説明

メンテナンス装置、メンテナンス方法及び液体噴射装置

【課題】高温低湿度の環境下であっても液体の増粘を抑制すること。
【解決手段】メンテナンス装置は、液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部と、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与部と、前記収容部に前記液体が収容された状態で前記空間が封止された場合に、所定の期間、前記振動付与部を作動させる制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス装置、メンテナンス方法及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インク滴をインクジェットヘッドのノズルから記録紙(媒体)に対して噴射する液体噴射装置として、インクジェット式印刷装置(以下、「印刷装置」という。)が広く知られている。印刷装置においては、ノズル内のインクが乾燥して増粘するのを抑制するため、メンテナンスユニットに含まれるキャップを用いてノズル形成面を封止する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−149504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成において、ノズル形成面が封止された直後においては、ノズル形成面とキャップとで囲まれた空間の環境は、封止前の大気の環境とほぼ同じである。つまり、封止前の大気の環境が高温低湿の環境である場合、ノズル形成面が封止された直後では、ノズル内のインクは、高温低湿の環境である上記空間にさらされることになる。したがって、当該ノズル内のインクは、上記空間に蒸発して増粘する場合がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、高温低湿度の環境下であっても液体の増粘を抑制することができるメンテナンス装置、メンテナンス方法及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るメンテナンス装置は、液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部と、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与部と、前記収容部に前記液体が収容された状態で前記空間が封止された場合に、所定の期間、前記振動付与部を作動させる制御部とを備える。
【0007】
本発明によれば、収容部に液体が収容された状態でノズル形成面が封止された場合に、所定の期間振動付与部を作動させるので、ノズル形成面とキャップ部とで囲まれた空間、すなわち、キャップ部によって封止された空間に配置された液体に対して、所定の期間、振動を付与することができる。液体に振動を付与することにより、当該液体の蒸発を促進させることができるため、封止された空間を蒸発した液体で満たし、湿度を高めることができる。これにより、高温低湿度の環境下であっても、液体の増粘を抑制することができる。
【0008】
上記の所定の期間については、例えば気温40℃程度、湿度20%程度の環境下においては、キャップ部によってノズル形成面が封止されてから30秒程度経過するまでの期間とすることが有効である。この期間において、封止された空間が乾燥し、液体の増粘が発生しやすくなるからである。勿論、気温や湿度等の条件が異なる場合には、所定の期間を上記とは異なる期間とすることができる。この場合、気温や湿度等の条件に応じて最適な期間を実験やシミュレーションなどによって求めておき、求めた値を適用することができる。
【0009】
上記のメンテナンス装置において、前記振動付与部は、前記収容部を吸引する正駆動、及び、前記収容部に気体を供給する逆駆動、を行うポンプ部を有し、前記制御部は、前記ポンプ部に前記正駆動及び前記逆駆動を切り替えて行わせることで前記ノズル形成面と前記キャップ部とで囲まれた空間の圧力を変動させる。
本発明によれば、振動付与部が、収容部を吸引する正駆動、及び、収容部に気体を供給する逆駆動、を行うポンプ部を有し、制御部がポンプ部に正駆動及び逆駆動を切り替えて行わせることでノズル形成面とキャップ部とで囲まれた空間の圧力を変動させるので、当該圧力変動によって液体に振動を付与することができる。
【0010】
上記のメンテナンス装置において、前記液体振動部は、前記キャップ部を振動させるキャップ振動部を有する。
本発明によれば、液体振動部がキャップ部を振動させるキャップ振動部を有するので、キャップ部を介して液体に振動を付与することができる。
【0011】
上記のメンテナンス装置において、前記キャップ部は、前記液体を吸収する吸収部材を有し、前記キャップ振動部は、前記吸収部材を振動可能である。
本発明によれば、キャップ振動部により、キャップ部に設けられる吸収部材を振動することができるので、吸収部材に吸収された液体に効率的に振動を付与することができる。
【0012】
本発明に係るメンテナンス方法は、液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部を用いて、前記収容部に前記液体が収容された状態で前記ノズル形成面を封止する封止ステップと、前記封止ステップの後、所定の期間、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与ステップとを含む。
【0013】
本発明によれば、収容部に液体が収容された状態で空間が封止された場合に、所定の期間振動付与部を作動させるので、この期間、封止された空間に配置された液体に対して振動を付与することができる。液体に振動を付与することにより、当該液体の蒸発を促進させることができるため、封止された空間を蒸発した液体で満たし、湿度を高めることができる。これにより、高温低湿度の環境下であっても、液体の増粘を抑制することができる。
【0014】
上記のメンテナンス方法は、前記封止ステップに先立って行われ、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える予備振動付与ステップを更に含む。
本発明によれば、収容部に収容された液体に振動を与える予備振動付与ステップが封止ステップに先立って行われるので、予備振動付与ステップを行わない場合に比べ、封止時点から飽和状態に至るまでの時間を短くすることができる。
【0015】
本発明に係る液体噴射装置は、液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドと、複数の前記ノズルから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部と、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与部と、前記収容部に前記液体が収容された状態で前記ノズル形成面が封止された場合に、所定の期間、前記振動付与部を作動させる制御部とを備える。
【0016】
本発明によれば、収容部に液体が収容された状態でノズル形成面が封止された場合に、所定の期間振動付与部を作動させるので、ノズル形成面とキャップ部とで囲まれた空間、すなわち、キャップ部によって封止された空間に配置された液体に対して、所定の期間、振動を付与することができる。液体に振動を付与することにより、当該液体の蒸発を促進させることができるため、封止された空間を蒸発した液体で満たし、湿度を高めることができる。これにより、高温低湿度の環境下であっても、液体の増粘を抑制することができるので、液体の噴射精度に優れた液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る印刷装置の構成を示す全体図。
【図2】本実施形態に係るメンテナンス機構の一部の構成を示す図。
【図3】本実施形態に係る制御装置の構成を示す図。
【図4】本実施形態に係るメンテナンス機構の動作の過程を示す図。
【図5】本実施形態に係るメンテナンス機構の動作の過程を示す図。
【図6】本実施形態に係るメンテナンス機構の動作の過程を示す図。
【図7】キャップ部材によって封止された空間の時間経過と湿度との関係を示すグラフ。
【図8】メンテナンス機構の他の構成を示す図。
【図9】ヘッドの構成の一例を示す図。
【図10】メンテナンス機構の他の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る印刷装置PRT(液体噴射装置)の概略構成を示す図である。本実施形態では、印刷装置PRTとしてインクジェット型の印刷装置を例に挙げて説明する。
【0019】
図1に示す印刷装置PRTは、例えば、紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。印刷装置PRTは、筐体PBと、媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構IJと、当該インクジェット機構IJにインクを供給するインク供給機構ISと、媒体Mを搬送する搬送機構CVと、インクジェット機構IJの保全動作を行うメンテナンス機構(メンテナンス装置)MNと、これら各機構を制御する制御装置CONTとを備えている。
【0020】
筐体PBは、一方向を長手とするように形成されている。筐体PBには、上記のインクジェット機構IJ、インク供給機構IS、搬送機構CV、メンテナンス機構MN及び制御装置CONTの各部が取り付けられている。筐体PBには、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材である。プラテン13は、媒体Mに向けられた平坦な支持面13aを有している。当該支持面13aは、媒体Mを支持する面である。
【0021】
搬送機構CVは、搬送ローラーや当該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有している。搬送機構CVは、媒体Mがプラテン13上を通過するように当該媒体Mを筐体PBの短手方向に搬送する。搬送機構CVは、制御装置CONTによって搬送のタイミングや搬送量などが制御される。
【0022】
インクジェット機構IJは、インクを噴射するヘッドHと、当該ヘッドHを保持して移動させるヘッド移動機構ACとを有している。ヘッドHは、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けてインクを噴射する。ヘッドHは、インクを噴射するノズル形成面Haを有している。ノズル形成面Haは、支持面13aに向けられた状態で配置されている。ノズル形成面Haには、インクを噴射する複数のノズルNZが形成されている。
【0023】
ヘッド移動機構ACは、ヘッドHを筐体PBの長手方向に移動させる。ヘッド移動機構ACは、ヘッドHを固定させるキャリッジ4を有している。キャリッジ4は、筐体PBの長手方向に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド移動機構ACは、当該キャリッジ4をガイド軸8に沿って移動させる機構、例えばパルスモーター9、駆動プーリー10、遊転プーリー11及びタイミングベルト12などを有している。
【0024】
インク供給機構ISは、ヘッドHにインクを供給する。インクの種類としては、例えば色素材料として顔料を用いた顔料インクなどが挙げられる。インク供給機構ISには、複数のインクカートリッジICが収容されている。本実施形態の印刷装置PRTは、インクカートリッジICがヘッドHとは異なる位置に装着される構成(オフキャリッジ型)である。インクカートリッジICは、供給チューブTB及びサブタンク2を介してヘッドHに接続されている。
【0025】
メンテナンス機構MNは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域(ホームポジション)に設けられている。メンテナンス機構MNは、ヘッドHのノズル形成面Haを覆うキャッピング機構(キャップ部)CPや、当該ノズル形成面Haを払拭するワイピング機構WPなどを有している。キャッピング機構CPには、ポンプ機構(振動付与部、ポンプ部)SCが接続されている。ヘッドHからメンテナンス機構MN側に排出された廃インクは、廃液回収機構(不図示)において回収される。
【0026】
図2は、キャッピング機構CP及びポンプ機構SCの構成を示す図である。図2は、ヘッドHがホームポジションに配置された場合(図中一点鎖線)を示している。
図2に示すように、キャッピング機構CPは、キャップ部材51、吸収部材52及びカム機構53を有している。
【0027】
キャップ部材51は、トレイ状に形成されており、収容部51a及び封止部51bを有している。収容部51aは、ヘッドHから排出されるインクを受ける部分である。封止部51bは、ヘッドHのノズル形成面Haに当接された状態で当該ノズル形成面Haを封止する。
【0028】
吸収部材52は、キャップ部材51の収容部51aに配置されている。吸収部材52は、スポンジなどの多孔質材によって形成されている。吸収部材52は、収容部51aにおいて受けられたインクを吸収して保持する。吸収部材52は、収容部51aに二段に配置されている。
【0029】
カム機構53は、軸部材53a及び回転部材53bを有している。軸部材53aは、円柱状に形成されており、不図示のモーターなどに接続されている。軸部材53aは、当該モーターによって円周方向に回転可能である。回転部材53bは、軸部材53aに固定されており、軸部材53aと一体的に回転する。回転部材53bは、キャップ部材51の底部51cに当接されている。軸部材53aは、回転部材53bの中心からずれた位置に設けられている。このため、回転部材53bは偏心回転する。カム機構53は、回転部材53bの回転角度を調整することでキャップ部材51をヘッドHに近づけたり遠ざけたりすることが可能である。
【0030】
ポンプ機構SCは、接続管54を介してキャップ部材51の収容部51aに接続されている。ポンプ機構SCは、収容部51aを吸引して減圧する正駆動、及び、収容部51aに対して気体を供給して加圧する逆駆動、をそれぞれ切り替えて行うことが可能である。ポンプ機構SCとしては、チューブポンプ機構などを用いることができる。ポンプ機構SCは、制御装置CONTに接続されている。
【0031】
図3は印刷装置PRTの電気的な構成を示すブロック図である。
制御装置CONTには、印刷装置PRTの動作に関する各種情報を入力する入力装置IPや、印刷装置PRTの動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRなどが接続されている。また、制御装置CONTには、上述した搬送機構CVや、ヘッドH、ヘッド移動機構AC、メンテナンス機構MN等が接続されている。制御装置CONTは、メンテナンス機構MNのうちキャッピング機構CPの移動や、ポンプ機構SCの駆動及びその切り替えのタイミングなどを制御可能である。
【0032】
次に、上記のように構成された印刷装置PRTの動作を説明する。
ヘッドHによる印刷動作を行う場合、制御装置CONTは、搬送機構CVによって媒体MをヘッドHに対向する位置に配置させる。媒体Mを配置させた後、制御装置CONTは、ヘッドHを移動させつつ、印刷する画像の画像データに基づいてヘッドHに駆動信号を入力する。ヘッドHに駆動信号が入力されると、ノズルNZからインクが噴射される。ノズルNZから噴射されたインクによって、媒体Mに所望の画像が形成される。
【0033】
制御装置CONTは、記録処理の後、メンテナンス処理を開始する。メンテナンス処理は、次の記録処理が開始されるまでの間に行われる。メンテナンス処理が開始されると、制御装置CONTは、ヘッドHをホームポジションまで移動させ、キャップ部材51の収容部51aに対向させる。
【0034】
ヘッドHは、使用時間によってノズルNZのインクDの増粘、あるいはノズルNZ開口近傍へのゴミの付着によって吐出不良が生じてくるおそれがある。制御装置CONTは、ヘッドHを収容部51aに対向させた後、図4に示すように、ヘッドHに駆動信号を入力し、収容部51aへとインクDを噴射させるフラッシング動作を行なわせる。ヘッドHから噴射されたインクDは、収容部51aに配置された吸収部材52に吸収される。
【0035】
フラッシング動作の後、制御装置CONTは、ノズルNZ内のインクが大気中に蒸発するのを防ぐため、図5に示すように、キャップ部材51によってヘッドHのノズル形成面Haを封止させる(封止ステップ)。この場合、制御装置CONTは、カム機構53の軸部材53aを回転させてキャップ部材51をヘッドHへ近づけ、封止部51bをノズル形成面Haに当接させる。この動作により、複数のノズルNZがキャップ部材51の収容部51aに対向した状態でノズル形成面Haが封止される。加えて、収容部51aにインクが配置された状態でノズル形成面Haが封止されることになる。キャップ部材51によってノズル形成面Haが封止された状態では、ノズル形成面Haとキャップ部51との間に空間Kが形成される。
【0036】
ノズル形成面Haが封止された直後の空間Kの環境は、封止前の大気の環境とほぼ同じである。つまり、封止前の大気の環境が気温40℃、湿度20%であると、封止した直後の空間Kもほぼ気温40℃、湿度20%となる。したがって、封止前の大気の環境が高温低湿(例えば上記のような気温40℃、湿度20%)の環境である場合、ノズル形成面Haが封止された直後では、ノズルNZ内のインクDは、高温低湿の環境である空間Kにさらされることになる。したがって、当該ノズルNZ内のインクDは、空間Kに蒸発して増粘する場合がある。より具体的には、インクDの溶媒成分(例えば水や溶剤など)が蒸発する場合がある。
【0037】
そこで、制御装置CONTは、ポンプ機構SCに正駆動及び逆駆動を交互に繰り返し行わせ、封止された空間Kの圧力を変動させる(振動付与ステップ)。この圧力の変動により、図6に示すように、吸収部材52に保持されたインクDが振動し、空間Kへの蒸発が促進される。インクDの溶媒成分が空間Kへ蒸発することで、空間Kの湿度が上昇する。
【0038】
図7は、キャップ部材51によってノズル形成面Haを封止した場合において、封止開始時からの経過時間と、空間Kの湿度との関係を示すグラフである。図7のグラフにおいて、横軸が封止開始時からの経過時間を示し、縦軸が空間Kの湿度を示している。
【0039】
印刷装置PRTの周囲の環境が、例えば気温40℃程度、湿度20%程度である場合、キャップ部材51によってノズル形成面Ha上の空間Kが封止されてから30秒程度経過するまでの期間は、図7のグラフ(1)に示すように、当該空間KのインクDの蒸発量が少なく、湿度がほとんど高くならないまま推移する。このため、ノズルNZのインクDが空間Kに蒸発する結果、ノズル内のインクが増粘しやすくなる。空間Kが封止されてから30秒経過後、徐々に吸収体から空間に蒸発するインクの量が多くなり、空間Kが封止されてから60秒程度経過すると、吸収体から蒸発したインクDによって空間Kは飽和状態となり、ノズルNZのインクDが蒸発しにくい状態となる。
【0040】
したがって、キャップ部材51によって封止が行われた後、上記動作を行なわず、例えば30秒経過する前に印刷動作が行われる場合、ノズルNZのインクDが増粘した状態でヘッドHからインクDの噴射が行われる。このため、ヘッドHの噴射特性が低下するおそれがある。一方で、封止後30秒経過前に印刷動作を行う場合において、インクDを噴射する前に一旦フラッシング動作を行い、ノズルNZから増粘したインクを排出することも考えられるが、この場合には、当該フラッシング動作を行なわない場合に比べ、メンテナンスのために用いられるインクが多くなってしまう。
【0041】
これに対して、上記のように封止後の吸収体に含まれるインクDに振動を付与して蒸発を促進させることにより、図7のグラフ(2)に示すように、空間Kが封止されてから30秒程度経過するまでの期間において、吸収体からインクDが空間Kに活発に蒸発し、当該空間Kの湿度が時間の経過と共に高くなる。このため、空間Kが封止されてから飽和状態に到達するまでの時間が、グラフ(1)の場合に比べて早くなる。このため、動作を行なわない場合に比べ、ノズルNZからのインクDの蒸発が抑制されることになる。
【0042】
このように、制御装置CONTにより、空間Kが封止されてから所定の期間、ポンプ機構SCに上記駆動を行わせることで、駆動を行なわない場合に比べ、キャップ後のノズルNZのインクの乾燥を効率的に抑制することができる。したがって、キャップ部材51によって封止が行われた後、30秒経過する前に上記の印刷動作が行われる場合であっても、駆動を行わない場合に比べればノズルNZのインクDが増粘していない状態であるため、良好な噴射特性を維持することができる。なお、上記説明においては、所定の期間として、空間Kが封止されてから30秒程度経過するまでの期間を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。すなわち、本実施形態では、所定の期間として、おおよそ5秒〜50秒、さらに好ましくは10秒〜30秒程度として設定することができる。当該所定の期間は、インクの成分や周辺環境によって異なる期間に設定することができる。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、収容部51aにインクDが収容された状態でノズル形成面Ha上の空間Kが封止された場合に、所定の期間、制御装置CONTがポンプ機構SCに対して正駆動及び逆駆動を交互に繰り返し行わせるので、この期間、封止された空間Kに配置されたインクDに対して振動を付与することができる。インクDに振動を付与することにより、当該インクDの蒸発を促進させることができるため、封止された空間Kを蒸発したインクDで満たし、湿度を高めることができる。これにより、高温低湿度の環境下であっても、ノズルNZのインクDの増粘を抑制することができる。また、本実施形態によれば、高温低湿度の環境下であってもインクDの増粘を抑制することができるため、広い地域で印刷装置PRTを使用することが可能となる。
【0044】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
上記実施形態においては、ポンプ機構SCに正駆動及び逆駆動を交互に繰り返し行わせることで、空間K内のインクDを振動させる構成としたが、他の構成によってインクDを振動させても構わない。
【0045】
例えば、図8に示すように、カム機構53にキャップ振動部53cが設けられた構成であっても良い。キャップ振動部53cは、制御装置CONTの制御によって振動する。キャップ振動部53cは、軸部材53aに取り付けられている。キャップ振動部53cが回転部材53bに取り付けられていても良い。
【0046】
キャップ振動部53cが振動すると、軸部材53a及び回転部材53bに振動が伝達される。回転部材53bがキャップ部材51に当接された状態でキャップ振動部53cが振動すると、回転部材53bを介してキャップ部材51に振動が伝達され、キャップ部材51が振動する。キャップ部材51が振動することにより、収容部51aに配置された吸収部材52が振動し、吸収部材52に保持されたインクDが振動する。このように、カム機構53を介して吸収部材52に振動を付与し、当該吸収部材52の振動によってインクDを振動させる構成としても良い。
【0047】
また、図8に示すように、キャップ部材51の封止部51bがヘッドHのノズル形成面Haに当接された状態でキャップ部材51が振動すると、キャップ部材51の振動がヘッドHに伝達され、ヘッドHが振動する。この振動により、ヘッドHに保持されるインクDが攪拌されるため、ノズルNZから噴射あるいは排出されるインクDが増粘するのを抑制することができる。
【0048】
また、ヘッドHの内部を直接振動させる構成としても構わない。図9は、ヘッドHの内部構成を示す断面図である。図9に示すように、ヘッドHは、ヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を備えている。
【0049】
ヘッドケース18は、中空部を有するように箱型に形成されている。ヘッドケース18ヘッドケース18の下端面には、流路ユニット19が接合されている。ヘッドケース18の内部に形成された中空部37内には、アクチュエータユニット20が収容されている。ヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。
【0050】
ケース流路25の上端は、サブタンク2に接続されている。ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通液体室44に連通されている。インクカートリッジICからのインクは、ケース流路25を通じて共通液体室44側に供給される。
【0051】
アクチュエータユニット20は、櫛歯状に配置された複数の圧電振動子38と、当該圧電振動子38を保持する固定板39と、圧電振動子38に対して制御装置CONTからの駆動信号を供給するフレキシブルケーブル40とを有している。圧電振動子38は、図中下側端部が固定板39の下端面から突出するように固定されている。固定板39のうち圧電振動子38の固定された面とは異なる面が中空部37を区画するケース内壁面に接着されている。
【0052】
流路ユニット19は、振動板41、流路基板42及びノズル基板43を有している。振動板41、流路基板42及びノズル基板43は、積層された状態で接着されている。流路ユニット19は、共通液体室44から液体供給口45、圧力室46を通り、ノズルNZに至るまでの一連の液体流路を構成している。圧力室46は、ノズルNZの配列方向(ノズル列方向)に対して直交する方向が長手方向となるように形成されている。
【0053】
印刷装置PRTは、それぞれのノズルNZについて設けられる圧電振動子38に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器(不図示)を備えている。この駆動信号発生器は、制御装置CONTに接続されている。駆動信号発生器には、ヘッドHの圧電振動子38に入力する吐出パルスに関するデータが入力される。駆動信号発生器は、各圧電振動子38に対して、個別に駆動信号を供給可能に設けられている。
【0054】
このような構成において、制御装置CONTは、図10に示すように、ポンプ機構SC、及び、カム機構53に設けられた振動発生部53、のうち少なくとも一方を作動させると共に、ノズルNZからインクが漏れ出さない程度の強さで圧電振動子38を振動させる。この動作により、空間Kのインクの蒸発が促進されると共に、圧力室46(図9参照)のインクが攪拌される。このため、ノズルNZから噴射あるいは排出されるインクの増粘がより確実に抑制される。
【0055】
なお、インクに振動を付与する構成として、上記実施形態で記載したポンプ機構SC、及び、カム機構53に設けられたキャップ振動部53c、を組み合わせて用いることができる。また、圧電振動子38を振動させることでヘッドH内のインクの増粘を抑制する態様についても、適宜組み合わせることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、封止ステップの後に空間K内のインクDを振動させる態様を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。制御装置CONTは、封止ステップの前に空間K内のインクDを振動させても良い(予備振動付与ステップ)。この場合、制御装置CONTは、空間K内のインクDに振動を付与させ、封止ステップが開始されるときに一端振動付与を停止させる。その後、制御装置CONTは、封止ステップを行わせた後に、振動付与ステップを行わせる。
【0057】
予備振動付与ステップを行うことにより、キャップ部材51の内部に設けられた吸収部材52からのインクDの蒸発が促進される。このため、当該予備振動付与ステップを行わない場合に比べ、封止直前のヘッドHとキャップ部材51との間の空間に蒸発するインクDの量を増やすことができる。したがって、この状態で封止ステップを行うことにより、予備振動付与ステップを行なわない場合に比べ、封止された空間Kに存在するインクDの溶媒成分の量を増やすことができる。よって、封止ステップ後に振動を始める場合に比べ、封止時点から飽和状態に至るまでの時間を短くすることができる。
【0058】
また、上記実施形態では、フラッシング動作によってキャップ部材51内にインクを供給する態様を例に挙げて説明したが、他の方法でキャップ部材51内にインクを供給しても良い。具体的には、制御装置CONTは、キャップ部材51内にインクを供給するためのインク吐出動作をヘッドHに行わせても良い。また、キャップ部材51内にインクを供給するための専用のインク供給機構(不図示)を設ける構成であっても良い。
【0059】
上記実施形態では、印刷方式としてインクジェット方式を採用した印刷装置について記載したが、電子写真方式や熱転写方式など、任意の方式の印刷装置に変更することもできる。また、印刷装置に限らず、FAX装置、コピー装置、あるいはこれら複数機能を備えた複合機等、他の記録装置であってもよい。さらに、記録装置として、インク以外の他の液体の微小量の液滴を噴射したり吐出したりする液体噴射ヘッド等を備える液体噴射装置を採用してもよい。
【0060】
なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。
【0061】
ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置等であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
PRT…印刷装置 MN…メンテナンス機構 CONT…制御装置 H…ヘッド Ha…ノズル形成面 NZ…ノズル CP…キャッピング機構 SC…ポンプ機構 D…インク K…空間 38…圧電振動子 51…キャップ部材 51a…収容部 51b…封止部 51c…底部 52…吸収部材 53…カム機構 53a…軸部材 53b…回転部材 53c…キャップ振動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部と、
前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与部と、
前記収容部に前記液体が収容された状態で前記ノズル形成面が封止された場合に、所定の期間、前記振動付与部を作動させる制御部と
を備えるメンテナンス装置。
【請求項2】
前記振動付与部は、前記収容部を吸引する正駆動、及び、前記収容部に気体を供給する逆駆動、を行うポンプ部を有し、
前記制御部は、前記ポンプ部に前記正駆動及び前記逆駆動を切り替えて行わせることで前記ノズル形成面と前記キャップ部とで囲まれた空間の圧力を変動させる
請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記液体振動部は、前記キャップ部を振動させるキャップ振動部を有する
請求項1又は請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
前記キャップ部は、前記液体を吸収する吸収部材を有し、
前記キャップ振動部は、前記吸収部材を振動可能である
請求項3に記載のメンテナンス装置。
【請求項5】
液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部を用いて、前記収容部に前記液体が収容された状態で前記ノズル形成面を封止する封止ステップと、
前記封止ステップの後、所定の期間、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与ステップと
を含むメンテナンス方法。
【請求項6】
前記封止ステップに先立って行われ、前記収容部に収容された前記液体に振動を与える予備振動付与ステップ
を更に含む請求項5に記載のメンテナンス方法。
【請求項7】
液体を噴射する複数のノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドと、
複数の前記ノズルから排出された前記液体を受けて収容する収容部を有し、複数の前記ノズルと前記収容部とを対向させた状態で前記ノズル形成面を封止するキャップ部と、
前記収容部に収容された前記液体に振動を与える振動付与部と、
前記収容部に前記液体が収容された状態で前記ノズル形成面が封止された場合に、所定の期間、前記振動付与部を作動させる制御部と
を備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−161988(P2012−161988A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23953(P2011−23953)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】