説明

メタン濃縮システム及びその運用方法

【課題】単位膜面積当たりの処理能力が従来よりも大きく、2段目以降に再昇圧や減圧などの圧力操作を必要とせず、混合ガスから高濃度のメタンと二酸化炭素を回収できるメタン濃縮技術を提供する。
【解決手段】二酸化炭素の透過膜を複数段組み合せ、二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスから二酸化炭素を分離してメタンを濃縮するシステムであり、前段の透過膜11の非透過ガスを、後段の透過膜12の入口に導き、さらに二酸化炭素を分離して高濃度のメタンを得る。透過膜を複数段設けることにより、各段で二酸化炭素が分離されてガスの組成と流量が変わってゆくことに対応し、各段の入口ガス流量に適する膜面積を設定することで、高濃度メタンと高濃度二酸化炭素を同時に回収できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスから高濃度のメタンを回収するシステムと、その運用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物からエネルギーを回収する方法の一環として、下水汚泥、畜糞、生ゴミなどの嫌気性消化により発生する消化ガスを原料として、メタンガスを取り出す技術が開発されている。嫌気性消化ガスは主としてメタンと二酸化炭素との混合ガスであり、その含有比率はほぼ6:4である。このためメタンとともに二酸化炭素も分離回収することができれば、大気中の二酸化炭素を削減する効果も期待できる。
【0003】
消化ガス中からメタンと二酸化炭素とを分離回収する方法としては、化学吸収法、物理吸収法、SPA法、ガス分離法などが提案されているが、これらの分離操作のうち、ガス分離膜を使用した分離法が、他の分離法に比較してシステムを簡単に構成できること、装置が比較的小規模で実現可能であるという点において有利である。
【0004】
ガス分離膜を使用して混合ガスからメタンを濃縮して取り出す技術に関しては、既に多くの特許出願がなされており、その代表的なシステムが特許文献1に開示されている。このシステムの要部は図1に示すように、二酸化炭素の分離膜を2段に接続し、1段目の分離膜1で混合ガス中の二酸化炭素を透過させて非透過側から濃縮されたメタンガスを取り出し、透過した二酸化炭素濃度の高いガスを2段目の分離膜2に送ってその透過側から更に二酸化炭素を濃縮して取り出すとともに、非透過側ガスを1段目の分離膜1の入口に返送するように構成したものである。
【0005】
しかしこのシステムは、コンプレッサ3で加圧した混合ガスを1段目の分離膜1に供給して高濃度メタンを回収し、分離膜1の透過ガスを2段目の分離膜2に供給するため、1段目の分離膜1で圧力の低下した透過ガスをコンプレッサ4で再昇圧したうえで2段目の分離膜2に供給するか、2段目の分離膜2の透過側を真空ポンプ5で減圧するなどの追加的な圧力操作が必要となる。このため省エネルギー的なシステムとは言い難いうえ、高濃度メタンと高濃度二酸化炭素を同時に回収するためには大きな膜面積(1段目と2段目の合計膜面積)を要するという問題があった。
【特許文献1】特開2001‐949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、単位膜面積当たりの処理能力が従来よりも大きく、また2段目以降に再昇圧や減圧などの圧力操作を必要とせず、しかも混合ガスから高濃度のメタンと二酸化炭素とを分離回収できるメタン濃縮技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスから二酸化炭素を分離してメタンを濃縮するシステムであって、二酸化炭素の透過膜を複数段組み合せて前段の透過膜の非透過ガスを後段の透過膜の入口に導くことを特徴とするものである。なお、透過膜2段で構成されるシステムにおいては、後段における入口ガス流量に対する膜面積を大きくすることが好ましい。更に、2段目以降の透過膜の透過ガスを、当該透過膜より前段の透過膜の上流側に還流させるラインを備えた構成とすることが好ましく、二酸化炭素の透過膜がDDR型ゼオライト膜であることが好ましい。
【0008】
また上記したメタン濃縮システムの運用に際しては、二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスとして、下水汚泥、畜糞、生ゴミのいずれかから発生するバイオガスを使用することができる。また、濃縮されたメタンガスを燃料または原料として使用することができ、分離された二酸化炭素を液化炭酸ガスまたは中和処理剤として使用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメタン濃縮システムによれば、1段目の透過膜に加圧された混合ガスを供給し、その透過側から高濃度の二酸化炭素を回収し、それによって二酸化炭素濃度の低下した非透過ガスを加圧状態のまま後段の透過膜に導き、さらに二酸化炭素を透過させることによって高濃度のメタンガスを回収する。このため、2段目以降で再昇圧や減圧などの圧力操作を必要とせず、省エネルギー的なシステムとなる。また、透過膜を複数段設けたことにより、各段で二酸化炭素が分離されてガスの組成と流量が変わってゆくことに対応し、各段の入口ガス組成及び流量に適する膜面積を設定できる。これにより後記するデータのとおり、本発明のメタン濃縮システムは従来システムに比較して単位膜面積あたりの処理能力が大きく、処理量が同一であれば膜面積を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図2は本発明の実施形態を示す図であり、この実施形態では二酸化炭素の透過膜が前後2段に接続されている。しかし透過膜の接続段数は3段以上とすることもできるので、ここでは前段の透過膜11、後段の透過膜12と呼ぶ。なお、各段の透過膜は並列に複数の膜を用いてもよい。二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスはコンプレッサ13で所定圧力まで昇圧されたうえ、前段の透過膜11の入口に供給される。二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスとしては、下水汚泥、畜糞、生ゴミのいずれかから発生するバイオガスを使用することができ、メタンと二酸化炭素との含有比率は例えば6:4である。
【0011】
二酸化炭素の透過膜は分子径の差を利用して二酸化炭素とメタンを分離できる膜であり、好ましくはDDR型ゼオライト膜が用いられる。DDR型ゼオライト膜は、デカードデカシル‐3R型と呼ばれる珪素と酸素を組成とする合成ゼオライトの膜であり、出願人会社から市販されている。その細孔径は0.3〜0.5nmであり、多孔質セラミックよりなる支持体上に成膜して使用される。この透過膜の膜分離性能は、CO/CH分離係数(COの透過速度/CHの透過速度)で表わされ、実用的なDDR型ゼオライト膜の分離係数は50〜200程度である。この値から分るように、透過膜は二酸化炭素とメタンを完全に分離できる性能を持つものではなく、わずかながらメタンの一部も透過することとなる。なおこの程度のCO/CH分離係数を持つ膜であれば、DDR型ゼオライト膜以外の透過膜も使用可能であることはいうまでもない。
【0012】
この実施形態では、前段の透過膜11と後段の透過膜12はともにDDR型ゼオライト膜からなるものである。そして図2に示すように、入口ガス流量に対する膜面積が、前段の透過膜11よりも後段の透過膜12の方が大きくなるように構成されている。前段の透過膜11の非透過ガスは、昇圧などの追加的な圧力操作を要することなくそのまま後段の透過膜12の入口に導かれる。
【0013】
このメタン濃縮システムにおいては、コンプレッサ13で昇圧された混合ガスが前段の透過膜11に供給されると、混合ガス中の二酸化炭素は透過膜11を透過し、透過側から高濃度の二酸化炭素として回収される。図2中に記したように、メタンと二酸化炭素との含有比率が6:4である場合、濃度が95%程度の純度の高い二酸化炭素を得ることができる。
【0014】
このように混合ガス中の二酸化炭素が透過膜11により分離された結果、非透過側の混合ガスは二酸化炭素濃度が低く、メタン濃度の高いガスとなる。この非透過側の混合ガスは加圧状態を維持したまま後段の透過膜12の入口に導かれる。後段の透過膜12は、その入口ガスの組成と流量に適した膜面積に設定されているため,混合ガス中の低濃度の二酸化炭素を効果的に透過させることができる。なお、この実施形態のように透過膜二段で構成されるシステムでは、後段の透過膜12の入口ガス流量に対する膜面積は、前段の透過膜11よりも大きく設定することが望ましい。この結果、後段の透過膜12の非透過側のガス中の二酸化炭素濃度は十分に低くなり、高濃度のメタンガスとして回収することができる。
【0015】
また後段の透過膜12の透過側ガスは少量のメタンガスを含む二酸化炭素であるから、循環ライン14を介して前段の透過膜11の上流側に還流させ、前段の透過膜11で二酸化炭素として回収する。このように本発明のシステムによれば、混合ガスから高濃度の二酸化炭素と高濃度のメタンガスとを、効率よく回収することができる。しかも前段の透過膜11の非透過ガスを加圧状態のまま後段の透過膜12の入口に導くので、2段目以降で再昇圧や減圧などの圧力操作を必要としない。また透過膜を複数段設けたことにより、各段で二酸化炭素が分離されてガスの組成と流量が変わってゆくことに対応し、各段の入口ガス組成及び流量に適する膜面積を設定することにより、純度の低い二酸化炭素を効率的に分離し、回収されるメタンの純度を高めることができる。
【0016】
なお、濃縮された高濃度のメタンガスは燃料または原料として使用することができ、分離された高濃度の二酸化炭素は液化炭酸ガスまたは中和処理剤として使用することができる。
【0017】
図3に、本発明のシステムと従来型の二酸化炭素再濃縮システムとの性能を対比して示す。横軸は透過膜のCO/CH分離係数であり、縦軸は全膜面積当たりの供給消化ガス量である。図3は供給圧力を1MPaとした場合であり、透過側圧力は0.1MPa(大気圧)とした。透過膜は前後2段とし、1段目と2段目の透過膜は同一性能のものを使用した。1段目に対する2段目の膜面積の比は、図4に示すとおりとした。
【0018】
これらの表に示されるように、供給圧力1MPaでは分離係数が50以上の膜を用いれば、本発明のシステムは従来型のシステムよりも全膜面積当たりの供給消化ガス量は多くなり、供給圧力1MPa、分離係数100の場合には本発明のシステムは従来型のシステムの5倍程度の処理量を達成することが可能である。
【0019】
さらに分離係数が200の場合には従来型の8倍程度の処理能力が達成されるので、処理すべきガス量が同一であれば、本発明のシステムは従来に比較して膜面積を数分の一に大幅に削減することができる。しかし分離係数が200を越える領域では全膜面積当たりの供給消化ガス量の増加は次第に横ばいとなっている。このため使用する透過膜の分離係数は30〜300であることが実用的であり、十分な発明の効果を得る観点では分離係数が50以上の透過膜を使用することが好ましく、透過膜製造の難易度や製造コストの観点では分離係数が200以下の透過膜でも十分実用に供することができる。
次に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0020】
前後2段の透過膜を用い、メタンと二酸化炭素との含有比率が6:4であるバイオガスから、高濃度のメタンと二酸化炭素とを回収する実験を行った。使用した透過膜は2段とも、二酸化炭素の透過速度が1×10‐6〔mol m−2 −1Pa−1〕、メタンの透過速度が1×10‐8〔mol m−2 −1Pa−1〕、分離係数100のDDR3ゼオライト膜である。なお1段目の膜面積は1mであり、2段目の膜面積は8.2mである。
【0021】
バイオガスをコンプレッサにより0.8MPaに加圧し、1段目の透過膜に449L/minの流量で供給したところ、濃度95%の二酸化炭素を175L/minの速度で回収することができた。バイオガス中の二酸化炭素の回収率は92.6%である。1段目の透過膜の非透過ガス414L/minを2段目の透過膜の入口に供給して二酸化炭素を透過させ、非透過側から濃度95%のメタンを275L/minの速度で回収した。バイオガス中のメタンの回収率は97.0%である。なお、2段目の透過膜の透過側〜排出された139L/minの二酸化炭素は、コンプレッサの入口側に循環させた。
【0022】
このように、本発明によれば混合ガス中から高濃度のメタンと二酸化炭素とを効率よく回収することができる。また単一のコンプレッサを使用するだけでよく、2段目以降で圧力操作を必要としないのでエネルギー消費が少なくて済む。また必要膜面積を従来に比較して大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の2段式メタン濃縮システムのフロー図である。
【図2】本発明の実施形態を示すフロー図である。
【図3】本発明のシステムと従来型の二酸化炭素再濃縮システムとの性能を対比して示すグラフである。
【図4】2段目膜面積比を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 1段目の分離膜
2 2段目の分離膜
3 コンプレッサ
4 コンプレッサ
5 真空ポンプ
11 前段の透過膜
12 後段の透過膜
13 コンプレッサ
14 循環ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスから二酸化炭素を分離してメタンを濃縮するシステムであって、二酸化炭素の透過膜を複数段組み合せて前段の透過膜の非透過ガスを後段の透過膜の入口に導くことを特徴とするメタン濃縮システム。
【請求項2】
二酸化炭素の透過膜2段で構成され、後段の入口ガス流量に対する膜面積が前段より大きいことを特徴とする請求項1記載のメタン濃縮システム。
【請求項3】
2段目以降の透過膜の透過ガスを、当該透過膜より前段の透過膜の上流側に還流させるラインを備えたことを特徴とする請求項1または2記載のメタン濃縮システム。
【請求項4】
二酸化炭素の透過膜がDDR型ゼオライト膜であることを特徴とする請求項1または2または3記載のメタン濃縮システム。
【請求項5】
請求項1または2または3の何れかに記載のメタン濃縮システムの運用方法であって、二酸化炭素及びメタンを含む混合ガスとして、下水汚泥、畜糞、生ゴミのいずれかから発生するバイオガスを使用することを特徴とするメタン濃縮システムの運用方法。
【請求項6】
請求項1または2または3の何れかに記載のメタン濃縮システムの運用方法であって、濃縮されたメタンガスを燃料または原料として使用することを特徴とするメタン濃縮システムの運用方法。
【請求項7】
請求項1または2または3の何れかに記載のメタン濃縮システムの運用方法であって、分離された二酸化炭素を液化炭酸ガスまたは中和処理剤として使用することを特徴とするメタン濃縮システムの運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−254572(P2007−254572A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80122(P2006−80122)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】