説明

ラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法

【課題】 ラジカル重合性樹脂組成物を長期保存した場合でも適正なゲルタイムを保持し、高温での長期間保存時におけるゲル化を防止し、硬化性能を維持することができる長期保存方法を提供する。
【解決手段】 ラジカル重合性樹脂と硬化剤とを含むラジカル重合性樹脂組成物を長期間保存するにあたり、コバルト化合物、N,N'−ジメチルアセトアセトアミド及びトルハイドロキノンを添加剤として用いる方法であって、前記トルハイドロキノンの使用量が前記ラジカル重合性樹脂100重量部に対し0.001〜0.01重量部であることを特徴とするラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性樹脂組成物の硬化性能を維持することが可能な長期保存方法に関し、特に高温での長期保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂は、常温またはこれに近い温度で硬化させるためには、コバルトの有機酸塩からなる硬化促進剤の使用が不可欠である。
しかしこのコバルトの有機酸塩をベース樹脂に内添し、長期保存した場合、一般にゲルタイムドリフトと呼ばれる、ゲル化時間および硬化時間が遅延するという現象が発生する。
そこで、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂に、硬化促進助剤としてN,N'−ジメチルアセトアセトアミドを使用し、常温ないしそれに近い温度で硬化させると、硬化時間が短く、黄変の少ない硬化物が得られることが提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
しかし、これらの技術では、使用に際し硬化時間は短くなるが、常温での長期保存中や高温保存時にゲル化が生じるという問題があった。
また従来から重合禁止剤として、トルハイドロキノンを使用し、貯蔵安定性を向上させることが行われてきたが、多量に使用した場合にゲルタイムドリフトするという問題があった。
【特許文献1】特開平1―254722号公報
【特許文献2】特開平1−254723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ラジカル重合性樹脂組成物を長期保存した場合でも適正なゲルタイムを保持し、高温での長期間保存時におけるゲル化を防止し、硬化性能を維持することができる長期保存方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、ラジカル重合性樹脂組成物に特定のコバルト化合物及びアミン系化合物と特定量のキノン類とを添加すると、長期保存した場合でも適正なゲルタイムを保持し、高温貯蔵時のゲル化を防止することができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、ラジカル重合性樹脂と硬化剤とを含むラジカル重合性樹脂組成物を長期間保存するにあたり、コバルト化合物、N,N'−ジメチルアセトアセトアミド及びトルハイドロキノンを添加剤として用いる方法であって、前記トルハイドロキノンの使用量が前記ラジカル重合性樹脂100重量部に対し0.001〜0.01重量部であることを特徴とするラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ラジカル重合性樹脂組成物を長期保存した場合でも適正なゲルタイムを保持することができ、保存中高温になった場合にもゲル化を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法は、コバルト化合物を硬化促進剤として用い、かつN,N'−ジメチルアセトアセトアミドを硬化促進助剤として用い、かつトルハイドロキノンを重合禁止剤として用いることが特徴である。
かかるコバルト化合物としては、ナフテン酸コバルト(6%コバルト)、オクチル酸コバルト(8%コバルト)などの有機コバルト化合物が挙げられる。これらのうち、相溶性が良好であるという点で、ナフテン酸コバルトが好ましい。これらのコバルト化合物を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
またN,N'−ジメチルアセトアセトアミドは下記の化学構造式にて表される。
【0007】
【化1】

【0008】
またトルハイドロキノンは下記の化学構造式にて表される。
【0009】
【化2】

【0010】
本発明に使用するトルハイドロキノンは、ラジカル重合性樹脂100重量部に対し、0.001〜0.01重量部用いるものであり、好ましくは0.002重量部〜0.009重量部用いるものである。
また本発明に使用するN,N'−ジメチルアセトアセトアミドは、ラジカル重合性樹脂100重量部に対し、0.01〜0.18重量部用いることが好ましく、0.03重量部〜0.15重量部用いるのが特に好ましい。
また本発明に使用するコバルト化合物は、ラジカル重合性樹脂100重量部に対し、0.1〜2.0重量部であることが好ましく、0.3〜1.0重量部用いることが特に好ましい。
コバルト化合物、N,N'−ジメチルアセトアセトアミド及びトルハイドロキノンをそれぞれ、かかる範囲量用いることにより、ラジカル重合性樹脂組成物のゲル化を効果的に防止し、高温で長期間保存することが可能となる。
【0011】
本発明に使用するラジカル重合性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂等が挙げられる。これらのうち、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。
かかる不飽和ポリエステル樹脂は、α,β−不飽和カルボン酸又は場合により飽和カルボン酸を含むα,β−不飽和カルボン酸とアルコールとから得られるオリゴマーである。
【0012】
α,β−不飽和カルボン酸としては、例えばフマ−ル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロロマレイン酸、あるいはこれらのジメチルエステル類などが挙げられる。これらのα,β−不飽和カルボン酸はそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、飽和カルボン酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸などが挙げられる。これらの飽和カルボン酸はそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0013】
一方、アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、グリセリンモノアリルエーテル、水素化ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシプロボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどのジオール、トリメチロールプロパンなどのトリオール、ペンタエリスリトールなどのテトラオールなどが挙げられる。これらのアルコールはそれぞれ単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0014】
前記ビニルエステル樹脂としては、従来一般に慣用されている公知のエポキシ(メタ)アクリレート樹脂が使用できる。例えばビスフェノールタイプのエポキシ樹脂単独またはビスフェノールタイプのエポキシ樹脂とノボラックタイプのエポキシ樹脂とを混合したものと不飽和一塩基酸とを付加反応せしめたものが挙げられる。
ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンとビスフェノールAまたはビスフェノ―ルFとの反応により得られるグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂、メチルエピクロルヒドリンとビスフェノールAまたはビスフェノールFとの反応により得られるジメチルグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂あるいはビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とエピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂などが挙げられる。
ノボラックタイプのエポキシ樹脂としては、フェノールノボラックまたはクレゾールノボラックと、エピクロルヒドリンまたはメチルエピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0015】
不飽和一塩基酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、クロトン酸、モノメチルマレート、ソルビン酸あるいはモノ(2−エチルヘキシル)マレート等が挙げられる。これらの不飽和一塩基酸は単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0016】
本発明に使用するラジカル重合性樹脂組成物は、エチレン性不飽和単量体を含んでいることが好ましい。エチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。さらに、これらのほかに、例えば炭素数が1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸アミド、炭素数1〜4のアルキル基を有するマレイン酸エステル及びフマ−ル酸エステル等が挙げられる。これらのうち、耐水性が良好であるという点で、スチレンが好ましい。
【0017】
ラジカル重合性樹脂とエチレン性不飽和単量体との割合は、重量比でラジカル重合性樹脂:エチレン性不飽和単量体=40〜80:60〜20であることが好ましい。
【0018】
本発明に使用するラジカル重合性樹脂組成物は、さらに多官能性重合性単量体を含んでいてもよい。かかる多官能性重合性単量体としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
本発明に使用する硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えばジアリルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ハ
イドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ケトンパーオキサイド系、パー
オキシケタール系、アルキルパーエステル系、パーカーボネート系等の公知のものが使用
される。これらの硬化剤は、硬化温度により適時選択され、用いられる。
本発明におけるラジカル重合性樹脂組成物には、必要に応じて、有機系、無機系の着色剤、充填剤等を用いることができる。これらの例としては、チキソ性を付与するための乾式シリカや着色用トナーが挙げられる。
本発明の長期保存方法は、ラジカル重合性樹脂の常温硬化の分野、例えば繊維強化プラスチック、塗料、ライニング、注型等の分野で用いられる。
【実施例】
【0020】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、文中「部」「%」とあるのは、重量部、重量%を示すものである。
【0021】
合成例1
温度計、アンカー型攪拌翼及び冷却器を具備した5L三口フラスコで、エピクロン1050[ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応により得られたエポキシ当量が470のエポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製]4600g、メタクリル酸860g(エポキシ基/カルボキシル基=1/1モル比)とハイドロキノンの1.36g及びトリエチルアミンの10.8gを仕込んで、120℃まで昇温させ、同温度で10時間反応を続けた。サンプリングを行い、酸価が5.0以下、ガードナー色数が2以下であることを確認して冷却した。トルハイドロキノン25ppm、ナフテン酸銅10ppmを添加し、スチレンで希釈し、不揮発分60%の液状のビニルエステル樹脂を得た。このビニルエステル樹脂を以下VE−1という。
【0022】
実施例1、2及び比較例1、2
VE−1と硬化促進剤と硬化促進助剤と重合禁止剤とを表−1のとおり配合し、ラジカル重合性樹脂祖生物を作製した。
[測定方法及び評価基準]
<60℃貯蔵安定性>
実施例で得られたラジカル重合性樹脂組成物150gを、5号押蓋缶に入れ、60℃の恒温槽で保存し、4週間後まで状態変化を観察した。状態確認としては、「異常無し」、「増粘」、「ゲル化」の3水準とした。
<常温貯蔵安定性>
実施例で得られたラジカル重合性樹脂組成物20kgを、石油缶に入れ、危険物倉庫で保存し、配合直後から3ヵ月後まで状態変化を確認した。状態確認としては、「異常無し」、「増粘」、「ゲル化」の3水準とした。
<ゲルタイムの測定>
ゲルタイムは、JIS K6901 5.10.1[常温ゲル化時間(A法)]に基づいて測定した。またゲルタイム測定は、配合直後から3ヶ月後まで実施した。
【0023】
【表1】

注)表中の略号の説明
6%コバルト :6%ナフテン酸コバルト
DMAAM :ジメチルアセトアセトアミド
THQ :トルハイドロキノン
QS−20L :レオロシール QS−20L[(株)トクヤマ製]
55%MEKPO:55%メチルエチルケトンパーオキサイド
【0024】
合成例2
温度計、アンカー型攪拌翼及び冷却器を具備した5L三口フラスコに、ジエチレングリコール(DEG)3.5モル、テレフタル酸(TPA)1.2モル、アジピン酸(AA)0.5モル、ジブチル錫オキサイド1000ppmを仕込んで窒素気流下215℃で12時間反応を続け、ソリッド酸価が3以下になったところで、150℃まで冷却し、無水フタル酸0.8モル、無水マレイン酸1.0モルを仕込み、205℃まで昇温した。同温度で16時間反応を続けた。サンプリングは60%スチレン溶液で行い、酸価10〜20、ガードナー粘度K〜Lであることを確認して冷却した。トルハイドロキノン30ppm、ナフテン酸銅10ppmを添加し、スチレンで希釈し、不揮発分60%の液状の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂をUP−1という。
【0025】
実施例3及び比較例3
UP−1と硬化促進剤と硬化促進助剤と重合禁止剤とを表−2のとおり配合した。60℃貯蔵安定性、常温貯蔵安定性及びゲルタイム測定方法は、前記と同様である。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性樹脂と硬化剤とを含むラジカル重合性樹脂組成物を長期保存するにあたり、コバルト化合物、N,N'−ジメチルアセトアセトアミド及びトルハイドロキノンを添加剤として用いる方法であって、前記トルハイドロキノンの使用量が前記ラジカル重合性樹脂100重量部に対し0.001〜0.01重量部であることを特徴とするラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法。
【請求項2】
前記N,N'−ジメチルアセトアセトアミドの使用量が、ラジカル重合性樹脂100重量部に対し、0.01〜0.18重量部である請求項1記載のラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法。
【請求項3】
前記コバルト化合物が、ナフテン酸コバルトである請求項1又は2記載のラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載のラジカル重合性樹脂組成物の長期保存方法。

【公開番号】特開2007−91998(P2007−91998A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287022(P2005−287022)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】