説明

ユニット化したばね装置およびそれを含むマスタシリンダ

この発明では,ユニット化したばね装置(51)自体の組立て性の向上を図る。そのために、この発明は、次のA、BおよびCの特徴をもつ。A.一対のリテ−ナ部材(60,70)は、ともに内部中空な筒形であり、径の小さな第1のリテ−ナ部材(60)の外周に径の大きな第2のリテ−ナ部材(70)がはまり合う構成である。B.第1のリテ−ナ部材(60)は、一端に外向きの第1爪部(610)、また、第2のリテ−ナ部材(70)は、一端に内向きの第2爪部(720)をそれぞれもち、それら第1爪部(610)および第2爪部(720)は、第2爪部(720)が第1爪部(610)を乗り越えて第1および第2のリテ−ナ部材(60,70)を軸線方向に結合可能であり、結合した形態では、それら第1爪部(610)および第2爪部(720)が互いの抜止めとして機能する。C.第1のリテ−ナ部材(60)は、軸線方向に走り少なくとも第1爪部(610)のある側を分断するスリット(602)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、それを単独で取扱い可能にユニット化したばね装置、特には、車両の液圧式ブレーキシステム等に用いるマスタシリンダに有効に適用することができるばね装置の技術に関する。
発明の背景
【0002】
たとえば、車両のマスタシリンダは、シリンダ孔をもつシリンダ本体と、そのシリンダ本体のシリンダ孔の中に液圧室を区画するピストンと、そのピストンにばね力を与えるばね装置とを備える。ばね装置の構成部品は、ばねの伸縮を制限するリテ−ナ部材と、リテ−ナ部材が支持するばねとである。
【0003】
多くのばね装置は、ピストン自体がばねの直接のばね受けとなっているため、ばね装置それ自体はユニット化されておらず、それを単独で取り扱うことはできない。ユニット化されていない先行例としては、次に示すように各種のものがある。
【特許文献1】日本国特許第3035228号 カップ形のリテ−ナと、そのリテ−ナに一端が結合し他端がピストンに支持されたねじ部材と、リテ−ナとピストンとの間に支持されたばねとを備えるばね装置を示す(特には、図1参照)。
【特許文献2】USP第5,111,661号(日本国特開平3−109164号に対応)前記の日本国特許第3035228号におけるねじ部材の役割をピストンの延長部分に分担させたばね装置を示す(特には、Fig.1の符号42の部分に注目)。
【特許文献3】日本国特表2002−535200号(国際公開WO00/44600号に対応)スリ−ブ状のリテ−ナ部材に対しピン状のリテ−ナ部材を軸線から外れた横方向から結合するリテ−ナ構成、およびピストン(26)がばね(38)のばね受けとなったばね装置を示す(特には、Fig.1参照)。
【0004】
他方、ばね装置の中に、軸線方向の長さを伸縮可能に結合する一対のリテ−ナ部材と、それらリテ−ナ部材に支持されるばねとを備え、それを単独で取扱い可能にユニット化したばね装置が知られている。
【特許文献4】日本国実公平5−13666号 カップ状のリテ−ナと、そのリテ−ナに一端が結合し他端にばね受け部分をもつロッド部材と、ロッド部材のばね受け部分とリテ−ナとの間に支持されたばねとを備えるばね装置を示す(特には、図3参照)。このようなばね装置は、それを単独で取扱い可能にユニット化しているため、ユニット化していないものに比べて、シリンダ本体へ組み付ける際に有利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、発明者らは、ユニット化した(ユニット化という代わりに、カ−トリッジ化あるいはパッケ−ジ化ともいうことができるが、複数の構成要素を組み立て、それを単独で取り扱うことができるという点から、ユニット化という表現が最適である)ばね装置について、検討を重ねた。その結果、ユニット化したばね装置においては、そのばね装置自体の組立て性のさらなる向上、また、スム−ズで安定した作動とともに、接触に伴う異音の発生をできるだけなくすこと、が求められることが判明した。特に、今までのリテ−ナあるいはリテ−ナ部材は、一般的に金属製であり、金属同士の接触によって、気になる異音を生じるおそれが多分にあった。
【0006】
したがって、この発明は、ユニット化したばね装置自体の組立て性をさらに向上させることができる技術を提供することを目的とする。
また、この発明は、ユニット化したばね装置がスム−ズで安定した作動をするとともに、接触音の発生をできるだけなくすことができる技術を提供することを他の目的とする。
この発明のその他の目的は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明では、ばねを支持する一対のリテ−ナ部材を軸線方向に一直線上に並べ、それら両リテ−ナ部材に対し、その軸線方向に沿う押付け力を加えることにより、両者の組付けを行うという考え方を採る。それにより、ばね装置の各構成要素をワンタッチで組み付けることができる。その考え方に基づくばね装置の基本的な特徴は、次の各点にある。
(A)一対のリテ−ナ部材は、ともに内部中空な筒形であり、径の小さな第1のリテ−ナ部材の外周に径の大きな第2のリテ−ナ部材がはまり合う構成である
(B)第1のリテ−ナ部材は、一端に外向きの第1爪部、また、第2のリテ−ナ部材は、一端に内向きの第2爪部をそれぞれもち、それら第1爪部および第2爪部は、第2爪部が第1爪部を乗り越えて第1および第2のリテ−ナ部材を軸線方向に結合可能であり、結合した形態では、それら第1爪部および第2爪部が互いの抜止めとして機能する
(C)第1のリテ−ナ部材は、軸線方向に走り少なくとも第1爪部のある側を分断するスリットを含む
【0008】
特徴Aの一対のリテ−ナ部材のはまり合い構成は、ばねの伸縮に伴って、それらリテ−ナ部材が軸線方向の長さを伸縮可能にするための必要条件である。そして、特徴Aにおいては、メス形の第2のリテ−ナ部材だけでなく、オス形の第1のリテ−ナ部材をも内部中空な筒形にしている。これは、両リテ−ナ部材の結合を容易に行うという点からも、ばね装置が占める容積を小さくする点(容積が小さくなれば、ばね装置が配置される液圧室の容積を大きくすることができる)からも有意義である。前者の結合の容易性の観点からすれば、特徴Aは、他の特徴BおよびCと相俟って、径の小さな第1のリテ−ナ部材側を弾性変形させることにより、第1および第2の両リテ−ナ部材を互いに結合させる。
【0009】
また、特徴Bは、両リテ−ナ部材が端部に所定の爪部をそれぞれもつことを明らかにしている。各リテ−ナ部材における第1爪部、第2爪部は、両リテ−ナ部材が軸線方向の長さを小さくする方向への動きを許すのに対し、結合した後では、両爪部は、互いの抜止めとなり、両リテ−ナ部材が軸線方向に外れることを防ぎ、したがって、結合した両リテ−ナ部材の軸線方向の最大長さを規制する。
【0010】
さらに、特徴Cは、第1および第2のリテ−ナ部材を結合するとき、径が小さく、内周側に位置する第1のリテ−ナ部材の方を弾性変形させるための必要条件である。少なくとも内周側のリテ−ナ部材の方を中心に弾性変形させることは、外周側のリテ−ナ部材をほとんど変形させることなく両リテ−ナ部材を結合させることができる点から有意義である。なぜなら、ばねのすぐ内周に位置する第2のリテ−ナ部材が、ばね装置の作動時、不用に変形してばねに接触することを未然に防ぐことができるからである。
【0011】
第1および第2の両リテ−ナ部材における第1爪部および第2爪部については、たとえば断面形状が半円、あるいは山形などの隆起したいろいろな形状にすることができるが、好ましくは、それら第1爪部および第2爪部の少なくとも一方の断面形状をくさび形にすると良い。そうすれば、両リテ−ナ部材を軸線方向に押し付けることにより、両リテ−ナ部材を互いに結合するとき、くさび形の爪部が、くさびによる倍力作用で変形しやすい内周側のリテ−ナ部材を迅速に変形させ、ワンタッチで結合を行うことができる。さらに好ましくは、第1爪部および第2爪部の両方をくさび形にすると良い。なお、各爪部については、周方向の全体にわたって連続的に(連続的といっても、第1のリテ−ナ部材は、本来的にスリットで分断されている。そのため、第1のリテ−ナ部材に限れば、スリットを除くところが連続的であることである)設けることもできるし、周方向の複数の個所に間隔をおいて飛び飛びに設けることもできる。
【0012】
内周側に位置する第1のリテ−ナ部材がより容易に弾性変形するようにするため、その第1のリテ−ナ部材の構成あるいは構造に工夫をこらすこともできる。たとえば、第1爪部がある側の肉厚に比べて反対側の肉厚の方を薄くしたり、また、第1爪部のある側を分断するスリットを、第1のリテ−ナ部材の軸線方向の中央位置よりも端部のばね受け部分により近いところ(たとえば、第1のリテ−ナ部材の根元付近)まで延ばすようにすることが有効である。
【0013】
他方、外周側に位置する第2のリテ−ナ部材については、好ましくは、第2爪部のある側の外径に比べて反対側の外径の方を少し大きくするのが良い。そうすれば、それに対しばねを組み付けることが容易になるし、ばねが伸縮する際、ばねとリテ−ナ部材が不用に接触することを避けることもできる。また、一対のリテ−ナ部材が軸線方向に伸縮するとき、端部の第1爪部あるいは第2爪部の少なくとも一方によって、対応するリテ−ナ部材の周壁をガイドさせることができる。
【0014】
一対のリテ−ナ部材については、接触音を最小限に抑えるため、ともに樹脂材料で構成するのが良い。その場合、樹脂の強度を補強するために、樹脂材料の中にガラス繊維などの補強繊維を混入するのがより好ましい。
【0015】
この発明のばね装置は、車両用の各種のマスタシリンダの内部部品として有効に適用することができる。マスタシリンダとしては、一般的なタンデム形式のものだけでなく、シングル形式のものにも適用することができる。また、タンデム形式のものに適用するとき、プライマリ側あるいはセカンダリ側の両方に適用することもできるし、その一方に適用することもできる。さらに、この発明は、リリ−フポ−トをもつプランジャタイプあるいはコンベンショナルタイプに適用することにより、特に、マスタシリンダを小型化することができるが、センタバルブタイプのものにも適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明によるばね装置を組み込んだタンデム形式のマスタシリンダの軸線に沿う断面図である。
【図2】この発明によるばね装置のマスタシリンダへの組込み前の形態を示す図である。
【図3】第2のリテ−ナ部材の正面からの断面図である。
【図4】図3の第2のリテ−ナ部材を図の右側から見た側面図である。
【図5】第1のリテ−ナ部材の正面からの断面図である。
【図6】図5の第1のリテ−ナ部材を図の右側から見た側面図である。
【符号の説明】
【0017】
10 マスタシリンダ
20 シリンダ本体
22 シリンダ孔
51,52 ばね装置
60 第1のリテ−ナ部材
70 第2のリテ−ナ部材
80 ばね
600,700 筒形の本体
602 スリット
610 第1爪部
630,730 ばね受け部分
720 第2爪部
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明を適用したタンデム形式のプランジャ型マスタシリンダの一実施例である。タンデム形式のマスタシリンダ10は、互いに独立なプライマリ部分101と、セカンダリ部分102とを備える。図に示す実施例では、それらの両部分101,102にこの発明によるばね装置を組み入れている。
【0019】
まず、図1を参照しながら、タンデム形式のマスタシリンダ10の全体的な構成を明らかにする。マスタシリンダ10の外郭は、アルミニウム合金からなるシリンダ本体20である。シリンダ本体20は、上部にリザーバ(図示しない)を支持するボス部201、内部には、口が開いた第1端部20hから口が閉じた第2端部20bまで軸線方向に伸びるシリンダ孔22をもつ。ボス部201は、作動液を貯えるリザ−バを支持する部分であり、その内側にリザ−バのニップルをはめ込み接続する。
【0020】
シリンダ本体20のシリンダ孔22の内部には、奥の方にセカンダリピストン32が入り込み、また、シリンダ孔22の開口の近くにプライマリピストン31がある。セカンダリピストン32およびプライマリピストン31は、シリンダ孔22の軸線に沿って一直線上に位置する。プライマリピストン31は、一部がシリンダ孔22の中に入り、残りの部分はシリンダ孔22の開口から外に突き出ている。この突き出た側は、図示しないブ−スタの内部に入り込み、ブ−スタに連結されている。周知のように、ブ−スタは、ブレ−キペダルに加わる踏力を倍力し、倍力した力をマスタシリンダ10(正確には、マスタシリンダ10のプライマリピストン31)に加える装置である。
【0021】
セカンダリピストン32およびプライマリピストン31は、軸線方向の両側にそれぞれ凹部321,322;311,312をもつ。セカンダリピストン32の第2端部20b側の凹部322は、セカンダリ側のばね装置52の一部を受け入れる空間となり、反対側の第1端部20h側の凹部321は、プライマリ側のばね装置51の一部を受け入れる空間となる。また、プライマリピストン31の第2端部20b側の凹部312は、同様に、プライマリ側のばね装置51の一部を受け入れる空間となるが、プライマリピストン31の第1端部20h側の凹部311は、ばね装置とは別のブ−スタの出力ロッド(図示しない)を受け入れる空間となる。
【0022】
したがって、シリンダ本体20のシリンダ孔22の内部には、孔の奥の方から開口に向かって、セカンダリ側のばね装置52、セカンダリピストン32、プライマリ側のばね装置51、プライマリピストン31が軸線方向に沿って順次一直線上に位置する。そして、各ピストン32,31によって区画される2つの室、つまり、ばね装置52のある部分42と、ばね装置51のある部分41とが、それぞれ液圧室となる。ここで、セカンダリ側およびプライマリ側の両ばね装置52,51は、プライマリ側のばね力に比べて、セカンダリ側のばね力の方が小さい、という違いはあるが、装置自体の構成は同様である。したがって、両ばね装置52,51の各構成要素について、以下においては、同一の符号を付けて説明する。
【0023】
図1が、ばね装置52(51)をシリンダ本体20のシリンダ孔22の中に組み込んだ状態を示しているのに対し、図2は、組込み前のばね装置52(51)を示している。ばね装置52(51)は、ともに樹脂成形品である一対のリテ−ナ部材60,70と、それらリテ−ナ部材に支持されるばね(圧縮コイルスプリング)80とから構成される。両リテ−ナ部材60,70は、内部中空な筒形であり、径の小さな方のリテ−ナ部材(第1のリテ−ナ部材)60の外周に、径の大きなリテ−ナ部材(第2のリテ−ナ部材)70がはまり合う構成である。したがって、第1のリテ−ナ部材60がオス、第2のリテ−ナ部材70がメスとして互いに結合する関係である。
【0024】
筒形である第1および第2のリテ−ナ部材60,70は、筒形の本体600,700の一端に爪部610,720、また、爪部610,720とは反対側の端部にばね受け部分630,730をそれぞれもつ。ばね受け部分630,730は、ばね80の端部を支持するという役割から、ともに外向きのフランジ状である。それに対し、爪部610,720は、第1および第2のリテ−ナ部材60,70がオス、メスの関係にあることから、第1のリテ−ナ部材60側の第1爪部610は、径方向外向きであるのに対し、第2のリテ−ナ部材70側の第2爪部720は、径方向内向きである。第1爪部610と第2爪部720とは、互いに互いの抜止めとなり、ばね80の最大長さを規制する。
【0025】
ばね装置52(51)は、シリンダ本体20のシリンダ孔22の外にあるとき(つまり、シリンダ孔22の中に組み込む前)には、図2に示すように、ばね受け部分630,730の間に支持されるばね80の力により、第1爪部610と第2爪部720とが当たっている。それにより、ばね装置52(51)は、一つのユニットとして単独で取り扱うことができる。そのような組込み前のばね装置52(51)においては、爪部610,720が当たっていることから、ばね80の力が爪部610,720を通して各リテ−ナ部材60,70に加わる。そのため、各リテ−ナ部材60,70には、それを考慮した材料強度が求められる。その観点から、各リテ−ナ部材60,70の材料としては、補強繊維入りの樹脂、たとえば、ガラス繊維30%入りのポリアミド樹脂(商品名ナイロン66)が好ましい。しかし、図1に示す組込み後のばね装置52(51)においては、ばね80に予付加が加わり、第1爪部610と第2爪部720とは互いに軸線方向に離れている。したがって、ばね80の力は、ばね受け部分630,730にかかるだけであり、各リテ−ナ部材60,70の筒形の本体600,700にはかからない。だから、各リテ−ナ部材60,70の材料強度を必要以上に高めることはない。
【0026】
図3が、メス形の第2のリテ−ナ部材70の正面からの断面図であり、図4は、図3の第2のリテ−ナ部材70を図の右側から見た側面図である。第2のリテ−ナ部材70の本体700は、軸線方向の両端部が開口し、また、本体700に設けた丸い孔702および細長い孔703が、本体700の内外を連通している。第2爪部720に近い丸い孔702は、周方向の2か所にあり、また、ばね受け部分730の側の細長い孔703は、図4から分かるように、周方向の3か所である。本体700自体の肉厚は、第2爪部720のある側がわずかに厚目ではあるが、ばね受け部分730のある側との厚さのちがいは小さい。したがって、本体700は、どちらかといえば軸線方向の全体にわたりほぼ均一な厚さ(たとえば、0.5〜0.65mm)をもつ、ということができる。ここで、本体700の一端の第2爪部720の形状に注目されたい。第2爪部720は、高さが1mm強の大きさで、断面くさび形(つまり、V字の形)である。断面がくさび形の第2爪部720の一方の面720vは、本体700の軸線に直交し、他方の面720tは、一方の面720vに対して30〜40°ほど傾斜している。
【0027】
また、図5は、オス形の第1のリテ−ナ部材60の正面からの断面図であり、図6は、図5の第1のリテ−ナ部材60を図の右側から見た側面図である。第1のリテ−ナ部材60の本体600も、軸線方向の両端部が開口している。本体600の外径は、第2のリテ−ナ部材70の本体700の外径に比べて小さく、本体700の内周に本体600が遊びばめ状態にはまり合うようになっている。第1のリテ−ナ部材60の本体600には、第1爪部610のある側からばね受け部分630のある側の根元近くにまで至るスリット602がある。図6が示すように、スリット602は、周方向に180°離れた2か所にある。第1のリテ−ナ部材60の本体600の肉厚は、第2のリテ−ナ部材70の本体700の肉厚に比べて全体的に厚く、しかも、第1爪部610のある側の方がばね受け部分630のある側に比べて厚くなっている。第1のリテ−ナ部材60の本体600の一端の第1爪部610は、外向きではあるが、その高さおよび形状は、第2爪部720と同様である。すなわち、第1爪部610は、高さが1mm強の大きさで、断面くさび形(つまり、V字の形)である。そして、断面がくさび形の第1爪部610の一方の面610vは、本体600の軸線に直交し、他方の面610tは、一方の面610vに対して30〜40°ほど傾斜している。なお、スリット602から周方向に90°離れたところの凹み605は、樹脂成形のゲ−トとなる部分である。
【0028】
ここで、図6を参照しながら、本体600の第1爪部610のある側の形に注目する。本体600の端部を軸線方向から見るとき、2つのスリット602が一直線上に位置し、しかも、それらスリット602のある部分における第1リテ−ナ部材60の外径が、スリット602のない他の部分の外径よりも小さくなっている。外径を小さくするため、端部の外周部分を一部カットした理由は、次のとおりである。オス形の第1のリテ−ナ部材60と、メス形の第2のリテ−ナ部材70とを組み付けるとき、互いの第1爪部610と第2爪部720とを向かい合わせるようにして、両リテ−ナ部材60,70に対し軸線方向の力を与える。それにより、両爪部610,720を通して加わる力により、スリット602があり変形しやすい第1のリテ−ナ部材60の本体600がスリット602の開口側を狭めるように弾性変形する。その変形により、本体600の端部は、スリット602の開口に面する側の外径を大きくする傾向がある。たとえば、本体600の端部を一部カットすることなく円形状にしたままでは、変形により円が楕円形に変わり、第1爪部610が第2爪部720の内周にスム−ズにはまり合わないおそれがある。本体600の端部の外周部分の一部をカットした理由は、そのおそれをなくすためからである。第1および第2の両リテ−ナ部材60,70を組み付けるとき、一方のリテ−ナ部材(通常は、径の大きな第2のリテ−ナ部材70)にばね80を組み付け、前記のような軸線方向の力を与えることにより、ワンタッチで両リテ−ナ部材60,70を結合し組み付けることができる。というのは、軸線方向の力は、くさび形の第1爪部610および第2爪部720のくさび効果により、変形しやすい第1のリテ−ナ部材60の本体600を容易に変形させることができるからである。また、一度組み付けを終えれば、第1爪部610および第2爪部720が互いの抜止めとなるので、ばね装置51(52)は、図2に示すようなユニットとして安定した形態を保つ。
【0029】
さらに、マスタシリンダ10の内部部品としてのばね装置51(52)は、マスタシリンダ10の作動時、第1爪部610あるいは/および第2爪部720が、対応するリテ−ナ部材70,60の本体700,600の周壁をガイドするので、ばね80の伸縮をスム−ズに静かに行う。その点、第1および第2の両リテ−ナ部材60,70が樹脂材料であるので、接触に伴う音は小さく、それが気になることもない。また、結合する2つのリテ−ナ部材60,70を同じ樹脂材料としているので、温度、湿度等によるリテ−ナ部材60,70の寸法変化に起因する不具合を未然に回避することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向の長さを伸縮可能に結合する一対のリテ−ナ部材と、それらリテ−ナ部材に支持されるばねとを備え、それを単独で取扱い可能にユニット化したばね装置であって、次の各特徴をもつばね装置。
(A)前記一対のリテ−ナ部材は、ともに内部中空な筒形であり、径の小さな第1のリテ−ナ部材の外周に径の大きな第2のリテ−ナ部材がはまり合う構成である
(B)前記第1のリテ−ナ部材は、一端に外向きの第1爪部、また、前記第2のリテ−ナ部材は、一端に内向きの第2爪部をそれぞれもち、それら第1爪部および第2爪部は、第2爪部が第1爪部を乗り越えて第1および第2のリテ−ナ部材を軸線方向に結合可能であり、結合した形態では、それら第1爪部および第2爪部が互いの拔止めとして機能する
(C)前記第1のリテ−ナ部材は、軸線方向に走り少なくとも前記第1爪部のある側を分断するスリットを含む
【請求項2】
前記第1爪部および第2爪部の少なくとも一方は、断面形状がくさび形である、請求項1のばね装置。
【請求項3】
前記第1のリテ−ナ部材は、前記第1爪部がある側の肉厚に比べて反対側の肉厚の方が薄い、請求項1のばね装置。
【請求項4】
前記第2のリテ−ナ部材は、前記第2爪部のある側の外径に比べて反対側の外径の方が大きい、請求項1のばね装置。
【請求項5】
前記一対のリテ−ナ部材が軸線方向に伸縮するとき、前記第1爪部あるいは第2爪部の少なくとも一方が、対応するリテ−ナ部材の周壁をガイドする、請求項1のばね装置。
【請求項6】
前記第1および第2のリテ−ナ部材は、ともに爪部のある側とは反対側に、前記ばねの端を支持するばね受け部分を含む、請求項1のばね装置。
【請求項7】
前記第1のリテ−ナ部材におけるスリットは、一端が前記第1爪部のある側を分断する一方、反対側の他端は、第1のリテ−ナ部材の軸線方向の中央位置よりも前記ばね受け部分により近いところに位置する、請求項6のばね装置。
【請求項8】
前記第1のリテ−ナ部材の前記第1爪部のある側を軸線方向から見るとき、2つの前記スリットが径方向に一直線上に位置し、しかも、それらスリットのある部分における第1のリテ−ナ部材の外径が、スリットのない他の部分の外径よりも小さくなっている、請求項1のばね装置。
【請求項9】
前記第1および第2のリテ−ナ部材は、ともに樹脂材料からなる、請求項1のばね装置。
【請求項10】
シリンダ孔をもつシリンダ本体と、そのシリンダ本体のシリンダ孔の中に液圧室を区画するピストンと、そのピストンにばね力を与えるばね装置とを備えるマスタシリンダにおいて、
前記ばね装置が、軸線方向の長さを伸縮可能に結合する一対のリテ−ナ部材と、それらリテ−ナ部材に支持されるばねとを備え、そのばね装置を単独で取扱い可能にユニット化されており、さらに、そのばね装置が、次の各特徴をもつ、マスタシリンダ。
(A)前記一対のリテ−ナ部材は、ともに内部中空な筒形であり、径の小さな第1のリテ−ナ部材の外周に径の大きな第2のリテ−ナ部材がはまり合う構成である
(B)前記第1のリテ−ナ部材は、一端に外向きの第1爪部、また、前記第2のリテ−ナ部材は、一端に内向きの第2爪部をそれぞれもち、それら第1爪部および第2爪部は、第2爪部が第1爪部を乗り越えて第1および第2のリテ−ナ部材を軸線方向に結合可能であり、結合した形態では、それら第1爪部および第2爪部が互いの抜止めとして機能する
(C)前記第1のリテ−ナ部材は、軸線方向に走り少なくとも前記第1爪部のある側を分断するスリットを含む
【請求項11】
前記第1爪部および第2爪部の少なくとも一方は、断面形状がくさび形である、請求項10のマスタシリンダ。
【請求項12】
前記第1および第2のリテ−ナ部材は、ともに樹脂材料からなる、請求項10のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/001306
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511014(P2005−511014)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008731
【国際出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】