説明

メラノサイト増殖抑制剤

【課題】優れたメラノサイト増殖抑制剤を提供すること。また、優れた色素沈着抑制用医薬組成物を提供すること。
【解決手段】ヒドロコルチゾンを含有するメラノサイト増殖抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメラノサイトの増殖抑制剤に関する。また、本発明はメラノサイト増殖抑制剤を含む、色素沈着を抑制するための医薬組成物に関する。特に本発明は、紫外線、加齢、炎症等に起因する色素沈着を抑制するための、メラノサイト増殖抑制剤を含む、色素沈着を抑制するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
色素沈着は紫外線、加齢、ホルモン異常、炎症、遺伝的要因、ストレス等様々な要因によって発生し、多くの女性を悩ませている。
色素沈着は種々の刺激を受けることでケラチノサイトよりα−MSH、bFGF、GROα、エンドセリン1等種々の因子が産生されることから始まる。これらの因子がメラノサイトに作用し、メラノサイトの増殖、チロシナーゼ活性化を促し、メラニンの生成が促進される。このようにメラノサイトで産生されたメラニンはケラチノサイトに引き渡され蓄積される。通常は皮膚の新陳代謝によりケラチノサイトは剥がれ落ちると考えられているが、必要以上に過剰にメラニンが産生された場合には、表皮内や真皮層に異常沈着し、色素沈着が引き起こされると考えられている。
【0003】
このような色素沈着を改善する方法として、メラニン色素の生成に働く重要な酵素であるチロシナーゼ活性を阻害する方法が数多く報告されている。例としてビタミンC又はその誘導体、グルタチオン、アルブチン、コウジ酸、胎盤抽出液、種々の生薬などの外用剤の適用が挙げられる。しかしながら上述の成分は、安定性、浸透性が悪い、あるいは紫外線や炎症等による色素沈着には十分な効果を示さない等の問題点がある。
【0004】
色素沈着に対してより満足のできる効果を発揮するには、チロシナーゼ活性阻害とは別のアプローチが重要と考えられ、チロシナーゼを有するメラノサイト自体の増殖を抑制することが色素沈着抑制に重要な役割を果たすと考えられる。
メラノサイトの増殖を抑制する物質としてシャクヤク抽出物、タイソウ抽出物、カンゾウ抽出物、ヨクイニン抽出物等の天然抽出物(特許文献1、2)、ビタミンD誘導体(特許文献3)、ビタミンC誘導体(特許文献4)等が報告されているが、これらの成分の効果は満足のできるものではない。
【0005】
また欧米で用いられているハイドロキノンはしみを淡色化する効果はあるものの、皮膚に対する安全性に問題がある。
よってより安全で色素沈着抑制効果の高い組成物が求められている。
【0006】
一方、本発明に用いられているヒドロコルチゾンはステロイドの一種である。ステロイドは抗炎症剤として種々の炎症性皮膚疾患に広く用いられているが、その副作用の一つとして皮膚の黒化症、色素沈着がみられることがよく知られている。またステロイドがメラニンの産生を亢進するという報告も多くある(非特許文献1−4)。特に、ヒドロコルチゾンがメラノサイトの増殖を抑制するという報告は今までになく、むしろメラノサイト培養時にヒドロコルチゾンを添加することで細胞増殖効果を高めるという報告がある(特許文献5)。よってステロイド系抗炎症薬は炎症に対しては有効であるものの、その炎症に起因して発生する色素沈着に対しては効果はなく、むしろ増長させるものと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−29494
【特許文献2】特開2004−196669
【特許文献3】WO01/028565
【特許文献4】特開2002−275030
【特許文献5】特開平8−149975
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Abramowitz J. et al.; Expl Cell Biol 46, 268 (1978)
【非特許文献2】Abramowitz J. et al.; Arch Dermatol Res 264, 293 (1979)
【非特許文献3】Disorbo DM. et al.; Cancer Res 44, 1752 (1984)
【非特許文献4】Ito A. et al.; Pigment Cell Res 4, 247 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明によって、メラノサイト増殖抑制剤が提供される。また、本発明により、色素沈着を抑制するための医薬組成物が提供される。特に、本発明により、紫外線、加齢、炎症等に起因する色素沈着に優れた効果を有する医薬組成物が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の課題及び現状に顧み、鋭意検討を重ねた結果、ステロイドの一種であるヒドロコルチゾンが他のステロイドとは異なり、メラノサイトの増殖を抑制することおよびメラノサイトによるメラニン産生を抑制することを見出した。
すなわち本発明は、ヒドロコルチゾンを含有するメラノサイト増殖抑制剤である。本発明はまたヒドロコルチゾンを含有するメラニン産生抑制剤でもある。
また、本発明はヒドロコルチゾンを含有する色素沈着抑制用医薬組成物、特に上記メラノサイト増殖抑制剤を含む色素沈着抑制用医薬組成物でもある。
特に本発明は、色素沈着が紫外線、加齢、炎症等に起因する、上記色素沈着抑制用医薬組成物でもある。
【発明の効果】
【0011】
ステロイドの中でも特にヒドロコルチゾンがメラノサイト増殖抑制効果を有し、その結果色素沈着を抑制することがわかった。本発明により、メラノサイトの増殖を抑制し、メラニン産生を抑制し、一般にステロイドを多用した場合に見られる色素沈着や紫外線、加齢、炎症等に起因する色素沈着に非常に効果的な組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ヒト正常メラノサイトにおけるヒドロコルチゾンの細胞数抑制効果を示したものである。*:p < 0.05 vs. ヒドロコルチゾンその他のステロイドなし ( n = 8 )
【図2】図2は、ヒト正常メラノサイト細胞数増加に対する各種ステロイドの効果を示したものである。*:p < 0.05 vs. ヒドロコルチゾンその他のステロイドなし( n = 4 )
【図3】図3は、ヒト正常メラノサイトにおけるヒドロコルチゾンのメラニン産生抑制効果を示したものである。( n = 4 )
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らはメラニン産生を活性化させる刺激下においてヒドロコルチゾンはメラノサイトの増殖を抑制し、メラニン産生も抑制することを初めて見出した。このヒドロコルチゾンの新たな作用はステロイドの有する黒化症という副作用の報告からは想像しがたいものである。
またヒドロコルチゾン以外のステロイドではメラノサイトの細胞数増加やメラニン産生の増加がみとめられたことから、本発明におけるヒドロコルチゾンのメラノサイト増殖抑制作用はステロイドの有する抗炎症作用に起因するものではなく、ヒドロコルチゾン独自の新しい作用と考えられる。
本発明の色素沈着抑制用組成物の効果は本質的にはメラノサイトの増殖抑制効果およびメラノサイトによるメラニン産生抑制効果によるものであるから、色素沈着の要因の少なくとも1つがメラノサイトの増殖および/またはメラノサイトによるメラニン産生亢進によるものである限り、本発明の色素沈着抑制用組成物は紫外線、加齢、炎症等に起因する色素沈着を含む広範な色素沈着を抑制する。
本発明の抑制剤または組成物は経口的に投与することも非経口的に投与(たとえば局所適用)することもでき、投与に際してはヒドロコルチゾンに適当な製剤添加物を加えて製剤化することができる。
【0014】
経口的に投与できる製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、散剤(細粒を含む)、顆粒剤、トローチ剤等の固形製剤、液剤(シロップ剤を含む)及びゼリー剤等の剤形を挙げることができる。
非経口的に投与できる製剤の剤形としては、軟膏剤、乳剤、クリーム剤、ローション剤、ゲルクリーム剤、ジェル剤、液剤、ノンガススプレー剤、エアゾール剤、エキス剤、チンキ剤、酒精剤、座剤、パップ剤、貼付剤及び注射剤の剤形を挙げることができる。
本発明の抑制剤または組成物は、性別、年齢、症状、投与経路、投与回数、投与時期等に応じて適宜検討を行い、適当な投与量を決めればよい。例えば経口的投与の場合、1日5〜300mg、好ましくは10〜150mgを1日1〜4回に分けて投与することができる。投与期間は特に限定されず十分な効果が得られるまで、たとえば色素沈着が十分に除去されるまで投与することができるが、1日〜2ヶ月が好ましい。非経口投与の場合、0.1〜10%、好ましくは0.3〜5%製剤を投与することができる。投与期間は特に限定されず十分な効果が得られるまで、たとえば色素沈着が十分に除去されるまで投与することができるが、1日1〜数回、1日〜2ヶ月が好ましい。
【0015】
製剤化は公知の製剤技術により行うことができる。製剤化にあたり製剤の形態に応じて医薬品、医薬部外品、化粧品等に使用される様々の添加物を任意に選択し、併用して製剤化することができる。製剤添加物としては、安定化剤、乳化剤、可溶化剤、基剤、結合剤、pH調節剤、懸濁化剤、等張化剤、抗酸化剤、香料、着色剤、コーティング剤、清涼化剤、接着剤、糖衣剤、粘着剤、増粘剤、賦形剤、崩壊剤、保存剤及び溶解剤等を挙げることができる。
【0016】
本発明においては、ヒドロコルチゾンの他必要に応じて発明の効果を損なわない範囲で医薬品、医薬部外品及び化粧品等に使用される様々な有効成分を配合してもよい。例えば、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、美白剤、生薬成分、鎮痒剤、創傷治癒剤、局所麻酔剤、ビタミン剤、清涼化剤、保湿剤、殺菌剤、血管収縮剤及びアミノ酸類等を含有させることができ、次のような成分が例示される。
【0017】
抗炎症剤の例として、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はその誘導体、カンゾウ抽出物、ヒドロコルチゾン以外のステロイド化合物(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、クロベタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、コルチゾン、フルメタゾン、ベクロメタゾン、フルチカゾン又はそれらの誘導体)、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、ウフェナマート、ピロキシカム、ケトプロフェン、サリチル酸又はその誘導体、ジメチルイソプロピルアズレン、トウキエキス、シコンエキスなどが挙げられる。
抗ヒスタミン剤の例として、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、メキタジン、アゼラスチン、エメダスチン、ケトチフェン又はそれらの誘導体などが挙げられる。好ましくは、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。
【0018】
美白剤の例として、L−システイン、ハイドロキノン、グルコサミン、L−アスコルビン酸、グルタチオン、コウジ酸、エラグ酸、胎盤抽出物、ユビキノン類又はそれらの誘導体が挙げられる。
生薬成分の例として、サイコ、ブクリョウ、ケイヒ、カンゾウ、オウゴン、オウバク、オウレン、サンシシ、ジオウ、シャクヤク、センキュウ、トウキ、ハマボウフウ、ボウフウ、オウヒ、キキョウ、ショウキョウ、ドクカツ、ケイガイ、モクツウ、ゴボウシ、チモ、センタイ、クジン、ソウジュツ、インチンコウ等。
鎮痒剤の例として、サリチル酸又はその誘導体、ノニル酸ワニリルアミド、カプサイシンなどが挙げられる。
創傷治癒剤の例として、アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート、酸化亜鉛などが挙げられる。
局所麻酔剤の例として、リドカイン、ジブカイン、プロカイン、テトラカイン、アミノ安息香酸又はそれらの誘導体などが挙げられる。
【0019】
ビタミン剤の例として、ビタミンA類[レチノール及びその誘導体(例えば、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチノール等)]、ビタミンB1類[チアミン及びその誘導体、(例えば、塩酸チアミン、硝酸チアミン等)]、ビタミンB2類[リボフラビン及びその誘導体(例えば、リン酸リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、及びフラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム等)]、ビタミンB3類[ニコチン酸及びその誘導体(ニコチン酸アミド、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジル等)]、ビタミンB5類[パントテン酸及びその誘導体(例えば、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテニルエチルエーテル等)]、ビタミンB6類[ピリドキシン及びその誘導体(例えば、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキシン、及びピリドキサール等)]、ビタミンB12類[コバラミン及びその誘導体(例えば、シアノコバラミン、メコバラミン、及び塩酸ヒドロキソコバラミン等)]、ビオチン、葉酸またはその薬学上許容される塩、ビタミンC類[アスコルビン酸及びその誘導体(例えば、エリソルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、パルミチン酸アルコルビン酸等)、ビタミンD類[カルシフェロール及びその誘導体(例えば、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール等)]、ビタミンE類[トコフェロール、ユビキノン及びその誘導体(例えば、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールカルシウム等)]、その他のビタミン類(例えば、ヘスペリジン、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、オロチン酸、ルチン、エリオシトリン、イノシトール、及びそれらの薬学上許容される塩)などが挙げられる。
【0020】
清涼化剤の例として、カンフル、ボルネオール又はそれらの類縁物質、ウイキョウ油、ユーカリ油、ハッカ油などが挙げられる。
保湿剤の例として、多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコールなど)、ヒアルロン酸又はその誘導体、ヘパリン類似物質、高分子化合物(コラーゲン、キトサンなど)、アミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸など)、天然保湿因子(乳酸ナトリウム、尿素など)、セラミド、植物抽出エキス(カミツレエキス、アロエエキスなど)などが挙げられる。
殺菌剤の例として、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、セトリミドなどが挙げられる。
血管収縮剤の例として、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、メチルエフェドリン又はその塩類などが挙げられる。
アミノ酸類の例として、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、セリン、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、及びそれらの薬学上許容される塩(例えば、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェノリン等)等。
【0021】
本発明のメラノサイト増殖抑制剤の効果は、たとえば以下のように確認することができる。96穴プレート(Nunc社)等にヒト正常メラノサイトを2500(cells/well)程度で播種し、37℃にて5%CO2の存在下、適切な培地で3日間程度培養する。その後、培地を除去し、本発明のメラノサイト増殖抑制剤を適切な量添加し、総量100μLの容量にて2日間程度培養する。その後、培地を取り除きGROα(R&D Systems)10ng/mL(in生理食塩水)を1μL加えた培地100μLにて6日間程度培養し、トリプシン処理により細胞を採取し細胞数をカウントすることによって本発明のメラノサイト増殖抑制剤の効果を確認することができる。一方、細胞をエッペンチューブ等に採取し遠心し上澄みを除去し、ペレット化した細胞に10%DMSO (in 1NNaOH)を加えソニケーションにより細胞を破壊し、マイクロプレートリーダーにて吸光度(405nm)を測定することによって、メラニン産生量を指標として本発明の効果を確認することができる。
また、本発明の抑制剤または組成物の色素沈着抑制効果は以下のようにして確認することができる。たとえば、適切な方法に従って、まずモルモット(SPF)にアレルギー性炎症後色素沈着を惹起する。このためには、以下の方法が利用できる:刈毛したモルモットの肩甲骨上部皮膚(約 2cm x 4 cm)の4隅に、蒸留水とFreund's Complete Adjuvant の1:1の油中水型(W/O)乳化物を0.1 mLずつ皮内注射し、注射部位に注射針を用いて#型の切皮を行い、その部位に0.3%1-Phenylazo-2-naphthol(PAN)ワセリン練り込み軟膏100mgを24時間閉塞パッチする。 1日1回程度、計数回連続して切皮からの操作を繰り返す。 1回目の閉塞パッチの1週間後に、皮内注射部位で囲まれ刈毛した肩甲骨上部皮膚部に10%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)ワセリン練り込み軟膏を塗布し、翌日、SLSワセリン練り込み軟膏を拭き取った後、同一部位に0.3%PANワセリン練り込み軟膏200mgを48時間閉塞パッチする。約2週間後、あらかじめ刈毛した背部皮膚に背部正中線を挟んで左右対称に2cm×2cmの試験部位を4箇所設け、0.5%PANアルコール溶液20μLを塗布し、PANによるアレルギー炎症を惹起する。
惹起3時間後に、4箇所の部位のうち1箇所に基剤、残り3箇所(試験部位)に本発明の抑制剤または組成物を一定量塗布する。14〜17日後に試験部位のメラニンインデックス(MI)を測定し、惹起前の値からの増加値を色素沈着の指標とし、基剤対照に対する検体の色素沈着抑制率を算出することができる。
色素沈着抑制率=(基剤対照群のMI増加平均値−検体群のMI増加平均値)/基剤対照群のMI増加平均値×100
【0022】
ヒト正常メラノサイトを用いた試験において、ヒドロコルチゾン以外のステロイドはメラノサイト細胞数増加に影響を及ぼさない、あるいは増長するという結果であった。また吉草酸酢酸プレドニゾロンはメラニン産生量を増加させた。このことはステロイドの副作用の一つである黒化症といったこれまでの知見を裏付ける結果である。しかしながらヒドロコルチゾンは、他のステロイドとは異なり、メラノサイト細胞数増加を有意に抑制し、メラニン量も減少させた。また動物を用いた試験においては、ヒドロコルチゾンは有意な色素沈着抑制効果を示した。このことはこれまでのステロイドの知見からは想像しがたい結果であり、他のステロイドではみとめられないことから、ヒドロコルチゾン特有の新しい作用といえる。
以下に試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
実施例1.ヒト正常メラノサイトにおけるメラノサイト増加抑制およびメラニン産生抑制試験
(試験方法)
96穴プレート(Nunc社)にヒト正常メラノサイト(NHEM,F4)(クラボウ株式会社)を2500(cells/well)でヒドロコルチゾンおよびPMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)を除いたヒト表皮メラニン細胞増殖添加剤(HMGS)を添加したメラニン細胞基礎培地(Medium254)(クラボウ株式会社)に播種し、37℃、5%CO2にて、3日間培養した。3日後、培地を除去し、ヒドロコルチゾン又は各ステロイド化合物を0.015μg/μL(in 99.5%エタノール)に調製したもの1μL/wellを入れ、前述の培地100μLにて2日間培養した。2日後、培地を取り除きGROα(R&D Systems)1ng/μL(in生理食塩水)を1μ入れ、前述の培地100μLにて6日間培養した。6日後、トリプシン処理により細胞を採取し細胞数をカウントした。
【0024】
(試験結果)
結果を図1及び図2に示す。図1から明らかなようにGROαの添加によりメラノサイト細胞数は増加したが、ヒドロコルチゾンの添加によりメラノサイト細胞数は有意に抑制された。図2に示すとおりヒト正常メラノサイトの細胞数増加に対して、調べたステロイドの中ではヒドロコルチゾンのみが有意なメラノサイトの細胞数増加に対して抑制効果を示し、他のステロイドはメラノサイト細胞数に有意な影響を与えなかった。
【実施例2】
【0025】
実施例2.ヒト正常メラノサイトにおけるメラニン産生抑制試験
(試験方法)
96穴プレート(Nunc社)にヒト正常メラノサイト(NHEM,F4)(クラボウ株式会社)を2500(cells/well)でヒドロコルチゾンおよびPMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)を除いたヒト表皮メラニン細胞増殖添加剤(HMGS)を添加したメラニン細胞基礎培地(Medium254)(クラボウ株式会社)に播種し、37℃、5%CO2にて、3日間培養した。3日後、培地を除去し、ヒドロコルチゾン又は吉草酸酢酸プレドニゾロンを0.015μg/μL(in 99.5%エタノール)に調製したもの1μL/wellを入れ、前述の培地100μLにて2日間培養した。2日後、培地を取り除きGROα(R&D Systems)1ng/μL(in生理食塩水)を1μL入れ、前述の培地100μLにて6日間培養した。6日後、メラニン量を測定した。細胞をエッペンチューブに採取し遠心し上澄みを除去した、ペレット細胞に10%DMSO (in 1NNaOH)を加え2分間ソニケーションを行い、マイクロプレートリーダーにて吸光度(405nm)を測定した。
【0026】
(試験結果)
結果を図3に示す。図3に示したように、吉草酸酢酸プレドニゾロンを添加するとメラニン量は増加したが、ヒドロコルチゾン添加ではメラニン量は減少した。
【実施例3】
【0027】
実施例3.モルモット色素沈着モデルにおけるメラニン量抑制試験
(試験方法)
7週齢の雌性Kwl:WM系褐色モルモット(SPF)を7匹用いて、アレルギー性炎症後色素沈着を惹起した。すなわち、あらかじめ刈毛したモルモットの肩甲骨上部皮膚(約 2cm x 4 cm)の4隅に、蒸留水とFreund's Complete Adjuvant の1:1の油中水型(W/O)乳化物を0.1 mLずつ皮内注射した。注射部位に注射針を用いて#型の切皮を行い、その部位に0.3%1-Phenylazo-2-naphthol(PAN)ワセリン練り込み軟膏100mgを24時間閉塞パッチした。 1日1回、計3回連続して切皮からの操作を繰り返した。1回目の閉塞パッチの1週間後に、皮内注射部位で囲まれ刈毛した肩甲骨上部皮膚部に10%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)ワセリン練り込み軟膏を塗布した。翌日、SLSワセリン練り込み軟膏を拭き取った後、同一部位に0.3%PANワセリン練り込み軟膏200mgを48時間閉塞パッチした。
2週間後、前述の処理を行った肩甲骨上部皮膚(約 2cm x 4 cm)をあらかじめ刈毛し、背部正中線を挟んで左右対称に2cm×2cmの試験部位を4箇所設け、0.5%PANアルコール溶液20μLを塗布し、PANによるアレルギー炎症を惹起した。惹起3時間後に、4箇所の試験部位のうち1箇所に、基剤としてワセリン、残り3箇所にワセリンに0.5%の配合量となるように各ステロイドを練りこんだ検体をそれぞれ30mg塗布した。ワセリンおよび検体は1日1回、計3回連続して塗布した。
惹起17日後、試験部位のメラニンインデックス(MI)を測定し、惹起前値からの増加値を色素沈着の指標とし、基剤対照に対する検体の色素沈着抑制率を算出した。
色素沈着抑制率=(基剤対照群のMI増加平均値−検体群のMI増加平均値)/基剤対照群のMI増加平均値×100
【0028】
(試験結果)
結果を表1に示す。
表1 モルモット色素沈着モデルにおけるメラニン量抑制効果

*p<0.05vs.基剤

表1から明らかなように、モルモット色素沈着モデルにおいてヒドロコルチゾンは有意な色素沈着抑制効果を示した。一方、他2種のステロイドに有意な色素沈着抑制効果はみとめられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロコルチゾンを含有するメラノサイト増殖抑制剤。
【請求項2】
ヒドロコルチゾンを含有するメラニン産生抑制剤。
【請求項3】
請求項1記載のメラノサイト増殖抑制剤または請求項2記載のメラニン産生抑制剤を含む色素沈着抑制用医薬組成物。
【請求項4】
色素沈着が紫外線、加齢、炎症等に起因する、請求項3記載の色素沈着抑制用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178777(P2011−178777A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−6705(P2011−6705)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000150028)株式会社池田模範堂 (8)
【Fターム(参考)】