酸系触媒としては、モリブドリン酸、モリブドリン酸塩等のヘテロポリ酸又はその塩を主成分とする触媒が知られている。メタクロレインの気相接触酸化反応における反応率を活性と定義すると、活性を向上させればメタクリル酸の収率向上が可能となり、地球環境に優しく、経済的にも優位になるため、活性、収率向上に関する触媒の研究開発が進められている。その多くは、まず触媒を構成する各元素を含む溶液又はスラリーを調製し、その後、これを乾燥、焼成することで触媒を製造している。
【0003】
ヘテロポリ酸系触媒における活性向上要因は多数あると考えられる。例えば、非特許文献1にはヘテロポリ酸のカウンターカチオン種が水素(以下、プロトンと示す)の場合、そのプロトンによりメタクロレインの構造中の酸素原子が引き寄せられ、メタクロレインの酸化反応が進行することが示されている。他のヘテロポリ酸のカウンターカチオン種としては銅イオンが活性向上に寄与することが知られており、その効果は非特許文献2に記載されている。
【0004】
銅原料の種類及び銅原料の添加方法に関して、以下の技術が開示されている。
【0005】
例えば特許文献1には銅原料として、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅等が使用できることが記載されており、実施例では銅原料を溶液中に添加している。
【0006】
特許文献2では銅原料に硝酸銅、硫酸銅、水酸化第二銅、炭酸銅、酢酸第二銅、塩化第二銅等が使用できることが記載されている。銅原料を、水や有機溶剤等の溶媒中で混合して溶解または懸濁させ、アンモニウム根を存在させた状態で加熱処理した後、濃縮乾固して、複合酸化物前駆体粉末としている。銅原料はあらかじめ別に水に溶解して用いてもよいが、粉体のまま懸濁液に仕込んでもよいことが記載されている。
【0007】
特許文献3では銅原料として粉末の酸化銅を用いており、酸化銅と固体のヘテロポリ酸と水とを粘土のようによく練り合わせて混合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−297593号公報
【特許文献2】特開2008−229515号公報
【特許文献3】特公平01−33217号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】触媒討論会A予稿集 巻:100th 頁:10 発行:2007/09/17
【非特許文献2】Applied Catalysis A: General 178(1999)69−83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1から3に記載されているように、銅原料は水や有機溶剤に溶解、懸濁した状態で複合酸化物前駆体に混合させるか、または固体を複合酸化物前駆体とともに粘土状に混合してヘテロポリ酸系触媒を調製するのが一般的である。
【0011】
しかしながら、特許文献1から3に記載の銅原料は水に溶解して銅イオンになりやすく、ヘテロポリ酸懸濁液中に銅原料を少量の水に溶解する等して混合すると、その際の水量や温度、加える時間や順番等により銅のイオン状態が変化し素性の異なる触媒が製造される場合がある。このため、安定してヘテロポリ酸系触媒を得にくい問題があった。また、特許文献1から3に記載の何れの銅原料も、銅以外の対イオンはヘテロポリ酸系触媒に対しては不必要な原料である。
【0012】
本発明の目的は、高活性でメタクリル酸収率の高いメタクリル酸製造用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、銅原料として銅錯体を用いることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法により製造される。
【0015】
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高活性でメタクリル酸収率の高いメタクリル酸製造用触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<メタクリル酸製造用触媒>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含む触媒であって、後述する本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法により製造される。該触媒の触媒組成は、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含めば特に限定されないが、下記式(1)で示される触媒組成を有することが好ましい。なお、該触媒組成は触媒調製時の各原料の仕込み量をもとに算出した値とする。
【0018】
aMobcCudefgh (1)
(前記式(1)中、P、Mo、V、Cu及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を示す。Xはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。Zはカリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g及びhは、各元素の原子比率を表し、b=12のとき、a=0.55〜1.5、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは、前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)。
【0019】
<メタクリル酸製造用触媒の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、銅原料として銅錯体を用いることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、下記(a)から(d)の工程を含むことが好ましい。
(a)触媒成分の原料化合物を含む溶液又はスラリーを調製する工程
(b)前記溶液又はスラリーを濃縮する工程
(c)前記濃縮した溶液又はスラリーを乾燥して触媒前駆体乾燥物を調製する工程
(d)前記触媒前駆体乾燥物を成形し、焼成する工程。
【0021】
以下、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法の詳細を示す。
【0022】
[工程(a)]
工程(a)では、触媒成分の原料化合物を含む溶液又はスラリーを調製する。
【0023】
触媒成分の原料化合物を含む溶液又はスラリーを調製する工程(a)は、各種金属原料の溶解やヘテロポリ酸の沈殿、編成制御を行う上で重要な位置付けである。例えば、触媒成分の原料化合物の種類、温度、時間、pH、触媒成分の原料化合物の添加順序によっても性能は大きく左右される。
【0024】
本発明者らは高活性・高収率化を目的として鋭意検討する過程で、銅原料の種類に着目した。銅原料はヘテロポリ酸や他のアニオンと対イオンを形成すると考えられる。本発明者らは、これまで銅原料として用いられていない銅錯体を用いた場合に、銅以外にヘテロポリ酸に有用な成分を提供できるため、メタクリル酸製造において高活性、高収率を示す触媒を製造できることを見出した。
【0025】
触媒中の銅はヘテロポリ酸のカウンターカチオンの位置に存在すると考えられる。カウンターカチオンの位置に存在するカチオンは、ヘテロポリ酸結晶中の電子や酸素イオンの移動に関与すると考えられる。銅がヘテロポリ酸結晶中に均一に分散されることにより、ヘテロポリ酸アニオンに存在する反応活性サイトに電子や酸素が円滑に供給されて、活性・収率の向上に寄与すると考えられる。
【0026】
したがって、高性能な触媒を安定に製造するためには、銅成分を均一に混合させることが必要と考えられる。そのためには、弱アルカリから酸性の領域で、かつ各種金属イオンが混在する状態で、銅が安定に、均一に分散されることが必要である。銅の錯イオンは、各種金属イオンが混在した状態でも、銅イオンよりも安定に均一に存在することができ、銅成分の均一混合を可能とする。なお、他成分との結合・化合は、少なくとも焼成段階で発現すればよいと考えられる。
【0027】
ヘテロポリ酸結晶は、アルカリカチオンの有無で性質が異なる。ヘテロポリ酸アルカリ塩では、アルカリカチオンが活性サイトのブロックとカウンターカチオンを経由する電子・酸素の動きを遮断する。そのため、空気中で高温焼成された際の高酸化状態が保たれる。
【0028】
一方、アルカリカチオンのないヘテロポリ酸には、活性サイトに障害物はなくカウンターカチオンを経由する電子・酸素の移動も可能である。本発明における銅の均一性はこのヘテロポリ酸により効果を及ぼすと考えられる。室温〜反応温度では、ヘテロポリ酸は若干還元された状態が安定であり、電子・酸素が動き易いと若干還元された状態にスムーズに移行する。この電子や酸素の動き易さが、活性・収率の向上に反映されると考えられる。
【0029】
銅原料として用いる銅錯体としては、例えば、テトラアンミン銅、EDTA−Cu、エチレンジアミン銅、及びシュウ酸、マロン酸、コハク酸、プロピオン酸、アジピン酸、フタル酸等のジカルボン酸との銅錯体、テトラアンミン銅等のアンモニアとの銅錯体等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。特に、銅・アンモニアというヘテロポリ酸のカウンターカチオンとして有用な成分を有する、次式のテトラアンミン銅の硝酸塩(NH34Cu22+・2NO3-を用いることが好ましい。テトラアンミン銅は、その粉の嵩密度が高いため少量の添加でも偏りが少なく粉同士をブレンドすることが可能であり、水への溶解性も非常に高い。テトラアンミン銅は市販品でもよく、また例えば次のように作製することもできる。
【0030】
硝酸銅・3水和物を純水に溶解させて、約25%アンモニア水を加える。別の容器にエタノールを入れておき、そこに前記硝酸銅とアンモニア水との混合溶液を注ぐ。吊鐘型ろ過器に設置された0.5μm程度のセルロースフィルターで減圧濾過する。得られた沈殿物(ケーキ)を50℃で一晩真空乾燥して、粉末状のテトラアンミン銅を得ることができる。
【0031】
銅錯体のカウンターアニオンとしては、特に限定されないが、硝酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン等が挙げられる。テトラアンミン銅のカウンターアニオンとしては、硝酸イオンが好ましい。
【0032】
なお、本発明において銅錯体とは配位結合を含む銅化合物を示し、イオン結合により形成される塩、例えば酢酸銅等は含まれない。
【0033】
銅以外の他の触媒成分の原料化合物としては、例えば、各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、アンモニウム塩等を適宜選択して使用することができる。モリブデン原料としては、モリブデン酸、三酸化モリブデン等が好ましい。一方、モリブデン酸アンモニウム等のアンモニウムイオンを多く含む化合物は好ましくない。リン原料としては、例えば、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が使用できる。バナジウム原料としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化二バナジウム等が使用できる。アンチモン原料としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が使用できる。ジルコニウム原料としては、例えば、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が使用できる。アルカリ金属原料、アンモニウム化合物としては、例えば、各種アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンの重炭酸塩、硝酸塩等が使用できる。アルカリ金属原料のアルカリ金属としては、カリウム、ルビジウム、セシウムが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0034】
溶液又はスラリーの溶媒としては特に限定されないが、水を主成分とする溶媒であることが好ましい。
【0035】
触媒成分の原料化合物の溶媒への添加方法としては、例えば溶媒に前記式(1)に示す触媒成分の原料化合物の一部を分散させて、室温または加温して溶解した後に、残りの触媒成分の原料化合物を添加してもよく、一括で触媒成分の原料化合物を溶媒に添加して分散、溶解させてもよい。
【0036】
銅原料である銅錯体の混合方法としては、工程(a)において他の触媒成分の原料化合物と同様に溶液又はスラリーに銅錯体を混合してもよい。また、後述する工程(b)において濃縮された溶液又はスラリーに銅錯体を混合してもよい。また、後述する工程(c)において得られる触媒前駆体乾燥物に銅錯体を混合して混合物を調製した後で、工程(d)を行ってもよい。この中でも、工程(a)において他の触媒成分の原料化合物と同様に溶液又はスラリーに銅錯体を混合することが好ましい。また、銅錯体の分量を分割して複数の時期で混合させてもよい。なお、工程(a)以外で銅錯体を添加する場合には、工程(a)における触媒成分の原料化合物には銅錯体は含まれなくてもよいものとする。
【0037】
[工程(b)]
工程(b)では、工程(a)で調製した溶液又はスラリーを濃縮する。
【0038】
濃縮条件としては、室温付近から溶媒が還流する温度までの間の最適温度及び時間を適宜選択することができるが、還流付近の温度を数時間継続させて濃縮することが好ましい。濃縮の程度としては、溶液又はスラリーの体積を40.0%以上、100%未満の範囲とすることが好ましく、50.0%以上、90.0%以下の範囲とすることがより好ましい。蒸発した溶媒を還流または補充することにより溶液又はスラリーの体積を調整してもよい。
【0039】
また、濃縮後の溶液又はスラリーのpHは8未満であることが好ましい。pHが8を超える場合には、触媒粒子が構成されにくく触媒性能が低下する場合がある。濃縮後の溶液又はスラリーのpHは3未満であることがより好ましい。
【0040】
[工程(c)]
工程(c)では、工程(b)において濃縮した溶液又はスラリーを乾燥して触媒前駆体乾燥物を調製する。
【0041】
乾燥方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法等が挙げられる。乾燥に使用する乾燥機の機種や乾燥時の温度、雰囲気等は特に限定されず、乾燥条件を適宜変えることによって目的に応じた触媒前駆体乾燥物を得ることができる。前述したように、得られた触媒前駆体乾燥物と銅原料とを粉同士で混合しても良い。その際には溶液又はスラリーに銅原料の一部を加え、残りを触媒前駆体乾燥物と混合しても良い。混合方法は特に限定されない。
【0042】
[工程(d)]
工程(d)では、工程(c)で得られた触媒前駆体乾燥物を成形し、焼成する。
【0043】
成形方法は特に限定されず、公知の乾式および湿式の種々の成形方法が適用できる。成形は担体等を含めず触媒成分のみで成形することが好ましいが、公知の添加剤、例えば、グラファイト、タルク等を少量添加しても差し支えない。具体的な成形方法としては、例えば、打錠成型、プレス成型、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状についても特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、球状等の形状に成形することができる。
【0044】
前記触媒前駆体乾燥物の成形品を焼成する方法や焼成条件は特に限定されず、公知の焼成方法及び条件を適用することができる。焼成の最適条件は、用いる触媒成分の原料化合物、触媒組成、調製方法によっても異なるが、通常、空気等の酸素含有ガス及び不活性ガス流通下で200〜500℃、好ましくは300〜400℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間行われる。ここで不活性ガスとは触媒活性を低下させない気体を示し、例えば、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0045】
<メタクリル酸の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法である。
【0046】
メタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを本発明に係る触媒と接触させる際の原料ガス中のメタクロレイン濃度は広い範囲で変えることができるが、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.5〜4モルが好ましく、1〜3モルがより好ましい。原料ガスは窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを加えて希釈してもよく、また原料ガスに水蒸気を加えてもよい。
【0047】
反応圧力は常圧から数気圧が好ましい。反応温度は230〜450℃の範囲とすることができるが、250〜400℃が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0049】
触媒組成および硝酸根、炭酸根、アンモニウム根のモル比は、触媒調製時の各原料の仕込み量をもとに決定した。
【0050】
メタクリル酸の製造における原料ガスと生成物の定量分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率およびメタクリル酸の単流収率は以下のように定義される。
【0051】
メタクロレイン(MAL)の反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸(MAA)の選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸(MAA)の単流収率(%)=(C/A)×100
ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0052】
[実施例1]
硝酸銅・3水和物を純水に溶解させ、25%アンモニア水を加えた。エタノールに前記硝酸銅とアンモニア水との混合溶液を注いだ。吊鐘型ろ過器に設置された0.5μm程度のセルロースフィルターにより該溶液を減圧濾過した。得られた沈殿物(ケーキ)を50℃で一晩真空乾燥して、粉末状のテトラアンミン銅を得た。
【0053】
三酸化モリブデン100部に水1000部を加えて、五酸化バナジウム1.7部、三酸化アンチモン1部、テトラアンミン銅1.7部を加えて分散・溶解させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.15部、硝酸鉄1.7部、85質量%リン酸水溶液7部を加えて還流下で3時間加熱攪拌し濃縮した。その後、これを蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥し、触媒前駆体乾燥物とした。該触媒前駆体乾燥物を加圧成形した。成形品をさらに破砕し、篩を用いて0.85〜1.70mmのものを分取し、空気流通下380℃で5時間焼成して触媒を得た。この触媒の組成はP1Mo120.25Cu0.2Zr0.01Fe0.07Cs1.06Sb0.06であった。なお、以下に示す他の実施例および比較例で調製した触媒も全てこの組成と同一である。
【0054】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガスを反応温度270℃、接触時間3.6秒で通じて反応を行った。その結果、メタクロレイン反応率は87.9%、メタクリル酸選択率は86.9%、メタクリル酸単流収率は76.3%であった。
【0055】
[比較例1]
三酸化モリブデン100部に水1000部を加えて、85質量%リン酸水溶液7部、五酸化バナジウム1.7部、三酸化アンチモン1部、硝酸銅1.4部を加えて分散・溶解させた。その後、85質量%リン酸水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に触媒を得て、反応を行った。その結果、メタクロレイン反応率は72.1%、メタクリル酸選択率は90.0%、メタクリル酸単流収率は64.9%であった。
【0056】
[実施例2]
三酸化モリブデン100部に水1000部を加えて、85質量%リン酸水溶液7部、五酸化バナジウム1.7部、三酸化アンチモン1部を加えて分散・溶解させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.15部、硝酸鉄1.7部を加えて還流下で3時間加熱攪拌し濃縮した。その後、さらにテトラアンミン銅1.7部を加えて蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥し、触媒前駆体乾燥物とした。該触媒前駆体乾燥物を加圧成形した。成形品をさらに破砕し、篩を用いて0.85〜1.70mmのものを分取し、空気流通下380℃で5時間焼成して触媒を得た。その結果、メタクロレイン反応率は79.3%、メタクリル酸選択率は88.6%、メタクリル酸単流収率は70.2%であった。
【0057】
[比較例2]
三酸化モリブデン100部に水1000部を加えて、85質量%リン酸水溶液7部、五酸化バナジウム1.7部、三酸化アンチモン1部を加えて分散・溶解させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.15部、硝酸鉄1.7部を加えて還流下で3時間加熱攪拌し、濃縮した。その後、さらに硝酸銅1.4部を加えて蒸発乾固した。これ以降は実施例2と同様に触媒を得て、反応を行った。その結果、メタクロレイン反応率は65.7%、メタクリル酸選択率は90.2%、メタクリル酸単流収率は59.2%であった。
【0058】
[実施例3]
三酸化モリブデン100部に水1000部を加えて、五酸化バナジウム1.7部、三酸化アンチモン1部を加えて分散・溶解させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.15部、硝酸鉄1.7部、85質量%リン酸水溶液7部を加えて還流下で3時間加熱攪拌し、濃縮した。その後、これを蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥し、触媒前駆体乾燥物とした。該触媒前駆体乾燥物の半分量である62部とテトラアンミン銅0.85部(三酸化モリブデン酸100部に対してテトラアンミン銅1.7部に相当)とを擂潰器内で30分間混合した。混合粉を加圧成形し、破砕し、篩を用いて0.85〜1.70mmのものを分取し、空気流通下380℃で5時間焼成して触媒を得た。その結果、メタクロレイン反応率は75.1%、メタクリル酸選択率は89.6%、メタクリル酸単流収率は67.2%であった。
【0059】
[比較例3]
三酸化モリブデン100部に水1000部を加えて、五酸化バナジウム1.7部、三酸化アンチモン1部を加えて分散・溶解させた。続いて硝酸セシウム12部、硝酸アンモニウム20部、硝酸ジルコニウム0.15部、硝酸鉄1.7部、85質量%リン酸水溶液7部を加えて還流下で3時間加熱攪拌し、濃縮した。その後、これを蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥し、触媒前駆体乾燥物とした。該触媒前駆体乾燥物の半分量である62部と硝酸銅0.7部(三酸化モリブデン100部に対して硝酸銅1.4部に相当)とを擂潰器内で30分間混合した。これ以降は実施例3と同様に触媒を得て、反応を行った。その結果、メタクロレイン反応率は44.2%、メタクリル酸選択率は90.2%、メタクリル酸単流収率は39.9%であった。
【0060】
このように、銅錯体であるテトラアンミン銅を銅原料に用いた実施例は、硝酸銅を銅原料に用いた比較例よりもMAL反応率(活性)が向上した。また、MAA収率についても銅錯体であるテトラアンミン銅を銅原料に用いた実施例の方が比較例より高かった。銅錯体であるテトラアンミン銅を銅原料として用いた場合、水難溶解性であるヘテロポリ酸のアルカリ塩を酸化状態にして、水溶解性のプロトン型ヘテロポリ酸を還元状態にできる。以上より、本発明に係る方法は高活性、高収率なメタクリル酸製造用触媒の製造方法として有用である。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、銅原料として銅錯体を用いることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
(a)触媒成分の原料化合物を含む溶液又はスラリーを調製する工程と、
(b)前記溶液又はスラリーを濃縮する工程と、
(c)前記濃縮した溶液又はスラリーを乾燥して触媒前駆体乾燥物を調製する工程と、
(d)前記触媒前駆体乾燥物を成形し、焼成する工程と、
を含む請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)で、前記銅錯体を前記溶液又はスラリーに混合する請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)で、前記銅錯体を前記濃縮した溶液又はスラリーに混合する請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記触媒前駆体乾燥物と前記銅錯体とを混合して混合物を調製した後に、前記工程(d)で該混合物を成形し、焼成する請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法により製造されるメタクリル酸製造用触媒。
【請求項7】
請求項6に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−217961(P2012−217961A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88168(P2011−88168)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】