モジュラートランスフェクション系
【課題】核タンパク質フィラメント形成能(NPF)を有するタンパク質を用いた細胞のトランスフェクション方法を提供する。
【解決手段】トランスフェクションステップに影響する機能的構成成分でまずタンパク質を修飾し、トランスフェクションされる核酸はその修飾タンパク質と結合してフィラメント状の複合体を形成し、この複合体を最終的に細胞に添加する。さらにヒトおよび動物の遺伝子療法による治療のための医薬品を製造するための、NPFからなるトランスフェクション試薬の使用。
【解決手段】トランスフェクションステップに影響する機能的構成成分でまずタンパク質を修飾し、トランスフェクションされる核酸はその修飾タンパク質と結合してフィラメント状の複合体を形成し、この複合体を最終的に細胞に添加する。さらにヒトおよび動物の遺伝子療法による治療のための医薬品を製造するための、NPFからなるトランスフェクション試薬の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の非ウィルス性トランスフェクションの分野に関する。トランスフェクションなる用語は、一般に外来物質を細胞に導入することと解釈される。本発明は、核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質を用いた細胞のトランスフェクションの方法にも関する。本発明はさらに、トランスフェクションされる少なくとも1つの核酸と、核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質とで形成される核タンパク質フィラメント(NPF)を含有する、トランスフェクション試薬に関する。さらに、本発明は、本発明にかかるトランスフェクション試薬の使用、特に遺伝子治療において使用するための本試薬の調剤、細胞へ核酸をトランスフェクションするためのキット及び本発明にかかるトランスフェクション試薬を使用する特別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公知の非ウィルス性トランスフェクションは一連の制限を受けている。非ウィルス性核酸トランスフェクションでは主に、しばしば正または負に帯電した球状の核酸複合体の大きさ、および1つまたは複数のトランスフェクションステップの制御が十分にできないことが大きな問題となっている。後者の原因として、外側の細胞膜または内側の細胞内膜を貫通する能力の不足、酵素による分解に対する保護の不足、低い生物学的利用能、および細胞内の非生物学的分子によって引き起こされる、制御が十分にできない生物学的効果があげられる。多くの場合、核酸はきわめて広がった立体構造を含んでおり、酵素によって容易に分解可能であり、正または負に過剰に帯電していることによって基本的細胞構造と容易に会合しうる。それにともなって核膜通過能が不十分であるために、現在の核酸トランスフェクション技術は、例えばセルラインのような癌様に形質転換した細胞への使用にほぼ独占的に制限されているが、それはこのような形質転換細胞では、核膜が細胞分裂の間に一時的に溶解し、核内への侵入が可能になるためである。しかし形質転換細胞は一次細胞の本来の生理学的状態と比較可能ではないため、そのような形質転換細胞を用いた研究から、一次トランスフェクション細胞の反応を結論付けることはできない。
【0003】
すでに一連のトランスフェクション試薬が知られており、それらのほとんどすべては核酸との静電気的な相互作用によって、しばしば直径が50nmより大きい球状の複合体を形成する(非特許文献1)。これらの複合体はほとんどの場合、高い荷電によって細胞表面に会合し、エンドサイトーシスによって取り込まれる。それらは破裂するまでのエンドソーム酸性化の緩衝化(例えば、ポリエチレンイミン、スターバーストデンドリマー(非特許文献2)またはクロロキンの添加による)、または膜活性化物質、脂質、または親油性ペプチドの作用のいずれかによって、エンドソームから出る。しかしこれらの複合体は次の細胞分裂に際してはじめて細胞核に達し、そこで核酸放出後に望まれた作用を展開することができる。
【0004】
分裂依存性の核内移行の問題は、特に、シグナルマスキングおよび非特異的タンパク質結合の問題が考慮されれば、NLSペプチド(NLS=nuclear localization signal=核局在化シグナル)の使用によって、回避することができる(WO 00/40742)。
【0005】
(米国特許 第5468629号)では、ssDNA(1本鎖DNA)の細胞へのトランスフェクションのための、RecA−タンパク質の使用および別のRecAと機能的相同性をもつタンパク質の使用可能性が記載されている。RecAタンパク質は、明らかに触媒作用によって、細胞DNAと導入されたssDNAとの相同組換え過程を、DNA鎖対合およびその後のDNA鎖交換反応に影響を与えることによって、サポートする。ここで使用される複合体は、最大700ヌクレオチドのssDNAおよびRecAタンパク質を含み、「RecAにコートされた」複合体と称される。このようなssDNA−タンパク質複合体は、ATP−γ−S及びRecA存在下のDNAによって形成され、同時に安定したらせん状のシナプス前フィラメントが形成される。これらの複合体は、例えばセルライン、すなわち特に形質転換細胞のような、活発に細胞分裂している細胞のトランスフェクションにおいて使用される。
【0006】
【非特許文献1】タング(Tang),M.X.、およびゾーカ(Szoka),F.C.著「陽イオンポリマーとDNAの相互作用および得られる複合体の形態に対するポリマー構造の影響」、Gene Ther、1997年、第4巻、p.823−832
【非特許文献2】クコワスカ−ラタロ(Kukowska−Latallo),J.F.、ビエリンスカ(Bielinska),A.U.、ジョンソン(Johnson),J.、スピンドラー(Spindler),R.、トマリア(Tomalia),D.A.、およびベーカー(Baker),J.R.Jr.著「スターバーストポリアミドアミンデンドリマーを用いた哺乳動物の細胞への遺伝子材料の効率的な輸送」、Proc Natl Acad Sci USA、1996年、第93巻、p.4897−4902
【非特許文献3】ビアンコ(Bianco),P.R.、トレーシー(Tracy),R.B.、およびコワルチェコウスキー(Kowalczykowski)、S.C.著「DNA鎖交換反応タンパク質:生化学的および物理学的比較」、Front Biosci、1998年、第3巻、p.D570−603
【非特許文献4】フェルドヘル(Feldherr),C.M.、およびアキン(Akin),D.著「核孔複合体における輸送ゲートの位置」、J Cell Sci、1997年、第110巻(Pt24)、p.3065−3070
【非特許文献5】山田(Yamada),M.、および笠松(Kasamatsu),H.著「シミアンウィルス40の核ターゲティングにおける核孔複合体の役割」、J Virol、1993年、第67巻、p.119−130
【非特許文献6】ジ カプア(Di Capua),E.、エンゲル(Engel),A.、スタシアーク(Stasiak),A.、およびコラー(Koller),T.著「電子顕微鏡によるrecAタンパク質と二重鎖DNAとの間の複合体の特徴づけ」、J Mol Biol、1982年、第157巻、p.87−103
【非特許文献7】デルケイル(Delcayre),A.X.、サラス(Salas),F.、マートゥル(Mathur),S.、コバッツ(Kovats),K.、ロッツ(Lotz),M.、およびレムハート(Lemhardt),W.著「エプスタイン・バーウィルス/補体C3d受容体はインターフェロンα受容体である」、Embo J、1991年、第10巻、p.919−926
【非特許文献8】メンガウド(Mengaud),J.、オハヨン(Ohayon),H.、ゴウノン(Gounon),P.、メージ(Mege),R.M.、およびコサート(Cossart),P.著「E−カドヘリンは、リステリア菌の上皮細胞へ侵入に必要な表面タンパク質であるインターナリンの受容体である」、Cell、1996年、第84巻、p.923−932
【非特許文献9】ハルボトル(Harbottle),R.P.、クーパー(Cooper),R.G.、ハート(Hart),S.L.、ラドホフ(Ladhoff),A.、マッケイ(McKay),T.、ナイト(Knight),A.M.、ワグナー(Wagner),E.、ミラー(Miller),A.D.、およびクーテル(Coutelle),C.著「RGDーオリゴリシンペプチド:インテグリン介在性遺伝子輸送のための原型構造物」、Hum Gene Ther、1998年、第9巻、p.1037−1047
【非特許文献10】コリンズ(Collins),L.、ソーヤー(Sewyer),G.J.、ジャン(Zhang),X.H.、ガスタフソン(Gustafsson),K.、およびファブレ(Fabre),J.W.著「臓器移植におけるインテグリンをターゲットした非ウィルス性DNAベクターの輸送に重要な因子のインビトロ試験」、Transplantation、2000年、第69巻、p.1168−1176
【非特許文献11】ローゼンクランツ(Rosenkranz),A.A.、ヤハメネフ(Yachmenev),S.V.、ヤンス(Jans),D.A.、セレブリャコバ(Serebryakova),N.V.、ムラベフ(Murav’ev),V.I.、ピータース(Peters),R.、およびソボレフ(Sobolev),A.S.著「受容体介在性エンドサイトーシスおよびトランスフェクトしたDNA構造物の核移行」、Exp Cell Res、1992年、第199巻、p.323−329
【非特許文献12】フィーロ(Feero),W.G.、リー(Li),S.、ローゼンブラット(Rosenblatt),J.D.、シリアンニ(Sirianni),N.、モルガン(Morgan),J.E.、パートリッジ(Partridge),T.A.、ホァン(Huang),L.、およびホフマン(Hoffman),E.P.著「筋原細胞への受容体介在性遺伝子輸送のためのリガンドの選択と使用」、Gene Ther、1997年、第4巻、p.664−674
【非特許文献13】ミドウ(Midoux),P.、メンデス(Mendes),C.、レグラン(Legrand),A.、レイモンド(Raimond),J.、メイヤー(Mayer),R.、モンシニ(Monsigny),M.、およびロシュ(Roche),A.C.著「ラクトシル化ポリ−L−リジンによって介在性される肝癌細胞への特異的遺伝子輸送」、Nucleic Acids Res、1993年、第21巻、p.871−878
【非特許文献14】フォミナヤ(Fominaya),J.、およびウェルズ(Wels),W.著「キメラ多領域タンパク質によって介在される標的細胞特異的DNA輸送。新規な非ウィルス性遺伝子輸送システム」、J Biol Chem、1996年、第271巻、p.10560−10568
【非特許文献15】大野(Ohno),K.、澤井(Sawai),K.、飯島(Iijima),Y.、レビン(Levin),B.、およびメルエロ(Meruelo),D.「タンパク質AのIgG−結合ドメインを示すシンドビスウィルスベクターの細胞特異的ターゲティング」、Nat Biotechnol、1997年、第15巻、p.763−767
【非特許文献16】シェーマン(Schoeman),R.、ジュベール(Joubert),D.、アリアッティ(Ariatti),M.、およびホートリー(Hawtrey),A.O.著「ストレプトアビジンとの複合体をなすビオチン化トランスフェリンおよびビオチン化ポリリシンの効率性の高い輸送システムを用いた細胞への標的DNA輸送に関する詳細検討」、J Drug Target、1995年、第2巻、p.509−516
【非特許文献17】サーデジ(Surdje),P.、およびヤコブス−ロレナ(Jacobs−Lorena),M.著「遺伝子のタンパク質コード領域のエピトープ標識法」、Biotechniques、1994年、第17巻、p.560−565
【非特許文献18】エバン(Evan),G.I.、ルイス(Lewis),G.K.、ラムセイ(Ramsay),G.、およびビショップ(Bishop),J.M.著「ヒトc−myc 原癌遺伝子産物に対して特異的なモノクローナル抗体の単離」、Mol Cell Biol、1985年、第5巻、p.3610−3616
【非特許文献19】ソーレン(Thoren),P.E.、ペルソン(Persson),D.、カールソン(Karlsson),M.、およびノルデン(Norden),B.著「アンテナペディアペプチドペネトラチンは脂質二重層を通過して移動する−最初の直接的観察」、FEBS Left、2000年、第482巻、p.265−268
【非特許文献20】ワイスバート(Weisbart),R.H.、ボールドウィン(Baldwin),R.、フー(Huh),B.、ザック(Zack),D.J.、および西村(Nishimura),R.著「生細胞を貫通する抗体を用いた一次ラット皮質ニューロンの新規なタンパク質トランスフェクション」、J Immunol、2000年、第164巻、p.6020−6026
【非特許文献21】ポーガ(Pooga),M.、ソーメッツ(Soomets),U.、ハルブリンク(Hallbrink),M.、バルナ(Valkna),A.、サール(Saar),K.、レザエイ(Rezaei),K.、カール(Kahl),U.、ハオ(Hao),J.X.、シュー(Xu),X.J.、ビッセンフェルド−ハイリン(Wissenfeld−Hailin),Z.、ら著「細胞貫通性PNA構造物はガラニン受容体レベルを調節し、生体内の疼痛伝達を緩和する」、Nat Biotechnol、1998年、第16巻、p.857−861
【非特許文献22】プロボダ(Provoda),C.J.、およびリー(Lee),K.D.著「細菌孔形成溶血素および高分子のサイトゾル輸送におけるそれらの使用」、Adv Drug Deliv Rev、2000年、第41巻、p.209−221
【非特許文献23】シュタインハウアー(Steinhauer),D.A.、ウォートン(Wharton),S.A.、スケール(Skehel),J.J.、およびワイリー(Wiley),D.C.著「インフルエンザウィルス血球凝集素の融合ペプチド変異体の膜融合活性の研究」、J Virol、1995年、第69巻、p.6643−6651
【非特許文献24】ザウナー(Zauner),W.、ブラース(Blaas),D.、キュヒラー(Kuechler),E.、およびワグナー(Wagner),E.著「トランスフェクション複合体のライノウィルス介在性エンドソーム放出」、J Virol、1995年、第69巻、p.1085−1092
【非特許文献25】ホン(Hong),S.S.、ゲイ(Gay),B.、カラヤン(Karayan),L.、ダバウバレ(Dabauvalle),M.C.、およびボウランガー(Boulanger),P.著「組換えアデノウィルスペントンベースの細胞の取り込みおよび核輸送」、Virology、1999年、第262巻、p.163−177
【非特許文献26】ワグナー(Wagner),E.著「非ウィルス性遺伝子輸送のための膜活性ペプチドの使用」、Adv Drug Delive Rev、1999年、第38巻、p.279−289
【非特許文献27】パック(Pack),D.W.、プットナム(Putnam),D.、およびランガー(Langer),R.著「遺伝子輸送のためのイミダゾール含有エンドソーム溶解性バイオポリマーのデザイン」、Biotechnol Bioeng、2000年、第67巻、p.217−223
【非特許文献28】リチャードソン(Richardson),S.、フェルッチ(Ferruti),P.、およびダンカン(Duncan),R.著「潜在的なエンドソーム溶解性ポリマーとしてのポリ(アミドアミン)類:インビトロ評価と健常動物および腫瘍を有している動物における体内分布」J Drug Target、1999年、第6巻、p.391−404
【非特許文献29】ワン(Wang),P.、パレーゼ(Palese),P.、およびオニール(O’Neill),R.E.著「インフルエンザウィルス核タンパク質NP上のNPI−1/NPI−3(カリオフェリンα)結合部位は非従来的な核局在化シグナルである」、J Virol、1997年、第71巻、p.1850−1856
【非特許文献30】ノイマン(Neumann),G.、カストルッチ(Castrucci),M.R.、および川岡(Kawaoka),Y.著「インフルエンザウィルス核タンパク質の核内移行と核外移行」、J Virol、1997年、第71巻、p.9690−9700
【非特許文献31】ボウリカス(Boulikas),T.著「核内局在化シグナル(NLS)」Crit Rev Eukaryot Gene Expr、1993年、第3巻、p.193−227
【非特許文献32】ボウリカス(Boulikas),T.著「タンパク質リン酸化酵素およびサイクリンの核内移行」、J Cell Biochem、1996年、第60巻、p.61−82
【非特許文献33】ボウリカス(Boulikas),T.著「DNA修復タンパク質の核内移行」、Anticancer Res、1997年、第17巻、p.843−863
【非特許文献34】エロウズ(Ellouze),C.、セルマン(Selmane),T.、キム(Kim),H.K.、チュイテ(Tuite),E.、ノルデン(Norden),B.、モルテンセン(Mortensen),K.、および高橋(Takahashi)、M.著「DNA結合および不活性ヌクレオチドによるRecA−DNA複合体のRecAフィラメント解離のらせん状構造に対する影響における活性と不活性のヌクレオチド補助因子間の差異」、Eur J Biochem、1999年、第262巻、p.88−94
【非特許文献35】ナイト(Knight),K.L.、およびマクエンティー(McEntee),K.著「5’−p−フルオロスルホニルベンゾイルアデノシンによる大腸菌由来のrecAタンパク質のATP結合部位におけるチロシン残基の親和標識」、J Biol Chem、1985年、第260巻、p.10177−10184
【非特許文献36】モジッグ(Mosig),G.著「T4ファージ増殖における組換えの基本的役割」Annu Rev Genet、1987年、第21巻、p.347−371
【非特許文献37】ザイツ(Seitz),E.M.、ブロックマン(Brockman),J.P.、サンドラー(Sandler),S.J.、クラーク(Clark),A.J.、およびコワルチェコウスキー(Kowalczykowski),S.C.著「RadAタンパク質はDNA鎖交換反応を触媒する古細菌RecAタンパク質相同体である」、Genes Dev、1998年、第12巻、p.1248−1253
【非特許文献38】ロカ(Roca),A.I.、およびコックス(Cox),M.M.著「RecAタンパク質:構造と機能」、Crit Rev Biochem Mol Bio、1990年、第25巻、p.415−456
【非特許文献39】カーリン(Karlin),S.、およびブロチール(Brocchierl),L.著「タンパク質の構造および機能に関するRecA遺伝子の進化的保存」、J Bactroriol、1996年、第178巻、p.1881−1894
【非特許文献40】カリン(Karlin),S.、ウェインストック(Weinstock),G.M.、およびブレンデル(Brendel),V.著「recAタンパク質配列の比較由来の細菌の分類」、J Bacteriol、1995年、第177巻、p.6881−6893
【非特許文献41】サンドラー(Sandler),S.J.、サテン(Satin),L.H.、サムラ(Samra),H.S.、およびクラーク(Clark),A.J.著「酵母菌のRad51およびDmc1タンパク質に類似した推定上のタンパク質生成物を有する3つの始生代種由来のrecA様遺伝子」、Nucleic Acids Res、1996年、第24巻、p.2125−2132
【非特許文献42】小川(Ogawa),T.、篠原(Shinohara),A.、鍋谷(Nabetani),A.、池谷(Ikeya),T.、ユー(Yu),X.、イーグルマン(Egelman),E.H.、および小川(Ogawa),H.著「真核生物におけるRecA様組換えタンパク質:RAD51遺伝子の機能および構造」、Cold Spring Harb Symp Quant Biol、1993年、第58巻、p.567−576
【非特許文献43】ティヤガラジャン(Thyagarajan),B.、パドゥア(Padua),R.A.、およびキャンベル(Campbell),C.著「哺乳動物のミトコンドリアは相同性DNA組換え活性を有する」、J Biol Chem、1996年、第271巻、p.27536−27543
【非特許文献44】セルッティ(Cerutti),H.、オスマン(Osman),M.、グランドーニ(Grandoni),P.、およびヤーゲンドルフ(Jagendorf),A.T.著「高等植物の色素体における大腸菌RecAタンパク質の相同体」、Proc Natl Acad Sci USA、1992年、第89巻、p.8068−8072
【非特許文献45】バウマン(Baumann),P.とウエスト(West),S.C.著「相同性組換えおよび二重鎖切断修復におけるヒトRAD51タンパク質の役割」、Trends Biochem Sci、1998年、第23巻、p.247−251
【非特許文献46】マッソン(Masson),J.Y.、デービス(Davies),A.A.、ハジバゲリ(Hajibagheri),N.、バン ダイク(Van Dyck),E.、ベンソン(Benson),F.E.、スタシアーク(Stasiak),A.Z.、スタシアーク(Stasiak),A.、およびウエスト(West),S.C.著「減数分裂特異的リコンビナーゼhDmc1は環状構造を形成し、hRad51と相互作用する」、Embo J、1999年、第18巻、p.6552−6560
【非特許文献47】グリフィス(Griffith),J.、マクホフ(Makhov),A、サンチャゴ−ララ(Santiago−Lara),L、およびセトロウ(Setlow),P.著「DNAと枯草菌由来のα/β型の小型酸溶解性胞子タンパク質間の相互作用の電子顕微鏡観察:タンパク質結合は協同的であり、DNAを硬化し、負の超らせんを誘導する」、Proc Natl Acad Sci USA、(1994年)、第91巻、p,8224−8228
【非特許文献48】リー(Lee),C.K.とナイプ(Knipe),D.M.著「単純ヘルペスウイスルタンパク質ICP8のDNA結合活性を試験するための免疫測定法」、J Virol、1985年、第54巻、p.731−738
【非特許文献49】ユー(Yu),X.、およびイーグルマン(Egelman),E.H.著「バクテリオファージT4UvsXタンパク質により誘導されるDNA構造は、大腸菌RecAタンパク質により誘導される構造と同一のように見られる」、J Mol Biol、1993年、第232巻、p.1−4
【非特許文献50】ベトラム(Betram)とガッセン(Gassen)著「遺伝子工学的方法」、グスタフ フィッシャー(Gustav Fishcer)出版、1991年、p.212−213
【非特許文献51】カグノン(Cagnon),C.、バルベルデ(Valverde),V.、およびマッソン(Masson)、J.M.著「大腸菌の糖誘導性発現ベクターの新しいファミリー」、Protein Eng、1991年、第4巻、p.843−847
【非特許文献52】アンダーソン(Andersson),K著「自由生存微生物におけるコドンプリファレンス」Micobiol Rev、1990年、54、p98−210
【非特許文献53】シャガー(Schagger),H.、およびフォン ヤゴウ(von Jagow),G.著「1〜100kDaの範囲のタンパク質を分離するためのトリシンナトリウムドデシル硫酸ポリアクリルアミドゲル電気泳動法」、Anal Biochem、1987年、第166巻、p.368−379。
【非特許文献54】プロウ(Plow),E.F.、ハース(Haas),T.A.、ジャン(Zhang),L.、ロフタス(Loftus),J.、およびスミス(Smith),J.W.著「インテグリンへのリガンド結合」、J Biol Chem、2000年、第275巻、p.21785−21788
【非特許文献55】バル(Bal),H.P.、クロボチェク(Chroboczek),J.、ショーエン(Shoehn),G.、ルイグロック(Ruigrok),R.W.、およびデューハースト(Dewhurst),S.著「大腸菌からの可溶性5量体のアデノウィルスタイプ7ペントン精製およびインテグリン依存性遺伝子輸送システムの開発」、Eur J Biochem、2000年、第267巻、p.6074−6081
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、それによって細胞への取り込みの改良を可能にし、同時にトランスフェクション過程の制御を可能にする、あらゆる種類の細胞にあらゆる種類の核酸をトランスフェクションするための方法およびトランスフェクション試薬を提供することである。この目的のために、このトランスフェクション試薬はトランスフェクション過程中に十分に安定しており、目標区画においてトランスフェクションされた核酸が十分に放出されるのを保証しなければならない。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
この課題は、本発明の方法によって解決される。その方法においては、トランスフェクションの1つまたは複数のステップに影響する少なくとも1つの機能的構成成分によってまずタンパク質を修飾する。次いでトランスフェクションされる核酸に修飾タンパク質を結合し、核酸およびタンパク質はフィラメント状の複合体を形成し、この複合体が最終的にトランスフェクションされる細胞に添加される。
【0009】
さらに、この課題は、本発明のトランスフェクション試薬によって解決されるが、その場合には核タンパク質フィラメント形成能を有するタンパク質がトランスフェクションに影響する少なくとも1つの機能的構成成分によって修飾される。
【0010】
1つまたは複数の同一または異なる追加の機能的構成成分によって、1つまたは複数の核タンパク質フィラメント(NPF)を形成するタンパク質が修飾されることによって、複雑なトランスフェクション過程の個々のステップを、トランスフェクションされる核酸及び標的細胞に特有の、特に有効な方法で制御することができる。さらに、本発明による方法及びトランスフェクション試薬によって、公知の方法に対してトランスフェクション効率が明らかに向上する。
【0011】
本発明によれば、NPF形成タンパク質が、特に、DNAの単なる保護以上の役割をする、機能群のモジュラー輸送システムとして、有利な方法で使用される。この複合体は、2つの点できわめて小さな空間サイズを示している。すなわち、フィラメント状であって、球状ではない点と、フィラメントごとに1個のみの核酸分子を含有する点である。輸送タンパク質ごとに少ないヌクレオチドという化学量論的比率につながるこの集合体によって、トランスフェクションに対する機能的シグナル密度が、球状の複合体よりもきわめて大きくなることが可能である。シグナル密度および様々なシグナルの組合せは、様々な機能を持つ輸送タンパク質および機能群を持たないタンパク質を混合することによって個別に調節可能であるため、本発明によるトランスフェクション試薬をモジュラーシステムとして様々なトランスフェクション条件に適応させることができる。さらに、小さな空間サイズおよび高いシグナル密度により、小さい分子に特有の内在性輸送システムを利用することも可能となる。そのフィラメント状の特徴、単純な構造、および調節可能なきわめて高いシグナル密度のために、本発明による方法、すなわち本発明によるトランスフェクション試薬により、例えば発現ベクターのような大きな核酸分子をも、内在性のメカニズムを利用して輸送することが可能になる。
【0012】
例えば、追加の機能的構成成分をNPFタンパク質に直接結合させ、またはスペーサー、すなわち機能を持たない分離ユニットを介して結合させることができる。このようなスペーサーは、NPFタンパク質と機能的構成成分との間に大きな距離をもたらし、これにより相互の立体障害が回避され、NPFタンパク質および機能的構成成分のよりよい空間的利用可能性が保証される。従って、本発明による試薬の構造により、機能的構成成分のマスキングが主として阻止される。
【0013】
NPF形成タンパク質は、核酸とともに、主として協同的結合によって核タンパク質フィラメントを形成し、その中でタンパク質と核酸がその大きさ、または直径が公知の球状のトランスフェクション試薬に比べ大幅に小さい複合体を形成する。このようなNPFは、例えばATP(アデノシン三リン酸)などのヌクレオシド三リン酸の存在下に、DNA依存的ATPaseであるRecAファミリーのタンパク質によって形成され、例えば二本鎖DNAにおける3つの塩基当たり1個のタンパク質の密度で結合されている(非特許文献3)。この高いタンパク質密度により、酵素の作用可能部位が大幅に削減されるため、核酸の酵素加水分解に対して優れた保護が得られる。NPFは、複合体の十分な安定性を提供するだけでなく、例えば核において、輸送された核酸の十分な放出をも可能にする。ヌクレオシド三リン酸、例えば、ATPおよび/またはGTPの、加水分解が不可能または困難な類似体、例えばATP−γ−SまたはGTP−γ−Sなどの使用によって、RecAファミリーのようなATP形成タンパク質によって形成されるNPFがさらに安定化する可能性がある。
【0014】
本発明によれば、NPF形成能を有するタンパク質は誘導されたNPFタンパク質をも包含する。例えば、融合タンパク質を製造することができる。さらに、NPF形成タンパク質が本発明に必須の機能、核酸とNPFの構造形成を維持できる限り、NPF形成タンパク質を短縮または延長し、個々の部位またはアミノ酸を欠失、挿入、または化学的に修飾することができる。
【0015】
本発明の特に有利な点は、もとからある核移行メカニズムの利用を可能にするNPFの空間的構造である。トランスフェクション試薬の最大径は核孔の大きさによって規定され、きわめて長い核酸の場合にも限界を超えることはなく、すなわち、NPFはトランスフェクションされる核酸の長さに関係なくトランスフェクション試薬として使用することができる。核孔を通って輸送できる大きさの限界は、約25nm(非特許文献4)または50nm(SV40−ウィルス)である(非特許文献5)。球状構造および/またはトランスフェクション構成成分ごとに非特異的にいくつもの核酸分子が結合する、従来のトランスフェクション試薬によって核膜通過が遮断されていた核酸は、本発明にかかるトランスフェクション試薬を使用することで、容易にそのような大きさの限界を下回ることができる。しかも、本発明によるトランスフェクション試薬の構造によってはじめて、使用されるNPF形成タンパク質に応じて11nm以下の直径が可能となる。したがって、NPFタンパク質の使用によってフィラメント状に構成される構造は、数kbの長さの長い核酸の輸送にも適している。したがって、本発明による方法および本発明によるトランスフェクション試薬は、大きなヌクレオチド配列の細胞のトランスフェクションのために特に好適である。好ましくは、本発明によるトランスフェクション試薬は、少なくとも700個のヌクレオチドからトランスフェクションされる核酸を少なくとも1つ含有する。
【0016】
本発明は、核酸のトランスフェクションのためにそれ自体で有利に使用し、または他のトランスフェクション方法および物質と組み合わせて使用することもできる。NPF形成タンパク質の高い結合度合いは加水分解抵抗性を高め、NPFの小さな直径は、例えば核移行システムなど十分に小さな分子のみ利用できる内在性の細胞輸送系の利用を可能にする。さらに、細胞区画内、主に核内へトランスフェクションされる核酸の十分な放出が保証される。
【0017】
本発明による「トランスフェクション試薬」なる用語は、トランスフェクションされる核酸をすでに含有する、核酸またはその誘導体の輸送媒体と理解される。本発明の趣旨におけるトランスフェクション試薬は、複雑なトランスフェクション過程の少なくとも1つの個別のステップを実行する。
【0018】
本発明に関して「核タンパク質フィラメント」(NPF)なる用語は、核酸類、または核酸誘導体と、非共有結合、主に協同的結合の結果として、好ましくは一つの核酸分子またはその誘導体を含むフィラメント状又は糸状の複合体を形成するタンパク質からなる分子構造を意味する。特に好ましくは、例えば、1本鎖または2本鎖DNAとRecAから形成されるようならせん状の核タンパク質フィラメントである(非特許文献6)。
【0019】
「トランスフェクションされる核酸」は、2本鎖または1本鎖DNA、2本鎖または1本鎖のRNA、および1本鎖の末端を有する2本鎖DNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、または、加水分解抵抗性が高められたり(ペプチド核酸、PNA)、標的核酸への共有結合および/または修飾のために反応性分子群が導入されるなどした、化学的に修飾された核酸誘導体でありうる。トランスフェクション可能な核酸誘導体には、配列特異的に、または共有結合で結合したタンパク質によって修飾された核酸も含むものと理解される。本発明の好ましい核酸はDNA、特に2本鎖DNAである。NPF形成タンパク質は、これまで主に1本鎖DNAとともに、例えば組換えのために使用された。しかし意外にも、本発明に関連して、多くのNPF形成タンパク質が適切な条件下において2本鎖DNAとも安定した複合体を形成し、本発明にしたがって2本鎖DNAのトランスフェクションにも使用できることがわかった。したがって、2本鎖DNAを有効にトランスフェクションする可能性において、本発明にはさらなる利点がある。
【0020】
本発明の有利な具体例では、機能的構成成分によって修飾されたNPFは、本来のNPF形成タンパク質またはその誘導体の修飾によって調製される。その場合の修飾はアミノ酸および/またはタンパク質ドメインの欠失または挿入によって行うことができる。修飾はアミノ酸および/または他の分子群の化学的変化によって、かつ/またはペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の分子をNPF形成タンパク質またはその誘導体へ化学的に結合させるによっても行うことができる。これらの修飾は、場合によりスペーサーを使用しながら行うことができる。
【0021】
トランスフェクションの第1の障害物は、トランスフェクション複合体の細胞表面への会合である。したがって、本発明による方法およびトランスフェクション試薬の好ましい具体例では、複合体または試薬の細胞表面への会合をもたらす少なくとも1つの機能群で修飾されており、NPF形成能を有する少なくとも1つのタンパク質を使用する。これは、1つのまたはほんのいくつかの細胞型に発現される、細胞型固有の表面構造への結合によって細胞特異的に行うことができ、または、例えば電荷相互作用によって非特異的に行うことができる。細胞表面の受容体、例えば、細胞への侵入のためのウィルスまたは細菌によって使われる受容体に結合する自然発生物質または合成的に調製される物質すべてを、細胞型特異的結合に使用することができる。その受容体には、例えば、エプスタインバーウィルス受容体CD21(非特許文献7)またはリステリア菌受容体E−Cadherin(非特許文献8)がある。基質‐受容体結合を利用するほかの例は、多くの鉄を必要とする細胞におけるトランスフェリン受容体‐トランスフェリン、肝細胞におけるアジアログリコタンパク質受容体‐ガラクトース、例えば、RGD(非特許文献9)またはモロシン(非特許文献10)のようなインテグリン‐インテグリン結合ペプチド、または、例えばインスリン(非特許文献11)、EGF(上皮細胞成長因子)またはインスリン様成長因子I(非特許文献12)などのホルモン受容体に結合するホルモン、およびレクチンに結合するオリゴ糖(非特許文献13)などである。同様に、細胞特異的抗体(非特許文献14)、タンパク質A、そのIgG−結合ドメイン(非特許文献15)、およびストレプトアビジンと組み合わせたビオチン化タンパク質(細胞表面上においてビオチン化されたタンパク質またはビオチン化したモノクロナール抗体のいずれか)(非特許文献16)が使用可能である。本発明に関しては、「エピトープ−標識」、すなわち一方ではエピトープ、つまり例えば、NPF形成タンパク質またはその誘導体に結合され、または遺伝子工学によって融合されている、インフルエンザ血球凝集素(非特許文献17)またはc−myc−タンパク質(非特許文献18)の短いペプチドを認識し、他方では特異的な細胞表面構造を認識する二重特異性抗体の使用による細胞特異的トランスフェクションが特に適している。電荷相互作用による、トランスフェクション複合体の細胞非特異性相互作用においては、例えば正電荷を、例えば追加のアミノ酸(リシン、アルギニン;ヒスチジン)によって導入することができる。
【0022】
本発明による方法およびトランスフェクション試薬の別の特に好ましい具体例では、機能的構成成分が複合体または試薬の細胞膜通過に、非エンドソーム通過をもたらすことが意図されている。非エンドソームの膜通過は、試薬が細胞質内で即座に利用可能であり、リソソームの加水分解活性の環境にはさらされないという利点を有する。このような膜通過は膜活性分子によって達成することができる。これらの分子は、例えばウィルス性ペプチド、例えばHIV−tat、VP22、HBV表面抗原;例えばアンテナペディアのホメオドメイン(非特許文献19)、engrailed、HOXA−5など転写因子のペプチド;サイトカイン、例えばIL−1β、FGF−1、FGF−2のペプチド;細胞シグナル配列、例えばカポジ線維芽細胞成長因子のペプチド、生細胞を貫通するモノクローナル抗体、例えばmab 3E10(非特許文献20)、合成またはキメラペプチド、例えば両親媒性モデルペプチドまたは輸送体(非特許文献21)など主に脂肪性または両親媒性である自然発生ペプチド、修飾ペプチド、または合成ペプチドでありうる。
【0023】
さらに、本発明の有利な具体例では、複合体または試薬のエンドソーム/リソソームからの放出をもたらす、少なくとも1つの本発明による機能的構成成分を使用している。細胞膜の通過は、例えばエンドサイトーシスによって行うことができる。エンドサイトーシスの後、核タンパク質複合体がエンドソームから放出される必要がある。このために、エンドソームを溶解する活性がある物質をすべて使用することができる。それらの物質は、例えば細菌またはウィルス由来のペプチド、その誘導体もしくは合成類似体、または当業者には公知の他の合成物質でありうる。細菌由来のエンドソーム溶解物質として挙げられるのは、例えば、ストレプトリシンO、ニューモリシン、ブドウ球菌α−トキシン、リステリオリシンOである(非特許文献22)。ウィルス性ペプチドは、例えばインフルエンザウィルスのN−末端血球凝集素HA−2−ペプチド(非特許文献23)、ライノウィルスHRV2のVP−1−タンパク質のN−末端(非特許文献24)、またはアデノウィルスのキャプシド構成成分(非特許文献25)である。合成物質として挙げられるのは、例えば両親媒性のペプチド(GALA、KALA、EGLA、JTS1)(非特許文献26)、またはイミダゾール修飾ポリマー(非特許文献27)およびポリ−アミドアミン修飾ポリマー(非特許文献28)である。
【0024】
すべてのトランスフェクション試薬にとって特に障害物となるのは、通常は細胞分裂に依存して起こり、あるいは、細胞刺激後に起こる核内への移行である。したがって、本発明の特に有利な具体例では、細胞核へ複合体または試薬の輸送をもたらす機能的構成成分を用いることが意図されている。核移行にとって不可欠なのは、第一に核孔径の限定であり、第二に輸送用に使用されるシグナル分子である。本発明での核移行用のシグナルとしては、核受容体に結合する核リガンドが使用される。特に適した核リガンドはNLS(nuclear localization signals、核局在化シグナル)または他の核移行システムの構成成分である。核局在化シグナルとして特に使用に好ましいのは、それ自体および/またはその側にある領域が正電荷の過剰をほとんど示さないか、全く示さないようなシグナルである。なぜなら、過剰帯電は非特異的な核酸の結合をまねき、その結果、シグナルをマスクしてしまうからである。ペプチドの総電荷が側にある陰荷電アミノ酸によって少なくともほぼ調整できる場合、いわゆる典型的NLSの増強された配列が好ましい。これらのアミノ酸はペプチド/タンパク質中のこれらの位置にもとから存在することもあり、または構造上の考慮に基づき同位置に導入することができる。いわゆる非典型的NLSも使用することができる。これは例えば、正電荷の大過剰を示さず、非典型的な輸送路を介して核に達する、インフルエンザウィルスの「核タンパク質」由来のNLS((非特許文献29)および、(非特許文献30))、またはヘテロ核リボ核タンパク質(hnRNP)A1タンパク質由来のM9配列などである。本発明の具体例を実施するために使用できる完全ではないが優れたNLSのレビューを、T.ボウリカス(Boulikas)(非特許文献31、32、および33)が示している。ほぼ中性電荷配列は、例えばそれにもともとあるか、または人工的に導入される陰電荷アミノ酸をそばに有するSV40ウィルスのラージT−抗原由来のNLSを含む((WO 00/40742)も参照)。
【0025】
したがって、本発明の特別の利点は、分裂していない、または分裂活性の弱い真核生物の細胞、特に真核生物の一次細胞における、核酸のトランスフェクションが明らかに改善されることにある。これらの細胞こそが、例えば、血液検体または組織生検によって体から直接取り出され、専門家にとって決定的な意義があるため、その生物学的および医学的な情報価値は依然失われていない。ヒトゲノムのほぼ完全な解読の分析が期待されるとともに、細胞システムにおいて調査される遺伝子の特異的発現こそが、最終的に、十分に生理学的に関連性のある、可能な技術的適応性の明らかな証拠を与えると思われる。さらに、一次細胞のトランスフェクションは、生体外(ex vivo)および生体内(in vivo)の非ウィルス性遺伝子療法の重要な前提である。
【0026】
本発明の有利な具体例において、本発明による方法およびトランスフェクション試薬はそれぞれ、異なる機能をもついくつかの機能的構成成分で修飾された核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質、および/または、異なる機能をもつタンパク質で修飾された異なるタンパク質を包含しうる。本発明によるトランスフェクション試薬は、上述したように、NPF形成能を有する多数のタンパク質またはその誘導体によって、本来の、または機能的に修飾された形で実現する。NPF形成能を有する1つのみまたはいくつかの異なるタンパク質を使用でき、これらはトランスフェクション特異的な要求に応じて、同じ機能または異なる機能をもつ、1つまたは複数の機能的構成成分で修飾することができる。意図している目標に応じて、使用者はこのようにして、さまざまなモジュールを集合させることができる。このことは、トランスフェクション方法をトランスフェクションすべき核酸および目的細胞に最適に適合させるために、同一、または異なった機能を持つ、修飾されていない、または修飾されたNPFタンパク質が選択されうるモジュラーシステムを引き起こす。
【0027】
本発明の特に有利な具体例では、タンパク質は多くの機能的構成成分を結合されていることが意図されている。これによって、全体的なシグナル密度をさらにいっそう上昇させることができ、トランスフェクション効率の改善およびトランスフェクションのよりよい制御が可能となる。
【0028】
NPF形成タンパク質の多くは、補助因子としてATPのようなヌクレオシド三リン酸の存在下にNPF構造を形成する。ヌクレオシド三リン酸の添加は、NPFの安定化をもたらす。したがって、本発明による方法では、NPF構造は、ヌクレオシド三リン酸および/またはその非加水分解性類似体によって、特にATP(アデノシン三リン酸)および/またはGTP(グアノシン三リン酸)および/またはその非加水分解性類似体によって、有利な方法で形成され、または安定化することができる。これは光化学反応後の共有結合によっても起こりうる。非加水分解性ヌクレオシド三リン酸類似体は、例えばATP−γ−S(アデノシン5’−O−3−チオ三リン酸)およびGTPγS(グアノシン5’−O−3−チオ三リン酸)(非特許文献34)である。光化学的反応後のNPF−ATPaseを修飾する可能なATP−類似体は、8N3ATP(8−アジドアデノシン5’−三リン酸)または5’FSBA(5’−p−フルオロスルホニルベンゾイルアデノシン)(非特許文献35)。
【0029】
本発明による方法の有利な具体例では、これを例えばリポソーム介在性導入法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、免疫穿孔法、弾道法、陽イオン脂質、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、ポリエチレンイミン、またはpH−感受性ヒドロゲルを用いた導入法など、生物学的に活性をもつ分子の他の生物学的および/または化学的および/または物理学的なトランスフェクション方法と組み合せて使用することができる。このような導入法、特にエレクトロポレーション法は、例えば細胞の細胞質への侵入などトランスフェクション過程の個々のステップを有利に補助することができる。
【0030】
本発明による好ましいトランスフェクション試薬は、NPF形成タンパク質としてタンパク質RecA、RadA、ScRad51、RAD51、hDmc1、SASP、ICP8、好ましくはUvsX、特に好ましくはhRAD51、または列挙したタンパク質の少なくとも2つからなる混合物、またはこれらのタンパク質の1つまたは複数の誘導体を含む。本発明の具体例のためのNPF形成タンパク質は、例えば大腸菌(Eschericia coli)由来のRecA、および例えばバクテリオファージT4由来のUvsX(非特許文献36)、古細菌由来のRadA(非特許文献37)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のScRad51、哺乳動物由来のRAD51、および特にヒト由来のhRad51など、ウィルス、原核生物、および真核生物由来のその機能的相同体である。RecAに対する相同タンパク質は、少なくとも60種類の細菌種(非特許文献38)、(非特許文献39)、(非特許文献40)、始原菌(非特許文献41)、検査されたすべての真核生物(非特許文献42)のほか、ミトコンドリア(非特許文献43)およびプラスチド(非特許文献44)において検出されている。RecAおよびその相同体は、1本鎖または2本鎖DNAとともに、直径約11nmのらせん状のNPFを形成する。RecAの結合は協同的に行われ、DNA−Helixを部分的にほどく。RecA、UvsX、ScRad51、およびhRad51は、二本鎖DNAの場合は、モノマー当たり3塩基対、一本鎖DNAの場合は、モノマー当たり3〜6個のヌクレオチドの量的関係で結合してNPFを形成する((非特許文献3)および(非特許文献45))。2本鎖DNAと集積タンパク質環の直鎖状配列からなるフィラメントを形成する減数分裂特異的リコンビナーゼhDMC1も好ましい(非特許文献46)。さらに、桿菌種およびクロストリジウム種の胞子由来のSASPタンパク質(小型酸溶解性胞子タンパク質)のグループも好ましい。SASPも2本鎖DNAに結合し、直径が約6.6nmのらせん状のNPFを形成する(非特許文献47)。例えば、単純ヘルペス由来のタンパク質ICP8などの1本鎖および/または2本鎖DNAフィラメントを形成しうるウィルス性タンパク質も、好ましいNPF形成タンパク質である(非特許文献48)。
【0031】
NPF形成タンパク質UvsX、Rad51、およびRecAと二本鎖DNAが完全に結合すると、3塩基対あたりこれらのタンパク質の1つのモノマーが結合するという化学量論が示された(非特許文献3)。例えば、UvsXについては、このような完全な結合は、使用される結合バッファー、使用される核酸の高次構造、および温度に応じて、3〜5倍の過剰量のタンパク質を用いて達成することができ(非特許文献49)、枯草菌由来のα/β型SASPでは、タンパク質:DNA比が約5:1の場合に達成することができる(非特許文献47)。本発明において、核酸とタンパク質の比率は出来る限り完全であることが特に好ましい。これは好ましいNPF形成タンパク質それぞれに対して決まっている。しかし、特定のNPF形成タンパク質に対しては、核酸が結合できる最大量を下回り、不十分であることも本発明において可能である。NPF形成タンパク質に対して核酸の結合量が少ないのが好ましいのは、例えば、トランスフェクションのあるステップに、さらにDNA結合タンパク質が使用される場合、またはNPF形成タンパク質に対する核酸の結合が完全であるのを好まない特殊なときに、バッファーの条件を選択しなければならない場合である。
【0032】
本発明によれば、NPF形成タンパク質は、天然のNPF形成タンパク質およびその誘導体を含むと解釈される。NPF形成タンパク質の誘導体を、当業者は、まず、組換えタンパク質の追加のアミノ酸配列またはタンパク質ドメインの欠失または挿入による修飾、および/または既存の分子群の化学的修飾による機能群の導入、および/またはタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、または他の分子の化学的カップリングと理解する。
【0033】
本発明によるトランスフェクション試薬は、ヒトおよび動物の遺伝子療法による治療のための医薬品の調製にも有利な方法で使用することができる。治療的に有用な核酸は、本発明によるトランスフェクション試薬の形で、一次細胞や複雑なトランスフェクション方法にも使用可能となる。
【0034】
本発明の別の態様は、場合により通常の助剤および賦形剤とともに、本発明によるトランスフェクション試薬を含有する医薬品の調製に関する。
【0035】
本発明の別の態様は、核酸の細胞へのトランスフェクションに適しており、少なくとも1つの本発明によるNPF形成タンパク質を含み、および少なくとも1つの本発明による機能的構成成分に加えて、以下の構成成分、すなわち、
a)ヌクレオシド三リン酸および/またはヌクレオシド三リン酸類似体
b)少なくとも1つのトランスフェクションされる核酸
c)助剤および添加剤
の少なくとも1つを包含するキットに関する。
【0036】
かかるキットは、専門家のさまざまな需要に個別に適応させることができる。例えば、特定のNPF、特定のNPF修飾、または個々の助剤や添加剤を選択することによって、特定の核酸、目的細胞、安定性の要求に対して最適化することができる。タンパク質には機能的構成成分がすでに添加され、またはタンパク質または機能的構成成分がキット内に分離して含まれることも可能である。
【0037】
本発明の別の態様は、細胞スクリーニング、特に、細胞分裂が不活発または活性が弱い細胞、一次細胞、および寿命が限られた他の細胞におけるトランスフェクション試薬の発現物質の活性化剤または阻害剤の同定のための細胞スクリーニングのための本発明によるトランスフェクション試薬の使用に関する。このようなスクリーニングは、製薬業における活性物質の発見において、有効または無効な標的タンパク質の活性化剤および阻害剤を同定するための基本的な方法である。これらのスクリーニング方法は主に、外来核酸がステイブルにトランスフェクションされた細胞が潜在的な阻害剤および/または活性化剤にさらされ、細胞の生理機能に対するその影響を、場合により比較細胞と比較して決定されるように設定される。本発明によるトランスフェクション試薬は、活性化剤/阻害剤の添加直前に、細胞分裂が不活性、またはほんの弱い活性しかない細胞、一次細胞、および寿命が限られた他の細胞に外来核酸を導入し、こうしてこれらの細胞を試験細胞として使用できるようにすることに適している。
【0038】
本発明の別の態様は、生理学的に活性のある核酸の同定のための本発明によるトランスフェクション試薬の使用に関する。これは特に、科学及び薬学の専門団体によって利用可能であるゲノムデータの迅速かつ生理学的に関連のある評価にとって重要である。本発明によるトランスフェクション試薬によるトランスフェクションは細胞分裂および/またはエンドサイトーシスとは無関係であるので、トランスフェクションから分析までの時間が大幅に短縮される。これはかなり高い試験処理量を可能にする。トランスフェクションが困難な細胞や分裂活性のない細胞さえも、本発明によるトランスフェクション試薬によって使用できるようになる。こうして達成されるトランスフェクション、および対照細胞と比較した変化の生理学的評価により、生理学的に活性のある核酸の同定が可能となる。
【0039】
略語:
ドゥーデンにおいて用いられる略語以外に、以下の略語を使用した:
AMP−PCP アデニリル−(β,γ−メチレン)−ジホスホン酸塩
AMP−PNP S’−アデニリルイミド−二リン酸塩
DEAE ジエチルアミノエタン
DNA デオキシリボ核酸
dYT 2×YT培地
FACScan 蛍光活性化セルスキャニング
FCS ウシ胎児血清
FL 蛍光
FSC 前方散乱
GMP−PNP S’−グアニリルイミド−ジホスホン酸塩
GTP グアノシン三リン酸
H6 ヒスチジン−六量体
Ig 免疫グロブリン
kb キロベース
ml ミリリットル
mM ミリモラー
msec ミリ秒
NCBI 国立バイオテクノロジー情報センター
ng ナノグラム
nm ナノモラー
PBS リン酸緩衝食塩水
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
Pi リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム
RNA リボ核酸
RPMI ロスウェルパーク記念研究所
SDS ドデシル硫酸ナトリウム
SV40 シミアンウィルス40
TAE トリス酢酸エチレンジアミン4酢酸
U/mg 単位/ミリグラム
rpm 毎分回転数
ZIバッファー 細胞注入緩衝液
μg マイクログラム
μl マイクロリットル
【実施例】
【0040】
以下の実施例は本発明の詳細な説明であるが、例として表された材料および方法に本発明を限定することはない。
【0041】
(実施例1)
NPF形成タンパク質としての組換えUvsXの調製
NPF形成タンパク質としては、タンパク質UvsXH6、UvsXH6−2、H6UvsX、およびH6UvsX−2を使用した(図1を参照)。
【0042】
タンパク質の構造:
UvsH6(400アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸G392GS394のリンカー、アミノ酸395−400:ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィによる精製のためのH395HHHHH400、アミノ酸置換:L43→P。
【0043】
UvsH6−2(403アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YS394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のC末端。
【0044】
H6UvsX(404アミノ酸):
アミノ酸1−4:アミノ酸M1SYS4のN−末端、アミノ酸5−10:H5HHHHH10、アミノ酸11−13:アミノ酸S11YG13のリンカー、アミノ酸14−404:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)、アミノ酸置換:Q340→L。
【0045】
H6UvsX−2(404アミノ酸):
アミノ酸1−4:アミノ酸M1GYS4のN−末端、アミノ酸5−10:H5HHHHH10、アミノ酸11−13:アミノ酸S11YG13のリンカー、アミノ酸14−404:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)。
【0046】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌(Escherichia coli)細胞における上記タンパク質の発現のために、lacプロモーターの制御下にUvsXH6、UvsXH6−2、H6UvsX、またはH6UvsX−2のコーディング配列を含有するプラスミドを構成した(pExH−UvsXH6、pExH−UvsXH6−2、pExH−H6UvsX、およびpExH−H6UvsX−2、図1を参照)。これらのプラスミドは2つのPCR生成物の連結によって調製した。第1のPCR生成物はpMCS5(MoBiTec(ドイツ、ゲッティンゲン))によって増幅した。pMCS5はpBluescript SK(−)(ストラタジーン(Stratagene)と同様に構成されており、lacZαフラグメントのコーディング配列5’領域のみが異なる。したがって、pMCS5はlacプロモーター、それに続くlacオペレーターを有し、それによって、挿入されたコーディング配列は、活性があるlacリプレッサーがないときに発現する。いつでも恒常的に発現させるために、lacオペレーターがPCR生成物内にもはや存在しないように増幅プライマーを選択した。その結果得られるPCR生成物は、制限サイトのための張り出しと、992〜664位のpMCS5に対応した。992位(lacプロモーターに対する3’側)の前にはヌクレオチドGAATTC(EcoR I制限酵素切断部位)およびTGTGTGを添加し、664位の後ろにはヌクレオチドACTAGT(Spe I制限酵素切断部位)およびCACACAを添加し、EcoR IおよびSpe Iによる制限消化後の連結を可能にした。UvsXH6、UvsXH6−2、H6UvsX、およびH6UvsX−2のコーディング配列を、好ましい制限酵素切断部位、リボソーム結合部位、および追加のコドンを含有するプライマーで、T4−DNAのPCR増幅によって得た。PCR生成物は、開始コドンの前の5’末端において、追加のヌクレオチド5’−CACACAGAATTCATAAAGGAAGATATCAT−3’、および終止コドンの後の3’−末端において追加のヌクレオチド5’−ACTAGTTGTGTG−3’を含有した。
【0047】
精製:
1.5〜3 lのdYT/アンピシリン(200μg/ml)1:1000培地に、pExH−H6UvsXを含むDH5の一夜培養液を接種し、37℃下に一夜、250RPMで増殖させた。7000×gで収集した培養液は約7〜15gの細菌沈降物を生じた。これを−20℃下に1〜3日間凍結した。この沈降物を氷上で解凍し、10〜20mlの冷却した開始バッファーに再懸濁した。リゾチーム(セルヴァ(Serva)、190,000u/mg)10mgおよびグラスビーズ約4gを用いて、4℃下に1時間ゆっくり攪拌しながら溶解を行った。次いで、DNAseI(セルヴァ(Serva)、2mg/ml)50μlを添加し、さらに30分間インキュベートした。ライセートの遠心分離(4℃下、11,000×gで45分)後、無菌フィルタ(孔径0.45μm)を通じて上清をろ過し、Ni++イオンをプレロードして、平衡化した1mlのHiTrapTMキレートカラム(ファルマシア(Pharmacia)上にロードした。その後の精製ステップは、ヒスチジン6量体を備えたタンパク質に対するファルマシア社のプロトコルに従って行った。異なる溶出画分の一定分量をSDS/Coomassie−ゲル上にロードした。最も純粋な画分を統合し、セントリプラス(Centriplus)YM30カラム(ミリポア(Millipore))でそれぞれのプロトコルに従ってさらに濃縮した。その後、少なくとも1000倍量のZIバッファーで2回の透析(透析チューブ:Spectra/Por、MWCO:25,000)を4℃下にそれぞれ少なくとも1時間行い、次いで4℃下に一夜、ZIバッファー/50%グリセリンで透析した。透析液を30〜50μlの画分に分注し、−80℃下に保存した。
【0048】
使用バッファー:
ZIバッファー:76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2。
開始バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、10mMイミダゾール、pH=7.4。
洗浄バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、20〜50mMイミダゾール、pH=7.4。
溶出バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、100〜500mMイミダゾール、pH=7.4。
【0049】
濃度測定:
UvsX−タンパク質の濃度は、Programm Gene InspectorTM(テクストコ社(Texto,Inc.))で計算された吸光係数を用いて、OD280を測定することによって決定した。H6UvsXの濃度は2.5〜3.5μg/μlであった。
【0050】
実験の概要
Ni++セファロースで精製したH6UvsXをそれぞれ200ngの1kbのPCR断片と(1mM ATP−γ−Sの存在下および非存在下)でインキュベートした。
【0051】
タンパク質結合によって生じるアガロースゲル中のDNAのシフトは、H6UvsXが濃度に依存して2本鎖DNAに結合し、この結合がATP−γ−Sによって増強されることを示している。
【0052】
ATP−γ−Sの存在下では、ATP−γ−Sの非存在下よりも臭化エチジウムで強く染色されるタンパク質−DNA複合体が生じ、このことはヌクレオチド類似体による核タンパク質フィラメントの形態的変化を示唆している。
【0053】
(実施例2)
機能的構成成分として核局在化シグナルをもつ、NPF形成タンパク質としてのUvsXを用いた、トランスフェクション試薬の調製
実施例1に記載したタンパク質に由来して、さらに核局在化シグナルを含有する、融合タンパク質UvsXH6N2、UvsXH6N2−2、N2H6UvsX、およびN2H6UvsX−2の発現を可能にするプラスミドを、実施例1のようにして調製した(図1を参照)。
【0054】
タンパク質の構造:
UvsH6N2(426アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸G392GS394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸G401GS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−421:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸388−391)のC末端、アミノ酸422−426:アミノ酸K422LVTG426からなるC末端、アミノ酸置換:Y238→V。
【0055】
UvsH6N2−2(420アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YS394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−420:アミノ酸G418YP420のC末端。
【0056】
N2H6UvsX(420アミノ酸):
アミノ酸1−3:アミノ酸M1SY3のN−末端、アミノ酸4−17:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸18−20:アミノ酸L18YS20のリンカー、アミノ酸21−26:H21HHHHH26、アミノ酸27−29:アミノ酸S27YG29のリンカー、アミノ酸30−420:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)、アミノ酸置換:Q356→L。
【0057】
N2H6UvsX−2(421アミノ酸):
アミノ酸1−4:アミノ酸M1GYP4のN−末端、アミノ酸5−18:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸19−21:アミノ酸S19YS21のリンカー、アミノ酸22−27:H22HHHHH27、アミノ酸28−30:アミノ酸S28YG30のリンカー、アミノ酸31−421:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)。
【0058】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌(Escherichia coli)細胞における発現のために、lacプロモーターの制御下にUvsXH6N2、UvsXH6N2−2、N2H6UvsX、またはN2H6UvsX−2のコーデング配列を含有するプラスミドを構築した(pExH−UvsXH6N2、pExH−UvsXH6N2−2、pExH−N2H6UvsX、またはpExH−N2H6UvsX−2、図1を参照)。これらのプラスミドは、実施例1に記載したように、2つのPCR生成物の連結によって調製した(図1を参照)。
【0059】
精製:
UvsXH6N2の精製は、H6UvsXについて実施例1に記載したように行った。
濃度:10〜20μg/μl。
【0060】
実験の概要:
UvsXH6N2は2本鎖DNAに結合する。その結合はATP−γ−Sによって安定化する:
UvsXH6N2のDNAへの結合挙動に対する、様々なATP−類似体の影響を調べるために、まず、1kbのDNA断片および様々なATP−類似体とタンパク質をインキュベートした。次いで、競合のために1.7kbのDNA断片を添加した。ATP−類似体の添加によってDNAへのタンパク質結合の安定化が行われれば、平衡が生じない限り、競合DNA断片にUvsXH6N2が結合する可能性は低いことが予想される。図3に見られるように、1kbのDNA断片およびUvsXH6N2によって生じるタンパク質−DNA複合体は、ATP−γ−Sおよび1.7kbのDNA断片存在下で、使用した他のすべてのATP−類似体に比べ、安定であった。すなわち1.7kbのDNA断片は、観察時間内において、遊離したUvsXH6N2−分子によって占有されないか、またはわずかにしか占有されないと思われる。
【0061】
(実施例3)
修飾および非修飾NPF形成タンパク質の混合によるトランスフェクション試薬の調製
実験の概要:
異なる割合のH6UvsXおよびUvsXH6N2を1kbのDNA断片とインキュベートした。2つのタンパク質が、それらの異なる分子量に基づき、DNAの移動度を様々な度合いで小さくする。(図4の2および3レーンを参照)。タンパク質をDNAへ添加する前に混合すると、UvsXH6N2に対するH6UvsXの割合に応じて中間複合体が生じ、これらはシャープなバンドを生じるとともに、同等の平均分子量を有する。これはDNAが統計的に均一に両方のタンパク質で被覆されていることを示す。
【0062】
(実施例4)
エレクトロポレーション法と組み合せた、UvsX−NLSによるセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
NIH3T3細胞(接着性、70〜80%の集密まで培養)を、マウスMHCクラスIタンパク質H−2KKの重鎖をコードするベクターをトランスフェクションした。1×106細胞に、予め結合バッファー(76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、5mM MgCl2、pH=7.21)中で、14μgのUvsXまたはUvsX−NLSと、1mM ATP−γ−Sの存在下または非存在下に、室温下に30分間予備インキュベートした25ngのベクターDNAをエレクトロポレーションした。さらに、細胞をエレクトロポレーションバッファー(103mM NaCl、5.36mM KCl、0.41mM MgCl2、23.8mM NaHCO3、5.64mM Na2HPO4、11.2mMグルコース、0.42mM Ca(NO3)2、20mM HEPES、3.25μMグルタチオン)中に総量100μlとして入れ、電極間隔2mmのキュベットでエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションは240Vの電圧および450μFの電気容量での指数関数的な放電によって行った。電圧降下の半減期は通常、12ミリ秒であった。エレクトロポレーション直後、キュベットから培地(10%FCSを含むRPMI)を用いて細胞を回収し、37℃下に10分間インキュベートし、次いで予め保温した培地を含む培養シャーレに移した。6時間のインキュベーション後、細胞を収集し、PBS中での2回の洗浄後、Cy5結合−抗H−2KK抗体でインキュベートし、フローサイトメトリー(FACScan)により分析した。ヨウ化プロピジウム染色によって死細胞の数を測定した。エレクトロポレーションの6時間後、ベクターDNAのみをトランスフェクションされた細胞の(平均0.25%のバックグラウンドを除き)7.4%ないし8.7%がH−2KKタンパク質を発現する。これに比べて、ベクターUvsXをトランスフェクションされた細胞の発現率は2.9%ないし3.8%であった。ベクターUvsX−NLSのトランスフェクションにおける発現率は19.2%ないし18.9%である(図5a〜5dを参照)
【0063】
核移行を調べるために、UvsX以外に別の生化学的成分がトランスフェクションに対する影響を示さないように、エレクトロポレーションの物理的方法を選択した。しかし、ATP−γ−Sを含むUvsXのDNAへの強固な結合は、電場における複合体の運動性を抑制するために、エレクトロポレーションの効率を約60%低下させる。核移行シグナルを付加するだけで、この系におけるトランスフェクション直後の発現は平均5.7倍上昇する。UvsXに比べてUvsX−NLSによる発現の上昇は、機能的構成成分として核移行シグナルを使用する場合、核内へUvsXによってDNAが輸送されることを示す。トランスフェクション直後の分析は、トランスフェクションと分析との間で分裂していない細胞も使用できることによって、大幅に改善される。
【0064】
(実施例5)
エレクトロポレーション法と組み合せた、UvsXスクランブル化NLSまたはUvsX−NLSのセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
UvsXスクランブル化NLSの作製
トランスフェクションに対する核内移行シグナルの影響を調べるため、その正味電荷においてNLSを含むUvsXタンパク質に対応するが、それ自体は機能的NLSを含有しないUvsX誘導体を比較用に作製した。
【0065】
部分的に相同のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、UvsX−遺伝子をプラスミドpExH−UvsXH6N2−2(図1を参照)から増幅し、生じるタンパク質UvsXH6N2scのC末端において、アミノ酸配列EEDTPPKKKRKVED(「nls−2」、(WO 00/40742)のSEQ ID NO:9のアミノ酸2−15に対応)の代わりに、アミノ酸配列SEQ ID NO:1(「スクランブル化」、すなわち混合NLS配列)が発現させる。スクランブル化アミノ酸は、その構成において記載されたnls−2に対応するが、その配列においては対応しない。したがって、UvsXH6N2−2およびUvsXH6N2scの正味電荷は同じであるが、UvsXH6N2−2のみが完全な核内移行シグナルを含有する。
【0066】
タンパク質UvsXH6N2scを実施例1のタンパク質について記載したように精製した。
【0067】
NIH3T3細胞(接着性、70〜80%の集密まで培養)に、蛍光マーカータンパク質をコードするベクターをトランスフェクションした。このために、最初に結合バッファー(実施例1を参照)中の25ngのベクターDNAを、1.5mM ATP−γ−Sおよび示したタンパク質16〜18μgで室温下に30分間インキュベートした。タンパク質−DNA複合体を、80μlのエレクトロポレーションバッファー(140mM Na2HP4/NaH2PO4、10mM MgCl2、5mM KCl、pH7.2)中に再懸濁した、それぞれ3×105のNIH3T3細胞に添加した。エレクトロポレーションは、電極間隔2mmのキュベットで240Vの電圧および450μFの電気容量での指数関数的な放電によって行った。電圧降下の半減期は通常、12ミリ秒であった。RPMI1640(ギブコ(Gibco)社)、5%FCS、2mMグルタマックス(L−アラニル−L−グルタミン、インビトロゲン(Invitrogen)社)、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.5mM β−メルカプトエタノールを含む培地400μlの添加後、培養シャーレ(6穴プレート)中に細胞を1mlの予め保温した培地とともに添加し、37℃および5%CO2下にインキュベートした。6時間後、フローサイトメトリー分析(FACScan)を行った。
【0068】
結果は図6のグラフに示されており、ベクターDNAのみによりトランスフェクションされた細胞の9%がマーカータンパク質を発現する。それに対して、ベクター‐UvsX−NLS(DNA+UvsXH6N2−2)によりトランスフェクションされた細胞の発現率は、21%である。これと比べ、ベクター‐UvsXスクランブル化NLS(DNA+UvsXH6N2sc)によるトランスフェクションの場合、細胞の発現率は4%でしかない。したがって、核内移行シグナルで修飾されたUvsXは、DNAのみとの比較、および非機能的核内移行シグナルによる修飾との比較において、効率を明らかに上昇させる。非機能的核内移行シグナルによる修飾のトランスフェクションは対照実験を示しているので、UvsXの修飾によってトランスフェクション効率が5倍に上昇したことを意味している。本発明による方法またはトランスフェクション試薬によって、トランスフェクション効率が明らかに上昇する。さらに、NPF形成タンパク質の修飾によって、トランスフェクション過程のねらった制御、ここでは例えば細胞核への入ることも、有利な方法で可能となる(実施例6も参照)。
【0069】
(実施例6)
マイクロインジェクションと組み合せたセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
1.7kbの発現ベクターDNA断片140ngを、上記のように最終量20μlで結合バッファーおよび1mM ATP−γ−S中で修飾UvsXタンパク質9μgと室温下に30分間インキュベートした。注入マーカーとしては、注入直前に約1μg/μlの濃度でBSA−Cy5を使用した。
【0070】
前日にCELLocateカバーガラス(エッペンドルフ(Eppendorf)上に半集密(subconfluent)に播種されたNIH3T3細胞を、マイクロマニピュレーターおよびトランスジェクター(エッペンドルフ)を用いて、インバース蛍光顕微鏡(ライカ(Leica)DMIL)下にフェムトチップ(エッペンドルフ)に入れたサンプルによってマイクロインジェクションした。
【0071】
評価は蛍光顕微鏡(オリンパスBX60−蛍光顕微鏡、デジタルS/WカメラSPOT−RT(ディアグノスティック インスツルメンツ社(Diagnostic Instruments INc.)、評価ソフトウェア:Metaview画像システム(ユニバーサル イメージング コーポレーション(Universal Imaging Corporation))で、37℃および5%CO2下、さらに5時間のインキュベーション後に行った。
【0072】
図7は、マイクロインジェクションされたNIH3T3細胞を示す。写真1および2は、DNAおよびUvsXH6N2scを細胞質に注入された細胞を示し、写真3および4は、DNAおよびUvsXH6N2−2が注入された細胞を示し、写真5および6は、DNAのみが注入された細胞を示す。発現は、タンパク質−DNA複合体UvsXH6N2−2が、核内移行シグナルで修飾されたUvsXタンパク質を含有した場合のみ観察された(図7、写真3)。マイクロインジェクションで、明らかに細胞質のみに注入され、核には注入されていない対照細胞(図7、写真5:DNAのみ、または図7、写真1:UvsXスクランブル化NLSとDNA)では、きわめて長く露光しても、発現は確認されなかった。
【0073】
(実施例7)
NPF形成タンパク質としての組換えSASPの作製
枯草菌(B.subtilis)由来のSASPタンパク質のクローニング、発現、および精製
SASP(small acid−souluble spore protein*)をコードする、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のSspC遺伝子を、8個のオリゴヌクレオチドからコラナ(Kohorana)法(非特許文献50)に従って合成し、プラスミドpARA13のNcol切断部位とBglll切断部位(非特許文献51)との間に連結した。これは、NCBIタンパク質目録番号:NP_389876のタンパク質配列をもとにした。DNAへの逆転写は、大腸菌において強く発現しており非特許文献52に記載されている、遺伝子の使用頻度の高いコドン(codon preferences)を用いて行った。作製したプラスミドpARA13−SASPを、N末端(H6−SASP)またはC末端(SASP−H6)のいずれかが6個のヒスチジンからなるポリヒスチジン配列を有するSASPタンパク質をコードする、2つの別のプラスミドのクローニング用のテンプレートとして使用した(図8)。これらのプラスミドによって大腸菌株BL21(DE3)pLysS(マジソン(Madison)、ノバーゲン社(Novagen)を形質転換し、LB/アンピシリン/グルコース(0.2%)上にプレーティングした。
【0074】
M9最小培地(0.2%グルコース)20mlにそれぞれ個別のコロニーを接種し、37℃および220rpmで一夜、増殖させた。翌日、OD600約1.0で0.2%アラビノースで誘導をかけた後、さらに6時間増殖させた。未精製抽出物(PBS/泳動バッファーに懸濁した0.5mlペレット化培養液)を高分解能のSDSゲル((非特許文献53)に従って)に泳動し、クーマシーブルーで染色した(図9A)。
【0075】
予備精製のために、2lのM9/グルコース1:200に一夜培養液を接種した。再び、OD600約1.0で0.2%アラビノースで誘導し、6時間増殖させた。次いで、細菌をペレット化し、−20℃で凍結した。以下、SASP−H6の精製を例示的に記載する。ペレット(約7g)の解凍後、これらを完全EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル(マンハイム、ロシュ(Roche)社)を添加した開始バッファー(実施例1を参照)14ml中に再懸濁し、3分間、氷上で280ワット(Labsonic U(ブラウンバイオテック、Melsungen repeating duty puls:0.5秒)で超音波処理した。抽出物を4℃下に遠心分離した。さらに、精製はUvsXタンパク質について記載したように、HiTrapキレーティングカラム(ウプサラ、アマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia))によって行った。タンパク質が高濃度で含まれているイミダゾール200mMと500mMとの間の画分を統合し、セントリプラス(Centriplus)カラム(YM−3、エシュボーム、ミリポア(Millipore)社)を用いて約3mlに濃縮した。次いで、SASPタンパク質を1×ZIバッファー(実施例1を参照)に対して3回透析し、約5μg/μlの濃度の分注物を−80℃下に凍結した。
【0076】
SASPタンパク質のDNA結合能の試験
1.7kbのDNA断片それぞれ125ngを、1×ZIバッファーまたは1/10×ZIバッファー中で、異なる量のSASP−H6タンパク質と室温下に30分間、予備インキュベートし、次いで0.8%TAEアガロースゲルで泳動した。
【0077】
図9Bは、DNAが完全にタンパク質によって結合されていることを示す。DNA−タンパク質バンドが拡散して見えるのは、おそらく泳動中にタンパク質がDNAから分離することが原因であると思われる。
【0078】
(実施例8)
修飾として核局在化シグナルをもつ、NPF形成タンパク質としてのSASPをもつトランスフェクション試薬の調製
機能的構成成分として核局在化シグナル(NLS)をもつSASPの調製のために、既存のクローンpARA13−SASP−H6(図8を参照)C末端に、核局在化シグナル((WO 00/40742)による「nls−2」、アミノ酸2−15、SEQ IQ NO:9)をコードするDNA配列をPCR増幅によって添加した。その際に、上記のプラスミドをPCRテンプレートとして使用した。作製したプラスミドpARA13−SASP−H6N2(図8を参照)を実施例7において記載されているように形質転換し、タンパク質SASP−H6N2を適切に精製した。
【0079】
SASP−NLSタンパク質のDNA結合能の試験
1.7kbのDNA断片それぞれ125ngを、1×ZIバッファー中で異なる量のSASP−H6N2タンパク質と室温下に30分間、予備インキュベートし、次いで0.8%TAEアガロースゲルで泳動した。
【0080】
図10Bは、NLS修飾SASPもDNAの移動度を小さくすることを示す。DNA−タンパク質バンドは拡散性に見える。
【0081】
(実施例9)
機能的構成成分として、細胞表面へ複合体が結合するインテグリン結合モチーフをもつトランスフェクション試薬の調製
インテグリンは細胞表面上の膜固着性の接着タンパク質であり、そのうちの一部は結合相手として3つのアミノ酸(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸、つまり「RGD」モチーフ)からなるペプチドモチーフを認識する。その結合により細胞表面上でいくつかのインテグリン分子がクラスターを形成し、エンドサイトーシスが生じる(非特許文献54)。RGDモチーフを用いて、NPF形成タンパク質としてUvsXを修飾することによって、トランスフェクション試薬がインテグリンを介して特異的に細胞のエンドソーム区画に取り込まれることを達成することができる。
【0082】
タンパク質の構造
使用したタンパク質H6UvsXおよびUvsXH6N2−2は、図1に示されており、実施例1および2に記載されているものと同一である。
【0083】
タンパク質H6UvsX*(RGD2)は、化学的なカップリングによって調製した。RGD2と呼ばれるペプチドは、アデノウィルスタイプ7のペントンベースタンパク質由来のノナペプチド(NITRGDTYI)であり(非特許文献55)、N末端アミノ基にUvsXタンパク質における遊離システイン−SH基へのカップリングを可能にする化学的に活性な基(SMCC、スクシニミジル4[N−マレイミドメチル]−シクロへキサン−1−カルボキシレート)があるように合成した。
【0084】
カップリングのために、H6UvsX 6nmolを76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2中でペプチド60nmolと37℃下に1時間にわたりインキュベートし、次いで過剰なペプチドを取り除くために、MicroConフィルタ(10kDaカットオフ)を用いて、インキュベーションバッファーでの複数回洗浄することによって精製した。カップリングの成功は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動における泳動度の変化によって検出された。図11は、SDS−ポリアクリルアミドゲル上で互いに独立して調製された2つのH6UvsX*(RGD2)を示す。カップリングされたペプチドは、分子量が上昇し、SDSゲルにおける泳動度の変化をもたらす。
【0085】
実験の概要:
UvsX−NLSおよびUvsX−RGDの2本鎖DNAへの結合および混合NPFの形成:
精製された1.6kbのPCR DNA断片それぞれ140ngの沈殿物を、76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S中で、H6UvsX*(RGD2)15μgとUvsXH6N2−2 4μgとの混合物、UvsXH6N2−2 4μgのみ、およびH6UvsX*(RGD2)15μgのみと、最終量20μl、室温下に30分間インキュベートし、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。電気泳動は、1時間、100Vで行った。
【0086】
図12は、2つの異なって修飾されたタンパク質がDNAとNPFを形成し、その泳動度が明らかに異なることを示す。2本鎖DNA断片と、H6UvsX*(RGD2)およびUvsXH6N2−2との混合物(レーン1)、またはUvsXH6N2−2のみ(レーン2)、またはH6UvsX*(RGD2)のみ(レーン3)からなるNPFをアガロースゲル中に電気泳動で分離した。存在するタンパク質の量が不足しているため、遊離DNA断片も存在する。反応液中の両方のタンパク質は共にDNA断片に結合し、それぞれのタンパク質のみでNPFを形成するときの間の分子量を有する混合NPFを生じる(レーン1)。このことから、UvsX−NLSおよびUvsX−RGDは2本鎖DNAに結合し、混合NPFを形成しうると結論付けることができる。
【0087】
(実施例10)
インテグリン介在性エンドサイトーシスによる細胞内へのNPFの特異的取り込み
タンパク質の構造
UvsXおよびインテグリン結合RGDモチーフ由来の融合タンパク質の発現を可能にするプラスミドUvsXH6N2NIT−2(図1)を実施例1に示すように組換えて作製した。
【0088】
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YG394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−420:アミノ酸G418YP420由来のC末端、およびアミノ酸421−432:RGD−モチーフ「NIT」:N421ITRGDTYIPYP432。
【0089】
実験の概要:
蛍光標識DNAおよびUvsX誘導体由来のNPFの結合:
AlexaFluor488標識dUTP(モレキュラー プローブス(Molecular Probes)社(米国、オレゴン州、ユージーン))をdTTPの代わりに含有する、精製された1.6kbのPCR DNA断片それぞれ1μgを、76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S中で、精製されたUvsXH6N2またはUvsXH6N2NIT−2 100μgと、最終量200μlで室温下に30分間インキュベートした。次いで、NPF反応物のそれぞれ10μlを、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。電気泳動を1時間、100Vで行った。図13は、DNAの移動度が完全に遅れていることを示す。したがって、タンパク質のDNA結合は、DNAの蛍光標識によっても妨げられない。
【0090】
エンドサイトーシスによるNIH3T3細胞におけるNPFの取り込み:
NIH3T3細胞を6穴プレート(穴当たり3×105)に播種し、37℃および5%CO2下に一夜インキュベートし、翌朝に予め保温したFCSが入っていない培地で洗い、次いで2mlのFCSが入っていない培地を加えた。これにNPF反応物(上記参照)190μlを添加し、室温下に30分インキュベートし、上清を除去し、細胞を洗浄し、3mlの培地(10%FCS含有)を添加した。さらに、インキュベーター内で37℃、1時間のインキュベーション後、蛍光顕微鏡下に評価を行った。図14aおよび14bには、それぞれ明視野(下)および明蛍光(上)における写真が示されている。
【0091】
明視野には、エンドサイトーシスによって取り込まれたDNAのために蛍光で光る小胞性の細胞内区画が見られる(図14a、b上)。
【0092】
各穴から、何枚かずつの写真をとった。細胞数を計算し、少なくとも一つの蛍光性の小胞性区画を含有する細胞の割合(%)を測定した(図15に示した)。それぞれの写真は平均35の細胞を含んでいた。UvsXH6N2IT−2の作用については、9枚の写真によって分析され、UvsXH6N2−2の作用については、5枚の写真によって分析された。
【0093】
結果は、機能的構成成分としてのインテグリン結合モチーフによるUvsXの修飾(UvsxH6N2−NIT−2)が、対照(UvsXH6N2−2)に比べ細胞へのトランスフェクション試薬の明らかに高いエンドサイトーシスによる取り込みをもたらすことを示している。
【0094】
(実施例11)
NPF形成タンパク質としてhRad51を用いたトランスフェクション試薬の調製
NPF形成タンパク質として、タンパク質hRad51H6、およびhRad51H6N2を使用した(図16を参照)。
【0095】
タンパク質の構造:
hRad51H6(352アミノ酸):
アミノ酸1−339:ヒトRad51(NCBIタンパク質目録番号:Q06609、アミノ酸1−339)、アミノ酸340−343:アミノ酸Y340SYG343のリンカー、アミノ酸344−349:ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィによる精製のためのH344HHHHH349、アミノ酸350−352:アミノ酸M350YS352のC末端。
【0096】
hRad51H6N2(369アミノ酸):
アミノ酸1−339:ヒトRad51(NCBIタンパク質目録番号:Q06609、アミノ酸1−339)、アミノ酸340−343:アミノ酸Y340SYG343のリンカー、アミノ酸344−349:ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィによる精製のためのH344HHHHH349、アミノ酸350−352:アミノ酸M350YS352のリンカー、アミノ酸353−366:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸367−369:アミノ酸G367YP369のC末端。
【0097】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌の細胞における上記のタンパク質の発現のために、lacプロモーターの制御下にhRad51H6、またはhRad51H6N2のコーディング配列を含有するプラスミドを構成した(pExH−hRad51H6、またはpExH−hRad51H6N2、図16を参照)。出発プラスミドとして、pExH−UvsXH6−2、およびpExH−UvsXH6N2−2を使用した(図16を参照)。
UvsXのコーディング領域をそれぞれEcoR VおよびBsiW Iで切断し、同様にして切断したhRad51のコーデング領域のPCR断片によって置き換えた。これは、好ましい制限酵素切断部位を含有するhRad51特異的プライマーを用いて、ヒトcDNAライブラリーから増幅させた。PCR生成物は、開始コドンの前の5’末端において追加のヌクレオチド5’−CACACATCTAGACGTACGGATATCAT−3’、および3’−末端においては、終止コドンの代わりに追加のヌクレオチド5’−TACTCGTACGGAGGTGGCGGCCGCTGTGTG−3’を含有した。
【0098】
精製:
dYT/アンピシリン(100μg/ml)5mlの予備培養液に、pExH−Rad51H6またはpExH−Rad51H6N2をもつDH5を接種し、37℃下に5時間、250rpmで増殖させた。dYT/アンピシリン(100μg/ml)10lにこの予備培養液を接種し、さらに37℃下に24時間、210rPMで増殖させた。7000×gで収集された培養株は約30〜50gの細菌沈降物を生じた。この沈降物を−20℃下に1〜3日間、凍結させた。この沈降物を氷上で解凍し、100mlの冷却した開始バッファーに再懸濁した。その後、B.Braun Labsonic Uを使用して超音波で細胞を可溶化した(大プローブ、パラメータ:300W、毎秒0.5秒のパルス時間、超音波処理8分)。次いで、リゾチーム(セルヴァ(Serva)、190,000u/mg)10mgを加えて4℃下に1時間インキュベートし、さらにDNAseI(セルヴァ(Serva)、2mg/ml)50μlを添加し、30分間、ゆっくり攪拌しながらインキュベートした。遠心分離(4℃下、18000xgで45分)で溶解物を除いた後、無菌フィルタ(孔径0.45μmおよび0.2μm)を通じて上清をろ過し、Ni++イオンをプレロードして、平衡した1mlのHiTrapTMキレートカラム(ファルマシア(Pharmacia)上にロードした。その後の精製ステップは、ヒスチジン6量体を備えたタンパク質に対する対応するそれぞれのファルマシア社のプロトコルに従って行った。異なる溶出画分の一定分量をSDS/Coomassie−ゲル上にロードした。それぞれ最も純粋な画分を統合し、さらに、セントリプラス(Centriplus)YM30カラム(ミリポア(Millipore))でそれぞれのプロトコルに従って濃縮した。その後、少なくとも1000倍量のZIバッファーで2回の透析(透析チューブ:Spectra/Por、MWCO:25,000)を4℃下にそれぞれ1時間行い、次いで4℃下に一夜、ZIバッファー/50%グリセリンで透析した。透析液を30〜50μlの画分に分注し、−80℃下に保存した。図17は精製されたhRad51−H6およびhRad51−H6N2タンパク質を示す。
【0099】
使用バッファー:
実施例1に示す。しかし、異なる溶出バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、100〜1000mMイミダゾール、pH=7.4を用いた。
【0100】
濃度測定:
hRad51−タンパク質の濃度は、Programm Gene InspectorTM(テクストコ社(Texto,Inc.))で計算された吸光係数を用いて、OD280を測定することによって決定した。
【0101】
hRad51H6およびhRad51H6N2の濃度は11〜13μg/μlであった。
【0102】
実験の概要
NLS修飾hRad51の2本鎖DNAへの結合:
Ni++セファロースで精製したhRad51H6N2をそれぞれ100ngの0.9kbのPCR断片とインキュベートした。
【0103】
タンパク質結合によってひき起こされるアガロースゲル中のDNAのシフトは、hRad51H6N2が濃度に依存して2本鎖DNAを協同的に結合することを示している(図17B)。hRad51H6N2の量が少ない場合でも、個々のDNA分子はhRad51H6N2によって完全に結合され、したがって最大限に移動度が小さくなるため、タンパク質の量が上昇しても、DNAの移動度の抑制はそれ以上に増大しない。hRad51H6N2はdsDNAに結合すると結論付けることができる。
【0104】
(実施例12)
機能的構成成分として非エンドソーム膜通過シグナルおよび核局在化シグナルをもつUvsXを用いたトランスフェクション試薬の調製
実施例2に記載したタンパク質UvsXH6N2−2に由来し、ヒトヘルペスウィルス1由来の外被タンパク質VP22(遺伝子UL49)の一部分を有する融合タンパク質UvsXH6N2VP22c50(図1を参照)の発現を可能にするプラスミドを、実施例1のように調製した。ここで使用したVP22ペプチドは、細胞膜を通る非エンドソーム通過のシグナルとして作用する。したがって、融合タンパク質UvsXH6N2VP22c50は、核内局在化シグナル(NLS)に加えてさらに膜導入シグナルを含有する。
【0105】
タンパク質の構造:
UvsH6N2VP22c50(474アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YG394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−422:アミノ酸G418YPGS422、アミノ酸423−472:ヒトヘルペスウィルス1(NCBIタンパク質目録番号:NP_044651、アミノ酸252−301)の外被タンパク質VP22(遺伝子UL49)の一部、アミノ酸473−474:アミノ酸P473R474のC末端。
【0106】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌の細胞における発現のために、pExHUvsXH6N2−2(実施例1および図1を参照)をAcc65 IおよびSpe Iによる制限消化によって切り開き、Acc65 IおよびNhe Iで切断されたPCR生成物と結合した。このPCR生成物は、ヒトヘルペスウィルス1(NCBIタンパク質目録番号:NC_001806、ヌクレオチド105486−106391の相補配列)の外被タンパク質VP22(遺伝子UL49)由来の最後の50個のアミノ酸をコードする配列に加えて、5’末端において追加のヌクレオチド5’CACACAGGTACCCGGGATCC−3’、および3’−末端において追加のヌクレオチド5’−CCTAGGTAATAATAAGCGGCCGCGCTAGCTGTGTG−3’を含有した(図1を参照)。
【0107】
精製:
UvsXH6N2VP22c50の精製を、H6UvsXについて実施例1に記載したように行った(図18Aを参照)。
濃度:1.8μg/μl。
【0108】
実験の概要:
さまざまな修飾UvsX(UvsX−NLS−VP22およびUvsX−NLS)の混合物の、2本鎖DNAへの結合:
精製された1.7kbのPCR断片それぞれ140ngを、精製されたUvsXH6N2VP22c50またはUvsXH6N2−2の図18Bに示された量と、96mM K2HPO4、21.5mM KH2PO4、18mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1.3mM ATP−γ−S中で、室温下に30分間インキュベートし、次いですべての反応物を0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。2つのタンパク質はその分子量およびその正味電荷において異なり、したがって電気泳動の間にDNAの移動度の抑制が異なり、その際にUvsXH6N2VP22c50を含む複合体は、ゲル孔に残ったままであり、まったく移動することはない(図18Bの1および7レーンを参照)。タンパク質をDNAへの添加前に混合すると、UvsXH6N2VP22c50に対するUvsXH6N2−2の割合に応じて中間複合体が生じ、その移動度は、混合されていない複合体を用いた場合の移動度の間にある(図18B)。これは、DNAが両方のタンパク質で覆われていることを示す。さまざまに修飾された、または、1つまたは2回修飾されたNPF形成タンパク質の混合も可能である。
【0109】
(実施例13)
DNAおよびUvsX−NLS−VP22とUvsX−NLSの混合物の複合体によるセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
実験の概要:
2.5×105細胞(NIH3T3)を6穴プレートの各穴に播種し、翌日、蛍光レポータータンパク質を発現する遺伝子を含有するベクターをトランスフェクションした。これは、さらに、0μg〜1μgの直鎖状または1μgの環状DNAを、36μgのUvsXH6N2VP22c50と、または19μgのUvsXH6N2VP22c50と39μgのUvsXH6N2−2の混合物と、結合バッファー(76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S、pH7.21)中、室温下に30分間、予備インキュベートし、1mlのRPMIと共に、予めPBS/BSAで一度洗浄した細胞に添加した。インキュベーターで37℃、5%CO2下、1時間のインキュベーションした後、それぞれ1mlのRPMI/20%FCSを添加し、さらにインキュベーターでインキュベートした。その後、4時間後または24時間後に蛍光顕微鏡で細胞を分析した。
【0110】
直鎖状または環状のDNAおよびUvsXH6N2VP22c50とUvsXH6N2−2の混合物との複合体による処理後に、レポーター遺伝子を発現する細胞を観察した(図19を参照)。その際に、トランスフェクションされた細胞の数は、用いたDNAまたはDNA−タンパク質複合体の量とともに上昇した。
【0111】
それに対して、UvsXH6N2VP22c50のみを含有するDNA複合体によって、すなわちDNAの非存在下では、レポーター遺伝子の発現は得られなかった。
【0112】
したがって、膜活性ペプチド、ここではVP22によって、NPF形成タンパク質、ここではUvsXを修飾することによって、細胞のトランスフェクションおよびここでは特に膜通過が促進されることがわかる。本発明による方法またはトランスフェクション試薬のモジュラーの特徴は、さまざまに修飾されたタンパク質の組み合せ、ここではVP22およびNLSによる修飾によって強調される(図20も参照)。VP22で修飾されたUvsXは、非エンドソーム膜通過を可能にする一方で、NLSで修飾されたUvsXは、トランスフェクションされたDNAを細胞質から細胞核へ誘導し、その後にそこで発現することができる。
【0113】
したがって、複雑なトランスフェクション過程の個々のステップは、特に有利な方法で、特異的に、柔軟に、高い効率をもって制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】発現プラスミドの概略図。 実施例に記載されたNPF形成タンパク質の構造および作製を示す概略図である。
【図2】UvsXの2本鎖DNAへの結合。 76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および0または1mM ATP−γ−S中で、H6UvsXの示された量と精製された1kbのPCR断片それぞれ200ngの反応混合物を示す図であり、それらは、最終量15μlで室温下に30分間インキュベートされ、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色されたものである。
【図3】異なるATP−類似体の存在下におけるNLS−修飾されたUvsXの2本鎖DNAへの結合。 精製された1kbのPCR断片の250ngを、最終量20μlで76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および0.5または2mMの示されたヌクレオチド類似体中で15μgのUvsXH6N2と室温下に30分間インキュベートした。次いで、反応混合物を分け、半分(B)に1.7kbのPCR断片220ngを添加し、さらに室温下に30分間インキュベートし、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。
【図4】UvsXと修飾UvsXの混合物の2本鎖DNAへの結合。 精製された1kbのPCR断片それぞれ200ngを、精製されたH6UvsXまたはUvsXH6N2の示された量とともに、76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S中で室温下に30分間インキュベートし、次いですべての反応混合物を0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。塩、微量のイミダゾール、グリセリンによってDNAの電気泳動度がアーティファクトである可能性を排除するために、溶出バッファーまたは透析バッファーのサンプルが8および9レーンには含まれている。(最終濃度:500mMイミダゾールを含む1/10vol溶出バッファー、50%グリセリンを含む3/20vol透析バッファー)。
【図5a】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析。図5(a)は、DNAなしのエレクトロポレーションのFACScan分析を示す図である。
【図5b】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析図5(b)は、UvsXなしのベクターDNAのエレクトロポレーションのFACScan分析を示す図である。
【図5c】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析。図5(c)は、UvsXにパッケイジングされたベクターDNAを入れたときのFACScan分析を示す図である。
【図5d】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析。図5(d)は、UvsX−NLSにパッケイジングされたベクターDNAを入れたときのFACScan分析を示す図である。
【図6】エレクトロポレーション法と組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションの別のFACScan−分析。UvsX−NLS(UvsXH6N2−2)にパッケイジングされたベクターDNAおよびUvsX−「スクランブル化」−NLS(UvsXH6N2sc)にパッケイジングされたベクターDNAを入れたトランスフェクションのFACScan−分析の結果を示す棒グラフである。
【図7】マイクロインジェクションと組み合せたNIH3T3細胞のトランスフェクションの蛍光顕微鏡分析。マイクロインジェクションされたNIH3T3細胞における蛍光マーカータンパク質(左側)の発現が示されている。インジェクションマーカーとしては、適切な蛍光フィルタで可視化したBSA−Cy5を使用した(右側)。写真1および2は、DNAおよびUvsXH6N2scが細胞質に注入された細胞を示し、写真3および4は、DNAおよびUvsXH6N2−2が、写真5および6は、DNAのみが注入された細胞を示す。
【図8】SASP−タンパク質発現プラスミドの概略図。実施例7および8に記載されたSASP−タンパク質の構造および作製を示す概略図である。
【図9】(A)SASP−タンパク質の精製。(B)SASP−タンパク質のDNA結合能。図9(A)は、精製されたSASP−タンパク質を泳動したSDS−ゲルを示す図である。図9(B)は、DNA−シフト−分析におけるSASP−タンパク質のDNAへの結合を示す図である。
【図10】(A)SASP−NLS−タンパク質の精製。(B)SASP−NLS−タンパク質のDNA結合能。図10(A)は、精製されたSASP−NLS−タンパク質(SASP−H6N2)を泳動したSDS−ゲルを示す図である。図10(B)は、DNAシフト分析におけるSASP−NLS−タンパク質のDNAへの結合を示す図である。
【図11】RGD−モチーフをもつペプチドとH6UvsXのカップリング。ペプチドRGD2が化学的にカップリングされたまたはされていないH6UvsX−タンパク質の電気泳動分離を示す図である。2つの互いに独立して調整されたH6UvsX*(RGD2)のサンプルが示されている。各レーンには約1μgのタンパク質を泳動した。
【図12】さまざまに修飾されたUvsX−タンパク質の2本鎖DNAへの結合。2本鎖DNAフラグメントと、H6UvsX*(RGD2)とUvsXH6N2−2(レーン1)の混合物、またはUvsXH6N2−2のみ(レーン2)、またはH6UvsX*(RGD2)のみ(レーン3)からなるNPFをアガロース−ゲル中で分離した図である。
【図13】UvsXH6N2およびUvsXH6N2NIT−2の蛍光標識DNAへの結合のDNA−シフト−分析。DNA−UvsXH6N2およびDNA−UvsXH6N2NIT−2のDNA−シフトを示す図である。タンパク質は、実施例10に記載したように、AlexaFluor488−標識したDNAフラグメントとインキュベートした。
【図14a】エンドサイトーシスによるNIH3T3細胞におけるNPFの取り込みの蛍光顕微鏡分析。図14aは、NIH3T3細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。明視野(下)および明蛍光(上)が示されている。明視野には、エンドサイトーシスによって取り込まれた蛍光標識DNAのために蛍光を発する小胞性の細胞内区画が見られる。
【図14b】エンドサイトーシスによるNIH3T3細胞におけるNPFの取り込みの蛍光顕微鏡分析。図14bは、NIH3T3細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。明視野(下)および明蛍光(上)が示されている。明視野には、エンドサイトーシスによって取り込まれた蛍光標識DNAのために蛍光を発する小胞性の細胞内区画が見られる。
【図15】エンドサイトーシスによって取り込まれたNPFを有する細胞の割合(%)。少なくとも1つの、蛍光を発する小胞性区画を有する細胞の割合(%)を示す棒グラフである。
【図16】発現プラスミドの概略図。hRab51−融合タンパク質を製造するための発現プラスミドの構造を示す概略図である。
【図17】NLS修飾hRad51(hRad51H6N2)の2本鎖DNAへの結合。図17(A)は、ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィにより精製後のRad51H6N2(12.7μg)およびhRad51H6(11μg)を泳動したSDS/Coomassie−ゲルを示す図である。図17(B)は、38mM K2HPO4、8.5mM KH2PO4、7mM NaH2PO4、pH=7.2、15mM MgCl2、2.5mM ATP、および25%グリセリン中で、hRad51H6N2の示された量と、精製された0.9kbのPCR断片それぞれ100ngの反応混合物を、最終量30μlで37℃下に10分間インキュベートし、1%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した図である。
【図18】様々な修飾UvsX(UvsX−NLS−VP22およびUvsX−NLS)の混合物の2本鎖DNAへの結合。図18(A)は、UvsXH6N2VP22c50を泳動したSDS/Coomassie−ゲルを示す図である。図18(B)は、精製された1.7kbのPCR断面のそれぞれ140ngを、精製されたUvsXH6N2VP22c50またはUvsXH6N2−2の示された量とともに96mM K2HPO4、21.5mM KH2PO4、18mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1.3mM ATP−γ−S中で室温下に30分間インキュベートし、次いですべての反応混合物を0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。
【図19】DNAおよびUvsX−NLS−VP22とUvsX−NLSの混合物の複合体で処理してトランスフェクションされたNIH3T3細胞。1μgの発現ベクターDNAおよび19μgのUvsXH6N2VP22c50と39μgのUvsXH6N2−2の混合物からなる複合体による処理後24時間のNIH3T3細胞の蛍光顕微鏡写真。
【図20】本発明による核タンパク質フィラメントに基づく方法及びトランスフェクション試薬の基本的構造を示す概略図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の非ウィルス性トランスフェクションの分野に関する。トランスフェクションなる用語は、一般に外来物質を細胞に導入することと解釈される。本発明は、核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質を用いた細胞のトランスフェクションの方法にも関する。本発明はさらに、トランスフェクションされる少なくとも1つの核酸と、核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質とで形成される核タンパク質フィラメント(NPF)を含有する、トランスフェクション試薬に関する。さらに、本発明は、本発明にかかるトランスフェクション試薬の使用、特に遺伝子治療において使用するための本試薬の調剤、細胞へ核酸をトランスフェクションするためのキット及び本発明にかかるトランスフェクション試薬を使用する特別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公知の非ウィルス性トランスフェクションは一連の制限を受けている。非ウィルス性核酸トランスフェクションでは主に、しばしば正または負に帯電した球状の核酸複合体の大きさ、および1つまたは複数のトランスフェクションステップの制御が十分にできないことが大きな問題となっている。後者の原因として、外側の細胞膜または内側の細胞内膜を貫通する能力の不足、酵素による分解に対する保護の不足、低い生物学的利用能、および細胞内の非生物学的分子によって引き起こされる、制御が十分にできない生物学的効果があげられる。多くの場合、核酸はきわめて広がった立体構造を含んでおり、酵素によって容易に分解可能であり、正または負に過剰に帯電していることによって基本的細胞構造と容易に会合しうる。それにともなって核膜通過能が不十分であるために、現在の核酸トランスフェクション技術は、例えばセルラインのような癌様に形質転換した細胞への使用にほぼ独占的に制限されているが、それはこのような形質転換細胞では、核膜が細胞分裂の間に一時的に溶解し、核内への侵入が可能になるためである。しかし形質転換細胞は一次細胞の本来の生理学的状態と比較可能ではないため、そのような形質転換細胞を用いた研究から、一次トランスフェクション細胞の反応を結論付けることはできない。
【0003】
すでに一連のトランスフェクション試薬が知られており、それらのほとんどすべては核酸との静電気的な相互作用によって、しばしば直径が50nmより大きい球状の複合体を形成する(非特許文献1)。これらの複合体はほとんどの場合、高い荷電によって細胞表面に会合し、エンドサイトーシスによって取り込まれる。それらは破裂するまでのエンドソーム酸性化の緩衝化(例えば、ポリエチレンイミン、スターバーストデンドリマー(非特許文献2)またはクロロキンの添加による)、または膜活性化物質、脂質、または親油性ペプチドの作用のいずれかによって、エンドソームから出る。しかしこれらの複合体は次の細胞分裂に際してはじめて細胞核に達し、そこで核酸放出後に望まれた作用を展開することができる。
【0004】
分裂依存性の核内移行の問題は、特に、シグナルマスキングおよび非特異的タンパク質結合の問題が考慮されれば、NLSペプチド(NLS=nuclear localization signal=核局在化シグナル)の使用によって、回避することができる(WO 00/40742)。
【0005】
(米国特許 第5468629号)では、ssDNA(1本鎖DNA)の細胞へのトランスフェクションのための、RecA−タンパク質の使用および別のRecAと機能的相同性をもつタンパク質の使用可能性が記載されている。RecAタンパク質は、明らかに触媒作用によって、細胞DNAと導入されたssDNAとの相同組換え過程を、DNA鎖対合およびその後のDNA鎖交換反応に影響を与えることによって、サポートする。ここで使用される複合体は、最大700ヌクレオチドのssDNAおよびRecAタンパク質を含み、「RecAにコートされた」複合体と称される。このようなssDNA−タンパク質複合体は、ATP−γ−S及びRecA存在下のDNAによって形成され、同時に安定したらせん状のシナプス前フィラメントが形成される。これらの複合体は、例えばセルライン、すなわち特に形質転換細胞のような、活発に細胞分裂している細胞のトランスフェクションにおいて使用される。
【0006】
【非特許文献1】タング(Tang),M.X.、およびゾーカ(Szoka),F.C.著「陽イオンポリマーとDNAの相互作用および得られる複合体の形態に対するポリマー構造の影響」、Gene Ther、1997年、第4巻、p.823−832
【非特許文献2】クコワスカ−ラタロ(Kukowska−Latallo),J.F.、ビエリンスカ(Bielinska),A.U.、ジョンソン(Johnson),J.、スピンドラー(Spindler),R.、トマリア(Tomalia),D.A.、およびベーカー(Baker),J.R.Jr.著「スターバーストポリアミドアミンデンドリマーを用いた哺乳動物の細胞への遺伝子材料の効率的な輸送」、Proc Natl Acad Sci USA、1996年、第93巻、p.4897−4902
【非特許文献3】ビアンコ(Bianco),P.R.、トレーシー(Tracy),R.B.、およびコワルチェコウスキー(Kowalczykowski)、S.C.著「DNA鎖交換反応タンパク質:生化学的および物理学的比較」、Front Biosci、1998年、第3巻、p.D570−603
【非特許文献4】フェルドヘル(Feldherr),C.M.、およびアキン(Akin),D.著「核孔複合体における輸送ゲートの位置」、J Cell Sci、1997年、第110巻(Pt24)、p.3065−3070
【非特許文献5】山田(Yamada),M.、および笠松(Kasamatsu),H.著「シミアンウィルス40の核ターゲティングにおける核孔複合体の役割」、J Virol、1993年、第67巻、p.119−130
【非特許文献6】ジ カプア(Di Capua),E.、エンゲル(Engel),A.、スタシアーク(Stasiak),A.、およびコラー(Koller),T.著「電子顕微鏡によるrecAタンパク質と二重鎖DNAとの間の複合体の特徴づけ」、J Mol Biol、1982年、第157巻、p.87−103
【非特許文献7】デルケイル(Delcayre),A.X.、サラス(Salas),F.、マートゥル(Mathur),S.、コバッツ(Kovats),K.、ロッツ(Lotz),M.、およびレムハート(Lemhardt),W.著「エプスタイン・バーウィルス/補体C3d受容体はインターフェロンα受容体である」、Embo J、1991年、第10巻、p.919−926
【非特許文献8】メンガウド(Mengaud),J.、オハヨン(Ohayon),H.、ゴウノン(Gounon),P.、メージ(Mege),R.M.、およびコサート(Cossart),P.著「E−カドヘリンは、リステリア菌の上皮細胞へ侵入に必要な表面タンパク質であるインターナリンの受容体である」、Cell、1996年、第84巻、p.923−932
【非特許文献9】ハルボトル(Harbottle),R.P.、クーパー(Cooper),R.G.、ハート(Hart),S.L.、ラドホフ(Ladhoff),A.、マッケイ(McKay),T.、ナイト(Knight),A.M.、ワグナー(Wagner),E.、ミラー(Miller),A.D.、およびクーテル(Coutelle),C.著「RGDーオリゴリシンペプチド:インテグリン介在性遺伝子輸送のための原型構造物」、Hum Gene Ther、1998年、第9巻、p.1037−1047
【非特許文献10】コリンズ(Collins),L.、ソーヤー(Sewyer),G.J.、ジャン(Zhang),X.H.、ガスタフソン(Gustafsson),K.、およびファブレ(Fabre),J.W.著「臓器移植におけるインテグリンをターゲットした非ウィルス性DNAベクターの輸送に重要な因子のインビトロ試験」、Transplantation、2000年、第69巻、p.1168−1176
【非特許文献11】ローゼンクランツ(Rosenkranz),A.A.、ヤハメネフ(Yachmenev),S.V.、ヤンス(Jans),D.A.、セレブリャコバ(Serebryakova),N.V.、ムラベフ(Murav’ev),V.I.、ピータース(Peters),R.、およびソボレフ(Sobolev),A.S.著「受容体介在性エンドサイトーシスおよびトランスフェクトしたDNA構造物の核移行」、Exp Cell Res、1992年、第199巻、p.323−329
【非特許文献12】フィーロ(Feero),W.G.、リー(Li),S.、ローゼンブラット(Rosenblatt),J.D.、シリアンニ(Sirianni),N.、モルガン(Morgan),J.E.、パートリッジ(Partridge),T.A.、ホァン(Huang),L.、およびホフマン(Hoffman),E.P.著「筋原細胞への受容体介在性遺伝子輸送のためのリガンドの選択と使用」、Gene Ther、1997年、第4巻、p.664−674
【非特許文献13】ミドウ(Midoux),P.、メンデス(Mendes),C.、レグラン(Legrand),A.、レイモンド(Raimond),J.、メイヤー(Mayer),R.、モンシニ(Monsigny),M.、およびロシュ(Roche),A.C.著「ラクトシル化ポリ−L−リジンによって介在性される肝癌細胞への特異的遺伝子輸送」、Nucleic Acids Res、1993年、第21巻、p.871−878
【非特許文献14】フォミナヤ(Fominaya),J.、およびウェルズ(Wels),W.著「キメラ多領域タンパク質によって介在される標的細胞特異的DNA輸送。新規な非ウィルス性遺伝子輸送システム」、J Biol Chem、1996年、第271巻、p.10560−10568
【非特許文献15】大野(Ohno),K.、澤井(Sawai),K.、飯島(Iijima),Y.、レビン(Levin),B.、およびメルエロ(Meruelo),D.「タンパク質AのIgG−結合ドメインを示すシンドビスウィルスベクターの細胞特異的ターゲティング」、Nat Biotechnol、1997年、第15巻、p.763−767
【非特許文献16】シェーマン(Schoeman),R.、ジュベール(Joubert),D.、アリアッティ(Ariatti),M.、およびホートリー(Hawtrey),A.O.著「ストレプトアビジンとの複合体をなすビオチン化トランスフェリンおよびビオチン化ポリリシンの効率性の高い輸送システムを用いた細胞への標的DNA輸送に関する詳細検討」、J Drug Target、1995年、第2巻、p.509−516
【非特許文献17】サーデジ(Surdje),P.、およびヤコブス−ロレナ(Jacobs−Lorena),M.著「遺伝子のタンパク質コード領域のエピトープ標識法」、Biotechniques、1994年、第17巻、p.560−565
【非特許文献18】エバン(Evan),G.I.、ルイス(Lewis),G.K.、ラムセイ(Ramsay),G.、およびビショップ(Bishop),J.M.著「ヒトc−myc 原癌遺伝子産物に対して特異的なモノクローナル抗体の単離」、Mol Cell Biol、1985年、第5巻、p.3610−3616
【非特許文献19】ソーレン(Thoren),P.E.、ペルソン(Persson),D.、カールソン(Karlsson),M.、およびノルデン(Norden),B.著「アンテナペディアペプチドペネトラチンは脂質二重層を通過して移動する−最初の直接的観察」、FEBS Left、2000年、第482巻、p.265−268
【非特許文献20】ワイスバート(Weisbart),R.H.、ボールドウィン(Baldwin),R.、フー(Huh),B.、ザック(Zack),D.J.、および西村(Nishimura),R.著「生細胞を貫通する抗体を用いた一次ラット皮質ニューロンの新規なタンパク質トランスフェクション」、J Immunol、2000年、第164巻、p.6020−6026
【非特許文献21】ポーガ(Pooga),M.、ソーメッツ(Soomets),U.、ハルブリンク(Hallbrink),M.、バルナ(Valkna),A.、サール(Saar),K.、レザエイ(Rezaei),K.、カール(Kahl),U.、ハオ(Hao),J.X.、シュー(Xu),X.J.、ビッセンフェルド−ハイリン(Wissenfeld−Hailin),Z.、ら著「細胞貫通性PNA構造物はガラニン受容体レベルを調節し、生体内の疼痛伝達を緩和する」、Nat Biotechnol、1998年、第16巻、p.857−861
【非特許文献22】プロボダ(Provoda),C.J.、およびリー(Lee),K.D.著「細菌孔形成溶血素および高分子のサイトゾル輸送におけるそれらの使用」、Adv Drug Deliv Rev、2000年、第41巻、p.209−221
【非特許文献23】シュタインハウアー(Steinhauer),D.A.、ウォートン(Wharton),S.A.、スケール(Skehel),J.J.、およびワイリー(Wiley),D.C.著「インフルエンザウィルス血球凝集素の融合ペプチド変異体の膜融合活性の研究」、J Virol、1995年、第69巻、p.6643−6651
【非特許文献24】ザウナー(Zauner),W.、ブラース(Blaas),D.、キュヒラー(Kuechler),E.、およびワグナー(Wagner),E.著「トランスフェクション複合体のライノウィルス介在性エンドソーム放出」、J Virol、1995年、第69巻、p.1085−1092
【非特許文献25】ホン(Hong),S.S.、ゲイ(Gay),B.、カラヤン(Karayan),L.、ダバウバレ(Dabauvalle),M.C.、およびボウランガー(Boulanger),P.著「組換えアデノウィルスペントンベースの細胞の取り込みおよび核輸送」、Virology、1999年、第262巻、p.163−177
【非特許文献26】ワグナー(Wagner),E.著「非ウィルス性遺伝子輸送のための膜活性ペプチドの使用」、Adv Drug Delive Rev、1999年、第38巻、p.279−289
【非特許文献27】パック(Pack),D.W.、プットナム(Putnam),D.、およびランガー(Langer),R.著「遺伝子輸送のためのイミダゾール含有エンドソーム溶解性バイオポリマーのデザイン」、Biotechnol Bioeng、2000年、第67巻、p.217−223
【非特許文献28】リチャードソン(Richardson),S.、フェルッチ(Ferruti),P.、およびダンカン(Duncan),R.著「潜在的なエンドソーム溶解性ポリマーとしてのポリ(アミドアミン)類:インビトロ評価と健常動物および腫瘍を有している動物における体内分布」J Drug Target、1999年、第6巻、p.391−404
【非特許文献29】ワン(Wang),P.、パレーゼ(Palese),P.、およびオニール(O’Neill),R.E.著「インフルエンザウィルス核タンパク質NP上のNPI−1/NPI−3(カリオフェリンα)結合部位は非従来的な核局在化シグナルである」、J Virol、1997年、第71巻、p.1850−1856
【非特許文献30】ノイマン(Neumann),G.、カストルッチ(Castrucci),M.R.、および川岡(Kawaoka),Y.著「インフルエンザウィルス核タンパク質の核内移行と核外移行」、J Virol、1997年、第71巻、p.9690−9700
【非特許文献31】ボウリカス(Boulikas),T.著「核内局在化シグナル(NLS)」Crit Rev Eukaryot Gene Expr、1993年、第3巻、p.193−227
【非特許文献32】ボウリカス(Boulikas),T.著「タンパク質リン酸化酵素およびサイクリンの核内移行」、J Cell Biochem、1996年、第60巻、p.61−82
【非特許文献33】ボウリカス(Boulikas),T.著「DNA修復タンパク質の核内移行」、Anticancer Res、1997年、第17巻、p.843−863
【非特許文献34】エロウズ(Ellouze),C.、セルマン(Selmane),T.、キム(Kim),H.K.、チュイテ(Tuite),E.、ノルデン(Norden),B.、モルテンセン(Mortensen),K.、および高橋(Takahashi)、M.著「DNA結合および不活性ヌクレオチドによるRecA−DNA複合体のRecAフィラメント解離のらせん状構造に対する影響における活性と不活性のヌクレオチド補助因子間の差異」、Eur J Biochem、1999年、第262巻、p.88−94
【非特許文献35】ナイト(Knight),K.L.、およびマクエンティー(McEntee),K.著「5’−p−フルオロスルホニルベンゾイルアデノシンによる大腸菌由来のrecAタンパク質のATP結合部位におけるチロシン残基の親和標識」、J Biol Chem、1985年、第260巻、p.10177−10184
【非特許文献36】モジッグ(Mosig),G.著「T4ファージ増殖における組換えの基本的役割」Annu Rev Genet、1987年、第21巻、p.347−371
【非特許文献37】ザイツ(Seitz),E.M.、ブロックマン(Brockman),J.P.、サンドラー(Sandler),S.J.、クラーク(Clark),A.J.、およびコワルチェコウスキー(Kowalczykowski),S.C.著「RadAタンパク質はDNA鎖交換反応を触媒する古細菌RecAタンパク質相同体である」、Genes Dev、1998年、第12巻、p.1248−1253
【非特許文献38】ロカ(Roca),A.I.、およびコックス(Cox),M.M.著「RecAタンパク質:構造と機能」、Crit Rev Biochem Mol Bio、1990年、第25巻、p.415−456
【非特許文献39】カーリン(Karlin),S.、およびブロチール(Brocchierl),L.著「タンパク質の構造および機能に関するRecA遺伝子の進化的保存」、J Bactroriol、1996年、第178巻、p.1881−1894
【非特許文献40】カリン(Karlin),S.、ウェインストック(Weinstock),G.M.、およびブレンデル(Brendel),V.著「recAタンパク質配列の比較由来の細菌の分類」、J Bacteriol、1995年、第177巻、p.6881−6893
【非特許文献41】サンドラー(Sandler),S.J.、サテン(Satin),L.H.、サムラ(Samra),H.S.、およびクラーク(Clark),A.J.著「酵母菌のRad51およびDmc1タンパク質に類似した推定上のタンパク質生成物を有する3つの始生代種由来のrecA様遺伝子」、Nucleic Acids Res、1996年、第24巻、p.2125−2132
【非特許文献42】小川(Ogawa),T.、篠原(Shinohara),A.、鍋谷(Nabetani),A.、池谷(Ikeya),T.、ユー(Yu),X.、イーグルマン(Egelman),E.H.、および小川(Ogawa),H.著「真核生物におけるRecA様組換えタンパク質:RAD51遺伝子の機能および構造」、Cold Spring Harb Symp Quant Biol、1993年、第58巻、p.567−576
【非特許文献43】ティヤガラジャン(Thyagarajan),B.、パドゥア(Padua),R.A.、およびキャンベル(Campbell),C.著「哺乳動物のミトコンドリアは相同性DNA組換え活性を有する」、J Biol Chem、1996年、第271巻、p.27536−27543
【非特許文献44】セルッティ(Cerutti),H.、オスマン(Osman),M.、グランドーニ(Grandoni),P.、およびヤーゲンドルフ(Jagendorf),A.T.著「高等植物の色素体における大腸菌RecAタンパク質の相同体」、Proc Natl Acad Sci USA、1992年、第89巻、p.8068−8072
【非特許文献45】バウマン(Baumann),P.とウエスト(West),S.C.著「相同性組換えおよび二重鎖切断修復におけるヒトRAD51タンパク質の役割」、Trends Biochem Sci、1998年、第23巻、p.247−251
【非特許文献46】マッソン(Masson),J.Y.、デービス(Davies),A.A.、ハジバゲリ(Hajibagheri),N.、バン ダイク(Van Dyck),E.、ベンソン(Benson),F.E.、スタシアーク(Stasiak),A.Z.、スタシアーク(Stasiak),A.、およびウエスト(West),S.C.著「減数分裂特異的リコンビナーゼhDmc1は環状構造を形成し、hRad51と相互作用する」、Embo J、1999年、第18巻、p.6552−6560
【非特許文献47】グリフィス(Griffith),J.、マクホフ(Makhov),A、サンチャゴ−ララ(Santiago−Lara),L、およびセトロウ(Setlow),P.著「DNAと枯草菌由来のα/β型の小型酸溶解性胞子タンパク質間の相互作用の電子顕微鏡観察:タンパク質結合は協同的であり、DNAを硬化し、負の超らせんを誘導する」、Proc Natl Acad Sci USA、(1994年)、第91巻、p,8224−8228
【非特許文献48】リー(Lee),C.K.とナイプ(Knipe),D.M.著「単純ヘルペスウイスルタンパク質ICP8のDNA結合活性を試験するための免疫測定法」、J Virol、1985年、第54巻、p.731−738
【非特許文献49】ユー(Yu),X.、およびイーグルマン(Egelman),E.H.著「バクテリオファージT4UvsXタンパク質により誘導されるDNA構造は、大腸菌RecAタンパク質により誘導される構造と同一のように見られる」、J Mol Biol、1993年、第232巻、p.1−4
【非特許文献50】ベトラム(Betram)とガッセン(Gassen)著「遺伝子工学的方法」、グスタフ フィッシャー(Gustav Fishcer)出版、1991年、p.212−213
【非特許文献51】カグノン(Cagnon),C.、バルベルデ(Valverde),V.、およびマッソン(Masson)、J.M.著「大腸菌の糖誘導性発現ベクターの新しいファミリー」、Protein Eng、1991年、第4巻、p.843−847
【非特許文献52】アンダーソン(Andersson),K著「自由生存微生物におけるコドンプリファレンス」Micobiol Rev、1990年、54、p98−210
【非特許文献53】シャガー(Schagger),H.、およびフォン ヤゴウ(von Jagow),G.著「1〜100kDaの範囲のタンパク質を分離するためのトリシンナトリウムドデシル硫酸ポリアクリルアミドゲル電気泳動法」、Anal Biochem、1987年、第166巻、p.368−379。
【非特許文献54】プロウ(Plow),E.F.、ハース(Haas),T.A.、ジャン(Zhang),L.、ロフタス(Loftus),J.、およびスミス(Smith),J.W.著「インテグリンへのリガンド結合」、J Biol Chem、2000年、第275巻、p.21785−21788
【非特許文献55】バル(Bal),H.P.、クロボチェク(Chroboczek),J.、ショーエン(Shoehn),G.、ルイグロック(Ruigrok),R.W.、およびデューハースト(Dewhurst),S.著「大腸菌からの可溶性5量体のアデノウィルスタイプ7ペントン精製およびインテグリン依存性遺伝子輸送システムの開発」、Eur J Biochem、2000年、第267巻、p.6074−6081
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、それによって細胞への取り込みの改良を可能にし、同時にトランスフェクション過程の制御を可能にする、あらゆる種類の細胞にあらゆる種類の核酸をトランスフェクションするための方法およびトランスフェクション試薬を提供することである。この目的のために、このトランスフェクション試薬はトランスフェクション過程中に十分に安定しており、目標区画においてトランスフェクションされた核酸が十分に放出されるのを保証しなければならない。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
この課題は、本発明の方法によって解決される。その方法においては、トランスフェクションの1つまたは複数のステップに影響する少なくとも1つの機能的構成成分によってまずタンパク質を修飾する。次いでトランスフェクションされる核酸に修飾タンパク質を結合し、核酸およびタンパク質はフィラメント状の複合体を形成し、この複合体が最終的にトランスフェクションされる細胞に添加される。
【0009】
さらに、この課題は、本発明のトランスフェクション試薬によって解決されるが、その場合には核タンパク質フィラメント形成能を有するタンパク質がトランスフェクションに影響する少なくとも1つの機能的構成成分によって修飾される。
【0010】
1つまたは複数の同一または異なる追加の機能的構成成分によって、1つまたは複数の核タンパク質フィラメント(NPF)を形成するタンパク質が修飾されることによって、複雑なトランスフェクション過程の個々のステップを、トランスフェクションされる核酸及び標的細胞に特有の、特に有効な方法で制御することができる。さらに、本発明による方法及びトランスフェクション試薬によって、公知の方法に対してトランスフェクション効率が明らかに向上する。
【0011】
本発明によれば、NPF形成タンパク質が、特に、DNAの単なる保護以上の役割をする、機能群のモジュラー輸送システムとして、有利な方法で使用される。この複合体は、2つの点できわめて小さな空間サイズを示している。すなわち、フィラメント状であって、球状ではない点と、フィラメントごとに1個のみの核酸分子を含有する点である。輸送タンパク質ごとに少ないヌクレオチドという化学量論的比率につながるこの集合体によって、トランスフェクションに対する機能的シグナル密度が、球状の複合体よりもきわめて大きくなることが可能である。シグナル密度および様々なシグナルの組合せは、様々な機能を持つ輸送タンパク質および機能群を持たないタンパク質を混合することによって個別に調節可能であるため、本発明によるトランスフェクション試薬をモジュラーシステムとして様々なトランスフェクション条件に適応させることができる。さらに、小さな空間サイズおよび高いシグナル密度により、小さい分子に特有の内在性輸送システムを利用することも可能となる。そのフィラメント状の特徴、単純な構造、および調節可能なきわめて高いシグナル密度のために、本発明による方法、すなわち本発明によるトランスフェクション試薬により、例えば発現ベクターのような大きな核酸分子をも、内在性のメカニズムを利用して輸送することが可能になる。
【0012】
例えば、追加の機能的構成成分をNPFタンパク質に直接結合させ、またはスペーサー、すなわち機能を持たない分離ユニットを介して結合させることができる。このようなスペーサーは、NPFタンパク質と機能的構成成分との間に大きな距離をもたらし、これにより相互の立体障害が回避され、NPFタンパク質および機能的構成成分のよりよい空間的利用可能性が保証される。従って、本発明による試薬の構造により、機能的構成成分のマスキングが主として阻止される。
【0013】
NPF形成タンパク質は、核酸とともに、主として協同的結合によって核タンパク質フィラメントを形成し、その中でタンパク質と核酸がその大きさ、または直径が公知の球状のトランスフェクション試薬に比べ大幅に小さい複合体を形成する。このようなNPFは、例えばATP(アデノシン三リン酸)などのヌクレオシド三リン酸の存在下に、DNA依存的ATPaseであるRecAファミリーのタンパク質によって形成され、例えば二本鎖DNAにおける3つの塩基当たり1個のタンパク質の密度で結合されている(非特許文献3)。この高いタンパク質密度により、酵素の作用可能部位が大幅に削減されるため、核酸の酵素加水分解に対して優れた保護が得られる。NPFは、複合体の十分な安定性を提供するだけでなく、例えば核において、輸送された核酸の十分な放出をも可能にする。ヌクレオシド三リン酸、例えば、ATPおよび/またはGTPの、加水分解が不可能または困難な類似体、例えばATP−γ−SまたはGTP−γ−Sなどの使用によって、RecAファミリーのようなATP形成タンパク質によって形成されるNPFがさらに安定化する可能性がある。
【0014】
本発明によれば、NPF形成能を有するタンパク質は誘導されたNPFタンパク質をも包含する。例えば、融合タンパク質を製造することができる。さらに、NPF形成タンパク質が本発明に必須の機能、核酸とNPFの構造形成を維持できる限り、NPF形成タンパク質を短縮または延長し、個々の部位またはアミノ酸を欠失、挿入、または化学的に修飾することができる。
【0015】
本発明の特に有利な点は、もとからある核移行メカニズムの利用を可能にするNPFの空間的構造である。トランスフェクション試薬の最大径は核孔の大きさによって規定され、きわめて長い核酸の場合にも限界を超えることはなく、すなわち、NPFはトランスフェクションされる核酸の長さに関係なくトランスフェクション試薬として使用することができる。核孔を通って輸送できる大きさの限界は、約25nm(非特許文献4)または50nm(SV40−ウィルス)である(非特許文献5)。球状構造および/またはトランスフェクション構成成分ごとに非特異的にいくつもの核酸分子が結合する、従来のトランスフェクション試薬によって核膜通過が遮断されていた核酸は、本発明にかかるトランスフェクション試薬を使用することで、容易にそのような大きさの限界を下回ることができる。しかも、本発明によるトランスフェクション試薬の構造によってはじめて、使用されるNPF形成タンパク質に応じて11nm以下の直径が可能となる。したがって、NPFタンパク質の使用によってフィラメント状に構成される構造は、数kbの長さの長い核酸の輸送にも適している。したがって、本発明による方法および本発明によるトランスフェクション試薬は、大きなヌクレオチド配列の細胞のトランスフェクションのために特に好適である。好ましくは、本発明によるトランスフェクション試薬は、少なくとも700個のヌクレオチドからトランスフェクションされる核酸を少なくとも1つ含有する。
【0016】
本発明は、核酸のトランスフェクションのためにそれ自体で有利に使用し、または他のトランスフェクション方法および物質と組み合わせて使用することもできる。NPF形成タンパク質の高い結合度合いは加水分解抵抗性を高め、NPFの小さな直径は、例えば核移行システムなど十分に小さな分子のみ利用できる内在性の細胞輸送系の利用を可能にする。さらに、細胞区画内、主に核内へトランスフェクションされる核酸の十分な放出が保証される。
【0017】
本発明による「トランスフェクション試薬」なる用語は、トランスフェクションされる核酸をすでに含有する、核酸またはその誘導体の輸送媒体と理解される。本発明の趣旨におけるトランスフェクション試薬は、複雑なトランスフェクション過程の少なくとも1つの個別のステップを実行する。
【0018】
本発明に関して「核タンパク質フィラメント」(NPF)なる用語は、核酸類、または核酸誘導体と、非共有結合、主に協同的結合の結果として、好ましくは一つの核酸分子またはその誘導体を含むフィラメント状又は糸状の複合体を形成するタンパク質からなる分子構造を意味する。特に好ましくは、例えば、1本鎖または2本鎖DNAとRecAから形成されるようならせん状の核タンパク質フィラメントである(非特許文献6)。
【0019】
「トランスフェクションされる核酸」は、2本鎖または1本鎖DNA、2本鎖または1本鎖のRNA、および1本鎖の末端を有する2本鎖DNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、または、加水分解抵抗性が高められたり(ペプチド核酸、PNA)、標的核酸への共有結合および/または修飾のために反応性分子群が導入されるなどした、化学的に修飾された核酸誘導体でありうる。トランスフェクション可能な核酸誘導体には、配列特異的に、または共有結合で結合したタンパク質によって修飾された核酸も含むものと理解される。本発明の好ましい核酸はDNA、特に2本鎖DNAである。NPF形成タンパク質は、これまで主に1本鎖DNAとともに、例えば組換えのために使用された。しかし意外にも、本発明に関連して、多くのNPF形成タンパク質が適切な条件下において2本鎖DNAとも安定した複合体を形成し、本発明にしたがって2本鎖DNAのトランスフェクションにも使用できることがわかった。したがって、2本鎖DNAを有効にトランスフェクションする可能性において、本発明にはさらなる利点がある。
【0020】
本発明の有利な具体例では、機能的構成成分によって修飾されたNPFは、本来のNPF形成タンパク質またはその誘導体の修飾によって調製される。その場合の修飾はアミノ酸および/またはタンパク質ドメインの欠失または挿入によって行うことができる。修飾はアミノ酸および/または他の分子群の化学的変化によって、かつ/またはペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の分子をNPF形成タンパク質またはその誘導体へ化学的に結合させるによっても行うことができる。これらの修飾は、場合によりスペーサーを使用しながら行うことができる。
【0021】
トランスフェクションの第1の障害物は、トランスフェクション複合体の細胞表面への会合である。したがって、本発明による方法およびトランスフェクション試薬の好ましい具体例では、複合体または試薬の細胞表面への会合をもたらす少なくとも1つの機能群で修飾されており、NPF形成能を有する少なくとも1つのタンパク質を使用する。これは、1つのまたはほんのいくつかの細胞型に発現される、細胞型固有の表面構造への結合によって細胞特異的に行うことができ、または、例えば電荷相互作用によって非特異的に行うことができる。細胞表面の受容体、例えば、細胞への侵入のためのウィルスまたは細菌によって使われる受容体に結合する自然発生物質または合成的に調製される物質すべてを、細胞型特異的結合に使用することができる。その受容体には、例えば、エプスタインバーウィルス受容体CD21(非特許文献7)またはリステリア菌受容体E−Cadherin(非特許文献8)がある。基質‐受容体結合を利用するほかの例は、多くの鉄を必要とする細胞におけるトランスフェリン受容体‐トランスフェリン、肝細胞におけるアジアログリコタンパク質受容体‐ガラクトース、例えば、RGD(非特許文献9)またはモロシン(非特許文献10)のようなインテグリン‐インテグリン結合ペプチド、または、例えばインスリン(非特許文献11)、EGF(上皮細胞成長因子)またはインスリン様成長因子I(非特許文献12)などのホルモン受容体に結合するホルモン、およびレクチンに結合するオリゴ糖(非特許文献13)などである。同様に、細胞特異的抗体(非特許文献14)、タンパク質A、そのIgG−結合ドメイン(非特許文献15)、およびストレプトアビジンと組み合わせたビオチン化タンパク質(細胞表面上においてビオチン化されたタンパク質またはビオチン化したモノクロナール抗体のいずれか)(非特許文献16)が使用可能である。本発明に関しては、「エピトープ−標識」、すなわち一方ではエピトープ、つまり例えば、NPF形成タンパク質またはその誘導体に結合され、または遺伝子工学によって融合されている、インフルエンザ血球凝集素(非特許文献17)またはc−myc−タンパク質(非特許文献18)の短いペプチドを認識し、他方では特異的な細胞表面構造を認識する二重特異性抗体の使用による細胞特異的トランスフェクションが特に適している。電荷相互作用による、トランスフェクション複合体の細胞非特異性相互作用においては、例えば正電荷を、例えば追加のアミノ酸(リシン、アルギニン;ヒスチジン)によって導入することができる。
【0022】
本発明による方法およびトランスフェクション試薬の別の特に好ましい具体例では、機能的構成成分が複合体または試薬の細胞膜通過に、非エンドソーム通過をもたらすことが意図されている。非エンドソームの膜通過は、試薬が細胞質内で即座に利用可能であり、リソソームの加水分解活性の環境にはさらされないという利点を有する。このような膜通過は膜活性分子によって達成することができる。これらの分子は、例えばウィルス性ペプチド、例えばHIV−tat、VP22、HBV表面抗原;例えばアンテナペディアのホメオドメイン(非特許文献19)、engrailed、HOXA−5など転写因子のペプチド;サイトカイン、例えばIL−1β、FGF−1、FGF−2のペプチド;細胞シグナル配列、例えばカポジ線維芽細胞成長因子のペプチド、生細胞を貫通するモノクローナル抗体、例えばmab 3E10(非特許文献20)、合成またはキメラペプチド、例えば両親媒性モデルペプチドまたは輸送体(非特許文献21)など主に脂肪性または両親媒性である自然発生ペプチド、修飾ペプチド、または合成ペプチドでありうる。
【0023】
さらに、本発明の有利な具体例では、複合体または試薬のエンドソーム/リソソームからの放出をもたらす、少なくとも1つの本発明による機能的構成成分を使用している。細胞膜の通過は、例えばエンドサイトーシスによって行うことができる。エンドサイトーシスの後、核タンパク質複合体がエンドソームから放出される必要がある。このために、エンドソームを溶解する活性がある物質をすべて使用することができる。それらの物質は、例えば細菌またはウィルス由来のペプチド、その誘導体もしくは合成類似体、または当業者には公知の他の合成物質でありうる。細菌由来のエンドソーム溶解物質として挙げられるのは、例えば、ストレプトリシンO、ニューモリシン、ブドウ球菌α−トキシン、リステリオリシンOである(非特許文献22)。ウィルス性ペプチドは、例えばインフルエンザウィルスのN−末端血球凝集素HA−2−ペプチド(非特許文献23)、ライノウィルスHRV2のVP−1−タンパク質のN−末端(非特許文献24)、またはアデノウィルスのキャプシド構成成分(非特許文献25)である。合成物質として挙げられるのは、例えば両親媒性のペプチド(GALA、KALA、EGLA、JTS1)(非特許文献26)、またはイミダゾール修飾ポリマー(非特許文献27)およびポリ−アミドアミン修飾ポリマー(非特許文献28)である。
【0024】
すべてのトランスフェクション試薬にとって特に障害物となるのは、通常は細胞分裂に依存して起こり、あるいは、細胞刺激後に起こる核内への移行である。したがって、本発明の特に有利な具体例では、細胞核へ複合体または試薬の輸送をもたらす機能的構成成分を用いることが意図されている。核移行にとって不可欠なのは、第一に核孔径の限定であり、第二に輸送用に使用されるシグナル分子である。本発明での核移行用のシグナルとしては、核受容体に結合する核リガンドが使用される。特に適した核リガンドはNLS(nuclear localization signals、核局在化シグナル)または他の核移行システムの構成成分である。核局在化シグナルとして特に使用に好ましいのは、それ自体および/またはその側にある領域が正電荷の過剰をほとんど示さないか、全く示さないようなシグナルである。なぜなら、過剰帯電は非特異的な核酸の結合をまねき、その結果、シグナルをマスクしてしまうからである。ペプチドの総電荷が側にある陰荷電アミノ酸によって少なくともほぼ調整できる場合、いわゆる典型的NLSの増強された配列が好ましい。これらのアミノ酸はペプチド/タンパク質中のこれらの位置にもとから存在することもあり、または構造上の考慮に基づき同位置に導入することができる。いわゆる非典型的NLSも使用することができる。これは例えば、正電荷の大過剰を示さず、非典型的な輸送路を介して核に達する、インフルエンザウィルスの「核タンパク質」由来のNLS((非特許文献29)および、(非特許文献30))、またはヘテロ核リボ核タンパク質(hnRNP)A1タンパク質由来のM9配列などである。本発明の具体例を実施するために使用できる完全ではないが優れたNLSのレビューを、T.ボウリカス(Boulikas)(非特許文献31、32、および33)が示している。ほぼ中性電荷配列は、例えばそれにもともとあるか、または人工的に導入される陰電荷アミノ酸をそばに有するSV40ウィルスのラージT−抗原由来のNLSを含む((WO 00/40742)も参照)。
【0025】
したがって、本発明の特別の利点は、分裂していない、または分裂活性の弱い真核生物の細胞、特に真核生物の一次細胞における、核酸のトランスフェクションが明らかに改善されることにある。これらの細胞こそが、例えば、血液検体または組織生検によって体から直接取り出され、専門家にとって決定的な意義があるため、その生物学的および医学的な情報価値は依然失われていない。ヒトゲノムのほぼ完全な解読の分析が期待されるとともに、細胞システムにおいて調査される遺伝子の特異的発現こそが、最終的に、十分に生理学的に関連性のある、可能な技術的適応性の明らかな証拠を与えると思われる。さらに、一次細胞のトランスフェクションは、生体外(ex vivo)および生体内(in vivo)の非ウィルス性遺伝子療法の重要な前提である。
【0026】
本発明の有利な具体例において、本発明による方法およびトランスフェクション試薬はそれぞれ、異なる機能をもついくつかの機能的構成成分で修飾された核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質、および/または、異なる機能をもつタンパク質で修飾された異なるタンパク質を包含しうる。本発明によるトランスフェクション試薬は、上述したように、NPF形成能を有する多数のタンパク質またはその誘導体によって、本来の、または機能的に修飾された形で実現する。NPF形成能を有する1つのみまたはいくつかの異なるタンパク質を使用でき、これらはトランスフェクション特異的な要求に応じて、同じ機能または異なる機能をもつ、1つまたは複数の機能的構成成分で修飾することができる。意図している目標に応じて、使用者はこのようにして、さまざまなモジュールを集合させることができる。このことは、トランスフェクション方法をトランスフェクションすべき核酸および目的細胞に最適に適合させるために、同一、または異なった機能を持つ、修飾されていない、または修飾されたNPFタンパク質が選択されうるモジュラーシステムを引き起こす。
【0027】
本発明の特に有利な具体例では、タンパク質は多くの機能的構成成分を結合されていることが意図されている。これによって、全体的なシグナル密度をさらにいっそう上昇させることができ、トランスフェクション効率の改善およびトランスフェクションのよりよい制御が可能となる。
【0028】
NPF形成タンパク質の多くは、補助因子としてATPのようなヌクレオシド三リン酸の存在下にNPF構造を形成する。ヌクレオシド三リン酸の添加は、NPFの安定化をもたらす。したがって、本発明による方法では、NPF構造は、ヌクレオシド三リン酸および/またはその非加水分解性類似体によって、特にATP(アデノシン三リン酸)および/またはGTP(グアノシン三リン酸)および/またはその非加水分解性類似体によって、有利な方法で形成され、または安定化することができる。これは光化学反応後の共有結合によっても起こりうる。非加水分解性ヌクレオシド三リン酸類似体は、例えばATP−γ−S(アデノシン5’−O−3−チオ三リン酸)およびGTPγS(グアノシン5’−O−3−チオ三リン酸)(非特許文献34)である。光化学的反応後のNPF−ATPaseを修飾する可能なATP−類似体は、8N3ATP(8−アジドアデノシン5’−三リン酸)または5’FSBA(5’−p−フルオロスルホニルベンゾイルアデノシン)(非特許文献35)。
【0029】
本発明による方法の有利な具体例では、これを例えばリポソーム介在性導入法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、免疫穿孔法、弾道法、陽イオン脂質、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、ポリエチレンイミン、またはpH−感受性ヒドロゲルを用いた導入法など、生物学的に活性をもつ分子の他の生物学的および/または化学的および/または物理学的なトランスフェクション方法と組み合せて使用することができる。このような導入法、特にエレクトロポレーション法は、例えば細胞の細胞質への侵入などトランスフェクション過程の個々のステップを有利に補助することができる。
【0030】
本発明による好ましいトランスフェクション試薬は、NPF形成タンパク質としてタンパク質RecA、RadA、ScRad51、RAD51、hDmc1、SASP、ICP8、好ましくはUvsX、特に好ましくはhRAD51、または列挙したタンパク質の少なくとも2つからなる混合物、またはこれらのタンパク質の1つまたは複数の誘導体を含む。本発明の具体例のためのNPF形成タンパク質は、例えば大腸菌(Eschericia coli)由来のRecA、および例えばバクテリオファージT4由来のUvsX(非特許文献36)、古細菌由来のRadA(非特許文献37)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のScRad51、哺乳動物由来のRAD51、および特にヒト由来のhRad51など、ウィルス、原核生物、および真核生物由来のその機能的相同体である。RecAに対する相同タンパク質は、少なくとも60種類の細菌種(非特許文献38)、(非特許文献39)、(非特許文献40)、始原菌(非特許文献41)、検査されたすべての真核生物(非特許文献42)のほか、ミトコンドリア(非特許文献43)およびプラスチド(非特許文献44)において検出されている。RecAおよびその相同体は、1本鎖または2本鎖DNAとともに、直径約11nmのらせん状のNPFを形成する。RecAの結合は協同的に行われ、DNA−Helixを部分的にほどく。RecA、UvsX、ScRad51、およびhRad51は、二本鎖DNAの場合は、モノマー当たり3塩基対、一本鎖DNAの場合は、モノマー当たり3〜6個のヌクレオチドの量的関係で結合してNPFを形成する((非特許文献3)および(非特許文献45))。2本鎖DNAと集積タンパク質環の直鎖状配列からなるフィラメントを形成する減数分裂特異的リコンビナーゼhDMC1も好ましい(非特許文献46)。さらに、桿菌種およびクロストリジウム種の胞子由来のSASPタンパク質(小型酸溶解性胞子タンパク質)のグループも好ましい。SASPも2本鎖DNAに結合し、直径が約6.6nmのらせん状のNPFを形成する(非特許文献47)。例えば、単純ヘルペス由来のタンパク質ICP8などの1本鎖および/または2本鎖DNAフィラメントを形成しうるウィルス性タンパク質も、好ましいNPF形成タンパク質である(非特許文献48)。
【0031】
NPF形成タンパク質UvsX、Rad51、およびRecAと二本鎖DNAが完全に結合すると、3塩基対あたりこれらのタンパク質の1つのモノマーが結合するという化学量論が示された(非特許文献3)。例えば、UvsXについては、このような完全な結合は、使用される結合バッファー、使用される核酸の高次構造、および温度に応じて、3〜5倍の過剰量のタンパク質を用いて達成することができ(非特許文献49)、枯草菌由来のα/β型SASPでは、タンパク質:DNA比が約5:1の場合に達成することができる(非特許文献47)。本発明において、核酸とタンパク質の比率は出来る限り完全であることが特に好ましい。これは好ましいNPF形成タンパク質それぞれに対して決まっている。しかし、特定のNPF形成タンパク質に対しては、核酸が結合できる最大量を下回り、不十分であることも本発明において可能である。NPF形成タンパク質に対して核酸の結合量が少ないのが好ましいのは、例えば、トランスフェクションのあるステップに、さらにDNA結合タンパク質が使用される場合、またはNPF形成タンパク質に対する核酸の結合が完全であるのを好まない特殊なときに、バッファーの条件を選択しなければならない場合である。
【0032】
本発明によれば、NPF形成タンパク質は、天然のNPF形成タンパク質およびその誘導体を含むと解釈される。NPF形成タンパク質の誘導体を、当業者は、まず、組換えタンパク質の追加のアミノ酸配列またはタンパク質ドメインの欠失または挿入による修飾、および/または既存の分子群の化学的修飾による機能群の導入、および/またはタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、または他の分子の化学的カップリングと理解する。
【0033】
本発明によるトランスフェクション試薬は、ヒトおよび動物の遺伝子療法による治療のための医薬品の調製にも有利な方法で使用することができる。治療的に有用な核酸は、本発明によるトランスフェクション試薬の形で、一次細胞や複雑なトランスフェクション方法にも使用可能となる。
【0034】
本発明の別の態様は、場合により通常の助剤および賦形剤とともに、本発明によるトランスフェクション試薬を含有する医薬品の調製に関する。
【0035】
本発明の別の態様は、核酸の細胞へのトランスフェクションに適しており、少なくとも1つの本発明によるNPF形成タンパク質を含み、および少なくとも1つの本発明による機能的構成成分に加えて、以下の構成成分、すなわち、
a)ヌクレオシド三リン酸および/またはヌクレオシド三リン酸類似体
b)少なくとも1つのトランスフェクションされる核酸
c)助剤および添加剤
の少なくとも1つを包含するキットに関する。
【0036】
かかるキットは、専門家のさまざまな需要に個別に適応させることができる。例えば、特定のNPF、特定のNPF修飾、または個々の助剤や添加剤を選択することによって、特定の核酸、目的細胞、安定性の要求に対して最適化することができる。タンパク質には機能的構成成分がすでに添加され、またはタンパク質または機能的構成成分がキット内に分離して含まれることも可能である。
【0037】
本発明の別の態様は、細胞スクリーニング、特に、細胞分裂が不活発または活性が弱い細胞、一次細胞、および寿命が限られた他の細胞におけるトランスフェクション試薬の発現物質の活性化剤または阻害剤の同定のための細胞スクリーニングのための本発明によるトランスフェクション試薬の使用に関する。このようなスクリーニングは、製薬業における活性物質の発見において、有効または無効な標的タンパク質の活性化剤および阻害剤を同定するための基本的な方法である。これらのスクリーニング方法は主に、外来核酸がステイブルにトランスフェクションされた細胞が潜在的な阻害剤および/または活性化剤にさらされ、細胞の生理機能に対するその影響を、場合により比較細胞と比較して決定されるように設定される。本発明によるトランスフェクション試薬は、活性化剤/阻害剤の添加直前に、細胞分裂が不活性、またはほんの弱い活性しかない細胞、一次細胞、および寿命が限られた他の細胞に外来核酸を導入し、こうしてこれらの細胞を試験細胞として使用できるようにすることに適している。
【0038】
本発明の別の態様は、生理学的に活性のある核酸の同定のための本発明によるトランスフェクション試薬の使用に関する。これは特に、科学及び薬学の専門団体によって利用可能であるゲノムデータの迅速かつ生理学的に関連のある評価にとって重要である。本発明によるトランスフェクション試薬によるトランスフェクションは細胞分裂および/またはエンドサイトーシスとは無関係であるので、トランスフェクションから分析までの時間が大幅に短縮される。これはかなり高い試験処理量を可能にする。トランスフェクションが困難な細胞や分裂活性のない細胞さえも、本発明によるトランスフェクション試薬によって使用できるようになる。こうして達成されるトランスフェクション、および対照細胞と比較した変化の生理学的評価により、生理学的に活性のある核酸の同定が可能となる。
【0039】
略語:
ドゥーデンにおいて用いられる略語以外に、以下の略語を使用した:
AMP−PCP アデニリル−(β,γ−メチレン)−ジホスホン酸塩
AMP−PNP S’−アデニリルイミド−二リン酸塩
DEAE ジエチルアミノエタン
DNA デオキシリボ核酸
dYT 2×YT培地
FACScan 蛍光活性化セルスキャニング
FCS ウシ胎児血清
FL 蛍光
FSC 前方散乱
GMP−PNP S’−グアニリルイミド−ジホスホン酸塩
GTP グアノシン三リン酸
H6 ヒスチジン−六量体
Ig 免疫グロブリン
kb キロベース
ml ミリリットル
mM ミリモラー
msec ミリ秒
NCBI 国立バイオテクノロジー情報センター
ng ナノグラム
nm ナノモラー
PBS リン酸緩衝食塩水
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
Pi リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム
RNA リボ核酸
RPMI ロスウェルパーク記念研究所
SDS ドデシル硫酸ナトリウム
SV40 シミアンウィルス40
TAE トリス酢酸エチレンジアミン4酢酸
U/mg 単位/ミリグラム
rpm 毎分回転数
ZIバッファー 細胞注入緩衝液
μg マイクログラム
μl マイクロリットル
【実施例】
【0040】
以下の実施例は本発明の詳細な説明であるが、例として表された材料および方法に本発明を限定することはない。
【0041】
(実施例1)
NPF形成タンパク質としての組換えUvsXの調製
NPF形成タンパク質としては、タンパク質UvsXH6、UvsXH6−2、H6UvsX、およびH6UvsX−2を使用した(図1を参照)。
【0042】
タンパク質の構造:
UvsH6(400アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸G392GS394のリンカー、アミノ酸395−400:ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィによる精製のためのH395HHHHH400、アミノ酸置換:L43→P。
【0043】
UvsH6−2(403アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YS394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のC末端。
【0044】
H6UvsX(404アミノ酸):
アミノ酸1−4:アミノ酸M1SYS4のN−末端、アミノ酸5−10:H5HHHHH10、アミノ酸11−13:アミノ酸S11YG13のリンカー、アミノ酸14−404:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)、アミノ酸置換:Q340→L。
【0045】
H6UvsX−2(404アミノ酸):
アミノ酸1−4:アミノ酸M1GYS4のN−末端、アミノ酸5−10:H5HHHHH10、アミノ酸11−13:アミノ酸S11YG13のリンカー、アミノ酸14−404:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)。
【0046】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌(Escherichia coli)細胞における上記タンパク質の発現のために、lacプロモーターの制御下にUvsXH6、UvsXH6−2、H6UvsX、またはH6UvsX−2のコーディング配列を含有するプラスミドを構成した(pExH−UvsXH6、pExH−UvsXH6−2、pExH−H6UvsX、およびpExH−H6UvsX−2、図1を参照)。これらのプラスミドは2つのPCR生成物の連結によって調製した。第1のPCR生成物はpMCS5(MoBiTec(ドイツ、ゲッティンゲン))によって増幅した。pMCS5はpBluescript SK(−)(ストラタジーン(Stratagene)と同様に構成されており、lacZαフラグメントのコーディング配列5’領域のみが異なる。したがって、pMCS5はlacプロモーター、それに続くlacオペレーターを有し、それによって、挿入されたコーディング配列は、活性があるlacリプレッサーがないときに発現する。いつでも恒常的に発現させるために、lacオペレーターがPCR生成物内にもはや存在しないように増幅プライマーを選択した。その結果得られるPCR生成物は、制限サイトのための張り出しと、992〜664位のpMCS5に対応した。992位(lacプロモーターに対する3’側)の前にはヌクレオチドGAATTC(EcoR I制限酵素切断部位)およびTGTGTGを添加し、664位の後ろにはヌクレオチドACTAGT(Spe I制限酵素切断部位)およびCACACAを添加し、EcoR IおよびSpe Iによる制限消化後の連結を可能にした。UvsXH6、UvsXH6−2、H6UvsX、およびH6UvsX−2のコーディング配列を、好ましい制限酵素切断部位、リボソーム結合部位、および追加のコドンを含有するプライマーで、T4−DNAのPCR増幅によって得た。PCR生成物は、開始コドンの前の5’末端において、追加のヌクレオチド5’−CACACAGAATTCATAAAGGAAGATATCAT−3’、および終止コドンの後の3’−末端において追加のヌクレオチド5’−ACTAGTTGTGTG−3’を含有した。
【0047】
精製:
1.5〜3 lのdYT/アンピシリン(200μg/ml)1:1000培地に、pExH−H6UvsXを含むDH5の一夜培養液を接種し、37℃下に一夜、250RPMで増殖させた。7000×gで収集した培養液は約7〜15gの細菌沈降物を生じた。これを−20℃下に1〜3日間凍結した。この沈降物を氷上で解凍し、10〜20mlの冷却した開始バッファーに再懸濁した。リゾチーム(セルヴァ(Serva)、190,000u/mg)10mgおよびグラスビーズ約4gを用いて、4℃下に1時間ゆっくり攪拌しながら溶解を行った。次いで、DNAseI(セルヴァ(Serva)、2mg/ml)50μlを添加し、さらに30分間インキュベートした。ライセートの遠心分離(4℃下、11,000×gで45分)後、無菌フィルタ(孔径0.45μm)を通じて上清をろ過し、Ni++イオンをプレロードして、平衡化した1mlのHiTrapTMキレートカラム(ファルマシア(Pharmacia)上にロードした。その後の精製ステップは、ヒスチジン6量体を備えたタンパク質に対するファルマシア社のプロトコルに従って行った。異なる溶出画分の一定分量をSDS/Coomassie−ゲル上にロードした。最も純粋な画分を統合し、セントリプラス(Centriplus)YM30カラム(ミリポア(Millipore))でそれぞれのプロトコルに従ってさらに濃縮した。その後、少なくとも1000倍量のZIバッファーで2回の透析(透析チューブ:Spectra/Por、MWCO:25,000)を4℃下にそれぞれ少なくとも1時間行い、次いで4℃下に一夜、ZIバッファー/50%グリセリンで透析した。透析液を30〜50μlの画分に分注し、−80℃下に保存した。
【0048】
使用バッファー:
ZIバッファー:76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2。
開始バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、10mMイミダゾール、pH=7.4。
洗浄バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、20〜50mMイミダゾール、pH=7.4。
溶出バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、100〜500mMイミダゾール、pH=7.4。
【0049】
濃度測定:
UvsX−タンパク質の濃度は、Programm Gene InspectorTM(テクストコ社(Texto,Inc.))で計算された吸光係数を用いて、OD280を測定することによって決定した。H6UvsXの濃度は2.5〜3.5μg/μlであった。
【0050】
実験の概要
Ni++セファロースで精製したH6UvsXをそれぞれ200ngの1kbのPCR断片と(1mM ATP−γ−Sの存在下および非存在下)でインキュベートした。
【0051】
タンパク質結合によって生じるアガロースゲル中のDNAのシフトは、H6UvsXが濃度に依存して2本鎖DNAに結合し、この結合がATP−γ−Sによって増強されることを示している。
【0052】
ATP−γ−Sの存在下では、ATP−γ−Sの非存在下よりも臭化エチジウムで強く染色されるタンパク質−DNA複合体が生じ、このことはヌクレオチド類似体による核タンパク質フィラメントの形態的変化を示唆している。
【0053】
(実施例2)
機能的構成成分として核局在化シグナルをもつ、NPF形成タンパク質としてのUvsXを用いた、トランスフェクション試薬の調製
実施例1に記載したタンパク質に由来して、さらに核局在化シグナルを含有する、融合タンパク質UvsXH6N2、UvsXH6N2−2、N2H6UvsX、およびN2H6UvsX−2の発現を可能にするプラスミドを、実施例1のようにして調製した(図1を参照)。
【0054】
タンパク質の構造:
UvsH6N2(426アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸G392GS394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸G401GS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−421:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸388−391)のC末端、アミノ酸422−426:アミノ酸K422LVTG426からなるC末端、アミノ酸置換:Y238→V。
【0055】
UvsH6N2−2(420アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YS394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−420:アミノ酸G418YP420のC末端。
【0056】
N2H6UvsX(420アミノ酸):
アミノ酸1−3:アミノ酸M1SY3のN−末端、アミノ酸4−17:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸18−20:アミノ酸L18YS20のリンカー、アミノ酸21−26:H21HHHHH26、アミノ酸27−29:アミノ酸S27YG29のリンカー、アミノ酸30−420:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)、アミノ酸置換:Q356→L。
【0057】
N2H6UvsX−2(421アミノ酸):
アミノ酸1−4:アミノ酸M1GYP4のN−末端、アミノ酸5−18:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸19−21:アミノ酸S19YS21のリンカー、アミノ酸22−27:H22HHHHH27、アミノ酸28−30:アミノ酸S28YG30のリンカー、アミノ酸31−421:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)。
【0058】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌(Escherichia coli)細胞における発現のために、lacプロモーターの制御下にUvsXH6N2、UvsXH6N2−2、N2H6UvsX、またはN2H6UvsX−2のコーデング配列を含有するプラスミドを構築した(pExH−UvsXH6N2、pExH−UvsXH6N2−2、pExH−N2H6UvsX、またはpExH−N2H6UvsX−2、図1を参照)。これらのプラスミドは、実施例1に記載したように、2つのPCR生成物の連結によって調製した(図1を参照)。
【0059】
精製:
UvsXH6N2の精製は、H6UvsXについて実施例1に記載したように行った。
濃度:10〜20μg/μl。
【0060】
実験の概要:
UvsXH6N2は2本鎖DNAに結合する。その結合はATP−γ−Sによって安定化する:
UvsXH6N2のDNAへの結合挙動に対する、様々なATP−類似体の影響を調べるために、まず、1kbのDNA断片および様々なATP−類似体とタンパク質をインキュベートした。次いで、競合のために1.7kbのDNA断片を添加した。ATP−類似体の添加によってDNAへのタンパク質結合の安定化が行われれば、平衡が生じない限り、競合DNA断片にUvsXH6N2が結合する可能性は低いことが予想される。図3に見られるように、1kbのDNA断片およびUvsXH6N2によって生じるタンパク質−DNA複合体は、ATP−γ−Sおよび1.7kbのDNA断片存在下で、使用した他のすべてのATP−類似体に比べ、安定であった。すなわち1.7kbのDNA断片は、観察時間内において、遊離したUvsXH6N2−分子によって占有されないか、またはわずかにしか占有されないと思われる。
【0061】
(実施例3)
修飾および非修飾NPF形成タンパク質の混合によるトランスフェクション試薬の調製
実験の概要:
異なる割合のH6UvsXおよびUvsXH6N2を1kbのDNA断片とインキュベートした。2つのタンパク質が、それらの異なる分子量に基づき、DNAの移動度を様々な度合いで小さくする。(図4の2および3レーンを参照)。タンパク質をDNAへ添加する前に混合すると、UvsXH6N2に対するH6UvsXの割合に応じて中間複合体が生じ、これらはシャープなバンドを生じるとともに、同等の平均分子量を有する。これはDNAが統計的に均一に両方のタンパク質で被覆されていることを示す。
【0062】
(実施例4)
エレクトロポレーション法と組み合せた、UvsX−NLSによるセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
NIH3T3細胞(接着性、70〜80%の集密まで培養)を、マウスMHCクラスIタンパク質H−2KKの重鎖をコードするベクターをトランスフェクションした。1×106細胞に、予め結合バッファー(76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、5mM MgCl2、pH=7.21)中で、14μgのUvsXまたはUvsX−NLSと、1mM ATP−γ−Sの存在下または非存在下に、室温下に30分間予備インキュベートした25ngのベクターDNAをエレクトロポレーションした。さらに、細胞をエレクトロポレーションバッファー(103mM NaCl、5.36mM KCl、0.41mM MgCl2、23.8mM NaHCO3、5.64mM Na2HPO4、11.2mMグルコース、0.42mM Ca(NO3)2、20mM HEPES、3.25μMグルタチオン)中に総量100μlとして入れ、電極間隔2mmのキュベットでエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションは240Vの電圧および450μFの電気容量での指数関数的な放電によって行った。電圧降下の半減期は通常、12ミリ秒であった。エレクトロポレーション直後、キュベットから培地(10%FCSを含むRPMI)を用いて細胞を回収し、37℃下に10分間インキュベートし、次いで予め保温した培地を含む培養シャーレに移した。6時間のインキュベーション後、細胞を収集し、PBS中での2回の洗浄後、Cy5結合−抗H−2KK抗体でインキュベートし、フローサイトメトリー(FACScan)により分析した。ヨウ化プロピジウム染色によって死細胞の数を測定した。エレクトロポレーションの6時間後、ベクターDNAのみをトランスフェクションされた細胞の(平均0.25%のバックグラウンドを除き)7.4%ないし8.7%がH−2KKタンパク質を発現する。これに比べて、ベクターUvsXをトランスフェクションされた細胞の発現率は2.9%ないし3.8%であった。ベクターUvsX−NLSのトランスフェクションにおける発現率は19.2%ないし18.9%である(図5a〜5dを参照)
【0063】
核移行を調べるために、UvsX以外に別の生化学的成分がトランスフェクションに対する影響を示さないように、エレクトロポレーションの物理的方法を選択した。しかし、ATP−γ−Sを含むUvsXのDNAへの強固な結合は、電場における複合体の運動性を抑制するために、エレクトロポレーションの効率を約60%低下させる。核移行シグナルを付加するだけで、この系におけるトランスフェクション直後の発現は平均5.7倍上昇する。UvsXに比べてUvsX−NLSによる発現の上昇は、機能的構成成分として核移行シグナルを使用する場合、核内へUvsXによってDNAが輸送されることを示す。トランスフェクション直後の分析は、トランスフェクションと分析との間で分裂していない細胞も使用できることによって、大幅に改善される。
【0064】
(実施例5)
エレクトロポレーション法と組み合せた、UvsXスクランブル化NLSまたはUvsX−NLSのセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
UvsXスクランブル化NLSの作製
トランスフェクションに対する核内移行シグナルの影響を調べるため、その正味電荷においてNLSを含むUvsXタンパク質に対応するが、それ自体は機能的NLSを含有しないUvsX誘導体を比較用に作製した。
【0065】
部分的に相同のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、UvsX−遺伝子をプラスミドpExH−UvsXH6N2−2(図1を参照)から増幅し、生じるタンパク質UvsXH6N2scのC末端において、アミノ酸配列EEDTPPKKKRKVED(「nls−2」、(WO 00/40742)のSEQ ID NO:9のアミノ酸2−15に対応)の代わりに、アミノ酸配列SEQ ID NO:1(「スクランブル化」、すなわち混合NLS配列)が発現させる。スクランブル化アミノ酸は、その構成において記載されたnls−2に対応するが、その配列においては対応しない。したがって、UvsXH6N2−2およびUvsXH6N2scの正味電荷は同じであるが、UvsXH6N2−2のみが完全な核内移行シグナルを含有する。
【0066】
タンパク質UvsXH6N2scを実施例1のタンパク質について記載したように精製した。
【0067】
NIH3T3細胞(接着性、70〜80%の集密まで培養)に、蛍光マーカータンパク質をコードするベクターをトランスフェクションした。このために、最初に結合バッファー(実施例1を参照)中の25ngのベクターDNAを、1.5mM ATP−γ−Sおよび示したタンパク質16〜18μgで室温下に30分間インキュベートした。タンパク質−DNA複合体を、80μlのエレクトロポレーションバッファー(140mM Na2HP4/NaH2PO4、10mM MgCl2、5mM KCl、pH7.2)中に再懸濁した、それぞれ3×105のNIH3T3細胞に添加した。エレクトロポレーションは、電極間隔2mmのキュベットで240Vの電圧および450μFの電気容量での指数関数的な放電によって行った。電圧降下の半減期は通常、12ミリ秒であった。RPMI1640(ギブコ(Gibco)社)、5%FCS、2mMグルタマックス(L−アラニル−L−グルタミン、インビトロゲン(Invitrogen)社)、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.5mM β−メルカプトエタノールを含む培地400μlの添加後、培養シャーレ(6穴プレート)中に細胞を1mlの予め保温した培地とともに添加し、37℃および5%CO2下にインキュベートした。6時間後、フローサイトメトリー分析(FACScan)を行った。
【0068】
結果は図6のグラフに示されており、ベクターDNAのみによりトランスフェクションされた細胞の9%がマーカータンパク質を発現する。それに対して、ベクター‐UvsX−NLS(DNA+UvsXH6N2−2)によりトランスフェクションされた細胞の発現率は、21%である。これと比べ、ベクター‐UvsXスクランブル化NLS(DNA+UvsXH6N2sc)によるトランスフェクションの場合、細胞の発現率は4%でしかない。したがって、核内移行シグナルで修飾されたUvsXは、DNAのみとの比較、および非機能的核内移行シグナルによる修飾との比較において、効率を明らかに上昇させる。非機能的核内移行シグナルによる修飾のトランスフェクションは対照実験を示しているので、UvsXの修飾によってトランスフェクション効率が5倍に上昇したことを意味している。本発明による方法またはトランスフェクション試薬によって、トランスフェクション効率が明らかに上昇する。さらに、NPF形成タンパク質の修飾によって、トランスフェクション過程のねらった制御、ここでは例えば細胞核への入ることも、有利な方法で可能となる(実施例6も参照)。
【0069】
(実施例6)
マイクロインジェクションと組み合せたセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
1.7kbの発現ベクターDNA断片140ngを、上記のように最終量20μlで結合バッファーおよび1mM ATP−γ−S中で修飾UvsXタンパク質9μgと室温下に30分間インキュベートした。注入マーカーとしては、注入直前に約1μg/μlの濃度でBSA−Cy5を使用した。
【0070】
前日にCELLocateカバーガラス(エッペンドルフ(Eppendorf)上に半集密(subconfluent)に播種されたNIH3T3細胞を、マイクロマニピュレーターおよびトランスジェクター(エッペンドルフ)を用いて、インバース蛍光顕微鏡(ライカ(Leica)DMIL)下にフェムトチップ(エッペンドルフ)に入れたサンプルによってマイクロインジェクションした。
【0071】
評価は蛍光顕微鏡(オリンパスBX60−蛍光顕微鏡、デジタルS/WカメラSPOT−RT(ディアグノスティック インスツルメンツ社(Diagnostic Instruments INc.)、評価ソフトウェア:Metaview画像システム(ユニバーサル イメージング コーポレーション(Universal Imaging Corporation))で、37℃および5%CO2下、さらに5時間のインキュベーション後に行った。
【0072】
図7は、マイクロインジェクションされたNIH3T3細胞を示す。写真1および2は、DNAおよびUvsXH6N2scを細胞質に注入された細胞を示し、写真3および4は、DNAおよびUvsXH6N2−2が注入された細胞を示し、写真5および6は、DNAのみが注入された細胞を示す。発現は、タンパク質−DNA複合体UvsXH6N2−2が、核内移行シグナルで修飾されたUvsXタンパク質を含有した場合のみ観察された(図7、写真3)。マイクロインジェクションで、明らかに細胞質のみに注入され、核には注入されていない対照細胞(図7、写真5:DNAのみ、または図7、写真1:UvsXスクランブル化NLSとDNA)では、きわめて長く露光しても、発現は確認されなかった。
【0073】
(実施例7)
NPF形成タンパク質としての組換えSASPの作製
枯草菌(B.subtilis)由来のSASPタンパク質のクローニング、発現、および精製
SASP(small acid−souluble spore protein*)をコードする、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のSspC遺伝子を、8個のオリゴヌクレオチドからコラナ(Kohorana)法(非特許文献50)に従って合成し、プラスミドpARA13のNcol切断部位とBglll切断部位(非特許文献51)との間に連結した。これは、NCBIタンパク質目録番号:NP_389876のタンパク質配列をもとにした。DNAへの逆転写は、大腸菌において強く発現しており非特許文献52に記載されている、遺伝子の使用頻度の高いコドン(codon preferences)を用いて行った。作製したプラスミドpARA13−SASPを、N末端(H6−SASP)またはC末端(SASP−H6)のいずれかが6個のヒスチジンからなるポリヒスチジン配列を有するSASPタンパク質をコードする、2つの別のプラスミドのクローニング用のテンプレートとして使用した(図8)。これらのプラスミドによって大腸菌株BL21(DE3)pLysS(マジソン(Madison)、ノバーゲン社(Novagen)を形質転換し、LB/アンピシリン/グルコース(0.2%)上にプレーティングした。
【0074】
M9最小培地(0.2%グルコース)20mlにそれぞれ個別のコロニーを接種し、37℃および220rpmで一夜、増殖させた。翌日、OD600約1.0で0.2%アラビノースで誘導をかけた後、さらに6時間増殖させた。未精製抽出物(PBS/泳動バッファーに懸濁した0.5mlペレット化培養液)を高分解能のSDSゲル((非特許文献53)に従って)に泳動し、クーマシーブルーで染色した(図9A)。
【0075】
予備精製のために、2lのM9/グルコース1:200に一夜培養液を接種した。再び、OD600約1.0で0.2%アラビノースで誘導し、6時間増殖させた。次いで、細菌をペレット化し、−20℃で凍結した。以下、SASP−H6の精製を例示的に記載する。ペレット(約7g)の解凍後、これらを完全EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル(マンハイム、ロシュ(Roche)社)を添加した開始バッファー(実施例1を参照)14ml中に再懸濁し、3分間、氷上で280ワット(Labsonic U(ブラウンバイオテック、Melsungen repeating duty puls:0.5秒)で超音波処理した。抽出物を4℃下に遠心分離した。さらに、精製はUvsXタンパク質について記載したように、HiTrapキレーティングカラム(ウプサラ、アマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia))によって行った。タンパク質が高濃度で含まれているイミダゾール200mMと500mMとの間の画分を統合し、セントリプラス(Centriplus)カラム(YM−3、エシュボーム、ミリポア(Millipore)社)を用いて約3mlに濃縮した。次いで、SASPタンパク質を1×ZIバッファー(実施例1を参照)に対して3回透析し、約5μg/μlの濃度の分注物を−80℃下に凍結した。
【0076】
SASPタンパク質のDNA結合能の試験
1.7kbのDNA断片それぞれ125ngを、1×ZIバッファーまたは1/10×ZIバッファー中で、異なる量のSASP−H6タンパク質と室温下に30分間、予備インキュベートし、次いで0.8%TAEアガロースゲルで泳動した。
【0077】
図9Bは、DNAが完全にタンパク質によって結合されていることを示す。DNA−タンパク質バンドが拡散して見えるのは、おそらく泳動中にタンパク質がDNAから分離することが原因であると思われる。
【0078】
(実施例8)
修飾として核局在化シグナルをもつ、NPF形成タンパク質としてのSASPをもつトランスフェクション試薬の調製
機能的構成成分として核局在化シグナル(NLS)をもつSASPの調製のために、既存のクローンpARA13−SASP−H6(図8を参照)C末端に、核局在化シグナル((WO 00/40742)による「nls−2」、アミノ酸2−15、SEQ IQ NO:9)をコードするDNA配列をPCR増幅によって添加した。その際に、上記のプラスミドをPCRテンプレートとして使用した。作製したプラスミドpARA13−SASP−H6N2(図8を参照)を実施例7において記載されているように形質転換し、タンパク質SASP−H6N2を適切に精製した。
【0079】
SASP−NLSタンパク質のDNA結合能の試験
1.7kbのDNA断片それぞれ125ngを、1×ZIバッファー中で異なる量のSASP−H6N2タンパク質と室温下に30分間、予備インキュベートし、次いで0.8%TAEアガロースゲルで泳動した。
【0080】
図10Bは、NLS修飾SASPもDNAの移動度を小さくすることを示す。DNA−タンパク質バンドは拡散性に見える。
【0081】
(実施例9)
機能的構成成分として、細胞表面へ複合体が結合するインテグリン結合モチーフをもつトランスフェクション試薬の調製
インテグリンは細胞表面上の膜固着性の接着タンパク質であり、そのうちの一部は結合相手として3つのアミノ酸(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸、つまり「RGD」モチーフ)からなるペプチドモチーフを認識する。その結合により細胞表面上でいくつかのインテグリン分子がクラスターを形成し、エンドサイトーシスが生じる(非特許文献54)。RGDモチーフを用いて、NPF形成タンパク質としてUvsXを修飾することによって、トランスフェクション試薬がインテグリンを介して特異的に細胞のエンドソーム区画に取り込まれることを達成することができる。
【0082】
タンパク質の構造
使用したタンパク質H6UvsXおよびUvsXH6N2−2は、図1に示されており、実施例1および2に記載されているものと同一である。
【0083】
タンパク質H6UvsX*(RGD2)は、化学的なカップリングによって調製した。RGD2と呼ばれるペプチドは、アデノウィルスタイプ7のペントンベースタンパク質由来のノナペプチド(NITRGDTYI)であり(非特許文献55)、N末端アミノ基にUvsXタンパク質における遊離システイン−SH基へのカップリングを可能にする化学的に活性な基(SMCC、スクシニミジル4[N−マレイミドメチル]−シクロへキサン−1−カルボキシレート)があるように合成した。
【0084】
カップリングのために、H6UvsX 6nmolを76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2中でペプチド60nmolと37℃下に1時間にわたりインキュベートし、次いで過剰なペプチドを取り除くために、MicroConフィルタ(10kDaカットオフ)を用いて、インキュベーションバッファーでの複数回洗浄することによって精製した。カップリングの成功は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動における泳動度の変化によって検出された。図11は、SDS−ポリアクリルアミドゲル上で互いに独立して調製された2つのH6UvsX*(RGD2)を示す。カップリングされたペプチドは、分子量が上昇し、SDSゲルにおける泳動度の変化をもたらす。
【0085】
実験の概要:
UvsX−NLSおよびUvsX−RGDの2本鎖DNAへの結合および混合NPFの形成:
精製された1.6kbのPCR DNA断片それぞれ140ngの沈殿物を、76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S中で、H6UvsX*(RGD2)15μgとUvsXH6N2−2 4μgとの混合物、UvsXH6N2−2 4μgのみ、およびH6UvsX*(RGD2)15μgのみと、最終量20μl、室温下に30分間インキュベートし、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。電気泳動は、1時間、100Vで行った。
【0086】
図12は、2つの異なって修飾されたタンパク質がDNAとNPFを形成し、その泳動度が明らかに異なることを示す。2本鎖DNA断片と、H6UvsX*(RGD2)およびUvsXH6N2−2との混合物(レーン1)、またはUvsXH6N2−2のみ(レーン2)、またはH6UvsX*(RGD2)のみ(レーン3)からなるNPFをアガロースゲル中に電気泳動で分離した。存在するタンパク質の量が不足しているため、遊離DNA断片も存在する。反応液中の両方のタンパク質は共にDNA断片に結合し、それぞれのタンパク質のみでNPFを形成するときの間の分子量を有する混合NPFを生じる(レーン1)。このことから、UvsX−NLSおよびUvsX−RGDは2本鎖DNAに結合し、混合NPFを形成しうると結論付けることができる。
【0087】
(実施例10)
インテグリン介在性エンドサイトーシスによる細胞内へのNPFの特異的取り込み
タンパク質の構造
UvsXおよびインテグリン結合RGDモチーフ由来の融合タンパク質の発現を可能にするプラスミドUvsXH6N2NIT−2(図1)を実施例1に示すように組換えて作製した。
【0088】
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YG394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−420:アミノ酸G418YP420由来のC末端、およびアミノ酸421−432:RGD−モチーフ「NIT」:N421ITRGDTYIPYP432。
【0089】
実験の概要:
蛍光標識DNAおよびUvsX誘導体由来のNPFの結合:
AlexaFluor488標識dUTP(モレキュラー プローブス(Molecular Probes)社(米国、オレゴン州、ユージーン))をdTTPの代わりに含有する、精製された1.6kbのPCR DNA断片それぞれ1μgを、76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S中で、精製されたUvsXH6N2またはUvsXH6N2NIT−2 100μgと、最終量200μlで室温下に30分間インキュベートした。次いで、NPF反応物のそれぞれ10μlを、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。電気泳動を1時間、100Vで行った。図13は、DNAの移動度が完全に遅れていることを示す。したがって、タンパク質のDNA結合は、DNAの蛍光標識によっても妨げられない。
【0090】
エンドサイトーシスによるNIH3T3細胞におけるNPFの取り込み:
NIH3T3細胞を6穴プレート(穴当たり3×105)に播種し、37℃および5%CO2下に一夜インキュベートし、翌朝に予め保温したFCSが入っていない培地で洗い、次いで2mlのFCSが入っていない培地を加えた。これにNPF反応物(上記参照)190μlを添加し、室温下に30分インキュベートし、上清を除去し、細胞を洗浄し、3mlの培地(10%FCS含有)を添加した。さらに、インキュベーター内で37℃、1時間のインキュベーション後、蛍光顕微鏡下に評価を行った。図14aおよび14bには、それぞれ明視野(下)および明蛍光(上)における写真が示されている。
【0091】
明視野には、エンドサイトーシスによって取り込まれたDNAのために蛍光で光る小胞性の細胞内区画が見られる(図14a、b上)。
【0092】
各穴から、何枚かずつの写真をとった。細胞数を計算し、少なくとも一つの蛍光性の小胞性区画を含有する細胞の割合(%)を測定した(図15に示した)。それぞれの写真は平均35の細胞を含んでいた。UvsXH6N2IT−2の作用については、9枚の写真によって分析され、UvsXH6N2−2の作用については、5枚の写真によって分析された。
【0093】
結果は、機能的構成成分としてのインテグリン結合モチーフによるUvsXの修飾(UvsxH6N2−NIT−2)が、対照(UvsXH6N2−2)に比べ細胞へのトランスフェクション試薬の明らかに高いエンドサイトーシスによる取り込みをもたらすことを示している。
【0094】
(実施例11)
NPF形成タンパク質としてhRad51を用いたトランスフェクション試薬の調製
NPF形成タンパク質として、タンパク質hRad51H6、およびhRad51H6N2を使用した(図16を参照)。
【0095】
タンパク質の構造:
hRad51H6(352アミノ酸):
アミノ酸1−339:ヒトRad51(NCBIタンパク質目録番号:Q06609、アミノ酸1−339)、アミノ酸340−343:アミノ酸Y340SYG343のリンカー、アミノ酸344−349:ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィによる精製のためのH344HHHHH349、アミノ酸350−352:アミノ酸M350YS352のC末端。
【0096】
hRad51H6N2(369アミノ酸):
アミノ酸1−339:ヒトRad51(NCBIタンパク質目録番号:Q06609、アミノ酸1−339)、アミノ酸340−343:アミノ酸Y340SYG343のリンカー、アミノ酸344−349:ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィによる精製のためのH344HHHHH349、アミノ酸350−352:アミノ酸M350YS352のリンカー、アミノ酸353−366:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸367−369:アミノ酸G367YP369のC末端。
【0097】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌の細胞における上記のタンパク質の発現のために、lacプロモーターの制御下にhRad51H6、またはhRad51H6N2のコーディング配列を含有するプラスミドを構成した(pExH−hRad51H6、またはpExH−hRad51H6N2、図16を参照)。出発プラスミドとして、pExH−UvsXH6−2、およびpExH−UvsXH6N2−2を使用した(図16を参照)。
UvsXのコーディング領域をそれぞれEcoR VおよびBsiW Iで切断し、同様にして切断したhRad51のコーデング領域のPCR断片によって置き換えた。これは、好ましい制限酵素切断部位を含有するhRad51特異的プライマーを用いて、ヒトcDNAライブラリーから増幅させた。PCR生成物は、開始コドンの前の5’末端において追加のヌクレオチド5’−CACACATCTAGACGTACGGATATCAT−3’、および3’−末端においては、終止コドンの代わりに追加のヌクレオチド5’−TACTCGTACGGAGGTGGCGGCCGCTGTGTG−3’を含有した。
【0098】
精製:
dYT/アンピシリン(100μg/ml)5mlの予備培養液に、pExH−Rad51H6またはpExH−Rad51H6N2をもつDH5を接種し、37℃下に5時間、250rpmで増殖させた。dYT/アンピシリン(100μg/ml)10lにこの予備培養液を接種し、さらに37℃下に24時間、210rPMで増殖させた。7000×gで収集された培養株は約30〜50gの細菌沈降物を生じた。この沈降物を−20℃下に1〜3日間、凍結させた。この沈降物を氷上で解凍し、100mlの冷却した開始バッファーに再懸濁した。その後、B.Braun Labsonic Uを使用して超音波で細胞を可溶化した(大プローブ、パラメータ:300W、毎秒0.5秒のパルス時間、超音波処理8分)。次いで、リゾチーム(セルヴァ(Serva)、190,000u/mg)10mgを加えて4℃下に1時間インキュベートし、さらにDNAseI(セルヴァ(Serva)、2mg/ml)50μlを添加し、30分間、ゆっくり攪拌しながらインキュベートした。遠心分離(4℃下、18000xgで45分)で溶解物を除いた後、無菌フィルタ(孔径0.45μmおよび0.2μm)を通じて上清をろ過し、Ni++イオンをプレロードして、平衡した1mlのHiTrapTMキレートカラム(ファルマシア(Pharmacia)上にロードした。その後の精製ステップは、ヒスチジン6量体を備えたタンパク質に対する対応するそれぞれのファルマシア社のプロトコルに従って行った。異なる溶出画分の一定分量をSDS/Coomassie−ゲル上にロードした。それぞれ最も純粋な画分を統合し、さらに、セントリプラス(Centriplus)YM30カラム(ミリポア(Millipore))でそれぞれのプロトコルに従って濃縮した。その後、少なくとも1000倍量のZIバッファーで2回の透析(透析チューブ:Spectra/Por、MWCO:25,000)を4℃下にそれぞれ1時間行い、次いで4℃下に一夜、ZIバッファー/50%グリセリンで透析した。透析液を30〜50μlの画分に分注し、−80℃下に保存した。図17は精製されたhRad51−H6およびhRad51−H6N2タンパク質を示す。
【0099】
使用バッファー:
実施例1に示す。しかし、異なる溶出バッファー:20mM Pi、0.5M NaCl、100〜1000mMイミダゾール、pH=7.4を用いた。
【0100】
濃度測定:
hRad51−タンパク質の濃度は、Programm Gene InspectorTM(テクストコ社(Texto,Inc.))で計算された吸光係数を用いて、OD280を測定することによって決定した。
【0101】
hRad51H6およびhRad51H6N2の濃度は11〜13μg/μlであった。
【0102】
実験の概要
NLS修飾hRad51の2本鎖DNAへの結合:
Ni++セファロースで精製したhRad51H6N2をそれぞれ100ngの0.9kbのPCR断片とインキュベートした。
【0103】
タンパク質結合によってひき起こされるアガロースゲル中のDNAのシフトは、hRad51H6N2が濃度に依存して2本鎖DNAを協同的に結合することを示している(図17B)。hRad51H6N2の量が少ない場合でも、個々のDNA分子はhRad51H6N2によって完全に結合され、したがって最大限に移動度が小さくなるため、タンパク質の量が上昇しても、DNAの移動度の抑制はそれ以上に増大しない。hRad51H6N2はdsDNAに結合すると結論付けることができる。
【0104】
(実施例12)
機能的構成成分として非エンドソーム膜通過シグナルおよび核局在化シグナルをもつUvsXを用いたトランスフェクション試薬の調製
実施例2に記載したタンパク質UvsXH6N2−2に由来し、ヒトヘルペスウィルス1由来の外被タンパク質VP22(遺伝子UL49)の一部分を有する融合タンパク質UvsXH6N2VP22c50(図1を参照)の発現を可能にするプラスミドを、実施例1のように調製した。ここで使用したVP22ペプチドは、細胞膜を通る非エンドソーム通過のシグナルとして作用する。したがって、融合タンパク質UvsXH6N2VP22c50は、核内局在化シグナル(NLS)に加えてさらに膜導入シグナルを含有する。
【0105】
タンパク質の構造:
UvsH6N2VP22c50(474アミノ酸):
アミノ酸1−391:T4ファージ由来のUvsX(NCBIタンパク質目録番号:AAD42669、アミノ酸 1−391)、アミノ酸392−394:アミノ酸S392YG394のリンカー、アミノ酸395−400:H395HHHHH400、アミノ酸401−403:アミノ酸M401YS403のリンカー、アミノ酸404−417:核局在化シグナルnls−2((WO 00/40742)のアミノ酸2−15、SEQ ID NO:9)、アミノ酸418−422:アミノ酸G418YPGS422、アミノ酸423−472:ヒトヘルペスウィルス1(NCBIタンパク質目録番号:NP_044651、アミノ酸252−301)の外被タンパク質VP22(遺伝子UL49)の一部、アミノ酸473−474:アミノ酸P473R474のC末端。
【0106】
発現プラスミドのクローニング
適切な大腸菌の細胞における発現のために、pExHUvsXH6N2−2(実施例1および図1を参照)をAcc65 IおよびSpe Iによる制限消化によって切り開き、Acc65 IおよびNhe Iで切断されたPCR生成物と結合した。このPCR生成物は、ヒトヘルペスウィルス1(NCBIタンパク質目録番号:NC_001806、ヌクレオチド105486−106391の相補配列)の外被タンパク質VP22(遺伝子UL49)由来の最後の50個のアミノ酸をコードする配列に加えて、5’末端において追加のヌクレオチド5’CACACAGGTACCCGGGATCC−3’、および3’−末端において追加のヌクレオチド5’−CCTAGGTAATAATAAGCGGCCGCGCTAGCTGTGTG−3’を含有した(図1を参照)。
【0107】
精製:
UvsXH6N2VP22c50の精製を、H6UvsXについて実施例1に記載したように行った(図18Aを参照)。
濃度:1.8μg/μl。
【0108】
実験の概要:
さまざまな修飾UvsX(UvsX−NLS−VP22およびUvsX−NLS)の混合物の、2本鎖DNAへの結合:
精製された1.7kbのPCR断片それぞれ140ngを、精製されたUvsXH6N2VP22c50またはUvsXH6N2−2の図18Bに示された量と、96mM K2HPO4、21.5mM KH2PO4、18mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1.3mM ATP−γ−S中で、室温下に30分間インキュベートし、次いですべての反応物を0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。2つのタンパク質はその分子量およびその正味電荷において異なり、したがって電気泳動の間にDNAの移動度の抑制が異なり、その際にUvsXH6N2VP22c50を含む複合体は、ゲル孔に残ったままであり、まったく移動することはない(図18Bの1および7レーンを参照)。タンパク質をDNAへの添加前に混合すると、UvsXH6N2VP22c50に対するUvsXH6N2−2の割合に応じて中間複合体が生じ、その移動度は、混合されていない複合体を用いた場合の移動度の間にある(図18B)。これは、DNAが両方のタンパク質で覆われていることを示す。さまざまに修飾された、または、1つまたは2回修飾されたNPF形成タンパク質の混合も可能である。
【0109】
(実施例13)
DNAおよびUvsX−NLS−VP22とUvsX−NLSの混合物の複合体によるセルライン(NIH3T3)のトランスフェクション
実験の概要:
2.5×105細胞(NIH3T3)を6穴プレートの各穴に播種し、翌日、蛍光レポータータンパク質を発現する遺伝子を含有するベクターをトランスフェクションした。これは、さらに、0μg〜1μgの直鎖状または1μgの環状DNAを、36μgのUvsXH6N2VP22c50と、または19μgのUvsXH6N2VP22c50と39μgのUvsXH6N2−2の混合物と、結合バッファー(76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S、pH7.21)中、室温下に30分間、予備インキュベートし、1mlのRPMIと共に、予めPBS/BSAで一度洗浄した細胞に添加した。インキュベーターで37℃、5%CO2下、1時間のインキュベーションした後、それぞれ1mlのRPMI/20%FCSを添加し、さらにインキュベーターでインキュベートした。その後、4時間後または24時間後に蛍光顕微鏡で細胞を分析した。
【0110】
直鎖状または環状のDNAおよびUvsXH6N2VP22c50とUvsXH6N2−2の混合物との複合体による処理後に、レポーター遺伝子を発現する細胞を観察した(図19を参照)。その際に、トランスフェクションされた細胞の数は、用いたDNAまたはDNA−タンパク質複合体の量とともに上昇した。
【0111】
それに対して、UvsXH6N2VP22c50のみを含有するDNA複合体によって、すなわちDNAの非存在下では、レポーター遺伝子の発現は得られなかった。
【0112】
したがって、膜活性ペプチド、ここではVP22によって、NPF形成タンパク質、ここではUvsXを修飾することによって、細胞のトランスフェクションおよびここでは特に膜通過が促進されることがわかる。本発明による方法またはトランスフェクション試薬のモジュラーの特徴は、さまざまに修飾されたタンパク質の組み合せ、ここではVP22およびNLSによる修飾によって強調される(図20も参照)。VP22で修飾されたUvsXは、非エンドソーム膜通過を可能にする一方で、NLSで修飾されたUvsXは、トランスフェクションされたDNAを細胞質から細胞核へ誘導し、その後にそこで発現することができる。
【0113】
したがって、複雑なトランスフェクション過程の個々のステップは、特に有利な方法で、特異的に、柔軟に、高い効率をもって制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】発現プラスミドの概略図。 実施例に記載されたNPF形成タンパク質の構造および作製を示す概略図である。
【図2】UvsXの2本鎖DNAへの結合。 76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および0または1mM ATP−γ−S中で、H6UvsXの示された量と精製された1kbのPCR断片それぞれ200ngの反応混合物を示す図であり、それらは、最終量15μlで室温下に30分間インキュベートされ、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色されたものである。
【図3】異なるATP−類似体の存在下におけるNLS−修飾されたUvsXの2本鎖DNAへの結合。 精製された1kbのPCR断片の250ngを、最終量20μlで76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および0.5または2mMの示されたヌクレオチド類似体中で15μgのUvsXH6N2と室温下に30分間インキュベートした。次いで、反応混合物を分け、半分(B)に1.7kbのPCR断片220ngを添加し、さらに室温下に30分間インキュベートし、0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。
【図4】UvsXと修飾UvsXの混合物の2本鎖DNAへの結合。 精製された1kbのPCR断片それぞれ200ngを、精製されたH6UvsXまたはUvsXH6N2の示された量とともに、76mM K2HPO4、17mM KH2PO4、14mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1mM ATP−γ−S中で室温下に30分間インキュベートし、次いですべての反応混合物を0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。塩、微量のイミダゾール、グリセリンによってDNAの電気泳動度がアーティファクトである可能性を排除するために、溶出バッファーまたは透析バッファーのサンプルが8および9レーンには含まれている。(最終濃度:500mMイミダゾールを含む1/10vol溶出バッファー、50%グリセリンを含む3/20vol透析バッファー)。
【図5a】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析。図5(a)は、DNAなしのエレクトロポレーションのFACScan分析を示す図である。
【図5b】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析図5(b)は、UvsXなしのベクターDNAのエレクトロポレーションのFACScan分析を示す図である。
【図5c】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析。図5(c)は、UvsXにパッケイジングされたベクターDNAを入れたときのFACScan分析を示す図である。
【図5d】エレクトロポレーションと組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションのFACScan分析。図5(d)は、UvsX−NLSにパッケイジングされたベクターDNAを入れたときのFACScan分析を示す図である。
【図6】エレクトロポレーション法と組み合わせたNIH3T3細胞のトランスフェクションの別のFACScan−分析。UvsX−NLS(UvsXH6N2−2)にパッケイジングされたベクターDNAおよびUvsX−「スクランブル化」−NLS(UvsXH6N2sc)にパッケイジングされたベクターDNAを入れたトランスフェクションのFACScan−分析の結果を示す棒グラフである。
【図7】マイクロインジェクションと組み合せたNIH3T3細胞のトランスフェクションの蛍光顕微鏡分析。マイクロインジェクションされたNIH3T3細胞における蛍光マーカータンパク質(左側)の発現が示されている。インジェクションマーカーとしては、適切な蛍光フィルタで可視化したBSA−Cy5を使用した(右側)。写真1および2は、DNAおよびUvsXH6N2scが細胞質に注入された細胞を示し、写真3および4は、DNAおよびUvsXH6N2−2が、写真5および6は、DNAのみが注入された細胞を示す。
【図8】SASP−タンパク質発現プラスミドの概略図。実施例7および8に記載されたSASP−タンパク質の構造および作製を示す概略図である。
【図9】(A)SASP−タンパク質の精製。(B)SASP−タンパク質のDNA結合能。図9(A)は、精製されたSASP−タンパク質を泳動したSDS−ゲルを示す図である。図9(B)は、DNA−シフト−分析におけるSASP−タンパク質のDNAへの結合を示す図である。
【図10】(A)SASP−NLS−タンパク質の精製。(B)SASP−NLS−タンパク質のDNA結合能。図10(A)は、精製されたSASP−NLS−タンパク質(SASP−H6N2)を泳動したSDS−ゲルを示す図である。図10(B)は、DNAシフト分析におけるSASP−NLS−タンパク質のDNAへの結合を示す図である。
【図11】RGD−モチーフをもつペプチドとH6UvsXのカップリング。ペプチドRGD2が化学的にカップリングされたまたはされていないH6UvsX−タンパク質の電気泳動分離を示す図である。2つの互いに独立して調整されたH6UvsX*(RGD2)のサンプルが示されている。各レーンには約1μgのタンパク質を泳動した。
【図12】さまざまに修飾されたUvsX−タンパク質の2本鎖DNAへの結合。2本鎖DNAフラグメントと、H6UvsX*(RGD2)とUvsXH6N2−2(レーン1)の混合物、またはUvsXH6N2−2のみ(レーン2)、またはH6UvsX*(RGD2)のみ(レーン3)からなるNPFをアガロース−ゲル中で分離した図である。
【図13】UvsXH6N2およびUvsXH6N2NIT−2の蛍光標識DNAへの結合のDNA−シフト−分析。DNA−UvsXH6N2およびDNA−UvsXH6N2NIT−2のDNA−シフトを示す図である。タンパク質は、実施例10に記載したように、AlexaFluor488−標識したDNAフラグメントとインキュベートした。
【図14a】エンドサイトーシスによるNIH3T3細胞におけるNPFの取り込みの蛍光顕微鏡分析。図14aは、NIH3T3細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。明視野(下)および明蛍光(上)が示されている。明視野には、エンドサイトーシスによって取り込まれた蛍光標識DNAのために蛍光を発する小胞性の細胞内区画が見られる。
【図14b】エンドサイトーシスによるNIH3T3細胞におけるNPFの取り込みの蛍光顕微鏡分析。図14bは、NIH3T3細胞の蛍光顕微鏡像を示す図である。明視野(下)および明蛍光(上)が示されている。明視野には、エンドサイトーシスによって取り込まれた蛍光標識DNAのために蛍光を発する小胞性の細胞内区画が見られる。
【図15】エンドサイトーシスによって取り込まれたNPFを有する細胞の割合(%)。少なくとも1つの、蛍光を発する小胞性区画を有する細胞の割合(%)を示す棒グラフである。
【図16】発現プラスミドの概略図。hRab51−融合タンパク質を製造するための発現プラスミドの構造を示す概略図である。
【図17】NLS修飾hRad51(hRad51H6N2)の2本鎖DNAへの結合。図17(A)は、ニッケル−キレート−親和性クロマトグラフィにより精製後のRad51H6N2(12.7μg)およびhRad51H6(11μg)を泳動したSDS/Coomassie−ゲルを示す図である。図17(B)は、38mM K2HPO4、8.5mM KH2PO4、7mM NaH2PO4、pH=7.2、15mM MgCl2、2.5mM ATP、および25%グリセリン中で、hRad51H6N2の示された量と、精製された0.9kbのPCR断片それぞれ100ngの反応混合物を、最終量30μlで37℃下に10分間インキュベートし、1%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した図である。
【図18】様々な修飾UvsX(UvsX−NLS−VP22およびUvsX−NLS)の混合物の2本鎖DNAへの結合。図18(A)は、UvsXH6N2VP22c50を泳動したSDS/Coomassie−ゲルを示す図である。図18(B)は、精製された1.7kbのPCR断面のそれぞれ140ngを、精製されたUvsXH6N2VP22c50またはUvsXH6N2−2の示された量とともに96mM K2HPO4、21.5mM KH2PO4、18mM NaH2PO4、pH=7.2、5mM MgCl2、および1.3mM ATP−γ−S中で室温下に30分間インキュベートし、次いですべての反応混合物を0.8%のTAE/アガロース−ゲルで泳動し、臭化エチジウムで染色した。
【図19】DNAおよびUvsX−NLS−VP22とUvsX−NLSの混合物の複合体で処理してトランスフェクションされたNIH3T3細胞。1μgの発現ベクターDNAおよび19μgのUvsXH6N2VP22c50と39μgのUvsXH6N2−2の混合物からなる複合体による処理後24時間のNIH3T3細胞の蛍光顕微鏡写真。
【図20】本発明による核タンパク質フィラメントに基づく方法及びトランスフェクション試薬の基本的構造を示す概略図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェクションの1つまたは複数のステップに影響する少なくとも1つの機能的構成成分でまずタンパク質を修飾し、次いでトランスフェクションされる核酸に修飾されたタンパク質を結合し、核酸およびタンパク質がフィラメント状の複合体を形成し、最終的に、この複合体をトランスフェクションされる細胞に添加することを特徴とする、核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質による細胞のトランスフェクションのための方法。
【請求項2】
アミノ酸および/またはタンパク質ドメインの欠失または挿入によって前記タンパク質を修飾することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸および/または別の分子群の化学的変化によって前記タンパク質を修飾することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の分子の化学的結合によって前記タンパク質を修飾することを特徴とする、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
前記機能的構成成分が細胞表面への前記複合体の会合をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記機能的構成成分が、細胞膜を通っての前記複合体の非エンドソーム通過をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記機能的構成成分が前記複合体のエンドソーム/リソソームからの放出をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記機能的構成成分が前記複合体の細胞核への輸送をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
異なる機能をもついくつかの機能的構成成分で前記タンパク質を修飾し、および/または異なるタンパク質をそれぞれ異なる機能構成成分で修飾することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質に多数の機能的構成成分を結合することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ヌクレオシド三リン酸および/またはその非加水分解性類似体の添加によって、特にATP(アデノシン三リン酸)および/またはGTP(グアノシン三リン酸)および/またはその非加水分解性類似体によって、前記複合体を安定化させることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
核酸の別の生物学的および/または化学的および/または物理学的なトランスフェクション方法、特にエレクトロポレーション法と組み合わせて使用することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
核タンパク質フィラメントを含有し、トランスフェクションされる核酸の少なくとも1つおよび核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質からなるトランスフェクション試薬であって、核タンパク質フィラメント形成能を有する前記タンパク質が、トランスフェクションに影響を与える少なくとも1つの機能的構成成分で修飾されていることを特徴とするトランスフェクション試薬。
【請求項14】
前記タンパク質が異なる機能をもついくつかの機能的構成成分で修飾されており、および/または異なるタンパク質がそれぞれ異なる機能的構成成分で修飾されていることを特徴とする、請求項13に記載のトランスフェクション試薬。
【請求項15】
前記タンパク質に多数の機能的構成成分が結合されていることを特徴とする、請求項13または14に記載のトランスフェクション試薬。
【請求項16】
フィラメント形成タンパク質として、タンパク質RecA、RadA、RAD51、hDmc1、SASP、ICP8、好ましくはUvsX、特に好ましくはhRAD51の群から選択される1つのタンパク質、または列挙されたタンパク質の少なくとも2つからなる混合物を含有することを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項17】
前記機能的構成成分が細胞表面への試薬の会合をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項18】
前記機能的構成成分が細胞膜を通っての試薬の非エンドソーム通過をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項19】
前記機能的構成成分がエンドソーム/リソソームからの試薬の放出をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項20】
前記機能的構成成分が細胞核への試薬の輸送をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項21】
ヒトおよび動物の遺伝子療法による治療のための医薬品を製造するための、請求項13〜20のいずれかに記載のトランスフェクション試薬の使用。
【請求項22】
請求項13〜21のいずれかに記載のトランスフェクション試薬を含有することを特徴とする、医薬品の調整。
【請求項23】
少なくとも1つの核タンパク質フィラメント形成能を有するタンパク質、および請求項13〜20のいずれかに記載の少なくとも1つの機能的構成成分、ならびに以下の成分の少なくとも1つ:
a)ヌクレオシド三リン酸および/またはヌクレオシド三リン酸類似体
b)少なくとも1つのトランスフェクションされる核酸
c)助剤および添加剤
を包含する、核酸を細胞にトランスフェクションするのに適したキット。
【請求項24】
細胞をトランスフェクション試薬でトランスフェクションし、潜在的な阻害剤または活性剤に曝露させることを特徴とする、請求項13〜20のいずれかに記載のトランスフェクション試薬の発現物質の活性剤または阻害剤を同定するための方法。
【請求項25】
細胞を請求項13〜20のいずれかに記載のトランスフェクション試薬でトランスフェクションし、トランスフェクションされていない対照細胞と比較して生理学的な変化を測定することを特徴とする、生理学的に活性な核酸を同定するための方法。
【請求項1】
トランスフェクションの1つまたは複数のステップに影響する少なくとも1つの機能的構成成分でまずタンパク質を修飾し、次いでトランスフェクションされる核酸に修飾されたタンパク質を結合し、核酸およびタンパク質がフィラメント状の複合体を形成し、最終的に、この複合体をトランスフェクションされる細胞に添加することを特徴とする、核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質による細胞のトランスフェクションのための方法。
【請求項2】
アミノ酸および/またはタンパク質ドメインの欠失または挿入によって前記タンパク質を修飾することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸および/または別の分子群の化学的変化によって前記タンパク質を修飾することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の分子の化学的結合によって前記タンパク質を修飾することを特徴とする、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
前記機能的構成成分が細胞表面への前記複合体の会合をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記機能的構成成分が、細胞膜を通っての前記複合体の非エンドソーム通過をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記機能的構成成分が前記複合体のエンドソーム/リソソームからの放出をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記機能的構成成分が前記複合体の細胞核への輸送をもたらすことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
異なる機能をもついくつかの機能的構成成分で前記タンパク質を修飾し、および/または異なるタンパク質をそれぞれ異なる機能構成成分で修飾することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質に多数の機能的構成成分を結合することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ヌクレオシド三リン酸および/またはその非加水分解性類似体の添加によって、特にATP(アデノシン三リン酸)および/またはGTP(グアノシン三リン酸)および/またはその非加水分解性類似体によって、前記複合体を安定化させることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
核酸の別の生物学的および/または化学的および/または物理学的なトランスフェクション方法、特にエレクトロポレーション法と組み合わせて使用することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
核タンパク質フィラメントを含有し、トランスフェクションされる核酸の少なくとも1つおよび核タンパク質フィラメント形成能を有する少なくとも1つのタンパク質からなるトランスフェクション試薬であって、核タンパク質フィラメント形成能を有する前記タンパク質が、トランスフェクションに影響を与える少なくとも1つの機能的構成成分で修飾されていることを特徴とするトランスフェクション試薬。
【請求項14】
前記タンパク質が異なる機能をもついくつかの機能的構成成分で修飾されており、および/または異なるタンパク質がそれぞれ異なる機能的構成成分で修飾されていることを特徴とする、請求項13に記載のトランスフェクション試薬。
【請求項15】
前記タンパク質に多数の機能的構成成分が結合されていることを特徴とする、請求項13または14に記載のトランスフェクション試薬。
【請求項16】
フィラメント形成タンパク質として、タンパク質RecA、RadA、RAD51、hDmc1、SASP、ICP8、好ましくはUvsX、特に好ましくはhRAD51の群から選択される1つのタンパク質、または列挙されたタンパク質の少なくとも2つからなる混合物を含有することを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項17】
前記機能的構成成分が細胞表面への試薬の会合をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項18】
前記機能的構成成分が細胞膜を通っての試薬の非エンドソーム通過をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項19】
前記機能的構成成分がエンドソーム/リソソームからの試薬の放出をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項20】
前記機能的構成成分が細胞核への試薬の輸送をもたらすことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載のトランスフェクション試薬。
【請求項21】
ヒトおよび動物の遺伝子療法による治療のための医薬品を製造するための、請求項13〜20のいずれかに記載のトランスフェクション試薬の使用。
【請求項22】
請求項13〜21のいずれかに記載のトランスフェクション試薬を含有することを特徴とする、医薬品の調整。
【請求項23】
少なくとも1つの核タンパク質フィラメント形成能を有するタンパク質、および請求項13〜20のいずれかに記載の少なくとも1つの機能的構成成分、ならびに以下の成分の少なくとも1つ:
a)ヌクレオシド三リン酸および/またはヌクレオシド三リン酸類似体
b)少なくとも1つのトランスフェクションされる核酸
c)助剤および添加剤
を包含する、核酸を細胞にトランスフェクションするのに適したキット。
【請求項24】
細胞をトランスフェクション試薬でトランスフェクションし、潜在的な阻害剤または活性剤に曝露させることを特徴とする、請求項13〜20のいずれかに記載のトランスフェクション試薬の発現物質の活性剤または阻害剤を同定するための方法。
【請求項25】
細胞を請求項13〜20のいずれかに記載のトランスフェクション試薬でトランスフェクションし、トランスフェクションされていない対照細胞と比較して生理学的な変化を測定することを特徴とする、生理学的に活性な核酸を同定するための方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−200041(P2008−200041A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54910(P2008−54910)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【分割の表示】特願2002−556767(P2002−556767)の分割
【原出願日】平成14年1月10日(2002.1.10)
【出願人】(503147734)アマクサ アーゲー (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【分割の表示】特願2002−556767(P2002−556767)の分割
【原出願日】平成14年1月10日(2002.1.10)
【出願人】(503147734)アマクサ アーゲー (9)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]