説明

モーター制御装置

【課題】電動モーターのTN特性を向上させる。
【解決手段】モーター制御装置であって、電動モーターに対して駆動電流の供給を制御する制御部と、前記電動モーターの回転速度を検知する回転速度検知部と、を備え、前記駆動電流は、d軸電流とq軸電流とを含んでおり、前記制御部は、前記電動モーターに対するトルク指令値に基づいて前記q軸電流の目標値であるq軸電流指令値を算出し、 前記電動モーターの回転速度と予め定められた前記電動モーターのベース回転速度との差と、前記算出したq軸電流指令値とを用いて前記d軸電流の目標値であるd軸電流指令値を算出し、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値とを用いて前記電動モーターに対してベクトル制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モーターは、負荷トルク−回転数特性(TN特性)を持っている。このTN特性は、電動モーターに特有なものであり、ある電動モーターのTN特性は駆動電圧が決まれば基本的に1種類に決まる。しかし、このTN特性は、弱め界磁制御という制御技術を用いることにより変更することができる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−320400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の弱め界磁制御では、速度と負荷とを考慮して負の値にd軸電流制御を行うことにより実現している。しかし、どのような電圧下で電動モーターを利用するかは、利用者の利用状況に依存するため、電動モーターのTN特性を十分に向上させることができなかった。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、電動モーターのTN特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
モーター制御装置であって、電動モーターに対して駆動電流の供給を制御する制御部と、前記電動モーターの回転速度を検知する回転速度検知部と、を備え、前記駆動電流は、d軸電流とq軸電流とを含んでおり、前記制御部は、前記電動モーターに対するトルク指令値に基づいて前記q軸電流の目標値であるq軸電流指令値を算出し、前記電動モーターの回転速度と予め定められた前記電動モーターのベース回転速度との差と、前記算出したq軸電流指令値とを用いて前記d軸電流の目標値であるd軸電流指令値を算出し、前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値とを用いて前記電動モーターに対してベクトル制御を行う、モーター制御装置。
この適用例によれば、TN特性の向上が必要な、高トルク領域において、d軸電流指令値を大きくし、TN特性を向上させることができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のモーター制御装置において、前記d軸電流指令値Idrは、ゲイン係数をKd、前記トルク指令値に基づいて算出された前記q軸電流指令値をIqr、前記電動モーターの回転速度をω、前記電動モーターのベース回転速度をωbsとすると、Idr=Kd×Iqr×(ω−ωbs)で示される、モーター制御装置。
【0009】
[適用例3]
適用例1に記載のモーター制御装置において、前記d軸電流指令値Idrは、ゲイン係数をKd、前記トルク指令値に基づいて算出された前記q軸電流指令値をIqr、予め定められたベースq軸電流指令値Iqbs、前記電動モーターの回転速度をω、前記電動モーターのベース回転速度をωbsとすると、Idr=Kd×(Iqr−Iqbs)×(ω−ωbs)で示される、モーター制御装置。
[適用例4]
適用例1から適用例3のうちのいずれか1つの適用例に記載のモーター制御装置において、前記電動モーターの回転速度が前記ベース回転速度以下の場合には、前記d軸電流指令値をゼロとする、モーター制御装置。
この適用例によれば、TN特性の向上が必要でない、低トルク領域、あるいは、低回転速度の場合には、d軸電流指令値を低く抑えることにより効率低下を抑制することが可能となる。
【0010】
[適用例5]
適用例1から適用例4までのうちのいずれか1つの適用例に記載のモーター制御装置において、前記制御部は、前記ベース回転速度を前記電動モーターの駆動電圧に比例して変化させる、モーター制御装置。
電動モーターの駆動電圧に応じて、ベース回転速度を変化させるので、駆動電圧に応じて、電動モーターのTN特性を良くすることが可能となる。
【0011】
[適用例6]
適用例5に記載のモーター制御装置において、前記制御部は、前記電動モーターの駆動電圧と前記ベース回転速度との関係を示す表又は関係式を格納するための記憶部を有している、モーター制御装置。
【0012】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電動モーター制御装置の他、電動モーターの制御方法等様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電動モーターのTI特性(トルク−電流特性)とTN特性(トルク−回転数特性)の一例を示す説明図である。
【図2】永久磁石の磁束以外が同じである電動モーターのTN特性を示す説明図である。
【図3】図2に示す電動モーターを定速制御した上でトルクを変化させたときのTN特性を示す説明図である。
【図4】弱め界磁制御を行ったときのTI特性(トルク−電流特性)とTN特性(トルク−回転数特性)の一例を示す説明図である。
【図5】第1の実施例の電動モーターのTN特性を示す説明図である。
【図6】q軸電流を示す説明図である。
【図7】d軸電流を示す説明図である。
【図8】d−q軸のベクトル図である。
【図9】本実施例の制御系のブロック図である。
【図10】d軸電流指令値演算回路を示す説明図である。
【図11】第1の実施例の変形例におけるTN特性を示す説明図である。
【図12】第2の実施例の電動モーターのTN特性を示す説明図である。
【図13】第3の実施例の電動モーターのTN特性を示す説明図である。
【図14】第3の実施例の変形例を示す説明図である。
【図15】PWM駆動の駆動パルスを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[電動モーターの特性]
図1は、電動モーターのTI特性(トルク−電流特性)とTN特性(トルク−回転数特性)の一例を示す説明図である。一般にDCモーターでは、電動モーターのトルクTと電動モーターの電流Iとの間には、式(1)に示す比例関係がある。
【数1】

ここで、Kは、電動モーターの構造により定まる比例定数であり、φは電動モーターの永久磁石(図示せず)の磁束[Wb]である。比例定数Kと磁束φの積をトルク定数Ktとする。次に電動モーターのトルクTと電動モーターの回転数Nとの間には、式(2)に示す比例関係がある。
【数2】

式(2)において、K1は比例定数であり、Nnlは無負荷回転数である。ここで比例定数K1は式(3)で示される。
【数3】

式(3)において、Rdcは電動モーターの電磁コイル(図示せず)の電気抵抗であり、Esは電動モーターの駆動電圧であり、Inlは無負荷電流である。
【0015】
図1において、電動モーターの回転数が増加すると、機械的負荷が大きくなる。最大回転数Nmaxよりも高回転では、トルクTよりも機械的負荷の方が大きくなるため、電動モーターを最大回転数Nmaxよりも高回転で回転させることができない。一方、式(1)で示すように、電流IはトルクTに比例する。ここで、電動モーターの電流Iが流れると電動モーターは、ジュール熱(Q=I2×Rdc)により発熱する。ジュール熱Qが大きくなりすぎると、熱により電動モーターを破壊する恐れがある。したがって、ジュール熱Qが一定以上にならないように、トルクTまたは電流Iを制限する。このときのトルクTを最大トルクTmax、電流Iを最大電流Imaxと呼ぶ。
【0016】
図2は、永久磁石の磁束以外が同じである電動モーターのTN特性を示す説明図である。2つの特性グラフから明らかなように、総磁束が大きい電動モーターMg2の方が、総時速が小さい電動モーターMg1よりも、無負荷回転数が小さく(N1<N2)、始動トルクが大きい(T1<T2)。すなわち、総磁束が小さい電動モーターMg1の方が、始動トルクが小さいが、無負荷回転数が大きくなる。これは、電動モーターの一般的な特性である。
【0017】
図3は、図2に示す電動モーターを定速制御した上で、トルクを変化させたときのTN特性を示す説明図である。トルクが0〜Txの間では、定速制御をしているため、トルクが大きくなっても、電動モーターMg1、Mg2の回転数はNxで変わらない。トルクがTx〜Ty(Tx<Ty)の間では、電動モーターMg1の回転数はNxで変わらないが、電動モーターMg2の回転数はNxよりも小さくなる。トルクがTy〜Tmax(Tmax<Tz、Tzは、電動モーターMg1とMg2のTN曲線がクロスするときのトルク)の間では、電動モーターMg1、Mg2ともトルクの増大とともに、回転数が小さくなる。この期間では、同じトルクであれば、磁束の小さい電動モーターMg1の方が磁束の大きい電動モーターMg2よりも高回転であり、同じ回転数であれば、電動モーターMg1の方が電動モーターMg2よりも高トルクである。すなわち、磁束を小さくすると(弱め界磁)、電動モーターのTN特性を良くすることができる。
【0018】
図4は、弱め界磁制御を行ったときのTI特性(トルク−電流特性)とTN特性(トルク−回転数特性)の一例を示す説明図である。図4において、実線が弱め界磁をおこなったときの特性であり、破線が弱め界磁を行っていないときの特性である。破線の示す特性は、図1に示す特性と同じである。弱め界磁制御は、永久磁石の磁束φを小さくするように制御するものである。したがって、式(1)から、トルク定数Ktが小さくなる(Kt=Kφ)。そのため、弱め界磁制御では、トルク当たりの電流が増加する。すなわち、弱め界磁制御では、電流Iは、最大トルクTmaxより小さいトルクTaにおいて最大電流Imaxに達し、ジュール熱による発熱が大きくなる。したがって、弱め界磁を行うと、電動モーターを最大トルクTmaxで動作させることができない場合が生じる。
【0019】
上述したように、弱め界磁制御を行うと、電動モーターのTN特性を向上させることができるが、最大トルクTmaxより小さいトルクTaにおいて最大電流Imaxに達すると、ジュール熱による発熱により、電動モーターのトルクを、これ以上大きくする制御を行うことが出来ない。本実施例では、これに対応し、TN特性を向上させるための様々な制御を行う。
【0020】
[第1の実施例]
図5は、第1の実施例の電動モーターのTN特性を示す説明図である。第1の実施例では、トルクTが最大トルクTmaxに至るまで、電流IがImaxに達しないようにd軸電流制御を行う。駆動電流には、d軸電流とq軸電流があり、電動モーターのベクトル制御では、このd軸電流とq軸電流の目標値(d軸電流指令値とq軸電流指令値)にもとづいて、フィードバック制御を行い、駆動電流を制御する。d軸を永久磁石の磁束の向きに取ると、d軸電流は流れている駆動電流のうちこの磁束を発生させるのに使われている成分(励磁電流成分)を示し、q軸電流は負荷のトルクに対応した成分を示す。
【0021】
図6は、q軸電流を示す説明図である。電磁コイル400が永久磁石300のq軸方向に位置する場合において、電磁コイル400に電流を流すことにより、電動モーターを回転させるトルクを生じさせる。なお、図6では、電磁コイルが回転するとしている。
【0022】
図7は、d軸電流を示す説明図である。電磁コイル400が永久磁石300のd軸方向に位置する場合において、電磁コイル400に電流を流すことにより、永久磁石300が作る界磁の大きさを制御する。弱め界磁では、永久磁石300の界磁を弱める。本実施例では、永久磁石300の界磁を弱める弱め界磁を行っている。
【0023】
図8は、d−q軸のベクトル図である。d軸とq軸は位相が90度ずれている。d軸電流とq軸電流とのベクトル和を取ることにより合成ベクトルが生成される。電磁コイル400には、この合成ベクトルに相当する電圧実行値が印加される。なお図に示すθは、q軸に対する位相角であり、d軸=0からどの程度位相を進めているかを示している。
【0024】
図5のTN特性について説明する。この実施例では、駆動電流Iallを検出し、予め設定された最大電流Imaxと比較することにより、d軸電流指令値を算出する。これにより、d軸電流による弱め界磁を実行してTN特性を向上させるとともに、最大電流Imaxに達することなく最大トルクTmaxまで出力をすることが可能となる。
【0025】
図9は、本実施例の制御系のブロック図である。本実施例の電動モーターシステムは、電動モーター10と、エンコーダー20と、制御ブロック30と、を備える。エンコーダー20は、電動モーター10のローター(図示せず)の速度と位置を検出するために用いられる。制御ブロック30は、電動モーター10の動作を制御する。制御ブロック30は、位置制御系ブロック100と、速度制御系ブロック110と、d軸電流PI制御ブロック120と、q軸電流PI制御ブロック130と、UV−dq軸座標変換ブロック140と、dq軸―UVW座標変換ブロック150と、PWM駆動信号生成回路160と、インバーター回路170と、U相電流計180と、V相電流計190と、を備える。d軸電流PI制御ブロック120と、q軸電流PI制御ブロック130と、UV−dq軸座標変換ブロック140と、dq軸―UVW座標変換ブロック150と、でベクトル制御ブロック200を構成している。
【0026】
位置制御系ブロック100は、エンコーダー20から電動モーター10のローターの位置情報を取得し、さらに位置指令値に基づいて、速度制御系ブロック110に対し、速度指令値を送る。ここで、位置指令値は、図示しない、電動モーターを利用する上位の制御装置より送られる。なお、本実施例では、上位の制御装置を用いているが、位置指令値を算出する演算手段であれば、様々な装置、演算手段を採用することが可能である。
【0027】
速度制御系ブロック110は、エンコーダー20から電動モーター10のローターの回転速度情報を取得し、さらに、位置制御系ブロック100から送られた速度指令値に基づいて、q軸電流指令値Iqrをq軸電流PI制御ブロック130に送る。
【0028】
UV−dq軸座標変換ブロック140は、U相電流計180からのU相電流値Iuと、V相電流計190からのV相電流値Ivとから、d軸電流Idとq軸電流Iqとを算出する。なお、本実施例は、三相モーターであるので、W相電流Iwもある。W相電流計を備えることによりW相電流Iwを測定してもよいが、W相電流IwをU相電流値IuとV相電流値Ivとを用いて算出してもよい。具体的には、W相電流Iwは、Iw=−Iv−Iuで算出することができる。d軸電流Idはd軸電流PI制御ブロック120に送られ、q軸電流Iqは、q軸電流PI制御ブロック130に送られる。
【0029】
d軸電流PI制御ブロック120は、d軸電流指令値Idrと、UV−dq軸座標変換ブロック140から送られたd軸電流Idを用い、PI制御を行い、d軸電流制御値Idiを出力する。d軸電流指令値Idrをどのように決定するかについては後述する。PI制御とは、フィードバック制御の一種であり、目標値(d軸電流指令値Idr)と出力値(d軸電流Id)のに基づいて比例制御(P制御)、積分制御(I制御)を実行する。なお、本実施例ではPI制御を用いたが、さらに微分制御(D制御)を含めたPID制御を採用してもよい。q軸電流PI制御ブロック130は、同様に、q軸電流指令値IqrとUV−dq軸座標変換ブロック140から送られたq軸電流Iqを用い、PI制御を行い、q軸電流制御値Iqiを出力する。
【0030】
dq軸―UVW座標変換ブロック150は、d軸電流PI制御ブロック120とq軸電流PI制御ブロック130とからのd軸電流制御値Idiとq軸電流制御値Iqiにもとづいて、U相電流制御値Iui、V相電流制御値Ivi、W相電流制御値Iwiを出力する。
【0031】
PWM駆動信号生成回路160は、U相電流制御値Iui、V相電流制御値Ivi、W相電流制御値Iwiに基づいて、インバーター回路170を駆動するためのPWM駆動信号PWMUH、PWMUL、PWMVH、PWMVL、PWMWH、PWMWLを出力する。インバーター回路170は、例えば三相ブリッジ回路(図示せず)を有しており、PWM駆動信号PWMUH、PWMUL、PWMVH、PWMVL、PWMWH、PWMWLに基づいて、電動モーター10の電磁コイル(図示せず)に電圧を印可する。
【0032】
図10は、d軸電流指令値演算回路を示す説明図である。d軸電流指令値演算回路210は、図9のd軸電流PI制御ブロック120の前段に配置される。d軸電流指令値演算回路210は、記憶部220を有しており、記憶部220には、d軸電流指令値を演算するための、様々な関係式(後述する各式)、データが格納されている。d軸電流指令値演算回路210は、最大電流Imaxと駆動電流Iallを用いて、d軸電流指令値Idrを出力する。ここで、最大電流Imaxは、上述した電流制限値である。駆動電流Iallは、d軸電流Idとq軸電流Iqを用いて以下に示す式(4)により算出される。
【数4】

本実施例では、d軸電流指令値演算回路210への入力として、駆動電流Iallを用いたが、駆動電流Iallの代わりに、d軸電流Idとq軸電流Iqを用いてもよい。
【0033】
以下、d軸電流指令値の算出について説明する。d軸電流指令値演算回路210は、まず、駆動電流Iallと最大電流Imaxを比較する。駆動電流Iallが最大電流Imaxより小さい場合には、d軸電流指令値演算回路210は、d軸電流指令値Idrを以下の式(5)により算出する。
【数5】

ここで、係数Ka(Ka≦0)は、制御ゲインであり、予め実験により求められている。
【0034】
一方、駆動電流Iallが最大電流Imax以上の場合には、d軸電流指令値演算回路210は、d軸電流指令値Idrを以下の式(6)により算出する。
【数6】

ここで、係数Kb(Kb<0)は、制御ゲインであり、予め実験により求められている。式(6)においては、d軸電流指令値Idrを下げることにより、d軸電流Idの絶対値を減少させ、駆動電流Iallを減少させて最大電流Imax以下にする。
【0035】
本実施例によれば、駆動電流Iallが最大電流Imaxより小さい場合には、d軸電流指令値演算回路210は、式(5)に基づいて、d軸電流指令値Idrを算出し、制御ブロック30は、d軸電流指令値Idrに基づいて弱め界磁制御を実行する。駆動電流Iallが最大電流Imax以上の場合には、d軸電流指令値演算回路210は、式(6)に基づいてd軸電流指令値Idrの絶対値を減少させることでd軸電流Idの絶対値を減少させる。その結果、電動モーター10は、最大電流Imaxに達することなく、最大トルクTmaxまで出力することが可能となる。
【0036】
[変形例]
図11は、第1の実施例の変形例におけるTN特性を示す説明図である。この変形例では、駆動電流Iallが最大電流Imax以上の場合には、d軸電流指令値演算回路210は、式(7)に基づいてd軸電流指令値Idrを算出する。
【数7】

ここで、q軸電流指令値Iqrは、電動モーター10に要求されるトルク指令値に基づいて算出される。
【0037】
この変形例によれば、駆動電流Iallが最大電流Imaxより小さく、駆動電流Iallに余裕がある場合には、d軸電流指令値演算回路210は、式(5)に基づいて、d軸電流指令値Idrを算出し、制御ブロック30は、d軸電流指令値Idrに基づいて弱め界磁制御を実行し、駆動電流Iallが設定した最大電流Imaxに達しようとした場合には、d軸電流指令値演算回路210は、駆動電流Iallの値に応じてd軸電流の絶対値を減少させる。その結果、電動モーター10は、最大電流Imaxに達することなく、最大トルクTmaxまで出力することが可能となる。
【0038】
この変形例では、d軸電流指令値演算回路210は、駆動電流Iallを用いてd軸電流指令値Idr、q軸電流指令値Iqrを算出しているが、この駆動電流Iallの代わりに、U相電流Iu、V送電流Iv、W相電流Iwあるいは、d軸電流Id、q軸電流Iqを用いてd軸電流指令値Idr、q軸電流指令値Iqrを算出してもよい。また、d軸電流指令値演算回路210は、トルク指令値及び電動モーターのトルクを用いてd軸電流指令値Idr、q軸電流指令値Iqrを算出してもよい。
【0039】
[第2の実施例]
図12は、第2の実施例の電動モーターのTN特性を示す説明図である。第2の実施例では、d軸電流指令値Idrについて、トルクTに制御ゲインを掛けてトルクにd軸電流指令値Idrを比例させることにより、予め設定された最大トルクTmaxまで電流制限にかからないようにd軸電流制御を行う。式(8)は、第2の実施例におけるd軸電流指令値Idrを算出する演算式を示す。
【数8】

式(8)において、Kcは制御ゲインであり、実験により求めることができる。Tは電動モーター10のトルクである。
【0040】
第2の実施例では、TN特性の向上が必要でない、低トルク領域、あるいは、低回転速度の場合には、d軸電流制御値を低く抑えることにより効率低下を抑制するとともに、d軸電流が必要な領域Axにおいて、d軸電流指令値Idrを大きくする制御が可能となる。なお、駆動電流Iallが最大電流Imaxに達する場合には、d軸電流指令値演算回路210は、第1の実施例と同様に、d軸電流指令値Idrを調整し、制御ブロック30は、最大トルクTmax以下で最大電流Imaxに達しないように制御することが好ましい。
【0041】
[変形例]
第2の実施例では、トルクTに制御ゲインKcを掛けてトルクにd軸電流指令値Idrを比例させていたが、d軸電流指令値演算回路210は、式(9)に示すように、トルクTと速度ωの両方に制御ゲインKcを掛けてトルクにd軸電流指令値Idrを比例させてもよい。
【数9】

このようにd軸電流指令値Idrを算出しても、TN特性の向上が必要でない、低トルク領域、あるいは、低回転速度の場合には、d軸電流指令値演算回路210は、d軸電流指令値Idrを低く抑えることにより効率低下を抑制するとともに、d軸電流が必要な領域Axにおいて、d軸電流指令値Idrを大きくする制御が可能となる。
【0042】
なお、第2の実施例、及び第2の実施例の変形例では、d軸電流指令値演算回路210は、d軸電流指令値Idrを算出する際に、電動モーター10のトルクTを用いたが、トルクTの代わりに、電動モーター10に要求されるトルク指令値を用いてもよい。
【0043】
[第3の実施例]
図13は、第3の実施例の電動モーターのTN特性を示す説明図である。第3の実施例では、d軸電流指令値演算回路210は、式(10)に示すように、電動モーター10に対するトルク指令値に基づいてq軸電流指令値Iqrを算出し、電動モーターの回転速度ωと予め定められた電動モーターのベース回転速度ωbsとの差(ω―ωbs)と、q軸電流指令値Iqrと、制御ゲインとを掛けてd軸電流指令値Idrを算出する。
【数10】

式(10)において、Kdは制御ゲインであり、実験により求めることができる。なお、本実施例では、d軸電流指令値演算回路210は、トルクが予め定められたベーストルクTbs以下の場合には、d軸電流指令値Idrをゼロとしている。
【0044】
本実施例では、トルクが予め定められたベーストルク以上であり、電動モーター10の回転速度ωが予め定められたベース回転速度ωbs以上の場合には、d軸電流指令値演算回路210は、d軸電流指令値Idrを増加させる。なお、さらに高トルクとなり、電動モーター10の回転速度ωが予め定められたベース回転速度ωbs未満となった場合には、d軸電流指令値Idrをゼロとする。なお、同様に、ベーストルクを利用する場合には、トルクがベーストルク以下の場合にもd軸電流指令値Idrをゼロとする。なお、駆動電流Iallが最大電流Imaxに達する場合には、d軸電流指令値演算回路210は、第1の実施例、第2の実施例と同様に、d軸電流指令値Idrを調整し、最大トルクTmax以下で最大電流Imaxに達しないように制御することが好ましい。
【0045】
本実施例によれば、d軸電流指令値演算回路210は、TN特性の向上が必要でない、低トルク領域、あるいは、低回転速度の場合には、d軸電流指令値Idrを低く抑えることにより効率低下を抑制するとともに、TN特性の向上が必要な、高トルク領域において、d軸電流指令値Idrを大きくし、TN特性を向上させることができる。
【0046】
[変形例]
図14は、第3の実施例の変形例を示す説明図である。この変形例では、d軸電流指令値演算回路210は、電動モーター10の駆動電圧Esに応じて、ベース回転速度ωbsを変化させる。電動モーター10の駆動電圧Esと、ベース回転速度ωbsとの関係は、d軸電流指令値演算回路210の記憶部220に格納されている。ここで、駆動電圧とは、PWM駆動の元となる直流電圧を意味する。図15は、PWM駆動の駆動パルスの一例を示す説明図である。PWM駆動の駆動パルスに高さ(電圧)が、電動モーター10の駆動電圧Esに対応する。図15に示す例では、電動モーター10を170Vの駆動電圧で動作させている。図14のグラフに従って、例えば、駆動電圧が大きくなると、d軸電流指令値演算回路210は、ベース回転速度ωbsを大きくする。こうすると、例えば、駆動電圧が下がると、ベース回転速度ωbsが小さくなる。そうすると、(ω―ωbs)が大きくなるので、d軸電流指令値演算回路210は、d軸電流指令値Idrを大きくすることができ、電動モーターのTN特性を良くすることが可能となる。また、電動モーターの利用者は、電動モーター10を、スペックに規定された範囲内の駆動電圧で動作をさせることができるが、本実施例によれば、d軸電流指令値演算回路210は、利用者が実際に利用する駆動電圧に基づいてベース回転速度ωbsを変更し、d軸電流指令値Idrを変更するので、各駆動電圧において、電動モーターのTN特性を良くすることが可能となる。なお、図4においては、駆動電圧Esとベース回転速度ωbsとは、比例関係にあるように示されているが、駆動電圧Esとベース回転速度ωbsとが対応していれば良く、駆動電圧Esとベース回転速度ωbsとは、必ずしも比例関係でなくてもよい。また、こ関係は実験により求めてもよい。式(10)において、制御ゲインKdの値についても駆動電圧Esに応じて可変にしてもよい。
【0047】
なお、第3の実施例、及びその変形例において、d軸電流指令値演算回路210は、q軸電流指令値Iqrを用いて、d軸電流指令値Idrを算出しているが、式(11)に示すように、q軸電流指令値Iqrと、予め定められたベースq軸電流Iqbsとの差(Iqr―Iqbs)を用いてd軸電流指令値Idrを算出してもよい。
【数11】

【0048】
なお、式(11)において、電動モーター10の駆動電圧Esに応じて、ベース回転速度ωbsを変化させる他、制御ゲインKdやベースq軸電流Iqbsの値についても駆動電圧Esに応じて可変にしてもよい。
【0049】
上記各実施例において、式(12)を適用し、d軸電流指令値Idrの大きさに制限をかけてもよい。
【数12】

また、上記各実施例においてIqr2+Idr2>Imaxの場合にはIqr=√(Imax2−Idr2)として最大電流Iallを制限しても良い。
【0050】
上記各実施例においては、3相モーターを例にとり説明したが、永久磁石を用いたモーターであれば、3相モーターに限らず、2相モーターや、3相以上の多相モーターにおいても適用可能である。
【0051】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
10…電動モーター
20…エンコーダー
30…制御ブロック
100…位置制御系ブロック
110…速度制御系ブロック
120…d軸電流PI制御ブロック
130…q軸電流PI制御ブロック
140…UV−dq軸座標変換ブロック
150…dq軸―UVW座標変換ブロック
160…PWM駆動信号生成回路
170…インバーター回路
180…U相電流計
190…V相電流計
200…ベクトル制御ブロック
210…d軸電流指令値演算回路
220…記憶部
300…永久磁石
400…電磁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーター制御装置であって、
電動モーターに対して駆動電流の供給を制御する制御部と、
前記電動モーターの回転速度を検知する回転速度検知部と、
を備え、
前記駆動電流は、d軸電流とq軸電流とを含んでおり、
前記制御部は、
前記電動モーターに対するトルク指令値に基づいて前記q軸電流の目標値であるq軸電流指令値を算出し、
前記電動モーターの回転速度と予め定められた前記電動モーターのベース回転速度との差と、前記算出したq軸電流指令値とを用いて前記d軸電流の目標値であるd軸電流指令値を算出し、
前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値とを用いて前記電動モーターに対してベクトル制御を行う、
モーター制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモーター制御装置において、
前記d軸電流指令値Idrは、
ゲイン係数をKd、前記トルク指令値に基づいて算出された前記q軸電流指令値をIqr、前記電動モーターの回転速度をω、前記電動モーターのベース回転速度をωbsとすると、
Idr=Kd×Iqr×(ω−ωbs)
で示される、モーター制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモーター制御装置において、
前記d軸電流指令値Idrは、
ゲイン係数をKd、前記トルク指令値に基づいて算出された前記q軸電流指令値をIqr、予め定められたベースq軸電流指令値Iqbs、前記電動モーターの回転速度をω、前記電動モーターのベース回転速度をωbsとすると、
Idr=Kd×(Iqr−Iqbs)×(ω−ωbs)
で示される、モーター制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載のモーター制御装置において、
前記電動モーターの回転速度が前記ベース回転速度以下の場合には、前記d軸電流指令値をゼロとする、モーター制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載のモーター制御装置において、
前記制御部は、前記ベース回転速度ωbsを前記電動モーターの駆動電圧に応じて変化させる、モーター制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のモーター制御装置において、
前記制御部は、前記電動モーターの駆動電圧と前記ベース回転速度ωbsとの関係を示す表又は関係式を格納するための記憶部を有している、モーター制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−139105(P2012−139105A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99119(P2012−99119)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【分割の表示】特願2010−208020(P2010−208020)の分割
【原出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】