説明

メタノール酸化触媒およびその製造方法

【課題】 高活性なメタノール酸化触媒を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有するメタノール酸化触媒である。T元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の80%以下であることを特徴とする。
PtxRuyMozu (1)
(上記一般式(1)中、T元素は、WおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、xは20〜80at.%、yは10〜60at.%、zは1〜30at.%、uは1〜30at.%である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール酸化触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池、特にメタノール水溶液を燃料とした固体高分子型燃料電池は、低温で動作が可能で、かつ小型軽量化が可能である。こうした燃料電池は、電極の触媒反応によって化学エネルギーを電力に変換するため、高性能な燃料電池の開発には高活性な触媒が不可欠である。
【0003】
燃料電池のアノード触媒としては、PtRuが一般的に用いられている。電極の触媒反応により得られる理論電圧は1.21Vであるのに対し、PtRu触媒による電圧ロスが約0.3Vである。メタノール酸化活性を向上させるため手法が、種々報告されている。
【0004】
例えば、タングステン、タンタル、ニオブなどの金属を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。触媒反応の反応場はナノサイズの触媒粒子の表面にあり、触媒表面の数原子層は触媒活性に大きく影響する。
【0005】
また、スパッタリングプロセスが提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。Pt−Ru−W,Pt−Ru−Moなど三元系も報告されているが、十分なメタノール酸化活性と安定性とを備えた触媒は、未だ確立されていない。
【特許文献1】米国特許公報3,506,494号
【特許文献2】特開2004−281177
【特許文献3】特開2006−179445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高活性なメタノール酸化触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかるメタノール酸化触媒は、下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、T元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の80%以下であることを特徴とする。
【0008】
PtxRuyMozu (1)
(上記一般式(1)中、T元素は、WおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、xは20〜80at.%、yは10〜60at.%、zは1〜30at.%、uは1〜30at.%である。)
本発明の一態様にかかるメタノール酸化触媒の製造方法は、前記微粒子を担持する導電性担体をさらに具備するメタノール酸化触媒の製造方法であって、導電性担体を400℃以下に保持する工程と、前記導電性担体上に、スパッタリング法または蒸着法により構成金属元素を付着させて前記微粒子を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高活性なメタノール酸化触媒およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、触媒合成プロセスと触媒組成との関係について鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。すなわち、下記式(1)で表わされる組成を有する微粒子において、MoおよびT元素からなる助触媒元素と、PtおよびRuからなる主要触媒元素との間の結合を金属結合とすることによって、高活性な触媒が得られる。こうした金属結合は、例えば、400℃以下の温度に保持した導電性担体にスパッタ法または蒸着法を用いて、MoおよびT元素をPtRu合金に含有させることによって、形成することができる。
【0011】
PtxRuyMozu (1)
T元素は、WおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、xは20〜80at.%、yは10〜60at.%、zは1〜30at.%、uは1〜30at.%である。
【0012】
PtおよびRuは、主要触媒元素である。Ptは水素の酸化、有機燃料の脱水素反応、RuはCO被毒抑制に極めて有効である。Ruの量が少ない場合には、活性が不足する。よって、xは20〜80at.%に規定され、yは10〜60at.%規定される。PtおよびRuの一部が他の金属で置換された場合には、活性をさらに高めることができる。化学安定性に特に優れているため、Rh,Os,Ir,Pd,Ag,およびAu等の貴金属が望ましい。
【0013】
MoおよびT元素は、助触媒である。T元素は、WおよびVから選択される少なくとも1種である。こうしたT元素とMoとが、PtおよびRuに添加された本発明の実施形態にかかる触媒は、高い活性を示す。各元素の特定の混合状態に起因した触媒の表面構造、電子状態が主因となって、活性が高められるものと推測される。特に、MoおよびT元素とPtおよびRuとの金属結合の存在が、活性の向上に寄与していると考えた。
【0014】
例えば溶液法により、触媒粒子を合成した場合には、W,VおよびMoなどの還元反応が生じ難く、こうした元素と主要触媒元素(Pt,Ru)との合金化が進行し難い。したがって、得られる触媒粒子の大部分は、PtRu微粒子とT元素の酸化物微粒子との混合物である。溶液法により合成された触媒粒子をX線光電子分光法(XPS)によって表面分析を行なったところ、MoおよびT元素の結合のほとんどは、酸素結合であった。
【0015】
本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒においては、MoおよびT元素は、酸素結合状態でも存在することが多い。酸素結合状態を持つMo及びT元素が表面部分に存在すると思われる。高活性を得るため、XPSスペクトルに示されるT元素の酸素結合によるピークの面積は、T元素の金属結合によるピークの面積の80%以下であることが望ましい。
【0016】
なお、Mo,T元素の酸化物を触媒の担体として用いることは、従来から種々検討されてきたが、十分な特性向上は得られていない。本発明の実施形態においては、スパッタリング法または蒸着法によって、触媒微粒子にT元素とMoとを複合添加する。これによって、高い活性を示す触媒を得ることが可能となった。
【0017】
Mo元素の含有量zは、1〜30at.%に規定される。1at.%未満の場合には、Mo元素の助触媒作用が低い。一方、30at.%を越えて多量にMo元素が含有されると、主要触媒元素により構成される主要活性サイトの数が相対的に減少して、触媒活性が低下する。Mo元素の含有量zは、2〜20at.%がより好ましい。
【0018】
T元素についても、Moと同様の理由から、その含有量uは1〜30at.%に規定される。T元素の含有量uは、2〜20at.%がより好ましい。
【0019】
上述したような構成金属元素に加えて、本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒には、酸素が含有されてもよい。25at.%以下の酸素含有量であれば、触媒活性が著しく低下することがない。P,S,Clなどの不純物元素の含有量は、0.1at.%以下である。不純物元素は、触媒または膜電極複合体の作製、処理プロセス中に混入する可能性があるが、0.1at.%以下の含有量では特性劣化が少ない。
【0020】
本発明の実施形態にかかる触媒粒子は、ナノ微粒子であることが好ましい。この場合には、最も高い活性が得られる。微粒子の平均粒径は、10nm以下であることが望ましい。10nmを越えると、触媒の活性効率が著しく低下するおそれがある。さらに好ましい範囲は、0.5〜10nmである。0.5nm未満の場合には、触媒合成プロセスの制御が困難で、触媒合成コストが高くなる。触媒粒子としては、平均粒径が10nm以下の微粒子を単独で使用してもよいが、この微粒子からなる一次粒子の凝集体(二次粒子)を使用することもできる。また、導電性担体に担持させてもよい。
【0021】
図1に示すように、導電性担体としてのカーボン粒子2に触媒粒子3を担持させて、カーボン担持触媒1を構成することができる。あるいは、図2に示すように、導電性担体としてのカーボンナノファイバー5に触媒粒子3を担持させて、カーボン担持触媒4を構成してもよい。図3には、カーボン粒子にされた触媒粒子により構成される触媒層のTEM写真を示す。導電性担体としては、例えばカーボンブラックを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、導電性および安定性に優れる任意の担体を使用することができる。
【0022】
導電性担体として、ナノカーボン材料、例えば、ファイバー状、チューブ状、コイル状などが開発されており、こうした担体は表面状態が異なる。本発明の実施形態にかかる触媒粒子は、これらに担持させることによって活性がさらに高められる。カーボン材料の他、導電性のセラミックス材料を担体として用いることもできる。この場合には。セラミックス担体と触媒粒子とのさらなる相乗効果が期待できる。
【0023】
本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒は、例えば、スパッタ法、蒸着法によって作製することができる。これらの方法は、含浸法、沈殿法およびコロイド法などの溶液法と比較して、金属結合を有する触媒を作製しやすいことが、本発明者らによって見出された。溶液法は、コストが高いのみならず、所望の結合状態を得ることが困難である。スパッタリング法または蒸着法には、合金ターゲットを用いることができる。あるいは、構成元素のそれぞれの金属ターゲットを用いて、同時スパッタリングまたは同時蒸着を行なってもよい。
【0024】
スパッタリング法を採用するに当たっては、まず、粒子状または繊維状の導電性担体を十分に分散させる。次に、分散した担体をスパッタ装置のチャンパーにあるホルダに収容し、攪拌しながらスパッタリングを行なって、触媒の構成金属を担体に付着させる。ここで攪拌を行なうことによって、触媒を均一に付着させることができる。スパッタリング中の担体温度は、400℃以下が望ましい。400℃を越えると、触媒粒子に相分離が生じて触媒活性が不安定になる場合がある。担体の冷却に必要なコストを削減するため、担体温度の下限値は10℃が望まれる。担体温度は、熱電対により測定することができる。
【0025】
触媒粒子がスパッタされる導電性担体として、導電性カーボン繊維を含む多孔質ペーパー、電極拡散層または電解質膜を用いることもできる。この場合は、プロセスの調整によって、触媒をナノ微粒子の状態で形成させることが必要である。上述と同様の理由から、多孔質ペーパー温度は400℃以下が望ましい。
【0026】
スパッタリング法または蒸着法により触媒粒子を形成した後には、酸洗い処理またはアルカリ処理または熱処理を施すことによって、活性をさらに高めることができる。こうした処理によって、触媒構造または表面構造がさらに適切な状態になると考えられる。
【0027】
酸洗い処理には、酸の水溶液を用いることができ、例えば硫酸水溶液が挙げられる。アルカリ処理には、アルカリの水溶液を用いることができる。熱処理によって、触媒構造または表面構造をさらに適切な状態とすることもできる。後熱処理については、10〜400℃以下、酸素分圧が5%未満の雰囲気中で処理するのが望ましい。
【0028】
微粒子の形成が促進されるため、カーボンなど他の材料を構成金属元素と同時に導電性担体に付着させてもよい。さらには、溶解性のよい金属、例えば、Cu,Zn、Niなどと構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着し、その後酸洗いなどによってCu,Zn、Niなどを取り除くことも可能である。
【0029】
図4乃至図11を参照して、本発明の実施形態にかかるメタノール触媒を用いた積層型電極の製造方法を説明する。まず、図4に示すようにカーボンペーパー7を用意し、スパッタリング法により、図5に示すように表面にNi粒子8を付着させる。次に、例えば、C24/H2、400〜700℃の条件で、図6に示すようにカーボンナノファイバー(CNF)層9を合成する。
【0030】
CNF層9には、スパッタリング法により、図7に示すようにRtRu粒子10を担持させた後、カーボンとニッケルとを同時スパッタして、図8に示すようにカーボン粒子11とNi粒子8とを担持させる。この工程を繰り返して、図9に示すように、RtRu粒子10、カーボン粒子11、およびNi粒子8をさらに積層する。
【0031】
2SO4により処理して、図10に示すようにNi粒子8を除去した後、図11に示すようにナフィオン12を減圧含浸する。以上の工程によって、積層型電極13が得られる。
【0032】
本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒は、膜電極複合体(MEA)のアノード電極として用いることができる。アノード電極とカソード電極とによりプロトン伝導性膜を挟持して、MEAが構成される。
【0033】
プロトン伝導性膜等に含まれるプロトン伝導性物質としては、特に限定されず、プロトンを伝達できる任意の材料を使用することができる。プロトン伝導性物質としては、例えば、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭化成社製)、アシブレック(旭硝子社製)などのスルホン酸基を有するフッ素樹脂や、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物などが挙げられる。
【0034】
前述したようなMEAと、アノード電極に燃料を供給する手段と、カソード電極に酸化剤を供給する手段と組み合わせることによって、燃料電池を作製することができる。使用されるMEAの数は1つでもよいが、複数でもよい。複数使用することにより、より高い起電力を得ることができる。
【0035】
以下、本発明の具体例を示すが、本発明はこの具体例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1〜10、比較例1〜10)
まず、カーボンブラック担体(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を十分に分散して、ホルダに収容した。このホルダをイオンビームスパッタ装置のチャンパー内に配置し、チャンバー内を排気した。チャンバー内の真空度が3×10-6Torr以下に達した後、Arガスを流入した。
【0037】
下記表2に示す各種組成となるように、所定のターゲットを用いてスパッタリングを行なうことにより、触媒粒子を担体に付着させた。ターゲットとしては、金属ターゲットおよび合金ターゲットのいずれを用いることもできる。
【0038】
触媒粒子が付着した担体は、酸水溶液を用いて酸洗い処理を施した。ここで用いた酸水溶液は、10gの硫酸を200gの水に加えて調製したものである。さらに、水洗いを行なった後、乾燥させてメタノール酸化触媒を得た。
【0039】
(比較例11)
まず、六塩化タングステンと塩化モリブデンとを含有するエタノール溶液1000mLを調製した。溶液中におけるタングステン金属量は112mgであり、モリブデン金属量は6mgとした。得られた溶液に、カーボンブラック(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を500mg添加し、十分に撹拌して均一に分散させた。その後、撹拌しつつ55℃に加熱して、エタノールを揮発させて除去した。
【0040】
水素ガスを50mL/分の流量で流通させつつ、残留物を300℃で3時間加熱することによって、カーボンブラック上にタングステンを担持させた。一方、1,5−シクロオクタジエンジメチル白金を含有するシクロヘキサン溶液300mL(白金金属量309mg)と、塩化ルテニウムを含有するエタノール溶液40mL(ルテニウム金属分54mg)とを混合して、溶液を調製した。この混合溶液中に、前述のタングステンを担持したカーボンを添加し、十分に撹拌して均一に分散させた。その後、撹拌下に55℃に加熱して溶媒を揮発させて除去した。
【0041】
さらに、水素ガスを50mL/分の流量で流通させつつ、上で得られた残留物を300℃で3時間加熱した。その結果、カーボンブラック上に、白金、ルテニウム、Moおよびタングステンが担持され、比較例11のメタノール酸化触媒が得られた。
【0042】
(比較例12)
六塩化タングステンを塩化バナジウムに変更し、バナジウム金属量として31mgを使用した以外は、比較例11と同様の手法により比較例12の触媒を作製した。
【0043】
各触媒について、PHI社製Quantum−2000を用いてXPS測定を行なった。中和銃(電子銃、アルゴン銃)によるチャージアップ補償と帯電補正(C1s:C−C=284.6eV)とを行なった。各元素の金属結合によるピークと酸素結合によるピークの同定を、下記表1に示す。
【0044】
例えば、V元素についてはV2pスペクトルを用いて、結合エネルギーが512〜514eV範囲にあるピークを金属結合によるものと同定し、516〜518eV範囲にあるピークは金属結合によるもと同定した。W元素については、W4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが31〜34eV範囲にあるピークを金属結合によるものと同定し、36〜40eV範囲にあるピークを酸化結合によるものと同定した。
【表1】

【0045】
触媒粒子中に含有されているT元素が複数の場合は、最も含有量が多いT元素を主要T元素と定義する。各触媒における主要T元素の測定結果を、下記表2にまとめる。主要T元素のピーク面積比は、同元素の金属結合によるピーク面積を100%とした際の酸素結合によるピーク面積と定義した。
【表2】

【0046】
表2に示されるように、実施例の触媒はいずれも、XPSスペクトル上の各主要T元素の酸素結合によるピークの面積が同元素の金属結合によるピークの面積の80%以下である。これに対し、溶液法によって作製した比較例11においては、Mo元素およびW元素の結合のほとんどが酸化状態であった。同様に溶液法によって作製された比較例12においても、Mo元素およびV元素の結合のほとんどが酸化状態であった。
【0047】
なお、上で測定されたサンプルは、酸洗いが施された触媒である。酸洗い前の触媒は、酸洗いしたものより酸化結合のピークが高い場合がある。それは、不安定な酸化層の存在が原因であることが多いと思われる。酸洗い処理が施されない触媒は、不安定な酸化層が発電中において変化し、酸化結合によるピークの面積比は酸洗いした触媒と同レベルになることが多い。
【0048】
次に、実施例および比較例の各触媒をアノード触媒として用いてMEAを構成し、これを用いて燃料電池を作製して、その評価を行なった。
【0049】
アノード電極の作製に当たっては、まず、各触媒3gと、純水8gと、20%ナフィオン溶液15gと、2−エトキシエタノール30gとを十分に攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。得られたスラリーを、撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)にコントロールコータで塗布し、乾燥させた。こうして、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cm2のアノード電極を得た。
【0050】
一方、カソード電極の作製には、Pt触媒を用いた。Pt触媒(田中貴金属社製)2gと、純水5gと、20%ナフィオン溶液5gと、2−エトキシエタノール20gとを十分に攪拌し、分散してスラリーを作製した。得られたスラリーを、撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)にコントロールコータで塗布し、乾燥させた。こうして、貴金属触媒のローディング密度が2mg/cm2のカソード電極を作製した。
【0051】
カソード電極およびアノード電極は、いずれも電極面積が10cm2になるよう、3.2×3.2cmの正方形に切断した。プロトン伝導性固体高分子膜としてのナフィオン117(デュポン社製)を、カソード電極とアノード電極との間に挟み、熱圧着して膜電極複合体を作製した。熱圧着の条件は、125℃、10分、30kg/cm2とした。
【0052】
得られた膜電極複合体と流路板とを用いて、燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。燃料としての1Mメタノール水溶液を、0.6mL/minの流量でアノード電極に供給すると共に、カソード電極に酸化剤としての空気を200mL/分の流量で供給した。セルを65℃に維持した状態で150mA/cm2電流密度を放電させ、30分後のセル電圧を測定した。また、同様の運転条件で単セルを500時間発電させて、150mA/cm2電流密度における電圧の低下率を調べた。得られた結果を劣化率として、電圧とともに下記表3に示す。
【表3】

【0053】
PtおよびRuのみの比較例1と実施例1〜10との比較から、実施例1〜10の触媒は、同レベルの安定性を維持しつつ活性が高められたことがわかる。実施例1〜5と比較例5〜7との比較から、Mo元素およびW元素が複合添加された触媒は、高活性であるのに加えてPtRuと同等の劣化率を有することがわかる。実施例6〜10と比較例8〜10との比較からは、Mo元素およびV元素が複合添加された触媒は、高活性であるのに加えてPtRuに匹敵する劣化率をもつことがわかる。
【0054】
Mo元素の含有量が1at.%未満の場合、あるいは30at.%を越えた場合には、高活性と高い安定性とを両立することができない。T元素の含有量が1at.%未満の場合、あるいは30at.%を越えた場合も同様に、高活性と高い安定性とを両立することができない。これは、実施例1〜10と比較例2〜10との比較からわかる。
【0055】
高い活性を得るには、組成のみならず、元素の結合状態も制御する必要があることが、実施例1〜5と比較例11との比較から確認された。これは、実施例6〜10と比較例12との比較からもわかる。
【0056】
なお、実施例のメタノール酸化触媒を改質ガス型高分子電解質型燃料電池に適用したところ、この場合も、同様の傾向が確認された。したがって、本発明の実施形態にかかるメタノール酸化触媒は、CO被毒についても従来のPt−Ru触媒より有効であることがわかる。
【0057】
上述したように本実施形態にかかる触媒は、高活性かつ高安定性な触媒であるので、これを用いて高出力な燃料電池を作製することができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】一実施形態にかかるメタノール酸化触媒の概略図。
【図2】他の実施形態にかかるメタノール酸化触媒の概略図。
【図3】一実施形態にかかるメタノール酸化触媒により構成される触媒層のTEM写真。
【図4】積層型電極の製造工程を表わす断面図。
【図5】図4に続く工程を表わす断面図。
【図6】図5に続く工程を表わす断面図。
【図7】図6に続く工程を表わす断面図。
【図8】図7に続く工程を表わす断面図。
【図9】図8に続く工程を表わす断面図。
【図10】図9に続く工程を表わす断面図。
【図11】図10に続く工程を表わす断面図。
【符号の説明】
【0060】
1…カーボン担持触媒; 2…カーボン粒子; 3…触媒粒子
4…カーボン担持触媒; 5…カーボンナノファイバー; 7…カーボンペーパー
8…Ni粒子; 9…CNF層; 10…RtRu粒子; 11…C粒子
12…ナフィオン; 13…積層型電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、T元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の80%以下であることを特徴とするメタノール酸化触媒。
PtxRuyMozu (1)
(上記一般式(1)中、T元素は、WおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、xは20〜80at.%、yは10〜60at.%、zは1〜30at.%、uは1〜30at.%である。)
【請求項2】
前記T元素は、Wであることを特徴とする請求項1に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項3】
前記zは、2〜20at.%であることを特徴とする請求項2に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項4】
前記uは、2〜20at.%であることを特徴とする請求項2に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項5】
前記PtおよびRuの一部は、他の貴金属により置換されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項6】
前記貴金属は、Rh,Os,Ir,Pd,Ag,およびAuからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項7】
25at.%以下の酸素をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項8】
P,S,およびClからなる群から選択される少なくとも1種の不純物元素の含有量は、0.1at.%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項9】
前記微粒子の平均粒径は、10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項10】
前記微粒子の平均粒径は、0.5nm以上であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項11】
前記微粒子を担持する導電性担体をさらに具備することを特徴する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項12】
前記導電性担体は、カーボン材料および導電性セラミックス材料からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項13】
前記カーボン材料は、ファイバー状、チューブ状、またはコイル状であることを特徴とする請求項12に記載のメタノール酸化触媒。
【請求項14】
下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、T元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の80%以下であることを特徴とするメタノール酸化触媒。
PtxRuyMozu (1)
(上記一般式(1)中、T元素は、W,Ni,Sn,HfおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、xは20〜80at.%、yは10〜60at.%、zは1〜30at.%、uは1〜30at.%である。)
【請求項15】
下記一般式(1)で表わされる組成を有する微粒子を含有し、T元素は、X線光電子分光法によるスペクトルにおいて酸素結合によるピークの面積は、前記金属結合によるピークの面積の80%以下であることを特徴とするメタノール酸化触媒。
PtxRuyMozu (1)
(上記一般式(1)中、T元素は、WおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも一種であり、xは20〜80at.%、yは10〜60at.%、zは1〜30at.%、uは1〜30at.%である。PtおよびRuの一部は、Rh,Os,Ir,Pd,Ag,およびAuからなる群から選択される少なくとも1種により置換されていてもよい。)
【請求項16】
請求項11に記載のメタノール酸化触媒の製造方法であって、
導電性担体を400℃以下に保持する工程と、
前記導電性担体上に、スパッタリング法または蒸着法により構成金属元素を付着させて前記微粒子を形成する工程と
を具備することを特徴とする製造方法。
【請求項17】
前記微粒子を酸洗いする工程をさらに具備することを特徴とする請求項16に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項18】
前記微粒子をアルカリ洗いする工程をさらに具備することを特徴とする請求項16に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項19】
前記微粒子を後熱処理する工程をさらに具備することを特徴とする請求項16に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項20】
前記後熱処理は、10℃以上400℃以下の温度、5%未満の酸素分圧の条件で行なわれることを特徴とする請求項19に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項21】
前記スパッタリング法または蒸着法は、他の材料も前記導電性担体に付着させることを特徴とする請求項16に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。
【請求項22】
前記スパッタリング法または蒸着法により、溶解性金属を構成金属元素とともに前記導電性担体に付着させ、酸洗いにより前記溶解性金属を除去する工程をさらに具備することを特徴とする請求項16に記載のメタノール酸化触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−72710(P2009−72710A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244854(P2007−244854)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(506358764)インテマティックス・コーポレーション (40)
【氏名又は名称原語表記】INTEMATIX CORPORATION
【Fターム(参考)】