説明

メタルハライドランプ、メタルハライドランプ点灯装置

【課題】直流点灯方式の水銀フリーメタルハライドランプの寿命特性を大幅に向上させる。
【解決手段】ハロゲン化物、希ガスを含み、水銀を含まない放電媒体が封入された放電空間14の両端の封止部12a,12bで放電容器11が構成される。放電空間14内に陽極3a2および陰極3b2が対向配置され、陽極3a2の基部側端部に金属箔3a1の一端部が、陰極3b2の基部側端部に金属箔3b1の一端部が結合される。金属箔3a1,3b1は、封止部12a、12bにより気密に封着される。金属箔3a2,3b2の他端部は、それぞれ外部リード3a3,3b3に結合され封止部12a、12b外にそれぞれ導出される。放電容器14内に流れる電流の向きは一定とし、陽極3a2側の金属箔3a1とこの金属箔3a1に接続された外部リード3a3が粗面化された状態でレニウム金属膜4の被覆を施した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電ランプ、特に直流点灯による水銀フリーのメタルハライドランプ、メタルハライドランプ点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水銀を使用しない、いわゆる水銀フリーメタルハライドランプは、放電容器の気密性を確保するモリブデン箔等からなる金属箔と放電媒体との反応が起こりやすいという問題があり、金属箔を緻密なコーティング膜で被覆を行い、放電媒体との反応防止を図り、水銀を用いないことに伴う寿命特性の低下等の改善が図られている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2002-260581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、自動車前照灯のように点滅が頻繁で、始動時に大電流を通過させるランプの陽極側の金属箔は、耐ハロゲン性と粗面形成による密着性の向上を満足させなくてはならない。
【0004】
ところが、耐ハロゲン性を得るためにモリブデン(Mo)製の金属箔の表面を粗面形成し、粗面化した部分にコーティング膜を形成すると、今度は膜材料が金属箔の粗面と石英ガラスの間に介在して総合的な密着性は必ずしも改善されないという、という問題があった。
【0005】
この発明の目的は、直流点灯方式おける寿命特性を向上させた水銀フリーのメタルハライドランプおよびメタルハライドランプ点灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明のメタルハライドランプは、放電空間と該放電空間の両端に設けられた封止部とを有する放電容器と、前記放電空間内に対向して配置された陽極および陰極と、前記陽極および陰極の基部側端部にそれぞれ一端部が接合されるとともに、前記封止部により気密に封着された金属箔と、前記金属箔の他端部にそれぞれ結合されるとともに、前記封止部外に導出された一対の外部リードと、前記放電容器内に封入され、ハロゲン化物および希ガスとを含み、かつ本質的に水銀を含まない放電媒体と、を具備し、前記放電容器内に流れる電流は向きを一定とし、少なくとも前記陽極側の前記金属箔表面を粗面化し、該粗面上にレニウム(Re)金属膜を被覆したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、陽極側の金属箔の表面が粗面形成され、その粗面表面にレニウム金属膜が被覆されたことにより、寿命特性を大幅に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1、図2は、この発明のメタルハライドランプに関する一実施形態について説明するための、図1は概略的な構成図、図2は図1の拡大した構成図である。
1はメタルハライドランプを構成する内管であり、この中央部の放電容器11の両端部には、板状の封止部12a、12bが形成されており、その両端には、筒状の非封止部13a,13bが形成されている。なお、内管1は耐熱性と透光性に優れた材料であれば使用でき、例えば石英ガラスが使用可能である。
【0010】
放電容器11の内部には、軸方向において、中央部が略円柱状、その両端部がテーパ状の放電空間14が形成されている。この放電空間14の容積は、ショートアーク型の放電ランプでは100μl以下、自動車の前照灯用として用途を指定する場合には、放電空間の容積は10μl〜40μlであるのが望ましい。
【0011】
放電空間14には、金属ハロゲン化物2および希ガスとからなる放電媒体が封入され、放電媒体には本質的に水銀を含まないものとする。次に、放電媒体の具体例について説明する。
【0012】
まず、ハロゲン化金属としては、種々の金属元素のハロゲン化物を用いることができ、例えば主として発光に寄与する金属の第1のハロゲン化物が使用される。第1のハロゲン化物としては、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)および希土類金属から選ばれる一種または複数種の金属元素のハロゲン化物を用いる。NaやScは、特に高効率な発光物質である。
【0013】
ハロゲン化金属は、蒸気圧が相対的に高く、第1のハロゲン化物の金属に比較して可視光域に発光しにくい金属の一種または複数種のハロゲン化物を、第2のハロゲン化物として含むことができる。可視光域に発光しにくい金属とは、第1のハロゲン化物の金属よりエネルギー準位が高く、第1のハロゲン化物の金属が主として発光する状態であればよい。第2のハロゲン化物を添加することで、水銀を含むランプに近いランプ電圧を得ることができ、水銀フリーメタルハライドランプの電気特性や発光特性の改善が可能となる。第2のハロゲン化物は、色度改善等に対しても寄与する。
【0014】
第2のハロゲン化物としては、例えばマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)および錫(Sn)から選ばれる一種または複数種の金属のハロゲン化物が用いられる。
【0015】
ハロゲン化金属を構成するハロゲンとしては、ヨウ素(I)が反応性の低さにおいて最も適当であり、臭素(Br)、塩素(Cl)、フッ素(F)の順に反応性が強くなるが、必要に応じ適宜選択可能である。また、ヨウ化物と臭化物のように、異なるハロゲンの化合物を併用することもできる。
【0016】
ハロゲン化金属の封入量については、例えば主として発光に寄与する第1のハロゲン化物は、放電容器の内容積(放電空間の容積)1cc当たり5mg〜110mgの範囲で封入することができる。さらに好適な範囲は、放電容器の内容積1cc当たり5mg〜35mgである。このような範囲において、光束の立ち上がりを早くすることができるとともに、光色を安定させることができる。第2のハロゲン化物は、放電容器の内容積1cc当たり0.05mg〜200mgの範囲で封入することができる。他のハロゲン化物については適宜調整される。
【0017】
また、希ガスとしては、始動用および緩衝ガスとしての他に、始動直後には主発光を担うように作用する。一般的には放電容器を透過しなければ特に限定されないが、放電容器が石英ガラスで形成される場合は、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)またはキセノン(Xe)が推奨される。始動直後の発光を希ガスに依存する場合には、最も発光効率が高いのはキセノンであるため、キセノンが最適である。
【0018】
希ガスの封入圧力を高くすると、ランプ電圧が高くなり、同一ランプ電流に対してランプ入力を大きくして、光束の立ち上がり特性を向上させることができる。光束の立ち上がり特性が良いことは、どのような使用目的であっても好都合であるが、特に自動車用前照灯装置や液晶プロジェクタ等では極めて重要である。希ガスは例えば3気圧以上の圧力で封入され、特に5〜15気圧の範囲で封入することが好ましい。
【0019】
さらに、「本質的に水銀が封入されていない」とは、水銀が全く封入されない状態に限らず、放電容器の内容積1cc当たり2mg未満の水銀、好ましくは1mg以下の水銀が存在することの許容を意味する。しかし、水銀が封入されないことは環境上望ましいことである。従来の水銀蒸気により放電ランプの電気特性を維持する場合、短アーク形では放電容器の内容積1cc当たり20mg〜40mg、場合によっては50mg以上の水銀を封入していたことからすれば、この実施形態で使用される水銀量は、本質的に少ないといえる。
【0020】
再び図1において、封止部12a、12bの内部には、マウント3a、3bが封止されている。マウント3a,3bは、金属箔3a1,3b1、陽極3a2、陰極3b2、外部リード3a3,3b3からなる。金属箔3a1,3b1は、例えば、Moのような高融点の短冊形状の薄い金属板である。
【0021】
陽極3a2側の金属箔3a1はレーザ加工やサンドブラスト加工によりMo箔の表面を粗面形成し、その表面にはレニウム(Re)金属が被覆されたレ二ウム金属膜4で構成さされる。レ二ウム金属膜4は、後述するイオンプレーティング法により200nm〜2500nm範囲の膜厚で被覆している。
【0022】
図3は、この発明のメタルハライドランプを自動車用前照灯に適用した場合について説明するための概略的な構成図であり、図1と同一の構成部分には同一の符号を付し、ここでは異なる部分を中心にして説明する。
図3において、メタルハライドランプの主要部を構成する発光管は、2重管構造となっており、発光管内部には例えば石英ガラス製の内管1が配置されている。内管1はランプ軸方向に細長い形状であって、その略中央部には略楕円形の放電容器11が形成されている。放電容器11の両端部には、封止部12a,12bが形成されており、その両端には、筒状の非封止部13a,13bが形成されている。
【0023】
発光管の非封止部13a側には、ソケット7が接続される。それらの接続は、非封止部13a付近の外管9外周面に装着された金属バンド71を、ソケット7の内管1保持側の開口端に形成された4本の金属製の舌片72(図3では、2本を図示)により挟持することによって行なわれている。そして、接続をさらに強化するために、金属バンド71および舌片72の接触点を溶接している。なお、ソケット7の底部には外部リード3a3と図示しないサポートワイヤがそれぞれ接続される端子が形成される。
【0024】
一端が金属箔3a1,3b1の端部に接続された外部リード3a3,3b3の他端は、管軸に沿って封止部12a,12bの外部に延出している。外部に延出した外部リード3b3には、ニッケルからなるL字状のサポートワイヤ6の一端が接続され、その他端は、ソケット7の方向に延出している。そして、管軸と平行するサポートワイヤ6の部分には、セラミックからなる絶縁スリーブ8が被覆されている。
【0025】
上記で構成された内管1の外側には、管軸に沿って石英ガラスに紫外線の遮断作用を有する金属酸化物が添加された筒状の外管9が内管1と略同心状に設けられている。内管1と外管9の接続は、内管1両端の筒状の非封止部13a,13b付近に外管9を溶着することにより行なわれており、内部空間は気密状態である。その空間には、例えば、窒素やネオン、アルゴン、キセノン等の希ガスを一種または混合して封入したりすることができる。
【0026】
ここで、金属箔の表面の粗面化は、レーザ加工の方法により実現できる。この方法は本出願人が先に出願した特願2006−17932に記載されている。このレーザ加工によって金属箔3a1の表面が粗面化されると、金属箔3a1と封止部12a部分の石英ガラスとの密着性が良好になるとともに、金属箔3a1に所望の粗さ、所望の形状の粗面を容易に形成できる。
【0027】
図4は、金属箔3a1の表面をレーザ加工による粗面RSが形成された金属箔3a1の状態を示す正面図である。図5(a)は、図4のx−x断面図であり、図5(b)は図5(a)の一部を拡大して示す断面図である。
図4に示すように、粗面RSは、金属箔3a1の表面に複数条の溝Gを形成することにより形成される。溝Gの形成方法の一例としては、金属箔3a1の表面にレーザを1回照射することにより、スポットが1つ形成される。このスポットは、レーザの焦点の合わせ方や入力制御によって断面の形状などを制御できる。そして、先に形成されたスポットの一部に再びレーザを照射することによって、スポットが互いに連接して構成された形状の溝Gを得ることができる。溝Gの深さは、レーザの電流値を変化させることで、スポットの径は焦点やレーザ照射ユニットから照射位置までの距離を変化させることで自由に制御可能である。
【0028】
また、粗面RSを形成する領域は、金属箔3a1の両面のほぼ全面である場合が最も高い密着性が得られるので好ましい。さらに、溝Gを形成する場合は、金属箔3a1の端部に溝Gが繋がらないように形成するのが好適である。粗面RSを形成する領域は、金属箔3a1の両面のほぼ全面である場合が最も高い密着性が得られるので好ましい。さらに、溝Gを形成する場合は、金属箔3a1の端部に溝Gが繋がらないように形成するのが好適である。
【0029】
次に、レーザ加工による溝Gからなる粗面RSの好適な表面粗さについては、日本工業規格の「B0601」により規格化されており、表面粗さRaおよびRzの値を参照して説明する。
【0030】
まず、レーザ加工によって形成された溝Gからなる粗面RSの表面粗さ(算術平均粗さ)Ra(μm)は、数式0.4≦Raを満足する範囲が一般的には好適である。さらに、表面粗さ(最大高さ粗さ)Rz(μm)は、数式1.0≦Rz≦7.0を満足する範囲が一般的には好適である。
【0031】
粗面RSの深さが肉厚を超えるようでは金属箔3a1の機能が阻害されるので、粗面RSが金属箔3a1を肉厚方向に貫通しない深さである必要がある。また、金属箔3a1の機能を充分に活かす目安としては、凡そ肉厚の半分までの溝Gの深さであるのが望ましい。好適な表面粗さとして、試験には、Ra=0.8、Rz=2.7にレーザ加工により制御した粗面を使用した。
【0032】
金属箔3a1に粗面RSを形成する別の手段としてサンドブラスト法がある。これは適宜な硬度を有する部材の微粉末である砥粒を金属箔3a1の表面に吹き付け、衝突させることにより行う。砥粒としてはコランダムを使用した。好適な表面粗さとして、試験には、Ra=0.8、Rz=2.7にサンドブラスト法で制御した粗面を使用した。
【0033】
図6は、レ二ウム金属膜をイオンプレーティング法により、陽極3a2の基部側、金属箔3a1、それに金属箔3a1に接続された外部リード3a3に被覆する方法について説明するための説明図である。また、図7はレ二ウム金属膜が施されるマウントについて説明するための説明図である。なお、金属箔3a1の表面には、予めレーザ加工やサンドブラスト法で粗面が形成されている。
図6において、61は高真空にされた真空槽であり、真空槽61の上側には陰極となる基板支持台62に設置された基板63に、図7(a)に示すマウント3aを多数取り付ける。このとき、陽極3a2を下向きにした状態で、外部リード3a3を基板63に固定する。真空槽61の下側の蒸発台64上に置かれたレ二ウム金属Reは、電極放電により加熱され蒸発する。蒸発台64と基板63の間に設置された高周波コイル65により、蒸発したレ二ウム金属Reはイオン化され、加速されてマウント3aの表面に、レニウム金属膜4として被覆される。
【0034】
真空槽61全体は、例えばX軸とY軸方向の2種類の回転を掛けることで、マウント3a全面に均一に被覆される。このとき、高周波コイル65の出力や時間などを制御することにより、被覆の膜厚が決めることができる。
【0035】
なお、レニウム金属膜の成膜時には、陽極3a2はかさばる。このことから、図7(b)に示すように、陽極3a2がない状態のマウント3a’を成膜させた場合は、1度にレニウム金属膜4を成膜できる個数を多くすることができるという利点がある。陽極3a2と金属箔3a1は、レーザ溶接や抵抗溶接などの接合手段を用いて接合する。
【0036】
このようにしてレニウム金属膜4が被覆されたマウント3aを、図1に示すメタルハライドランプに使用している。金属箔3a1に被覆されたレ二ウム金属膜4は、金属箔3a1に対する遊離ヨウ素(I)などの反応を防止する。また、金属箔3a1の表面に形成された高品質のレニウム金属膜4は金属箔3a1の粗面と協同して、金属箔3a1と封止部12a部分の石英ガラスの密着性をより強固にすることができ、封止部12aの封止力の向上で点滅特性の改善を図れることが判明した。
【0037】
レニウム金属膜4の形成は、イオンプレーティング法の他にメッキ法が考えられる。メッキ法の場合は、外部リード3a3側を支持して、陽極3a2を下にした図7(a)マウント3aを電解液に漬けてレニウム金属Reをメッキすることにより、マウント3aのレニウム金属膜4を被覆させることができる。
【0038】
ここで、図3で説明したこの発明のメタルハライドランプを用いた自動車前照用ランプとして適用した場合のメタルハライドランプの具体的な数値を挙げ、再び図1を参照しながら説明する。
【0039】
石英ガラス製の放電容器1の内径Aは、2.6mmで回転楕円形状に成形する。楕円の長軸方向の両端に細長い封止部12a,12bを備えている。陽極3a2、陰極3b2の先端部は、放電空間14に突出させる。陽極3a2、陰極3b2の基部は、封止部12a,12b内において、金属箔3a1,3b1の一端にそれぞれ溶接されている。陽極3a2の先端は、直径Bが0.65mmの球、直径Cが0.35mmの軸形状を有し、材料はドープタングステンである。また、陰極3b2は、直径Dが0.35mmの軸形状を有し、材料は1.0%トリア含有のタングステンである。陽極3a2と陰極3b2の電極間距離Eは4.2mmに設定されている。
【0040】
さらに、封止部12aの直径Fは5mmとし、金属箔3a1は長さを12mm、厚さを20μm、幅を2.0mmとする。放電容器1内には、放電媒体として、希ガス、第1のハロゲン化物および第2のハロゲン化物が封入されている。陰極3b2の金属箔3b1の長さは7mmとする。
【0041】
希ガスとしては、キセノン11気圧を封入した。また、第1のハロゲン化物としてヨウ化スカンジウム(ScI)0.20mg、ヨウ化ナトリウム(NaI)0.5mgを、第2のハロゲン化物としてヨウ化亜鉛(ZnI)0.24mgをそれぞれ封入した。
【0042】
(確認試験1)
ここで、上記したメタルハライドランプの具体的な数値のうち、図1と電極と金属箔の寸法のみが異なる35Wの交流タイプのランプで確認試験1として実施した。
【0043】
確認試験対象の金属箔としては、粗面加工を行わない金属箔(X)、レーザ加工でRa=0.8、Rz=2.7の表面粗さの粗面を表、裏の両面全面に形成した金属箔(Y)、サンドブラスト法でRa=0.8、Rz=2.7の表面粗さの粗面を表、裏の両面全面に形成した金属箔(Z)をそれぞれ製作した。
【0044】
そして、これらの金属箔(X)〜(Z)を、金属箔3a1,3b1にそれぞれ用いた交流用のランプを5本ずつ製作した。交流点灯回路を用い、始動時は75Wで、定常時は35Wの交流電力で点滅試験を行った。点滅試験は、3分点灯、4分消灯の加速点滅試験で行った。
【0045】
交流点灯の場合は、薬品とMoの金属箔の反応の影響が少ないうえに、この加速点滅では主に点滅特性を評価することになるので、Moの金属箔の粗面形成の金属箔と石英の密着性に与える影響が正確に評価可能である。
【0046】
自動車前照ランプとして必須の寿命2000時間は、この加速点滅試験で凡そ13000回の点滅回数に相当する。この加速点滅試験の結果は、金属箔(X)を使用したランプ(5本)のリークする平均点滅回数は7500回である。(Y)、(Z)の金属箔を使用したランプ(5本ずつ)は、全数点滅回数13000回を達成した。
【0047】
この確認試験により、レーザ加工、サンドブラスト法により、金属箔と石英の好適な密着性改善が実施されていることを確認した。また、レーザ加工とサンドブラスト法で密着性に差がないことを確認した。
【0048】
(確認試験2)
次に、図1に示したメタルハライドランプの構造を直流点灯用ランプとした場合を確認試験2として実施した。
【0049】
この場合、陽極側の金属箔3a1のみの寸法を変えたランプを5本ずつ製作した。金属箔3a1としてはMoを使用し、金属箔3a1には粗面を形成しない。この金属箔3a1に、図6で説明したイオンプレーティング法により、例えば金属箔3a1とMo製の外部リード3a3との図7(b)に示す状態の接合体で、各種のコーティング膜を施した図8に示す(A)〜(I)のランプを作製した。
【0050】
接合体にコーティング膜なしとしたランプは(A)で、接合体にコーティング膜付としたランプとしては、Au膜(B)、Ag膜(c)、Re膜(D)、ZrO膜(E)、Al膜(F)、SiO膜(G)、Si膜(H)、AlN膜(I)であり、厚さ400nmの金属箔3a1両面に形成した。この金属箔3a1に先端の直径が0.65mmの球で軸径0.35mm、長さ8mmの陽極3a2を接合している。
【0051】
直流点灯回路を用い、始動時は75Wで、定常時は35Wの直流電力で点滅試験を行った。なお、直流点灯回路については後述する。
【0052】
点滅試験は、5.5時間点灯、0.5時間消灯の点滅試験で行った。この点滅は緩やかなものであり、ランプのリーク、不点は金属箔3a1に到達した遊離ヨウ素と反応して、ヨウ化モリブデン(MoI)が生成することによる。ヨウ化モリブデン(MoI)はMoよりもずっと密度が小さいため、Moがヨウ化モリブデン(MoI)に変化する時に体積が増加して周囲の石英ガラスに多大な応力を及ぼすことになる。
【0053】
すなわち、この点灯方法では金属箔3a1をコーティングする膜の耐ハロゲン効果を評価することができる。(A)〜(I)のランプを各5本ずつ用いた試験結果は、図8に示すとおりである。
【0054】
日本電球工業会規格「JEL215」の点滅方式の点滅は、1サイクル2時間で種々の点灯時間、消灯時間の組み合わせでり、総合的な寿命特性を評価する。点滅の激しい交換を必要としない寿命3000時間を達成するためには、試験で用いた緩やかな点灯試験方法で少なくとも5000時間の寿命を持つ必要がある。
【0055】
この試験の結果、Re膜のランプ(D)、Al膜、SiO膜、Si膜の各ランプ(F)〜(H)が耐ハロゲン性のあることが確認できた。
【0056】
(実施例)
上記の確認試験2でRe膜、Al膜、SiO膜、Si膜を用いたランプの耐ハロゲン性が良好であることが確認したところで、確認試験2と同じ構成の直流点灯ランプを用い、陽極3a2側の金属箔3a1の材料を変更した場合の実施例について説明する。
【0057】
コーティング膜としては、耐ハロゲン性のRe膜、Al膜、SiO膜、Si膜とそれにコーティング膜なしとする。金属箔3a1の表面を粗面化したもの、しないものを組み合わせて各種類10灯ずつのランプを作製した。
【0058】
このうち、5本ずつを、直流回路を用いて3分点灯、4分消灯の加速点滅試験を行い、残りの5本ずつを同じく直流回路を用いて、日本電球工業会規格「JEL215」の点滅方式で点滅試験を行い、図9に示す結果が得られた。
【0059】
図9に示すように、コーティング膜のない金属箔3a1のランプ(A1)では、遊離ヨウ素とMo製の金属箔3a1の反応が加速点滅試験の可能回数を決めている。そのため、交流点灯と異なり、金属箔3a1の表面に粗面が形成されたランプ(A2)でも加速点滅回数はほとんど改善されない。また、Al膜、SiO膜、Si膜は金属箔3a1に粗面が形成されたランプ(C2),(D2),(E2)でも、粗面が形成されないランプ(C1),(D1),(E1)でも加速点滅回数に差はない。
【0060】
Si膜のランプでは、粗面が形成されたランプ(E2)の方の加速点滅回数が少なくなっている。これは、これらのコーティング膜が石英ガラスとMo箔の表面の粗面の間に介在することで、粗面による石英ガラスと金属箔3a1との密着性の向上が阻害されていることが分かる。
【0061】
これに対して、Re膜の場合はMoの金属箔3a1の表面が粗面化されたランプ(B2)の加速点滅回数が大幅に増加する。この結果、規格の点灯試験方法でも3000時間を越える寿命が得られる。この結果から、Re膜―金属箔、Re膜―石英ガラスの密着性が良好で、総合的に金属箔3a1と封止部12aの石英ガラスの密着性が向上して点滅に対して耐性があがり、その結果、寿命が改善されていると考えられる。
【0062】
このように、Re膜は遊離ヨウ素に対する耐ハロゲン性と石英ガラスと金属箔の密着性向上の両方に大きな働きを行っている。
【0063】
なお、Re膜について実施例ではレーザ加工による粗面形成について述べたが、同様の結果は粗面形成をサンドブラスト法で行った場合にも得られた。また、Re膜のコーティングを、イオンプレーティング法で行ったが、メッキ法の場合も同様の結果であった。Re膜の膜厚は200−2500nmが適する。膜厚が200nm未満では点灯時間が長くなると遊離ハロゲンとの反応が顕著になってくる。膜厚が厚すぎると石英との密着性が低下してくる。好適な範囲は400−2000nmであった。
【0064】
金属箔の表面の粗面は、その表面粗さRaが数式0.4≦Ra、Rzが数式1.0≦Rz≦7.0の範囲であればRe膜との組み合わせで顕著な効果が得られる。
【0065】
図10はこの発明のメタルハライドランプ点灯装置に関する一実施形態について説明するための回路図である。この実施形態は、この発明のメタルハライドランプを直流点灯させる点灯装置である。
同図において、101は直流電源、102はチョッパ、103は制御部、Rはランプ電流検出手段、VRはランプ電圧検出手段、104は始動部、105は図3の構成のメタルハライドランプである。
【0066】
直流電源101には、バッテリーまたは整流化直流電源が用いられる。自動車の場合には、一般的にバッテリーが用いられる。しかし、交流を整流する整流化直流電源であってもよい。また必要に応じて、電解コンデンサCを並列接続して平滑化を行う。
【0067】
チョッパ102は、直流電圧を所要値の電圧に変換するとともに、メタルハライドランプ105を所要に制御する。直流電源電圧が低い場合には、昇圧チョッパを用い、反対に高い場合には降圧チョッパを用いる。
【0068】
制御部103は、チョッパ102を制御する。例えば、点灯直後にはメタルハライドランプ105に定格ランプ電流の3倍以上のランプ電流をチョッパ102から流し、その後時間の経過とともに徐々にランプ電流を絞っていき、やがて定格ランプ電流にするように制御する。また、制御部103はランプ電流とランプ電圧との検出信号が帰還入力されることにより、定電力制御信号を発生させてチョッパ102を定電力制御する。さらに、制御部103には時間的な制御パターンが予め組み込まれたマイコンが内蔵されて、これによりランプ電流を制御するように構成されている。
【0069】
ランプ電流検出手段Rは、ランプと直列に挿入されてランプ電流を検出して制御部103に制御入力する。ランプ電圧検出手段VRは、ランプと並列的に接続されてランプ電圧を検出して制御部103に制御入力する。始動部104は、始動時に20kVのパルス電圧をメタルハライドランプ105に供給できるように構成されている。
【0070】
そして、この実施形態のメタルハライドランプ点灯装置を用いてメタルハライドランプを直流点灯すると、点灯直後から所要の光束を発生する。これにより、自動車用前照灯として必要な電源投入後1秒後に定格に対して光束25%、4秒後に光束80%の点灯を実現することができる。また、直流−交流変換回路が不要で、直流点灯のメタルハライドランプの有利性を享受しながら寿命特性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明のメタルハライドランプに関する一実施形態について説明するための概略的な構成図。
【図2】図1要部の拡大示す構成図。
【図3】この発明のメタルハライドランプを自動車前照灯用に適用した場合について説明するための概略的な構成図。
【図4】レーザ加工により粗面が形成された封着金属箔部分の拡大正面図。
【図5】同じくレーザ加工により粗面が形成された封着金属箔の拡大断面図。
【図6】イオンプレーティング法によるレ二ウム金属の成膜について説明するための概念図。
【図7】この発明のレニウム金属膜を施す対象物について説明するための説明図。
【図8】この発明の確認試験について説明するための説明図。
【図9】この発明の実施例の効果について説明するための説明図。
【図10】この発明のメタルハライドランプ点灯装置に関する一実施形態について説明するための回路図。
【符号の説明】
【0072】
1 内管
11 放電容器
12a,12b 封止部
13a,13b 非封止部
14 放電空間
2 金属ハロゲン化物
3a,3b マウント
3a1,3b1 金属箔
3a2 陽極
3b2 陰極
3a3,3b3 外部リード
4 レ二ウム金属膜
101 直流電源
102 チョッパ
103 制御部
104 始動部
105 メタルハライドランプ
R ランプ電流検出手段
VR ランプ電圧検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間と該放電空間の両端に設けられた封止部とを有する放電容器と、
前記放電空間内に対向して配置された陽極および陰極と、
前記陽極および陰極の基部側端部にそれぞれ一端部が接合されるとともに、前記封止部により気密に封着された金属箔と、
前記金属箔の他端部にそれぞれ結合されるとともに、前記封止部外に導出された一対の外部リードと、
前記放電容器内に封入され、ハロゲン化物および希ガスとを含み、かつ本質的に水銀を含まない放電媒体と、を具備し、
前記放電容器内に流れる電流は向きを一定とし、少なくとも前記陽極側の前記金属箔表面を粗面化し、該粗面上にレニウム(Re)金属膜を被覆したことを特徴とするメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記金属箔の粗面は、レーザ加工により形成してなることを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記金属箔の粗面は、ブラスト加工により形成してなることを特徴とする請求項1記載のメタルハライドランプ。
【請求項4】
前記金属膜の膜厚は、200nm〜2500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1記載のメ記載のメタルハライドランプ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のメタルハライドランプと、
前記放電容器内に流れる電流の向きが時間とともに変化せず、常に単一方向である電流をメタルハライドランプに供給して点灯する点灯回路と、を具備したことを特徴とするメタルハライドランプ点灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−26715(P2009−26715A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191635(P2007−191635)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】