説明

ヤーンクリアラの糸情報初期化方法および初期化システム

【課題】クリアラヘッドのクリーニング実施を検出することに基づいた、各錘のヤーンクリアラの糸情報初期化方法、および初期化システムを提供する。
【解決手段】本発明に係るヤーンクリアラは、クリーニング部材を、クリアラヘッドの投光部と受光部の間に繰り返し挿脱して行うクリーニング中に、i)クリーニング部材が挿入されているか否か、ii)挿入時間および/または挿入されていない時間が予め定められた範囲内であるか否か、iii)挿入および/または引き抜きが予め定められた回数以上行われたか否か、の判定結果に基づき、予め定められたクリーニングが行われたかどうか判断し、当該クリアラヘッドの糸径平均値φAVEnの初期化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリアラヘッドのクリーニング後に、各錘の糸情報を初期化できるヤーンクリアラに関する。
【背景技術】
【0002】
紡績装置や糸巻装置に装備されているヤーンクリアラは、紡績糸の糸径や毛羽過多等の糸物性異常を検出して異常部分を除去する、紡績糸の品質を維持するために必要不可欠な装置である。通常、1基のヤーンクリアラで複数錘の糸状態を監視・判断するよう構成されており、この場合、ヤーンクリアラ1基につき複数のクリアラヘッド(検出ヘッド)が備えられている。また、通常、紡績装置や糸巻装置は、1基台あたり複数のヤーンクリアラが備えられており、それらは、稼動データ管理システム、およびコントロールマスターにて、統合管理および制御されている。
【0003】
このヤーンクリアラは、走行中の紡績糸の糸物性(糸径φを含む)を監視して異常であるか否かを所定の演算結果に基づき判定している。さらに、ヤーンクリアラは精度良く異常判定を行うために、クリアラヘッドに汚れが付着しているか否かについても、所定の演算結果に基づき判定し、汚れていると判断された場合は、ユーザーにその旨を通知している。
【0004】
以下、本発明の詳細な説明を行うにあたり、従来の紡績システム、およびヤーンクリアラの基本構成、動作について説明する。
【0005】
なお、ヤーンクリアラは、その動作原理により、静電容量型と光電変換型に大別される。静電容量型ヤーンクリアラは、走行中の紡績糸の質量を、コンデンサの充放電を利用して監視するため、例えば、毛羽過多等の、紡績糸の見かけ太さだけが変化して、質量が変化しないような異常の検出には適していない。一方、光電変換型ヤーンクリアラは、投光部と受光部の間を走行している紡績糸の影を監視する。光電変換型ヤーンクリアラは、原理的に静電容量型では検出できない異常をも検出できるため、精度良く糸物性異常を検出するのに適している。以下、本明細書中で、ヤーンクリアラは光電変換型のものとして説明を行う。
【0006】
図1は、紡績機システムの一構成例を示すブロック図である。紡績機システム100では、1台のヤーンクリアラが4錘分の監視・判定を行っている。すなわち、図1に示す紡績機システム100のヤーンクリアラ1は、4台のクリアラヘッド1’で1基の制御装置4を共用するように構成されている。また、図1に示す紡績機システム100には、ヤーンクリアラがNo.1〜20まで備えられており、結局、一紡績機システムは計80錘を備えている。各ヤーンクリアラは、コントロールマスターCMに接続される。コントロールマスターCMでは、各錘において算出された糸径平均値(φAVEn)の全錘平均値(φAVEt)を算出等している。コントロールマスターCM自体は、機台の稼動状況、糸品質管理、操業管理、保全管理などの各種情報をユーザーに対して提示する稼動データ管理システムVOSに接続されている。ユニットコントローラMSMPCは、各錘の所定の管理、制御等を行っている。
【0007】
図2は、従来の光電変換型ヤーンクリアラの要部を示すブロック図である。通常、ヤーンクリアラは、図6で後述するように、各紡績ユニット50における紡績部40と巻取部30の間に備えられている。光電変換型ヤーンクリアラ1は、LED等の発光素子からなる投光部2とフォトトランジスタ等の光電変換素子からなる受光部3で構成されたクリアラヘッド1’を備えており、投光部2から投射した光を受光部3で受光し得る量にほぼ反比例する電圧(電流)を検出信号(以下、「糸太さ値」)として出力するよう構成されている。糸送りローラDで送られる紡績糸Yは、投光部2から投射した光の少なくとも一部を遮りながら、投光部2と受光部3の間を走行する。糸太さ値は、例えば、図3のようなかたちとなる。糸なし状態では、受光部3の糸太さ値は最大光量に応じたVとなる。糸走行状態では、紡績糸Yが遮る光の量に応じて糸太さ値が増加する。すなわち、紡績糸Yに糸径や毛羽過多等の糸物性異常があると、正常時と比較して影が大きくなり、より多くの光が遮られるため、糸太さ値が増加する。
【0008】
クリアラヘッド1’は、制御装置4に接続されている。制御装置4はマイクロコンピュータ等からなり、A/D変換部5、演算部6、糸状態判定部7、ヘッド汚れ判定部8を備えている。なお、他錘の情報を参照するため、演算部6、糸状態判定部7およびヘッド汚れ判定部8の一部は、コントロールマスターCMに備えられている。また、制御装置4は、糸状態およびヘッド汚れ判定を通知するためのアラーム部10に接続されている。
【0009】
図4Aは、紡績糸が走行しているクリアラヘッド1’の斜視図を示す。投光部2は透光性の保護カバーで覆われて投光面2’を形成し、同様に、受光部3は受光面3’を形成している。投光面2’と受光面3’は、ほぼ平行に対向配置されており、そのほぼ中央を紡績糸Yが走行する。クリアラヘッド1’には、投光面2’および受光面3’を保護するために、ひさし状のセラミック製ガイド12が設けられている。図4Aに示すように、ガイド12は、紡績糸Yの走行を妨げず、かつ紡績糸Yが直接投光面2’および受光面3’と接触することを防いでいる。
【0010】
上記のように構成されたヤーンクリアラ1は、上述のように、走行中の紡績糸の糸物性を監視して異常であるか否かを所定の演算結果に基づき判定するとともに、精度良く異常判定を行うために、クリアラヘッドに汚れが付着しているか否かについても、所定の演算結果に基づき判定している。そして、アラーム部10は、これらの判定結果をユーザーに通知する。なお、一部の演算や判定は、コントロールマスターCMと協同して行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
このうち、クリアラヘッドの汚れは、以下のようにして判定されている。
【0012】
図2に示される制御部4のA/D変換部5は、走行中の紡績糸に応じて逐次変化する受光部3からの糸太さ値を受け取り、所定のサンプリングレートで離散的なディジタル値に変換する。演算部6は、このディジタル値を所定時間分保持し、糸径平均値φAVEnを算出する。糸太さ値は紡績糸により遮られる光量に比例した値、つまり紡績糸の太さに比例した値であるため、当然、この値を所定時間分平均化したφAVEnも紡績糸の太さに比例する値である。ここで、φAVEnの“n”は錘番号を示し、φAVEnは錘毎に算出される。コントロールマスターCMは、各錘のφAVEnを受け取り、全錘の糸径平均値φAVEtを算出するとともに、その算出結果を各錘における制御部4の糸状態判定部7およびヘッド汚れ判定部8に送る。
【0013】
詳述しないが、φAVEnとφAVEtは、ヘッド汚れの判定だけでなく糸物性異常を判定すべく糸状態判定部7においても使用される。
【0014】
各錘の糸径平均値φAVEn、および全錘の糸径平均値φAVEtは、いずれも、紡績機システムの電源投入時、または紡績糸の番手変更時に“0”に初期化される(クリア)。φAVEnが所定期間分のみの平均値であるのに対して、φAVEtは、電源投入からクリアされるまでの全稼動時間における全錘のφAVEnを平均化したもので、信頼性が高く、糸状態判定やヘッド汚れ判定の基準値となる非常に重要な値である。
【0015】
制御部4のヘッド汚れ判定部8は、演算部6から受け取ったφAVEnと、コントロールマスターCMから受け取ったφAVEtに基づき、当該錘のクリアラヘッド1’が汚れているか否かを判定する。最も単純な方法として、具体的には、φAVEtとφAVEnの差を計算し、φAVEnが所定値以上φAVEtを上回れば、汚れていると判定する。つまり、クリアラヘッド1’が汚れると、受光面3’が受光し得る光量が減少するため、糸径が太い場合に相当する糸太さ値が出力される。そして、自分自身を含めた全錘の糸径平均値に対する、各錘の糸径平均値が所定値以上高い場合に、当該クリアラヘッドは汚れていると判定される。この判定結果は、アラーム表示等の手段でユーザーに通知されるとともに、走行中の紡績糸は停止する。
【0016】
クリアラヘッドが汚れると、精度良く糸物性異常を検出することが困難となるため、ユーザーは当該クリアラヘッドのクリーニングを行う。図4Bは、クリーニング中のクリアラヘッド1’の斜視図を示す。クリーニングは、図4B中に矢印で示すように、投光面2’と受光面3’の間にクリーニング部材11の挿脱を繰り返し行い、投光面2’および受光面3’に付着した汚れを拭うようにして行う。クリーニング部材11は、例えば、綿棒が使用されている。
【0017】
以上のような紡績糸の糸物性異常監視、およびクリアラヘッドの汚れの監視においては、次に示すような問題があった。
【0018】
図5に、クリーニング前後のクリアラヘッド監視状態を示す。クリアラヘッドが汚れると受光部が受光し得る光量が低下し、糸太さ値が増加する。この糸太さ値に影響を及ぼすクリアラヘッドの汚れの程度を「ヘッド汚れ量」として、図5中に点線で記載する。このヘッド汚れ量は、糸走行開始時(時間:0)には、クリアラヘッドが汚れていないために“0”を示すが、糸走行とともに徐々に増加し、クリーニング直前(時間:TCS)においては、Δφを示す。このヘッド汚れ量が加算されるため、糸太さ値(図中、×で表示)も増加し、さらに糸太さ値に基づいて算出される糸径平均値φAVEn(図中、実線で表示)も追従して増加する。つまり、時間TCSにおいては、糸太さ値およびφAVEnは、いずれも時間0における本来の値φYにΔφが加算された値となる。時間TCS〜TCEにおけるクリーニングによって、ヘッドの汚れ(Δφ)は除去される。その後、再び糸走行が開始した直後(時間:TCE)の糸太さ値は、もはやヘッドが汚れていないためにΔφが除去されて本来の値φYが得られる。一方、φAVEnは糸太さ値の所定時間分の平均値であるため、追従は緩やかであり、糸太さ値との間に差異が生じる。ヤーンクリアラの糸状態判定部が、φAVEnと糸太さ値を比較して糸物性異常を検出するよう構成されている場合、糸太さ値がφAVEnよりも小さい(細い)ため、正常な紡績糸が細いと判定されて、誤った糸径異常を検出してしまう可能性があった。
【0019】
そこで、クリーニング直後に、当該錘のφAVEnを初期化する検討がなされた。しかし、現状のヤーンクリアラには、各錘のφAVEnを個別に初期化するためのスイッチ等が存在せず、新たにスイッチ等を設けるにしても設計変更や検証に多大なコストを要する。また、既に工場等で稼動中の装置にこのような改造を施すのは、長時間に渡り装置を停止させねばならず、非現実的である。
【0020】
また、稼動データ管理システムVOSには、任意のタイミングでφAVEnを初期化する機能が備わっているが、クリアラヘッドが汚れていない正常なφAVEnも含め、全錘のφAVEnと、さらに全錘の糸径平均値φAVEtをも同時に初期化してしまう。前述の通り、φAVEtは、電源投入から全稼動時間に渡って全錘の糸径を平均化したもので、信頼性が高く、糸物性異常検出やクリアラヘッド汚れ検出において重要な基準値としての役割を果たしている。このため、番手違いの紡績糸に交換する等の、特に必要な場合以外に初期化するのは避けるべきである。
【特許文献1】特願2006−176293号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって本発明は、多大なコスト負担がなく、クリアラヘッドのクリーニング実施を検出することに基づいた、各錘のヤーンクリアラの糸情報初期化方法、および初期化システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明に係るヤーンクリアラの糸情報初期化方法は、クリーニング部材を、クリアラヘッドの投光部と受光部の間に繰り返し挿脱して行うクリーニング中に、i)前記クリーニング部材が挿入されているか否か、ii)前記クリーニング部材の挿入時間および/または挿入されていない時間が予め定められた範囲内であるか否か、iii)前記クリーニング部材の挿入および/または引き抜きが予め定められた回数以上行われたか否か、を判定し、これらの判定結果に基づき、予め定められたクリーニングが行われたか否か判断し、当該クリアラヘッドの糸情報を初期化することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るヤーンクリアラの糸情報初期化システムは、クリーニング部材を、クリアラヘッドの投光部と受光部の間に繰り返し挿脱して行うクリーニング中に、i)前記クリーニング部材が挿入されているか否かを判定する第1判定部と、ii)前記クリーニング部材の挿入時間および/または挿入されていない時間が予め定められた範囲内であるか否かを判定する第2判定部と、iii)前記クリーニング部材の挿入/引き抜きが予め定められた回数以上行われたか否かを判定する第3判定部と、iv)前記第1〜第3判定部の判定結果のうち、少なくとも1つを参照して予め定められたクリーニングが行われたか否か判定する第4判定部と、を含み、予め定められたクリーニングが行われた場合に当該クリアラヘッドの糸情報を初期化することを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明に係るヤーンクリアラの糸情報初期化システムは、i)前記第1判定部が、クリーニング中の、前記受光部が出力するパルス状の糸太さ値が予め定められた閾値を下回ること、および/または上回ることを検出する光量比較部で、ii)前記第2判定部が、前記光量比較部の比較結果に基づき、前記糸太さ値が前記閾値を下回っている時間、および/または上回っている時間に相当するパルス幅を算出するとともに、前記パルス幅が予め定められた範囲内にあることを判定するパルス幅判定部で、iii)前記第3判定部が、前記パルス幅判定結果に基づき、前記クリーニング部材の挿脱回数を保持するパルスカウント値を加算するか、または初期化するパルスカウント部で、iv)前記第4判定部が、前記パルスカウント値が予め定められた回数以上であることを判定し、前記クリアラヘッドの前記糸情報を初期化する糸情報初期化部であることを特徴とする。
【0025】
[用語の説明]
本明細書中で「クリーニング」とは、前述したように、投光面と受光面の間にクリーニング部材を繰り返し挿脱し、投光面と受光面に付着した汚れを拭うように行うものを指し、例えば、圧縮空気をクリアラヘッドに吹き付けて、汚れを吹き飛ばすようなものは含まないものとする。また、クリーニング部材の挿脱回数、挿脱速度等のクリーニング条件は、予めマニュアルや指示書等を通じて、クリーニング作業者に伝達されているのが望ましいが、伝達されていない場合も含まれる。
【0026】
本明細書中で「パルス」とは、閾値をまたぐように繰り返し変動する電圧または電流波形を指し、矩形状のものに限られない。この変動は一定の周期のものに限らず、不規則なものも含まれるものとする。さらに、本明細書中で「パルス幅」とは、閾値と電圧波形との交点間の厳密な幅に限らず、広く、凸状部の幅、および凹状部の幅を指すものとする。
【0027】
本明細書中で「糸なし」とは、クリアラヘッドの投光面と受光面の間に紡績糸が存在してない状態を指す。また、ヘッドの汚れが検出された時には、自動的に、または手動で「糸なし」となった後にクリーニングを行う。そして、クリーニングが終了すると、自動的に、または手動で「糸なし」が解除され、その後、紡績糸の走行がスタートする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、多大なコスト負担がなく、クリアラヘッドのクリーニング実施を検出することに基づいた、各錘のヤーンクリアラの糸情報初期化方法、および初期化システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
【0030】
[実施例1]
本例における紡績機システムは、従来と同じ構成が採られている。すなわち、図1を用いて前述したように、紡績機システム100はNo.1〜20のヤーンクリアラを備えており、各ヤーンクリアラ1は、4台のクリアラヘッド1’を備えている。また、各ヤーンクリアラは、各錘において算出された糸径平均値(φAVEn)の全錘平均値(φAVEt)を算出等するコントロールマスターCMに接続され、さらにコントロールマスターCMは、稼動データ管理システムVOSに接続されている。
【0031】
図6は、本例における紡績システム100を構成する紡績ユニット要部の側面模式図である。紡績ユニット要部50の最上流側から、バックローラB、ドラフトパート45、フロントローラF、紡績部40を順次経由して紡績糸Yが製造される。その後、紡績糸Yは、糸送りローラDでヤーンクリアラ1に送られ、糸物性異常を発見すべくクリアラヘッドで監視された後に、巻取部30に巻き取られる。この紡績ユニット要部50も従来と同じ構成となっている。本例の紡績システム100は、このような紡績ユニット要部50が、紙面垂直方向に80基並んで構成されている。
【0032】
本例におけるクリアラヘッドも、図4Aおよび図4Bを用いて前述した従来のクリアラヘッドと同様に、ほぼ平行に対向配置された投光面2’、受光面3’、ひさし状のセラミック製ガイド12からなっている。また、本例におけるクリアラヘッド中を紡績糸Yが走行した際の糸太さ値のかたちも、図3を用いて前述した従来のかたちと同様である。
【0033】
次に、クリアラヘッドの汚れが検出され、クリーニングを行う際のヤーンクリアラの動作について詳細に説明する。
【0034】
図7は、本発明の実施例1における光電変換型ヤーンクリアラの要部を示すブロック図である。前述の通り、受光部3は、走行している紡績糸Yに応じた糸太さ値を逐次出力する。この糸太さ値は、図3に示されている一例のように、紡績糸が走行している時、つまり投光部2が投射する光の少なくとも一部が遮られ、受光部3が受光し得る光量が減少すると増加する。したがって、紡績糸走行中の糸太さ値Vは、紡績糸の太さにほぼ比例して増加する。
【0035】
図8Aに糸太さ値波形の一例を示すように、光量比較部20のA/D変換部5は、受光部3からの糸太さ値VRAを受け取り、所定時間Δtが経過する毎に離散的なディジタル値に変換する。図8Bは、図8Aに示す糸太さ値VRAをA/D変換部5によって変換したディジタル値である。このディジタル値を用いて、例えば、ディジタル値D〜Dの平均を算出し、時間T〜Tにおける糸太さ値の平均値を求める、等している。
【0036】
本発明のヤーンクリアラは、公知の方法、およびシステムにより、このディジタル値を用いて所定の演算を行い、糸物性異常やヘッド汚れを判定する。それと同時に、本発明のヤーンクリアラは、光量比較部20中のH/L比較部21、パルス幅判定部22、パルスカウント部23、および糸情報初期化部24を備え、ヘッド汚れ判定部8がヘッド汚れを検出した際のクリアラヘッドのクリーニング状況を監視する。なお、これらは、ヘッド汚れが検出されたクリアラヘッド等、紡績糸走行が停止しているクリアラヘッドにおいて動作するよう構成されている。
【0037】
クリーニングは、図4Bで前述したようにして行われる。図9は、図5におけるクリーニング期間(TCS―TCE間)の糸太さ値波形の一例を示す模式図、図10は本例の糸径平均値初期化シーケンスである。図9の閾値Vthは、予め入力部25を介して設定されている値である。以下、糸太さ値VRAと閾値Vthを比較して糸太さ値VRAが高い領域を“High”、低い領域を“Low”として説明する。Δtは、A/D変換部5のサンプリング間隔を示す。なお、糸太さ値VRA上に記載しているサンプリング点を示すマークは、説明のため、一部のみに記載しているが、その他のタイミングでA/D変換が行われていないことを示すものではない。また、図9(後に説明する図11、図12、図14も同様)に示す糸太さ値は、クリーニング部材挿脱に伴う糸径平均値初期化シーケンスを簡単に説明するために模式的に表したものであって、糸太さ値レベルの微少な変化は省略している。すなわち、本来、クリーニング作業が進行すると、ヘッド汚れは、クリーニングの仕方、その他に応じて除去されて行くので、図5示すヘッド汚れ量Δφに相当する“Low”時の糸太さ値低下が見られるが、この糸太さ値の低下量は、クリーニング部材を挿脱に応じた“High”“Low”の変化に対して無視できる程度であるために、図9(図11、図12、図14も同様)では、この糸太さ値の変化を省略している。
【0038】
図9の領域L1は、ヘッド汚れが検出され、糸なし状態となっているクリーニング開始前の状態を示す。すなわち、領域L1においては、紡績糸およびクリーニング部材11が投光部と受光部の間に存在せず、投光部からの光が遮られていないため、糸太さ値VRAは最大光量に応じたVを保っている。A/D変換部5は、Δt間隔でA/D変換を行い、その都度、H/L比較部21は、変換されたディジタル値と閾値Vthとの大小比較を行う。また、クリーニング部材が所定の回数挿脱されたことの判定に用いられるパルスカウント値は、紡績システムの電源投入時、または前回のクリーニング終了時等の、当該クリーニング開始前に“0”にクリアされているものとする(図10のステップS1−1に相当)。
【0039】
領域H1は、クリーニングを開始し、クリーニング部材11を投光部と受光部の間に挿入した状態を示す。挿入されたクリーニング部材11によって、投光部からの光の少なくとも一部が遮られる。この時、糸太さ値VRAは、走行中の紡績糸の糸径が太い場合に相当する動きを示し、閾値Vthを上回る。領域H1における糸太さ値Vは、クリーニング部材11の挿入の程度や、クリーニング部材11の損耗等によって変化する。したがって、閾値Vthは、クリーニング作業者のスキルやクリーニング部材11の状態等の諸条件を考慮して、クリーニング時の糸太さ値VRAを“High/Low”に区分し得るような値に適宜設定しておかなければならない。ディジタル値D19で、糸太さ値VRAは閾値Vthを上回るため、H/L比較部21は、クリーニング部材が挿入されたと判定し(ステップS1−2に相当)、“High”に応じた信号をパルス幅判定部22に送る。
【0040】
領域L2は、クリーニング部材11を投光部と受光部の間から引き抜いた状態を示す。糸太さ値VRAは、投光部からの光が遮られていないため、Vを示す。ディジタル値D25で、糸太さ値VRAは閾値Vthを下回るため、H/L比較部21は、クリーニング部材11が挿入されていないと判定し(ステップS1−3に相当)、“Low”に応じた信号をパルス幅判定部22に送る。
【0041】
パルス幅判定部22は、H/L比較部21から“High”が出力されている時間が、予め入力部25を介して設定されている所定条件を満足するか判定する。図9に示す一例では、ディジタル値D19〜D25の時間、すなわち6×Δtで計算される時間と所定条件(本例では、下限:約100ms、上限:約1s)の比較、判定を行う(ステップS1−4に相当)。この所定条件は、上下限が設定されていてもよいし、上限または下限のいずれかのみでもよい。パルス幅判定部22は、この判定結果をパルスカウント部23に送る。
【0042】
ステップS1−5、S1−6については、ステップS1−9、S1−10と併せて説明を行うとして、先に、クリーニング部材11を再度挿入した領域H2について説明する。糸太さ値VRAが閾値Vthを上回ると、H/L比較部21は、“High”に応じた信号をパルス幅判定部22に送り(ステップS1−7に相当)、パルス幅判定部22は、“Low”が出力されていた時間の判定を行う(ステップS1−8に相当)。
【0043】
通常、クリーニングは、上記クリーニング部材11の挿脱を所定の回数繰り返して行う。パルスカウント部23は、パルス幅判定部22から判定結果を受け取り、その判定結果が“High”および“Low”時間が所定範囲内であることを示していれば、所定のクリーニングが進行しているとして、パルスカウント値に“1”を加算する(ステップS1−5、S1−9に相当)。所定範囲内でないことを示していれば、所定外のクリーニングが行われているか、あるいはクリーニングが中断されたとして、パルスカウント値を“0”にクリアする(ステップS1−1に相当)。そして、糸情報初期化部24は、パルスカウント値と入力部25を介して定められている所定回数の比較を行い(ステップS1−6、S1−10に相当)、パルスカウント値が所定回数(本例では、5回)に達した場合に、糸径平均値φAVEnを初期化する旨の指示を演算部6に行う。これとともに、アラーム部10は、LED表示で初期化が行われた旨の表示を行う(ステップS1−11に相当)。
【0044】
図11は、実施例1におけるクリーニング時の動作をまとめたタイミングチャートである。パルスカウント値は、糸太さ値が閾値Vthをまたいで変化するのに追従して加算、またはクリアされる。図11において、例えば、糸太さ値の“Low”時間W、Wおよび“High”時間Wは、所定範囲よりも長いためパルスカウント値はクリアされる。時間W〜Wの経過後、クリーニング部材の所定の挿脱が繰り返し行われ、パルスカウント値が所定回数“5”に達すると、糸径平均値φAVEnは初期化される。以上のように、クリーニングにおけるクリーニング部材の挿脱が、所定時間で、連続して所定の回数以上行われたかどうかの判定を行うことで、意図せずφAVEnが初期化されてしまうのを防いでいる。なお、図11(図12、図14も同様)におけるφAVEnは、図5におけるヘッド汚れ量Δφを含んでいる。
【0045】
[実施例2]
クリーニングが行われたかどうかの判定は、次のように変更することができる。
【0046】
実施例1では、“High”“Low”両方の時間が所定範囲内であるかを判定していたが、いずれか一方のみで判定してもよく、本例では、“High”時間のみで判定を行った。したがって、図13に示す本例の糸径平均値初期化シーケンスでは、図10のステップS1−7〜S1−10に相当するステップが省略されている。また、本例では、パルスカウント値の所定回数を“3”とした。図12に、本例におけるクリーニング時のタイミングチャートを示す。本例では、“Low”時間の判定を行わないため、パルスカウント値が“High”時間の終了のみに追従して変化する。また、例えば、“Low”時間Wの時間が所定範囲を満たさなくても、パルスカウント値がクリアされることはない。
【0047】
[実施例3]
本例では、実施例1、2で行った“High”時間および/または“Low”時間の判定の替わりに、連続した“High”“Low”時間の合計時間で判定を行った。したがって、図15に示す本例の糸径平均値初期化シーケンスでは、図10のステップS1−4〜S1−6に相当するステップが省略され、ステップS3−5は、“High”“Low”時間の合計時間について判定を行っている。図14に、本例におけるクリーニング時のタイミングチャートを示す。本例では、パルスカウント値は、“High”時間Wと“Low”時間Wの和が所定範囲であるため加算される。その後、パルスカウント値は、時間WとWの和の値、時間WとW10の和の値を参照して加算される。この時、“High”“Low”それぞれの時間は判定の対象とはならず、例えば、“Low”時間W10は非常に短いが、これによってパルスカウント値がクリアされることはない。
【0048】
以上のように本発明は、既存の設備に大きな変更を加えることなく、各錘のクリーニング状態を検出し、糸径平均値を初期化することができる。本発明では、所定のクリーニング動作自体を検出することで初期化するか否かの判断を行っているため、ユーザーは、糸径平均値の初期化のために、追加の作業を行う必要がない。また、予めパルスカウント値、および“High”“Low”時間の所定値を設定しておくことで、クリーニング部材の挿脱回数や挿脱速度等のクリーニング条件が変化しても、クリーニングが実行されたか否か判定を行うことができる。
【0049】
なお、本発明の各例では、クリーニング状態を検出した際に、糸径平均値の初期化を行っているが、これに限定されず、各錘に保持されている他の糸情報の初期化等を行ってもよい。また、クリーニング状態を検出した際のアラーム手段は、LEDを用いて視覚的に行ったが、警告音のような他の公知のアラーム手段でもよく、またはアラーム手段を備えていなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】紡績機システムの一構成例を示すブロック図である。
【図2】従来の光電変換型ヤーンクリアラの要部を示すブロック図である。
【図3】クリアラヘッドの糸太さ値の一例を示す図である。
【図4】クリアラヘッドの斜視図であって、(A)は紡績糸が走行中のクリアラヘッド、(B)はクリーニング中のクリアラヘッドを示す。
【図5】クリーニング前後のクリアラヘッド監視状態を示す図である。
【図6】紡績機システムを構成する紡績ユニット要部の側面模式図である。
【図7】本発明の実施例1における光電変換型ヤーンクリアラの要部を示すブロック図である。
【図8】A/D変換部の動作を示す一例であって、(A)は糸太さ値が所定頻度でディジタル値に変換される様子、(B)は変換された結果得られたディジタル値である。
【図9】クリーニング中の糸太さ値波形の一例を示す模式図である。
【図10】実施例1に係る糸径平均値初期化シーケンスである。
【図11】実施例1に係るヤーンクリアラのクリーニング時の動作を示すタイミングチャートである。
【図12】実施例2に係るヤーンクリアラのクリーニング時の動作を示すタイミングチャートである。
【図13】実施例2に係る糸径平均値初期化シーケンスである。
【図14】実施例3に係るヤーンクリアラのクリーニング時の動作を示すタイミングチャートである。
【図15】実施例3に係る糸径平均値初期化シーケンスである。
【符号の説明】
【0051】
B バックローラ
CM コントロールマスター
D 糸送りローラ
F フロントローラ
VOS 稼動データ管理システム
Y 紡績糸
1 ヤーンクリアラ
1’ クリアラヘッド
2 投光部
2’ 投光面
3 受光部
3’ 受光面
4 制御装置
5 A/D変換部
6 演算部
7 糸状態判定部
8 ヘッド汚れ判定部
10 アラーム部
11 クリーニング部材
12 ガイド
20 光量比較部
21 H/L比較部
22 パルス幅判定部
23 パルスカウント部
24 糸情報初期化部
25 入力部
30 巻取部
40 紡績部
45 ドラフトパート
50 紡績ユニット要部
100 紡績機システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤーンクリアラの糸情報初期化方法であって、クリーニング部材を、クリアラヘッドの投光部と受光部の間に繰り返し挿脱して行うクリーニング中に、
i)前記クリーニング部材が挿入されているか否か、
ii)前記クリーニング部材の挿入時間および/または挿入されていない時間が予め定められた範囲内であるか否か、
iii)前記クリーニング部材の挿入および/または引き抜きが予め定められた回数以上行われたか否か、
を判定し、その判定結果に基づき、予め定められたクリーニングが行われたか否か判断し、当該クリアラヘッドの糸情報を初期化する、
ことを特徴とするヤーンクリアラの糸情報初期化方法。
【請求項2】
ヤーンクリアラの糸情報初期化システムであって、クリーニング部材を、クリアラヘッドの投光部と受光部の間に繰り返し挿脱して行うクリーニング中に、
i)前記クリーニング部材が挿入されているか否かを判定する第1判定部と、
ii)前記クリーニング部材の挿入時間および/または挿入されていない時間が予め定められた範囲内であるか否かを判定する第2判定部と、
iii)前記クリーニング部材の挿入/引き抜きが予め定められた回数以上行われたか否かを判定する第3判定部と、
iv)前記第1〜第3判定部の判定結果のうち、少なくとも1つを参照して予め定められたクリーニングが行われたか否か判定する第4判定部と、
を含み、予め定められたクリーニングが行われた場合に当該クリアラヘッドの糸情報を初期化する、
ことを特徴とするヤーンクリアラの糸情報初期化システム。
【請求項3】
i)前記第1判定部は、クリーニング中の、前記受光部が出力するパルス状の糸太さ値が予め定められた閾値を下回ること、および/または上回ることを検出する光量比較部であり、
ii)前記第2判定部は、前記光量比較部の比較結果に基づき、前記糸太さ値が前記閾値を下回っている時間、および/または上回っている時間に相当するパルス幅を算出するとともに、前記パルス幅が予め定められた範囲内にあることを判定するパルス幅判定部であり、
iii)前記第3判定部は、前記パルス幅判定結果に基づき、前記クリーニング部材の挿脱回数を保持するパルスカウント値を加算するか、または初期化するパルスカウント部であり、
iv)前記第4判定部は、前記パルスカウント値が予め定められた回数以上であることを判定し、前記クリアラヘッドの前記糸情報を初期化する糸情報初期化部である、
ことを特徴とする請求項2に記載のヤーンクリアラの糸情報初期化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−44710(P2008−44710A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221474(P2006−221474)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】