説明

モデル作成方法ならびに半導体製造プロセスの結果分析方法及び記録媒体

【課題】 プロセスの物理・化学的なメカニズムに基づいて高精度かつ計算負荷の小さいモデルを作成することができるモデル作成方法を提供すること
【解決手段】 物理化学モデルで表されたプロセス(シリコン酸化プロセス)のうちの一部分(酸化種の濃度)についてシミュレーションを実行する。得られたシミュレーション結果を近似により第1の数式モデルに変換する。また、プロセスのうちシミュレーションを実行したプロセス以外の部分(ウェハ表面での酸化膜成長)を表す数式を近似して第2の数式モデルに変換する。次いで、第1の数式モデルと第2の数式モデルを合成してプロセス全体のモデルを表す第3の数式モデルを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モデル作成方法ならびに半導体製造プロセスの結果分析方法及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体・液晶パネルをはじめとする各種の製品の製造プロセスは、製品の製造歩留まりを改善し、或いは歩留まりが良好な状態を維持するために、適切に管理されなければならない。そこで、半導体製造プロセスの制御や異常検知をするためには、プロセスの入出力の関係を表すモデルが用いられる。つまり、入出力のモデルが求められると、プロセス実行中の入力データとモデルから出力データを予測することができる。これにより、プロセス実行中や、あるプロセスを実行して中間製品を製造した後で、異常の有無等を予測することができる。また、製造装置が、正常に動作していた場合でも、例えば製造範囲の境界付近で動作していることを推測することができ、係る場合に、より安定した動作をするように調整することもできる。
【0003】
係るモデルを作成する従来技術は、例えば特許文献1に示すものがある。この従来技術は、プロセスの入力データと出力データ(検査結果データ)に基づき、応答曲面法のような統計的な方法によってプロセスモデルを作成する。
【特許文献1】特開2004−119753
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の統計的な方法によって作成されたプロセスモデルを用いた異常分析・予測は、予測精度が悪いとともに、予測可能な範囲がモデルを作成する際に用いた入出力データの範囲に限られるなどの問題点がある。さらに、予測精度を高めるためには、多数の入出力データを取得する必要があり、困難である。
【0005】
これらを解決する方法として、物理・化学的なメカニズムに基づいてシミュレーションを行うことにより、高精度で適用範囲が広いモデルを作成する手法がある。しかし、シミュレーションは、計算量が多いという特徴を有する。そのため、シミュレーションを用いたモデルの作成技術は、石油化学プラントなどの数十分〜数時間程度の応答速度の遅いシステムには適用できるが、半導体製造プロセスのような数十秒〜数分程度の応答速度の速いシステムでの使用は難しいという問題点がある。
【0006】
本発明では、プロセスの物理・化学的なメカニズムに基づいて高精度かつ計算負荷の小さいモデルを作成することができるモデル作成方法ならびに半導体製造プロセスの結果予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明のモデル作成方法は、(1)物理、化学的なメカニズムに基づいた物理化学モデルから半導体製造プロセスにおけるプロセスの結果を推定、予測するのに用いるモデルを作成する方法であって、物理化学モデルで表されたプロセスのうちの一部分についてシミュレーションを実行するステップと、実行されたシミュレーション結果を近似により第1の数式に変換するステップと、プロセスのうちシミュレーションを実行したプロセス以外の部分を表す数式を近似して第2の数式に変換するステップと、第1の数式と第2の数式を合成してプロセス全体のモデルを表す第3の数式を求めるステップと、を含むようにした。
【0008】
(2)近似は線形近似とすることができる。
(3)第2の数式に変換するステップは、プロセスに関連するプロセスデータについて複数の区分に区分けして実行するとよい。
【0009】
(4)プロセスは、シリコン酸化プロセスであり、第1の数式に変換する部分は酸化種の濃度であり、第2の数式に変換する部分はウェハ表面での酸化膜成長とすることができる。
(5)上記(4)の発明を前提とし、所定の膜厚以下では酸化種の濃度によりさらに区分けを行い、所定の膜厚以上では膜厚のみで区分けを行うようにするとよい。
【0010】
(6)本発明の半導体製造プロセスの結果分析方法は、上記の(1)〜(5)のいずれかに記載のモデル作成方法によって作成された第3の数式からなるモデルを用いる。そして、その第3の数式に半導体製造プロセス実行中に得られたプロセスデータを代入して演算処理することにより半導体製造プロセスの結果を推定、予測するようにした。
(7)本発明の記録媒体は、上記(1)〜(6)の方法を実現するコンピュータ実行可能なプログラムを記憶したコンピュータ可読の記録媒体とする。
【0011】
本発明によれば、プロセスの物理・化学的なメカニズムに基づいたシミュレーションモデルを前提とし、そのシミュレーシモデルから導いた数式モデルとしたので、精度が高いとともに、装置ごとにシステム同定を行ってモデルを作り直す必要が無く、装置にあわせたチューニング程度で済む。また、モデル作成時に用いた入出力データの範囲外の条件にも適用できる。さらに、複雑な物理・化学モデルをシミュレーションではなく数式モデルで表現することにより、計算負荷が小さくなり、半導体プロセスのような応答速度の速いプロセスにも使用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、プロセスの物理・化学的なメカニズムに基づいて高精度かつ計算負荷の小さいモデルを作成することができる。これにより、そのモデルを使用することで、高精度な半導体製造プロセスの結果推定、予測を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を、半導体製造プロセスの一形態であるプラズマ酸化プロセスの酸化膜厚成長の推定、予測を例にして説明する。より具体的には、クリプトンと酸素を用いてマイクロ波励起高密度プラズマ装置での酸化プロセスにおいて、酸素濃度とマイクロ波パワーを制御パラメータとして酸化膜厚の成長を推定、予測する方法について説明する。
【0014】
図1に示すように、プラズマ装置は、チャンバ1内にシリコンウェハ2をセットした状態で、チャンバ1内に所定のガスを供給する。その状態で、マイクロ波を印加することで、プラズマを生成し、そのプラズマ中で励起された酸素原子によりシリコンウェハ2の表面が酸化され、SiO2膜3が成膜される。
【0015】
このとき、チャンバ1の内部では、気相反応と表面反応が発生している。気相反応は、(a)プラズマ中での酸化種の生成反応である。この酸化種の生成反応は、30種類を超える素反応からなる。表面反応は、(b)チャンバ1の内壁での酸化種の失活と、(c)ウェハ2表面でのシリコンの酸化反応がある。この(a)で生産された量から(b)で失われた量を差し引いた量が(c)の酸化反応に寄与する。
【0016】
そこで、これらの反応をパーソナルコンピュータ上でシミュレーションすることにより酸化膜成長の推定、予測を行なう。シミュレーションは、例えばCHEMKINのような市販の化学反応シミュレータを用いることができる。図2は、酸化膜成長の様子をシミュレーションした結果である。図示するように、開始直後に急に酸化膜が成長し、その後は徐々に酸化膜が成長する。
【0017】
このようなシミュレーションを実行する際に使用するシミュレーションモデルは、精度は高いものの以下のような問題がある。すなわち、計算負荷が高いため、安価なCPUを用いた場合、実時間での使用は難しい。特に、モデルを用いて出力結果を推定、予測し、その推定、予測結果に基づいて制御を行なうようなシステムに適用することは困難である。例えば、上記のプラズマ中での酸化種の生成反応では、電子や分子、原子、イオンおよびそれらの励起状態を考慮し、数十種類の反応式を並列させて計算する必要があり、計算量が多くなるので、なおさらである。また、実際にプロセスを制御するためのコントローラを設計するには、シミュレーションモデルのままでは制御系設計手法が使えず、数式化する必要がある。より具体的には、シミュレーションモデルを現状の制御理論を適用しやすい線形微分方程式で表す必要がある。
【0018】
ところで、酸化膜の成長は非線形性が強いので、パラメータの全領域に渡って一つの線形微分方程式で表すことはできない。そこで、本実施形態では、実際にプロセスを行うパラメータの近傍で条件分けを行って区分的に線形近似するようにした。具体的には、“酸化種の濃度”と“ウェハ表面での酸化膜厚”の二つに分けて考えてそれぞれで線形の微分方程式を導き、それらを合成することで、モデルの数式化を図るようにした。
本実施形態における数式化の手順は、
(1)酸化種濃度のモデルを2次系で近似した式を求める;
(2)ウェハ表面での反応を表す微分方程式を膜厚と酸化種濃度で場合わけして線形近似する;
(3)(1)で求めた数式と(2)で求めた数式を合成する;
の3つの処理ステップを実行するようにした。そして、各処理ステップの具体的な処理は、以下の通りである。
【0019】
*酸化種の濃度の数式化の処理ステップ
酸化種濃度は、条件を固定した場合、図3のように、急速に立ち上がり、その後一定値に落ち着くような素直な挙動を示す。このグラフも酸化種の時間変化のシミュレーション結果である。係る挙動は、2次系で近似し、それを以下のように状態空間表現することができる。
【0020】
【数1】

ここで、x1は状態量ベクトル、uはベクトル
【数2】

で、
u1:補助変数(値は常に1)
u2:マイクロ波パワー[W]
u3:酸素分圧[%]
である。
【0021】
また、y1はベクトル
【数3】

で、
y11:酸化種濃度
y12:補助変数
である。
【0022】
また、A1, B1, C1, D1はそれぞれ以下の行列である。行列を構成する各値は、シミュレーション結果にフィッティングするように設定する。
【数4】

*ウェハ表面での酸化膜成長の数式化の処理ステップ
酸化膜成長は以下の微分方程式に従うものと定義する。
【数5】

【0023】
ただし、
L:SiO2膜厚
t:時間
[O*]、[O**]:以下の反応で生成される酸化種のプラズマ中での濃度、
ただしeは電子を表す。
O+e⇒O*+e
O2+e⇒O+O**+e
a, b, c :定数
である。
【0024】
この微分方程式をテーラー展開して一次の項までをとることで線形化する。この微分方程式の右辺をL=L1、[O*]=[O*]1、[O**]=[O**]1の近傍でテーラー展開して一次の項だけをとることで線形化する。
【数6】

をx10, x20, x30の近傍でテーラー展開して一次の項までをとると
【数7】

であるので、
【数8】

【0025】
に適用して、L=L1、[O*]=[O*]1、[O**]=[O**]1の近傍でテーラー展開して一次の項までをとると以下のようになる。
【数9】

ただし、
【数10】

である。
これを酸化種の濃度のモデルと同様、
【数11】

【0026】
のように状態空間表現に書き直すと、
【数12】

となる。ただし、
u21:補助変数(値は常に1)
u22:酸化種濃度
y:酸化膜厚
x2:状態変数(酸化膜厚)
である。
【0027】
α、β、Φの値はL、[O*]+[O**]の値によって場合分けして決定する。表1は、場合分けの一例を示している。表1では、5オングストロームの自然酸化膜がプロセス開始前についていたと仮定している。Lの値が小さいところでは、膜厚生成の初期であり、酸化種濃度が過渡的に変化している時期に相当するため、酸化種の濃度についても場合わけしてある。ある程度時間経過した後は、酸化種濃度はほぼ一定になるためLの値がある程度以上の大きさであるならばLの値のみによって場合分けしてある。なお、表1において、[O*]+[O**]の範囲は定常値に対する比率で表してある。例えば、*0〜*0.2は定常値の0倍〜0.2倍を表す。
【表1】

*酸化膜厚成長の数式モデル
上記各処理ステップを実行して求めた酸化種生成と酸化膜成長のモデルを、図4のようにして合成し、酸化膜厚成長の数式モデルを得る。
【0028】
合成した結果、
【数13】

のような数式を得る。
ここでyは膜厚、xは状態量ベクトル、uはベクトル
【数14】

で、
u1:補助変数(値は常に1)
u2:マイクロ波パワー[W]
u3:酸素分圧[%]
である。
【0029】
また、微分方程式の係数行列A、B、Cは以下のようなものであり、表1のLおよび、[O*]+[O**]の範囲によって値は異なる。
【数15】

【0030】
図5は、シミュレーションによって計算した酸化膜厚と上記数式によって計算した酸化膜厚を示す。図5よりシミュレーションによく合った数式となっていることがわり、この数式を用いて出力の推定、予測が行なえることがわかる。
【0031】
従って、実際のプロセス(例えば、酸化プロセス)実行時には、製造プロセス装置(例えば、マイクロ波励起高密度プラズマ装置)から所望のプロセスデータを取得し、取得したプロセスデータを該当する数12の変数に代入して演算処理することで、プロセス結果(例えば膜厚)を推測することができる。そして、係る推測するためのモデルは、計算式であるため、コントローラに実装する制御系のプログラムが扱うことができると共に、係る演算を実行するための負荷が軽く、安価なCPUでもプロセス実行中にリアルタイムでプロセスの結果を推定、予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】プロセス装置の一例を示す図である。
【図2】シミュレーション結果を示す図である。
【図3】シミュレーション結果を示す図である。
【図4】モデル作成手法を説明する図である。
【図5】効果を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 チャンバ
2 シリコンウェハ
3 酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理、化学的なメカニズムに基づいた物理化学モデルから半導体製造プロセスにおけるプロセスの結果を推定、予測するのに用いるモデルを作成する方法であって、
前記物理化学モデルで表されたプロセスのうちの一部分についてシミュレーションを実行するステップと、
前記実行されたシミュレーション結果を近似により第1の数式に変換するステップと、
前記プロセスのうち前記シミュレーションを実行したプロセス以外の部分を表す数式を近似して第2の数式に変換するステップと、
前記第1の数式と前記第2の数式を合成してプロセス全体のモデルを表す第3の数式を求めるステップと、
を含むモデル作成方法。
【請求項2】
前記近似は線形近似であることを特徴とする請求項1に記載のモデル作成方法。
【請求項3】
前記第2の数式に変換するステップは、前記プロセスに関連するプロセスデータについて複数の区分に区分けして実行することを特徴とする請求項1または2に記載のモデル作成方法。
【請求項4】
前記プロセスは、シリコン酸化プロセスであり、前記第1の数式に変換する部分は酸化種の濃度であり、前記第2の数式に変換する部分はウェハ表面での酸化膜成長であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモデル作成方法。
【請求項5】
所定の膜厚以下では酸化種の濃度によりさらに区分けを行い、所定の膜厚以上では膜厚のみで区分けを行うことを特徴とする、請求項4に記載のモデル作成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のモデル作成方法によって作成された第3の数式からなるモデルを用い、
その第3の数式に半導体製造プロセス実行中に得られたプロセスデータを代入して演算処理することにより半導体製造プロセスの結果を推定、予測することを特徴とする半導体製造プロセスの結果分析方法。
【請求項7】
請求項1〜6の方法を実現するコンピュータ実行可能なプログラムを記憶したコンピュータ可読の記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−91591(P2008−91591A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270211(P2006−270211)
【出願日】平成18年9月30日(2006.9.30)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】