説明

ラックアンドピニオン式ステアリング装置

【課題】ラック軸が揺動して傾動する場合でも、ハウジング内に収容されたラックガイドの摩耗を低減し、異音の発生がないラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】ラック軸3のラックとは反対側の円弧状のラック軸支持面11aを摺動可能に支持するラックガイド11とからなるステアリング装置において、ラックガイド11を弾性材料で構成するとともに、ラックガイド11の前記円弧状凹面11aの半径を前記ラック軸支持面の曲率半径Rより小さい曲率半径rで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン式ステリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の舵取りを行うステアリング装置として、操舵部材の回転操作に応じたピニオンの回転を、該ピニオンに噛合するラックを有するラック軸の軸長方向の移動に変換し、ラック軸の両端に連結された左右の前輪を押し引きして舵取りをおこなうように構成されたラックアンドピニオン式のステアリング装置が広く採用されている。このラックアンドピニオン式のステアリング装置は、一般的に、ラック軸に弾性接触し、前記噛合い部に与圧を加えるラックガイドを備えている。また、前記ラック及びピニオンは、大容量の負荷伝達とすべく、噛合い率が大きいはす歯に夫々形成してある。
【0003】
このようなラックピニオン式のステアリング装置においては、操舵時にラック及びピニオンの噛合いに伴って噛合い歯面に直行する方向の力が作用するため、ラック及びピニオンがはす歯に形成されているため、ラック軸の軸長方向に直行する方向の分力が発生し、この分力の作用により、ラック軸が軸回りに揺動する。
このようにラック軸が軸回りに揺動するとラックガイドとラック軸の接触面が変化するため、使用条件が過酷な場合、ラックガイドとラック軸の接触面に、片あたりが発生して摩耗が発生し、異音の発生が起こる場合がある。この接触面の変化を抑制するため、特許文献1にはラックガイドとラック軸の間にラックガイドシートを設け、このラックガイドシートの接触箇所を限定する接触面の形状を変えるものが提案されている。
また、特許文献2に開示の装置では、前記筒部にねじ込まれたねじ部材とラック軸との間に設けられたラックガイドがねじ部材に対して揺動可能に構成されている。この揺動可能な構成により、ラック軸が傾いてもラックガイドがラック軸の傾動に追随するため、ラックガイドがラック軸に片当たりすることが少なくなるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−312502号公報
【特許文献2】特開2010−18166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2のいずれの装置においても、ラック軸にかかる揺動荷重をラックガイドに設けた、コイル付勢ばねで支持する構造であり、ラックガイドへの荷重はピニオン軸へ向かう方向へのみに固定されているため、ラック軸が大きく傾動する場合は、ラックガイドにかかる軸方向以外の荷重とつりあうためにラック軸がラックガイドに対して揺動して、接触面が変化する。その時、軸方向と直角のラックガイド径方向の荷重が働くことになり、そのため、ラックガイド径方向の接触面の面圧が増加し、摩耗を発生する場合があり、結果として、ラックガイドとラック軸の間にすきまを発生して、ラックガイドを収容する前記筒部(収容ハウジング)の内周壁面に衝突し、異音が発生する場合がある。
本発明の目的は、ラック軸が揺動して傾動する場合でも、ラックガイドの摩耗を低減し、異音を抑制するラックアンドピニオン式のステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングに回転可能に支持されたピニオンと、該ピニオンに噛合うラックを有しかつ前記ハウジングを貫通するラック軸と、前記ラック軸の前記ラックとは反対側の円弧状のラック軸支持面を摺動可能に支持するラックガイドとからなるラックアンドピニオン式ステアリング装置において、前記ラックガイドを弾性材料で構成するとともに、前記ラックガイドの前記円弧状凹面の半径を前記ラック軸支持面の曲率半径より、小さい曲率半径で形成したことを要旨としている。
【0007】
本発明の構造によると、ラック軸が大きく傾動してもラックガイドの弾性復元力により、ラック軸に追従するためラックガイドの移動が起こらないため、ラック軸とラックガイドの接触面の変化は小さくなり、面圧分布の変化が起こらず均一当たりとなる。その結果、ラックガイドの摩耗が平滑に進むため、総摩耗量は少なくなり、異音を抑制できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記ラックガイドは、前記ラック軸支持面の中央部とその中央部の周辺である側面部とは弾性係数を異ならせたことを要旨としている。この構成により、ラックガイドがラック軸に同等のしめしろを与え、接触荷重が均等となり、ラック軸の傾きに追随して、接触面積の変化が小さく、面圧が均等となり、摩耗が平滑に進む為、総摩耗量は少なくなり、ラックガイド部と収容室の室形成壁面との衝突による異音を抑制するラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の構造によれば、ラック軸が揺動して傾動しても、ラックガイドの摩耗を低減し、異音を抑制するラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るラックアンドピニオン式ステアリング装置に用いられるラック軸支持装置の構成を示す部分断面図である。
【図2】ラックガイドの拡大図である。
【図3】別の実施形態のラック軸支持装置の構成を示す部分断面図である。
【図4】別の実施形態のラックガイドの拡大図である。
【図5】別の実施形態のラックガイドの組込み前後を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るラックアンドピニオン式ステアリング装置に用いられるラック軸支持装置の構成を示す部分断面図である。
図1中、ラックアンドピニオン式ステアリング装置1は、操舵ハンドル(図示せず)からの操舵力により回転するピニオン軸2と、ピニオン軸2に形成されたピニオン歯2aに噛合しているラック歯3aが形成されたラック軸3と、ラック軸3を支持しているラック軸支持装置10とを備えている。ラック軸3は、タイロッド(図示せず)を介して両端が操舵輪(図示せず)に接続されており、ピニオン軸2から伝達される回転力によって軸方向に沿って往復動を行い、前記操舵輪を操舵する。
【0012】
ラック軸支持装置10は、ラック軸3を往復動可能に収容しているハウジング4と、ハウジング4に設けられた案内部12と、案内部12にラック軸3方向に進退可能に収容されたラックガイド11と、ラックガイド11のプラグ側に案内孔13の外部側開口を塞ぐプラグ30とを備えている。
【0013】
プラグ30は、ラックガイド11のラック軸3のラック歯3aと反対側に配置され、外周面に雄ねじ部30bが設けられており、案内孔13の外部側開口に設けられた雌ねじ部13bに螺合し固定されている。プラグ30によりラックガイド軸方向の位置を規定することでラックガイド11とラック軸3との接触状態を調整可能になっている。
【0014】
ラックガイド11は、ほぼ円柱状に形成された部材であり、案内部12に進退可能に収容されラック軸3をピニオン軸2に対して押圧支持している。ラック軸3のラック軸支持面11aは、ラック軸3の断面形状に応じてその断面が円弧状凹面に形成されている。ラックガイド11は、ラック軸3に当接しており、軸方向に沿って往復動を行うラック軸3を背面から支持している。
【0015】
ラックガイド11は、ハウジング12内に組付けられてラック軸3をラック軸方向に移動可能に支持するためのものであり、ラック軸3のラック軸支持面の曲率半径Rより、小さい曲率半径の円弧状凹面で形成されており、ラック軸3の半径Rに対し弾性変形(変形による変位S)する弾性部分を有する半径r(=R−S)で形成されている。ラックガイド11は、それぞれ外周が円形であって、ハウジング12の内穴13に収容されている。
【0016】
図2に本発明のラックガイド構造をしめしているが、ラック軸支持面の中央部11cが弾性率が大きく側面部11b、11dが小さい構成になっており、弾性変形を与えたときに支持面が均等に接触して、ラック軸3とラックガイド11の面圧分布が均等になるようになっている。そのため、ラックガイド11bおよび11dの摺動面部に対して弾性部16が弾性変形することによりラックガイド11bおよび11dは大きく傾動可能である。
【0017】
上記のように構成したラック支持装置10においては、運転者による操舵ハンドルの操舵入力に伴って操舵軸およびピニオン2が回転し、このピニオン2の回転に伴って、ラック3がラック軸方向に移動して、左右前輪が転舵する。
【0018】
ところで、ピニオン2の回転時に、ハウジング4、ピニオン2、ラック3、ラックガイド11等の各部品の精度に伴って、例え軸、ラック3の軸線が軸方向に対して直角方向へ所定量傾斜するようにラック3が傾動することがあっても、ラックガイド11が揺動してラック3の動きに十分追従することが可能である。
【0019】
このため、ピニオン2の回転時に、ラック3がラック軸方向以外の方向に不必要に移動(上記した各傾動および上記した各移動を伴ってラック軸方向に移動することがあっても、ラックガイド11のラック3に対する十分な追従によって、ラック3の背面3bとラックガイド11のガイド溝11aの接触面の変化を小さくすることが可能である。したがって、上記した接触面の変化に伴う摩擦変動を抑制することができ、この摩擦変動に起因して生じるピニオン2のトルク変動(操舵トルクの変動)を抑制することが可能である。
【0020】
ラックガイド11は、しめしろS分だけハウジング内周面13aで接触して、内周軸方向に接触圧力が均等になるようになり、ラックガイド11bに近いほうで圧力が高くなっている。そのため、ピニオン側からの力に対して抵抗が大きくなり、ラックガイドの挙動の抵抗となっている。逆向きの力に対しては比較的動きやすいため、ラックの振動に対して、減衰させる効果があり、異音に対して抑制効果がある。
【0021】
次に、ラックガイド11’の別の実施例について図3に基づいて説明する。なお、図1に示したラック軸支持装置と同じ機構のものは同じ符号を付して説明はそれぞれ異なる構成について説明する。
図3において、ラックガイド11’がハウジング内周13aに嵌め込まれている状態で、最も拡径した状態を実線で示している。図4に示すように、ラックガイド11’には、図4に示す実施例の弾性部分は、ラックガイド11bとラックガイド11dの外周面にラック軸の軸方向に略並行に溝部11e、11fが形成されている。この環状溝11e、11fは、ラックガイド11’の軸方向の中間部であって、相対的にラック軸3と反対側に近い位置に形成されている。さらにラックガイド11’の円弧状凹面と反対側の面にラック軸3の軸方向に略並行に凹部11gが形成されている。これらの溝部11e、11f、11gが弾性変形することにより大きくラック軸3が傾動可能である。
【0022】
図5は、組込み時に弾性的に軸方向に移動する際の態様を説明するための図である。
図5に示すように、ラックガイド11’は、しめしろS分だけハウジング内周面13aで接触して、内周軸方向に接触圧力が均等になるようになり、ラックガイド11bおよび11dに近いほうで圧力が高くなっている。そのため、ピニオン側からの力に対して抵抗が大きくなり、ラックガイドの挙動の抵抗となっている。逆向きの力に対しては比較的動きやすいため、ラックの振動に対して、減衰させる効果があり、異音に対して抑制効果がでてくる。
【符号の説明】
【0023】
1 ラックアンドピニオン式ステアリング装置
2 ピニオン軸
3 ラック軸
4 ハウジング
10 ラック軸支持装置
11 ラックガイド
11a ラック軸支持面
11b ラックガイド中央部
11c ラックガイド側面部
11d ラックガイド:ラック軸支持部
11e 、f ラックガイド溝部
11g ラックガイド凹部
12 案内部
13 案内孔
13a 内周面
16 弾性体
30 プラグ(規制部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転可能に支持されたピニオンと、該ピニオンに噛合うラックを有しかつ前記ハウジングを貫通するラック軸と、前記ラック軸の前記ラックとは反対側の円弧状のラック軸支持面を摺動可能に支持するラックガイドとからなるラックアンドピニオン式ステアリング装置において、前記ラックガイドを弾性材料で構成するとともに、前記ラックガイドの前記円弧状凹面の半径を前記ラック軸支持面の曲率半径より、小さい曲率半径で形成したことを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
前記ラックガイドは、前記ラック軸支持面の中央部とその中央部の周辺である側面部とは弾性係数を異ならせたことを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−10457(P2013−10457A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145060(P2011−145060)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】