説明

ラジアルタイヤ

【課題】製造不良を生じさせることなく、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性を改良するとともに、重量の増加を抑制し、転がり抵抗の増大を防止することで、燃費性能についても改良した空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】ラジアルカーカス4と、3層以上のベルト層からなるベルト5とを具え、ベルト5が、互いに交錯して配置された2層の交錯ベルト層5a,5bと、その外周側にタイヤ赤道面に対し実質上平行に複数本のスチールコードが配列された少なくとも1層の周方向ベルト層5cとを有するラジアルタイヤである。前記スチールコードの50Nまでの初期伸びが、周方向ベルト層5cの端部から20mm≦a≦L/4(Lは周方向ベルト層の総幅(mm)である)を満足する幅aまでの領域A内で0.5〜4.0%あり、かつ、それ以外の領域内で領域Aよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、長時間の高速走行に供される超高性能タイヤにおいて、製造不良を生じさせることなく、転がり抵抗を低減させ、燃費性能を向上させつつ、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性の改良を図ったラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を埋設した乗用車用ラジアルタイヤにおいて、ベルト層の外周側にタイヤ周方向に対するコード角度が実質的に0°となるベルトカバー層を設けることにより、ベルト層に対するタガ効果を高めることができることが知られている。その結果、タイヤ回転時の遠心力によるベルト層両端部のせり上がりが誘発するエッジセパレーション現象を防止できると同時に、タイヤの周方向剛性が高まることで、タイヤの高周波ロードノイズ特性が改善されることになる。
【0003】
かかるベルトカバー層を設ける場合、そのコードには主としてナイロンコード等の有機繊維コードが一般に使用されているが、有機繊維コードからなるベルトカバー層はタガ効果が十分であるとは言えず、またタイヤが長時間にわたって連続的に高速回転されるような場合にはコードが高温下で継続的に遠心力を受け、有機繊維コードに特異なクリープ成長による永久歪みの発生は避けられなかった。よって、有機繊維コードを用いたベルトカバー層では、タイヤの高速耐久性や高周波ロードノイズ特性の更なる改善を図ることは困難であった。
【0004】
このような困難を克服するために、ベルトカバー層のコードとしてスチールコードを使用したラジアルタイヤについても提案されてきている。例えば、特許文献1には、ベルトカバー層(環状補強構造体)の補強コードとして、破断伸びが4〜8%で複撚り構造のHE(High Elongation)スチールコードを使用することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ベルトカバー層としての周方向ベルト層において、幅50mm幅あたりのスチールコードの断面積とコード打ち込み本数との積を3.0mm以上とすることで、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性を改良したラジアルタイヤが開示されている。
【特許文献1】特開昭56−82609号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2006−69338号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のラジアルタイヤでは、通常のベルトとベルトカバー層とにおいて張力負担が夫々2/3と1/3とで応力に抵抗するように作用するため、HEスチールコード以外の非伸長コードは力の分布に重大な混乱を生じることとなる。また、タイヤのタガ効果としての剛性等を十分に確保することが困難であり、耐久性等の面で問題があった。
【0007】
これに対し、特許文献2記載の周方向ベルト層を適用したラジアルタイヤでは、十分なタガ効果が得られることで、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性については良好な性能を得ることが可能である。しかし、一方で、重量等が増加して、転がり抵抗が増大し、ひいては自動車の燃費の低下につながるという問題を有している。また、ベルトカバー層の伸びが規制されるため、タイヤ加硫成形時にタイヤ内腔側からの圧力付与による金型への押し付け(拡張)が不十分となり、製造不良が生じる場合があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、製造不良を生じさせることなく、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性を改良するとともに、重量の増加を抑制し、転がり抵抗の増大を防止することで、燃費性能についても改良したラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、通常の交錯ベルト層の外周側に配置されるスチールコードからなる周方向ベルト層において、そのスチールコードの初期伸びをベルト幅方向で所定に変化させることにより、上記目的を達成し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のラジアルタイヤは、1枚以上のカーカスプライからなるラジアルカーカスと、該ラジアルカーカスのクラウン部の外周側に配設された3層以上のベルト層からなるベルトとを具え、前記ベルトが、互いに交錯して配置された2層の交錯ベルト層と、該2層の交錯ベルト層の外周側にタイヤ赤道面に対し実質上平行に複数本のスチールコードが配列された少なくとも1層の周方向ベルト層とを有するラジアルタイヤにおいて、
前記スチールコードの50Nまでの初期伸びが、前記周方向ベルト層の端部から20mm≦a≦L/4(Lは周方向ベルト層の総幅(mm)である)を満足する幅aまでの領域A内で0.5〜4.0%あり、かつ、それ以外の領域内で領域Aよりも大きいことを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記スチールコードとして、引っ張り強さ2700N/mm以上のスチール素線を撚り合わせてなるスチールコードを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成としたことにより、製造不良を生じさせることなく、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性を確保しつつ、転がり抵抗の増大を抑制した、特に長時間の高速走行に供される超高性能タイヤとして好適なラジアルタイヤを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るラジアルタイヤの、一部を破断除去して示す断面斜視図である。図示するラジアルタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部2と、各サイドウォール部2の内周側に連続するビード部3とを備えている。
【0014】
図示するように、トレッド部1、サイドウォール部2およびビード部3は、一方のビード部3から他方のビード部3にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカスプライからなるラジアルカーカス4により補強されている。また、トレッド部1は、ラジアルカーカス4のクラウン部の外周側に配設された2層の交錯ベルト層5a、5bと、これらベルト層のさらに外周側に配設された1層の周方向ベルト層5cとからなるベルト5により補強されている。
【0015】
ここで、ラジアルカーカス4のカーカスプライは複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば70〜90°の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。
【0016】
また、ラジアルカーカス4側のベルト層である2層の交錯ベルト層5a,5bは、そのコード打込み角度をタイヤ軸方向に対して好ましくは60°〜80°とし、かつ、互いに交錯するよう配設する。これら交錯ベルト層5a,5bのコードとしては、スチールを用いることができ、軽量性の観点からは、ポリアミド繊維等の有機繊維コードを好適に用いることができる。
【0017】
さらに、トレッド部1側のベルト層である周方向ベルト層5cは、そのコード打込み角度をタイヤ周方向に対して実質的に0°とする。すなわち、周方向ベルト層5cのコードは、タイヤ赤道面に対し実質上平行に配列させる。周方向ベルト層5cは、図示する例では1層であるが、複数層とすることもできる。
【0018】
本発明においては、周方向ベルト層5cを構成するスチールコードの50Nまでの初期伸びが、ベルト端部とベルトセンター部とで異なっている点が重要である。
【0019】
具体的には、本発明においては、周方向ベルト層5cを構成するスチールコードの50Nまでの初期伸びを、周方向ベルト層5cの端部から20mm≦a≦L/4(Lは周方向ベルト層の総幅(mm)である)を満足する幅aまでの領域A内では0.5〜4.0%、好ましくは1.0〜3.0%とし、かつ、それ以外の領域内で領域Aよりも大きくする。ここで、50Nとは、高速走行時やタイヤ加硫時にスチールコードが負担する張力を包含する値の代表値として定義したものである。
【0020】
この領域Aの幅aが、20mm未満であると、ベルト端部のタガ効果が小さくなり、結果として高速耐久性が低下する。一方、L/4を超えると、製造時にタイヤ内腔側からの圧力付与による拡張が困難になり十分な加硫ができず、ベアー等の製造不良を引き起こす可能性がある。
【0021】
また、領域A内でのスチールコードの50Nまでの初期伸び量が0.5%より小さいと、製造時にタイヤ内腔側からの圧力付与による拡張が困難になり、十分な加硫ができず、ベアー等の製造不良を引き起こす可能性がある。一方、4%を超えるとタガ効果が小さくなり、結果、高速耐久性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0022】
また、本発明においては、周方向ベルト層5cを構成するスチールコードの50Nまでの初期伸びを、領域A以外の領域内では領域Aよりも大きくする。これにより、製造不良を生じさせることなく、高速耐久性、ロードノイズおよび操縦安定性の優れた空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となる。
【0023】
特には、周方向ベルト層5cを構成するスチールコードの50Nまでの初期伸び量を、領域A以外の領域内では1〜6%とすることが好ましい。この量が1%未満であると、製造時にタイヤ内腔側からの圧力付与による拡張が困難になり、十分な加硫ができず、ベアー等の製造不良を引き起こす可能性がある。一方、この量が6%を超えるとタガ効果が小さくなり、結果、高速耐久性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0024】
本発明において、上記周方向ベルト層5cを構成するスチールコードとしては、引張り強さ2700N/mm以上、好適には3200〜4000N/mmのスチール素線を撚り合わせてなるスチールコードを好適に用いることができる。使用するスチール素線の引張り強さが2700N/mm未満であると、ベルト強力の低下を招き、プランジャーエネルギーなどの耐久性が悪化するおそれがある。
【0025】
なお、本発明において、上記周方向ベルト層5cの端部の領域Aとそれ以外の領域とでスチールコードの50Nまでの初期伸び量は、コードの太さや材質の変更の他、重量の増加を招くことなく、ピッチ等のコードの撚り条件やコードの蛇行等の条件を変更することで適宜調整することができ、その方法は特に制限されるものではない。例えば、各領域においてコード径0.15〜0.80mmのスチールコードを打ち込み数15〜170本/50mmで用いることができる。
【0026】
また、本発明において周方向ベルト層5cは、交錯ベルト5aより広いことが好ましく、より好ましくは、交錯ベルト層5a,5bより広く、該交錯ベルト層5a,5b全体を覆う形態とすることが好適である。交錯ベルト層5a,5bを周方向ベルト層5cで拘束することにより、ベルト端セパレーション故障を抑制することができ、より一層の耐久性の向上を図ることができる。また、同時に、タガ効果を良好に得ることができる結果、転がり抵抗性、耐久性および操縦安定性の向上を図ることもできる。
【0027】
かかる周方向ベルト層5cは、例えば、1本または複数本のスチールコードを引き揃えてゴム被覆した状態でタイヤ周方向に螺旋状に巻き付けることにより、容易に形成することができる。
【0028】
本発明のタイヤにおいては、上記スチールコードの初期伸びに係る条件を満足する点のみが重要であり、それ以外のタイヤ構造の詳細、各部材の材質等については、常法に従い、既知の構造および材料のうちから適宜選択して用いることができ、特に制限されるものではない。
【0029】
例えば、トレッド部1の表面には適宜トレッドパターンが形成され、タイヤの最内層にはインナーライナー(図示せず)が配置される。また、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または窒素等の不活性ガスを用いることが可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
図1に示すベルト構造を有するタイヤサイズ225/45R17の空気入りラジアルタイヤを、以下に従い製造した。
【0031】
ラジアルカーカス4は1枚とし、レーヨン繊維コードを用いた。また、2層の交錯ベルト層5a,5bはいずれも同じものとし、そのコードの打ち込み角度をタイヤ軸方向に対して+62°および−62°とし、スチールコードを用いた。さらに、周方向ベルト層5cは1層とし、下記表1,表2中に示す条件に従うスチールコードを用いた。なお、表中、端部領域Aとは、周方向ベルト層5cの端部から幅aまでの範囲を示し、センター領域とは、周方向ベルト層5cの端部領域A以外の範囲を示す。周方向ベルト層のスチールコードの伸びは、撚りピッチを変えることでコントロールしている。
【0032】
製造された各供試タイヤについて、以下の評価試験を実施した。その結果を、下記の表1、表2中に、併せて示す。なお、表1は端部からのベルト幅aを、表2は端部領域Aにおけるスチールコードの50Nまでの初期伸びを、それぞれ変えた場合の比較を示しており、それぞれ従来例1および従来例2をコントロールとして評価した。
【0033】
<タイヤ不良率>
タイヤ製造上一般的な内圧である20kgf/cmにて加硫した後のタイヤを、ベアー等の外観、タイヤ寸度、ゲージ等の調査にて10本中、何本不良が発生したかを表示した。数値が小なるほど良好である。
【0034】
<高速耐久試験>
各供試タイヤをリムサイズ7J×17のリムに装着し、空気圧を300kPaにして、JATMA規格のテスト法に準じたスピードステップ法にて、高速耐久試験を行った。結果は、夫々従来例1および従来例2のタイヤ故障時の速度を100として指数表示した。数値が大なるほど、結果は良好である。
【0035】
<コーナリングパワー(CP)試験>
下記試験方法に従いコーナリングパワーを測定し、夫々従来例1および従来例2のタイヤを100として指数表示した。数値が大なるほど結果が良好である。
コーナリングパワー試験は、各供試タイヤにJIS規格の正規内圧、荷重を負荷して、外径3000mmのドラム上に押し付け、速度30km/hで30分間予備走行させた後、再度内圧を正規値に調整した上で同一速度で走行させ、このときタイヤの転動方向とドラムの円周方向との間に正負最大14度の角度(スリップアングル)を連続してつけて、正負角度に対応するコーナリングフォース(CF)を測定することにより行った。この結果から、下記式により平均のコーナリングパワー値を算出して評価した。
CP={CF(1°)+CF(2°)/2+CF(3°)/3+CF(4°)/4}/4
【0036】
<走行時径成長試験>
各供試タイヤをリムサイズ7J×17のリムに装着し、空気圧を220kPaにして、160km/hにて500km走行させた後の周長を測定し、新品時との周長差を算出した。結果は、夫々従来例1および従来例2のタイヤを100として指数表示した。数値が小なるほど周長差が小さいことを表し、結果が良好である。
【0037】
<ロードノイズ試験>
下記試験方法に従いロードノイズを測定し、夫々従来例1および従来例2のタイヤを100とした時の指数で表示した。数値が小なるほどロードノイズが低く、優れている。
ロードノイズ試験は、各供試タイヤを7J×17のリムに組み、空気圧を220kPaにして排気量2000ccの乗用車に装着し、ロードノイズ計測器にて特定のロードノイズ試験路を走行したときの音圧を測定することにより行った。
【0038】
<転がり抵抗試験>
下記試験方法に従い転がり抵抗を測定し、夫々従来例1および従来例2のタイヤを100とした時の指数で表示した。数値が小なるほど転がり抵抗が小さく、優れていることを示す。
転がり抵抗試験は、外径が1707.6mm、幅が350mmのスチール平滑面を有する回転ドラムを用い、JIS規格の正規内圧、荷重450kgfの作用下で、速度0〜180km/hで回転させて測定する方法、いわゆる惰行法により行った。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
上記表1、表2に示すように、本発明に係る条件に従い周方向ベルト層にスチールコードを用いた各実施例のタイヤにおいては、従来例および比較例のタイヤに比し、タイヤ不良を生ずることなく、高速耐久性、コーナリングパワー、走行時径成長、ロードノイズおよび転がり抵抗のいずれの性能についても、優れていることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係るラジアルタイヤを、一部を破断除去して示す断面斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 ラジアルカーカス
5 ベルト
5a,5b 交錯ベルト層
5c 周方向ベルト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚以上のカーカスプライからなるラジアルカーカスと、該ラジアルカーカスのクラウン部の外周側に配設された3層以上のベルト層からなるベルトとを具え、前記ベルトが、互いに交錯して配置された2層の交錯ベルト層と、該2層の交錯ベルト層の外周側にタイヤ赤道面に対し実質上平行に複数本のスチールコードが配列された少なくとも1層の周方向ベルト層とを有するラジアルタイヤにおいて、
前記スチールコードの50Nまでの初期伸びが、前記周方向ベルト層の端部から20mm≦a≦L/4(Lは周方向ベルト層の総幅(mm)である)を満足する幅aまでの領域A内で0.5〜4.0%あり、かつ、それ以外の領域内で領域Aよりも大きいことを特徴とするラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記スチールコードが、引っ張り強さ2700N/mm以上のスチール素線を撚り合わせてなるスチールコードである請求項1記載のラジアルタイヤ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−137557(P2009−137557A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319201(P2007−319201)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】