説明

ラインヘッドおよびインクジェット記録装置

【課題】ノズル基板同士の位置ずれを防止する。
【解決手段】複数の記録ヘッドが千鳥状に配列されたラインヘッドにおいて、
前記記録ヘッドは、複数のノズル30aが列状に形成されたノズル基板30と、ノズル30aに連通する圧力室を有する圧力室基板と、ノズル基板30と前記圧力室基板との間に介在するガラス基板32とを有し、ノズル基板30、ガラス基板32および前記圧力室基板がこの順に積層され、ノズル基板30およびガラス基板32が矩形状を呈しており、ガラス基板32がノズル基板30より幅広でかつその4隅の角部が切り欠かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラインヘッドおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録装置における画像形成において、画像の高精細化,記録速度の高速化は強く要望されている。この問題を解決する方法として、記録ヘッドを千鳥状に配列し、紙送りのみで描画をおこなう1パス描画方式(ラインヘッド方式)が知られている。記録ヘッドは通常、ノズル基板,ガラス基板,圧力室基板などが順次積層され製造されるが、ラインヘッド方式では、記録ヘッドを列状に配列するという構成上、記録ヘッド(ノズル基板)間の位置ずれが大きな問題となる。たとえば、特許文献1の技術では、ノズル基板に嵌合部(7,8)を形成して嵌合部同士を当接させ、これを防止している(段落0018〜0020,図3など参照)。
【0003】
近年では、ノズル基板,ガラス基板,圧力室基板を陽極接合により強固に接合することがあり(特許文献2参照)、この場合、特許文献1のように単純にノズル基板同士を嵌合させるといった技術では、対応しきれなくなってきている。
すなわち、ノズル基板,圧力室基板はシリコン(Si)から構成される。特許文献1のようにノズル基板に嵌合部(切欠き部)を設けることは、シリコン材料の裁断にコストがかかるし、特にノズル基板はウエハ状のシリコンからダイシングにより得られるため、ダイシング後のチップ状のシリコンをさらに裁断するのはシリコン材料を無駄にすることになる。特許文献2のような陽極接合にあたっては、電極を接続するため、ガラス基板をノズル基板や圧力室基板から露出させる必要がある。その方法として、ノズル基板や圧力室基板に切り欠きを形成する方法やガラス基板自体のサイズを大きくする方法がある。前者の方法は、上記のとおり各基板を構成するシリコンの裁断にコストがかかり材料の無駄を招くため、後者の方法が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−260366号公報
【特許文献2】特開2008−000941号公報(段落0065,図8など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この場合において、図7に示すとおり、記録ヘッド100を千鳥状に配列したとき、ノズル基板102から露出したガラス基板104であって電極接続用に露出した部分同士が互いに当接するため、ガラス基板104同士で位置ずれが発生すると(図7中矢印参照)、必然的にノズル基板102同士でも位置ずれが発生する。
したがって、本発明の主な目的は、記録ヘッドがノズル基板,ガラス基板,圧力室基板を陽極接合して製造されるラインヘッドであって、ノズル基板同士の位置ずれを防止することができるラインヘッドおよびこれを備えるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
複数の記録ヘッドが千鳥状に配列されたラインヘッドにおいて、
前記記録ヘッドは、
複数のノズルが列状に形成されたノズル基板と、
前記ノズルに連通する圧力室を有する圧力室基板と、
前記ノズル基板と前記圧力室基板との間に介在するガラス基板とを有し、
前記ノズル基板、前記ガラス基板および前記圧力室基板がこの順に積層され、
前記ノズル基板および前記ガラス基板が矩形状を呈しており、
前記ガラス基板が前記ノズル基板より幅広でかつその4隅の角部が切り欠かれていることを特徴とするラインヘッドが提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
記録媒体を搬送する搬送ローラと、
前記記録媒体を支持するプラテンと、
複数の記録ヘッドが千鳥状に配列されたラインヘッドとを備え、
前記記録ヘッドは、
複数のノズルが列状に形成されたノズル基板と、
前記ノズルに連通する圧力室を有する圧力室基板と、
前記ノズル基板と前記圧力室基板との間に介在するガラス基板とを有し、
前記ノズル基板、前記ガラス基板および前記圧力室基板がこの順に積層され、
前記ノズル基板および前記ガラス基板が矩形状を呈しており、
前記ガラス基板が前記ノズル基板より幅広でかつその4隅の角部が切り欠かれていることを特徴とするインクジェット記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラス基板がノズル基板より幅広でその4隅の角部が切り欠かれているから、記録ヘッドを千鳥状に配列した状態において、ノズル基板の一部であってガラス基板の切欠き部に対応する部位同士を互いに当接することができ、ノズル基板同士の位置ずれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】記録ヘッド同士の配列状態を概略的に説明するための平面図である。
【図3】記録ヘッドの外観を概略的に示す斜視図である。
【図4】記録ヘッドの内部構造を概略的に示す断面図である。
【図5】ノズル基板とガラス基板との概略的な構成を示す平面図である。
【図6】記録ヘッド同士の当接(位置決め)状態を概略的に説明するための平面図である。
【図7】従来の問題点を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0011】
図1に示す通り、インクジェット記録装置2は記録媒体4を支持するプラテン6を有している。プラテン6の前後には記録媒体4を搬送するための搬送ローラ8が設けられている。搬送ローラ8が駆動されると、記録媒体4がプラテン6に支持された状態で後方から前方に搬送される。
下記では、記録媒体4の搬送方向を「Y方向」といい、当該搬送方向に直交する方向を「X方向」という。Y方向,X方向は水平面上の方向である。
【0012】
プラテン6の上方には、Y方向の上流側から下流側にかけてラインヘッド10,12,14,16が設けられている。各ラインヘッド10,12,14,16はX方向に延在しており、Y,M,C,Kの各プロセスカラーのインクを記録媒体4に向けて吐出するようになっている。
【0013】
ラインヘッド10を下方から平面視すると、図2に示すとおり、5つの記録ヘッド20がX方向に沿って千鳥状に配列されている。
図3に示すとおり、記録ヘッド20は、外観上、直方体状の筐体22を有しており、筐体22にノズル基板30が設けられている。筐体22の前後の側部にはフランジ24が一体に形成されている。図2中の拡大部分(断面)に示すとおり、フランジ24には凹部24aが形成され、ネジ26によりフランジ24がラインヘッド10の一部である支持体28に固定されている。ネジ26の頭部は凹部24aに埋没している。
なお、他のラインヘッド12,14,16もラインヘッド10と同様の構成を有している。
【0014】
図4に示すとおり、記録ヘッド20は大まかにはノズル基板30,ガラス基板32,圧力室層34,第1接着層36,配線層38および第2接着層40の6つの部材が上下方向に積層され、その上にインクタンク42が設けられている。
下記では、これら部材の積層方向を「Z方向」という。Z方向はX方向,Y方向と直交している。
【0015】
ノズル基板30はシリコン製の基板であり、最下層に位置している。ノズル基板30には複数のノズル30aが形成されている。ノズル30aは、図2,図3に示すとおり、複数列にわたりX方向に沿って延在している。
【0016】
ガラス基板32はガラス製の基板であり、図4に示すとおり、ノズル基板30の上面に積層され、ノズル基板30と陽極接合されている。ガラス基板32には、ノズル基板30のノズル30aと連通する貫通孔32aがZ方向に形成されている。
【0017】
圧力室層34は、圧力室基板34aと振動板34bとから構成されている。
圧力室基板34aはシリコン製の基板であり、ガラス基板32の上面に積層され、ガラス基板32と陽極接合されている。
圧力室基板34aには、ノズル30aから吐出されるインクに吐出圧力を付与する圧力室34cが形成されている。圧力室34cは圧力室基板34aをZ方向へ貫通するように形成されている。圧力室34cは、貫通孔32aおよびノズル30aの上方に設けられ、貫通孔32aおよびノズル30aと連通している。
振動板34bは、圧力室34cの開口を覆うように圧力室基板34aの上面に積層され、接合されている。すなわち、振動板34bは、圧力室34cの上壁部を構成している。振動板34bの表面には酸化膜が形成されている。
圧力室基板34a,振動板34bには貫通孔で構成される流路34dが形成されている。圧力室34cと流路34dとは、ガラス基板32に形成された連通路32bを介して連通している。
【0018】
第1接着層36は振動板34bの上面に積層されている。第1接着層36は振動板34bと配線層38とを接着する感光性樹脂層であるとともに、その内部に空間36aを形成する隔壁層となっている。空間36aは、第1接着層36をZ方向へ貫通するように圧力室34cの上方に形成され、内部に圧電素子50を収容している。
圧電素子50は、圧力室34cとほぼ同一の平面視形状に形成され、振動板34bを挟んで圧力室34cと対向する位置に設けられている。圧電素子50は、振動板34bを変形させるためのPZT(lead zirconium titanate)からなるアクチュエータである。圧電素子42の上面および下面には2つの電極52,54が設けられており、このうち下面側の電極54が振動板34bに接続されている。
第1接着層36には貫通孔で構成される流路36bが形成されている。流路36bは流路32bと連通している。
【0019】
配線層38はシリコン製の基板であるインターポーザ38aを備えている。
インターポーザ38aの下面には2層の酸化ケイ素の絶縁層38b,38cが被覆され、上面にも同じく酸化ケイ素の絶縁層38dが被覆されている。絶縁層38b,38cのうち下方に位置する絶縁層38cが、第1接着層36の上面に積層され、接合されている。
インターポーザ38aにはスルーホール38eがZ方向に形成されており、スルーホール38eには貫通電極38fが挿通されている。貫通電極38fの下端には、水平方向に延在するアルミ基板38gの一端が接続されている。アルミ基板38gの他端には、圧電素子50上面の電極52に設けられたスタッドバンプ56が、空間36a内に露出した半田58を介して接続されている。アルミ基板38gは、インターポーザ38a下面の2層の絶縁層38b,38cによって挟まれて保護されている。貫通電極38fの上端には銅基板38hが接続されている。銅基板38hは水平方向に延在している。
インターポーザ38aおよび絶縁層38b,38c,38dには貫通孔で構成された流路38iが形成されている。流路38iは、インターポーザ38aをZ方向へ貫通するように形成されている。流路38iは流路36bと連通している。
【0020】
第2接着層40は、配線層38の上面に配設された銅基板38hを覆いつつ、インターポーザ38aの絶縁層38dの上面に積層され、接合されている。
第2接着層40は、インクタンク42を接着する感光性樹脂層であるとともに、銅基板38hを保護する保護層となっている。
第2接着層40には、貫通孔で構成された流路40aがZ方向へ形成されている。流路40aは配線層38の流路38iと連通している。
【0021】
以上の構成を具備する記録ヘッド20では、インクタンク42内のインクが各流路40a,38i,36b,34dと連通路32bとを通じて圧力室34cに供給される。この状態で、銅基板38h,貫通電極38f,アルミ基板38g,半田58およびスタッドバンプ56を通じて電極52,54間に電圧が印加されると、電極52,54に挟まれた圧電素子50が振動板34bとともに変形し、圧力室34c内のインクが押し出されてノズル30aから吐出される。
【0022】
ここで、ノズル基板30を平面視した場合、図5(a)に示すとおり、ノズル基板30は矩形状を呈している。他方、ガラス基板32を平面視した場合、図5(b)に示すとおり、ガラス基板32もほぼ矩形状を呈しているものの、4隅の角部が切り欠かれており、ガラス基板32には4つの切欠き部32c〜32fが形成されている。各切欠き部32c〜32f間には凸部32g〜32jが形成されている。
ノズル基板30とガラス基板32との平面形状を比較した場合、ノズル基板30の長さL1はガラス基板32の長さL2と同一となっている。ノズル基板30の幅W1はガラス基板32の幅W2より狭く、凸部32g,32hの幅W3より広くなっている。ガラス基板32中では、切欠き部32c,32dの深さD1が切欠き部32e,32fの深さD2より深くなっている。
以上のノズル基板30とガラス基板32とを積層した場合には、図5(c)に示すとおり、ガラス基板32の凸部32i,32jの一部がノズル基板30から露出している。
【0023】
記録ヘッド20をX方向に千鳥状に配列した状態においては、図6に示すとおり、2つの記録ヘッド20が隣り合う組合せ60では、ノズル基板30同士の側面が領域60aで当接してノズル基板30同士の平行度が保持され、ガラス基板32の凸部32gと凸部32jとが領域60bで当接して記録ヘッド20同士の位置決めがなされるようになっている。他の組合せ62でも、ノズル基板30同士の側面が領域62aで当接してノズル基板30同士の平行度が保持され、ガラス基板32の凸部32gと凸部32iとが領域62bで当接して記録ヘッド20同士の位置決めがなされるようになっている。
【0024】
以上の本実施形態によれば、ガラス基板32の幅W2がノズル基板30の幅W1より広く、ガラス基板32には切欠き部32c〜32fが形成されているから、記録ヘッド20をX方向に千鳥状に配列した状態において、ノズル基板30の各部のうちガラス基板32の切欠き部32c〜32fに対応する部位を互いに直接的に当接させることができ(図6中の領域60a,62a参照)、ノズル基板30同士の位置ずれを防止することができる。そしてその結果として、従来のようにガラス基板32の側面同士を当接させる場合よりも、記録ヘッド20の全体幅W0(図6参照)を狭く抑えることができ、ラインヘッド10,12,14,16における記録ヘッド20の配置スペースをコンパクト化することができる。
【0025】
さらに、本実施形態によれば、ガラス基板32のX方向に沿う一方の側の切欠き部32c,32dと他方の側の切欠き部32e,32fとで深さD1,D2が互いに異なっているから、記録ヘッド20をX方向に千鳥状に配列した状態において、ガラス基板32同士を単に凸部32gと凸部32i,32jとで当接させれば(図6中の領域60b,62b参照)、切欠き部32c〜32f同士を完全に嵌合させるまでもなく、記録ヘッド20のX方向の位置決めを容易におこなうことができる。
【符号の説明】
【0026】
2 インクジェット記録装置
4 記録媒体
6 プラテン
8 搬送ローラ
10,12,14,16 ラインヘッド
20 記録ヘッド
22 筐体
24 フランジ
26 ネジ
28 支持体
30 ノズル基板
30a ノズル
32 ガラス基板
32a 貫通孔
32b 連通路
32c〜32f 切欠き部
32g〜32j 凸部
34 圧力室層
34a 圧力室基板
34b 振動板
34c 圧力室
34d 流路
36 第1接着層
36a 空間
36b 流路
38 配線層
38a インターポーザ
38b,38c,38d 絶縁層
38e スルーホール
38f 貫通電極
38g アルミ基板
38h 銅基板
38i 流路
40 第2接着層
40a 流路
42 インクタンク
50 圧電素子
52,54 電極
56 スタッドバンプ
58 半田
60 組合せ
60a,60b 領域
62 組合せ
62a,62b 領域
100 記録ヘッド
102 ノズル基板
104 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録ヘッドが千鳥状に配列されたラインヘッドにおいて、
前記記録ヘッドは、
複数のノズルが列状に形成されたノズル基板と、
前記ノズルに連通する圧力室を有する圧力室基板と、
前記ノズル基板と前記圧力室基板との間に介在するガラス基板とを有し、
前記ノズル基板、前記ガラス基板および前記圧力室基板がこの順に積層され、
前記ノズル基板および前記ガラス基板が矩形状を呈しており、
前記ガラス基板が前記ノズル基板より幅広でかつその4隅の角部が切り欠かれていることを特徴とするラインヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のラインヘッドにおいて、
前記ガラス基板の4隅の角部の切欠き部のうち、前記ノズルの形成方向に沿う前側の切欠き部と後側の切欠き部とで深さが異なることを特徴とするラインヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラインヘッドにおいて、
隣り合う前記記録ヘッドは、前記ノズル基板同士が前記ガラス基板の角部の切欠き部に対応する領域で当接していることを特徴とするラインヘッド。
【請求項4】
記録媒体を搬送する搬送ローラと、
前記記録媒体を支持するプラテンと、
複数の記録ヘッドが千鳥状に配列されたラインヘッドとを備え、
前記記録ヘッドは、
複数のノズルが列状に形成されたノズル基板と、
前記ノズルに連通する圧力室を有する圧力室基板と、
前記ノズル基板と前記圧力室基板との間に介在するガラス基板とを有し、
前記ノズル基板、前記ガラス基板および前記圧力室基板がこの順に積層され、
前記ノズル基板および前記ガラス基板が矩形状を呈しており、
前記ガラス基板が前記ノズル基板より幅広でかつその4隅の角部が切り欠かれていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット記録装置において、
前記ガラス基板の4隅の角部の切欠き部のうち、前記ノズルの形成方向に沿う前側の切欠き部と後側の切欠き部とで深さが異なることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のインクジェット記録装置において、
隣り合う前記記録ヘッドは、前記ノズル基板同士が前記ガラス基板の角部の切欠き部に対応する領域で当接していることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−6150(P2012−6150A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141251(P2010−141251)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】