説明

モータの駆動装置、インバータ制御方法及びプログラム、空気調和機

【課題】モータを駆動させず、かつ、マイグレーションを速やかに解消すること。
【解決手段】直流電力を交流電力に変換し、空気調和機の圧縮機に設けられる圧縮機モータ5に交流電力を供給する複数相のインバータ3と、圧縮機モータ5の回転数に基づいて圧縮機モータ5の巻線を発熱させるホットスタンバイ制御と、V/f制御とを切り替えてインバータ3を制御するMPU7とを具備し、MPU7は、ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、圧縮機モータ5の初期励磁後に、ホットスタンバイ制御を選定し、インバータ3の各相から圧縮機モータ5に対し、継続的に直流電流を供給するようにインバータ3を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空気調和機に使用される圧縮機モータ等を駆動制御するモータの駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、低温下における空気調和機の圧縮機は、冷媒と潤滑油がマイグレーション現象を起こすことにより、起動時に潤滑不足に陥り、かじりや焼きつきなどを発生するという問題があった。これを防ぐため、電気ヒータによって冷媒や潤滑油に熱量を与えることにより、マイグレーションを解消する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、特許文献2では、低電力の交流電力を供給するようにインバータを制御し、圧縮機モータのコイルを加熱してオイルフォーミングを防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3473276号公報
【特許文献2】特開昭58−140571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2の方法では、圧縮機モータが駆動しないようインバータを低電力で制御し、モータに供給する交流電流を微小にすることから、モータのコイル加熱に時間がかかるという問題があった。また、圧縮機モータの加熱の速度を速めるために圧縮機モータに印加する電圧を大きくすることも考えられるが、そうすると、圧縮機モータが駆動してしまうため、加熱速度を速められるほどに電圧を大きくすることができず、コイル加熱に時間がかかるという問題は解消できなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、モータを駆動させず、かつ、マイグレーションを速やかに解消することのできるモータの駆動装置、インバータ制御方法及びプログラム、空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、直流電力を交流電力に変換し、空気調和機の圧縮機に設けられるモータに前記交流電力を供給する複数相のインバータと、前記モータの回転数に基づいて、前記モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御と、V/f制御とを切り替えて前記インバータを制御するインバータ制御手段とを具備し、前記インバータ制御手段は、前記ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、前記モータの初期励磁後に、前記ホットスタンバイ制御を選定し、前記インバータの各相から前記モータに対し、継続的に直流電流を供給するように前記インバータを制御するモータの駆動装置を提供する。
【0007】
このような構成によれば、空気調和機の圧縮機に設けられるモータの回転数に基づいて、モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とが切り替えられ、ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得すると、モータの初期励磁後に、ホットスタンバイ制御が選定され、複数相のインバータの各相からモータに対して継続的に直流電流が供給される。
このように、モータの初期励磁後に、直流電流が継続的に供給されることにより、モータが駆動することはなく、モータの巻線が発熱するので、モータをヒータとして用いることができる。これは、従来のように圧縮機の外側に設置される電気ヒータにより冷媒や潤滑油を発熱する場合と比較して、冷媒や潤滑油に対して直接多くの熱量を与えることができるので、効率よく冷媒や潤滑油を速やかに加熱することができ、冷媒と潤滑油のマイグレーションが速やかに解消できる。また、従来の構成要素によって実現できるので、追加の費用が不要となる。
【0008】
上記モータの駆動装置の前記インバータ制御手段は、前記モータの回転数と、前記インバータの各相から出力された出力電流値と、所定のゲインとに基づいて所定の演算を実行し、前記インバータの出力電流を直流電流に制御する電圧指令値を決定することが好ましい。
このように、インバータの出力電流を制御する電圧指令値を所定の演算によって決定することにより、出力電流を簡便に直流電流に制御することができる。
【0009】
上記モータの駆動装置の前記インバータ制御手段は、前記ホットスタンバイ制御を選定する場合に、前記モータの回転数を零とすることが好ましい。
モータの回転数が零にすることで、簡便にホットスタンバイ制御を選定することができる。
【0010】
上記モータの駆動装置の前記インバータ制御手段は、前記インバータの各相から出力された出力電流値から算出されるd軸電流と前記モータを制御するために与えられるd軸電流指令値との差分、及び前記インバータの各相から出力された出力電流値から算出されるq軸電流と前記モータを制御するために与えられるq軸電流指令値との差分をそれぞれPI制御し、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出することが好ましい。
【0011】
d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値をPI制御により算出することにより、前回値と指令値との偏差が低減され、収束性が良くなる。
【0012】
上記モータの駆動装置の前記インバータは、複数の相に対応してそれぞれ複数のスイッチング素子を備え、前記インバータ制御手段は、前記ホットスタンバイ制御の場合における前記スイッチング素子を切り替えるタイミングを、前記V/f制御の場合の前記タイミングと異ならせ、前記インバータの各相から前記モータに直流電流を継続的に供給させることとしてもよい。
スイッチング素子の切り替えるタイミングを制御することにより、簡便にインバータからモータに直流電流を供給することができる。
【0013】
本発明は、上記いずれかに記載のモータの駆動装置を備える空気調和機を提供する。
このような構成によれば、空気調和機の圧縮機に設けられるモータの回転数に基づいて、モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とが切り替えられ、前記ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、ホットスタンバイ制御が選定されると、モータの初期励磁後に、複数相のインバータの各相からモータに対し、継続的に直流電流が供給される。
このように、空気調和機のモータが、初期励磁後に直流電流が継続的に供給されることにより、駆動することはなく、モータの巻線が発熱するので、ヒータとして用いることができる。これは、従来のように圧縮機の外側に設置される電気ヒータにより冷媒や潤滑油を発熱する場合と比較して、冷媒や潤滑油に対して直接多くの熱量を与えることができるので、効率よく冷媒や潤滑油を加熱することができ、冷媒と潤滑油のマイグレーションが速やかに解消できる。また、従来の構成要素によって実現できるので、追加の費用が不要となる。
【0014】
本発明は、圧縮機に設けられるモータの回転数に基づいて、前記モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とを切り替えて、複数相のインバータを制御するインバータ制御方法であって、前記モータの初期励磁後に、前記ホットスタンバイ制御を選定し、前記インバータの各相から前記モータに対し、継続的に直流電流を供給するように前記インバータを制御するインバータ制御方法を提供する。
【0015】
本発明は、圧縮機に設けられるモータの回転数に基づいて、前記モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とを切り替えて、複数相のインバータを制御するインバータ制御プログラムであって、前記ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、前記モータの初期励磁後に、前記ホットスタンバイ制御を選定し、前記インバータの各相から前記モータに対し、継続的に直流電流を供給するように前記インバータを制御することをコンピュータに実行させるためのインバータ制御プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、モータを駆動させず、かつ、マイグレーションを速やかに解消できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るモータの駆動装置の概略構成を示した図である。
【図2】MPUの機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図3】電圧指令生成部に設けられる演算式を示した図である。
【図4】V/f制御の場合に、電圧指令生成部からd軸電圧とq軸電圧が算出される様子を示した図である。
【図5】ホットスタンバイ制御の場合に、電圧指令生成部からd軸電圧とq軸電圧が算出される様子を示した図である。
【図6】V/f制御の場合に、インバータから出力される電流の波形の一例を示した図である。
【図7】ホットスタンバイ制御の場合に、インバータから出力される電流の波形の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るモータの駆動装置、インバータ制御方法及びプログラム、空気調和機の実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るモータの駆動装置の概略構成を示した図である。図1に示されるように、モータの駆動装置10は、AC電源1、AC−DCコンバータ2、インバータ3、及びインバータ3を制御するMPU(Micro Processing Unit)7を備えており、圧縮機モータ(モータ)5を駆動するように構成されている。
【0019】
AC電源1は、交流電圧VACをAC−DCコンバータ2に供給する。AC−DCコンバータ2は、交流電圧VACを直流電圧VDCに変換し、直流電圧VDCをインバータ3に供給する。インバータ3は、u相電源線4u、v相電源線4v、及びw相電源線4wを介して、圧縮機に設けられる圧縮機モータ5に接続されている。
【0020】
u相電源線4u、v相電源線4v、及びw相電源線4wをそれぞれ流れるu相電流iu、v相電流iv、w相電流iwは、電流検出器6u,6v,6wによってそれぞれ計測され、その計測値がMPU(インバータ制御手段)7に出力される。なお、上述のように、それぞれの相の電流を各電流検出器6u,6v,6wによって計測するのでなく、2相(例えば、u相電流iuとw相電流iw)の電流を測定し、残りの1相(例えば、v相電流iv)については以下の(1)式を用いて演算により求めることとしてもよい。
iu+iv+iw=0 (1)
【0021】
AC−DCコンバータ2からインバータ3に直流電圧VDCを供給する電源線には、直流電圧VDCを測定する電圧検出回路8が接続されている。電圧検出回路8は、測定した直流電圧VDCの情報を通知する電圧通知信号をMPU7に出力する。
【0022】
インバータ3は、直流電圧VDCから3相の駆動電圧を生成し、生成した3相の駆動電圧を、u相電源線4u、v相電源線4v、及びw相電源線4wを介して圧縮機モータ5のu相電機子巻線、v相電機子巻線、及びw相電機子巻線に供給する。具体的には、モータ駆動の場合、インバータ3は、コンバータ2から供給される直流電力を交流電力に変換して圧縮機モータ5に交流電力を供給する。圧縮機モータ5の電機子巻線は、供給された3相の駆動電圧から回転磁界を生成する。
【0023】
圧縮機モータ5の初期励磁の場合には、インバータ3は、圧縮機モータ5のロータを初期位置に設定する(即ち、初期励磁が完了する)まで、各相から圧縮機モータ5に対して直流電流を供給する。また、圧縮機モータ5の巻線を発熱させるホットスタンバイの場合には、圧縮機モータ5の初期励磁後、各相から圧縮機モータ5に対し、継続的に直流電流を供給する。
【0024】
また、インバータ3は、複数のスイッチングトランジスタ(図示しない)を備えて構成され、スイッチングトランジスタが、PWM信号SPWMに応答してオンオフされることにより、3相の駆動電圧が圧縮機モータ5の電機子巻線に供給される。このようなMPU7の全ての動作は、制御用コンピュータプログラム(インバータ制御プログラム)に従って実行される。
【0025】
MPU7は、圧縮機モータ5の回転数と、インバータ3の各相から出力された出力電流値iu、iv、及びiwと、所定のゲインとに基づいて所定の演算を実行し、インバータ3の出力電流を制御する電圧指令値PWM信号SPWMを決定する。
また、MPU7は、圧縮機モータ5の回転数の指令値に基づいて、複数の制御方法のうちから一の制御方法を選定し、切り替え、その制御方法に従ってインバータ3を制御する。例えば、圧縮機モータ5の起動の初期にはオープンループの同期電流制御(以下「オープンループ制御」という)が使用され、中速高速領域にはV/f制御が使用されることにより圧縮機モータ5を駆動させ、圧縮機モータ5をヒータとして使用する場合にはホットスタンバイ制御が使用される。本実施形態では、このように制御方法を切り替えることによって、圧縮機モータ5に供給する電流を交流電流と直流電流とに切り替え、物理的な構成要素の追加なしに速やかなマイグレーション現象の解消が図られている。
【0026】
オープンループ制御は、圧縮機モータ5のロータの回転速度が0、或いは、回転速度が極めて低い場合に使用される制御方法であり、例えば、圧縮機モータ5を起動する初期励磁の場合に使用される。オープンループ制御の場合において、MPU7は、所定の演算式(詳細は後述する)に従ってPWM信号SPWMを生成し、圧縮機モータ5の電機子巻線に所望の駆動電圧を供給する。具体的には、オープンループ制御の場合には、MPU7は、圧縮機モータ5のロータを初期位置に設定する直流電流を圧縮機モータ5に供給させるPWM信号SPWMを生成し、出力する。
【0027】
ホットスタンバイ制御は、圧縮機モータ5をヒータとして使用する場合に使用される制御方法であり、圧縮機モータ5の初期励磁後において、所定の演算式に従ってPWM信号SPWMを生成し、圧縮機モータ5に対して継続的に直流電流を流す。具体的には、MPU7は、ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合に、圧縮機モータ5の初期励磁後にホットスタンバイ制御を選定し、ホットスタンバイ制御する場合のパラメータ情報に基づいて所定の演算を実行し、圧縮機モータ5の巻線を発熱させるような継続的な直流電流をインバータ3から出力させるPWM信号SPWMを生成し、出力する。
【0028】
また、MPU7は、ホットスタンバイ制御の場合におけるインバータ3のスイッチング素子を切り替えるタイミングを、V/f制御の場合のタイミングと異ならせ、インバータ3の各相から圧縮機モータ5に直流電流を継続的に供給させる。具体的には、V/f制御では、PWM信号のデューティ(duty)比を時間的に変化させて交流電流を生成し、ホットスタンバイ制御では、PWM信号のデューティ比を時間的に略同じにして直流電流を生成する。但し、モータ電流等をフィードバックして次のPWM信号のデューティ比を決定するので、完全に一定ではない。
【0029】
V/f制御は、圧縮機モータ5を駆動させる場合に使用される制御方法であり、所定の演算式に従ってPWM信号SPWMを生成し、圧縮機モータ5の端子電圧Vd、Vqを回転数に概ね比例させる制御をする。
【0030】
図2は、MPU7の機能を展開して示した機能ブロック図である。図2を用いて、上記演算式及び制御方法の切り替え方法について説明する。
図2に示されるように、MPU7は、A/D変換部31,37、3相/2相変換部32、速度・位置情報生成部33、電圧指令生成部34、2相/3相変換部35、PWM計算部36、及び力率角演算部38を備えている。MPU7の内部では、図2に示されている各部による演算は、インバータの動作キャリア周波数(例えば、4.5KHz)毎に行われる。
【0031】
また図2において、ω*はロータの回転数指令、ωはインバータ出力周波数(一次周波数)、vd*はd軸電圧指令、vq*はq軸電圧指令、vu*、vv*、vw*はそれぞれu相、v相、w相の電圧指令、iu、iv、iwは、それぞれu相、v相、w相の出力電流、id、iqはそれぞれd軸、q軸のインバータ出力電流であり、idは励磁電流成分、iqはトルク電流成分である。また、θは出力電圧位相、φは力率角である。
【0032】
A/D変換部31では、電流計測器6u、6v、6wが出力する出力信号がA/D変換され、u相電流iu、v相電流iv、及びw相電流iw(又はこれらのうちの2つ)がMPU7に取り込まれる。
3相/2相変換部32では、MPU7は、A/D変換部31によって取得されたu相電流iu、v相電流iv、及びw相電流iw(又はこれらのうちの2つ)に対して、前回算出されたロータの位置情報θesを用いて3相/2相変換が行われ、q軸電流及びd軸電流が算出される。位置情報θesは、q−d座標系で記述される。
【0033】
速度・位置情報生成部33は、回転数指令ω*とq軸電流iqとから、インバータ出力周波数ωとロータの位置情報θesとを算出する。
インバータ出力周波数ωは、Kωを正の定数(周波数調整ゲイン)とし、iqをq軸電流とすると、以下の(2)式を用いて算出される。
ω=ω*−kω×iq (2)
上記(2)式によれば、q軸電流iqが増加すると、即ち、モータ出力トルクが増加するとインバータ出力周波数ωは減少し、q軸電流iqが減少すると、即ち、モータ出力トルクが減少するとインバータ出力周波数ωは増加する。
【0034】
このように上記(2)式を使用することにより、モータ出力トルクが増加した場合には、インバータ出力周波数ωを減少させることによって失速が防止され、モータ出力トルクが減少した時には、インバータ出力周波数ωを増加させることによってロータが加速しないように制御される。
また、位置情報θesは、回転数指令ω*を積分することによって算出される。例えば、以下の(3)式を用いて算出される。
θes=∫ω*dt (3)
【0035】
電圧指令生成部34は、図3に示されるような所定の演算式を有しており、この所定の演算を実行し、d軸電圧指令及びq軸電圧指令を決定する。ここで、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kvは速度制御比例ゲイン、Ta,Tcは時定数、sはラプラス演算子である。
【数1】

【0036】
V/f制御の場合には、比例ゲインKpq、積分ゲインKid=0,及びKiq=0とし、電圧と周波数との比を制御するので、図4に示されるように、上記(4)式及び(5)式は以下(6)式及び(7)式のように示される。
【数2】

【0037】
V/f制御では、抵抗を無視した関係に基づき制御を行っているため、抵抗が無視できない低回転では安定性が失われて駆動することが難しい。そのため、起動時のような低回転時は、上記(6)式及び(7)式の制御に替えて、回転子の位置や負荷の大きさにかかわらず一定の電流を流し、回転子はオープンループ制御で電流の周波数に追従させる同期制御を行う。
【0038】
具体的には、圧縮機モータ5の初期励磁の場合には、所定の演算式において、回転数指令ωをゼロ(ω=0)とし、速度制御比例ゲインKvfをゼロ(Kvf=0)とする。また、Kpd、Kidをそれぞれd軸のP制御ゲイン、I制御ゲインとし、Kpq、Kiqをそれぞれq軸のP制御ゲイン,I制御ゲイン、iq*をq軸電流指令とすると、上記(4)式及び(5)式は、下記の(8)式及び(9)式となる。ここでは、d軸電流id、q軸電流iqを一定の値となるように制御している(図5参照)。
【0039】
【数3】

このように、圧縮機モータ5の初期励磁の場合には、d軸電流idとq軸電流iqとがPI制御されるようになっている。
上述したように、図3に示される所定の演算式において、ロータの回転数に応じて、制御ゲインを変えることにより制御しているので、起動時のオープンループ制御と、V/f制御の演算式は異なっていても、2つの制御が滑らかに切り替えられる。
【0040】
さらに、本発明の特徴であるホットスタンバイ制御の場合(ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得している場合)には、電圧指令生成部34は、選定するゲイン等のパラメータは、上記オープンループ制御によるパラメータと同様とし、圧縮機モータ5の初期励磁後に、インバータ3の各相から圧縮機モータ5に対し、継続的に直流電流を供給するようにインバータ3を制御する電圧指令を出力する。具体的には、インバータ3の各相から出力された出力電流値から算出されるd軸電流と圧縮機モータ5を制御するために与えられるd軸電流指令値との差分、及びインバータ3の各相から出力された出力電流値から算出されるq軸電流と圧縮機モータ5を制御するために与えられるq軸電流指令値との差分をそれぞれPI制御し、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を算出する。
【0041】
2相/3相変換部35は、決定されたq軸電圧指令vq*及びd軸電圧指令vd*に対して2相3相変換を行い、圧縮機モータ5に供給されるべき3相駆動電圧のu相電圧vu*、v相電圧vv*、及びw相電圧vw*を算出する。また、2相/3相変換部35は、ロータの位置情報θesが力率制御された出力電圧位相θを使用する。
力率角演算部38は、3相/2相変換されたq軸電流iqに力率角Φを制御する。
【0042】
A/D変換部37は、電圧検出回路8が出力する電圧通知信号をA/D変換し、インバータPWM計算部36に出力する。
PWM計算部36は、算出されたu相電圧vu*、v相電圧vv*、及びw相電圧vw*を有する3相駆動電圧が圧縮機モータ5に供給されるようにインバータ3を制御するPWM信号SPWMが生成される。また、PWM計算部36が、PWM信号SPWMを生成するには、AC−DCコンバータ2からインバータ3に供給される直流電圧VDC(A/D変換部37から取得)の大きさが参照される。インバータ3のスイッチングトランジスタは、生成されたPWM信号SPWMに応答してターンオン又はターンオフされる。
【0043】
以下、V/f制御の場合と、ホットスタンバイ制御の場合におけるモータの駆動装置の制御手順と、それら制御によって得られる電流波形について、図6及び図7を用いて説明する。なお、以下に示す処理は、例えば、図2に示した電圧指令生成部34により実現されるものである。具体的には、モータの駆動装置10に備えられるMPU7が、電圧指令生成部34により実現される機能に相当する以下に示す制御プログラムを実行することにより、電圧指令生成部34の各機能の処理を実現させる。
【0044】
まず、V/f制御の場合について説明する。
図6の時刻t1において、上位のコンピュータからMPU7に対し、V/f制御を有効にする指令が与えられると、MPU7は、オープンループ制御を実行し、ロータを同期させるべく圧縮機モータ5の初期励磁を開始する。時刻t2において、初期励磁が完了すると、電圧指令生成部34が、圧縮機モータ5を駆動するV/f制御モードに切り替えられる。電圧指令生成部34において、V/f制御が実行される場合の所定のゲインと、上述した(6)式及び(7)式に基づいて、圧縮機モータ5を駆動させるためのd軸電圧指令d*及びq軸電圧指令q*が生成される。
【0045】
d軸電圧指令d*及びq軸電圧指令q*が電圧指令値vu*、vv*、vw*に2相/3相変換されると、電圧指令値vu*、vv*、vw*に基づいて、圧縮機モータ5を駆動させる信号として、インバータ3から圧縮機モータ5に対して交流電流を供給させるPWM信号SPWMが、出力される。時刻t3において、MPU7が圧縮機モータ5の停止指示を取得すると、MPU7からPWM信号SPWMの出力が停止され、圧縮機モータ5に対する交流電流の供給が停止される。
【0046】
次に、ホットスタンバイ制御について説明する。
図7の時刻t4において、上位のコンピュータからMPU7に対し、ホットスタンバイ制御を有効にする指令が与えられると、MPU7は、オープンループ制御を実行し、ロータを同期させるべく圧縮機モータ5の初期励磁を開始する。時刻t5において、初期励磁が完了すると、電圧指令生成部34が、圧縮機モータ5の巻線を加熱させるホットスタンバイ制御モードに切り替えられる。電圧指令生成部34において、ホットスタンバイ制御が実行される場合の所定のゲインと、上述した(8)式及び(9)式に基づいて、圧縮機モータ5の巻線を加熱させるためのd軸電圧指令d*及びq軸電圧指令q*が生成される。
【0047】
d軸電圧指令d*及びq軸電圧指令q*が電圧指令値vu*、vv*、vw*に2相/3相変換されると、電圧指令値vu*、vv*、vw*に基づいて、圧縮機モータ5を駆動させる信号として、インバータ3から圧縮機モータ5に対して直流電流を継続的に供給させるPWM信号SPWMが、出力される。時刻t6において、MPU7がヒータの停止指示(即ち、圧縮機モータ5の加熱の停止指示)を取得すると、MPU7からPWM信号SPWMの出力が停止され、圧縮機モータ5に対する継続的な直流電流の供給が停止される。
【0048】
上述した実施形態に係るモータの駆動装置においては、上記処理の全て或いは一部を別途ソフトウェアを用いて処理する構成としてもよい。この場合、モータの駆動装置は、CPU、RAM等の主記憶装置、及び上記処理の全て或いは一部を実現させるためのプログラム(インバータ制御プログラム)が記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、CPUが上記記憶媒体に記録されているプログラムを読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、上述のモータの駆動装置と同様の処理を実現させる。
ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0049】
以上説明してきたように、本実施形態に係るモータの駆動装置10、インバータ制御方法及びプログラム、空気調和機によれば、空気調和機の圧縮機に設けられる圧縮機モータ5の回転数に基づいて、圧縮機モータ5の巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とが切り替えられ、ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得すると、モータの初期励磁後に、ホットスタンバイ制御が選定され、複数相のインバータの各相からモータに対して継続的に直流電流が供給される。
【0050】
このように、モータの初期励磁後に、直流電流が継続的に供給されることにより、圧縮機モータ5が駆動することはなく、圧縮機モータ5の巻線が発熱するので、圧縮機モータ5をヒータとして用いることができる。これは、従来のように圧縮機の外側に設置される電気ヒータにより冷媒や潤滑油を発熱する場合と比較して、冷媒や潤滑油に対して直接多くの熱量を与えることができるので、効率よく冷媒や潤滑油を速やかに加熱することができ、冷媒と潤滑油のマイグレーションが速やかに解消できる。また、従来の構成要素によって実現できるので、追加の費用が不要であり、コスト的にも有利である。
【符号の説明】
【0051】
1 AC電源
2 AC−DCコンバータ
3 インバータ
5 圧縮機モータ(モータ)
7 MPU(インバータ制御手段)
33 速度・位置情報生成部
34 電圧指令生成部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換し、圧縮機に設けられるモータに前記交流電力を供給する複数相のインバータと、
前記モータの回転数に基づいて、前記モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御と、V/f制御とを切り替えて前記インバータを制御するインバータ制御手段と
を具備し、
前記インバータ制御手段は、
前記ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、前記モータの初期励磁後に、前記ホットスタンバイ制御を選定し、前記インバータの各相から前記モータに対し、継続的に直流電流を供給するように前記インバータを制御するモータの駆動装置。
【請求項2】
前記インバータ制御手段は、前記モータの回転数と、前記インバータの各相から出力された出力電流値と、所定のゲインとに基づいて所定の演算を実行し、前記インバータの出力電流を直流電流に制御する電圧指令値を決定する請求項1に記載のモータの駆動装置。
【請求項3】
前記インバータ制御手段は、前記ホットスタンバイ制御を選定する場合に、前記モータの回転数を零とする請求項1または請求項2に記載のモータの駆動装置。
【請求項4】
前記インバータ制御手段は、前記インバータの各相から出力された出力電流値から算出されるd軸電流と前記モータを制御するために与えられるd軸電流指令値との差分、及び前記インバータの各相から出力された出力電流値から算出されるq軸電流と前記モータを制御するために与えられるq軸電流指令値との差分をそれぞれPI制御し、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する請求項1から請求項3のいずれかに記載のモータの駆動装置。
【請求項5】
前記インバータは、複数の相に対応してそれぞれ複数のスイッチング素子を備え、
前記インバータ制御手段は、前記ホットスタンバイ制御の場合における前記スイッチング素子を切り替えるタイミングを、前記V/f制御の場合の前記タイミングと異ならせ、前記インバータの各相から前記モータに直流電流を継続的に供給させる請求項1から請求項4のいずれかに記載のモータの駆動装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のモータの駆動装置を備える空気調和機。
【請求項7】
圧縮機に設けられるモータの回転数に基づいて、前記モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とを切り替えて、複数相のインバータを制御するインバータ制御方法であって、
前記ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、前記モータの初期励磁後に、前記ホットスタンバイ制御を選定し、前記インバータの各相から前記モータに対し、継続的に直流電流を供給するように前記インバータを制御するインバータ制御方法。
【請求項8】
圧縮機に設けられるモータの回転数に基づいて、前記モータの巻線を発熱させるホットスタンバイ制御とV/f制御とを切り替えて、複数相のインバータを制御するインバータ制御プログラムであって、
前記ホットスタンバイ制御を有効にする指令を取得した場合には、前記モータの初期励磁後に、前記ホットスタンバイ制御を選定し、前記インバータの各相から前記モータに対し、継続的に直流電流を供給するように前記インバータを制御することをコンピュータに実行させるためのインバータ制御プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−81343(P2013−81343A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221261(P2011−221261)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】