説明

ラックギア

【課題】
芯線の撚り戻し力に起因する捩れを防止したラックギアを提供する。
【解決手段】
本発明のラックギア10は、長手方向に配置された素線を一方向に撚った第1撚線50と、素線を第1撚線50とは逆方向に撚った第2撚線60とを樹脂材で被覆したものであって、第1撚線50と第2撚線60とが相互に平行に配置されているので、各撚線に撚り戻し力が発生したとしても、その撚り捩し力は他の撚線の撚り戻し力によって相殺されるため、ラックギアの捩れを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックギアに関する。
【背景技術】
【0002】
ラックギアは、従来からピニオンによって駆動される被駆動部品の一つとして種々の技術分野で使用されている。特に、近年では、OA機器や家電製品等の構成部品を駆動するために、湾曲された経路を含む複雑な形状の経路に配置されて使用される場合が多々ある。
【0003】
このような複雑な形状の経路に使用されるラックギアにおいては、力を伝達するための適度な剛性と、複雑な経路に沿って配置される適度な屈曲性とを備えることが必要である。また、ラックギアは、複雑な経路に配置された状態において長期間使用された場合においても変形が発生しにくいものである必要がある。
【0004】
そこで、このような要求を満たすために、長手方向に芯線を埋設した樹脂製ラックギアが使用されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、内部にワイヤが挿入された樹脂製ラックギアが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9‐108176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載されている樹脂製ラックギアにおいては、芯線の太さを太くすると屈曲性が低下するおそれがあり、芯線の太さを細くすると、剛性が低下するおそれがあった。
【0008】
また、特許文献1に記載の樹脂製ラックギアを、複雑な経路に配置した状態において長期間使用した場合には、ワイヤに変形が生じてしまうという問題があった。
【0009】
そこで、剛性、屈曲性及び対変形耐久性を備えた樹脂製ラックギアを実現するために、芯線のワイヤに、素線を撚って形成された撚線を使用することが提案されている。
【0010】
しかしながら、樹脂製ラックギアにこのような撚線を使用した場合には、撚線の撚り戻し力に起因して樹脂製ラックギアに捩れが発生するおそれがあった。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するために成されたものであり、その目的は、撚線の撚り戻し力に起因する樹脂製ラックギアの捩れを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本願請求項1に記載の発明は、長手方向に配置された芯線を樹脂材で被覆したラックギアにおいて、前記芯線は、素線を一方向に撚った第1撚線と、素線を前記第1撚線とは逆方向に撚った第2撚線とを平行に配置した構成とされていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のラックギアにおいて、前記芯線は、前記第1撚線と前記第2撚線とを対として、複数対配置した構成とされていることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のラックギアにおいて、前記第1撚線と前記第2撚線とは、ラックギアの幅方向に平行に配置した構成とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願請求項1に記載の発明によれば、ラックギアの長手方向に配置された芯線は、素線を一方向に撚った第1撚線と、素線を第1撚線とは逆方向に撚った第2撚線とを平行に配置した構成とされているので、各撚線に撚り戻し力が発生したとしても、その撚り捩し力は他の撚線の撚り戻し力によって相殺されるため、ラックギアの捩れを防止することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、芯線は、第1撚線と第2撚線とを対として、複数対配置した構成とされているので、本願請求項1に記載の発明の効果に加えて、ラックギアの剛性をさらに高めることができるとともに、対変形耐久性をさらに向上させることができる。
【0017】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、第1撚線と第2撚線とは、ラックギアの幅方向に平行に配置した構成とされているので、ラックギアの捩れをより確実に防止することができ、ピニオンとの噛合をより良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態におけるラックギアの透視斜視図である。
【図2】第1実施形態におけるラックギアの縦断面図である。
【図3】第1実施形態におけるラックギアの透視側面図である。
【図4】第2実施形態におけるラックギアの縦断面図である。
【図5】第3実施形態におけるラックギアの縦断面図である。
【図6】第4実施形態におけるラックギアの縦断面図である。
【図7】第5実施形態におけるラックギアの透視斜視図である。
【図8】第5実施形態におけるラックギアの透視側面図である。
【図9】第6実施形態におけるラックギアの透視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のラックギアを、図面に示す好適実施形態に基づいて説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態におけるラックギアの透視斜視図であり、図2は、第1実施形態におけるラックギアの縦断面図であり、図3は、第1実施形態におけるラックギアの透視側面図である。
【0021】
図1に示すように、ラックギア10は、第1撚線50と第2撚線60とを樹脂材で被覆した基部20と、その基部20の樹脂と同一の樹脂で一体的に形成された歯部30とから構成されている。
【0022】
第1撚線50は、金属素線を一方向(図1では、撚線の長手方向に対して時計方向)に撚った撚線であり、第2撚線60は、金属素線を第1撚線50とは逆方向(図1では、撚線の長手方向に対して反時計方向)に撚った撚線である。
【0023】
第1撚線50と第2撚線60とは、ラックギア10内で平行に配置されている。すなわち、第1撚線50は、金属素線を一方向に撚った撚線であるので、撚り戻し力が撚線の撚り方向とは逆方向に発生するが、その撚り戻し力は、第1撚線50に平行に配置され、金属素線を第1撚線50とは逆方向に撚った第2撚線によって相殺される。
【0024】
したがって、第1撚線50と第2撚線60とによってラックギア10の捩れを防止することができる。
【0025】
この効果は、ラックギア10が長尺のラックギアである場合に顕著に現れ、第1撚線50と第2撚線60とを、ラックギア10の長尺方向(長手方向)に沿って平行に配置すれば効果を奏するものである。
【0026】
なお、第1撚線50及び第2撚線60は、1本の金属素線を中央に配置し、その1本の金属素線の周りに6本の金属素線を配置した状態で撚ったものである。
【0027】
第1撚線50及び第2撚線60の複数の金属素線の構成については特に限定するものではないが、第1実施形態のように、1本の金属素線を中央に配置し、その周りに6本の金属素線を配置した状態で撚った撚線とすれば、他の金属素線の配置と比較してラックギア10の捩れを防止する効果を奏する。この効果は、金属素線の構成を、撚線の断面中心に対して点対称に配置すれば達成されるものであるが、本第1実施形態のように配置することがより少ない素線で、効果的にラックギア10の捩れを防止する効果を達成するものである。
【0028】
図2に示すように、第1撚線50と第2撚線60とは、ラックギア10の幅方向(図2では、左右方向)に対して平行に配置されている。第1撚線50と第2撚線60とをラックギア10の幅方向に対して平行に配置したので、ラックギアの捩れをより確実に防止することができ、ピニオンとの噛合をより良好にすることができる。
【0029】
基部20及び歯部30は、第1撚線50及び第2撚線60を予め金型の内部に配置し、樹脂材を金型に注入して成形する射出成形法によって形成される。
【0030】
なお、本実施形態では、樹脂材としてナイロン12を使用しているが、樹脂材はこれに限られるものではなく、用途に応じて他のポリアミド系樹脂などを適宜選択することができる。
【0031】
図3に示すように、歯部30は、ラックギア10の長手方向に山部32と谷部34とが交互に配置されている。歯部30には、他の歯車、例えば、ピニオンギア(図示せず)、が噛み合わされて、ラック&ピニオンとして駆動力を伝達することができる。
【0032】
また、図3に示すように、第1撚線50及び第2撚線60は、ラックギア10の底辺の長手方向に対して平行に配置されている。
【0033】
第1実施形態では、第1撚線50及び第2撚線60を金属素線で構成したが、この材料に限定されるものではなく、非金属の素線によって構成しても良く、樹脂の素線によって構成しても良い。
【0034】
但し、第1実施形態のように、第1撚線50及び第2撚線60を金属素線により形成すれば、より高い剛性を確保することができる。
【0035】
なお、第1実施形態における第1撚線50及び第2撚線60の金属素線は、ステンレス鋼線である。
【0036】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態におけるラックギアの縦断面図である。図4において、2組の第1撚線50及び第2撚線60は、ラックギア10の幅方向に併設されている。この場合の第1撚線50及び第2撚線60は、1対としてラックギア10の捩れを防止している。
【0037】
したがって、2組の第1撚線50及び第2撚線60をラックギアの幅方向に併設することによって、ラックギア10の捩れが防止されることは勿論、ラックギア10の剛性をさらに高めることができ、対変形耐久性をさらに向上させることができる。
【0038】
<第3実施形態>
図5は、第3実施形態におけるラックギアの縦断面図である。図5において、上下方向に併設された第1撚線50及び第2撚線60は、ラックギア10の幅方向に第1撚線50と第2撚線60の上下位置を変えて併設されている。この場合は、第2実施形態の発明に加え、第1撚線50及び第2撚線60は、上下及び左右方向にラックギア10の捩れを防止する効果を奏する。
【0039】
したがって、第1撚線50及び第2撚線60の上下を入れ替えてラックギア10の幅方向に併設することによって、ラックギア10の捩れをさらに防止することができるとともに、ラックギア10の剛性をさらに向上させることができる。
【0040】
<第4実施形態>
図6は、第4実施形態におけるラックギアの縦断面図である。図6において、第1撚線50は、基部20の右下角部に配置され、第2撚線60は、基部20の左上角部に配置されている。この場合においても、第1撚線50及び第2撚線60がラックギア10の長手方向に沿って平行に配置されている為、ラックギア10の捩れを防止することができる。
【0041】
<第5実施形態>
図7は、第5実施形態におけるラックギアの透視斜視図であり、図8は、第5実施形態におけるラックギアの透視側面図である。
【0042】
図7において、第1撚線50及び第2撚線60は、平面視では、ラックギア10の長手方向に平行に沿っているが、側面視では、先端側(図7左側)から後端側(図7右側)に向かって上下方向に傾いている(図8参照)。すなわち、第1撚線50及び第2撚線60は、先端側において上側に位置し、後端側において下側に位置するように配置されている。この場合においても、第1撚線50及び第2撚線60は、ラックギア10の長手方向に沿って平行に配置されている為、ラックギア10の捩れを防止することができる。
【0043】
<第6実施形態>
図9は、第6実施形態におけるラックギアの透視平面図である。図9において、第1撚線50及び第2撚線60は、側面視では、ラックギア10の底面に平行に配置されているが、平面視では、先端側(図9左側)から後端側(図9右側)に向かって左右方向に傾いている。すなわち、第1撚線50及び第2撚線60は、先端側において左側(図9上側)に位置し、後端側において右側(図9下側)に位置するように配置されている。この場合においても、第1撚線50及び第2撚線60は、ラックギア10の長手方向に沿って平行に配置されている為、ラックギア10の捩れを防止することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 ラックギア
20 基部
30 歯部
32 山部
34 谷部
50 第1撚線(Z撚線)
60 第2撚線(S撚線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に配置された芯線を樹脂材で被覆したラックギアにおいて、
前記芯線は、素線を一方向に撚った第1撚線と、素線を前記第1撚線とは逆方向に撚った第2撚線とを平行に配置した構成とされていることを特徴とするラックギア。
【請求項2】
前記芯線は、前記第1撚線と前記第2撚線とを対として、複数対配置した構成とされていることを特徴とする請求項1に記載のラックギア。
【請求項3】
前記第1撚線と前記第2撚線とは、ラックギアの幅方向に平行に配置した構成とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラックギア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−247311(P2011−247311A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119087(P2010−119087)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】