説明

モールド成型用赤外線透過ガラス

【課題】カルコゲナイドガラスであって、従来品よりもモールド成型に適した赤外線透過ガラスを提供する。
【解決手段】モル濃度で、Ge:2〜22%、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種:6〜34%、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種:1〜20%、S、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種:58〜70%を含有する、モールド成型用赤外線透過ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド成型用赤外線透過ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
防犯、認証機器等に用いられるセンサでは、主に赤外線が使用されている。従って、これらのセンサに用いられている光学素子は赤外線を透過する赤外線透過材料から構成されている。近年、セキュリティやセイフティに対する意識の高まり、社会的要請などから、これらの機器も高性能・小型であり且つ高い汎用性が求められるようになってきている。従って、これらの機器に用いられるセンサについても小型化する必要があり、光学素子も高性能・小型で、その製造工程においては高い生産性が求められる。
【0003】
赤外線透過材料としては、例えば、ゲルマニウムやセレン化亜鉛がある。しかしながら、これらの赤外線透過材料は結晶であるため、加工手段は研磨成型に限定されている。従って、これらの材料を用いてレンズアレイ等の複雑な形状の光学素子を量産することは困難である。また、特にゲルマニウムは材料自体が高価であるため、汎用性の高いセンサ等に用いることは容易ではない。
【0004】
一方、結晶でない赤外線透過材料として、S、Se、Teを主成分としたカルコゲナイドガラスがある。カルコゲナイドガラスは、例えば、特許文献1〜5に記載されている。
【0005】
特許文献1には、カルコゲナイドガラスを原料として、プラスチックを成型する方法で光学素子を作製すること及びそれに適したガラス組成が記載されている。
【0006】
特許文献2、3には、カルコゲナイドガラスの組成が開示されている。しかしながら、両文献にはモールド成型に適したガラスの組成は記載されていない。
【0007】
特許文献4、5には、カルコゲナイドガラスをモールド成型する方法が記載されている。しかしながら、カルコゲナイドガラスの具体的な組成は記載されておらず、モールド成型が困難なガラスも含まれており、成型性を向上するには更なる検討が必要である。
【特許文献1】特開2006−290738号公報
【特許文献2】特開2006−76845号公報
【特許文献3】特開平5−85769号公報
【特許文献4】特開平6−92654号公報
【特許文献5】特開平5−4824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カルコゲナイドガラスであって、従来品よりもモールド成型に適した赤外線透過ガラスを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成のカルコゲナイドガラスが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のモールド成型用赤外線透過ガラスに関する。
1.モル濃度で、Ge:2〜22%、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種:6〜34%、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種:1〜20%、S、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種:58〜70%を含有する、モールド成型用赤外線透過ガラス。
2.屈伏点が240〜400℃である、上記項1に記載のモールド成型用赤外線透過ガラス。
3.膨張係数が100×10−7〜200×10−7である、上記項1又は2に記載のモールド成型用赤外線透過ガラス。
4.モールド成型により球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ又は回折格子を作製するための、上記項1〜3のいずれかに記載のモールド成型用赤外線透過ガラス。

以下、本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスについて説明する。
【0011】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、カルコゲナイドガラスであって、モル濃度で、Ge:2〜22%、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種:6〜34%、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種:1〜20%、S、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種:58〜70%を含有する。
【0012】
上記組成を有する本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、従来のカルコゲナイドガラスと比較してモールド成型性が高い。よって、本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスを用いることにより、複雑形状の光学素子であってもモールド成型により簡便に赤外線透過性を有する光学素子を作製することができる。
【0013】
以下、本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスの各成分について説明する。多成分系ガラス材料においては、各成分が相互に影響してガラス材料の固有の特性を決定するため、各成分の量的範囲を各成分の特性に応じて論じることは必ずしも妥当ではないが、以下に、上記好適組成において各成分の量的範囲を規定した根拠を述べる。
【0014】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、モル濃度で、
Ge:2〜22%、
Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種:6〜34%、
Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種:1〜20%、
S、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種:58〜70%、を含む。
【0015】
Geは、ガラスの骨格構造を形成する役割がある。含有量はモル濃度で2〜22%であれば良いが、3〜22%が好ましい。含有量が2%未満の場合又は22%を超える場合には、結晶化するおそれがある。
【0016】
Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種は、ガラスの骨格構造を形成する役割がある。含有量(合計量)はモル濃度で6〜34%であれば良いが、8〜34%が好ましい。含有量が6%未満又は34%を超える場合には、結晶化するおそれがある。
【0017】
Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種は、ガラスを形成し易くする役割がある。含有量(合計量)はモル濃度で1〜20%であれば良いが、2〜19%が好ましい。含有量が1%未満又は20%を超える場合には、結晶化するおそれがある。
【0018】
S、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種は、ガラスの骨格構造を形成する役割がある。含有量(合計量)はモル濃度で58〜70%であれば良いが、59〜65%が好ましい。含有量が58%未満の場合には、結晶化するおそれがある。含有量が70%を超える場合には、モールド成型性が低下するおそれがある。
【0019】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、上記成分以外にP、Ga、In等を含んでも良い。これらの成分の含有量(合計量)は限定的ではないが、0〜7%が好ましく、1〜5%がより好ましい。これらの元素の添加理由は限定されないが、例えば、ガラスを形成し易くする目的で添加する。
【0020】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスの赤外線透過性能は最終製品に応じて適宜設定できる。例えば、波長が2〜10μmの赤外線の平均透過率が50〜70%程度である。
【0021】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、屈伏点は240〜400℃程度が好ましく、250〜390℃がより好ましい。屈伏点が240℃未満であると、モールド成型時にガラスが結晶化するおそれがある。また、屈伏点が400℃を超える場合には、モールドとガラスとが反応を起こすおそれがある。
【0022】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、膨張係数は100×10−7〜200×10−7が好ましく、105×10−7〜170×10−7がより好ましい。膨張係数が100×10−7未満であるか又は200×10−7を超える場合には、モールド成型が困難となるおそれがある。
【0023】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスの製造方法は限定されないが、例えば、石英アンプル内に各成分の原料を所定量封入し、熱処理により内容物をガラス化させることにより製造できる。原料としてはGe,Sb,Bi,Sn,Zn,S,Se,Te等の単体金属、又は、GeS,GeSe,GeTe,Sb,SbSe,SbTe,Bi,BiSe,BiTe,SnS,SnSe,SnTe,ZnS,ZnSe,ZnTe等のカルコゲン化物を使用できる。
【0024】
上記製造方法により製造する際は、使用する石英アンプルは真空乾燥機により十分に内部を乾燥させることが好ましい。また、ガラス化の際は、500〜1000℃で加熱することが好ましく、600〜800℃で加熱することがより好ましい。熱処理時間は内容物が十分にガラス化される時間であれば良いが、一般に3〜30時間が好ましく、6〜24時間がより好ましい。
【0025】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスはモールド成型性が高い。モールド成型する際には、前記ガラスを軟化点付近まで加熱し、例えば、上型と下型とで挟み込んで熱プレスすることにより所望の形状に成型する。成型に要する加熱温度は限定的ではないが、屈伏点より10〜70℃程度高い温度が好ましく、屈伏点より20〜50℃程度高い温度がより好ましい。
【0026】
モールド成型により作製する光学素子としては限定されないが、例えば、赤外線を透過する性質が求められる、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ、回折格子等が挙げられる。これらは、赤外線を用いた各種センサに用いられる光学素子として有用である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスは、従来のカルコゲナイドガラスと比較してモールド成型性が高い。よって、本発明のモールド成型用赤外線透過ガラスを用いることにより、複雑形状の光学素子であってもモールド成型により簡便に赤外線透過性を有する光学素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0029】
実施例1〜10及び比較例1〜3
(モールド成型用赤外線透過ガラスの作製)
石英アンプルを用意し、その内部を精製水で洗浄した。次に、ロータリー真空ポンプを作動させて真空下で石英アンプルをバーナーで熱して水分を蒸発させた。次に、下記表1に示される組成となるように各成分を混合して石英アンプル内部に入れ、ロータリー真空ポンプでアンプル内部を十分に真空にした後、H−Oバーナーを用いて封管した。
【0030】
封管した石英アンプルを20℃/時間の昇温速度で750℃まで昇温後、同温度で12時間保持した。次に、室温まで自然冷却して内容物をガラス化させた。
【0031】
内容物がガラス化されていることを確認するために、X線回折装置を用いて内容物のXRD測定を行った。その結果、実施例1〜10はガラス化していた。他方、比較例1〜3はガラス化しておらず結晶が生成していた。ガラス化したものを○とし、ガラス化していないものを×とし、表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
次に、ガラス化した実施例1〜10の内容物を220℃において24時間熱処理をした。
【0034】
熱処理した内容物(ガラスサンプル)をアンプルから取りだして光学研磨した。次に、ガラスサンプルの屈伏点と膨張係数を熱機械分析装置(TMA−60 島津製作所製)を用いて測定した。その結果、実施例1のガラスサンプルの屈伏点は256℃、膨張係数は165×10−7であった。
(赤外透過レンズの作製)
実施例1のガラスサンプルを窒素雰囲気中270℃においてモールド成型をし、非球面レンズを作製した。その結果、良好な非球面レンズが作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1と比較例1で作製した赤外線透過ガラスのX線回折パターンである。
【図2】実施例1で作製した赤外線透過ガラスの赤外線透過率曲線である。
【図3】実施例1のガラスサンプルから作製した非球面ガラスレンズの上面撮影像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル濃度で、Ge:2〜22%、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種:6〜34%、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種:1〜20%、S、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種:58〜70%を含有する、モールド成型用赤外線透過ガラス。
【請求項2】
屈伏点が240〜400℃である、請求項1に記載のモールド成型用赤外線透過ガラス。
【請求項3】
膨張係数が100×10−7〜200×10−7である、請求項1又は2に記載のモールド成型用赤外線透過ガラス。
【請求項4】
モールド成型により球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ又は回折格子を作製するための、請求項1〜3のいずれかに記載のモールド成型用赤外線透過ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−161374(P2009−161374A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340306(P2007−340306)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(591110654)五鈴精工硝子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】