説明

モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物

【課題】本発明は、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物において、新規な酸化物を提供し、該酸化物を含み、低酸素分圧下で二酸化炭素の生成を抑制して不飽和アルデヒド、ブタジエンを高収率で得る触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の酸化物は、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含有し、
Fe2+/(Fe2++Fe3+)の比が0.7以上1.0未満である。さらに、モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bが5≦b≦11である好ましく、鉄の原子比bとコバルトの原子比cとの比(b/c)が0.5≦b/c≦11であることが好ましく、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5であることが好ましい。また、本発明の触媒は、前記酸化物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物及びその製造方法並びに該酸化物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン、ビスマス、鉄等の遷移金属は、それぞれが単独で酸化することによって得られる酸化物の他に、複数種の金属が固溶体となったいわゆる複合酸化物になることが知られている。複合化した酸化物は、単一の金属の酸化物とは異なる特性を有し、その特性が金属種の選択や組成比等によっても大きく変化することから、顔料、電池の電極材料、触媒等、様々な分野で検討が進められている。
【0003】
例えばモリブデン、ビスマス及び鉄を含む金属酸化物は、オレフィンやアルコールを酸化して、不飽和アルデヒドやジオレフィンを製造する反応に触媒活性を示す。そのため、モリブデン、ビスマス及び鉄を含む金属酸化物が不飽和アルデヒドを主成分として製造する触媒に用いられることが、これまでに数多く報告されている。必須成分としてモリブデン、ビスマス及び鉄を含み、有機化合物を添加して熱処理して得られる複合酸化物触媒は数多く報告されている。
【0004】
上述のように、組成比が異なれば酸化物の特性も異なるので、触媒活性を向上させたり、目的化合物の生成率を向上させたりする目的で、様々な組成比の複合酸化物の触媒特性や調製条件が検討されている。例えば、特許文献1には、モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する触媒前駆体を分子状酸素含有ガスの雰囲気下に焼成した後、還元性物質の存在下に熱処理する製造方法が記載されている。
【0005】
複合酸化物の組成が検討される中で、金属が複合化しうる組成には一定の限界があることが分かってきている。例えば、非特許文献1には、コバルトとモリブデンとの複合酸化物(CoMoO4)に鉄が固溶する現象についてXRD回折法を用いたキャラクタリゼーションが記載されている。また、空気雰囲気下で焼成した触媒(組成式:Mo12Bi1Co11-XFex)において、鉄の原子比X=3までは、CoMoO4の面間隔d値は小さくなることから、鉄がCoMoO4に固溶するが、鉄の原子比X=4以上では、前記d値に変化がなく、鉄がCoMoO4に固溶しないと非特許文献1に記載されている。さらに、鉄がCoMoO4に固溶することが触媒活性の発現に起因している。具体的には、Fe3+のCoMoO4への固溶、すなわちCo2+にFe3+が置換することで電荷中性の原理から、酸素欠陥(Φ)が生じ、この欠陥を格子酸素が移動することが活性の発現機構とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−117866号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】触媒 vol.28、No.6、1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1にはFeの組成比cとして0<c≦10と記載されている。しかしながら、実際にはFeの組成比cを4以上にしても、鉄の単独酸化物や、3価の鉄とモリブデンとの2成分系の複合酸化物を形成するだけで、CoMoO4に固溶する鉄の量は増えない。
【0009】
当分野で利用されているビスモリ系(Bi−Mo)触媒において、鉄は必須成分であり、鉄の共存によって再酸化速度を上げ、活性を向上させる効果があるとされている。その結果、鉄が多く含有された触媒は、低酸素分圧下でも反応を促進するため、アルデヒド以外の酸素付加化合物(例えば、二酸化炭素)を副生せずに目的生成物を高収率で得ることができる。さらに鉄が多く含有された触媒を用いると、反応中のレドックスが容易になるため、触媒を高寿命化させるという効果も期待される。そのため、鉄は触媒となる酸化物中に多く含まれていることが望ましい。しかしながら、上述のようにCoMoO4に固溶する鉄の量には限界があり、組成比を自由に設定できるわけではない。つまり、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物を触媒において、二酸化炭素のような副生物を防ぐ組成比のコンセプトはあるものの、組成比の設計が自由にならず、当該コンセプトは実現に至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの検討によると、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物において、3価の鉄とモリブデンとの複合酸化物が形成した場合、あるいは酸化鉄等の鉄化合物が形成した場合、該酸化物を触媒として不飽和アルデヒドの製造反応に用いると燃焼反応が促進され、目的生成物の収率向上にはつながらないことがわかった。本発明者らは、この理由を以下のように推定している。上述の望まれない燃焼反応の原因は、鉄が3価の状態で複合酸化物又は単独酸化物を形成していることに起因する。すなわち、金属の組成のみならず、各金属の価数も複合酸化物の機能に影響している。鉄化合物等は全て上述のような負の作用を示すのではなく、鉄が2価の状態であれば、寧ろ好ましい触媒作用を示しうる。そのため、酸化還元度をコントロールした酸化物を含む触媒は、より一層の各種機能の向上が図れる。
【0011】
そして、本発明者らは、酸化物の酸化還元度コントロールを達成するための手段を鋭意検討した結果、酸化剤、還元剤の利用や還元焼成を見出し、もって鉄が2価の状態で酸化物を構成させることを可能にしたことで、従来の酸化焼成では取りえない複合酸化物の組成を実現した。そして、この新規な酸化物を、不飽和アルデヒド、ブタジエン製造用の触媒として用いた場合に、二酸化炭素の生成が抑えられ、低酸素分圧下で目的物の収率が向上することも発見し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明は以下に示すとおりである。
【0013】
[1]
モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含有し、
Fe2+/(Fe2++Fe3+)の比が0.7以上1.0未満である、酸化物。
【0014】
[2]
モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bが5≦b≦11である、[1]に記載の酸化物。
【0015】
[3]
モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bとコバルトの原子比cとの比(b/c)が0.5≦b/c≦11である、[1]又は[2]に記載の酸化物。
【0016】
[4]
モリブデン12原子に対して、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5である、[1]〜[3]のいずれかに記載の酸化物。
【0017】
[5]
前記酸化物がコバルトとモリブデンとの複合酸化物を含有し、
前記酸化物のX線回折において、少なくともコバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)が26.15°〜26.35°にピーク(最大強度)を示す、[1]〜[4]のいずれかに記載の酸化物。
【0018】
[6]
下記組成式(1)で表される組成を有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の酸化物。
【0019】
【化1】

(式(1)中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Coはコバルト、Aはセシウム、ルビジウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ元素を示し、a〜eは、Mo12原子に対する各元素の原子比を示し、0.5≦a≦5、5≦b≦11、0.5≦b/c≦11、0.01≦d≦2であり、eは酸素以外の構成元素の原子価によって決まる酸素の原子比である。)
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載の酸化物を含む触媒。
【0020】
[8]
モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物を形成する原料を混合して混合物を得る工程と、
得られた混合物を乾燥して乾燥体を得る工程と、
得られた乾燥体を仮焼成して仮焼成体を得る工程と、
得られた仮焼成体を本焼成して酸化物を得る工程とを含み、
前記酸化物において、モリブデン12原子に対する、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5、鉄の原子比bが5≦b≦11、鉄の原子比bとコバルトの原子比cの比(b/c)が0.5≦b/c≦11となるように各原料の混合割合を調整し、
前記仮焼成が酸化剤及び還元剤の存在下で行われ、
前記仮焼成及び前記本焼成が不活性ガス雰囲気で行われ、
前記本焼成が前記仮焼成の温度より高温で行われる、酸化物の製造方法。
【0021】
[9]
[7]に記載の触媒を用いる、不飽和アルデヒドの製造方法。
【0022】
[10]
[7]に記載の触媒を用いる、ブタジエンの製造方法。
【0023】
[11]
[7]に記載の触媒を用いて、プロピレン、イソブチレン及びt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化反応させる工程を含む、不飽和アルデヒドの製造方法。
【0024】
[12]
[7]に記載の触媒を用いて、n−ブテンを酸化反応させる工程を含む、ブタジエンの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物において、3価の鉄(Fe3+)の割合を低減し、2価の鉄(Fe2+)の割合を適切な範囲に制御した酸化物を提供することができる。この酸化物は、オレフィン及び/又はアルコールを原料とする不飽和アルデヒド及び/又はブタジエンの製造において、低酸素分圧下で二酸化炭素の生成を抑制して、不飽和アルデヒド及び/又はブタジエンを高収率で生成させるので、触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例4、実施例7、比較例2及び比較例6で得られた酸化物のX線回折ピークを示す図である。
【図2】図1におけるX線回折ピークの2θ=25〜27°の範囲の拡大図を示す図である。
【図3】実施例4で得られた酸化物のメスバウアースペクトルを示す図である。
【図4】比較例6で得られた酸化物のメスバウアースペクトルを示す図である。
【図5】鉄の価数の測定装置の構成及び仕様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0028】
[1]酸化物
本実施形態の酸化物は、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含有し、Fe2+/(Fe2++Fe3+)の比が0.7以上1.0未満である。
【0029】
また、本実施形態の酸化物は、モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bが5≦b≦11であることが好ましく、モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bとコバルトの原子比cとの比(b/c)が0.5≦b/c≦11であることが好ましく、モリブデン12原子に対して、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5であることが好ましい。
【0030】
(1)組成
本実施形態の酸化物は、モリブデン(以下「Mo」とも記す。)、ビスマス(以下「Bi」とも記す。)、鉄(以下「Fe」とも記す。)及びコバルト(以下「Co」とも記す。)を含有する。
【0031】
一般的に、Mo−Bi系の金属酸化物において、各金属元素が複合化するようにする観点から、Mo、Bi、Fe、Coを含有させることが不可欠である。本実施形態の酸化物において、Mo12原子に対するBiの原子比aは、0.5≦a≦5となるようにすることが好ましい。目的生成物の選択率をより高める観点で、Biの原子比aは、より好ましくは1≦a≦5であり、さらに好ましくは2≦a≦4である。Bi及びMoは、気相接触酸化、アンモ酸化反応等の活性種とされているBi2Mo312、Bi2MoO6等のBi−Mo−O複合酸化物を形成することが好ましい。後述するが、本実施形態では、酸化物の製造において、焼成時に不活性ガス雰囲気中で、酸化物の酸化還元度を精密にコントロールする。MoやBiはBi−Mo−O複合酸化物を形成させることが好ましく、過還元しないように制御することが好ましい。MoやBiは、過還元されるとMoはMoO2や、金属Mo、金属Biを形成し、Bi−Mo−O複合酸化物を形成しないため、目的生成物の収率は低下する。
【0032】
本実施形態の酸化物において、目的生成物の選択率を低下させることなく触媒活性を高める観点から、FeはMo、Biと同様に工業的に目的生成物を合成する上で必須元素である。また、本実施形態の酸化物において、Feの含有量を特定の範囲に制御することが好ましい。酸化物の製造において、酸素を含む酸化雰囲気下で焼成した場合、Fe含量が多くなるとFe23が生成し、COやCO2等の副生成物が増加する傾向が現れる。このような酸化物を触媒として用いると、目的生成物の選択率が低下する。従って、国際公開95/35273号パンフレットに記載があるが、従来、Mo、Bi、Fe、Coを含む酸化物を触媒として用いた場合、高い収率で目的生成物を得るためには、該酸化物において、Mo12原子に対するFeの原子比を0<Fe≦2.5とする必要がある。この点に関して、本発明者らは、酸化物の製造において、Fe23等の副生を抑制することを狙って不活性ガス雰囲気中で、酸化物の酸化還元度をコントロールし、Feの価数を2価に制御する方法を見出した。当該制御によって、従来よりもFe比率が大きい組成域の酸化物を創り出すことに成功した。そして、該酸化物を触媒として用いた場合、目的生成物の収率をさらに高められることを見出した。2価の鉄はモリブデン12原子に対する鉄の原子比が4以上でもCoMoO4に固溶し、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造が形成されることが明らかになった。酸化物の酸化還元度をコントロールすれば、CoMoO4への鉄の置換固溶を組成に関係なく可能とすることができ、酸化物において、自由に組成比を設定してCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分の結晶を生成させることができる。すなわち、酸化物の酸化力を適切にすべく本発明者らが鋭意検討した結果、酸化物中の2価の鉄化合物の生成を促進し、かつ、Mo、Bi、Fe、Coの比率を適切にした上で、3価の鉄化合物の生成を抑制することで、Fe比率が大きい場合でも、CoMoO4にFeが固溶した新しい状態の酸化物を創り出すことが可能となった。
【0033】
本実施形態の酸化物において、Mo12原子に対するFeの原子比bは、好ましくは5≦b≦11であり、より好ましくは5≦b≦10、さらに好ましくは、5≦b≦9である。
【0034】
本実施形態の酸化物において、Coは、Mo、Bi、Feと同様に工業的に目的生成物を合成する上で必須元素である。本実施形態の酸化物において、Coは、複合酸化物CoMoO4を形成し、該CoMoO4がBi−Mo−O等の活性種を高分散させるための担体としての役割と、気相から酸素を取り込み、Bi−Mo−O等に供給する役割を果たしていると推定される。Mo、Bi、Fe及びCoを含む酸化物を不飽和アルデヒド製造の触媒として用いた場合、不飽和アルデヒドを高収率で得るには、該酸化物において、CoはMoと複合化させ、複合酸化物CoMoO4を形成させることが好ましい。不飽和アルデヒド製造において、Co34やCoO等の単独酸化物が存在すると、副反応を生じるため、該酸化物において、Co34やCoO等の単独酸化物の形成を少なくすることが好ましい。単独酸化物の形成抑制及び触媒の活性の向上の観点から、Fe原子比bとCoの原子比cとの比(b/c)は、好ましくは0.5≦b/c≦11であり、より好ましくは0.5≦b/c≦5、さらに好ましくは0.7≦b/c≦3である。
【0035】
本実施形態の酸化物は、好ましくは、下記組成式(1)で表される組成を有する。
【0036】
【化2】

(式(1)中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Coはコバルト、Aはセシウム、ルビジウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ元素を示し、a〜eは、Mo12原子に対する各元素の原子比を示し、0.5≦a≦5、5≦b≦11、1≦c≦12、0.7≦b/c≦11、0.01≦d≦2であり、eは酸素以外の構成元素の原子価によって決まる酸素の原子比である。)
Aはセシウム、ルビジウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ元素を示し、酸化物において、複合化されなかったMoO3等の酸点を中和する役割を示すと考えられている。セシウム及び/又はルビジウムを含有するか否かは、後述するFe−Co−Mo−Oの結晶構造には影響しない。組成式(1)で表される組成において、Mo12原子に対するこれらのアルカリ元素の原子比dは、触媒活性の観点から、0.01≦d≦2である。アルカリ元素の原子比dを前記数値範囲に調整することにより、組成式(1)で表される組成を有する酸化物は、充分な触媒活性を発現する傾向にある。アルカリ元素の原子比dが前記範囲より多くなると酸化物が塩基性となり、例えば、該酸化物をオレフィンやアルコールの酸化反応の触媒として用いた場合、原料であるオレフィンやアルコールが触媒に吸着され難く、充分な触媒活性を発現できなくなる傾向にある。
【0037】
なお、本実施形態において、酸化物中の各元素の原子比は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
(2)結晶構造
モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含有する酸化物について、X線回折(XRD)でX線回折角2θ=5°〜60°の範囲を測定すると、コバルト及びモリブデンからなる複合酸化物に起因するピークが26.40°に示される。このコバルト及びモリブデンからなる複合酸化物に、鉄が固溶して複合すると、Co2+とFe2+とのイオン半径の違いによってこのピークのシフトが起こる。鉄が固溶して複合化した構造となるために、コバルト及びモリブデンからなる複合酸化物に起因するピークは、26.40°ではなく、26.40°−α°(0<α)に示される。
【0039】
コバルトとモリブデンとの複合酸化物に起因するピークがシフトする詳細なメカニズムは明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推定している。酸化物を製造する際に、酸素を含む空気雰囲気下で焼成した場合、CoとMoとの複合酸化物に、さらに3価のFeが固溶する。これによって、コバルト及びモリブデンからなる複合酸化物に起因するピークは、上記のとおりわずかにシフトすると推定される。このピークシフトの割合(α°)は0≦α<0.05であると考えられる。Mo原子12に対するFe原子比bが3よりも多い組成ではFe2Mo312等の鉄とモリブデンとの2成分系の酸化物を形成するためにCoとMoとの複合酸化物への3価の鉄の固溶は起こらず、上記ピークシフトの割合(α°)が0.05以上となることはないと考えられる。
【0040】
一方、鉄の価数が2価の場合、Mo原子12に対するFe原子比bが3よりも多い組成でもピークシフトが起こり、該ピークシフトの割合(α°)は0.05≦α≦0.25となる。これは、CoとMoとの複合酸化物に、さらに2価のFeが固溶することによって、複合化されたCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の新しい結晶構造が新たに形成されたからと考えられる。Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造が形成するのは、鉄が2価になると、該鉄のイオン半径が2価のコバルトのイオン半径に近くなるため、Coと置換固溶が可能になるからと推定される。なお、2価のコバルトのイオン半径は0.72Åであり、3価の鉄のイオン半径が0.64Åであり、2価の鉄のイオン半径は0.74Åである。Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造を形成させるためには、金属の存在比も重要である。例えば、Mo12原子に対するFeの原子比bが5≦b≦11の範囲を満足する時にはCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造を形成する傾向にあり、原子比bが前記下限値より少ないと、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造を形成しないか、形成したとしても極少量であり、得られる酸化物は、COx(CO2やCO等)の生成を抑制し難くなる。即ち、Feの原子比bが前記範囲内であると、COx(CO2やCO等)の生成が抑制された酸化物が得られ、その結果、該酸化物を触媒として用いた場合、不飽和アルデヒド又はブタジエンの収率が向上する。
【0041】
不飽和アルデヒド又はブタジエンの収率を高める観点で上述の酸化物中のCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造の形成を促すためには、酸化物中の2価の鉄の割合が重要である。本実施形態の酸化物において、2価及び3価の鉄に対する2価の鉄の割合(原子比)、すなわちFe2+/(Fe2++Fe3+)の比は、0.7以上1.0未満であり、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.9以上1.0未満である。
【0042】
また、本実施形態の酸化物は、コバルトとモリブデンとの複合酸化物を含有し、該酸化物のX線回折において、少なくともコバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)が26.15°〜26.35°にピーク(最大強度)を示すことが好ましい。該酸化物中のコバルトとモリブデンとの複合酸化物に起因するピーク(最大強度)が示されるX線回折角2θの範囲は、より好ましくは26.15°〜26.30°、更に好ましくは26.20°〜26.30°である。
【0043】
なお、3成分系の結晶構造Co2+−Fe2+−Mo−Oの複合化の指標としては、X線回折角2θ=26.40°からのピークシフトを基準する。Feの価数の2価と3価との指標としてはメスバウアースペクトルから判断することができる。
【0044】
本実施形態の酸化物は、例えば、後述の製造方法により得ることができる。
【0045】
[2]触媒
本実施形態の触媒は、上述の酸化物を含む。上述の酸化物を含む触媒は、不飽和アルデヒドやブタジエンを製造する際の触媒として好適に用いることができる。
【0046】
本実施形態の触媒は、上述の酸化物を担持するための担体を含有してもよい。担体を含む触媒は、酸化物を高分散化することができる点、及び担持された酸化物に、高い耐摩耗性を与えるという点で好ましい。一方、固定床反応器でアクロレインやメタクロレインを製造する際に、打錠成型した触媒として使用する場合には、本実施形態の触媒は、担体を含まなくてよい。押し出し成型法により触媒を成型する場合には、本実施形態の触媒は、担体成分を含むことが好ましい場合もある。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられる。一般的にシリカは、他の担体に比べそれ自身不活性であり、目的生成物に対する選択性を減ずることなく、上述の酸化物に対し良好なバインド作用を有する点で好ましい担体である。さらに、シリカ担体は担持された酸化物に、高い耐摩耗性を与え易いという点でも好ましい。押し出し成型法により触媒を成型する場合、担体を用いず、有機バインダーを用いて行う場合もあるが、担体として前述のものを用いる場合には、触媒全体に対する担体の含有量は5〜10質量%であることが好ましい。
【0047】
流動床反応器で用いる触媒の場合も、前述と同じ観点から、シリカを担体として用いることが好ましい。Co2+−Fe2+−Mo−Oの結晶構造への影響と、見掛比重を適切にして流動性を良好にする観点で、触媒中の担体の含有量は、触媒の全質量に対して80質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。流動床反応用触媒のような強度を要する触媒の場合、実用上十分な耐破砕正や耐摩耗性等を示す観点から、担体の含有量は、触媒の全質量に対して20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。
【0048】
[3]酸化物の製造方法
本実施形態の酸化物の製造方法は、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物を形成する原料を混合して混合物を得る工程と、
得られた混合物を乾燥して乾燥体を得る工程と、
得られた乾燥体を仮焼成して仮焼成体を得る工程と、
得られた仮焼成体を本焼成して酸化物を得る工程とを含み、
前記酸化物において、モリブデン12原子に対する、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5、鉄の原子比bが5≦b≦11、鉄の原子比bとコバルトの原子比cの比(b/c)が0.5≦b/c≦11となるように各原料の混合割合を調整し、
前記仮焼成が酸化剤及び還元剤の存在下で行われ、
前記仮焼成及び前記本焼成が不活性ガス雰囲気で行われ、
前記本焼成が前記仮焼成の温度より高温で行われる。
【0049】
上述のように、本発明者らは、Fe及びMoを単独及び/又は二成分系酸化物ではなく、CoとMoとの2成分系の複合酸化物に2価のFeが固溶化することによって3成分が複合化したCo2+−Fe2+−Mo−O系の複合酸化物を得ることに着目し、その組成比や調製方法を総合的に検討した。
【0050】
本発明者らはこの課題を解決すべく試行錯誤を重ねた結果、驚くべきことに、本焼成後の酸化物中の鉄の価数を2価に制御し、なおかつ、MoとBiとが複合酸化物Bi−Mo−Oを形成するよう酸化還元度を制御することによって、上述のような酸化物が得られることを見出した。例えば、(a)特定の構成比率と、(b)特定の金属元素の価数、(c)特定の焼成方法の3つの要件を満たした新たな製造技術によって、はじめて単純酸化物の生成を抑制し、3つの成分が複合化したCo2+−Fe2+−Mo−Oの結晶が新たに形成された触媒を得ることができることを見出した。単に、Fe含有量を多くしただけでは、本実施形態の酸化物のような複合化は起こらない。すなわち、酸化物中の2価の鉄の割合を制御することによって、はじめてCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分が相溶した新たな結晶構造が得られることを見出した。
【0051】
すなわち、例えば、(a)特定の構成比率と、(b)特定の鉄の価数、(c)特定の焼成方法の3条件を満たした新たな製造技術によって、CoとMoとの2成分系の複合酸化物に2価のFeが固溶化し、複合化されたCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造が形成された酸化物を得ることができる。該酸化物は不飽和アルデヒドの収率の高い触媒として用いることができる。また、上記3条件を満たした新たな製造技術によって、Co−Mo−OやFe−Mo−O等の2成分系の複合酸化物や、Fe23やMoO3、CoO等の単純酸化物の生成が抑制され、コバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)が26.15°〜26.35°にピークを示す傾向にあり、さらに、該酸化物を触媒として用いた場合、不飽和アルデヒドの収率が向上する傾向にある。
【0052】
上述の2価の鉄の割合を制御し、なおかつ、MoとBiとがBi−Mo−Oを形成するよう酸化還元度を制御する酸化物の設計コンセプトは従来には無い全く新しい知見である。本実施形態によって、従来の酸化物には無い鉄を多量に含む新規構造酸化物の合成が可能になった。鉄を多量に含む酸化物は、触媒として用いた場合、再酸化速度を上げ、高活性となり、反応中の触媒のレドックスサイクルが有利になる特徴があるため、低酸素分圧下でも反応が進行する。このため、酸素付加化合物の副生を極力抑制することができる。
【0053】
本実施形態の酸化物の製造方法は、例えば、モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物を形成する原料を混合して混合物を得る第1の工程と、得られた混合物を乾燥して乾燥体を得る第2の工程と、得られた乾燥体を焼成して酸化物を得る第3の工程とを含む。以下、各工程の好ましい態様について詳細に説明する。
【0054】
(1)原料の調製
第1の工程では酸化物を構成する各金属元素の原料を混合して混合物(例えば、原料のスラリー又は混合粉体)を得る。また、最終的に得られる酸化物において、モリブデン12原子に対する、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5、鉄の原子比bが5≦b≦11、鉄の原子比bとコバルトの原子比cとの比(b/c)が0.5≦b/c≦11となるように各原料の混合割合を調整する。
【0055】
モリブデン、ビスマス、鉄、コバルト、ルビジウム、セシウム、カリウムの各元素源としては、水又は硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、有機酸塩を挙げることができ、酸化物や水酸化物、炭酸塩等でもよい。酸化物の場合、スラリーにせずに、各原料酸化物の粉体を混合し、原料混合粉体としてもよい。酸化物の場合は、水又は有機溶媒に分散された分散液が好ましく、より好ましくは水に分散された酸化物である。水に分散されている場合、酸化物の凝集を抑制し、高分散させるために高分子等の界面活性剤が含まれていてもよい。酸化物の粒子径は好ましくは1〜500nm、より好ましくは10〜80nmである。担体を含有する触媒を製造する場合は、原料スラリーにシリカ原料としてシリカゾルを添加するのが好ましい。
【0056】
本焼成後の酸化物中の2価の鉄の割合を制御する観点、及びモリブデンとビスマスとを複合化させて、Bi−Mo−Oを形成させる観点で、上記原料混合粉体あるいは原料混合スラリーに酸化剤及び還元剤を添加する。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過塩素酸類から好ましい酸化剤を選んで用いることができ、2種以上の酸化剤を混合して用いてもよい。還元剤としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、ポリアクリルアミドなどの水溶性ポリマーやアミン類;アミノカルボン酸類、マロン酸、コハク酸などの多価カルボン酸;グリコール酸、りんご酸、しゅう酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸が挙げられ、これらにアンモニア水を適宜添加してもよく、2種以上の還元剤を混合して用いてもよい。酸化剤及び還元剤の添加量は特に限定されないが、均一性と生産量とのバランスの観点から、金属酸化物に対して0〜40質量%の範囲で添加することが好ましい。還元剤の添加量が金属酸化物に対して40質量%よりも多くなると、Feは2価に還元されるが、MoがMoO2や金属Moに、Biは金属Biに過還元されやすくなる。
【0057】
原料スラリーの調製方法は通常用いられる方法であれば、特に限定されないが、例えば、モリブデンのアンモニウム塩を温水に溶解させた溶液と、ビスマス、セリウム、鉄、コバルト、アルカリ金属を硝酸塩として水又は硝酸水溶液に溶解させた溶液とを混合することにより調製することができる。混合後のスラリー中の金属元素濃度は、均一性と生産量とのバランスの観点から、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0058】
前記アンモニウム塩と前記硝酸塩とを混合すると沈殿を生じ、スラリーとなる。そこで原料スラリーに対して、ホモジナイザー処理及び熟成を適宜行ってもよい。ホモジナイザー処理及び熟成を行う目的は、固形分を粉砕し、酸化物前駆体の生成を促し、より微細で均一なスラリーにすることであり、Biの含有量が多い場合には、硝酸が多く分散性の低いスラリーになり易いことから、ホモジナイザー処理及び熟成を行うことが特に好ましい。固形分をより小さく粉砕させる観点で、ホモジナイザーの回転数は、通常5000〜30000rpmで、一般的には5分〜2時間の範囲で行うことが好ましい。スラリーを熟成する場合、目的とする複合結晶を得るために、室温より高い温度であって、スラリーの媒体が液状を保つ温度に加熱することが好ましい。熟成時間は限定されないが、1〜24時間が好ましい。
【0059】
原料スラリーが均質でない場合、焼成後の酸化物組成が不均質になり、均質に複合化された結晶構造は形成され難くなる。そのため、得られた酸化物の複合化が十分でない場合に、スラリーの調製工程の適正化を試みるのは好ましい態様である。なお、上述の原料スラリーの調製工程は一例であって限定的なものではなく、各元素源の添加の手順を変えたり、硝酸濃度の調整やアンモニア水をスラリー中に添加してスラリーのpHを改質させたりしてもよい。より多くCo2+−Fe2+−Mo−Oの結晶構造を形成させるには、均質なスラリーにすることが好ましい。均質なスラリーにする観点から、原料スラリーのpHは2.0以下であることが好ましい。原料スラリーのpHは、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下である。原料スラリーのpHが2.0を超えると、ビスマス化合物の沈殿が生成する場合がある。
【0060】
(2)乾燥
第2の工程では、第1の工程で得られた混合物(例えば、原料スラリー)を乾燥して乾燥体(例えば、乾燥粒子)を得る。乾燥方法は、特に制限はなく一般に用いられている方法によって行うことができ、蒸発乾涸法、噴霧乾燥法、減圧乾燥法など任意の方法で行なうことができる。噴霧乾燥法では、通常工業的に実施される遠心方式、二流体ノズル方式及び高圧ノズル方式等の方法によって行うことができ、乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。この際、噴霧乾燥装置の乾燥機入口の温度は、好ましくは150〜400℃、より好ましくは180〜400℃、さらに好ましくは200〜350℃である。
【0061】
(3)焼成
第3の工程では、第2の工程で得られた乾燥体を焼成する。焼成は乾燥体に酸化剤及び還元剤の両方が含まれているため、発熱を抑えるために触媒量は極力少量で行うことが好ましく、酸化・還元のコントロールが精度よく実施できるようにすることが好ましい。窒素等の不活性ガスではなく、窒素で希釈された酸素や空気でも酸化・還元のコントロールは可能である。しかし、熱処理中に酸素が含まれていると還元剤が分解する時に発熱が起き、非常に危険であるだけでなく、還元するための焼成時間の正確なコントロールが必要となり、困難であるため、本実施形態の酸化物の製造方法において、焼成は不活性ガス雰囲気で行う。不活性ガスはヘリウム、アルゴン、窒素が挙げられるが、経済的な面から窒素が好ましい。
【0062】
焼成は、例えば、回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。
【0063】
乾燥体の焼成は、仮焼成と本焼成との2段焼成で行う。すなわち、得られた乾燥体を仮焼成して仮焼成体を得る工程と、得られた仮焼成体を本焼成して酸化物を得る工程とを行う。
【0064】
1段目の仮焼成は、好ましくは120〜350℃、より好ましくは150℃〜350℃、さらに好ましくは200℃〜350℃の温度範囲で仮焼成を行う。仮焼成の目的は、乾燥体中に残存している硝酸の除去と、アンモニウム塩である原料及び硝酸塩である原料に由来する硝酸アンモニウム及び含有酸化剤及び還元剤をおだやかに燃焼させることにある。したがって、1段目の仮焼成では、この目的を達成できる程度に乾燥体を加熱すればよい。仮焼成の時間は、好ましくは0.1〜72時間、より好ましくは1〜48時間、さらに好ましくは3〜24時間である。150℃以下の低温の場合、長時間の仮焼成を行うこが好ましく、330℃以上の高温の場合、2時間以下の短時間の仮焼成を行うことが好ましい。仮焼成の温度が高すぎたり、時間が長すぎたりすると、仮焼成の段階でコバルトとモリブデンとの2成分系のみで酸化物が成長し易くなってしまう結果、後述の本焼成においてCo2+−Fe2+−Mo−Oの結晶構造が生成し難くなってしまう。よって仮焼成温度及び時間の上限は、コバルトとモリブデンとの2成分系酸化物の生成が起こらない程度に設定するのが好ましい態様である。
【0065】
仮焼成工程においては、焼成環境内に酸化剤及び還元剤が存在する状態にする。前述の原料調製工程において、原料混合スラリー又は混合粉体が酸化剤及び還元剤を含有する場合、原料スラリーについては乾燥後、仮焼成し、混合粉体についてはそのまま仮焼成に付せば、仮焼成工程においてもこれらが存在する状態となる。
【0066】
原料に酸化剤及び/又は還元剤を添加していない場合、原料混合スラリーについては、スラリーに酸化剤及び/又は還元剤を添加して攪拌混合して乾燥、仮焼成してもよく、スラリーを乾燥後、酸化剤及び/又は還元剤を添加して粉体ブレンダーや粉体ミキサー、ジェットミル、ボールミル等の混合装置を用いて混合後、仮焼成してもよい。混合粉体については、混合粉体に酸化剤及び/又は還元剤を添加し、粉体ブレンダーや粉体ミキサー、ジェットミル、ボールミル等の混合装置を用いて混合して仮焼成してもよい。このようにすれば、仮焼成工程においても酸化剤及び/又は還元剤が存在する状態となる。
【0067】
仮焼成の際、昇温速度は急激な燃焼反応を抑える観点からも遅い方が望ましい。本実施形態の製造方法において、得られる酸化剤は、多成分系であるため、原料を、例えば金属硝酸塩とした場合、各金属硝酸塩の分解温度が異なり、焼成中に硝酸が動くため、焼成後の酸化物組成が不均質になりやすい。特に、還元剤が多い場合、急激な発熱が起こる場合がある。このため、酸化物の製造において、より均質に複合化された構造を形成させるためには、ゆっくりと昇温し、硝酸や有機物などの燃焼や分解成分を除去し、鉄を3価から2価に還元するのが好ましい。昇温速度は、好ましくは0.01℃/min〜100℃/min、より好ましくは0.01℃/min〜75℃/min、さらに好ましくは0.01℃/min〜50℃/minである。
【0068】
仮焼成の後、2段目の本焼成を行う。この目的は、所望の結晶構造を形成し易くすることにある。本発明者らの知見によると、結晶構造は焼成温度と焼成時間との積の影響を受けるため、焼成温度と焼成時間とを適切に設定することが好ましい。本焼成の温度は、Co2+−Fe2+−Mo−Oの結晶を生成させる観点で仮焼成の温度より高くする。本焼成の温度の上限は、700℃以下の温度に設定することが好ましい。本焼成の焼成温度は、Co−Fe−Mo−Oの結晶構造の生成し易さの観点で、400〜700℃が好ましく、より好ましくは400℃〜650℃、さらに好ましくは450℃〜600℃である。このような温度で焼成を行う場合、焼成温度と焼成時間との積を適切にしてCo2+−Fe2+−Mo−Oの結晶生成を促す観点から、本焼成の時間は、好ましくは0.1〜72時間、より好ましくは2〜48時間、さらに好ましくは3〜24時間である。結晶構造の生成のために焼成温度および焼成時間を適切にする観点で、400℃以下の低温の場合、例えば24〜72時間程度の長時間の本焼成を行うことが好ましく、600℃以上の高温の場合、得られる酸化物の表面積が小さくなりすぎて触媒活性が下がってしまうのを防ぐ観点から、1時間以下の短時間の本焼成を行うことが好ましい。
【0069】
以上の工程を全て行うことで、複合化されたCo−Fe−Mo−Oの3成分系の結晶構造が形成され易くなる。
【0070】
本焼成工程において、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造が生成したことは、本焼成の後に得られる酸化物のX線構造解析を行うことによって確認できる。本焼成の後で酸化物のX線構造解析を行うと、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造が生成していれば、上述したとおり、26.40°−α°にピークが観察される。コバルトおよびモリブデンからなる酸化物の結晶が生成する場合は26.40°にピークが現れるが、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の場合は、このピークがシフトするので、このシフトを指標として3成分系結晶の生成を確認することができる。
【0071】
このシフト(α°)の大きさを調べ、26.40°にピークを示すコバルトとモリブデンとの複合酸化物のX線回折角を調べる。本実施形態においては、コバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)が26.15°〜26.35°にピークを示していれば、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の結晶構造が生成したと判断する。鉄の価数はメスバウアースペクトルから算出する。
【0072】
[4]不飽和アルデヒド又はブタジエンの製造方法
本実施形態の不飽和アルデヒドの製造方法は、上述の触媒を用いる。また、本実施形態のブタジエンの製造方法は、上述の触媒を用いる。
【0073】
また、本実施形態の不飽和アルデヒドの製造方法は、例えば、上述の触媒を用い、プロピレン及びイソブチレン及びt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化反応させる工程を含む。本実施形態のブタジエンの製造方法は、例えば、上述の触媒を用いて、n−ブテンを酸化反応させる工程を含む。以下、その具体例について説明するが、本実施形態の不飽和アルデヒドの製造方法又は本実施形態のブタジエンの製造方法は、以下の具体例に限定されるものではない。
【0074】
(1)メタクロレインの製造方法
メタクロレインは、例えば、本実施形態の触媒を用いて、イソブチレン、t−ブチルアルコールの気相接触酸化反応を行うことにより得ることができる。気相接触酸化反応は、例えば、上述の触媒存在下に、1〜10容量%のイソブチレン、t−ブチルアルコール又は両者の混合ガスに対して分子状酸素濃度が1〜20容量%になるように、分子状酸素含有ガスと希釈ガスとを添加した混合ガスからなる原料ガスを、固定床反応器内の触媒層に250〜450℃の温度範囲及び常圧〜5気圧の圧力下、空間速度400〜4000/hr[Normal temperature pressure (NTP)条件下]で導入することで行うことができる。酸素と、イソブチレン、t−ブチルアルコール又は両者との混合ガスのモル比は、不飽和アルデヒドの収率を向上させるために反応器の出口酸素濃度を制御する観点から、好ましくは1.0〜2.0、より好ましくは1.1〜1.8、さらに好ましくは1.2〜1.8である。
【0075】
分子状酸素含有ガスとしては、例えば、純酸素ガス、及びN2O、空気等の酸素を含むガスが挙げられ、工業的観点から空気が好ましい。希釈ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気及びこれらの混合ガスが挙げられる。混合ガスにおける、分子状酸素含有ガスと希釈ガスとの混合比に関しては、体積比で0.01<分子状酸素/(分子状酸素含有ガス+希釈ガス)<0.3の条件を満足することが好ましい。さらに、原料ガスにおける分子状酸素の濃度は1〜20容量%であることが好ましい。
【0076】
原料ガス中の水蒸気は、触媒へのコーキングを防ぐ点では含まれていてもよいが、メタクリル酸や酢酸等のカルボン酸の副生を抑制するために、できるだけ希釈ガス中の水蒸気濃度を下げることが好ましい。原料ガス中の水蒸気は、通常0〜30容量%の範囲で使用される。
【0077】
(2)アクロレインの製造方法
アクロレインの製造方法は、例えば、上述の触媒を用い、プロピレンを気相接触酸化させる工程を含む。
【0078】
プロピレンの気相接触酸化によりアクロレインを製造する際の条件等に特に制限はなく、プロピレンの気相接触酸化によりアクロレインを製造する際に一般に用いられている方法によって行うことができる。例えば、プロピレン1〜15容量%、分子状酸素3〜30容量%、水蒸気0〜60容量%、窒素、炭酸ガスなどの不活性ガス20〜80容量%、などからなる混合ガスを、反応管の触媒層に250〜450℃、0.1〜1MPaの加圧下、空間速度(SV)300〜5000hr-1で導入すればよい。また、反応器については、一般の固定床反応器、流動床反応器あるいは移動床反応器が用いられる。
【0079】
(3)ブタジエンの製造方法
ブタジエンは、例えば、上述の触媒を用いて、n−ブテンの気相接触酸化反応を行うことにより得ることができる。気相接触酸化反応は、酸化物触媒存在下に、1〜10容量%のn−ブテンに対して分子状酸素濃度が1〜20容量%になるように、分子状酸素含有ガスと希釈ガスとを添加した混合ガスからなる原料ガスを、固定床反応器内の触媒層に250〜450℃の温度範囲及び常圧〜5気圧の圧力下、空間速度400〜4000/hr[Normal temperature pressure (NTP)条件下]で導入することで行うことができる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を示して、本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
【0081】
尚、酸化物触媒における酸素原子の原子比は、他の元素の原子価条件により決定されるものであり、実施例及び比較例においては、触媒の組成を表す式中、酸素原子の原子比は省略する。また、酸化物触媒における各元素の組成比は、仕込みの組成比から算出した。
【0082】
<粉末X線回折(XRD)の測定>
XRDの測定は、National Institute of Standards & Technologyが標準参照物質660として定めるところのLaB6化合物の(111)面、(200)面を測定し、それぞれの測定値を順に37.441°、43.506°となるように規準化した。
【0083】
XRDの測定装置としては、ブルカー・D8 ADVANCEを用いた。XRDの測定条件は、X線出力:40kV−40mA、発散スリット(DS):0.3°、Step幅:0.01°/step、計数Time:2.0sec、測定範囲:2θ=5°〜45°とした。
【0084】
<鉄の価数の測定>
鉄の価数に関する情報はメスバウアー分光法(透過法)から得た。測定条件を下記に示す。
・鉄の価数の測定条件
(1)測定試料の調製:試料約55〜60mgをそのままの状態で測定した。
(2)装置の構成と仕様:図5のとおりとした。
(3)観測に用いた遷移:57Feの基底状態−最低励起状態間の遷移
(エネルギー:14.4[keV])
(4)測定方法:等加速度モード、室温、常圧下
(5)記憶装置:カード型マルチチャネルアナライザ
MCSモード512チャネル
(6)線源:57Co/Rhマトリクス、1.85[GBq]
(7)速度軸検量の方法:純鉄はくの室温でのスペクトルの6本の磁気分裂ピークのうち、内側4本のピーク中心位置をx2、x3、x4、x5[channel]として次式で求めた。
x0[channel]=(x2+x3+x4+x5)/4
r[mm/s/(channel)]=20.422/{3.0835(x5−x2)+0.8385(x4−x3)}
【0085】
【表1−1】

実施例及び比較例において、反応成績を表すために用いた転化率、選択率、収率は次式で定義される。
【0086】
転化率=(反応した原料のモル数/供給した原料のモル数)×100
選択率=(生成した化合物のモル数/反応した原料のモル数)×100
収率=(生成した化合物のモル数/供給した原料のモル数)×100
[実施例1]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水89.6gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水126.3gとの混合液に、三酸化モリブデン54.0gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液212.5g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.7g、及び15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.4gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを11.4g添加して溶液(B液)を得た。
【0087】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を147.7g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0088】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、イソブチレンからメタクロレインを以下のとおり合成した。直径14mmのジャケット付SUS製反応管に、酸化物5.5gを充填し、反応温度430℃でイソブチレン8容量%、酸素12.8容量%、水蒸気3.0容量%及び窒素容量76.2%からなる混合ガスを120mL/min(NTP)の流量で通気し、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0089】
[実施例2]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水98.2gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水138.3gとの混合液に、三酸化モリブデン59.1gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液48.0g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液141.0g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液88.1g、10質量%の水酸化セシウム液5.1g、及び10質量%の水酸化カリウム1.9gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを8.5g添加して溶液(B液)を得た。
【0090】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を170.1g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。得られた噴霧乾燥酸化物前駆体をヘリウムガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体をヘリウムガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0091】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を4.0gとした以外は実施例1と同様の反応条件で、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0092】
[実施例3]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水93.5gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水131.7gとの混合液に、三酸化モリブデン56.3gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液110.9g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液110.6g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液88.9g、及び10質量%の水酸化カリウム液16.5gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを9.6g添加して溶液(B液)を得た。
【0093】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を164.6g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0094】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を5.9gとした以外は実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0095】
[実施例4]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水89.3gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水125.7gとの混合液に、三酸化モリブデン53.7gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液211.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.4g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.1g、及び10質量%の水酸化セシウム液4.7gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを11.4g添加して溶液(B液)を得た。
【0096】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を147.6g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0097】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.7gとした以外は実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0098】
[実施例5]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水98.3gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水138.5gとの混合液に三酸化モリブデン59.2gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液77.7g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液49.8g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液158.7g、及び10質量%の水酸化セシウム液5.1gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを8.9g添加して溶液(B液)を得た。
【0099】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を162.6g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で520℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0100】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0101】
[実施例6]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水98.2gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水138.3gの混合液に、三酸化モリブデン59.1gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液77.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液33.2g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液176.1g、及び10質量%の水酸化セシウム液3.1g、及び10質量%の水酸化ルビジウム液1.8gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを8.9g添加して溶液(B液)を得た。
【0102】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を162.5g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で520℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0103】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0104】
[実施例7]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水97.7gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水137.6gとの混合液に、三酸化モリブデン58.8gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液77.2g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液16.5g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液192.7g、10質量%の水酸化セシウム液5.1g、及び10質量%の水酸化カリウム液3.8gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを8.9g添加して溶液(B液)を得た。
【0105】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を162.8g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で520℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0106】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0107】
[実施例8]
〔酸化物の製造〕
実施例3で得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度75℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0108】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0109】
[実施例9]
〔酸化物の製造〕
実施例3で得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素雰囲気中で400℃で48時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0110】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.9gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0111】
[実施例10]
〔酸化物の製造〕
実施例3で得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素雰囲気中で640℃で30分本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0112】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を4.8gとした以外は実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0113】
[比較例1]
〔酸化物の製造〕
実施例1で得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を空気雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を空気雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0114】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を5.9gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0115】
[比較例2]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水95.9gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水135.0gとの混合液に、三酸化モリブデン57.7gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液166.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液121.4g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液31.0g、10質量%の水酸化セシウム液15.0g、及び水酸化カリウム液1.9gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを9.9g添加して溶液(B液)を得た。
【0116】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を150.97g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で2時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0117】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を4.5gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0118】
[比較例3]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水97.2gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水136.8gとの混合液に、三酸化モリブデン58.5gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液76.8g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液13.1g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液200.4g、及び10質量%の水酸化セシウム液5.1gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを9.0g添加して溶液(B液)を得た。
【0119】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を162.6g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で520℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0120】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.3gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0121】
[比較例4]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水125.7gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水89.3gとの混合液に三酸化モリブデン53.7gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液211.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.4g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.1g、及び10質量%の水酸化セシウム液4.7gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを11.4g、還元剤として酒石酸を35.3g添加して溶液(B液)を得た。
【0122】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を147.6g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0123】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.7gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0124】
[比較例5]
〔酸化物の製造〕
約90℃の温水199.1gにヘプタモリブデン酸アンモニウム67.4gを溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液211.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.4g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.1g、及び10質量%の水酸化セシウム液4.7gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを11.4g添加して溶液(B液)を得た。
【0125】
A液及びB液の両液を混合し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体をヘリウムガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体をヘリウムガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0126】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.7gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0127】
[比較例6]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水125.7gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水89.3gとの混合液に、三酸化モリブデン53.7gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液211.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.4g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.1g、及び10質量%の水酸化セシウム液4.7gを混合して溶液(B液)を得た。
【0128】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を147.6g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0129】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.7gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0130】
[比較例7]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水89.3gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水125.7gとの混合液に、三酸化モリブデン53.7gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液211.6g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.4g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.1g、及び10質量%の水酸化セシウム液4.7gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを11.4g添加して溶液(B液)を得た。
【0131】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を246.0g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0132】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0133】
[比較例8]
〔酸化物の製造〕
実施例3で得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を空気雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で520℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に、粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0134】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0135】
[比較例9]
〔酸化物の製造〕
実施例3で得られた仮焼成酸化物前駆体を空気雰囲気中で520℃で8時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表1に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
【0136】
<実施例4及び7並びに比較例2及び6で得られた酸化物のX線回折ピーク>
実施例4及び7並びに比較例2及び6で得られた酸化物のX線回折ピークを図1に示す。また、図1におけるX線回折ピークの2θ=25〜27°の範囲の拡大図を図2に示す。図1及び2から、実施例4及び7で得られた酸化物のX線回折において、コバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)は、順に26.24°、26.16°にピークを示すことがわかった。すなわち、実施例4及び7で得られた酸化物において、CoとMoとの複合酸化物に、さらに2価のFeが固溶することによって、複合化されたCo2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の新しい結晶構造が新たに形成されたと考えられる。一方、比較例2及び6で得られた酸化物のX線回折において、コバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)は、共に26.38°にピークを示すことがわかった。すなわち、比較例2及び6で得られた酸化物において、Co2+−Fe2+−Mo−Oの3成分系の新しい結晶構造は形成されなかったと考えられる。
【0137】
<実施例4及び比較例6で得られた酸化物のメスバウアースペクトル>
実施例4で得られた酸化物のメスバウアースペクトルを図3に示し、比較例6で得られた酸化物のメスバウアースペクトルを図4に示す。
【0138】
図3から、実施例4で得られた酸化物は、2価の鉄の割合が92%であり、3価の鉄の割合が8%であることがわかった。
【0139】
図4から、比較例6で得られた酸化物は、2価の鉄の割合が0%であり、3価の鉄の割合が100%であることがわかった。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を3.5gとした以外は、実施例1と同様の反応条件でメタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表3に示す。
【0143】
<t−ブチルアルコール→メタクロレイン>
[実施例11]
〔メタクロレインの合成〕
実施例4で得られた酸化物を触媒として使用し、t−ブチルアルコールからメタクロレインを以下のとおり合成した。直径14mmのジャケット付SUS製反応管に、酸化物4.0gを充填し、反応温度430℃でt−ブチルアルコール8容量%、酸素12.8容量%、水蒸気3.0容量%及び窒素容量76.2%からなる混合ガスを120mL/min(NTP)の流量で通気し、メタクロレイン合成反応を行った。反応評価結果を表4に示す。
【0144】
[比較例10]
〔メタクロレインの合成〕
比較例6で得られた酸化物を触媒として使用し、反応管に充填した酸化物の量を4.6gとした以外は、実施例11と同様の反応条件でt−ブチルアルコールからメタクロレインを合成した。反応評価結果を表4に示す。
【0145】
【表4】

<プロピレン→アクロレイン>
[実施例12]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水89.5gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水126.1gとの混合液に、三酸化モリブデン53.9gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液212.2g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.6g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.3g、及び10質量%の水酸化セシウム液1.4gを混合した液に、還元剤としてポリカルボン酸アンモニウムを11.4g添加して溶液(B液)を得た。
【0146】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を246.1g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表5に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表6に示す。
【0147】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、プロピレンからアクロレインを合成した。触媒20mLを内径15mmのSUS製ジャケット付反応管に充填し、プロピレン濃度10容量%、水蒸気濃度17容量%及び空気濃度73容量%の原料ガスを通気し、反応温度320℃にてアクロレイン合成反応を実施した。反応評価結果を表7に示す。
【0148】
[比較例11]
〔酸化物の製造〕
イオン交換水89.5gと、酸化剤として濃度30質量%の過酸化水素水126.1gとの混合液に、三酸化モリブデン53.9gを入れ、約70℃で攪拌混合し、溶解させて溶液(A液)を得た。また、10質量%の平均粒子径51nmの酸化ビスマス水分散液212.2g、15質量%の平均粒子径22nmの酸化コバルト水分散液75.6g、15質量%の平均粒子径39nmの酸化鉄水分散液80.3g、及び10質量%の水酸化セシウム液1.4gを添加して溶液(B液)を得た。
【0149】
A液及びB液の両液を混合して得られた混合液に、酸化剤として5%硝酸液を246.1g添加し、約3時間程度撹拌混合して、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入り口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、噴霧乾燥酸化物前駆体を得た。さらに得られた噴霧乾燥酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で室温から昇温速度0.14℃/minで昇温し、250℃で3時間仮焼成し、仮焼成酸化物前駆体を得た。得られた仮焼成酸化物前駆体を窒素ガス雰囲気中で530℃で3時間本焼成し、酸化物を得た。得られた酸化物の組成を表5に示し、酸化物における鉄の価数及び粉末X線回折の測定結果を表6に示す。
【0150】
〔メタクロレインの合成〕
得られた酸化物を触媒として使用し、該触媒20mLを反応管に充填した以外は、実施例12と同様の反応条件でプロピレンからアクロレインを合成した。反応評価結果を表7に示す。
【0151】
【表5】

【0152】
【表6】

【0153】
【表7】

<n―ブテン→ブタジエン>
[実施例13]
〔ブタジエンの合成〕
実施例4で得られた酸化物を触媒として使用し、n−ブテンからブタジエンを以下のとおり合成した。直径14mmのジャケット付SUS製反応管に、酸化物4.0gを充填し、反応温度360℃でn−ブテン8容量%、酸素12.8容量%、窒素容量79.2%からなる混合ガスを120mL/min(NTP)の流量で通気し、ブタジエン合成反応を行った。反応評価結果を表8に示す。
【0154】
[比較例12]
〔ブタジエンの合成〕
比較例6で得られた酸化物を触媒として使用した以外は、実施例13と同様の反応条件でn−ブテンからブタジエンを合成した。反応評価結果を表8に示す。
【0155】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含有し、
Fe2+/(Fe2++Fe3+)の比が0.7以上1.0未満である、酸化物。
【請求項2】
モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bが5≦b≦11である、請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
モリブデン12原子に対して、鉄の原子比bとコバルトの原子比cとの比(b/c)が0.5≦b/c≦11である、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項4】
モリブデン12原子に対して、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物。
【請求項5】
前記酸化物がコバルトとモリブデンとの複合酸化物を含有し、
前記酸化物のX線回折において、少なくともコバルトとモリブデンとの複合酸化物の(002)面のX線回折角(2θ)が26.15°〜26.35°にピーク(最大強度)を示す、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化物。
【請求項6】
下記組成式(1)で表される組成を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化物。
【化1】

(式(1)中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Coはコバルト、Aはセシウム、ルビジウム及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ元素を示し、a〜eは、Mo12原子に対する各元素の原子比を示し、0.5≦a≦5、5≦b≦11、0.5≦b/c≦11、0.01≦d≦2であり、eは酸素以外の構成元素の原子価によって決まる酸素の原子比である。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化物を含む触媒。
【請求項8】
モリブデン、ビスマス、鉄及びコバルトを含む酸化物を形成する原料を混合して混合物を得る工程と、
得られた混合物を乾燥して乾燥体を得る工程と、
得られた乾燥体を仮焼成して仮焼成体を得る工程と、
得られた仮焼成体を本焼成して酸化物を得る工程とを含み、
前記酸化物において、モリブデン12原子に対する、ビスマスの原子比aが0.5≦a≦5、鉄の原子比bが5≦b≦11、鉄の原子比bとコバルトの原子比cの比(b/c)が0.5≦b/c≦11となるように各原料の混合割合を調整し、
前記仮焼成が酸化剤及び還元剤の存在下で行われ、
前記仮焼成及び前記本焼成が不活性ガス雰囲気で行われ、
前記本焼成が前記仮焼成の温度より高温で行われる、酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の触媒を用いる、不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の触媒を用いる、ブタジエンの製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の触媒を用いて、プロピレン、イソブチレン及びt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化反応させる工程を含む、不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項12】
請求項7に記載の触媒を用いて、n−ブテンを酸化反応させる工程を含む、ブタジエンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−43125(P2013−43125A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182735(P2011−182735)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】