説明

ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及びその成形物

【課題】熱板溶着の際に、熱板等の熱型とハウジング構成材料との間に糸曳きの発生を抑制することができるとともに、成形物の表面にアンダーコート処理を施すことなく、直接、金属を蒸着させるダイレクト蒸着法を用いた際に、美麗な光輝外観を得ることができるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及びその成形物を提供する。
【解決手段】ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含有する複合ゴム(a)の存在下に、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃を超える(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を重合し、次いで、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)を重合して得られるグラフト共重合体(A)1〜99重量%と、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%とを含有[但し、(A)+(B)=100重量%]する樹脂組成物(R)100重量部に対し、融点が250℃以下の帯電防止剤(C)を0.1〜5重量部配合してなるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及びその成形物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオルガノシロキサン及びポリ(メタ)アクリル酸エステルを含有する複合ゴムの存在下で、特定の単量体を重合して得られるグラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物に、特定の帯電防止剤を配合してなるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及びその成形物に関し、より詳しくは、例えば、車輌用、家電用等のランプハウジングと他の部材(樹脂製レンズ等)とを接合する熱板溶着の際に、熱板等の熱型とハウジング構成材料との間に糸曳きの発生を抑制することができ、且つ、成形物の表面にアンダーコート処理を施すことなく、直接、金属を蒸着させるダイレクト蒸着法を用いた際に、美麗な光輝外観を得ることができるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物及びその成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や家電機器筐体等の熱可塑性樹脂成形物の表面には、意匠性や機能性を高めるために、真空蒸着法やスパッタリング法等によりアルミニウムやクロム等の厚さが数十nm〜数百nmの金属層が設けられる場合がある。
近年では工程簡略化のため、アンダーコート層を設けることなく、熱可塑性樹脂組成物の表面に直接、金属を蒸着させる、いわゆる「ダイレクト蒸着法」が採用されている。ダイレクト蒸着法による蒸着層が積層された成形物の意匠性は、蒸着層が積層される成形物の樹脂材料の種類やその表面状態によって変動することから、蒸着層を積層する前の成形物表面が、曇りがなく美麗な光輝外観を有することが重要である。特にゴムを配合した成形物においては、光沢が低下し、曇りを生じることが多い。
【0003】
ところで、大型の成形物を射出成形する場合、樹脂をノズルから金型へ注入する際、条件によっては金型内においてノズル付近と金型の末端付近とで、樹脂の成形速度が異なってくる。大型の成形物で光沢等の外観を均一にするためには、成形物の全面(例えば、ノズル付近から金型の末端付近まで)に亘って、得られる成形物の表面状態に差異がない均一であることが必要である。このため、大型成形物の成形には、成形速度依存性が低い、即ち、成形速度を変化させた場合でも表面状態の変動が小さい熱可塑性樹脂組成物が求められる。
【0004】
また、自動車用テールランプやストップランプ、ヘッドランプ等は、発光体であるバルブ、LED等からの光を屈折させるポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)等の透明樹脂からなるレンズ部材と、それを支持するハウジング部材とにより、バルブ、LED等を収容するように構成されている。レンズ部材とハウジング部材との接合には、接着剤を使用せず工程数が少なく簡便であることから、熱板溶着法、レーザー溶着法、振動溶着法等が用いられている。これらの内、熱板溶着法は、熱可塑性樹脂成形物の接合すべき部分を、所望によりフッ素樹脂加工等を施した金属製等の熱板を数秒間押し当てて溶融状態にした後、速やかに熱板を引き離して両者を接合する方法である。この熱板溶着法においては、成形物に押し当てた熱板を引き離す際に、溶融した樹脂の一部が熱板に溶着し、この溶着した樹脂が糸状に引き伸ばされる、いわゆる糸曳きが生じることがある。従って、熱板溶着法を採用するに当たっては、接合部の外観を美麗にするために、糸曳きの少ないことが非常に重要である。
【0005】
上記したようなダイレクト蒸着後の光輝性に優れた成形物用の樹脂組成物としては、ポリオルガノシロキサン及びポリ(メタ)アクリル酸エステルからなる複合ゴムを用いて得られるグラフト共重合体を含有する樹脂組成物が報告され(例えば特許文献1〜2)、ダイレクト蒸着後の光輝性に優れ糸曳きが少ない熱板溶着法に適した樹脂組成物としては、上記複合ゴムを用いて得られるグラフト共重合体を含有する樹脂組成物(例えば特許文献3)や、ジエン系ゴムを用いて得られるグラフト共重合体を含有する樹脂組成物(例えば特許文献4)等が報告されている。
更には、熱板溶着法における糸曳きを改善した樹脂組成物としては、ゴム強化スチレン系樹脂に帯電防止剤を配合した樹脂組成物が報告されている(例えば特許文献5)。
【特許文献1】特開2006−028393号公報
【特許文献2】特開2005−314461号公報
【特許文献3】特開2003−128868号公報
【特許文献4】特開2006−111764号公報
【特許文献5】特開2000−276909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ダイレクト蒸着法により形成される蒸着層には、更なる光輝性が求められて、また、熱板溶着法による接合部に対しては、より高い外観の美麗性が要求されているが、これらの物性を高度に両立させた樹脂組成物は未だ提案されていないのが実情である。また、自動車用ランプ等のハウジング部材においては高レベルの耐候性が要求されるが、ジエン系ゴムを用いて得られるグラフト共重合体を含有する樹脂組成物を用いた場合は、充分な耐候性が得られているとは云い難い場合がある。
更に、近年のランプハウジングの大型化、形状の複雑化にともない、より過酷な条件での生産が求められている。
【0007】
本発明の課題は、前記実情に鑑みてなされたものであり、例えば、車輌用、家電用等のランプハウジングと他の部材(樹脂製レンズ等)とを接合する熱板溶着の際に、熱板等の熱型とハウジングの構成材料との間の糸曳きの発生を抑制することができ、且つ、成形物の表面にアンダーコート処理を施すことなく、直接、金属を蒸着させるダイレクト蒸着法を用いた際に、美麗な光輝外観を得ることができるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討を行なった結果、特定の複合ゴムの存在下に、特定の単量体を重合して得られるグラフト共重合体と熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物に、特定の帯電防止剤を配合してなるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物が熱板溶着の際に、熱板等の熱型とハウジングの構成材料との間の糸曳きの発生を抑制することができ、且つ、成形物の表面にアンダーコート処理を施すことなく、直接、金属を蒸着させるダイレクト蒸着法を用いた際に、美麗な光輝外観を得ることができ、更には、耐候性に優れた成形物を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の請求項1に係る発明は、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含有する複合ゴム(a)の存在下に、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃を超える(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を重合し、次いで、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)を重合して得られるグラフト共重合体(A)1〜99重量%と、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%とを含有[但し、(A)+(B)=100重量%]する樹脂組成物(R)100重量部に対し、融点が250℃以下の帯電防止剤(C)を0.1〜5重量部配合してなるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0010】
本発明の請求項2に係る発明は、帯電防止剤(C)が、下記一般式であらわされる化合物を含有する請求項1に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0011】
(化2)
R−SO3
(式中、RはCn 2n+1[nは8〜20の整数]、Xはアルカリ金属である。)
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、熱可塑性樹脂(B)が、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂、及び/又は、ビニル系単量体の(共)重合体を含有する請求項1又は2記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、熱可塑性樹脂(B)が、マレイミド系化合物単位を1〜70重量%含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、熱可塑性樹脂(B)が、α−メチルスチレン単位を1〜80重量%含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、ダイレクト蒸着による蒸着層を表面に形成する成形物用である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、熱板溶着法を使用する成形物用である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を内容とする。
【0017】
本発明の請求項8に係る発明は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形物を内容とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、ダイレクト蒸着法により美麗な蒸着層を形成し得る表面を有する成形物を得ることができ、特に大型の射出成形物用として好適で、特に、ランプハウジング用として好適である。また、熱板溶着工程における糸曳きが少なく美麗な接合部を形成し得る成形物を得ることができ、更に、優れた耐候性を有し、自動車用等のランプハウジング部材等の成形物に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含有する複合ゴム(a)の存在下に、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃を超える(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を重合し、次いで、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)を重合して得られるグラフト共重合体(A)1〜99重量%と、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%とを含有[但し、(A)+(B)=100重量%]する樹脂組成物(R)100重量部に対し、融点が250℃以下の帯電防止剤(C)を0.1〜5重量部配合してなることを特徴とする。
【0020】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物における樹脂組成物(R)を構成する一つの成分であるグラフト共重合体(A)は、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含有する複合ゴム(a)の存在下に、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃を超える(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を重合し、次いで、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)を重合して得られる。
【0021】
グラフト共重合体(A)に用いる複合ゴム(a)は、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含有するものであり、ポリオルガノシロキサン(a1)の存在下での(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合、又はポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)の存在下でのオルガノシロキサンの重合によって得られる。これらの内では、複合ゴム(a)を安定して製造できることから、前者の方法、即ち、ポリオルガノシロキサン(a1)の存在下で(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合する方法が好ましい。
【0022】
上記ポリオルガノシロキサン(a1)としては、環状オルガノシロキサンがグラフト交叉剤を介して連なったものが好ましい。かかるポリオルガノシロキサン(a1)としては、オルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサン用グラフト交叉剤(以下、「シロキサン交叉剤」という。)、及び必要に応じてポリオルガノシロキサン用架橋剤(以下、「シロキサン架橋剤」という。)を含有するオルガノシロキサン混合物を、乳化重合して得られるものが好ましい。
上記オルガノシロキサンとしては、3員環以上の環状オルガノシロキサンが好ましく、3〜6員環のものがより好ましい。環状オルガノシロキサンとしては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサンを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記シロキサン交叉剤としては、上記オルガノシロキサンとシロキサン結合を介して結合し、複合ゴム(a)成分のポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)や、(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)等との結合を形成し得るものが好ましい。オルガノシロキサンとの反応性を考慮するとビニル基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。
上記シロキサン交叉剤としては、例えば、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシラン;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン;γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記シロキサン架橋剤としては、上記オルガノシロキサンと結合し得る官能基を3つ又は4つ有するものが好ましい。
上記シロキサン架橋剤としては、例えば、トリメトキシメチルシラン等のトリアルコキシアルキルシラン;トリエトキシフェニルシラン等のトリアルコキシアリールシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラエトキシシランが更に好ましい。
【0025】
上記オルガノシロキサン、シロキサン交叉剤、シロキサン架橋剤の使用量の比率は、これら3成分をオルガノシロキサン混合物としたとき、オルガノシロキサン混合物100重量%中、オルガノシロキサンが60〜99.9重量%の範囲であることが好ましく、70〜99.9重量%の範囲であることがより好ましく、シロキサン交叉剤が0.1〜10重量%の範囲であることが好ましく、シロキサン架橋剤が0〜30重量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
上記オルガノシロキサン混合物の乳化重合は以下の方法によることができる。オルガノシロキサン混合物に乳化剤と水とを添加してラテックスを得て、ラテックスの微粒子化を行なった後、これと酸触媒とを混合して反応させる方法、オルガノシロキサン混合物に乳化剤と水と共に酸触媒を添加してラテックスとし、ラテックスの微粒子化を行ない反応させる方法、等を使用することができる。
【0027】
使用する乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系の乳化剤が好ましい。
乳化剤の使用量は、ラテックスの安定した分散状態を保持するため、オルガノシロキサン混合物100重量部に対して0.05重量部以上であることが好ましい。また、乳化剤それ自体に起因する着色や、熱可塑性樹脂組成物の劣化による着色の影響を回避するため、オルガノシロキサン混合物100重量部に対して15重量部以下であることが好ましい。
【0028】
ラテックスの微粒子化は、ラテックス中の疎水性物質を高速回転による剪断力で微粒子とするホモミキサーや、高圧発生機による噴出力で微粒子とするホモジナイザー等を使用することができる。ホモジナイザー等の高圧乳化装置を使用すると、オルガノシロキサン混合物の粒子径分布幅が小さいラテックスが得られるため好ましい。
【0029】
酸触媒の混合は、ラテックスの微粒子化前に混合する場合は、水溶液として又は固体をそのまま、オルガノシロキサン混合物、乳化剤及び水に添加し、混合する方法であってもよい。微粒子化後のラテックスと混合する場合は、酸触媒を水溶液とし、高温の酸水溶液中に微粒子化後のラテックスを一定速度で滴下し、重合反応を進行させながら添加する方法が、得られるポリオルガノシロキサンの粒子径を制御しやすいことから好ましい。
上記酸触媒としては、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類;硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が、ポリオルガノシロキサンのラテックスの安定化作用に優れていることから好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸がより好ましい。
酸触媒の使用量は、オルガノシロキサン混合物100重量部に対して0.1〜15重量部の範囲であることが好ましい。
【0030】
重合時間は、高温の酸水溶液中に微粒子化後のラテックスを一定速度で滴下する方法では、ラテックスの滴下終了後、1時間程度が好ましい。酸触媒添加後にラテックスを微粒子化する方法では、重合反応を2時間以上行なうことが好ましく、5時間以上がより好ましい。また、重合温度は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。
重合の停止は、反応液を冷却し、更に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質で中和することにより行なう。
得られたポリオルガノシロキサン粒子の大きさは、ダイレクト蒸着後の成形物の光輝性を高める目的から、重量平均粒子径100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。
【0031】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)としては、上記ポリオルガノシロキサン(a1)の存在下で、(メタ)アクリル酸エステル単量体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル用グラフト交叉剤(以下、「アクリル交叉剤」という。)、及び必要に応じてポリ(メタ)アクリル酸エステル用架橋剤(以下、「アクリル架橋剤」という。)を含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物を重合して得られるものが好ましい。
ここで、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを示し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート等のアルキルメタクリレートを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、n−ブチルアクリレート又は2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0033】
上記アクリル交叉剤としては、上記(メタ)アクリル酸エステル単量体等と結合を形成し得る不飽和基を2つ以上有するものであって、これらの基において(メタ)アクリル酸エステル単量体との反応性が異なることが好ましい。このような反応性が異なる基を有することにより、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)に結合されたアクリル交叉剤が、不飽和基を温存し、後記する、後工程における上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)のこれら3種のビニル単量体(b)と結合しグラフト共重合体(A)の形成を可能とする。
上記アクリル交叉剤としては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
アリルメタクリレートは、反応性が高いメタクリル基と反応性がメタクリル基より低いアリル基を有し、(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合過程でメタクリル基と共にアリル基も一部重合して、架橋剤として機能する。しかし、アリル基の総てが重合反応に与ることはなく、その一部はポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)中に温存される。ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)中のアリル基は、その後のビニル単量体(b)の重合工程において、グラフト重合起点として作用し、グラフト共重合体(A)を形成するものである。
トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートは、3つのアリル基のうちの1つが、(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合過程で重合すると、他の2つのアリル基は反応性が異なるものとなり、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)中に温存される。ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)中のアリル基は、その後のビニル単量体(b)の重合工程において、グラフト重合起点として作用し、グラフト共重合体(A)を形成するものである。
上記アクリル架橋剤としては、上記(メタ)アクリル酸エステル単量体と結合し得る官能基を2つ以上有し、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)中で架橋を形成するものが好ましい。
【0035】
上記アクリル架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体、アクリル交叉剤、アクリル架橋剤の使用量の比率は、これら3成分を(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物としたとき、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物100重量%中、(メタ)アクリル酸エステル単量体が80〜99.99重量%の範囲であることが好ましく、90〜99.99重量%の範囲であることがより好ましく、アクリル交叉剤が0.01〜10重量%の範囲であることが好ましく、アクリル架橋剤が0〜10重量%であることが好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物100重量%中、アクリル交叉剤の使用量の比率が0.01重量%以上であれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)が充分なグラフト重合起点を有するものとなり、10重量%以下であれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)のゴム弾性を維持することができる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物100重量%中、アクリル架橋剤の使用量の比率が10重量%以下であれば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)のゴム弾性を維持することができる。
【0038】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物の重合は以下の方法によることができる。上記ポリオルガノシロキサン(a1)ラテックスに(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物を添加して重合する。ポリオルガノシロキサン(a1)ラテックスへの(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物の添加は、一回又は分割して行なってもよく、また、連続滴下によってもよい。(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物の重合では、必要に応じて、水、乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を添加して乳化重合することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物に乳化剤と水とを添加してラテックスを得て、上記と同様の方法によりラテックスを微細粒子化して、ポリオルガノシロキサン(a1)ラテックスに添加することもできる。
【0039】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ化合物、前記過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス系開始剤、前記有機過酸化物と還元剤の組み合わせによるレドックス系開始剤等を挙げることができる。これらの中では、レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・ピロリン酸ナトリウム・ブドウ糖・ハイドロパーオキサイドや、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。
連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン系化合物、テルペン系化合物、α−メチルスチレン二量体を挙げることができる。
【0040】
乳化剤としては、例えば、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等の各種カルボン酸塩;アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤を挙げることができる。これらは乳化重合時のラテックスを安定に保持し、重合率を高めることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの乳化剤はポリオルガノシロキサン(a1)の重合に用いた乳化剤を代用することもできる。
【0041】
オルガノシロキサン混合物は、複合ゴム(a)の製造に用いるオルガノシロキサン混合物と(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物の合計を100重量%としたときに、1〜20重量%の範囲で使用することが好ましく、5〜10重量%の範囲で使用することがより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物は、複合ゴム(a)の製造に用いるオルガノシロキサン混合物と(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物の合計を100重量%としたときに、99〜80重量%の範囲で使用することが好ましく、95〜90重量%の範囲で使用することがより好ましい。
得られる複合ゴム(a)の大きさは、ダイレクト蒸着後の成形物の光輝性を高める目的から、重量平均粒子径140nm以下が好ましく、105nm以下がより好ましい。
【0042】
本発明における複合ゴム(a)は、ポリオルガノシロキサン(a1)の存在下で(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物を重合して得られるラテックス中に含まれる固形分を含むものとすることが好ましい。
このラテックス中には、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物の重合の進行に伴い、シロキサン交叉剤の存在により、ポリオルガノシロキサン(a1)にポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)がグラフト重合したグラフト共重合体や、更に、ポリオルガノシロキサン(a1)とポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)の界面において、相互に絡み合った架橋網目が形成され、実質上相互に分離できないグラフト共重合体の他、ポリオルガノシロキサン(a1)とのグラフト共重合体を形成せずホモポリマー又はコポリマーとして存在するポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)も含まれる。
【0043】
グラフト共重合体(A)を得るために、(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)、芳香族ビニル単量体(b2)、シアン化ビニル単量体(b3)の3種のビニル単量体(b)を用いる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)は、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃を越えるものである。(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)は、複合ゴム(a)との相溶性が低く、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)との重合に先行して複合ゴム(a)に重合されることにより、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)が複合ゴム(a)に含浸するのを抑制する機能を有する。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)としては、例えば、メチルメタクリレート(Tg:105℃)、エチルメタクリレート(Tg:65℃)、n−ブチルメタクリレート(Tg:20℃)、i−ブチルメタクリレート(Tg:60℃)等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート(Tg:10℃)等のアルキルアクリレートを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)の単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION(WILEY INTERSCIENCE)に記載の数値を用いることができる。
【0045】
上記芳香族ビニル単量体(b2)は、グラフト共重合体(A)のマトリクス樹脂に対する相溶性を向上させるために使用される。芳香族ビニル単量体(b2)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、スチレンが好ましい。
上記シアン化ビニル単量体(b3)は、グラフト共重合体(A)のマトリクス樹脂に対する相溶性を向上させるために使用される。シアン化ビニル単量体(b3)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルを挙げることができる。これらは、1種又は2種を組み合わせて用いることができる。これらの中では、アクリロニトリルが好ましい。
【0046】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)、芳香族ビニル単量体(b2)、シアン化ビニル単量体(b3)の使用量の比率は、これら3種のビニル単量体(b)の合計を100重量%としたとき、(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)が40〜60重量%の範囲であることが好ましい。
3種のビニル単量体(b)の合計100重量%中、(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)の使用量の比率が40重量%以上であれば、成形物の熱板溶着工程における糸曳きを抑制することができ、60重量%以下であれば、成形物に光輝性に優れるダイレクト蒸着層を形成することができる。
芳香族ビニル単量体(b2)とシアン化ビニル単量体(b3)の使用量の比率(b3/b2)は、重量比として0.2〜0.5の範囲であることが好ましい。(b3/b2)が0.2以上であれば、成形物の熱板溶着工程における糸曳きを抑制し、外観に優れた接合部を形成することができる。(b3/b2)が0.5以下であれば、グラフト重合反応を容易に行なうことができる。
【0047】
上記複合ゴム(a)は、グラフト共重合体(A)の製造に用いる複合ゴム(a)とビニル単量体(b)の合計を100重量%としたときに、30〜90重量%の範囲で使用することが好ましく、50〜85重量%の範囲で使用することがより好ましく、70〜80重量%の範囲で使用することが特に好ましい。複合ゴム(a)を30重量%以上使用すれば、成形物の熱板溶着工程における糸曳きが抑制され外観に優れた接合部が得られ、90重量%以下使用すれば、成形物に光輝性に優れるダイレクト蒸着層を形成することができる。
【0048】
上記ビニル単量体(b)は、グラフト共重合体(A)の製造に用いる複合ゴム(a)とビニル単量体(b)の合計を100重量%としたときに、70〜10重量%の範囲で使用することが好ましく、50〜15重量%の範囲で使用することがより好ましく、30〜20重量%の範囲で使用することが特に好ましい。ビニル単量体(b)を10重量%以上使用すれば、成形物に光輝性に優れるダイレクト蒸着層を形成することができ、70重量%以下使用すれば、成形物の熱板溶着工程における糸曳きが抑制され外観に優れた接合部が得られる。
【0049】
本発明におけるグラフト共重合体(A)を得るために、これらのビニル単量体のうち、まず、(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を上記複合ゴム(a)の存在下で重合する。複合ゴム(a)としては、ポリオルガノシロキサン(a1)の存在下で(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物を乳化重合して得られたポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含む反応系であるラテックスを使用することが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)の重合は、複合ゴム(a)ラテックスに(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を添加して行うことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)の重合では、必要に応じて、水、乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を添加して乳化重合することができる。用いる乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等は、上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)の重合に用いるものとして、例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)の重合により得られるラテックス中に、複合ゴム(a)にポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1′)がグラフト重合したグラフト共重合体が得られる。
次いで行なわれる芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)の重合は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1′)のグラフト共重合体を含むラテックスにこれらの単量体を添加して行なうことが好ましい。これらの単量体の重合では、必要に応じて、水、乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を添加して乳化重合することができる。用いる乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤は、上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)の重合に用いるものとして、例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0051】
芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)の重合により、複合ゴム(a)とポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1′)と、芳香族ビニル/シアン化ビニル共重合体(b2′/b3′)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)が得られる。
グラフト共重合体(A)の重量平均粒子径は、得られる成形物のダイレクト蒸着後の光輝性外観が優れていることから、40nm以上であることが好ましい。また、上限は150nm以下であることが好ましく、110nm以下であることがより好ましい。
【0052】
グラフト共重合体(A)は、反応系であるラテックスを乾燥し粉体として得ることができる。
ラテックスの乾燥方法としては、例えば、噴霧乾燥装置を用いてラテックスを直接乾燥する方法や、ラテックスを硫酸、塩酸、燐酸等の酸や、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等の塩等の凝析剤を適宜使用して凝析させ、熱処理して凝固させた後、濾過、洗浄、脱水を経て、粉体として回収する方法が挙げられる。粉体として回収する際、取扱いが容易なことから、噴霧乾燥装置を用いて直接乾燥する方法が好ましい。
【0053】
噴霧乾燥装置は、ラテックスを微小液滴状に噴霧し、これに熱風を当てて乾燥する装置である。液滴を発生させる方法としては、回転円盤型式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式等のいずれも採用することができる。噴霧乾燥装置の容量も特に制限がなく、実験室で使用するような小規模なスケールから、工業的に使用するような大規模なスケールまでのいずれでも使用することができる。装置内に導入する熱風温度(熱風入口温度)の最高温度は、200℃以下が好ましく、120〜180℃の範囲がより好ましい。
また、酸化防止剤等所望の添加剤を含有するラテックスを、グラフト共重合体(A)のラテックスと混合して噴霧乾燥し、又は混合せずに同時に噴霧乾燥し、所望の物質を含有するグラフト共重合体(A)の粉体を得ることができる。その他、噴霧乾燥時のブロッキング、嵩比重等の粉末特性を向上させるために、シリカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機質充填剤や、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等を添加して噴霧乾燥を行なうこともできる。
【0054】
粉体として得られるグラフト共重合体(A)には、反応系のラテックス中に含有される、複合ゴム(a)にビニル単量体(b)がグラフト重合したグラフト共重合体の他、複合ゴム(a)にグラフト化していない、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(b1′)、芳香族ビニル/シアン化ビニル共重合体(b2′/b3′)が含まれる。本発明におけるグラフト共重合体(A)は、これらのグラフト化されていない重合体を含むものとすることが好ましい。
【0055】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物における樹脂組成物(R)を構成する他の成分である熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ビニル系樹脂(例えば、スチレン系樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、アクリロニトリル・スチレン系樹脂、芳香族ビニル化合物の(共)重合体などの芳香族ビニル系樹脂等)、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−α−オレフィン系樹脂等)、エチレン系共重合体(例えば、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル(共)重合体、エチレン・ビニルアルコール(共)重合体等)、塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体等のアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂(PA)(例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、液晶ポリマー、イミド系樹脂(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ケトン系樹脂(例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等)、スルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等)、ウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、感光性樹脂、生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0056】
上記熱可塑性樹脂(B)としては、代表的には、ビニル系樹脂(I’)、すなわち、ゴム質重合体(i)の存在下にビニル系単量体(ii)を重合させてなるゴム強化ビニル系樹脂(I−1)及び/又は前記ビニル系単量体(ii)の(共)重合体(I−2)が挙げられる。後者の(共)重合体(I−2)は、ゴム質重合体(i)の非存在下に、ビニル系単量体(ii)を重合して得られるものである。ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)には、通常、上記ビニル系単量体(ii)がゴム質重合体(i)にグラフト共重合した共重合体とゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分〔上記(共)重合体(I−2)と同じもの〕が含まれる。更に、ゴム強化、ビニル系樹脂には、ビニル系単量体(ii)がグラフト重合しなかったゴム質重合体(i)も含まれる。
そのうち、好ましい熱可塑性樹脂(B)は、ゴム質重合体(i)の存在下に芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体からなるビニル系単量体(ii’)を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂(I−1’)及び/又は前記ビニル系単量体(ii’)の(共)重合体(I−2’)である。
【0057】
熱可塑性樹脂(B)は、耐熱性の点から、マレイミド系化合物単位を含んでなることが好ましく、該熱可塑性樹脂(B)100重量%に対する、該マレイミド系化合物単位の含有量は、通常、1〜70重量%であることが好ましく、5〜60重量%であることがより好ましく、10〜60重量%であることが特に好ましい。マレイミド系化合物単位の含有量が70重量%を超えると、耐衝撃性が十分でなくなる。熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度は、マレイミド系化合物単位の含有量によって調整することが可能であり、マレイミド系化合物単位を構成単量体として含有する熱可塑性樹脂(B)は、所望のガラス転移温度を備えたランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を得るために好都合である。
【0058】
また熱可塑性樹脂(B)は、耐熱性の点から、α−メチルスチレン単位を含んでなることが好ましく、該熱可塑性樹脂(B)100重量%に対する、該α−メチルスチレン単位の含有量は、通常、1〜80重量%であることが好ましく、10〜70重量%であることがより好ましく、20〜60重量%であることが特に好ましい。α−メチルスチレン単位の含有量が80重量%を超えると、耐衝撃性が十分でなくなる。熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度は、α−メチルスチレン単位の含有量によって調整することが可能であり、α−メチルスチレン単位を構成単量体として含有する熱可塑性樹脂(B)は、所望のガラス転移温度を備えたランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を得るために好都合である。
【0059】
上記熱可塑性樹脂(B)は、マレイミド系化合物単位およびα−メチルスチレン単位をそれぞれ単独で含んでもよいし、両者組み合わせて含んでいてもよい。
【0060】
上記ゴム質重合体(i)は、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、ブタジエン・スチレンブロック共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体などの共役ジエン系ゴム及びその水素添加物(即ち、水添共役ジエン系ゴム)、エチレン−α−オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、ゴム質重合体(a)以外のシリコーン・アクリル複合ゴムなどの非ジエン系ゴムが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)に使用されるゴム質重合体(i)の含有量は、ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)を100重量%として、好ましくは5〜65重量%、より好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜30重量%である。
【0061】
上記共役ジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%未満。)されたものであってもよい。上記ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
上記エチレン−α−オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体が挙げられる。該エチレン−α−オレフィン系ゴムを構成するα−オレフィンとしては、例えば、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。α−オレフィンの炭素数は、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは3〜8である。炭素数が20を超えると、共重合性が低下し、成形品の表面外観が十分でなくなる可能性がある。代表的なエチレン−α−オレフィン系ゴムとしては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体などが挙げられる。エチレン/α−オレフィンの重量比は、好ましくは5〜95/95〜5、より好ましくは50〜90/50〜10、さらに好ましくは60〜88/40〜12、特に好ましくは70〜85/30〜15である。α−オレフィンの重量比が95を超えると、耐侯性が十分でなく、一方、5未満になるとゴム質重合体のゴム弾性が十分でなくなるため、耐衝撃性が十分でなくなる可能性がある。
【0063】
非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。非共役ジエンの、エチレン−α−オレフィン系ゴム全量に対する割合は、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。非共役ジエンの割合が30重量%を超えると、成形外観および耐侯性が十分でなくなる場合がある。尚、該エチレン−α−オレフィン系ゴム(i−1)における不飽和基量は、ヨウ素価に換算して4〜40の範囲が好ましい。
また、前記エチレン−α−オレフィン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4 ,100℃;JIS K6300に準拠)は、好ましくは5〜80、より好ましくは10〜65、さらに好ましくは15〜45である。該ムーニー粘度が80を超えると重合が困難になり、一方、ムーニー粘度が5未満になると、耐衝撃性が不十分になる場合がある。
【0064】
水添共役ジエン系ゴムとしては、例えば、下記の構造を有する共役ジエンブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。すなわち、芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロックA、1,2−ビニル結合含量が25モル%を超える共役ジエン系化合物単位からなる重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックB、1,2−ビニル結合含量が25モル%以下の共役ジエン系化合物単位からなる重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックC、および芳香族ビニル化合物単位と共役ジエン系化合物単位の共重合体の二重結合部分を95モル%以上水素添加してなる重合体ブロックDのうち、2種以上を組み合わせたものからなるブロック共重合体である。
【0065】
上記重合体ブロックAの製造に用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。中でも好ましいものは、スチレンである。ブロック共重合体中の重合体ブロックAの割合は、ブロック共重合体中の0〜65重量%が好ましく、さらに好ましくは10〜40重量%である。重合体ブロックAが65重量%を超えると、耐衝撃性が十分でなくなる場合がある。
【0066】
上記重合体ブロックB、CおよびDは、共役ジエン系化合物の重合体を水素添加することにより得られる。上記重合体ブロックB、CおよびDの製造に用いられる共役ジエン系化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられるが、工業的に利用でき、物性の優れた水添共役ジエン系ゴムを得るには、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。上記重合体ブロックDの製造に用いられる芳香族ビニル化合物としては、上記重合体ブロックAの製造に用いられる芳香族ビニル化合物と同様のものが挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。中でも好ましいものは、スチレンである。
【0067】
上記重合体ブロックB、CおよびDの水素添加率は、95モル%以上であり、好ましくは96モル%以上である。95モル%未満であると、重合中にゲルの発生を招き、安定に重合できない場合がある。重合体ブロックBの1,2−ビニル結合含量は、25モル%を超え90モル%以下が好ましく、30〜80モル%がさらに好ましい。重合体ブロックBの1,2−ビニル結合含量が25モル%以下であると、ゴム的性質が失われ耐衝撃性が十分でなくなる場合があり、一方、90モル%を超えると、耐薬品性が十分でなくなる場合がある。また、重合体ブロックCの1,2−ビニル結合含量は、25%モル以下が好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。重合体ブロックCの1,2−ビニル結合含量が25モル%を超えると、耐傷つき性および摺動性が十分に発現しない場合がある。重合体ブロックDの1,2−ビニル結合含量は、25〜90モル%が好ましく、30〜80モル%がさらに好ましい。重合体ブロックDの1,2−ビニル結合含量が25モル%未満であると、ゴム的性質が失われ耐衝撃性が十分でなくなる場合があり、一方、90モル%を超えると、耐薬品性が十分に得られない場合がある。また、重合体ブロックDの芳香族ビニル化合物含量は、25重量%以下が好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。重合体ブロックDの芳香族ビニル化合物含量が25重量%を超えると、ゴム的性質が失われ耐衝撃性が十分でなくなく場合がある。
【0068】
上記ブロック共重合体の分子構造は、分岐状、放射状またはこれらの組み合わせでもよく、さらにブロック構造としては、ジブロック、トリブロック、もしくはマルチブロック、またはこれらの組み合わせでもよい。例えば、A−(B−A)n 、(A−B)n 、A−(B−C)n 、C−(B−C)n 、(B−C)n 、A−(D−A)n 、(A−D)n 、A−(D−C)n 、C−(D−C)n 、(D−C)n 、A−(B−C−D)n 、(A−B−C−D)n 、(ただし、n=1以上の整数)で表されるブロック共重合体であり、好ましくは、A−B−A、A−B−A−B、A−B−C、A−D−C、C−B−Cの構造を有するブロック共重合体である。
【0069】
上記水添共役ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、1万〜100万が好ましく、さらに好ましくは3万〜80万、より好ましくは5万〜50万である。Mwが1万未満では、耐衝撃性が十分でなくなる場合があり、一方、100万を超えると重合が困難となる。
【0070】
上記アクリル系ゴムとしては、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルの重合体であり、アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上併用して使用することが出来る。好ましいアクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸(n−,i)−ブチル又はアクリル酸2−エチルヘキシルである。なお、アクリル酸アルキルエステルの一部は、最高20重量%まで、共重合可能な他の単量体で置換することが出来る。この他の単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、アクリル酸、スチレン等が挙げられる。
【0071】
上記アクリル系ゴムは、そのガラス転移温度が−10℃以下になるように、単量体の種類と共重合量を選ぶことが好ましい。また、アクリル系ゴムは、適宜、架橋性単量体を共重合することが好ましく、架橋性単量体の使用量は、アクリル系ゴム中の割合として、通常0〜10重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0072】
架橋性単量体の具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等のモノ又はポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート等のモノ又はポリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルサクシネート、トリアリルトリアジン等のジ又はトリアリル化合物、アリルメタクリレート、アリルアクリレート等のアリル化合物、1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物などが挙げられる。上記アクリル系ゴムは、公知の重合法で製造されるが、好ましい重合法は乳化重合法である。
【0073】
上記シリコーン系ゴムとしては、公知の重合法で得られる全てのものが使用できるが、グラフト重合の容易さから、乳化重合でラテックスの状態で得られるポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体ラテックスが好ましい。該ポリオルガノシロキサン系ゴム質重合体のラテックスは、公知の方法、例えば米国特許第2,891,920号明細書、同第3,294,725号明細書などに記載された方法で得ることが出来る。
【0074】
上記ゴム質重合体(a)以外のシリコーン・アクリル複合ゴムとは、前記ゴム質重合体(a)以外であれば特に制限はなく、例えば、特開平4−239010号公報、特許第2137934号明細書等に記載された方法で製造することができる。
【0075】
本発明におけるビニル系単量体(ii)としては、代表的には、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が挙げられ、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の両者を含むものが好ましい。
【0076】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、トリブロムスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。また、これらの芳香族ビニル化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。また、これらのシアン化ビニル化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
尚、上記ビニル系単量体(ii)は、前記芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物のほか、これらと共重合可能な他の化合物を用いてもよい。かかる他の化合物としては、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド系化合物、その他の官能基含有不飽和化合物(例えば、不飽和酸、エポキシ基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物等)等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる他の化合物の使用量は、ビニル系単量体(ii)を100重量%として、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。
【0079】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0080】
マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、共重合樹脂にマレイミド系化合物単位を導入するために、無水マレイン酸を(共)重合させ、後イミド化してもよい。他の共重合可能な化合物としてマレイミド系化合物を含有することは、上記熱可塑性樹脂(B)の耐熱性を向上させる観点から好ましい。
【0081】
不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
エポキシ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
上記ビニル系単量体(ii)としては、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を主として用いることが好ましく、これらの化合物の合計量は、ビニル系単量体全量に対して、好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%である。また、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用比率は、これらの合計を100重量%とした場合、それぞれ、好ましくは5〜95重量%及び5〜95重量%、より好ましくは50〜95重量%及び5〜50重量%、さらにより好ましくは60〜95重量%及び5〜40重量%、特に好ましくは65〜85重量%及び15〜35重量%である。
【0087】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)、及び、上記(共)重合体(I−2)は、公知の重合法である乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、または、これらを組み合わせた重合法によって得ることが出来る。
【0088】
ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)のグラフト率は、好ましくは20〜170%であり、より好ましくは50〜170%、さらに好ましくは50〜150%である。このグラフト率が低すぎると、フィルムとしての可撓性が十分でなくなる場合がある。また、グラフト率が高すぎると、熱可塑性樹脂の粘度が高くなり、薄肉化が困難になる場合がある。
【0089】
上記グラフト率は、下記式(1)により求めることができる。
グラフト率(重量%)=((S−T)/T)×100 (1)
上記式中、Sはゴム強化ビニル系樹脂(I−1)1グラムをアセトン(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル)20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の重量(g)であり、Tはゴム強化ビニル系樹脂(I−1)1グラムに含まれるゴム質重合体の重量(g)である。このゴム質重合体の重量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0090】
尚、上記グラフト率は、例えば上記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0091】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)のアセトン可溶分(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、好ましくは0.1〜2.5dl/g、より好ましくは0.2〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.25〜1.2dl/gである。該極限粘度がこの範囲内であることは、耐衝撃性、成形性のバランスに優れる点で好ましい。
【0092】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)のアセトン可溶分(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル可溶分)の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、前記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)のアセトン可溶分(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル可溶分)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0093】
また上記(共)重合体(I−2)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、好ましくは0.1〜2.5dl/g、より好ましくは0.2〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.25〜1.2dl/gである。該極限粘度がこの範囲内であることは、耐衝撃性、成形性のバランスに優れる点で好ましい。
【0094】
上記(共)重合体(I−2)のアセトン可溶分の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、前記(共)重合体(I−2)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0095】
尚、上記極限粘度[η]は、例えば上記ゴム強化ビニル系樹脂(I−1)及び/又は上記(共)重合体(I−2)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。また、異なる極限粘度[η]を持つ前記(共)重合体(I−2)を、適宜選択して配合することにより調整することができる。
【0096】
本発明における樹脂組成物(R)は、上記グラフト共重合体(A)1〜99重量%と、上記熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%、好ましくは、上記グラフト共重合体(A)18〜60重量%と上記熱可塑性樹脂(B)82〜40重量%とを含有してなる((A)と(B)の合計は100重量%)。グラフト共重合体(A)の含有率が1重量%以上であれば、得られる成形物の熱板溶着工程における糸曳きを抑制することができ、99重量%以下であれば、得られる成形物にダイレクト蒸着により光輝性に優れる蒸着層を形成することができる。
【0097】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物においては、上記樹脂組成物(R)100重量部に対して、融点が250℃以下の帯電防止剤(C)が0.1〜5重量部配合される。
帯電防止剤(C)が0.1重量部以上であれば糸曳きの抑制が十分となり、5重量部以下であればダイレクト蒸着性が良好となる。
また、帯電防止剤(C)の融点が250℃以下であれば帯電防止剤(C)の樹脂中での溶融混合が良好となる。好ましくは、熱板溶着性とダイレクト蒸着性の点から40〜180℃、より好ましくは100〜170℃である。
【0098】
尚、上記融点とは、DSC(示差走査熱量計)で測定した融点、もしくは融点が明瞭に現われない場合は軟化点を指し、それらの具体的な測定条件は下記のとおりである。
「DSC」
測定装置:TA DSC 2910型
メーカー:TA−lnstruments
測定条件:JIS K7121に準拠
窒素ガス流量:50ml/min
加熱速度 :20℃/min
「軟化点」
(1)オイルバスあるいはサンドバス中に、帯電防止剤を入れたビーカーをセットする。
(2)ビーカー中の帯電防止剤を温度計で攪拌しながら、昇温する。
(3)粒子状の帯電防止剤が溶けはじめた(粘りはじめた)ところを軟化点とする。
【0099】
本発明に用いられる帯電防止剤(C)は、融点が250℃以下であれば特に限定はなく、例えば低分子型帯電防止剤および高分子型帯電防止剤等が挙げられる。これらの帯電防止剤は、アニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤及びノニオン系帯電防止剤のいずれでもよく、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
帯電防止剤(C)は、下記一般式であらわされる化合物が特に好適である。
【0100】
(化3)
R−SO3
【0101】
式中、RはCn 2n+1[nは8〜20の整数]、Xはカリウム、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属である。
【0102】
低分子型帯電防止剤としては、アニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤、ノニオン系帯電防止剤、金属アルコキシドおよびその誘導体、錯化合物、有機ホウ素化合物、コーテッドシリカ等が挙げられる。
尚、アニオン系帯電防止剤としては、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルホスフェート等が例示でき、カチオン系帯電防止剤としては、アルキルスルホン酸ホスホニウム、アルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、第4級アンモニウム塩等が例示でき、非イオン系帯電防止剤としては、多価アルコール誘導体、アルキルエタノールアミン等が例示でき、ノニオン系帯電防止剤としては、アルキルベタイン、スルホベタイン誘導体等が例示でき、金属アルコキシドおよびその誘導体としては、アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等が例示できる。
尚、アルキル基としては、炭素数が4〜20の直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0103】
高分子型帯電防止剤としては、ポリアルキレンオキサイド系重合体、アクリル系共重合体、ポリエーテル系共重合体、第4級アンモニウム塩基系共重合体、ベタイン系共重合体、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキルベンゼンスルホン酸塩、アイオノマー樹脂等が挙げられる。
尚、ポリアルキレンオキサイド系重合体としては、ポリエチレンオキサイド・エピクロルヒドリン共重合体等が例示でき、アクリル系共重合帯としては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体が例示でき、ポリエーテル系化合物としては、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドイミド、ポリエーテルエステル等が例示でき、第4級アンモニウム塩基系共重合体としては、第4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート共重合体、第4級アンモニウム塩基含有マレイミド共重合体、第4級アンモニウム塩基含有メタクリルイミド共重合体等が例示でき、ベタイン系共重合体としては、カルボベタイングラフト共重合体等が例示できる。
【0104】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、目的、用途等に応じ、添加剤を含有したものとすることができる。この添加剤としては、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、老化防止剤、可塑剤、滑剤、抗菌剤、着色剤等が挙げられる。
【0105】
本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ローダー、フィーダールーダー等の混合機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。さらに、それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混連しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。溶融混練温度は通常200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。
【0106】
以上の如くして得られる本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、ダイレクト蒸着による蒸着層を表面に形成する成形物用であることが好ましい。ダイレクト蒸着法は、アンダーコート層を設けることなく、成形物の表面に直接、真空蒸着法やスパッタリング法等により、金属等の蒸着層を形成する方法である。ダイレクト蒸着法としては、具体的には、10-3〜10-4Pa程度に減圧した容器に、本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形物を設置し、これと離れた位置に載置した蒸着材料を加熱し気化又は昇華させて、成形物の表面に付着させ、蒸着層を形成する方法を挙げることができる。加熱方法は、蒸着材料、成形物の種類により、抵抗加熱、高周波誘導等公知の方法を適宜選択して採用することができる。蒸着材料は、アルミニウム、クロム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケル等の金属の他、金属酸化物等を使用することができる。また、成形物は蒸着前にRFプラズマやイオン銃照射により密着性を向上させる処理を行なってもよい。
【0107】
また、本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、熱板溶着法を使用して成形する成形物用であることが好ましい。熱板溶着法は、成形物の接合面に加熱した熱板を押し当てて溶融させ、溶融した部分を相互に接合することにより生じる分子結合を利用して、接合を行なう方法である。具体的には、表面をフッ素樹脂加工した金属板を成形物の融点以上、例えば、200〜260℃に加熱し、これを成形物の接合を行なう部分に、8〜15秒間押し当て、表面を溶融する。成形物表面から熱板を引き離し、溶融部分を接合させ、例えば、沈み代0.3〜1.5mmで溶融部分を押し込み、5〜15秒間保持する方法を挙げることができる。尚、金属板を260℃以上の高温に加熱する場合は、表面をフッ素樹脂加工していない、無垢の金属板が用いられることが多い。無垢の金属板を用いる場合は、金属板を260℃以上に加熱する以外は上記と同じである。
【0108】
本発明の成形物は、上記ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法を採用することができる。
本発明の成形物は、アンダーコート処理層の形成等の特殊な前処理を行なうことなく、表面に真空蒸着法やスパッタリング法等のダイレクト蒸着法による金属化処理を施すことが可能である。
金属化処理された成形物の光輝な表面はそのままでもよいが、例えば埃等によるキズの発生や酸化劣化から保護するために、塗装等のトップコート処理やプラズマ重合等により、シリコーン系等の被膜を形成させることがより好ましい。
【0109】
本発明の成形物は、特に、自動車用テールランプやストップランプ、ヘッドランプ等のハウジング部材に好適である。
【実施例】
【0110】
以下、製造例、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
まず、製造例1、2でポリオルガノシロキサンラテックスの製造について記載し、製造例3〜5で複合ゴムラテックス及びグラフト共重合体の製造、製造例6でアクリル系ゴムラテックス及びグラフト共重合体の製造について記載し、製造例7〜9で熱可塑性樹脂の製造について記載し、更に、実施例1〜14及び比較例1〜5について記載する。
尚、以下の記載において、「部」及び「%」はそれぞれ「重量部」及び「重量%」を示す。
【0111】
製造例1〜6における重量平均粒子径の測定は下記の方法で行なった。
「重量平均粒子径の測定」
ラテックス中の重合体の重量平均粒子径は、ラテックスを蒸留水で希釈したものを試料とし、粒度分布計(米国MATEC社製、CHDF2000型)を用いて測定した。
測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件を採用した。具体的には、専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッシ、及びキャリア液を用い、液性をほぼ中性、流速1.4mL/min、圧力を約4000psi、温度35℃の条件で、濃度約3%に希釈したラテックス0.1mlを測定に用いた。
標準粒子径物質として、米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを20〜800nmの範囲内で合計12点用いた。
【0112】
製造例1:ポリオルガノシロキサンラテックス(SLx−1)の製造
γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン1.96部及びオルガノシロキサン98.04部を混合し、オルガノシロキサン混合物100部を得た。
これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.68部を溶解した脱イオン水313部を添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間撹拌した後、300kg/cm2 の圧力でホモジナイザーに2回通し、オルガノシロキサンラテックスを微粒子化した。
温度計、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸13部と脱イオン水92部とを投入し、12.4%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。この水溶液を85℃に加熱した状態で、微粒子化したオルガノシロキサンラテックスを8時間に亘って滴下し、滴下終了後、温度を2時間維持し、冷却した。
【0113】
次いで、この反応物を水酸化ナトリウム水溶液で中和して重合を完結し、ポリオルガノシロキサンラテックス(SLx−1)を得た。ポリオルガノシロキサンの重量平均粒子径は60nmであった。
得られたラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、18.7%であった。
【0114】
製造例2:ポリオルガノシロキサンラテックス(SLx−2)の製造
温度計、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸10部と脱イオン水92部とを投入し、9.8%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。この水溶液を85℃に加熱した状態で、製造例1と同様にして得た微粒子化したオルガノシロキサンラテックスを4時間に亘って滴下し、滴下終了後、温度を2時間維持し、冷却した。
【0115】
次いで、この反応物を水酸化ナトリウム水溶液で中和して重合を完結し、ポリオルガノシロキサンラテックス(SLx−2)を得た。ポリオルガノシロキサンの重量平均粒子径は82nmであった。
得られたラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、18.7%であった。
【0116】
製造例3:グラフト共重合体(A−1)の製造
(複合ゴムラテックスの製造)
温度計、窒素導入管、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、製造例1で得られたポリオルガノシロキサンラテックス(SLx−1)28.1部を投入した。脱イオン水206部を加えた後、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム0.4部、n−ブチルアクリレート67.7部、アリルメタクリレート2.1部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.28部の混合液を仕込み、30分間撹拌して、ポリオルガノシロキサン粒子に浸漬させた。
セパラブルフラスコに窒素気流を通じて窒素置換を行ない、55℃まで昇温した。液温が55℃となった時点で硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を脱イオン水3.3部に溶解させた水溶液を添加しラジカル重合を開始させた。n−ブチルアクリレート混合液の重合により液温は92℃迄上昇した。この状態を1時間維持し、n−ブチルアクリレートの重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。得られた複合ゴムの重量平均粒子径は84nmであった。
【0117】
(グラフト共重合体(A−1)の製造)
液温が75℃に低下した後、この複合ゴムラテックスに、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.0625部とメチルメタクリレート12.5部の混合液を20分間に亘って滴下し、この状態を30分間維持した。
その後、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.0625部、スチレン9.4部、アクリロニトリル3.1部の混合液を25分間に亘って滴下し、75℃で1時間維持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。
得られたグラフト共重合体(A−1)の重合平均粒子径は92nmであった。ラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、29.9%であった。
グラフト共重合体のラテックスは噴霧乾燥装置を用い、圧力ノズル式で微小液滴状に噴霧しながら、熱風入り口付近から、疎水性シリカ(R−972、日本アエロジル(株)製)をグラフト共重合体100部に対して、0.05部の割合で同時添加し、熱風入口温度180℃にて乾燥して、グラフト共重合体(A−1)の粉体を得た。
【0118】
製造例4:グラフト共重合体(A−2)の製造
製造例3と同様にして複合ゴムラテックスを得て、液温が75℃に低下した後、この複合ゴムラテックスに、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.125部、スチレン18.8部、アクリロニトリル6.2部の混合液を50分間に亘って滴下し、75℃で1時間維持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。製造例3と同様にして噴霧乾燥を行ない、グラフト共重合体(A−2)の粉体を得た。
得られたグラフト共重合体(A−2)の重量平均粒子径は91nmであった。ラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、29.9%であった。
【0119】
製造例5:グラフト共重合体A−3の製造
(複合ゴムラテックスの製造)
温度計、窒素導入管、冷却管及び撹拌装置を備えたセパラブルフラスコに、製造例2で得られたポリオルガノシロキサンラテックス(SLx−2)42.8部を投入した。脱イオン水150.9部を加えた後、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム0.2部、n−ブチルアクリレート41.6部、アリルメタクリレート0.3部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート0.1部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.11部の混合液を仕込み、30分間撹拌して、ポリオルガノシロキサン粒子に含浸させた。
セパラブルフラスコに窒素気流を通じて窒素置換を行ない、60℃まで昇温した。液温が60℃となった時点で硫酸第一鉄0.000075部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.000225部、ロンガリット0.2部を脱イオン水10部に溶解させた水溶液を添加しラジカル重合を開始させた。n−ブチルアクリレート混合液の重合により液温は78℃迄上昇した。この状態を1時間維持し、n−ブチルアクリレートの重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。得られた複合ゴムの重量平均粒子径は150nmであった。
【0120】
(グラフト共重合体(A−3)の製造)
液温が70℃に低下した後、この複合ゴムラテックスに、ロンガリット0.25部と脱イオン水10部からなる水溶液を添加し、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.1部とスチレン15部、アクリロニトリル5部の混合液を120分間に亘って滴下し、この状態を1時間維持した。
その後、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.2部、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム0.2部、脱イオン水10部からなる水溶液を添加し、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.15部、メチルアクリレート1.5部、メチルメタクリレート28.5部の混合液を120分間に亘って滴下し、60℃で30分間維持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。製造例3と同様にして噴霧乾燥を行ない、グラフト共重合体(A−3)の粉体を得た。
得られたグラフト共重合体の重量平均粒子径は170nmであった。ラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、32.8%であった。
【0121】
得られたグラフト共重合体(A−1)〜(A−3)の重合方法、重量平均粒子径、グラフト共重合体中の複合ゴムの使用量を表1に示した。
【0122】
【表1】

【0123】
製造例6:グラフト共重合体(A−4)の製造
特開2007−177059号公報に記載の製造例2に基づいて、グラフト共重合体(A−4)を製造した。
(アクリル系ゴムラテックスの製造)
ラテックスは、2段階の重合により調製した。
第1工程は、還流冷却器、撹拌翼、温度計及び温度調節装置を備えた重合機に、アクリル酸n−ブチル10.0部、メタクリル酸アリル0.02部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、クメンハイドロパーオキサイド0.003部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.004部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート0.05部及びイオン交換水180部を仕込み、攪拌しながら、混合物を昇温した。その後、反応系の温度を60℃とし、80分間重合を行った。次いで、反応系の温度を60℃に維持したまま、アクリル酸n−ブチル25.0部、メタクリル酸アリル0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.006部からなる混合物を90分間に渡って、連続的に添加し重合した。重合転化率は92%であった。
引き続き、第2工程は、第1工程による反応液をそのまま用い、反応系の温度を60℃に維持したまま、アクリル酸n−ブチル15.0部、メタクリル酸アリル0.62部及びクメンハイドロパーオキサイド0.004部からなる混合物を90分間に渡って、連続的に添加し重合させ、アクリル系ゴム質重合体を含むラテックス(ALx−1)を得た。重合転化率は95%であった。
尚、アクリル系ゴム質重合体(ALx−1)のゲル含量は63%、重量平均粒子径は110nm、トルエン膨潤度は13であった。
【0124】
(グラフト共重合体(A−4)の製造)
その後、還流冷却器、撹拌翼、温度計及び温度調節装置を備えた重合機に、上記ラテックス(ALx−1)50部(固形分)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部及びホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート0.15部を仕込み、混合物の温度を60℃とした。次いで、反応系の温度を60℃に維持しながら、スチレン37.8部、アクリロニトリル12.2部及びt−ドデシルメルカプタン0.25部からなる混合物(i)、並びに、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部及びイオン交換水12部からなる混合物(ii)を5時間に渡って、連続的に添加し重合した。添加終了後、1時間放置し、アクリル系ゴムへのグラフト重合を完了した。重合転化率は95%であった。
上記ラテックスに塩化カルシウムを添加して凝固及び濾別により行い、その後、水洗及び乾燥してグラフト共重合体(A−4)の粉体を得た。グラフト率は66%であった。
【0125】
製造例7:熱可塑性樹脂(B−1)の製造
特許第3359454号公報に記載の実施例6に基づいて、熱可塑性樹脂(B−1)を製造した。
(ゴム質重合体(X)の製造)
第1段階として、ゴム質重合体(X)ラテックスを調製するためのゴム質重合体(イ)ラテックスを製造した。100リットル重合機に以下のものを仕込んだ。
【0126】
純水 280部
過硫酸カリウム 0.2部
t−ドデシルメルカプタン 0.2部
重合機内の空気を真空ポンプで除いたのち、以下のものを仕込んだ。
【0127】
オレイン酸ナトリウム 1部
ロジン酸ナトリウム 2部
ブタジエン 100部
系の温度を60℃まで昇温し、重合を開始した。重合は20時間で終了した。重合転化率(固形分濃度から算出)は96%であった。
得られたゴム重合体(イ)ラテックスの重量平均粒子径は80nmであった。
【0128】
第2段階として、ゴム質重合体(イ)ラテックスからゴム質重合体(X)ラテックスを調製するのに使用する酸基含有ラテックス(S)を以下のようにして製造した。
【0129】
撹拌機、還流冷却器、チッ素導入口、モノマー導入口、温度計を有する反応器に、以下のものを仕込んだ。
【0130】
純水 250部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.2部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.5部
撹拌しながらチッ素気流下に70℃まで昇温させた。70℃に到達後、単量体(1段目単量体組成(部):BMA5、BA25、tDM0.1、CHP0.05;2段目単量体組成(部):BMA55、MAA15、tDM0.5、CHP0.15)を連続的に均等に6時間かけて滴下した。単量体滴下開始後、1.5時間目にジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを0.8部添加した。滴下終了後70℃で1時間撹拌を続け、重合を終了し、酸基含有ラテックス(S)を得た。重合転化率は98%であった。
【0131】
得られたラテックスの重量平均粒径は、酸基含有ラテックス(S)で150nmであった。
【0132】
なお、上記単量体組成中のBMAはブチルメタクリレート、BAはブチルアクリレート、MAAはメタクリル酸、tDMはt−ドデシルメルカプタン、CHPはクメンハイドロパーオキサイドを表わす。
【0133】
次に、第1段階で製造したゴム質重合体(イ)ラテックス100部(固形分)に、酸基含有ラテックス(S)を60℃で3部(固形分)一括して添加したのち、1時間撹拌を続けて肥大化を終了し、ゴム質重合体(X)のラテックスを得た。
【0134】
得られたゴム質重合体(X)のガラス転移温度(Tg)を下記方法により求めた。即ち、ゴム質重合体(X)ラテックス100部(固形分)に塩化カルシウム3部を添加して凝固させ、脱水、乾燥してゴム質重合体(X)を得た。得られたゴム質重合体(X)を用いてDSC法により測定したTgは−93℃であった。
【0135】
(熱可塑性樹脂(B−1)の製造)
撹拌機、還流冷却器、チッ素導入口、モノマー導入口、温度計を有する反応器に、以下のものを仕込んだ。
【0136】
純水 280部
ゴム質重合体(X) 65部(固形分)
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
EDTA 0.01部
硫酸第1鉄 0.0025部
撹拌しながらチッ素気流下に60℃まで昇温させた。60℃に到達後、単量体混合物(単量体組成(部):AN10、St25、CHP0.1)を連続的に6時間で滴下した。滴下終了後、60℃で1時間撹拌を続け、重合を終了し、グラフト共重合体のラテックスを得た。このラテックスを塩化カルシウムで塩析し、洗浄、濾過及び乾燥工程を経てパウダー状のグラフト共重合体(熱可塑性樹脂)(B−1)を得た。重合転化率は98%であった。
【0137】
製造例8:熱可塑性樹脂(B−2)の製造
リボン型撹拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、トルエン50部、スチレン68部、アクリロニトリル32部、t−ドデシルメルカプタン0.15部、ジクミルパーオキサイド0.05部を仕込み、オートクレーブ内容物を撹拌回転数100rpmで撹拌しながら内温を140℃に昇温し、この温度を保持しながら2時間反応を行なった。反応終了時の重合転化率は85%であった。その後、内温を100℃に冷却し、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒とを留去し、40mmφベント付き押出機でシリンダー温度を220℃、真空度を770mmHgに調節して、揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化して共重合体(熱可塑性樹脂)(B−2)を得た。極限粘度[η](メチルエチルケトン、30℃)は0.64dl/g、メルトフローレート(MFR)(220℃−10kg荷重)は15g/10minであった。
【0138】
製造例9:熱可塑性樹脂(B−3)の製造
攪拌機付き重合機に、水250部及びパルミチン酸ナトリウム1.0部を投入し、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら70℃まで加熱した。さらにナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込んだのち、α−メチルスチレン70部(単量体混合物中の70%)、アクリロニトリル26部(同26%)、スチレン4部(同4%)からなる単量体混合物100部とt−ドデシルメルカプタン0.45部を混合して、重合温度70℃で連続的に7時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を75℃にし、1時間撹拌を続けて重合を終了させラテックスを得た。このラテックスを塩化カルシウムで塩析し、洗浄、濾過及び乾燥工程を経てパウダー状の共重合体(熱可塑性樹脂)(B−3)を得た。重合転化率は98%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.40dl/g、ガラス転移温度(Tg)は、140℃であった。
【0139】
熱可塑性樹脂(B−4)
N−フェニルマレイミド−スチレン−アクリロニトリル共重合体「デンカIP MS−NC」[商品名:電気化学工業(株)製、組成比は39/52/9で後イミド化物、ガラス転移温度(Tg)は175℃、MFRは16g/10min(265℃−10kg加重、ASTM D1 238)を使用した。
【0140】
実施例1〜14、比較例1〜5
上記グラフト共重合体(A−1)〜(A−4)、上記熱可塑性樹脂(B−1)〜(B−4)及び表2に示した帯電防止剤(C−1)〜(C−6)をそれぞれ表3に示す割合で配合しヘンシェルミキサーで混合した後、2軸押出機(BT−40:(株)プラスチック工学研究所製)を用いて加工温度250℃で溶融混練し、ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて以下のようにサンプルを作製し、下記の方法により、メルトフローレート、シャルピー衝撃強度、熱変形温度、熱板溶着性及びダイレクト蒸着性を測定・評価した。結果を表3に示す。
【0141】
「メルトフローレート」
ASTM−D1238(240℃、10kg)に準じて測定した。単位はg/10分である。
「シャルピー衝撃強度」
ISO179(常温)に準じて測定した。単位はJ/m2 である。
「熱変形温度」
ISO75(Under Load)に準じて測定した。単位は℃である。
「熱板溶着性」
上記樹脂ペレットを、成形機(IS−25EP:東芝機械(株)製)に投入して、温度220〜250℃で溶融し、長さ60mm、幅30mm、厚さ3mmの熱板溶着用試験片を成形した。この試験片を、温度23℃、相対湿度50%で3時間状態調節し、その後、熱板溶着機(熱板テストピース溶着試験機:(有)イダ製作所製)により、下記条件で熱板に押し当て、熱板から試験片を引き離す際の、糸曳きの本数を数えた。この試験を3度繰り返し、糸曳き本数の平均値を求め、以下の基準により「熱板溶着性」として評価した。
【0142】
(熱板溶着の条件)
熱板の表面処理 テフロン(登録商標)コートなし及びテフロン(登録商 標)コートあり
熱板の温度 テフロン(登録商標)コートなし;260℃、330℃
テフロン(登録商標)コートあり;260℃
サーボモータの移動速度 200mm/秒
試験片が熱板に接触する時間 15秒
試験片の溶け量 0.5mm
【0143】
「ダイレクト蒸着性」
上記樹脂ペレットを、成形機(IS−170FA:東芝機械(株)製)に投入して、温度220〜260℃で溶融し、表面磨き#8000相当の金型へ充填し、長さ120mm、幅120mm、厚さ2mmのダイレクト蒸着用試験片を成形した。成形速度依存性を評価するため、試験片を、高速射出速度(50mm/秒)及び低速射出速度(20mm/秒)で成形した。
上記のダイレクト蒸着用試験片の表面に、真空成膜装置(VRSP350MD:新明和工業(株)製)により、下記条件でスパッタリングを行ない、アルミニウムの蒸着膜を形成した。この蒸着膜の表面に、下記条件でHMDS(1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン)のプラズマ重合膜を形成した。
【0144】
(スパッタリング条件)
粗引き終了後の圧力 5.0Pa
本引き終了後の圧力 5.0×10-3Pa
導入ガス アルゴンガスを100 SCCM(Standard cc/min)
成膜時の真空度 0.7Pa
アルミニウム膜厚 120nm
【0145】
(プラズマ重合条件)
導入ガス HMDSを30SCCM(Standard cc/min)
重合時の真空度 1.5Pa
【0146】
プラズマ重合膜を形成した試験片の表面に、デジタル反射率計(TR−1100AD:東京電色(有)製)を用いて光を照射し、拡散反射率を測定した。
拡散反射率の値は、好ましくは4.0%以下である。結果を表3に示す。
【0147】
表3の実施例、比較例の結果から、以下のことが明らかである。本発明の範囲内である実施例1〜14は、ダイレクト蒸着性と熱板溶着性のバランスに優れる。これら実施例の中でも帯電防止剤(C)として、脂肪族スルホネート(C−1)を用いた実施例1〜6、実施例10は、高温での熱板溶着性に特に優れる。一方、グラフト共重合体(A)が本発明の範囲外である比較例1〜3は、ダイレクト蒸着性と熱板溶着性のバランスに劣り、特に、比較例1、3は高温での熱板溶着性に劣り、比較例2はダイレクト蒸着性に劣る。帯電防止剤(C)を配合しない比較例4は、高温、低温とも熱板溶着性に劣る。帯電防止剤(C)の配合量が、本発明の請求範囲外である比較例5は、ダイレクト蒸着性に劣る。
【0148】
【表2】

【0149】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0150】
叙上のとおり、本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は、ダイレクト蒸着法により美麗な蒸着層を形成し得る表面を有するとともに、熱板溶着工程における糸曳きが少なく美麗な接合部を形成し得る成形物を得ることができる。また、本発明のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物は耐候性にも優れており、特に、自動車用等のランプハウジング部材等の成形物に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリ(メタ)アクリル酸エステル(a2)を含有する複合ゴム(a)の存在下に、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃を超える(メタ)アクリル酸エステル単量体(b1)を重合し、次いで、芳香族ビニル単量体(b2)及びシアン化ビニル単量体(b3)を重合して得られるグラフト共重合体(A)1〜99重量%と、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%とを含有[但し、(A)+(B)=100重量%]する樹脂組成物(R)100重量部に対し、融点が250℃以下の帯電防止剤(C)を0.1〜5重量部配合してなるランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
帯電防止剤(C)が、下記一般式であらわされる化合物を含有する請求項1に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
(化1)
R−SO3
(式中、RはCn 2n+1[nは8〜20の整数]、Xはアルカリ金属である。)
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)が、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂、及び/又は、ビニル系単量体の(共)重合体を含有する請求項1又は2記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(B)が、マレイミド系化合物単位を1〜70重量%含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(B)が、α−メチルスチレン単位を1〜80重量%含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ダイレクト蒸着による蒸着層を表面に形成する成形物用である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
熱板溶着法を使用する成形物用である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形物。

【公開番号】特開2009−155421(P2009−155421A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333989(P2007−333989)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】