説明

ラクトフェリン素材組成物

本発明は、水の存在下及び胃液中での安定性、さらには水への分散性が改善されたラクトフェリン含有素材組成物、特に、粒径の小さいラクトフェリン粒子を含有する素材組成物、ならびにこれを含む医薬、食品及び飼料に関する。 ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなるラクトフェリン素材組成物、及び脂質被膜の表面にさらに親水性被膜を有するラクトフェリン素材組成物、ならびにこれらの製造方法及びこれらを含む医薬、食品及び飼料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、食品、飼料などに使用できるラクトフェリン素材組成物及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、水の存在下及び胃液中での安定性、さらには水への分散性を高めたラクトフェリン素材組成物、その製造方法、及びこの素材組成物を使用した医薬、食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトフェリンは、主に哺乳動物の乳汁中に存在し、好中球、涙、唾液、鼻汁、胆汁、精液などにも見出されている、分子量約80,000の糖タンパク質である。ラクトフェリンは、鉄を結合することから、トランスフェリンファミリーに属する。ラクトフェリンの生理活性としては、抗菌作用、鉄吸収制御作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用などが知られている。さらに、最近、ラクトフェリンが脂質代謝改善作用や鎮痛作用を有することも報告されている。このように、ラクトフェリンは、多様な機能を示す多機能生理活性タンパク質であり、健康の回復又は増進のため、医薬品や食品などの用途に使用されることが期待されており、ラクトフェリンを含む食品は既に市販されている。
【0003】
現在までに、食品などに使用されているラクトフェリンは、主に乳又は乳製品から分離され、スプレードライ又は凍結乾燥された粉末である。乾燥粉末状態では、ラクトフェリンは常温で1年から2年程度安定である。
【0004】
しかし、ラクトフェリンは、水に溶解した状態では不安定であるため、水が存在する状態では長期間の保存ができない。ラクトフェリンを水が共存する状態で医薬品、食品又は飼料などに用いると、保存中にその立体構造が崩れることによる変性、あるいは共存する物質と結合して凝集することによる変性などが起こり、ラクトフェリンはその生理活性を喪失する。したがって、ラクトフェリンを医薬、食品、飼料、ペットフードなどに使用する場合、数ヶ月以上の長期保存が可能なものについては、ラクトフェリンをそのまま粉末で使用する方法か、ラクトフェリン粉末に賦形剤などを加えて乾燥粉末状態で製剤化した錠剤として使用する方法に限定されていた。
【0005】
また、ラクトフェリンは、経口的に摂取した場合、胃液中に存在する酸性プロテアーゼのペプシンによる加水分解を受け、ペプチドに分解されるため、ラクトフェリン分子としてはほとんど腸管まで到達することができない。しかし、ラクトフェリン受容体は消化管では小腸粘膜に存在することが知られており、また、最近は、ラクトフェリンが腸管上皮細胞に取り込まれて核内の遺伝子発現に関与し、炎症性サイトカインの発現を制御していることが報告されている。そのため、ラクトフェリンの持つ生理活性を発揮させるには、ラクトフェリンを胃液中での加水分解を受けない状態で腸管まで到達させることが必要である。
【0006】
以上の観点から、ラクトフェリン粉末に賦形剤などを加え、水を使用せずに乾燥粉末状態で加圧打錠した素錠に腸溶性フィルムをコーティングした腸溶性ラクトフェリン錠が健康補助食品として販売されている。
【0007】
しかし、水の存在する状態において、ラクトフェリンを医薬品、食品又は飼料などの用途に使用しても、保存安定性が良好であり、また、胃液中では溶解せずペプシンによる分解を受けない安定なラクトフェリン素材組成物、さらには水への良好な分散性をも有するラクトフェリン組成物、及びそれを用いた医薬品、食品、飼料などは現在まで知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開2002−161050
【特許文献2】特開2002−322088
【特許文献3】特開2003−89629
【特許文献4】特開2003−137808
【特許文献5】特開2003−137809
【非特許文献1】食品新素材有効利用技術シリーズNo.6「ラクトフェリン」、(社)菓子総合技術センター発行、平成12年3月
【発明の開示】
【0009】
本発明は、水の存在下及び胃液中での安定性が改善されたラクトフェリン含有素材組成物、特に、粒径の小さいラクトフェリン粒子を含有する素材組成物、さらには、水への良好な分散性をも併せ持つラクトフェリン素材組成物を提供することを目的とする。本発明は、さらに、このようなラクトフェリン素材組成物を含む医薬、食品及び飼料を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意研究した結果、ラクトフェリン粒子からなる核を、脂質を含む被膜材でコーティングすることにより、水の存在下及び胃液中でのラクトフェリンの安定性が顕著に増大し、しかも腸においてはラクトフェリンが容易に溶出して充分に生理活性を発揮することを見出し、さらに、ラクトフェリン粒子からなる核を、脂質を含む被膜材でコーティングし、さらにその上を親水性の被膜材でコーティングすることにより、上記の全ての利点に加えて水への分散性が顕著に増大することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなるラクトフェリン素材組成物を提供する。本発明のある態様においては、ラクトフェリン素材組成物の脂質被膜は、脂質を含む被膜材(脂質被膜材)を、加熱融解された状態でラクトフェリン粒子を主成分とする核に付着させることによって形成されている。
【0012】
ある態様においては、本発明のラクトフェリン素材組成物において、ラクトフェリンの含有量は、素材組成物の全重量を基準として10重量%〜99重量%であり、さらには70重量%〜95重量%である。
【0013】
本発明は、さらに、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と、その表面を被覆する脂質被膜と、脂質被膜の表面を被覆する親水性被膜とからなるラクトフェリン素材組成物を提供する。
【0014】
本発明のある態様においては、ラクトフェリン素材組成物の親水性被膜は、親水性高分子を主成分とする被膜によって形成されている。
【0015】
親水性被膜は、不溶化されていてもよく、この不溶化は、高分子の電解質の反応性又は高分子のゲル化能を利用する1種又は2種以上の方法によって行うことができる。
【0016】
親水性高分子は、酸性高分子、中性高分子、両性高分子、塩基性高分子から選択される1種又は2種以上であり、具体的には、アルギン酸、カゼイン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ジェランガム、カラギーナン、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、ペクチン、納豆菌ガム、ポリグルタミン酸、寒天、デンプン、ヘパリン、ファーセルラン、トラガントガム、ツェイン、シェラックなどの酸性高分子;ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンド種子ガム、カードラン、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの中性高分子;ゼラチンなどの両性高分子;キトサン、ポリリジン、ポリアルギニンなどの塩基性高分子、及びこれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上であることができる。
【0017】
また、別の態様においては、本発明のラクトフェリン素材組成物は、可塑剤をも含む。可塑剤の含有量は、好ましくは、可塑剤が含有される脂質被膜材又は親水性被膜材の全重量を基準として0.1重量%〜10重量%である。好ましくは、可塑剤は、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどの界面活性剤類;グリセリン、糖アルコール(ソルビトール、マルチトールなど)などの多価アルコール類;レシチン、セレブロサイド、ガングリオシドなどの複合脂質類;及び蜜ロウ、シェラック、カルナウバロウなどの天然ワックス類から選択される1種又は2種以上の可塑剤である。
【0018】
また、ある態様においては、本発明のラクトフェリン素材組成物において、核に含まれるラクトフェリン粒子の粒径は、1〜150μmの範囲である。
【0019】
さらに、別の態様において、本発明のラクトフェリン素材組成物は、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類、及びコエンザイムQ10、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの脂溶性又は水溶性の1種又は2種以上の栄養成分、及び/又は鎮痛剤(モルヒネ、コディン、ジヒドロコディン、エチルモルヒネなど)などの薬効成分、及び/又は乳酸菌、ラクトオリゴ糖などの腸内菌叢改善成分を含有する。
【0020】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、粉末、カプセルに封入されている形態、錠剤、顆粒、丸薬、乳化懸濁液又はゲルの形態であることができ、特に、マイクロカプセル、ソフトカプセル又はハードカプセルに封入されていることができる。
【0021】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、特に、賦形剤及びバインダーを含む腸溶性顆粒の形態であることができる。
【0022】
賦形剤としては、豆乳粉末、結晶セルロース、セルロース、バターミルクパウダー、カゼイン、カゼインナトリウム、二酸化ケイ素、酸化チタン、デンプン、酵素変性デキストリン、クラスターデキストリン、難消化性デキストリン、デキストリン、大豆多糖類、乳清タンパク質、卵白タンパク質、乳糖、カルボキシメチルセルロースカルシウム、キトサン及びカルボキシメチルスターチからなる群から選択される1種又は2種以上;バインダーとしては、グアーガム、カゼインナトリウム、キトサン、シェラック、ツェイン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、メチルセルロース、カラギーナン、タマリンドガム及びペクチンからなる群から選択される1種又は2種以上であることができる。
【0023】
また、本発明は、上記のような本発明のラクトフェリン素材組成物を含有する食品、医薬、及び飼料をも提供する。
【0024】
さらに、本発明は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなるラクトフェリン素材組成物の製造方法を提供する。具体的には、本発明は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と脂質被膜材とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物を加熱して脂質を融解させる工程、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程、及び前記核の表面に前記被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法;及び脂質被膜材を加熱して脂質を融解させる工程、前記被膜材とラクトフェリン粒子を主成分とする核とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程、及び前記核の表面に前記被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0025】
本発明の有利な態様においては、脂質を融解させる工程の後、核の表面に脂質被膜材からなる被膜を形成させる工程の前に、融解された脂質を含む混合物又は脂質被膜材を50℃〜80℃、好ましくは55℃〜70℃の温度で5〜30分間、好ましくは10〜20分間維持して滅菌する工程をさらに含む。
【0026】
本発明の方法のある態様においては、ラクトフェリン粒子を主成分とする核又は脂質被膜材に、予め可塑剤が包含されている。また、別の態様においては、ラクトフェリン粒子を主成分とする核又は脂質被膜材に、予め脂溶性又は水溶性の栄養成分及び/又は薬効成分、及び/又は腸内菌叢改善成分が包含されている。
【0027】
さらに、本発明は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と、その表面を被覆する脂質被膜と、脂質被膜の表面を被覆する親水性被膜とからなるラクトフェリン素材組成物の製造方法であって、ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなる脂質被覆粒子を用意する工程、及びこの脂質被覆粒子の表面に親水性被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法を提供する。親水性被膜材は、好ましくは親水性高分子を主成分とする被膜材である。
【0028】
本発明の方法は、親水性被膜を形成させる工程の後に、形成された親水性被膜を不溶化する工程を含むことができる。ある態様においては、親水性被膜を不溶化する工程は、高分子の電解質の反応性又は高分子のゲル化能を利用する1種又は2種以上の方法によって行われる。
【0029】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、水の存在する状態においても保存安定性が良好であり、また、胃液中では溶解せずペプシンによる分解を受けないので、ラクトフェリンが安定であり、生理活性を維持したまま腸管に到達することができる。また、本発明の素材組成物に含有されるラクトフェリンは、腸管においてはリパーゼによって容易に溶出することができるため、効率よく生体に吸収されて生理活性を発揮することができる。さらに、本発明のラクトフェリン素材組成物は、水への分散性が良好であり、食品、飼料、医薬などの製造においてラクトフェリンを素早く均一に含有させる上で好都合に利用することができる。
したがって、本発明のラクトフェリン素材組成物を含有する医薬、食品及び飼料は、乾燥状態のものに限らず、水が存在する形態のものであっても、ラクトフェリンを容易に均一に含有させることができるので製造上も有利であり、また、水の存在下でもラクトフェリンの有効性を長期間維持することができ、その結果、医薬、食品及び飼料自体の保存安定性が著しく改善される。
【0030】
また、本発明の方法は、工程がシンプルで条件制御が容易なため、簡便に行うことができ、被膜形成後の被膜を均一にするための造粒の工程を省略することができる。さらに、本発明の方法によれば、粒子の被膜が薄く、被覆の完全性が高く、組成物中のラクトフェリン含有量が高い、優れたラクトフェリン素材組成物を得ることができる。
【0031】
本発明の方法においては、粒径の小さいラクトフェリン粒子を核として使用することができる。ラクトフェリン粒子の粒径が小さいと、本発明のラクトフェリン素材組成物を食品又は医薬品などの素材として製品化する場合に分散・乳化・混合などの点でさらに有利である。また、ラクトフェリン粒子の粒径が小さいと、脂質被膜を形成させるために脂質を融解させる工程において熱伝導がよくなり、ラクトフェリン粒子に混入しているかもしれない微生物を加熱滅菌する場合の滅菌効率が向上する点でも有利である。
【0032】
さらに、本発明によれば、可塑剤、脂溶性又は水溶性の栄養成分、薬効成分、腸内菌叢改善成分などを必要に応じて核、脂質被膜及び/又は親水性被膜に均一に包含させることができる。このようにすることにより、本発明のラクトフェリン素材組成物を食品又は医薬品の素材として使用する場合にいろいろな機能を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明において、「ラクトフェリン粒子」とは、乾燥粉末の状態のラクトフェリン(鉄イオンの有無又はその含有量、由来する生物種などを問わない)を指す。ここで、「ラクトフェリン」とは、天然のラクトフェリン分子そのもののほか、組換え型ラクトフェリン、及びラクトフェリンの活性フラグメントなどのラクトフェリンの機能的等価物をも包含する。ラクトフェリン粒子の粒径は、通常は0.1〜500μm、好ましくは1〜150μmの範囲である。「ラクトフェリン粒子を主成分とする核」は、ラクトフェリン粒子そのものであってもよいが、ラクトフェリン粒子のほか、後述するようなその他の成分をも含有することができる。
【0034】
本発明において、「脂質被膜」とは、脂質を主成分とする被膜材から形成される被膜を指し、したがって、「脂質被膜材」とは、脂質被膜を形成するための、脂質を主成分とする組成物を指し、「脂質を含む被膜材」又は単に「被膜材」ともよぶことがある。本発明に使用される脂質は、油脂、ロウ及び複合脂質の中で食用・医薬用などの用途に応じて許容されるものであればよい。胃液中での安定性の面からは、油脂が好ましく、また、入手の容易性、価格又は安全性の面からは、天然に得られる動植物性油脂又はこれらの油脂を原料にした硬化油が好ましい。たとえば、硬化油としては、牛脂硬化油、魚油硬化油、ナタネ硬化油、ダイズ硬化油、パーム硬化油、オリーブ硬化油、ラッカセイ硬化油などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0035】
脂質の融点は、30〜80℃の範囲内が好ましく、40〜70℃の範囲内がさらに好ましい。
【0036】
本発明において、「脂質被覆粒子」とは、ラクトフェリン粒子を主成分とする核の表面が脂質被膜によって被覆されている状態の粒子を指す。すなわち、ラクトフェリン粒子を主成分とする核が、脂質被膜によって覆われた後であって、かつ、親水性被膜によって覆われる前のものを意味する。
【0037】
本発明のラクトフェリン素材組成物においては、脂質被覆粒子は、親水性被膜によってさらに被覆される。本発明において「親水性被膜」とは、親水性を有する物質を主成分とする被膜材から形成される被膜を指し、したがって、「親水性被膜材」とは、親水性被膜を形成するための、親水性を有する物質を主成分とする組成物を指す。
【0038】
したがって、ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなる本発明の素材組成物であって、その粉末状又は粒子状の形態のものは、脂質被覆粒子として使用することができる。
【0039】
本発明に使用される親水性を有する物質は、好ましくは親水性高分子であり、具体的には、酸性高分子、中性高分子、両性高分子、塩基性高分子から選択される1種又は2種以上であり、特に好ましくは、アルギン酸、カゼイン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ジェランガム、カラギーナン、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、ペクチン、納豆菌ガム、ポリグルタミン酸、寒天、デンプン、ヘパリン、ファーセルラン、トラガントガム、ツェイン、シェラックなどの酸性高分子;ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンド種子ガム、カードラン、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの中性高分子;ゼラチンなどの両性高分子;キトサン、ポリリジン、ポリアルギニンなどの塩基性高分子、及びこれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0040】
本発明のラクトフェリン素材組成物には、可塑剤を含有させてもよい。本発明において「可塑剤」とは、脂質被膜又は親水性被膜の均一性を向上させうる物質であって、食用・医薬用などの用途に応じて許容されるものであればよい。たとえば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどの界面活性剤類;グリセリンや糖アルコール(ソルビトール、マルチトールなど)などの多価アルコール類;レシチン、セレブロサイド、ガングリオシドなどの複合脂質類;及び蜜ロウ、シェラック、カルナウバロウなどの天然ワックス類などが挙げられる。可塑剤は、脂質被膜及び親水性被膜のいずれか一方又は両方に含有させることができる。可塑剤を含有させると、脂質被膜又は親水性被膜の均一性が向上するため、有利である。可塑剤を含有させる場合、その量は、脂質被膜材に含有させる場合には脂質被膜材の、親水性被膜材に含有させる場合には親水性被膜材の、それぞれ全重量を基準として0.1重量%〜10重量%程度、好ましくは0.5重量%〜5重量%程度である。
【0041】
可塑剤を含有させる時期としては、親水性被膜の形成前であればよく、好ましくは脂質被膜の形成前であればよい。たとえば、ラクトフェリン粒子を主成分とする核又は脂質もしくは親水性被膜材に、予め可塑剤を包含させておいてもよい。あるいは、可塑剤は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と脂質被膜材とを一緒にして混合物を生成する工程の際に同時に添加してもよく、その工程の前又は後に、可塑剤を添加し混合する工程を設けて、脂質被膜粒子(又はラクトフェリン素材組成物)中に含有させることもできる。このようにすることによって、可塑剤を脂質被膜中に均一に練り込むことができる。同様に、親水性被膜材に含有させることもできる。
【0042】
また、本発明のラクトフェリン素材組成物は、必要に応じて、たとえばビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類、コエンザイムQ10、α−リノレン酸、EPA、DHAなどの脂溶性又は水溶性の1種又は2種以上の一般的栄養成分;及び/又はモルヒネ、コディン、ジヒドロコディン、エチルモルヒネなどの鎮痛作用を有する薬効成分;及び/又は乳酸菌、ラクトオリゴ糖などの腸内菌叢改善成分と組み合わせてもよい。これらの成分は、脂質又は親水性被膜の形成の前に、ラクトフェリン粒子又は脂質被覆粒子、あるいは脂質又は親水性被膜材のいずれか1つ又は2つ以上と一緒にしておくことができる。好ましくは、脂溶性の栄養成分又は薬効成分は、可塑剤の場合と同様にして、脂質被膜中に包含させ、水溶性の成分は、核又は親水性被膜中に包含させる。
【0043】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、好ましくは素材組成物の全重量を基準にして10〜99重量%のラクトフェリンを含有することができ、さらに好ましくは70〜95重量%のラクトフェリンを含有することができ、最も好ましくは80〜95重量%のラクトフェリンを含有することができる。ラクトフェリン素材組成物中の脂質の比率があまり高くなると脂質被膜が厚くなりすぎ、腸管におけるラクトフェリンの溶出が低下するので、好ましくない。一方、脂質被膜が薄くなりすぎると、水系での安定性が損なわれる。
【0044】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、公知のいずれの方法で製造してもよい。もっとも、ラクトフェリンは、乾燥状態では70℃程度までは比較的安定であるため、本発明のラクトフェリン素材組成物の製造プロセスのうちラクトフェリン粒子を主成分とする核を使用するすべての工程はこの温度を超えない温度で行うことが望ましく、この温度を超える場合はなるべく短時間に制限する必要がある。
【0045】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、以下に説明する本発明の方法によって製造することが有利である。本発明の方法は、脂質を含む被膜材を加熱融解された状態でラクトフェリン粒子を主成分とする核に付着させる方法であって、第一の態様においては、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と脂質を含む被膜材とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物を加熱して脂質を融解させる工程、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程、及び前記核の表面に前記被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法である。第二の態様においては、脂質を含む被膜材を加熱して脂質を融解させる工程、前記被膜材とラクトフェリン粒子を主成分とする核とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程、及び前記核の表面に前記被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法である。
【0046】
本発明の第一の態様の方法における混合物を加熱して脂質を融解させる工程及び第二の態様における被膜材とラクトフェリン粒子を主成分とする核とを一緒にして混合物を生成する工程は、好ましくは30℃〜80℃、さらに好ましくは30℃〜75℃、より好ましくは30℃〜70℃の温度で行われる。時間は、それぞれ脂質の融解又は混合物の生成の目的を達する限りにおいて、なるべく短時間であることが好ましい。
【0047】
しかし、本発明の方法においては、脂質を融解させる工程の後、核の表面に被膜材からなる被膜を形成させる工程の前に、融解された脂質を含む混合物又は被膜材を50℃〜80℃の温度で5〜30分間維持して滅菌する工程をさらに含ませることができる。この滅菌工程における温度は、好ましくは55℃〜70℃であり、時間は、好ましくは10〜20分間である。この程度の処理であれば、ラクトフェリンに実質的に悪影響を与えることなく、簡便に無菌的な素材組成物を製造することができる。
【0048】
具体的には、上記第一の態様の方法においては、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と脂質を含む被膜材とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物を加熱して脂質を融解させる工程に続いて、上記のような温度及び時間条件で混合物を維持し、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程と滅菌工程とを同時に行うことができる。
【0049】
第二の態様においては、たとえば、脂質を含む被膜材を加熱して脂質を融解させる工程の後、上記のような温度及び時間条件で、前記被膜材とラクトフェリン粒子を主成分とする核とを一緒にして混合物を生成する工程及び/又は前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程を行うことにより、滅菌の目的も達成することができる。
【0050】
混合物中で核に被膜材を付着させる工程は、混合物を適宜攪拌することなどによって達成することができる。上記のように、滅菌工程と同時に行ってもよい。
【0051】
核の表面に被膜材からなる被膜を形成させる工程は、通常、融解した状態の脂質成分を固化させることによって行うことができ、具体的には、混合物を冷却するか、常温で放置することによって行うことができる。好ましくは、核の表面に被膜を形成させる工程は、混合物を、油脂の融点近くまでは徐々に冷却し、油脂が凝固するときに放出する熱による温度上昇を確認した後、急速に冷却して室温まで温度を下げることによって行う。
【0052】
本発明の方法によれば、得られる粒子の被膜が薄く、被覆の完全性が高いので、好ましい。この方法は、工程がシンプルで条件制御が容易なため、簡便に行うことができ、被膜形成後の被膜を均一にするための造粒の工程を省略することができる。また、この方法では、被膜材中の脂質として固形脂質を使用する場合、粒径がラクトフェリン粒子よりも小さいものを使用する必要がなく、したがって、粒径の小さいラクトフェリン粒子を用いることができるため、非常に有利である。さらに、この方法では、ラクトフェリン粒子の粒径を小さく、被膜の厚さを薄くできるとともに、素材組成物中のラクトフェリンの含有量を高めることができるので、有利である。また、被膜中に可塑剤や脂溶性の栄養成分などを均一に含有させることもできるので、その点においても有利である。
【0053】
脂質被膜の表面にさらに親水性被膜を有する本発明のラクトフェリン素材組成物は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなる脂質被覆粒子を用意する工程、及びこの脂質被覆粒子の表面に親水性被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法によって製造することが有利である。
【0054】
脂質被覆粒子を用意する工程は、公知のいずれの方法で行ってもよい。好ましくは、この工程は、上記の(親水性被膜を有さない)ラクトフェリン素材組成物の一連の製造工程であり、そのようにして得られた組成物を脂質被覆粒子として使用することができる。好ましくは、脂質被覆粒子は、脂質被膜材を加熱融解された状態でラクトフェリン粒子を主成分とする核に付着させる方法で製造する。
【0055】
脂質被覆粒子を親水性被膜材でコーティングする方法は、公知のいずれの方法であってもよいが、たとえば、脂質被覆粒子に前述のような親水性高分子の溶液からなる親水性被膜材を噴霧して、乾燥させることにより、親水性被膜を形成させることができる。
【0056】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、その親水性被膜を不溶化することによって、さらに安定化することができる。
不溶化処理は、当該技術分野で公知の任意のものを用いることができるが、好ましくは、高分子の電解質の反応性を利用した方法(カチオンポリマーとアニオンポリマーとの反応、酸性高分子の金属塩との反応など)、高分子のゲル化能を利用した方法などから、親水性被膜の材料などに応じて適宜1種又は2種以上を選択して行うことができる。
【0057】
たとえば、脂質被覆粒子にアルギン酸ナトリウムのような酸性高分子の溶液を親水性被膜材として噴霧した後、カルシウムイオンでこの高分子を不溶化させることにより、脂質被膜の上に不溶化された親水性被膜を形成させることができる。また、このような不溶化処理は、食品、医薬、飼料などの製造の過程で行うこともできる。
【0058】
ラクトフェリン素材組成物に任意付加的成分、たとえば可塑剤、及び/又は脂溶性又は水溶性の栄養成分及び/又は薬効成分、及び/又は腸内菌叢改善成分を含有させる場合には、ラクトフェリン粒子を主成分とする核又は脂質もしくは親水性被膜材に、予めこれらの成分を包含させておいてもよい。あるいは、これらの任意付加的成分は、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と脂質被膜材とを一緒にして混合物を生成する工程の際に同時に添加してもよく、その工程の前又は後に、それらの成分を添加し混合する工程を設けて、ラクトフェリン素材組成物中に含有させることもできる。
【0059】
一般的に、含有させようとする任意付加的成分が脂溶性の場合には、上記のようにすることによって、脂質被膜中に均一に練り込むことが有利である。栄養成分及び/又は薬効成分などの任意付加的成分が水溶性の場合には、これらの成分とラクトフェリンとを予め乾式造粒することによって、ラクトフェリン粒子を主成分とする核に予め含有させることもでき、また、親水性被膜材に含有させておくこともできる。
【0060】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、粉末状であることができるが、カプセルに封入することによって粉末状態より取り扱いやすくすることができる。したがって、本発明の素材組成物は、カプセルに封入された形態、具体的にはマイクロカプセル、ソフトカプセル又はハードカプセルに封入された形態で用いることができる。本発明の素材組成物のカプセル化は、公知のマイクロカプセル化技術、ソフトカプセル化技術、ハードカプセル化技術などによって行うことができる。
【0061】
また、本発明のラクトフェリン素材組成物は、錠剤、顆粒、丸薬、乳化懸濁液、ゲルなどの任意の形態にすることができる。このような形態への加工の方法は、製剤技術の分野において公知である。
【0062】
本発明の素材組成物は、特に、賦形剤及びバインダーを用いて腸溶性顆粒の形態に加工することが有利である。ここで賦形剤として使用する成分は、主剤(本発明においては親水性被膜を有する又は有さないラクトフェリン素材組成物)以外の原料であって、腸溶性、強度、分散性、溶解性などの有利な特性を付与するために使用しうるものであればよい。たとえば、豆乳粉末、結晶セルロース、セルロース、バターミルクパウダー、カゼイン、カゼインナトリウム、二酸化ケイ素、酸化チタン、デンプン、酵素変性デキストリン、デキストリン、大豆多糖類、乳清タンパク質、卵白タンパク質、乳糖、カルボキシメチルセルロースカルシウム、キトサン、及びカルボキシメチルスターチなどが挙げられる。
【0063】
また、ここでバインダーとして使用する成分は、造粒工程で原料の粉体粒子を接着させて、粒子を成長させる機能を持つものであればよく、水系バインダーであっても溶媒系バインダー(エタノール溶液など)であってもよい。バインダーは、一般には溶液において粘性を有する物質が好ましく、多糖類が使用されることが多い。具体的には、たとえばグアーガム、カゼインナトリウム、キトサン、シェラック、ツェイン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、メチルセルロース、カラギーナン、タマリンドガム、ペクチンなどが挙げられる。
【0064】
上記のような腸溶性顆粒の形態の本発明の素材組成物を製造する場合、主剤としては、親水性被膜を有するラクトフェリン組成物又は有さない組成物(脂質被覆粒子)のいずれを用いてもよいが、コストの点では脂質被覆粒子を使用する方が好ましい。この形態においては、主剤の脂質含量は、撥水性を保持できる程度まで下げることができるが、脂質被膜が薄くなることにより、水系での安定性効果は低下することになる。本発明のラクトフェリン組成物は撥水性を有するため、これを主剤とすることにより、造粒工程で水系バインダーを使用することができる。また、本発明の組成物を主剤とする場合は、ラクトフェリン粒子自体よりも粉体の混合特性が改善されているため、造粒工程での操作性も改善される。
【0065】
腸溶性顆粒の製造方法は、公知のいずれの方法であってもよく、操作上も湿式造粒法或いは乾式造粒法を問わず、また造粒機構上も押し出し造粒法、転動造粒法、流動層造粒法、混合攪拌造粒法、噴霧乾燥造粒法などの方法から適宜選択することができる。製品の品質や生産性の側面からは、湿式造粒法が望ましい。
【0066】
本発明のラクトフェリン素材組成物は、医薬、食品、飼料などに含有させることができる。医薬、食品、飼料などに含有させる場合のラクトフェリンの適当な含有量はそれぞれ公知である。以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
A)親水性被膜を有さないラクトフェリン素材組成物
実施例1:微粉化ラクトフェリンを用いたラクトフェリン素材組成物の製造
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)300gと、パーム極度硬化油(融点57℃;横関油脂工業(株))15gとを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてパーム極度硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にパーム極度硬化油の被膜を形成させ、ラクトフェリン素材組成物約311gを得た。
【0068】
実施例2:粗粒ラクトフェリンを用いたラクトフェリン素材組成物の製造
ラクトフェリン(粒径:〜500μm;タツア・ミルク・バイオロジクス社)300gと、ナタネ硬化油(融点58℃;横関油脂工業(株))21gとを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてナタネ硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にナタネ硬化油の被膜を形成させ、ラクトフェリン素材組成物約320gを得た。
【0069】
実施例3:可塑剤を添加したラクトフェリン素材組成物の製造
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)300g、パーム極度硬化油(融点57℃;横関油脂工業(株))15g、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化成食品(株)、HLB:3)0.15gを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてパーム極度硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にパーム極度硬化油の被膜を形成させ、ラクトフェリン素材組成物約312gを得た。
【0070】
実施例4:ラクトフェリン素材組成物を含有する錠剤の製造
実施例1又は2と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物5.5kg、乳糖8kg、結晶セルロース10kg、カルボキシメチルセルロース・カルシウム3.5kg、グリセリン脂肪酸エステル0.5kgを混合し、1%(W/W)グアーガム水溶液を添加して押出し造粒し、乾燥した。この顆粒を打錠して、ラクトフェリンを1錠中に50mg含む直径8mm、重量平均250mgの錠剤を製造した。本錠剤は、医薬又は健康補助食品として用いることができる。
【0071】
実施例5:ラクトフェリン素材組成物を含有するカプセルの製造
実施例1又は2と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物1重量部、微結晶セルロース10重量部、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム0.5重量部を混合し、この混合物粉末150mgをハードカプセルに充填した。本カプセルは医薬又は健康補助食品として用いることができる。
【0072】
実施例6:ラクトフェリン素材組成物を含有するアイスクリームの製造
牛乳1L、脱脂粉乳300g、砂糖300g、水1Lに、バター、乳化安定剤及び香料を少量添加して混合・溶解した後、ホモジナイザーで均質化した。これに、実施例1又は2と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物2gを添加し、アイスクリームフリーザーにかけて、アイスクリームを調製した。
【0073】
実施例7:ラクトフェリン素材組成物を含有するペット用飼料
実施例1と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物3g、トウモロコシ粉100g、魚粉30g、酵母エキス10g、牛脂2g、大豆粉25g、フラクトオリゴ糖20g、デキストリン10g、食塩少量を混合し、混練機を用いて水を少しずつ加えながら充分に練り合わせて、二軸式押出造粒機で造粒した。さらに顆粒を40℃で一晩乾燥し、ペット用飼料を製造した。
【0074】
実施例8:微粉化ラクトフェリンを用いたラクトフェリン素材組成物の製造
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)15kgと、ナタネ硬化油(融点:69℃;横関油脂工業(株))4.5kgを、ニーダー(カジワラ(株))にて処理した。これらの粉末を10〜50rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケットに乾燥蒸気を注入して品温を75℃まで上げ、ナタネ硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約10分間品温を75℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子の表面にナタネ硬化油の被膜を形成させた。微粉状態の脂質被膜粒子約19kgを得た。
【0075】
実施例9:可塑剤を添加したラクトフェリン素材組成物の製造
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)15kg、ナタネ硬化油(融点69℃;横関油脂工業(株))4.5kg、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化成食品(株)、HLB:3)450gを、ニーダー(カジワラ(株))にて処理した。これらの粉末を10〜50rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケットに乾燥蒸気を注入して品温を75℃まで上げ、ナタネ硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約10分間品温を75℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子の表面にナタネ硬化油の被膜を形成させた。微粉状態の脂質被膜粒子約19.5kgを得た。
【0076】
試験例1:胃液pHでの安定性
実施例1又は2と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物1gをモデル胃液(0.2%食塩、70mM HCl、pH1.2)中に分散させ、37℃で1時間放置した後、上清液のタンパク質濃度を測定した。タンパク質の溶出はほとんど認められなかった。
したがって、本発明のラクトフェリン素材組成物が胃液pH中で安定であることが確認された。
【0077】
試験例2:腸内での溶解性
実施例1又は2と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物1gを、1%ブタ膵臓由来パンクレアチン溶液(和光純薬工業(株):リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ含有)/100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0、10mMデオキシコール酸ナトリウム含有)100mLに分散させ、37℃で1時間反応させた後、上清液のタンパク質濃度の増加を測定して、ラクトフェリンが溶出されたことを確認した。また、確認のため上清液を液体クロマトグラフィにより分析したところ、ラクトフェリンのピークを検出することができた。
【0078】
一方、ブタ膵臓由来パンクレアチンを添加しない場合には、タンパク質の溶出はほとんど認められなかった。
【0079】
したがって、本発明のラクトフェリン素材組成物に含まれるラクトフェリンは、水性溶液中及び胃液中では安定であって、リパーゼの存在下で初めて溶出することが確認された。このことから、本発明のラクトフェリン素材組成物中のラクトフェリンは、水の存在下及び/又は胃液中での分解・変性を受けずに生理活性を維持したまま腸に到達することが明らかになった。
【0080】
試験例3:ラクトフェリンの有効性及び安全性
5週齢のICR系雄性マウス16頭を無作為に8頭ずつの2群に分け、対照群にはラット・マウス用標準飼料(日本クレア製、CE−2)を与え、実験群にはCE−2に実施例1で製造したラクトフェリン素材組成物を0.2%添加した飼料を与え、それぞれ飼育した。飼育期間は4週間であった。飼育中、3日ごとに体重を測定した。
【0081】
体重測定の結果では、両群の間に有意差はなかった。また、4週間後の剖検時に秤量した肝臓、膵臓、脾臓、小腸、盲腸、内臓脂肪及び副睾丸脂肪組織などの重量についても両群間の有意差はなく、さらに、単位体重あたりの体長及び腸の長さにも有意差はなかった。
【0082】
血中成分について測定したところ、ラクトフェリン素材組成物の経口投与により、血中中性脂肪値は21%(P<0.05)、血中遊離脂肪酸値は28%(P<0.05)、それぞれ有意に低下していた。次に、血中コレステロール値を測定したところ、ラクトフェリン素材組成物投与群は対照群と比べ血中総コレステロール値に上昇傾向が認められたが、その上昇は、HDLコレステロールが35%上昇した(P<0.01)ためであることが明らかになった。
【0083】
実施例2で製造したラクトフェリン素材については、添加量が0.2%であったこと以外は上記と同じ条件で同様の実験を行った。結果は、上記と同等であった。
【0084】
以上の結果から、本発明のラクトフェリン素材組成物は生体に安全であり、少なくとも脂質代謝を改善するラクトフェリンの生理作用を少量で充分に発揮することが判明した。
【0085】
試験例4:滅菌工程の有効性
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)300g、パーム極度硬化油(融点57℃;横関油脂工業(株))15g、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化成食品(株)、HLB:3)0.15g、大腸菌凍結乾燥粉末(109細胞/g)1gを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてパーム極度硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にパーム極度硬化油の被膜を形成させ、ラクトフェリン素材組成物約310gを得た。
【0086】
このラクトフェリン素材組成物について、BGLB法で大腸菌の検出試験を行ったところ、陰性/2.22gであった。また、標準寒天平板培養法での一般細菌数(生菌数)も300以下/gであった。
したがって、本発明の方法における滅菌工程によってラクトフェリン素材組成物が滅菌されることが確認された。
【0087】
試験例5:素材組成物の油中分散性
実施例1で製造した微粉化ラクトフェリン素材組成物10gと実施例2で製造した粗粒ラクトフェリン素材組成物10gとを、各々オリーブ油100mlを入れたメスシリンダー(100ml容)に加え、充分に混合した後、室温で放置した。1時間後に肉眼で観察すると、微粉化ラクトフェリン素材組成物はオリーブ油の中に分散していて沈降物は見られなかったが、粗粒ラクトフェリン素材組成物はメスシリンダー容器の底部にかけて粒径の大きな粒子が沈降していた。
したがって、微粉化ラクトフェリン素材組成物は、分散性に優れていることが確認された。
【0088】
B)親水性被膜を有するラクトフェリン素材組成物
実施例11:ラクトフェリン素材組成物の製造
1)微粉化ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子の製造
この脂質被覆粒子は、実施例1の組成物と同様に製造した。即ち、ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)300gと、パーム極度硬化油(融点57℃;横関油脂工業(株))15gとを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてパーム極度硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にパーム極度硬化油の被膜を形成させ、脂質被覆粒子約311gを得た。
【0089】
2)粗粒ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子の製造
この脂質被覆粒子は、実施例1の組成物と同様に製造した。即ち、ラクトフェリン(粒径:〜500μm;タツア・ミルク・バイオロジクス社)300gと、ナタネ硬化油(融点58℃;横関油脂工業(株))21gとを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてナタネ硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にナタネ硬化油の被膜を形成させ、脂質被覆粒子約320gを得た。
【0090】
3)可塑剤を添加した脂質被覆粒子の製造
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)300g、パーム極度硬化油(融点57℃;横関油脂工業(株))15g、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化成食品(株)、HLB:3)0.15gを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてパーム極度硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にパーム極度硬化油の被膜を形成させ、脂質被覆粒子約312gを得た。
【0091】
4)親水性被膜の形成
上記1)〜3)で得られた脂質被覆粒子を用いてラクトフェリン素材組成物を製造した。1)〜3)の各々の脂質被覆粒子100gに、1%(W/V)アルギン酸水溶液(1%(W/V)ショ糖脂肪酸エステル含有)20mLを噴霧した後、室温に約18時間放置し、脂質被膜の上に水溶性被膜を形成させた。次いで、この粒子を5%(W/V)塩化カルシウム水溶液に約30分間浸漬した後、室温で乾燥させ、ラクトフェリン粒子の脂質被膜の表面に不溶化された親水性被膜が形成されたラクトフェリン素材組成物100gを得た。
【0092】
実施例12:ラクトフェリン素材組成物を含有する錠剤の製造
実施例11と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物5.5kg、乳糖8kg、結晶セルロース10kg、カルボキシメチルセルロースカルシウム3.5kg、グリセリン脂肪酸エステル0.5kgを混合し、1%(W/W)グアーガム水溶液を添加して押出し造粒し、乾燥した。この顆粒を打錠して、ラクトフェリンを1錠中に50mg含む直径8mm、重量平均250mgの錠剤を製造した。本錠剤は、医薬又は健康補助食品として用いることができる。
【0093】
実施例13:ラクトフェリン素材組成物を含有するカプセルの製造
実施例11と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物1重量部、微結晶セルロース10重量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.5重量部を混合し、この混合物粉末150mgをハードカプセルに充填した。本カプセルは医薬又は健康補助食品として用いることができる。
【0094】
実施例14:ラクトフェリン素材組成物を含有するアイスクリームの製造
牛乳1L、脱脂粉乳300g、砂糖300g、水1Lに、バター、乳化安定剤及び香料を少量添加して混合・溶解した後、ホモジナイザーで均質化した。これに、実施例11と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物2gを添加し、アイスクリームフリーザーにかけて、アイスクリームを調製した。
【0095】
実施例15:ラクトフェリン素材組成物を含有するヨーグルトの製造
牛乳1L、脱脂粉乳100g、砂糖10g、水500mLに、バター、安定剤、香料を少量添加して、混合・溶解した後、ホモジナイザーで均質化した。これを39℃に保持した後、乳酸菌スターターを加えて発酵させた。次いで、これに実施例11で製造したラクトフェリン素材組成物2gを添加混合して、ヨーグルトを調製した。
【0096】
実施例16:ラクトフェリン素材組成物を含有するペット用飼料
実施例11と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物3g、トウモロコシ粉100g、魚粉30g、酵母エキス10g、牛脂2g、大豆粉25g、フラクトオリゴ糖20g、デキストリン10g、食塩少量を混合し、混練機を用いて水を少しずつ加えながら充分に練り合わせて、二軸式押出造粒機で造粒した。さらに顆粒を40℃で一晩乾燥し、ペット用飼料を製造した。
【0097】
試験例6:胃液pHでの安定性
実施例11と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物1gをモデル胃液(0.2%食塩、70mM HCl、pH1.2)中に分散させ、37℃で1時間放置した後、上清液のタンパク質濃度を測定した。タンパク質の溶出はほとんど認められなかった。
したがって、本発明のラクトフェリン素材組成物が胃液pH中で安定であることが確認された。
【0098】
試験例7:腸内での溶解性
実施例11と同様にして製造したラクトフェリン素材組成物1gを、1%ブタ膵臓由来パンクレアチン溶液(和光純薬工業(株):リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ含有)/100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0、10mMデオキシコール酸ナトリウム含有)100mLに分散させ、37℃で1時間反応させた後、上清液のタンパク質濃度の増加を測定して、ラクトフェリンが溶出されたことを確認した。また、確認のため上清液を液体クロマトグラフィにより分析したところ、ラクトフェリンのピークを検出することができた。
【0099】
一方、ブタ膵臓由来パンクレアチンを添加しない場合には、タンパク質の溶出はほとんど認められなかった。
【0100】
したがって、本発明のラクトフェリン素材組成物に含まれるラクトフェリンは、水性溶液中及び胃液中では安定であって、リパーゼの存在下で初めて溶出することが確認された。このことから、本発明のラクトフェリン素材組成物中のラクトフェリンは、水の存在下及び/又は胃液中での分解・変性を受けずに生理活性を維持したまま腸に到達することが明らかになった。
【0101】
試験例8:ラクトフェリンの有効性及び安全性
5週齢のICR系雄性マウス16頭を無作為に8頭ずつの2群に分け、対照群にはラット・マウス用標準飼料(日本クレア製、CE−2)を与え、実験群にはCE−2に実施例11で製造したラクトフェリン素材組成物を0.2%添加した飼料を与え、それぞれ飼育した。飼育期間は4週間であった。飼育中、3日ごとに体重を測定した。
【0102】
体重測定の結果では、両群の間に有意差はなかった。また、4週間後の剖検時に秤量した肝臓、膵臓、脾臓、小腸、盲腸、内臓脂肪及び副睾丸脂肪組織などの重量についても両群間の有意差はなく、さらに、単位体重あたりの体長及び腸の長さにも有意差はなかった。
【0103】
血中成分について測定したところ、ラクトフェリン素材組成物の経口投与により、血中中性脂肪値は21%(P<0.05)、血中遊離脂肪酸値は28%(P<0.05)、それぞれ有意に低下していた。次に、血中コレステロール値を測定したところ、ラクトフェリン素材組成物投与群は対照群と比べ血中総コレステロール値に上昇傾向が認められたが、その上昇は、HDLコレステロールが35%上昇した(P<0.01)ためであることが明らかになった。
【0104】
以上の結果から、本発明のラクトフェリン素材組成物は生体に安全であり、少なくとも脂質代謝を改善するラクトフェリンの生理作用を少量で充分に発揮することが判明した。
【0105】
試験例9:滅菌工程の有効性
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150μm)300g、パーム極度硬化油(融点57℃;横関油脂工業(株))15g、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化成食品(株)、HLB:3)0.15g、大腸菌凍結乾燥粉末(10細胞/g)1gを、攪拌混合造粒機(深江パウテック(株))にて処理した。これらの粉末を300〜350rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケット水を循環させて品温を70℃まで上げてパーム極度硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約20分間品温を70℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子表面にパーム極度硬化油の被膜を形成させ、脂質被覆粒子約310gを得た。この脂質被覆粒子に、実施例11と同様にして親水性被膜を形成し、ラクトフェリン素材組成物とした。また、上記と同じ組成でパーム極度硬化油の量のみ90gとしたラクトフェリン素材組成物を同様に製造し、脂質被覆粒子約384gを得た。
【0106】
これらのラクトフェリン素材組成物について、BGLB法で大腸菌の検出試験を行ったところ、陰性/2.22gであった。また、標準寒天平板培養法での一般細菌数(生菌数)も300以下/gであった。
したがって、脂質被覆粒子製造中の滅菌工程によってラクトフェリン素材組成物が食品素材として安全に使用できることが確認された。
【0107】
試験例10:脂質被覆粒子の油中分散性
実施例11で製造した微粉化ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子10gと実施例11で製造した粗粒ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子10gとを、各々オリーブ油100mLを入れたメスシリンダー(100mL容)に加え、充分に混合した後、室温で放置した。1時間後に肉眼で観察すると、微粉化ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子はオリーブ油の中に分散していて沈降物は見られなかったが、粗粒ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子はメスシリンダー容器の底部にかけて粒径の大きな粒子が沈降していた。
したがって、微粉化ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子は、油中での分散性に優れていることが確認された。
【0108】
試験例11:ラクトフェリン素材組成物の水中分散性
実施例11で製造した微粉化ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子10gとこれを用いて実施例11で製造したラクトフェリン素材組成物10gとを、各々蒸留水100mLを入れたメスシリンダー(100mL容)に加え、充分に混合した後、室温で放置した。1時間後に肉眼で観察すると、ラクトフェリン素材組成物は水の中に分散していたが、脂質被覆粒子はメスシリンダー容器の水面付近に集まっていた。
したがって、本発明のラクトフェリン素材組成物は、水中での分散性に優れていることが確認された。
【0109】
C)腸溶性顆粒の形態のラクトフェリン素材組成物
実施例17:豆乳粉末を用いた腸溶性顆粒の形態のラクトフェリン素材組成物の製造
1)微粉化ラクトフェリンを用いた脂質被覆粒子の製造
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社)を予め微粉砕した粉末(粒径:〜150mμ)18kgとナタネ硬化油(融点69℃、横関油脂工業(株))0.9kgを、ニーダー(カジワラ(株))にて処理した。これらの粉末を10〜50rpmで充分に攪拌混合した後、ジャケットに乾燥蒸気を注入して品温を75℃まで上げ、ナタネ硬化油を融解させた。攪拌混合を続けて、約10分間品温を75℃に維持した後、徐々に冷却して品温を下げ、ラクトフェリン粒子の表面にナタネ硬化油の被膜を形成させた。脂質被覆粒子約18.6kgを得た。
【0110】
2)ラクトフェリン−豆乳粉末顆粒の製造
上記1)で得られた脂質被覆粒子100g(主剤)と豆乳粉末(フジプロテインテクノロジー(株))200gとを攪拌混合造粒機(KOMASA MIC DV)にて処理した。これらの粉末を下部攪拌200〜300rpm、チョッパー 2000〜3000rpmで充分に混合攪拌した後、混合攪拌下、容器上部から10%シェラック水溶液(フロイント産業(株))60mLをポンプで供給して噴霧した。造粒された顆粒を60℃の乾燥機にて一晩乾燥させ、腸溶性顆粒形態のラクトフェリン組成物 約300g(ラクトフェリン含量:約22%)を得た。これは、そのまま顆粒形態の医薬又は食品として使用することができる。
【0111】
実施例18:結晶セルロースを用いた腸溶性顆粒の形態のラクトフェリン素材組成物の製造
上記実施例17の1)で得られた脂質被覆粒子75g(主剤)と結晶セルロース(日本製紙ケミカル(株))150gを攪拌混合造粒機(KOMASA MIC DV)にて処理した。これらの粉末を、下部攪拌200〜300rpm、チョッパー2000〜3000rpmで充分に混合攪拌した後、混合攪拌下、容器上部から50%酵素変性デキストリン水溶液(日澱化学(株))100mLをポンプで供給して噴霧した。造粒された顆粒を60℃の乾燥機にて一晩乾燥させ、腸溶性顆粒形態のラクトフェリン組成物 約270g(ラクトフェリン含量:約18%)を得た。これは、そのまま顆粒形態の医薬又は食品として使用することができる。
【0112】
試験例12:胃液pHでの安定性
実施例17と同様にして製造したラクトフェリン−豆乳粉末顆粒組成物23g(ラクトフェリン含量:約22%)及び実施例18と同様にして製造したラクトフェリン−結晶セルロース顆粒組成物28g(ラクトフェリン含量:約18%)を、それぞれモデル胃液(0.2%NaCl、70mM HCl、pH1.2)10mL中に分散させ、37℃で1時間緩やかに回転混合した後、上清液中のラクトフェリン濃度を高速液体クロマトで測定した。ラクトフェリンの溶出はほとんど認められなかった。したがって、本発明のラクトフェリン腸溶性顆粒が胃液pH中で安定であることが確認された。
【0113】
試験例13:腸液pHでの溶解性
実施例17と同様にして製造したラクトフェリン−豆乳粉末顆粒組成物23g(ラクトフェリン含量:約22%)及び実施例18と同様にして製造したラクトフェリン−結晶セルロース顆粒組成物28g(ラクトフェリン含量:約18%)を、それぞれモデル腸液(50mM リン酸二水素カリウム、24mM NaOH、pH6.8)10mL中に分散させ、37℃で1時間緩やかに回転混合した後、上清液中のラクトフェリン濃度を高速液体クロマトで測定した。ラクトフェリン濃度は、いずれも5mg/mLであった。したがって、本発明のラクトフェリン腸溶性顆粒が腸液pHでラクトフェリンを溶出することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなるラクトフェリン素材組成物。
【請求項2】
脂質被膜が、脂質被膜材を、加熱融解された状態でラクトフェリン粒子を主成分とする核に付着させることによって形成されている、請求の範囲1記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項3】
ラクトフェリンの含有量が、素材組成物の全重量を基準として10重量%〜99重量%である、請求の範囲1又は2記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項4】
ラクトフェリンの含有量が、素材組成物の全重量を基準として70重量%〜95重量%である、請求の範囲3記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項5】
さらに、脂質被膜の表面を被覆する親水性被膜を有する、請求の範囲1〜4のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項6】
親水性被膜が、親水性高分子を主成分とする被膜である、請求の範囲5記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項7】
親水性被膜が、高分子の電解質の反応性又は高分子のゲル化能を利用する1種又は2種以上の方法によって不溶化されている、請求の範囲5又は6記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項8】
親水性高分子が、酸性高分子、中性高分子、両性高分子、塩基性高分子から選択される1種又は2種以上である、請求の範囲6又は7記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項9】
親水性高分子が、アルギン酸、カゼイン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ジェランガム、カラギーナン、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、ペクチン、納豆菌ガム、ポリグルタミン酸、寒天、デンプン、ヘパリン、ファーセルラン、トラガントガム、ツェイン、シェラック;ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンド種子ガム、カードラン、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;ゼラチン;キトサン、ポリリジン、ポリアルギニン、及びこれらの塩からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求の範囲6〜8のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項10】
可塑剤を含む、請求の範囲1〜9のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項11】
可塑剤の含有量が、可塑剤が含有される脂質被膜材又は親水性被膜材の全重量を基準として0.1重量%〜10重量%である、請求の範囲10記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項12】
可塑剤が、界面活性剤類、多価アルコール類、複合脂質類及び天然ワックス類から選択される1種又は2種以上である、請求の範囲10又は11記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項13】
界面活性剤類が、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルから選択され、多価アルコール類が、グリセリン、糖アルコールから選択され、複合脂質類が、レシチン、セレブロサイド、ガングリオシドから選択され、天然ワックス類が、蜜ロウ、シェラック、カルナウバロウから選択される、請求の範囲12記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項14】
核に含まれるラクトフェリン粒子の粒径が、1〜150μmの範囲である、請求の範囲1〜13のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項15】
脂溶性又は水溶性の栄養成分及び/又は薬効成分、及び/又は腸内菌叢改善成分を含有する、請求の範囲1〜14のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項16】
粉末、カプセルに封入されている形態、錠剤、顆粒、丸薬、乳化懸濁液又はゲルの形態である、請求の範囲1〜15のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項17】
マイクロカプセル、ソフトカプセル又はハードカプセルに封入されている、請求の範囲16記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項18】
賦形剤及びバインダーを含む腸溶性顆粒の形態である、請求の範囲1〜15のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項19】
賦形剤が、豆乳粉末、結晶セルロース、セルロース、バターミルクパウダー、カゼイン、カゼインナトリウム、二酸化ケイ素、酸化チタン、デンプン、酵素変性デキストリン、クラスターデキストリン、難消化性デキストリン、デキストリン、大豆多糖類、乳清タンパク質、卵白タンパク質、乳糖、カルボキシメチルセルロースカルシウム、キトサン及びカルボキシメチルスターチからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求の範囲18記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項20】
バインダーが、グアーガム、カゼインナトリウム、キトサン、シェラック、ツェイン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、メチルセルロース、カラギーナン、タマリンドガム及びペクチンからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求の範囲18又は19記載のラクトフェリン素材組成物。
【請求項21】
請求の範囲1〜20のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物を含有する食品。
【請求項22】
請求の範囲1〜20のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物を含有する医薬。
【請求項23】
請求の範囲1〜20のいずれか1項記載のラクトフェリン素材組成物を含有する飼料。
【請求項24】
ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなるラクトフェリン素材組成物の製造方法であって、ラクトフェリン粒子を主成分とする核と脂質被膜材とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物を加熱して脂質を融解させる工程、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程、及び前記核の表面に前記被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなるラクトフェリン素材組成物の製造方法であって、脂質被膜材を加熱して脂質を融解させる工程、前記被膜材とラクトフェリン粒子を主成分とする核とを一緒にして混合物を生成する工程、前記混合物中で前記核に前記被膜材を付着させる工程、及び前記核の表面に前記被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
脂質を融解させる工程の後、核の表面に脂質被膜材からなる被膜を形成させる工程の前に、融解された脂質を含む混合物又は脂質被膜材を50℃〜80℃の温度で5〜30分間維持して滅菌する工程をさらに含む、請求の範囲24又は25記載の方法。
【請求項27】
前記滅菌工程が、55℃〜70℃の温度で10〜20分間の条件で行われる、請求の範囲26記載の方法。
【請求項28】
ラクトフェリン粒子を主成分とする核又は脂質被膜材に、予め可塑剤が包含されている、請求の範囲24〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
ラクトフェリン粒子を主成分とする核又は脂質被膜材に、予め脂溶性又は水溶性の栄養成分及び/又は薬効成分、及び/又は腸内菌叢改善成分が包含されている、請求の範囲24〜28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
ラクトフェリン粒子を主成分とする核と、その表面を被覆する脂質被膜と、脂質被膜の表面を被覆する親水性被膜とからなるラクトフェリン素材組成物の製造方法であって、ラクトフェリン粒子を主成分とする核とその表面を被覆する脂質被膜とからなる脂質被覆粒子を用意する工程、及びこの脂質被覆粒子の表面に親水性被膜材からなる被膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
親水性被膜を形成させる工程の後に、形成された親水性被膜を不溶化する工程をさらに含む、請求の範囲30記載の方法。
【請求項32】
親水性被膜を不溶化する工程が、高分子の電解質の反応性又は高分子のゲル化能を利用する1種又は2種以上の方法によって行われる、請求の範囲30又は31記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/025609
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513841(P2005−513841)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012575
【国際出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(599012167)株式会社NRLファーマ (18)
【Fターム(参考)】