説明

モリブデン酸化物薄膜の製造方法及び化学センサ

【課題】真空装置などの高度な設備や技術を必要とすることなく、基板上にモリブデン酸化物薄膜を容易に形成することができるモリブデン酸化物薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】基板の表面にモリブデン酸化物の薄膜を形成する製造方法に関する。酸化モリブデンを還元性を有する金属化合物で処理する工程と、この処理をした酸化モリブデンを有機基を有するカチオンで処理して酸化モリブデンを分散する工程と、分散した酸化モリブデンを含有する液に基板を浸漬するとともに電界を印加して基板の表面にモリブデン酸化物を吸着させる工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン酸化物薄膜の製造方法に関するものであり、また製造されたモリブデン酸化物被膜を用いて形成される化学センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有する無機化合物は、化学的操作により層間に様々な有機物を挿入することが可能であり、インターカレート型の有機無機ハイブリッド材料を形成することができる。
【0003】
この有機無機ハイブリッド材料は、無機化合物の優れた機械特性や熱的安定性と、有機物の優れた化学的特性を併せ持つ新しいタイプの材料であり、発光素子、トランジスタ、電池、化学センサなどに応用されている。例えば特許文献1では、有機層に分子認識機能を、無機層に電気信号変換機能を持たせた抵抗変化型の化学センサとして、有機無機ハイブリッド材料の応用がなされている。
【0004】
ここで、有機無機ハイブリッド材料を素子としてガスセンサの用途に使用するためには薄膜化することが重要である。このようなインターカレート型の有機無機ハイブリッド薄膜の作製方法としては、主に2種類の方法が挙げられる。
【0005】
ひとつの方法は、層状構造を持ちホストとなる無機化合物とゲストとなる有機物とを溶剤中でコロイド状態にし、これを基板上に自己集合現象を利用して製膜する、Delamination/Reassembling Processである(非特許文献1参照)。
【0006】
しかし上記の非特許文献1のようなDelamination/Reassembling Processでは、ホストの無機化合物とゲストの有機物とを1層ずつ交互に積層するため、1層の厚みがオングストロームオーダーと非常に薄いホスト、ゲストから素子を形成するにあたって、十分な厚みに形成するには非常な手間と時間がかかるという問題があった。
【0007】
もうひとつの方法は、無機化合物と格子定数が類似した金属酸化物基板上に無機化合物膜を高配向に成膜し、この無機化合物膜に水和ナトリウムイオンをインターカレートし、更に、導電性ポリマーあるいは有機イオンなどの有機物と置換する方法である(特許文献2参照)。この方法では、無機化合物を高配向に成膜する手法としてCVD法などのプロセスが用いられる。
【特許文献1】特開2004−271482号公報
【特許文献2】特開2005−179115号公報
【非特許文献1】Liu, Z.-h.; Yang, X.; Makita, Y.;Ooi, K.,「Preparation of a Polycation-Intercalated LayeredManganese Oxide Nanocomposite by a Delamination/Reassembling Process」,Chem.Mater.,14,4800−4806(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献2のようにCVD法などの無機化合物薄膜の製造技術を用いる方法では、真空度、ガス流量、温度、成膜時間などを精密に制御する真空装置などの高度な設備と技術が必要となり、大面積に一括に安定した膜を作製することが困難であり、さらに製造コストが高くなってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、真空装置などの高度な設備や技術を必要とすることなく、基板上にモリブデン酸化物薄膜を容易に形成することができるモリブデン酸化物薄膜の製造方法に関するものであり、またこのモリブデン酸化物薄膜を用いて形成される化学センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るモリブデン酸化物薄膜の製造方法は、基板の表面にモリブデン酸化物の薄膜を形成する製造方法であって、酸化モリブデンを還元性を有する金属化合物で処理する工程と、この処理をした酸化モリブデンを有機基を有するカチオンで処理して酸化モリブデンを分散する工程と、分散した酸化モリブデンを含有する液に基板を浸漬するとともに電界を印加して基板の表面にモリブデン酸化物を吸着させる工程と、を有することを特徴とするものである。
【0011】
このように、酸化モリブデンを還元性を有する金属化合物で処理することによって、酸化モリブデンの層間に金属イオンを挿入することができ、次に酸化モリブデンを有機基を有するカチオンで処理することによって、酸化モリブデンの層間で金属イオンと有機基を有するカチオンが入れ替わり、酸化モリブデンの層状構造が崩れると共に負に帯電して液中に分散するものであり、この液に基板を浸漬して電界を印加することによって、負に帯電したモリブデン酸化物は基板の表面に吸着されて堆積し、モリブデン酸化物薄膜を形成することができるものである。
【0012】
また本発明は、モリブデン酸化物を吸着させた基板を300〜550℃で加熱する工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
このように、モリブデン酸化物を加熱すると、層状に酸化モリブデンの結晶構造が変化し、インターカレーションにより有機無機ハイブリッド薄膜としてモリブデン酸化物薄膜を形成することができるものである。
【0014】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、分散した酸化モリブデンを有する液に分解温度が500℃以下の粒子を含有させ、モリブデン酸化物を吸着させた基板をこの粒子の分解温度以上で加熱する工程を有することを特徴とするものである。
【0015】
このように粒子を含有することによって、モリブデン酸化物同士の結合が抑制され、基板上に吸着して凝集するモリブデン酸化物の粒径が小さくなり、しかも粒子の分解温度以上で熱処理することで粒子は分解し、モリブデン酸化物薄膜に空孔を形成して多孔質化することができるものであり、モリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくすることができるものである。
【0016】
また本発明は、分散した酸化モリブデンを有する液に粒子を含有させ、モリブデン酸化物を吸着させた基板をこの粒子が可溶の溶剤で処理する工程を有することを特徴とするものである。
【0017】
このように粒子を含有することによって、モリブデン酸化物同士の結合が抑制され、基板上に吸着して凝集するモリブデン酸化物の粒径が小さくなり、しかも粒子を溶出させることで、モリブデン酸化物薄膜に空孔を形成して多孔質化することができるものであり、モリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくすることができるものである。
【0018】
また本発明は、上記の有機基を有するカチオンが、テトラブチルアンモニウムイオンであることを特徴とするものである。
【0019】
このように有機基を有するカチオンがテトラブチルアンモニウムイオンであることによって、酸化モリブデンの層状構造を容易に崩すことができ、モリブデン酸化物薄膜の形成が容易になるものである。
【0020】
また本発明の化学センサは、上記の方法で得られたモリブデン酸化物薄膜を用いて形成したことを特徴とするものである。
【0021】
このモリブデン酸化物薄膜は配向性が高く、有機物をインターカレートした有機無機ハイブリッド薄膜の優れた母体となり得るものであり、特性の優れた有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサを効率よく作製することが可能となるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸化モリブデンを還元性を有する金属化合物で処理することによって、酸化モリブデンの層間に金属イオンを挿入することができ、次に酸化モリブデンを有機基を有するカチオンで処理することによって、酸化モリブデンの層間で金属イオンと有機基を有するカチオンが入れ替わり、酸化モリブデンの層状構造が崩れると共に負に帯電して液中に分散するものであり、この液に基板を浸漬して電界を印加することによって、負に帯電したモリブデン酸化物は基板の表面に吸着されて堆積し、モリブデン酸化物薄膜を形成することができるものである。このように真空装置などの高度な設備や技術を必要とすることすることなく、基板上にモリブデン酸化物薄膜を容易に形成することができるものである。
【0023】
そしてこのモリブデン酸化物薄膜を用いて特性の優れた化学センサを製作することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0025】
まず、酸化モリブデンの粉末を水などの液中で還元性を有する金属化合物によって処理する。酸化モリブデンは結晶構造として層状構造を有する半導体であり。このように酸化モリブデン粉末を還元性を有する金属化合物で処理することによって、酸化モリブデンの層間に金属イオンを挿入することができる。還元性を有する金属化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば亜ジチオン酸ナトリウム(Na)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ブチルリチウム(LiCH)などを用いることができる。
【0026】
次に、このように還元性を有する金属化合物で処理した酸化モリブデンを、有機基を有するカチオンで処理する。このように有機基を有するカチオンで酸化モリブデンを処理することによって、酸化モリブデンの層間に挿入された金属イオンと有機基を有するカチオンの間でカチオン交換反応が起こり、酸化モリブデンの層間において金属イオンと有機基を有するカチオンとが入れ替わる。
【0027】
そしてこのように酸化モリブデンの層間に有機基を有するカチオンが侵入すると、酸化モリブデンの層状構造が崩されることになり、このように層状構造が崩れた酸化モリブデンは負に帯電して、液中に分散する。
【0028】
ここで、上記の有機基を有するカチオンとしては、特に限定されるものではないが、テトラブチルアンモニウムイオンやテトラメチルアンモニウムイオンなどの4級アンモニウムイオンを用いるのが好ましい。上記のように有機基を有するカチオンの役割は、層状化合物である酸化モリブデンの層間にイオン交換により侵入して、層状構造を壊すことである。このとき、層間に侵入することができる分子の小ささと層状構造を壊すことができる分子の大きさのバランスがとれていることが求められる。そしてテトラブチルアンモニウムイオンは、N原子に4つのブチル基が結合している構造であり、層間に侵入することができる分子の小ささと層状構造を壊すことができる分子の大きさのバランスがとれているものであって、酸化モリブデンの層状構造を崩す材料としてテトラブチルアンモニウムイオンは優れるものである。N原子に結合しているアルキル基がブチル基よりもC原子の少なくなっていくものであると、分子の大きさが小さくなっていき、層状構造を崩すことが難しくなっていく。逆にブチル基よりもC原子が多くなっていくと、分子の大きさが大きくなっていき、層間に侵入することが難しくなっていく。
【0029】
次に、このように酸化モリブデンを分散した液に基板を浸漬し、基板に電界を印加する。基板としては、電界を印加して表面に帯電することができるものであれば何でもよい。例えば絶縁板であれば、表面に金属膜をスパッタ等して形成したものを用いることができる。そしてこのように酸化モリブデンを分散した液に浸漬した基板に電界を印加することによって、負に帯電したモリブデン酸化物が基板の表面に吸着され、基板の表面にモリブデン酸化物を堆積させて膜を形成することができ、モリブデン酸化物薄膜を形成することができるものである。
【0030】
上記のように基板の表面にモリブデン酸化物薄膜を吸着させて形成した後に、必要に応じて、300〜550℃の温度で加熱するようにしてもよい。このようにモリブデン酸化物薄膜を加熱することによって、モリブデン酸化物薄膜の酸化モリブデンは層状に結晶構造が変化する。モリブデン酸化物薄膜の酸化モリブデンが層状構造であると、インターカレーションにより酸化モリブデンの層間に有機物を挿入した有機無機ハイブリッド薄膜を作製することができるものである。加熱温度が300℃未満であると、層状の酸化モリブデンに結晶構造を変化させることができない。一方、加熱温度が550℃を超えると、酸化モリブデン内のモリブデンの酸化数が減少し、この場合も層状構造の酸化モリブデンを形成することができない。加熱時間は特に限定されないが、0.5〜50時間の範囲が好ましい。
【0031】
そして、このようにモリブデン酸化物薄膜に有機物をインターカレーションして、モリブデン酸化物薄膜で有機無機ハイブリッド薄膜を形成することによって、特性の優れた有機無機ハイブリッド材料を用いた化学センサ素子を作製することができるものである。
【0032】
ここで、膜の表面積が特性に大きな影響を与える用途では、膜の表面積をコントロールする技術が有効である。例えばガスセンサなどに用いられる化学センサにおいて、ガスを検知する部分はガスとの接触面積を大きくすると検出感度を増幅することができる。従ってモリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくして、このモリブデン酸化物薄膜から形成される有機無機ハイブリッド薄膜の表面積を増やすと、検出感度を向上させる効果が期待できるものである。
【0033】
そこでモリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくするために、本発明の一つの方法では、上記のように有機基を有するカチオンで処理して分散した酸化モリブデンを有する液に、分解温度が500℃以下の粒子を含有させるようにしてある。このような粒子を含有する液に基板を浸漬して電界を印加すると、モリブデン酸化物が基板の表面に吸着・堆積してモリブデン酸化物薄膜が形成される際に、粒子を含有したモリブデン酸化物薄膜が形成されることになる。このとき粒子はモリブデン酸化物同士の結合を抑制する作用をなし、基板上に吸着されるモリブデン酸化物が大きく凝集することを防ぐことができ、基板の表面に堆積されるモリブデン酸化物の粒径を小さくすることができる。そしてこのモリブデン酸化物薄膜を粒子の分解温度以上で熱処理すると、粒子は分解して薄膜から消失し、モリブデン酸化物薄膜に空孔が形成され、膜を多孔質化することができる。このように膜の微粒子化と多孔質化によって、モリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくすることができるものである。
【0034】
この分解温度が500℃以下の粒子としては、特に限定されるものではないが、非架橋のアクリル微粒子やナイロン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリルの微粒子などを用いることができる。分解温度が500℃を超えるものは、分解の処理温度が高くなって、モリブデン酸化物薄膜にダメージを与えるおそれがあるので、分解温度が500℃以下の粒子を用いるものであり、分解の加熱温度は特に限定されるものではないが、分解温度+50℃以下であることが望ましい。また分解温度の下限は特に設定されるものではないが、実用的には、分解温度が100℃以上の粒子を用いるのが望ましい。さらに分解加熱処理の時間も限定されるものではないが、0.5〜50時間程度が望ましい。また粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、0.05〜3μmの範囲であることが望ましい。尚、分解温度が500℃以下の粒子の含有量は、モリブデン酸化物薄膜の表面積のコントロールに応じて任意に設定されるものであり、特に限定されるものではない。
【0035】
またモリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくするために、本発明の他の方法では、上記のように有機基を有するカチオンで処理して分散した酸化モリブデンを有する液に、溶剤に可溶な粒子を含有させるようにしてある。このような粒子を含有する液に基板を浸漬して電界を印加すると、モリブデン酸化物が基板の表面に吸着・堆積してモリブデン酸化物薄膜が形成される際に、粒子を含有したモリブデン酸化物薄膜が形成されることになる。このとき粒子はモリブデン酸化物同士の結合を抑制する作用をなし、基板上に吸着されるモリブデン酸化物が大きく凝集することを防ぐことができ、基板の表面に堆積されるモリブデン酸化物の粒径を小さくすることができる。そしてこのモリブデン酸化物薄膜を、粒子を可溶な溶剤で処理すると、粒子は溶剤に溶解して薄膜から溶出し、モリブデン酸化物薄膜に空孔が形成され、膜を多孔質化することができる。このように膜の微粒子化と多孔質化によって、モリブデン酸化物薄膜の表面積を大きくすることができるものである。このとき、粒子をモリブデン酸化物薄膜から完全に溶出させるため、溶剤で処理して溶出させる際に超音波処理をするようにしてもよい。
【0036】
この粒子としては、特に限定されるものではないが、アクリル微粒子やナイロン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリルの微粒子などを用いることができる。またこの粒子を可溶の溶剤としては、粒子と溶解度パラメーターが近いものが好ましく、特に限定されるものではないが、例えばアクリル微粒子の場合ベンゼンなどを用いることができる。さらに粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、0.05〜3μmの範囲であることが望ましい。尚、粒子の含有量は、モリブデン酸化物薄膜の表面積のコントロールに応じて任意に設定されるものであり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0038】
(実施例1)
アルゴンガス雰囲気下、酸化モリブデン(MoO)1gを蒸留水に縣濁し、還元性を有する金属化合物として、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)0.4g及びモリブデン酸ナトリウム(NaMoO・2HO)12gを添加して撹拌した。そして得られた反応物を分離し、洗浄、乾燥することによって、酸化モリブデンの層間にNaイオンが挿入された[Na(HO)MoOを0.4g得た。
【0039】
次に、この層間にNaイオンが挿入された酸化モリブデン([Na(HO)MoO)を蒸留水中に、水に対して0.4質量%の量で分散して攪拌し、これに有機基を有するカチオンとして水酸化テトラブチルアンモニウムを、水に対して0.6質量%の量で添加してさらに攪拌した。すると酸化モリブデンの層状構造が壊れて水中に分散し、透明な分散液が得られた。この透明な分散液をエタノールと10:11の質量比で混合した。
【0040】
そして基板として、Si板の表面に白金をスパッタしたものを用い、上記の分散液に2枚の基板を浸漬して電極とし、電極間に3Vの定電圧を1分間印加したところ、基板の白金層の上に析出物が生じた。
【0041】
このように基板上に析出した析出物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図1にSEM像を示すように、膜が形成されている様子が確認された。またこの膜にエネルギー分散型蛍光X線分析装置よる元素分析を実施したところ、主にMoとOを検出した。従って基板上にモリブデン酸化物薄膜が形成されていることが確認された。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様にしてモリブデン酸化物薄膜を作製した。そしてこのモリブデン酸化物薄膜を形成した基板を、400℃、600℃の温度でそれぞれ1時間加熱した。
【0043】
この400℃で加熱した基板と、600℃で加熱した基板について、加熱後の各モリブデン酸化物薄膜をX線回折(XRD)で測定し、XRD測定の結果を図2に示す。図2にみられるように、400℃で加熱したサンプルでは、MoO3の(0k0)に起因するピークが非常に強く観測されることから、基板の表面にb軸に配向した層状のMoO薄膜が形成されていることが確認された。一方、600℃で加熱したサンプルでは、MoOの(0k0)に起因するピークが確認されなかったことから、層状のMoOは得られないものであった。
【0044】
(実施例3)
実施例1において、酸化モリブデンが分散して透明となった分散液に、アクリル粒子(綜研化学株式会社製「MP4009」;分解温度80℃、粒径0.6μmφ)を水に対して1.6質量%となるように添加し、30分間超音波振動処理して液中に分散させた。
【0045】
その他は、実施例1と同様にして、この分散液に基板を浸漬して定電圧を印加し、基板の表面にモリブデン酸化物薄膜を形成した。そして基板を400℃で2時間加熱処理し、モリブデン酸化物薄膜に含まれるアクリル粒子を分解して除去した。
【0046】
このように実施例3で作製したモリブデン酸化物薄膜をSEM観察し、モリブデン酸化物被膜の任意箇所の100個の粒子について粒径を測定した。また実施例1で作製したモリブデン酸化物薄膜についても同様に100個の粒子の粒径を測定し、実施例3と実施例1の粒径を表1に示した。表1のこの粒径の比較から明らかなように、アクリル粒子を添加した実施例3のほうがモリブデン酸化物薄膜の生成粒子は小さくなっており、モリブデン酸化物薄膜の表面積が大きくなったと考えられる。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例4)
実施例3と同様にして、酸化モリブデンが分散して透明となった分散液に、アクリル粒子(綜研化学株式会社製「MP4009」)を分散させた。
【0049】
その他は、実施例1と同様にして、この分散液に基板を浸漬して定電圧を印加し、基板の表面にモリブデン酸化物薄膜を形成した。そしてアクリル樹脂の溶解度パラメーターに近いベンゼンに基板を5分間超音波をかけながら浸漬し、モリブデン酸化物薄膜に含まれるアクリル粒子を溶出して除去した。
【0050】
このように実施例4で作製したモリブデン酸化物薄膜をSEM観察し、モリブデン酸化物被膜の任意箇所の100個の粒子について粒径を測定した。また実施例1で作製したモリブデン酸化物薄膜についても同様に100個の粒子の粒径を測定し、実施例4と実施例1の粒径を表2に示した。表2のこの粒径の比較から明らかなように、アクリル粒子を添加した実施例4のほうがモリブデン酸化物薄膜の生成粒子は小さくなっており、モリブデン酸化物薄膜の表面積が大きくなったと考えられる。
【0051】
【表2】

【0052】
(実施例5)
熱酸化膜付Si基板の表面に、LaAlOゾル溶液をスピンコートして1100℃で1時間焼成することでLaAlOバッファー層を形成した後、電極間隔20μmの白金櫛形電極を形成した。これをセンサ素子の基板として用いた。
【0053】
そして実施例1と同様にして、酸化モリブデンが分散して透明となった分散液を調製した後、一方の電極としてセンサ素子の基板を、他方の電極としてSi基板の表面の白金をスパッタして形成したものを、それぞれ分散液に浸漬し、電極間に5Vの定電圧を1分間印加した。このように電界を印加することによって、センサ素子の基板の表面に析出物が生じた。そしてこのセンサ素子基板を500℃で1時間加熱処理することによって、層状構造の酸化モリブデン薄膜を形成した。
【0054】
この酸化モリブデン薄膜を形成したセンサ素子基板を、NaMoO・2HOとNaを質量比15:1で混合して溶解した水溶液に浸漬し、酸化モリブデンを還元して層間にナトリウムイオンをインターカレートした。次にこのセンサ素子基板を、蒸留水と塩酸(12mol/l)とアニリンを1000:118:102の質量比で混合・攪拌した後に重合剤過硫酸アンモニウム(NHを過硫酸アンモニウムとアニリンの質量比が10:307となるよう添加して調製した溶液に浸漬し、イオン交換によりポリアニリンを酸化モリブデンの層間にインターカレートすることによって、(PANI)MoOの組成の有機無機ハイブリッド薄膜を形成し、化学センサのセンサ素子を作製した。
【0055】
このように作製したセンサ素子を外熱式で加熱して温度を100℃に保持し、窒素をキャリアガスとして、100ppbのホルムアセトアルデヒドガスに20分間曝したときのセンサ素子の抵抗値の変化を計測した。図3に抵抗値の計測値の変化を示した。図3にみられるように、ホルムアルデヒドガスを導入すると抵抗値が増加するものであり、このことからセンサ素子がガスセンサとして機能していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1の析出膜のSEM膜をプリントした図である。
【図2】実施例2のモリブデン酸化物薄膜をX線回折測定したグラフである。
【図3】実施例5で得たセンサ素子のガス応答性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にモリブデン酸化物の薄膜を形成する製造方法であって、酸化モリブデンを還元性を有する金属化合物で処理する工程と、この処理をした酸化モリブデンを有機基を有するカチオンで処理して酸化モリブデンを分散する工程と、分散した酸化モリブデンを含有する液に基板を浸漬するとともに電界を印加して基板の表面にモリブデン酸化物を吸着させる工程と、を有することを特徴とするモリブデン酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
モリブデン酸化物を吸着させた基板を300〜550℃で加熱する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のモリブデン酸化物薄膜の製造方法。
【請求項3】
分散した酸化モリブデンを有する液に分解温度が500℃以下の粒子を含有させ、モリブデン酸化物を吸着させた基板をこの粒子の分解温度以上で加熱する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のモリブデン酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
分散した酸化モリブデンを有する液に粒子を含有させ、モリブデン酸化物を吸着させた基板をこの粒子が可溶の溶剤で処理する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のモリブデン酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
上記の有機基を有するカチオンが、テトラブチルアンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモリブデン酸化物薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法で得られたモリブデン酸化物薄膜を用いて形成したことを特徴とする化学センサ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−78380(P2010−78380A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244966(P2008−244966)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】