説明

メタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛

【課題】力学特性、耐熱性などが良好で、かつ、繊維中に残存する溶媒が極微量であることから、高温下での加工および使用条件下であっても、強度を維持しつつ、着色または変色を抑制することが可能なメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を提供する。
【解決手段】スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸工程を特定条件で実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いることにより、繊維中に残存する残存溶媒量が少なく、かつ、破断強度に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛に関する。さらに詳しくは、力学特性に優れ、かつ、高品位な製品を得ることのできる新規なメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロリドとから製造される全芳香族ポリアミドは、耐熱性に優れ、かつ、難燃性に優れることがよく知られている。また、これらの全芳香族ポリアミドは、アミド系溶媒に可溶であって、これらの重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法によって繊維となし得ることも周知である。
【0003】
かかる全芳香族ポリアミドのなかでも、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(以下「メタアラミド」と略称することがある)繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用である。このような、メタアラミド繊維の製法としては、主に次の(a)、(b)の2つの方法が採用されている。さらに、これ以外のメタアラミド繊維の製造法として、(c)〜(e)のような方法も提案されている。
【0004】
(a)メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとを、N,N−ジメチルアセトアミド中で低温溶液重合させることによってポリメタフェニレンイソフタルアミド溶液を調製し、しかる後、該溶液中に副生した塩酸を水酸化カルシウムで中和して塩化カルシウムを含む重合体溶液を得て、得られた重合体溶液を乾式紡糸することによりメタアラミド繊維を製造する方法(特許文献1)。
【0005】
(b)メタフェニレンジアミン塩とイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離し(特許文献2)、この重合体粉末をアミド系溶媒に再溶解した後、無機塩含有水性凝固浴中に湿式紡糸する方法(特許文献3)。
【0006】
(c)溶液重合法で合成したメタアラミドをアミド系溶媒に溶解した、無機塩を含まないかまたは僅かな量(2〜3%)の塩化リチウムを含むメタアラミド溶液から、湿式成形法によって繊維などの成形物を製造する方法(特許文献4)。
【0007】
(d)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどで中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタアラミド重合体溶液を、オリフィスから気体中に押し出して、気体中を通過させた後、水性凝固浴に導入し、次いで、塩化カルシウムなどの無機塩水溶液中を通過させて繊維状物に成形する方法(特許文献5)。
【0008】
(e)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどで中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタアラミド重合体溶液を、オリフィスから、塩化カルシウムを高濃度に含む水性凝固浴中に紡出させて繊維状物に成形する方法(特許文献6、特許文献7)。
【0009】
しかしながら、上記(a)の方法は、乾式紡糸であるため、紡糸口金より紡出された繊維状のポリマー溶液においては、形成された繊維状物の表面付近から溶媒が揮発・乾燥するため、繊維表面に緻密で強固なスキン層が生じる。このため、引き続き、繊維状物を水洗などにより洗浄を行っても、残存する溶媒を十分に除去することは困難であった。かくして、(a)の方法によって得られる繊維は、繊維中に残存する溶媒に起因して、高温雰囲気下における使用時に黄変が生じていた。このため、高温での熱処理を避ける必要があり、その結果、高強度化が難しいという問題があった。
【0010】
一方で、上記(b)〜(e)の方法は、湿式紡糸であるため、紡糸段階での溶媒の揮発は生じない。しかしながら、繊維状になったポリマーを水性凝固浴あるいは高濃度の無機塩を含有する水性凝固浴に導入した際に、繊維状ポリマーの表面近傍から水性凝固浴内へ溶媒が脱離すると同時に、凝固した繊維状物の表面近傍から凝固浴液に含まれる水が繊維状物の内部へ浸入し、強固なスキン層が生じていた。このため、乾式紡糸法による繊維と同様に、繊維中に残存する溶媒を十分に除去することは困難であり、残存溶媒に起因した高温雰囲気下での着色または変色(特に黄変)は避けられなかった。したがって、(b)〜(e)の方法で得られる繊維についても、高温での熱処理を避ける必要があり、繊維の高強度化が難しいという問題がいまだ残されていた。
【0011】
さらに、特許文献8には、メタ型アラミド溶液を多孔を有する繊維状物として凝固させた後に、該多孔内に凝固液を含んだままか、もしくは該多孔内に可塑液を含ませて、該繊維状物を空気中において加熱延伸し、引き続き、該多孔内に凝固液などを含んだまま加熱し、次いで熱処理する方法が提案されている。
【0012】
特許文献8に記載された方法によれば、メタアラミド溶液を凝固により繊維状物とした段階では、実質的に表面にはスキン層を有しない多孔質な繊維状物となっている。しかしながら、可塑液を含んだ該多孔質繊維状物を加熱すると、その後に溶媒を除去することが非常に困難となり、その結果、該方法により得られた繊維も、残存溶媒に起因した高温雰囲気下での着色または変色(特に黄変)は避けられなかった。したがって、特許文献8に記載された方法で得られる繊維についても、高温での熱処理を避ける必要があり、繊維の高強度化が難しいという問題がいまだ残されていた。
【0013】
また、特許文献9と特許文献10には、層状粘土鉱物を含むメタ型全芳香族ポリアミド繊維が記載されている。特許文献9および10に記載されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物の配合により、残存溶媒量の低い繊維となる。しかしながら、これら層状粘土鉱物を含むメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、メタ型芳香族ポリアミドの特徴である絶縁性が低く、さらに、切断加工や撚糸加工時に層状粘土鉱物が脱落し飛散する場合があった。そこで、絶縁性の向上や層状粘土鉱物の脱落・飛散の防止という観点から、さらなる改良が求められていた。
【0014】
さらに、特許文献11には、繊維中に残存する溶媒量が1.0重量%以下であって、300℃での乾熱収縮率が3%以下であり、かつ繊維の破断強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする高温加工性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維が記載されている。しかしながら、特許文献11においては、破断強度が4.5cN/dtex以上の繊維は報告されておらず、高温フィルターの基布用途、あるいはゴム補強用途等に求められるような高い破断強度および寸法安定性については、さらなる向上が求められていた。
【0015】
したがって、繊維中に残存する残存溶媒量が少なく、かつ、破断強度が優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維からなる布帛はいまだ実現されておらず、その登場が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特公昭35−14399号公報
【特許文献2】特公昭47−10863号公報
【特許文献3】特公昭48−17551号公報
【特許文献4】特開昭50−52167号公報
【特許文献5】特開昭56−31009号公報
【特許文献6】特開平8−074121号公報
【特許文献7】特開平10−88421号公報
【特許文献8】特開2001−348726公報
【特許文献9】特開2007−254915号公報
【特許文献10】特開2007−262589号公報
【特許文献11】国際公開第2007/089008号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐熱性、難燃性などのメタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する性質を維持しつつ、破断強度が高く、かつ、高温下での着色または変色を抑制することのできる新規なメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸工程を特定条件で実施して得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いることにより、繊維中に残存する残存溶媒量が少なく、かつ、破断強度に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であって、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、破断強度が4.5〜6.0cN/dtexであるメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛である。
ここで、用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、好ましくは、300℃乾熱収縮率が5.0%以下である。また、用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、好ましくは、初期弾性率が800〜1,500cN/mmである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、力学特性、耐熱性などが良好で、かつ、繊維中に残存する溶媒が極微量であり、実質的に層状粘土鉱物を含まない、メタ型全芳香族ポリアミド繊維(特に、ポリメタフェニレンイソフタルアミド系繊維)布帛が提供される。すなわち、本発明の繊維布帛は、耐熱性あるいは難燃性というメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛が本来もつ性質に加えて、強度を有しつつも、高温下での加工および使用における着色または変色(特に黄変)を抑制することができる。
したがって、本発明の繊維布帛は、従来のメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛では使用できなかった分野においても使用可能となり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明の布帛を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0022】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断強度が一定の範囲にあり、かつ、繊維中に残存する溶媒の量が非常に少ないものである。具体的には、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であって、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである。このため、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、高温下での加工および使用にあっても、繊維または製品の着色または変色を抑制することができる。
【0023】
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して1.0質量%以下である。1.0質量%以下であることが必須であり、0.5質量%以下であることがより好ましい。特に好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
【0024】
繊維質量に対して1.0質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、200℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に、黄変しやすくなり、また、著しく強度が低下したりするため好ましくない。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下にするためには、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸条件を適正化する。
なお、本発明における「繊維中に残存する溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0025】
(残存溶媒量の測定方法)
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0026】
〔破断強度〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断強度が4.5〜6.0cN/dtexの範囲である。4.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが必須であり、5.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらには、5.7〜6.0cN/dtex、5.8〜6.0cN/dtexの範囲であることが特に好ましい。破断強度が4.5cN/dtex未満である場合には、得られる製品の強度が低いために、製品用途の使用に耐えられないため好ましくない。一方、6.0cN/dtexを超える場合には、伸度が大幅に低下し、製品の取り扱いが困難になる等の問題が発生する。
【0027】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、「破断強度」を上記範囲内にするためには、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸を特定条件で実施する。
なお、本発明における「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、測定機器としてインストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0028】
〔破断伸度〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断伸度が15%以上であることが好ましく、18%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。破断伸度が15%未満である場合には、紡績等の後加工工程における工程通過性が低下するため好ましくない。
【0029】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における凝固工程において、スキンコアを有さず緻密な凝固形態とすることにより制御することができる。15%以上とするためには、凝固液を、アミド系溶媒、例えばNMP(N−メチル−2−ピロリドン)の濃度が45〜60質量%となる水溶液とし、浴液の温度を10〜50℃とすればよい。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0030】
〔300℃乾熱収縮率〕
さらに、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、1.0〜4.0%の範囲であることがさらに好ましい。300℃乾熱収縮率が大きい場合には、形成した繊維構造体が高温に曝されると繊維の収縮が起こるため、繊維構造体の設計が困難となる。乾熱収縮率は、特に好ましくは0.1〜3.0%の範囲である。
【0031】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記300℃乾熱収縮率を5.0%以下にするには、後記する製造方法において、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすればよい。310℃未満では乾熱収縮率が大きくなり、335℃より高いとポリマーの熱劣化による強度低下と着色が生じる。
なお、本発明における「300℃乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0032】
(300℃乾熱収縮率の測定方法)
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0033】
〔初期弾性率〕
さらに、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mmであることが好ましく、900〜1,500cN/mmの範囲であることがさらに好ましい。初期弾性率が800〜1,500cN/mmの範囲にあれば、形成した繊維構造体が外力により変形しにくくなることから、不織布の基布などに用いる場合に寸法精度を確保しやすくなる。
【0034】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記初期弾性率を800〜1,500cN/mmにするには、後記する製造方法の可塑延伸工程において、3.0〜10.0倍の範囲で可塑延伸を実施すればよい。延伸倍率が3.0倍未満の場合には初期弾性率が未達となり、一方で、10.0倍より高倍率とした場合には糸切れが多発し、工程調子が悪化する。
なお、ここでいう「初期弾性率」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0035】
〔断面形状および単繊維の繊度〕
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の断面形状は、円形、楕円形、その他任意の形状であってよく、また、単繊維の繊度(単糸繊度)は、一般に0.5〜10.0dtexの範囲であることが好ましい。
【0036】
また、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、多数の紡糸孔を有する紡糸口金を用いた湿式紡糸で得られ、例えば1口金あたり100〜30,000ホールで200〜70,000dtex、好ましくは1,000〜20,000ホールで2,000〜45,000dtexのトウとして得られる。
【0037】
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の材料となるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0038】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。
メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0039】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0040】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0041】
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、メタ型全芳香族ポリアミド、およびメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する際、意図して層状粘土鉱物を添加しないことを意味する。濃度は特に規定されないが、例えば、0.01質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以下、さらに好ましくは0.0001質量%以下である。
【0042】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
【0043】
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミドの分子量は、繊維を形成し得る程度であれば特に限定されるものではない。一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が、1.0〜3.0の範囲のポリマーが適当であり、1.2〜2.0の範囲のポリマーが特に好ましい。
【0044】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られた芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
【0045】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0046】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドなどのメタ型全芳香族ポリアミドで、溶媒がNMPなどのアミド系溶媒である場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1,000〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20〜90℃の範囲が適当である。
【0048】
本発明に用いられる繊維を得るために用いる凝固浴としては、実質的に無機塩を含まない、アミド系溶媒、好ましくはNMPの濃度が45〜60質量%の水溶液を、浴液の温度10〜50℃の範囲で用いる。アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。一方、アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このためやはり、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
【0049】
ここで、実質的に塩を含まない凝固液としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10%質量の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
【0050】
凝固浴の成分あるいは条件を上記の通りに設定することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くし、繊維内部まで均一な構造にすることができ、さらに、得られる繊維の破断伸度を向上させることができる。
かかる紡糸・凝固工程により、凝固浴中で多孔質のメタ型全芳香族ポリアミドの凝固糸からなる繊維(トウ)が形成され、その後、凝固浴から空気中へ引き出される。
【0051】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。
【0052】
例えば、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類が実質的に含まれない水溶液を用いることができ、工業的には、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の単独溶媒、または、NMPを含む2種以上からなる混合溶媒を用いることが特に好ましい。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
【0053】
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、これの範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
【0054】
本発明に用いられる繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5〜10.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは4.0〜6.5倍の範囲とする。本発明においては、可塑延伸浴中の延伸を当該倍率の範囲で行い、延伸による分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の強度を確保することができる。
【0055】
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、5.0cN/dtex以上の破断強度を有する繊維を得ることが困難となる。一方で、延伸倍率が10.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、20〜90℃の範囲が好ましい。温度が20〜90℃の範囲にある場合には、工程調子が良いため好ましい。さらに好ましくは20〜60℃である。
【0056】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0057】
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
繊維中に溶媒が残っている場合には、高温下での繊維の着色または変色(特に黄変)を抑制することができず、また、物性低下や収縮、限界酸素指数(LOI)の低下等が生じる。このため、本発明に用いられる繊維に含まれる溶媒量は、1.0質量%以下とする必要があり、0.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0058】
[乾熱処理工程]
本発明に用いられる繊維を得るためには、上記洗浄工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記洗浄工程により洗浄が実施された繊維を、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは100〜200℃の範囲で、乾燥熱処理する。
洗浄工程の後、乾燥熱処理を引き続いて施すと、ポリマーの流動性を適度に向上させ、配向が進む一方で結晶化を抑制し、繊維の緻密化を促進することができる。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0059】
[熱延伸工程]
本発明に用いられる繊維を得るためには、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、310〜335℃で熱処理を加えながら、1.1〜1.8倍の延伸を実施する。熱延伸工程における熱処理温度が335℃を超える高温の場合には、糸が着色し、また、激しく劣化して、破断強度が低下するばかりか、場合によっては断糸することがある。一方、310℃を下回る温度では、繊維の十分な結晶化を達成することができず、所望の繊維物性すなわち破断強度等の力学的特性および熱的特性を発現することが困難となる。
【0060】
熱延伸工程における処理温度と得られる繊維の密度とには、密接な関係がある。特に良好な繊維密度の製品を得るためには、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすることが好ましい。また、熱延伸工程における熱処理温度を310〜335℃の範囲とすることにより、300℃乾熱収縮率が5.0%以下の繊維を得ることができる。なお、熱処理は、乾熱処理とすることが特に好ましく、熱延伸工程における熱処理温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0061】
また、熱延伸工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度および弾性率の発現に密接な関係がある。本発明に用いられる繊維を得るためには、通常、1.1〜1.8倍、好ましくは1.1〜1.5倍の範囲に設定する必要があり、当該範囲とすることで、良好な熱延伸性を保持しつつ、必要となる強度および弾性率を発現させることができる。
【0062】
[捲縮工程等]
乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
【0063】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛>
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分として含むものである。布帛におけるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
【0064】
なお、本発明の布帛において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維以外に含まれる成分としては、特に限定されるものではない。例えば、繊維状、パルプ状成分等を挙げることができる。繊維としては、例えば、ポリオレフィン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、セルロース系パルプ、PVA系繊維、ポリエステル繊維、アリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維等の有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維等の無機繊維ガラス繊維を挙げることができる。
【0065】
[布帛の形態]
本発明の布帛の形態は特に限定されるものではなく、布帛に求められる目的、用途等により適宜選択すればよい。本発明においては、不織布、織物、および編物からなる群から選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0066】
布帛の形態を織物とする場合には、フィラメント糸、あるいは紡績糸等を、平織、綾織、朱子織等の織構成とすることが挙げられる。この際の織物の目付は、100〜700g/mが好ましく、さらに好ましくは200〜400g/mである。織物の目付が100g/m未満である場合には布帛としての強度が低くなり、一方、700g/mを超える場合には布帛の柔軟性が損なわれてしまう。得に、本発明の布帛をフィルターとして用いる場合には、織物の目付が100g/m未満である場合には、集塵効率が極端に低くなるため好ましくない。
【0067】
また、布帛の形態を不織布とする場合には、布帛の強度を向上させるために、基布を使用することも可能である。用いる基布としては、総繊度が200〜1,700dtex、さらに好ましくは275〜1,100dtexのヤーン(フィラメント糸または紡績糸)で構成される織物、例えば、平織、綾織、朱子織等の織物組織が好ましく、なかでも平織物、特にメッシュ状の平織物であるスクリムが好ましい。基布に、該繊維(短繊維)からなるフェルトを一体成形する方法は、特に限定される必要はなく、例えば、該基布の上下に該繊維からなるウェブを積層し、常法、例えば、両面からニードルパンチングする方法が挙げられる。
【0068】
不織布とする場合の目付は、200〜1,500g/mが好ましく、さらに好ましくは400〜600g/mである。不織布の目付が200g/m未満である場合には布帛としての強度が低くなり、一方、1,500g/mを超える場合には布帛の柔軟性が損なわれてしまう。得に、本発明の布帛をフィルターとして用いる場合には、不織布の目付が100g/m未満である場合には、集塵効率が極端に低くなるため好ましくない。
【実施例】
【0069】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何等限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断らない限り「質量」に基づくものであり、「量比」は、特に断らない限り「質量比」を示す。さらに、紡糸に用いる重合体溶液(紡糸原液)における重合体濃度(PN濃度)は、「全質量部」に対する「重合体の質量%」、すなわち、[重合体/(重合体+溶媒+その他)]×100(%)である。
【0070】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0071】
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
【0072】
[繊度]
JIS L 1015に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0073】
[破断強度、破断伸度、初期弾性率]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1015に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0074】
[繊維中に残存する溶媒量(残存溶媒量)]
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
【0075】
[300℃乾熱収縮率]
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
【0076】
[色相値(L*−b*)]
得られた繊維、および、250℃の乾燥機中で100時間の熱処理を実施した後の繊維に対して、色相値の測定を行った。具体的には、カラー測色装置(マスベク社製、商品名:マクベスカラーアイ モデルCE−3100)を用いて、以下の測定条件で測定を実施し、色相値(L*−b*)の変化を求めた。色相値(L*−b*)は、数値が小さいほど黄変が著しいことを示す。なお、L*、b*は、JIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値により求められる。
(測定条件)
視野 :10度
光源 :D65
波長 :360〜740nm
【0077】
<布帛の破断強度>
JIS L1096の引張強さA法(ストリップ法:ラベルドストリップ法)に基づき、インストロン社製、型番1122を用いて、以下の測定条件にて、布帛について測定を実施した。
(測定条件)
切断採取時の試験片の大きさ :幅5.5cm×長さ30cm
試験片の幅 :5.0cm
試験片の枚数 :3枚
測定回数 :各試験片につき、たて方向およびよこ方向それぞれ3回
つかみ間隔 :20cm
初荷重 :50g
引張速度 :20mm/分
【0078】
<布帛の乾熱収縮率>
フィルター材をたて30cm、よこ30cmにカットし、300℃にて10分間熱処理を行い、熱処理前後の面積を測定してその収縮率を求めた。
【0079】
<実施例1>
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(IV)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
【0080】
[紡糸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1,500の紡糸口金から、浴温度40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP(量比)=45/55であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0081】
[可塑延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP(量比)=40/60の組成の可塑延伸浴中にて、5.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0082】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP(量比)=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)、60℃の温水浴(浸漬長5.4m)、さらに、80℃の温水浴(浸漬長3.6m)に、順次、通して、十分に洗浄を行った。
【0083】
[乾燥熱処理工程]
洗浄後の繊維について、引き続き、表面温度150℃の熱ローラーにて乾燥熱処理を実施した。
【0084】
[熱延伸工程]
引き続き、表面温度330℃の熱ローラーにて熱処理を加えながら、1.3倍に延伸する熱延伸工程を実施し、最終的にポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0085】
[繊維の特性]
得られた繊維(トウ)に対し、各種の測定評価を実施した。繊度は2.1dtex、破断強度は5.5cN/dtex、破断伸度は24.0%であり、いずれも良好な数値を示した。また、繊維中の残存溶媒量は0.4%、300℃乾熱収縮率は3.9%、初期弾性率は1250cN/mmであり、優れた熱収縮安定性を示した。得られた結果を表1に示す。
【0086】
[織物の作製]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維のトウに押込捲縮を付与した後、2インチにカットし、通常の紡績工程を通して紡績糸(番手:20/2)を作製し、当該紡績糸から綾織に織成した織物(目付け:230g/m、厚み:0.49mm)を作製した。
【0087】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1830N/5cmであった。
【0088】
[フィルター材の製造]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維から、たて、よこともに1,100dtex(撚り数:120回/m)の平織物(たて、よことも、13−15本/インチ)を作成した。作成した平織物の両サイドに、得られたメタ型アラミド繊維のカット綿(繊維長:56mm)を、目付け500g/cmとなるように配し、ニードルパンチを行うことによって、フェルトを作製した。引き続き、このフェルトを厚み3mmになるようにプレスして、フィルター材を得た。
【0089】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、3.6%であった。
【0090】
<実施例2>
紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程において、用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更してポリマー溶液を製造し、これを紡糸原液に用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維織物を製造した。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0091】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0092】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1860N/5cmであった。
【0093】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0094】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、3.6%であった。
【0095】
<比較例1>
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=70/30へ変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維織物を製造した。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0096】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0097】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1050N/5cmであった。
【0098】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0099】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、4.9%であった。
【0100】
<比較例2>
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維織物を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0101】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0102】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1230N/5cmであった。
【0103】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0104】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、3.0%であった。
【0105】
<実施例3>
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP721.5部を秤量し、このNMP中にメタフェニレンジアミン97.2部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したNMP溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3部(49.82モル%)を徐々に撹拌しながら添加し、重合反応を行った。なお、粘度変化が止まった後、40分攪拌を継続し、重合反応を完了させた。
【0106】
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加えて、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間撹拌し、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.25であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、20%であった。
【0107】
[紡糸工程・可塑延伸工程・多段洗浄工程・乾燥熱処理工程・熱延伸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、紡糸工程における糸速を5m/分とし、可塑延伸工程における可塑延伸浴中の延伸倍率を6.5倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維織物を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0108】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0109】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1960N/5cmであった。
【0110】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0111】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、4.0%であった。
【0112】
<実施例4>
紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程において、用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリマー溶液を製造し、得られたポリマー溶液を紡糸原液として、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0113】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0114】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1900N/5cmであった。
【0115】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0116】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、3.5%であった。
【0117】
<比較例3>
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=30/70へ変更した以外は、実施例3と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0118】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0119】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、980N/5cmであった。
【0120】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0121】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、4.9%であった。
【0122】
<比較例4〜5>
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更したこと以外は、それぞれ実施例3および実施例4と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
【0123】
[織物の作製]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を作製した。
【0124】
[織物の破断強度]
得られた織物の破断強度は、1020N/5cmおよび1120N/5cmであった。
【0125】
[フィルター材の製造]
得られた原繊維を用いて、実施例1と同様にしてフィルター材を作製した。
【0126】
[フィルター材の乾熱収縮率]
得られたフィルター材の乾熱収縮率は、2.3%および2.5%であった。
【0127】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛は、力学特性、耐熱性などが良好で、かつ、繊維中に残存する溶媒が極微量であることから、高温下での加工および使用条件下であっても、強度を維持しつつ、着色または変色を抑制することができる。したがって、本発明に係るメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛は、特に高温で加工または使用される分野において有用性が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であって、
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、実質的に層状粘土鉱物を含まず、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、破断強度が4.5〜6.0cN/dtexであるメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛。
【請求項2】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下である請求項1記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛。
【請求項3】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mmである請求項1または2記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛。
【請求項4】
前記布帛が、不織布、織物、および編物からなる群から選ばれるいずれかの形態である請求項1から3いずれか記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛。

【公開番号】特開2011−226006(P2011−226006A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94990(P2010−94990)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】