説明

ラテックス組成物

【課題】 引張り強度および伸びに優れ、且つ、耐熱性、耐候性にも優れた不織具、並びに、該結着繊維を得るための、分散安定性に優れたラテックス組成物を提供すること。
【解決手段】 脂肪族共役ジエン単量体15〜100重量%、およびこれと共重合可能な他の単量体85〜0重量%からなる単量体混合物を、乳化重合して得られる重合体ラテックス(A)と、融点が90℃以下であり、比重が0.95〜1.05であり、体積平均粒子径が1.5μm以下である、ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)と、を含んでなるラテックス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維結着用バインダーに好適なラテックス組成物に係り、さらに詳しくは、引張り強度および伸びに優れ、且つ耐熱性、耐候性にも優れた結着繊維を得るためのラテックス組成物、並びに該ラテックス組成物により結着された結着繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
水系のラテックスはその高い成膜性を利用して塗料、接着剤、繊維結着剤等の用途で、土木、建築、自動車、電気、電子等の広い分野に使用され、その使用場所も多岐にわたっている。なかでも、屋外で使用される場合には、光や熱によって、そのバインダー機能が長期に亘り低下しないことが要求されている。また、その使用方法によっては、長期間保存した後にバインダーとして使用される場合でも、そのバインダー機能が大きく変化しないことも要求されており、特に水系のラテックスにおいては、優れた分散安定性を有することが重要である。
【0003】
これに対し、特許文献1には、高カルボン酸ラテックスとN−メチロールアクリルアミド含有ラテックスとの組み合わせが開示されている。ここで得られた結着繊維は、引張り強度および伸びに優れるものの、更なる改良が求められている。
また、特許文献2には、融点が90℃以上であって、体積平均粒子径が特定の範囲にあるフェノール系安定剤乳化液が開示されている。しかしながら、当該フェノール系安定剤をラテックスに添加した場合には、分散安定性が不十分であり、経時で老化防止剤が沈降してしまう問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−263807号公報
【特許文献2】特開2004−224978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、たとえば、繊維結着用のバインダーとして使用され、引張り強度および伸びに優れ、且つ耐熱性、耐候性にも優れた結着繊維を提供し、且つ、該結着繊維を得るための分散安定性に優れたラテックス組成物を提供することである。また、本発明は、このラテックス組成物を繊維基材に付着してなる結着繊維を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、特定組成の単量体混合物を乳化重合して得られる重合体ラテックス(A)と、融点が90℃以下であり、比重が特定の範囲にあり、体積平均粒子径が1.5μm以下である、ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)と、を含んでなるラテックス組成物が、分散安定性に優れ、且つ該ラテックス組成物を用いると、引張り強度および伸びに優れ、且つ耐熱性、耐候性にも優れた結着繊維を提供できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るラテックス組成物は、
1. 脂肪族共役ジエン単量体15〜100重量%、およびこれと共重合可能な他の単量体85〜0重量%からなる単量体混合物を、乳化重合して得られる重合体ラテックス(A)と、
融点が90℃以下であり、比重が0.95〜1.05であり、体積平均粒子径が1.5μm以下である、ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)と、
を含んでなるラテックス組成物。
2. 前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の含有量が、前記重合体ラテックス(A)の固形分100重量部に対して、0.1〜4重量部である前記1に記載のラテックス組成物。
3. 前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)が3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル化合物である前記1または2に記載のラテックス組成物。
4. 前記重合体ラテックス(A)に、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の水分散液を混合することを特徴とする、前記1〜3のいずれかに記載のラテックス組成物の製造方法。
5. 前記1〜3のいずれかに記載のラテックス組成物により結着された結着繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明のラテックス組成物は、特定組成の単量体混合物を乳化重合することにより得られた重合体ラテックス(A)と、融点が90℃以下であり、比重が0.95〜1.05であり、体積平均粒子径が1.5μm以下である、ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)と、を含んでなる。そのため、引張り強度および伸びに優れ、且つ耐熱性、耐候性にも優れた結着繊維が得られる。また、その結着繊維を得るための分散安定性に優れたラテックス組成物を提供できる。また、本発明は、このラテックス組成物を繊維基材に付着してなる結着繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
重合体ラテックス(A)
本発明のラテックス組成物を構成する重合体ラテックス(A)は、
脂肪族共役ジエン単量体15〜100重量%、およびこれと共重合可能な他の単量体85〜0重量%からなる単量体混合物を、乳化重合して得られるラテックスであることが必須である。
また、本発明に用いる重合体ラテックス(A)の比重は、0.95〜1.05の範囲にあることが好ましく、使用する老化防止剤との比重差が0.05以下であることがより好ましい。
【0010】
脂肪族共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。
これらのなかでも、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらの脂肪族共役ジエン単量体は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができるが、得られる重合体ラテックスの比重を前記範囲とするため、クロロプレンなどのハロゲン含有脂肪族共役ジエン単量体を用いないことが好ましい。
脂肪族共役ジエン単量体の含有量は、全単量体単位100重量%に対して、15〜100重量%であり、18〜90重量%が好ましくは、20〜85重量%がより好ましい。
【0011】
脂肪族共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体としては、たとえば、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミドのメチロール誘導体などが挙げられる。
【0012】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。これらのなかでも、特に、スチレンが好ましい。
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかでも、特に、アクリロニトリルが好ましい。
【0013】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0014】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸およびそれらの無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
これらのなかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、特に、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ナトリウム塩、アンモニウム塩などの塩の状態で使用しても良い。
【0015】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、たとえば、アクリルアミド、メタアクリルアミドなどが挙げられる。
エチレン性不飽和カルボン酸アミドのメチロール誘導体としては、たとえば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。これらのなかでも、特にN−メチロールアクリルアミドが好ましい。
これらの脂肪族共役ジエン単量体と共重合可能なその他の単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
これら共重合可能なその他の単量体のなかでも、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体が好ましく、芳香族ビニル単量体及びエチレン性不飽和ニトリル単量体から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0017】
エチレン性不飽和ニトリル単量体を用いる場合には、全単量体に対して、10〜50重量%用いることが好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いる場合には、1〜5重量%用いることが好ましい。
【0018】
重合体ラテックス(A)を製造するための乳化重合の方法としては、特に限定されず、従来公知の乳化重合法を採用すれば良い。また、乳化重合に用いる重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤、水酸化ナトリウムやアンモニアなどのpH調整剤、分散剤、キレート剤、酸素捕捉剤、ビルダー、粒子径調節のためのシードラテックスなどの各種添加剤等は、従来公知の種類のものを適宜選択して用いることができる。また、これらの各添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
重合反応を行う際の重合温度も特に限定されず、通常の温度範囲で乳化重合し、所定の重合転化率で、重合停止剤を添加したり、重合系を冷却したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0020】
重合反応を停止した後、所望により、未反応単量体を除去し、ラテックスpHや固形分濃度を調整して、重合体ラテックス(A)を得る。
【0021】
本発明で用いる重合体ラテックス(A)には、公知の分散剤、増粘剤、老化防止剤、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、ブリスター防止剤、pH調整剤などを必要に応じて添加することができる。
【0022】
本発明で用いる重合体ラテックス(A)の重要平均粒子径は、1.5μm以下が好ましく、0.03〜1μmがより好ましく、0.05〜0.5μmが特に好ましい。
【0023】
本発明で用いる重合体ラテックスの粘度は、特に限定されるものではないが、取り扱い易さの点から1000mPa・s以下であることが好ましい。
また、本願で用いるヒンダードフェノール系老化防止剤(B)(以降、老化防止剤(B)と略記する場合がある。)は分散安定性に優れるため、粘度の低いラテックスに適用することも可能である。従って、粘度が、50mPa・s以下、さらには10mPa・s以下のラテックスにも好適に用いることができる。
【0024】
ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)
本発明のラテックス組成物は、前記重合体ラテックス(A)に加えて、後述する特定のヒンダードフェノール系老化防止剤(B)を含有させることにより、本願の効果が奏される。
【0025】
本発明で用いるヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の融点は90℃以下であることが必須であり、好ましくは30〜70℃であり、より好ましくは40〜60℃である。老化防止剤の融点が前記の範囲にあると、分散安定性に優れた分散液を得やすく、長期保存しても本願の効果を奏するものである。
本発明で用いるヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の比重は、0.95〜1.05であることが必須であり、好ましくは0.99〜1.03である。また、ヒンダードフェノール系老化防止剤の比重は使用するラテックスとの比重差が0.05以下であることが好ましい。老化防止剤の比重が前記範囲にあると、得られるラテックス組成物は分散安定性に特に優れる。
【0026】
本発明で用いる上記のヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の種類としては、モノフェノール系老化防止剤、ビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤、チオビスフェノール系老化防止剤等が挙げられる。なかでも、得られる粒子の体積平均粒子径が後述する本発明規定の範囲になり易いため、モノフェノール系もしくはビスフェノール系老化防止剤が好ましく、モノフェノール系老化防止剤が特に好ましい。モノフェノール系老化防止剤としては、2,6−ジ−tret−ブチル−4−メチルフェノール(融点69℃、比重1.05)、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール(液体、比重1.00)、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール(融点14℃、比重1.00)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(融点53℃、比重1.02)などの3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル化合物が挙げられ、中でも、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが特に好ましい。
【0027】
老化防止剤(B)の重合体ラテックス(A)への添加方法は、特に限定されないが、重合体ラテックスとの混合の容易さを考慮して、通常、重合体ラテックスに添加する前に、液状(分散体:エマルジョン又はディスパージョン)として添加される。その老化防止剤の分散体は、通常、エマルジョン法又は粉砕法によって調製される。
【0028】
エマルジョン法は、必要ならば、加熱して液状にした老化防止剤、乳化剤及び温水とを、十分に高速攪拌して、エマルジョンとして調製する方法である。
【0029】
粉砕法には、ターボミル、ジェットミル等を用いる乾式粉砕と、コロイドミル等を用いる湿式粉砕法がある。粉砕による到達粒径が小さいこと及び粉砕時の発熱が少ないことから湿式粉砕法が好ましく、これらのなかでも、メディア式湿式粉砕法が好ましい。メディア式湿式粉砕法では、ボールミル、高速ビーズミル等を用いることが可能である。これらのなかでも高速ビーズミルによる粉砕が好ましい。
【0030】
本発明で用いるヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の、体積平均粒子径は、1.5μm以下であることが必須であり、好ましくは0.08〜1.3μmであり、より好ましくは0.1〜1.0μmである。体積平均粒子径が前記範囲内にあると、長期間保存しても沈降することがなく、分散安定性に優れ、ラテックス組成物として長期に保存した後に使用された場合であっても、耐熱性、耐候性に優れた結着繊維を得ることができる。
【0031】
本発明で用いるヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の含有量は、前記重合体ラテックス(A)の固形分100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の含有量が少なすぎると、耐熱性や耐候性の効果が得難くなる。一方、多すぎると、ラテックスの分散安定性を低下させる場合がある。
【0032】
ラテックス組成物の調製
本発明のラテックス組成物は、前記した重合体ラテックス(A)に、前記のヒンダードフェノール系老化防止剤(B)を添加することにより調製できる。
【0033】
また、本発明のラテックス組成物には、たとえば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機塩;ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどの分散剤;ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなどの消泡剤;ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレン・アルキルエーテルフォスフェートなどの浸透剤;エポキシ基を有する化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エチレン尿素化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂などの架橋剤;防腐剤、抗菌剤、増粘剤、pH調整剤、ホルマリンキャッチャー、前記以外の老化防止剤などの助剤を適宜配合することができる。
【0034】
結着繊維
本発明の結着繊維は、上述した本発明のラテックス組成物により結着されたものであり、具体的には、該ラテックス組成物を、例えば不織布などの繊維基材に付着してなるものである。
本発明のラテックス組成物を繊維基材に付着させる方法は、特に限定されず、たとえば、ラテックス組成物を、繊維基材の片面または両面に噴霧する方法、繊維基材をラテックス組成物に浸漬する方法などを採用することができる。
【0035】
前記の方法にて、ラテックス組成物を結着繊維に付着させた後、乾燥し、必要に応じて、100〜200℃で加熱すことにより、繊維同士が結着されて十分な強度を有する結着繊維が得られる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。これらの例中の〔部〕および〔%〕は、特に断わりのない限り重量基準である。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
重合体ラテックスの体積平均粒子径
重合体ラテックスの体積平均粒子径は、粒子径測定機(コールターLS230:コールター社製)を用いて測定した。
比重
重合体ラテックスおよびラテックス組成物の比重は、浮秤を用いて、23℃で測定した。
【0038】
分散安定性
100mlの密閉式ガラス容器に、得られたラテックス組成物を100ml添加し室温で静置した。老化防止剤の沈降状態を目視にて経時観察し、試験を開始した日から、沈降が確認されるまでの日数を測定した。沈降が確認されるまでの日数が長いほど、分散安定性に優れる。
【0039】
引張り強度および伸び
得られたラテックス組成物を、蒸留水で固形分濃度20%に希釈し、そこへ、繊維基材である18cm×13cmの濾紙(ADVANTEC社製No2)を浸漬し、次いで、マングルロールにて絞り、130℃で10分の条件で熱風循環式乾燥機にて乾燥して、結着繊維を得た(目付け量:25g/m)。得られた結着繊維を、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室に24時間放置して調湿した後、幅2cm、長さ13cmの長方形に裁断して、引張り強度および伸び測定用の試験片を作製した。得られた試験片を、テンシロン万能試験機(RTC−1125A ORIENTIC製)により、荷重20kg、チャック間距離10cm、引張速度100mm/分の条件で、破断するまで引張り試験を行い、破断時の引張り強度と伸びを測定した。なお、本実施例においては、1種類の試料につき、6つのサンプルについて行い、その測定結果を平均することにより求めた。
【0040】
白色度
各試験片について、JIS P8148−1993規定の方法により、分光色彩白色度計(PF10:日本電色工業社製)を用いてISO白色度を測定した(単位:%)。数値が大きい方が白色度に優れている。
耐熱性
各試験片をオーブンを使用して、大気雰囲気中、180℃で10分間加熱した。加熱後の試験片を用いて前記引張り試験、白色度測定を実施した。加熱前後の測定値の変化が小さいほど、耐熱性に優れる。
【0041】
耐候性
フェードメーターを使用して、紫外線ロングライフカーボンアーク灯で紫外線照度2mJ/mの条件で、各試験片に24時間紫外線を照射した。紫外線照射後の試験片を用いて、前記引張り試験、白色度測定を実施した。紫外線照射前後の測定値の変化が小さいほど、耐候性に優れる。
【0042】
実施例1
重合体ラテックスの製造
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、スチレン:72部、1,3−ブタジエン:24部、メタクリル酸:2部、N−メチロールアクリルアミド:2部、アルキルジフェニルオキシドジスルホン酸塩(ダウファックス2A1、アニオン性界面活性剤、ダウケミカル社製):1部、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物:0.5部、t−ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤):0.2部、キレート剤(キレスト400G 中部キレスト(株)製)0.05部、塩化カリウム:0.3部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を45℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。重合転化率が70%に達したとき、反応温度を55℃に昇温した。反応温度を55℃に維持しながら、重合転化率が97%に達するまで、重合反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、未反応単量体を除去した。その後、固形分濃度を45%、ラテックスpHを7.5に調整することにより、重合体ラテックス(A1)を得た。なお、ラテックスpHの調整は、10%アンモニア水溶液を用いた。
【0043】
老化防止剤分散液の製造
円筒状のガラス性容器に、イオン交換水:110部、アニオン性乳化剤(ラウリルベンゼンスルフォン酸ナトリウム):10部を加え、TKホモミキサー(4D型:特殊機化工業製)にて、100rpmで6分間攪拌し、70℃に昇温した後、回転数を900rpm迄上げた。そこへ、老化防止剤(オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート):100部を徐々に加えた。添加終了後さらに40分間そのままの条件下で攪拌を続け、その後水冷して、固形分濃度50%の分散液を調製した。この時の体積平均粒子径は0.60μmであった。
【0044】
ラテックス組成物の製造
次いで、重合体ラテックス(A1)に、前記で製造した老化防止剤の分散液を2.0部(有効成分)添加し、ラテックス組成物を製造した。さらに、得られたラテックス組成物を1,000mlの容器に入れ、室温で80日間静置した。
得られたラテックス組成物の分散安定性、および静置したラテックス組成物の上澄みを用いて得られた結着繊維の引張り強度、伸び、耐熱性および耐候性を測定し、その結果を表1に示す。
【0045】
実施例2
重合仕込み組成を、スチレン:45部、1,3−ブタジエン:51部、メタクリル酸:2部、アクリル酸:1部、N−メチロールアクリルアミド:1部に変更した以外は、重合体ラテックス(A1)と同様にして重合体ラテックス(A2)を得た。
重合体ラテックス(A1)の代わりに、重合体ラテックス(A2)を、および老化防止剤の添加量を2.5部とした以外は、実施例1と同様にラテックス組成物を製造し、各種測定を実施した。その評価結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
老化防止剤の分散液を高速ビーズミル法により以下の要領で調整した。円筒状の容器に、イオン交換水:110部、アニオン性乳化剤(リニアアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム):10部、老化防止剤として、4,4’−ブチリデン−ビス−(3-メチル−6−tert−ブチルフェノール):100部及びジルコニア製の直径0.5mmビーズ(挿入量:ミル容積の80%)を入れ、室温下、10000rpmで5時間、リングミル分散機(RG−100:荒木鉄工社製)を用いて分散させて、固形分濃度50%の分散液を調整した。この時の体積平均粒子径は0.65μmであった。
老化防止剤の分散液の種類を上記分散液に変更した以外は、実施例1と同様にラテックス組成物を製造し、各種測定を実施した。その評価結果を表1に示す。
【0047】
比較例2
老化防止剤の種類を、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物に変更した以外は比較例1と同様にして、老化防止剤の分散液を調整した。この時の体積平均粒子径は0.85μmであった。
さらに、実施例1と同様にラテックス組成物を製造し、各種測定を実施した。その評価結果を表1に示す。
【0048】
比較例3
重合体ラテックス(A1)の代わりに、重合体ラテックス(A2)を、また、TKホモミキサーの回転数を900rpmから、700rpmに変更した以外は、実施例1と同様にラテックス組成物を製造し、各種測定を実施した。その評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から、以下のことが確認できる。
ヒンダードフェノール系老化防止剤の融点が本願規定の範囲を外れると、耐候性に劣ることが分かる(比較例1)。
ヒンダードフェノール系老化防止剤の比重、又は体積平均粒子径が本願規定の範囲を外れると、分散安定性、耐熱性および耐候性に劣ることが分かる(比較例2および3)。
【0051】
これに対して、本発明のラテックス組成物は、80日以上放置しても沈降が見られず、分散安定性に優れ、得られる結着繊維は、引張り強度および伸びに優れ、且つ、耐熱性、耐候性にも優れることがわかる。(実施例1および2)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン単量体15〜100重量%、およびこれと共重合可能な他の単量体85〜0重量%からなる単量体混合物を、乳化重合して得られる重合体ラテックス(A)と、
融点が90℃以下であり、比重が0.95〜1.05であり、体積平均粒子径が1.5μm以下である、ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)と、
を含んでなるラテックス組成物。
【請求項2】
前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の含有量が、前記重合体ラテックス(A)の固形分100重量部に対して、0.1〜4重量部である請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)が3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル化合物である請求項1または2に記載のラテックス組成物。
【請求項4】
前記重合体ラテックス(A)に、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(B)の水分散液を混合することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のラテックス組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のラテックス組成物により結着された結着繊維。







【公開番号】特開2007−270057(P2007−270057A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100141(P2006−100141)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】