説明

ランフラットタイヤ

【課題】乗り心地およびランフラット性能をともに向上させることができるランフラットタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、平均繊維径が1〜100μmであり、平均繊維長が0.1〜20mmである非金属短繊維を5〜120重量部含有するゴム組成物を用いたサイドウォール補強層であって、非金属短繊維がタイヤの周方向に配向したサイドウォール補強層を有するランフラットタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、サイドウォール部の内側に配置されている高強度のサイド補強層(補強層)を有するランフラットタイヤが実用化され、パンクにより空気圧が失われた(内圧ゼロ)状態になっても、タイヤの剛性を維持し、繰り返し屈曲を受けた場合にも、ゴムの破損を軽減し、ある程度の距離を安全に走行できるようになった。これにより、スペアタイヤを常備する必要性がなくなり、車輌全体における重量の軽量化が期待できる。しかし、ランフラットタイヤのパンク時におけるランフラット走行には、速度、距離の制限があり、さらなるランフラットタイヤの耐久性(ランフラット耐久性)の向上が望まれている。
【0003】
ランフラット耐久性を向上させる方法としては、補強層を厚くすることにより変形を抑え、変形による破壊を防ぐ方法があげられる。しかし、タイヤの重量が大きくなるため、ランフラットタイヤの当初の目的である軽量化に反する。
【0004】
また、カーボンブラックなどの補強用充填剤を増量することで補強用ゴムを硬くし、変形を抑える方法もあるが、混練り、押出し等の工程において、混練機の負荷が大きくなり、また、加硫後物性において発熱が大きくなることから、ランフラット耐久性の向上は期待できない。
【0005】
特許文献1には、所定のゴム成分、カーボンブラックおよびシリカを所定量含有するゴム組成物を用いて、所定の方法により作製した補強ゴム層を有することで、タイヤ振動を低減させ、ランフラット性能をともに向上させたランフラットタイヤが開示されているが、非金属短繊維を含有していないため、ランフラット性能およびタイヤ振動の低減において、充分なものとはいえない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−280534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乗り心地およびランフラット性能をともに向上させることができるランフラットタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、平均繊維径が1〜100μmであり、平均繊維長が0.1〜20mmである非金属短繊維を5〜120重量部含有するゴム組成物を用いたサイドウォール補強層であって、非金属短繊維がタイヤの周方向に配向したサイドウォール補強層を有するランフラットタイヤに関する。
【0009】
サイドウォール補強層において、70℃で測定したタイヤの周方向の複素弾性率E1、ならびにタイヤの径方向の複素弾性率E2およびその損失弾性率E2”が下記式:
E1≧12MPa
E1/E2≧1.5
E2”/(E2)2≦7.0×10-9Pa-1
を満たすことが好ましい。
【0010】
前記非金属短繊維は、グラスファイバーまたはカーボンファイバーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のランフラットタイヤは、ジエン系ゴムおよび所定の非金属短繊維を所定量含有したゴム組成物を用いて、該非金属短繊維がタイヤの周方向に配向したサイドウォール補強層を有することで、乗り心地およびランフラット性能をともに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のランフラットタイヤで使用するゴム組成物は、ジエン系ゴムおよび非金属短繊維を含有する。
【0013】
ジエン系ゴムとしては、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム(SPB含有BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、スチレンイソプレンゴム、イソプレンブタジエンゴムなどがあげられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、耐屈曲疲労特性に優れるという理由から、NRおよび/またはBRが好ましく、NRおよびBRがより好ましい。
【0014】
NRとしては、従来ゴム工業で使用されるRSS♯3、TSR20などのグレードのNRを用いることができる。
【0015】
NRを含有する場合、ゴム成分中のNRの含有率は20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。NRの含有率が20重量%未満では、加工性が悪化する傾向がある。また、NRの含有率は80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。NRの含有率が80重量%をこえると、耐熱性および耐屈曲疲労特性が低下する傾向がある。
【0016】
BRとしては、高硬度であり、かつ、低発熱性に優れるという理由から、SPB含有BRが好ましい。
【0017】
SPB含有BR中のSPBの含有率は1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましい。SPBの含有率が1重量%未満では、充分な剛性が得られない傾向がある。また、SPBの含有率は25重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。SPBの含有率が25重量%をこえると、シンジオタクチック成分がポリブタジエン中で凝集塊をつくるため、耐久性が低下する傾向がある。
【0018】
BRを含有する場合、ゴム成分中のBRの含有率は20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。BRの含有率が20重量%未満では、耐屈曲疲労特性が低下する傾向がある。また、BRの含有率は80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。BRの含有率が80重量%をこえると、加工性が低下する傾向がある。
【0019】
非金属短繊維としては、たとえば、グラスファイバー、カーボンファイバーなどの非金属無機短繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ウレタン繊維、アラミド繊維などの非金属有機短繊維があげられ、これらの非金属繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、引張方向にも、圧縮方向にも、剛性が高いという理由から、非金属無機短繊維が好ましく、グラスファイバーがより好ましい。
【0020】
非金属短繊維の平均繊維径は1μm以上、好ましくは10μm以上である。非金属短繊維の平均繊維径が1μm未満では、複素弾性率が向上しないため、サイドウォール補強層を薄くできず、乗り心地を向上させることができない。また、非金属短繊維の平均繊維径は100μm以下、好ましくは50μm以下である。非金属短繊維の平均繊維径が100μmをこえると、非金属短繊維の分散性が悪化し、ゴムとの接着力が低下する。
【0021】
非金属短繊維のゴム中における平均繊維長は0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上である。非金属短繊維のゴム中における平均繊維長が0.1mm未満では、非金属短繊維を含有することによる配向方向の剛性向上の改善効果が不充分である。また、非金属短繊維のゴム中における平均繊維長は20mm以下、好ましくは10mm以下である。非金属短繊維のゴム中における平均繊維長が20mmをこえると、非金属短繊維の分散性が悪化する。
【0022】
非金属短繊維の含有量は、ゴム成分100重量部に対して5重量部以上、好ましくは10重量部以上である。非金属短繊維の含有量が5重量部未満では、非金属短繊維を含有することによる配向方向の剛性向上の改善効果が不充分である。また、非金属短繊維の含有量は120重量部以下、好ましくは100重量部以下である。非金属短繊維の含有量が120重量部をこえると、加工性が悪化する。
【0023】
本発明のゴム組成物には、前記ゴム成分および非金属短繊維以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックなどの補強剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、各種老化防止剤、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを、必要に応じて適宜配合することができる。
【0024】
非金属短繊維は、サイドウォール補強層中でタイヤの周方向に配向させることにより、タイヤの周方向の複素弾性率を向上させることができ、ランフラット性能を向上させることが可能となる。
【0025】
図1は、サイド部補強ゴム層を有する本発明のランフラットタイヤの部分断面図である。前記サイド部補強用ゴム組成物は、ランフラットタイヤの部分断面図である図1に示すように、ランフラットタイヤ1のサイド部補強ゴム層2に用いる。サイド部補強ゴム層2は、サイドウォール部3に配置されることで、タイヤの剛性を向上させることができる。サイド部補強ゴム層2の配置形態としては、具体的には、カーカスプライ4の内側に接し、かつ、ビードエーペックス5に隣接し、ビード部からショルダー部にわたって配置される両端方向に厚さを漸減する三日月状のゴム層があげられる。
【0026】
本発明のランフラットタイヤは、押出機で作製したサイドウォール補強ゴムの部材を成型する他、ゴムストリップをタイヤ周方向に沿って巻きつけることで形成されるサイドウォール補強ゴム層を加硫することにより得ることもできる。具体的には、必要に応じて、前記配合剤を適宜配合したゴム組成物から、未加硫の状態で、所定サイズのゴムストリップを作製することで、前記非金属短繊維を一方向に配向させた未加硫のゴムストリップを作製する。次に、未加硫カーカスの側面に、タイヤ軸を中心として渦巻き状に巻きつけることにより未加硫サイドウォール補強層を形成し、さらに、他のタイヤ部材とともに貼りあわせ、未加硫タイヤを形成し、該未加硫タイヤを加硫することにより、本発明のランフラットタイヤが得られる。
【0027】
前記方法で本発明のランフラットタイヤを製造することで、前記非金属繊維をタイヤ周方向に配向させることができる。
【0028】
前記ゴムストリップの幅は0.5cm以上が好ましく、1cm以上がより好ましい。ゴムストリップの幅が0.5cm未満では、生産性に劣る傾向がある。また、ゴムストリップの幅は5cm以下が好ましく、3cm以下がより好ましい。ゴムストリップの幅が5cmをこえると、精度よくサイドウォール補強層を形成させることが困難なため、均一性に劣る傾向がある。
【0029】
前記ゴムストリップの厚さは0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。ゴムストリップの厚さが0.5mm未満では、生産性に劣る傾向がある。また、ゴムストリップの厚さは5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。ゴムストリップの厚さが5mmをこえると、ストリップ間の段差が大きくなり、均一性に劣る傾向がある。
【0030】
前記製造方法で製造された本発明のランフラットタイヤは、非金属短繊維をタイヤの周方向に配向させることが可能となり、それにより、弾性率を向上させることができ、また、弾性率が向上した分サイドウォール部補強層の厚さを薄くすることができることから、ランフラット耐久性および乗り心地をともに向上させることができる。
【0031】
本発明のランフラットタイヤのサイドウォール補強層のタイヤの周方向の複素弾性率(E1)は、12MPa以上が好ましく、15MPa以上がより好ましく、20MPa以上がさらに好ましい。E1が12MPa未満では、ランフラット性能の改善効果が不十分である傾向がある。また、E1は150MPa以下が好ましく、120MPa以下がより好ましい。E1が150MPaをこえると、サイドウォール部の柔軟性がなくなり、乗り心地が悪化する傾向がある。
【0032】
また、本発明のランフラットタイヤのサイドウォール補強層のタイヤの径方向の複素弾性率(E2)は8MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましい。E2が8MPa未満では、ランフラット走行する際に必要な剛性が得られず、耐久性が低下する傾向がある。また、E2は100MPa以下が好ましく、80MPa以下がより好ましい。E2が100MPaをこえると、サイドウォール部の柔軟性がなくなり、乗り心地が悪化する傾向がある。
【0033】
また、E1およびE2は、下記式を満たすことが好ましい。
1.5≦E1/E2
【0034】
E1/E2は1.5以上が好ましく1.8以上がより好ましい。E1/E2が、1.5未満では、ランフラット耐久性および乗り心地を同時に向上させることが難しい傾向がある。
【0035】
また、E2および本発明のランフラットタイヤのサイドウォール補強層のサイドウォール補強層の厚さ方向の損失弾性率(E2”)は、下記式を満たすことが好ましい。
E2”/(E2)2≦7.0×10-9[Pa-1
【0036】
E2”/(E2)2は7.0×10-9Pa-1以下が好ましく6.0×10-9Pa-1以下がより好ましい。E2”/(E2)2が7.0×10-9Pa-1をこえると、ランフラット走行時に、変形によって発熱しやすく、ゴムの熱劣化を促進し、破壊に至ってしまう傾向がある。
【0037】
具体的には、E1、E2およびE2”は、サイドウォール補強層から、所定の大きさの試験片を切り出し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて測定する方法などがあげられる。
【0038】
サイドウォール補強層の厚さは3mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましい。サイドウォール補強層の厚さが3mm未満では、ランフラット走行時の剛性が確保できず、耐久性が低下する傾向がある。また、サイドウォール補強層の厚さは15mm以下が好ましく、12mm以下がより好ましい。サイドウォール補強層の厚さが15mmをこえると、質量が重くなり、乗り心地が低下する傾向がある。
【実施例】
【0039】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0040】
次に、実施例および比較例で使用した各種薬品をまとめて説明する。
天然ゴム(NR):RSS♯3
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のVCR412(SPB含有BR、SPBの含有率:12重量%、SPBの平均粒子径:250nm)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックE(N550)
グラスファイバーA:エヌエスジー・ヴェトロテックス(株)製のマイクログラスチョップドストラント(平均線維径:33μm、平均繊維長:6mm)
グラスファイバーB:エヌエスジー・ヴェトロテックス(株)製のマイクログラスチョップドストラント(平均繊維径:11μm、平均繊維長:6mm)
カーボンファイバー:(株)クレハ製のクレカチョップC−106T(平均繊維径:18μm、平均繊維長:6mm)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6CN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
不溶性硫黄:四国化成工業(株)製のミュークロンOT
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0041】
実施例1〜4、比較例1および2
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、バンバリーミキサーを用いて、120℃の条件下で2分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、未加硫ゴム組成物を、幅3cm、厚さ1mmのテープ形状に押出し、ランフラットタイヤのサイドウォール補強層の形状に螺旋状に巻き付け、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成し、165℃の条件下で20分間プレス加硫することで、実施例1〜4、比較例1および2のランフラットタイヤ(タイヤサイズ:245/40ZR18)を製造した。
【0042】
(粘弾性試験)
製造したランフラットタイヤのサイドウォール補強層から、所定サイズのゴム試験片を切り出し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて、初期歪10%、動歪1%、振動周波数10Hzおよび温度70℃の条件下で、タイヤの周方向の複素弾性率(E1)ならびにタイヤの径方向の複素弾性率(E2)およびその損失弾性率(E2”)を測定し、さらに、E1/E2およびE2”/(E2)2を算出した。
【0043】
(ランフラット性能)
空気内圧を0kPaにし、ドラム上を80km/hで走行させ、タイヤが破壊されるまでの走行距離を測定し、比較例1のランフラット性能指数を100とし、下記計算式により、各配合の走行距離を指数表示した。ランフラット性能指数が大きいほど、ランフラット耐久性に優れることを示す。
(ランフラット性能指数)=(各配合の走行距離)
÷(比較例1の走行距離)×100
【0044】
(乗り心地)
製造した試験用タイヤを車に装着させ、テストコースにて走行し、その際の乗り心地の評価を行なった。なお、評価は10点満点で行い、3人のテストドライバーの評点の平均値を算出した。
【0045】
上記試験の評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】サイド部補強ゴム層を有する本発明のランフラットタイヤの部分断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ランフラットタイヤ
2 サイド部補強ゴム層
3 サイドウォール部
4 カーカスプライ
5 ビードエーペックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、
平均繊維径が1〜100μmであり、平均繊維長が0.1〜20mmである非金属短繊維を5〜120重量部含有するゴム組成物を用いたサイドウォール補強層であって、非金属短繊維がタイヤの周方向に配向したサイドウォール補強層を有するランフラットタイヤ。
【請求項2】
サイドウォール補強層において、70℃で測定したタイヤの周方向の複素弾性率E1、ならびにタイヤの径方向の複素弾性率E2およびその損失弾性率E2”が下記式:
E1≧12MPa
E1/E2≧1.5
E2”/(E2)2≦7.0×10-9Pa-1
を満たす請求項1記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
非金属短繊維がグラスファイバーまたはカーボンファイバーである請求項1または2記載のランフラットタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−326559(P2007−326559A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115569(P2007−115569)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】