説明

モレキュラーシーブ焼成体を用いた脱水塗布装置及びそれを用いた反射防止フィルム

【課題】マイクログラビア法での塗布を安定させるとともに、塗布液の寿命を向上させ、更に再利用も視野に入れた塗液の脱水装置及びその脱水装置を用いた反射防止フィルムの製造方法を提供することである。
【解決手段】0.3nmの細孔を無視した比表面積を測定することができるNガスBET7点法において、ゼオライトの結晶が5μm以上の結晶体であり、比表面積が20m/g以上35m/g以下であるモレキュラーシーブを、平板状の焼成体形状として塗液脱水機構に組み込むことを特徴とする脱水塗布装置であり、脱水塗布装置を用いて形成されることを特徴とする反射防止フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比表面積が20〜35m/gのモレキュラーシーブの製造方法およびそれを用いて、マイクログラビア法での塗布を安定させるとともに、塗布液の寿命を向上させ、更に再利用も視野に入れた塗液の脱水装置及びその脱水塗布装置を用いた反射防止フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムなど光学フィルムの製造過程において、塗工方法は、大面積化、および連続生産ができ、低コスト化が可能なウエットコーティング法が注目されている。また近年、プラズマディスプレイパネルなどの光学フィルムがその一部に用いられているディスプレイを有する薄型テレビジョンなどの価格競争は極めて熾烈であり、これらに用いられる光学用フィルムのコストダウンの要求も極めて高くなってきている。
【0003】
しかしながら、溶剤を用いたオールウェット塗布は生産性の観点からは非常に有利である反面、マイクログラビアなど開放系の塗布方法では、塗液が空気界面と接触することにより、有機溶剤が蒸発し、その蒸発の際に結露や吸湿を生じて水分が塗布液内に取り込まれる。その結果塗液の状態(表面張力、粘度など)が変化し、得られる光学フィルムの物理的特性が変化(劣化)してしまうという問題を生じることから、塗液を廃棄処分としているのが現状である。
【0004】
また、モレキュラーシーブを用いた脱水法は一般的にも使用されている。例えば、特許文献1には、アルコール用のモレキュラーシーブの製造法が提案されている。しかし、モレキュラーシーブは正イオンをもつことから、負の電荷を持った物質や、電気的に偏りのある(分極という)分子は強く吸着されてしまう。
【0005】
このような特徴をもつことから、反射防止フィルムの製造で用いる塗液は界面活性剤を含むものが大半であるため、モレキュラーシーブを用いた脱水法では、モレキュラーシーブのこのような特徴により、塗液の有効成分まで吸着し液組成が変化してしまうことから適用が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−527304号公報
【特許文献2】特開平10−33980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、モレキュラーシーブの細孔以外の比表面積を(NガスBET7点法)20〜35m/gである脱水剤を用いて、マイクログラビア法での塗布を安定させるとともに、塗布液の寿命を向上させ、更に再利用も視野に入れた塗液の脱水塗布装置及びその脱水塗布装置を用いた反射防止フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、5μm以上のゼオライト結晶体を用いてペレット状に成型、乾燥、焼成して合成したモレキュラーシーブの細孔以外の比表面積(NガスBET7点法)が20〜35m/gを示すモレキュラーシーブを用いて塗液の脱水を行えば、マイクログラビア法での塗布を安定させるとともに、塗布液の寿命を向上させ、更に再利用も視野に入れた塗液の脱水法を提供できることを見出したものである。
【0009】
上記課題を解決するために請求項1にかかる発明としては、0.3nmの細孔を無視した比表面積を測定することができるNガスBET7点法において、モレキュラーシーブの粉末が5μm以上の結晶であり、比表面積が20m/g以上35m/g以下である平板状のモレキュラーシーブ焼成体を塗液脱水機構に組み込むことを特徴とするモレキュラーシーブ焼成体を用いた脱水塗布装置である。
【0010】
また、請求項2にかかる発明としては、塗液塗布機構と、塗液脱水機構を備え、塗液脱水機構は、モレキュラーシーブ焼成体が、送液経路内に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載のモレキュラーシーブ焼成体を用いた脱水塗布装置である。
【0011】
また、請求項3にかかる発明としては、前記請求項1に記載の脱水塗布装置を用いて形成されることを特徴とする反射防止フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載の発明によるモレキュラーシーブ焼成体を用いると、モレキュラーシーブの粉末が塗布液中の異物とならず、脱着や再生処理が容易に可能となる。
【0013】
また、請求項2に記載の発明による脱水塗布装置を用いることにより、塗液中の有効成分は吸着せず、塗布液中に混入している水のみを吸着させることが可能となり、長時間における塗布液使用に際しても、塗布液の水分上昇などによる粘度上昇を抑えることができ、安定した塗布液を維持することができる。さらに、水のみを吸着させることができることより、使用後、加熱処理を施すことにより、モレキュラーシーブを再び用いることができることから、再利用を繰り返すことが可能となる。
【0014】
さらに、本発明に効果を発揮する、塗布部開放型のマイクログラビア法においては、塗布液に混入してくる水分を常時送液経路内にて脱水することが可能となり、塗布液状態を安定させ、塗布液の変質を従来よりも抑えることができる。さらに、使用残りの塗布液が生じた場合においても、塗布液を再び使用することが可能となる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、本発明の脱水塗布装置を用いることにより、塗布液状態を安定にすることができ、特性を変化させることなく、光学用途に適した反射防止フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例の脱水塗布装置の簡略図である。
【図2】本発明の反射防止フィルムの層構成の一例の断面模式図である。
【図3】本発明の一実施例の水分濃度変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
モレキュラーシーブは粉末体であることより、そのままの形態では用いることが困難であることより、本発明の脱水装置に用いるモレキュラーシーブは焼成体として形成したのちに用いる。よって、脱水塗布装置に用いるモレキュラーシーブ焼成体について説明する。
【0018】
モレキュラーシーブの粉末体を各水溶液と混ぜ合わせてゼオライト水スラリーを準備した後、カリオン系クレイ結合剤と混ぜ合わせ、焼成用金型に流し込み、圧力成形をおこない乾燥させた後、200〜400℃の温度範囲(成形個数、焼成時間により温度範囲を調整する)により焼成処理をおこなうことにより、本発明の脱水塗布装置に用いる平板状のモレキュラーシーブ焼成体を得ることができる。
【0019】
なお、大きさについては形状に用いる金型によって、任意に決定することが可能であり、形状としては、ペレット(Pellet)状、トライシブ(Trisiv)状、ビーズ(Bead)状、メッシュ(Mesh)状とすることは可能であるが、脱水塗布装置に組み込まれることを考慮すると、ペレット(Pellet)状または平板(Flat board)状が好ましい。さらに、脱水装置に組み込む場合には、挿入タンクの内径に合わせた平板状の形状を用いることが好ましい。
【0020】
また、ペレット状やビーズ状などの形状においては、メッシュ状の金網に各形状のモレキュラーシーブの焼成体を投入し、その金網を挿入タンク内に設置することで用いることができる。
【0021】
また、モレキュラーシーブは水のみを吸着させる用途であるため、使用後、再度100〜150℃の加熱処理を施すことにより、モレキュラーシーブ内の水が蒸発、乾燥することができ、再度使用することが可能となる。
【0022】
本発明の脱水塗布装置の構成についての一実施例を、図1に脱水塗布装置の簡略図を示した。
【0023】
本発明の脱水塗布装置の送液経路を2系統構成し、1系統目は、塗布液タンク(4)から、ダイヤフラムポンプ(8)により、塗布液をモレキュラーシーブ焼成体を充填するフィルターハウジング(7)を通過させる送液経路であり、使用中に塗布液内に混入してくる水分を常に脱水させるものである。なお、モレキュラーシーブを充填するフィルターハウジング(7)は、耐圧タンク又はフィルターを装着するフィルターハウジング(7)が使用でき、モレキュラーシーブの大きさや量に適した容器を選択することが好ましく、密に充填することが効率的な脱水速度を再現することができる。
【0024】
次に、2系統目は、塗布液タンク(4)からレビトロポンプ(5)により塗布部(9)へ塗布液を送液され、残液が塗布液タンク(4)へ戻ってくる送液経路である。なお、モレキュラーシーブは多孔質で崩れやすいことから、送液経路内において、フィルター(6)を装着することが好ましい。1μmのフィルターを装着すれば、十分に異物の発生を防ぐことができる。また、本発明における塗布部(9)については、大気開放部が大きく、大気水分が混入しやすいマイクログラビア法を示す。
【0025】
本発明の脱水塗布装置を用いて形成する反射防止フィルムについて説明する。
【0026】
図2に本発明の反射防止フィルムの断面模式図を示した。透明基材(1)の少なくとも一方の面にハードコート層(2)と低屈折率層(3)を順に備える。透明基材(1)にハードコート層(2)を設けることにより、反射防止フィルム表面に高い表面硬度を付与することができ、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムとすることができる。
【0027】
また、ハードコート層(2)上には低屈折率層(3)が設けられる。可視光領域において波長の1/4となるような光学膜厚を有する層厚の低屈折率層を設けることにより、反射防止フィルム表面に入射する外光の反射を抑制することができる。また、ハードコート層(2)に帯電防止性を有していてもよい。
【0028】
次に、前記反射防止フィルムの製造方法について具体的に説明する。
【0029】
本発明の反射防止フィルムにおける透明基材としては、種々の有機高分子からなるフィルムまたはシートを用いることができる。例えば、ディスプレイ等の光学部材に通常使用される基材が挙げられ、透明性や光の屈折率等の光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの諸物性を考慮して、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等のセルロース系、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド系、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール等の有機高分子からなるものが用いられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートが好ましい。中でも、トリアセチルセルロースにあっては、複屈折率が小さく、透明性が良好であることから液晶ディスプレイに対し好適に用いることができる。なお、透明基材の厚みは25μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
さらに、これらの有機高分子に公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等を添加することにより透明基材に機能を付加させたものも使用できる。また、透明基材は上記の有機高分子から選ばれる1種または2種以上の混合物、または重合体からなるものでもよく、複数の層を積層させたものであってもよい。
【0031】
ハードコート層を設けることで、透明プラスチック基材表面の硬度を向上させ、鉛筆等の荷重のかかる引っ掻きによる傷を防止し、また、透明プラスチックフィルム基材の屈曲による反射防止層のクラック発生を抑制することができ、反射防止フィルムの機械的強度が改善できる。
【0032】
ハードコート層は1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する多官能性モノマーを主成分とする重合物からなる。多官能性モノマーとしては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ−(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エボキシ変成ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。多官能モノマーは、一種類のみを使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、必要で有れば単官能モノマーと併用して共重合させることもできる。ハードコート層は透明プラスチックフィルム基材と屈折率が同等もしくは近似していることがより好ましい。
【0033】
なお、ハードコート層を形成する塗液には、必要に応じて、溶媒や各種添加剤を加えることができる。溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、また、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノン等のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、水等の中から塗工適正等を考慮して適宜選択される。また、塗液には添加剤として、防汚剤、表面調整剤、レベリング剤、屈折率調整剤、密着性向上剤、光増感剤等を加えることもできる。
【0034】
低屈折率層としては、低屈折率コーティング剤に使用する内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子は、屈折率が1.20〜1.44であればよく、特に限定されるものではない。有機珪素化合物から成るマトリックス中に、内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子を添加することにより、低屈折率化が可能となる。内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子は内部に空気を含有しているために、それ自身の屈折率は、通常のシリカ(屈折率=1.46)と比較して著しく低い(屈折率=1.44〜1.34)内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子は、多孔性シリカ微粒子を有機珪素化合物等で表面を被覆し、その細孔入口を閉塞して作製される。
【0035】
また、この内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子をマトリックス中に添加した場合、このシリカ微粒子は中空であるために、マトリックスがシリカ微粒子内部に浸漬することが無く、屈折率の上昇を防ぐことが出来る。内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子の平均粒径は、0.5〜200nmの範囲内であれは良い。この平均粒径が200nmよりも大きくなると、低屈折率層の表面においてレイリー散乱によって光が散乱され、白っぽく見え、その透明性が低下する。また、この平均粒径が0.5nm未満であると、内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子が凝集しやすくなってしまう。
【0036】
低屈折率コーティング剤に加えられるバインダマトリックス形成材料としては、ケイ素アルコキシドの加水分解物を用いることができる。さらには、一般式(1)RSi(OR)4−x(但し、式中Rはアルキル基を示し、xは0≦x≦3を満たす整数である)で示されるケイ素アルコキシドの加水分解物を用いることができる。
【0037】
一般式(1)で表されるケイ素アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンタ−iso−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−プロキシシラン、テトラペンタ−n−ブトキシシラン、テトラペンタ−sec−ブトキシシラン、テトラペンタ−tert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等を用いることができる。ケイ素アルコキシドの加水分解物は、一般式(I)で示される金属アルコキシドを原料として得られるものであればよく、例えば塩酸にて加水分解することで得られるものである。
【0038】
さらには、低屈折率層のバインダマトリックス形成材料としては、一般式(1)で表されるケイ素アルコキシドに、一般式(2)R´Si(OR)4−z(但し、式中R´はアルキル基、フルオロアルキル基又はフルオロアルキレンオキサイド基を有する非反応性官能基を示し、zは1≦z≦3を満たす整数である)で示されるケイ素アルコキシドの加水分解物をさらに含有することにより反射防止フィルムの低屈折率層表面に防汚性を付与することができ、さらに、低屈折率層の屈折率をさらに低下することができる。
【0039】
一般式(2)で示されるケイ素アルコキシドとしては、例えば、オクタデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
また、バインダマトリックス形成材料として、電離放射線硬化型材料を用いることもできる。電離放射線硬化型材料としては、ハードコート剤で挙げた電離放射線硬化型材料を用いることができる。また、低屈折率のフッ素系電離放射線硬化型材料を用いて低屈折率層を形成するにあっては、必ずしも低屈折率粒子を添加する必要はない。また、電離放射線硬化型材料を用いる場合にあっても、低屈折率層表面に防汚性を発現する材料を添加することが好ましい。なお、バインダマトリックスとして電離放射線硬化型材料を用い、紫外線を照射することにより低屈折率層を形成する場合には、低屈折率コーティング剤に光重合開始剤が加えられる。
【0041】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等が挙げられる。以上により、低屈折率層は形成される。
【0042】
バインダマトリックス形成材料として、ケイ素アルコキシドの加水分解物を用いた場合には、ケイ素アルコキシドの加水分解物と低屈折率粒子とを含むコーティング剤を塗布しハードコート層上に塗膜を形成し、該塗膜に対し乾燥・加熱し、ケイ素アルコキシドの脱水縮合反応をおこなうことにより低屈折率層を形成することができる。また、バインダマトリックス形成材料として電離放射線硬化型材料を用いた場合には、電離放射線硬化型材料と低屈折率粒子とを含む塗液を塗布しハードコート層上に塗膜を形成し、該塗膜に対し、必要に応じて乾燥をおこない、その後、紫外線、電子線といった電離放射線を照射することにより電離放射線硬化型材料の硬化反応をおこなうことにより、低屈折率層を形成することができる。
【0043】
なお、低屈折率コーティング剤には、必要に応じて、溶媒や各種添加剤を加えることができる。溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、また、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノン等のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、水等の中から塗工適正等を考慮して適宜選択される。また、塗液には添加剤として、防汚剤、表面調整剤、レベリング剤、屈折率調整剤、密着性向上剤、光増感剤等を加えることもできる。
【0044】
本発明の反射防止フィルムにおける低屈折率層は、高屈折率層を持たない場合には、低屈折率層の屈折率(n)と低屈折率層の層厚(d)をかけることにより得られる低屈折率層の光学膜厚(nd)が可視光波長の1/4となるように設けられる。このとき、低屈折率層の光学膜厚は115nm以上135nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0045】
低屈折率層の光学膜厚を115nm以上135nm以下の範囲内とし、λ=500nmとしたときλ/4付近となるように低屈折率層の光学膜厚を設計することにより、反射色相が小さく、低屈折率コーティング剤を用いて塗布法により形成される低屈折率層の膜厚変動による色ムラの発生の少ない反射防止フィルムとすることができる。
【0046】
本発明の脱水塗布装置を送液経路内に用いることにより、前記ハードコート剤や、低屈折率コーティング剤に、必要に応じて加えられた溶媒や各種添加剤に混入している水のみを吸着させ安定させることができる。特に低屈折率コーティング剤に多くの水が混入していると塗布液の寿命が短くなるのと、塗布液の安定性が得られなくなることから、膜厚変動が大きくなり、色ムラが生じてしまうことから、本発明の脱水塗布装置を用いて水のみを吸着させ安定させることにより、低屈折率層の膜厚変動による色ムラの発生を抑えることが可能となる。
【実施例】
【0047】
本発明を実施例に基づき、詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
まず、モレキュラーシーブの焼成体形成について以下に示す。
【0049】
モレキュラーシーブの粉末体を5μm以上の結晶と5μm以下の結晶とを分別するために、5μmの網にふるいにかけ分別させたのち、ケイ酸ソーダ水溶液及びアルミン酸ソーダ水溶液を用いて、200g/lである4A型ゼオライト水スラリーを作成した。
【0050】
前記スラリーに50gKCl/l及び100gCaCl /lの各塩化物水溶液を用いて、夫々イオン交換させて、カリウムA(3A)型ゼオライトを得た。
【0051】
このカリウムA(3A)型ゼオライトを0.05wt%のクエン酸にて中和処理後、重量比10倍の水で水洗後、カリオン系クレイ結合剤を使用し、平板形状の金型にゼオライトを流し込み、圧力成形をおこない乾燥させた後、200〜400℃の温度範囲(成形個数、焼成時間により温度範囲を調整する)により焼成処理をおこなうことにより、平板形状のモレキュラーシーブ焼成体を得ることができる。なお、大きさについては形状に用いる金型によって、任意に決定することが可能である。
【0052】
前記モレキュラーシーブの結晶を5μm以上としたモレキュラーシーブ焼成体の場合を(実施例1)とし、5μm以下としたモレキュラーシーブ焼成体の場合を(比較例1)とした。
【0053】
また、モレキュラーシーブ焼成体の界面活性剤の吸着量を調査するために以下のような測定をおこなった。
【0054】
(比表面積の測定)
比表面積(Specific Surface Area)とは、一般には、単位質量の粉体中に含まれる全粒子の表面積の総和のことであり、Sw(cm/g)で表される。粉体の表面積には、粒子の外郭の面積のみのもの、粒子の表面の凹凸や亀裂の面積を含むもの、粒子内部まで侵入している細孔の面積を含むもの等があり、それぞれ、測定方法により異なる意義の比表面積が求められる。
【0055】
比表面積の測定としては、合成して得たモレキュラーシーブ0.005gを比表面積計(Autosorb1;0.3nmの細孔は無視した比表面積を測定することができるNガスBET7点法)を用いて比表面積の測定をおこなった。結果を(表1)に示す。
【0056】
(添加剤の吸着量の算出)
まずポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK330 (ビック・ケミー社製)をIPAに5%添加したものを調整し、重量に対して100%のモレキュラーシーブに24時間処理した。その調整液をろ過後、島津製水分計で、重量変化を測定し、元の固形分濃度との変化量を測定することで、モレキュラーシーブ1gに対する添加剤の吸着量を算出した。結果を(表1)に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(表1)に示す通り、(実施例1)は(比較例1)と比較し、比表面積が小さいことから添加剤の吸着量が半減していることがわかる。よって、モレキュラーシーブの比表面積を比表面積が20m/g以上35m/g以下に制御することで、塗液の組成変化を抑制することがわかった。
【0059】
次に、反射防止フィルムについて以下に示す。
【0060】
ハードコート剤の調整として、PETA(ライトアクリルレートPE−3A;固形分の濃度100%)にIPAを用いて固形分濃度50%に希釈した。また硬化剤としてIrgacure184をPETAに対して5%加え調整した。
【0061】
低屈折率コーティング剤の調整として、多孔質シリカ微粒子分散液(平均粒子径50nm、固形分20%、溶剤:メチルイソブチルケトン)14.94重量部、EO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:DPEA−12、日本化薬製)1.99重量部、重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名;イルガキュア184)0.07重量部、TSF4460(商品名、GE東芝シリコーン(株)製:アルキルポリエーテル変性シリコーンオイル)0.20重量部を、溶媒であるメチルイソブチルケトン82重量部で希釈して低屈折率層形成用塗液を調整した。
【0062】
その低屈折率コーティング剤に塗工ムラをなくすために、シリコン系レベリング剤のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK330(ビック・ケミー社製)を3.0%添加した。参考までに、ポリエーテル変性ポリシロキサンの構造式(化1)を以下に示す。
【0063】
【化1】

【0064】
低屈折率層コーティング剤の脱水のために脱水塗布装置を図1のように送液経路内に組み込んだ。モレキュラーシーブは(実施例1)で製造したモレキュラーシーブを用い、塗液総量の10%をフィルターハウジングの中に充填した場合を(実施例2)とし、(比較例1)で製造したモレキュラーシーブを用い、塗液総量の10%をフィルターハウジングの中に充填した場合を(比較例2)とした。さらに、脱水塗布装置を送液経路内から外した場合を、(比較例3)とし、フィルターハウジングの中にフィルターSHPX-005(ロキ社製デプスプリーツ型)を用いておこなった。
【0065】
前記(実施例2)及び、(比較例2)、(比較例3)の低屈折率コーティング剤について、三菱化学製水分計(CA−06)にて、水分濃度測定を行った。
【0066】
このとき、水分濃度変化の測定結果を図3に示した。図3に示す通り、モレキュラーシーブ焼成体を用いた(実施例2)及び、(比較例2)では、塗布液の水分濃度上昇を抑制していることが確認された。
【0067】
また、前記(実施例2)及び、(比較例2)、(比較例3)の塗布液を用いて、反射防止フィルムを作成した。反射防止フィルムの作成に際して具体的には、透明プラスチックフィルム基材としてTACフィルム(厚さ80μm)を用いて、ハードコート剤をマイクログラビア法を用いてTACフィルム上に膜厚6μmで塗布し、乾燥、UV照射し、ハードコート層を形成した。さらに、得られたハードコート層に、マイクログラビア法を用いて低屈折率コーティング剤を塗布し、乾燥、UV照射し、低屈折率層を形成した。
【0068】
前記(実施例2)及び、(比較例2)、(比較例3)にて製造した反射防止フィルムについて、「平均視感反射率」、「密着性」、「耐擦傷性」、「耐擦傷性(経過時間評価)」、「干渉縞」、「面状評価」について評価をおこなった。
【0069】
「平均視感反射率」
得られた反射防止フィルムの低屈折率層表面について、自動分光光度計(日立製作所製、U−4000)を用い、入射角5°における分光反射率を測定した。また、得られた分光反射率曲線から平均視感反射率を求めた。なお、測定の際には透明基材であるトリアセチルセルロースフィルムのうち低屈折率層の形成されていない面につや消し黒色塗料を塗布し、反射防止の処置をおこなった。
【0070】
「密着性」
得られた反射防止フィルムについて、塗料一般試験法JIS−K5400−1990の付着性試験方法(碁盤目テープ法)に準拠して、低屈折率層表面の塗膜の残存数にて評価した。
【0071】
評価の判定は、全てが剥離せずに残存したときを「○印」、20マス以下の剥離が確認されたものを「△印」、20マス以上の剥離が確認されたものを「×印」とした。
【0072】
「耐擦傷性」
スチールウール(#0000)を用い、250g荷重で反射防止フィルムの低屈折率層表面を10往復擦り、傷の有無を目視にて確認した。
【0073】
目視にて確認した評価の判定は、傷が確認されなかったものを「○印」、キズが20本未満確認されたものを「△印」、傷が20本以上確認されたものを「×印」とした。
【0074】
「耐擦傷性(経過時間評価)」
塗布液使用開始後、経過時間2時間目、12時間目で作製した反射防止フィルムをラビリングテスターを用いて以下の条件で擦り評価をおこなった。
【0075】
条件としては、評価環境条件を25℃、60%RHとし、こすり材を試料と接触するテスターのこすり先端部(1cm×1cm)に、スチールウールを巻いて動かないようにバンド固定し、移動距離(片道):13cm、こすり速度:13cm/秒、荷重:200g/cmと、300g/cmと、400g/cmと、500g/cmと、1000g/cmを加え、先端部接触面積:1cm×1cm、こすり回数:10往復をおこなう。その後、こすり終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、反射光で目視にて確認した。
【0076】
目視にて確認した評価の判定は、非常に注意深く見ても、全く傷が見えないものを「◎印」、非常に注意深く見ると僅かに弱い傷が見えるものを「○印」、弱い傷が見えるものを「○△印」、中程度の傷が見えるものを「△印」、一目見ただけで分かる傷があるものを「×印」とした。
【0077】
「干渉縞」
得られた反射防止フィルムについて、透明基材であるトリアセチルセルロースフィルムのうち低屈折率層の形成されていない面につや消し黒色塗料を塗布したのち、蛍光灯直下で低屈折率層表面の干渉縞を目視にて確認した。
【0078】
目視にて確認した評価は、干渉縞が確認されなかったものを「○印」、干渉縞が薄く確認されたものを「△印」、干渉縞が確認されたものを「×印」とした。
【0079】
「面状評価」
反射防止フィルムの裏面を黒く塗りつぶし、タングステン灯下で反射防止フィルム表面の状態を目視観察した。
【0080】
目視にて確認した評価は、ムラのないものは「○印」、ムラが少し見え、はじきが見えるものは「△印」、ムラ及びはじきがひどい場合は「×印」とした。
【0081】
(表2)に評価結果を示す。
【0082】
【表2】

【0083】
(表2)に示す通り、反射防止フィルムの特性は異なることはなく、(実施例2)で製造した反射防止フィルムはムラのない面性であったのに対して、(比較例2)及び(比較例3)で製造した反射防止フィルムは、ムラ又は、はじきが発生していた。
【符号の説明】
【0084】
1 透明基材
2 ハードコート層
3 低屈折率層
4 塗布液タンク
5 レビトロポンプ
6 フィルター
7 フィルターハウジング(モレキュラーシーブ3A添加部)
8 ダイヤフラムポンプ
9 塗布部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3nmの細孔を無視した比表面積を測定することができるNガスBET7点法において、モレキュラーシーブの粉末が5μm以上の結晶であり、比表面積が20m/g以上35m/g以下である平板状のモレキュラーシーブ焼成体を塗液脱水機構に組み込むことを特徴とするモレキュラーシーブ焼成体を用いた脱水塗布装置。
【請求項2】
塗液塗布機構と、塗液脱水機構を備え、塗液脱水機構は、モレキュラーシーブ焼成体が、送液経路内に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載のモレキュラーシーブ焼成体を用いた脱水塗布装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載の脱水塗布装置を用いて形成されることを特徴とする反射防止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−67759(P2011−67759A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220940(P2009−220940)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】