説明

リグニンの高温分離方法

本明細書は、分離が、臨界温度以上、通常は60℃超で行われる、バイオマス原料から誘導される水性混合物から、リグニンを分離するための方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リグニンの効率的な除去は、バイオマスからのセルロースおよび糖をエタノールなどの他の有機化合物に変換する場合に重要である。
【0002】
特許文献1は、リグニンが水を放出する臨界温度より高く溶液温度を上げることによる製紙工場廃液からのリグニン除去を教示している。この特許はさらに、処理工程中に加熱されるリグニン塊が分離の臨界温度に達したとき、その後の塊の冷却に伴いリグニン固形物が沈殿し、一方、放出された水は上澄みとしてたまることを教示している。
【0003】
この方法は、製紙工場廃液には有効になり得るが、バイオマス変換の加水分解および発酵の工程中に放出されるリグニンは、このようにして分離することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/00381212(A1)号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、a)臨界温度より高い温度に混合物を加熱する段階と、b)臨界温度以上の分離温度で混合物からリグニンを分離する段階とを含む、水性混合物からリグニンを分離するための方法が開示されている。
【0006】
分離は、遠心分離法、ろ過法、水簸法、または重力法を含めた他の許容される技法により行うことができる。
【0007】
さらに、混合物が、セルロースを糖に変換できる酵素を含有し得ること、混合物が、バイオマス原料から誘導され、および/または混合物を加熱する段階に先立って、バイオマス原料に対する蒸気爆発段階を行うことが開示されている。
【0008】
分離を実施するタイミングは、バイオマスが少なくとも部分的に糖に加水分解した後、少なくとも部分的に加水分解したバイオマスがアルコールに変換された後、またはアルコールを水から分離するための蒸留段階の後であってもよい。
【0009】
さらに、混合物のpHが3.5より大きい、またはさらに7.0より大きいことが開示されている。
【0010】
さらに、臨界温度が、60℃〜98℃の範囲にあり、または範囲の下限温度が70℃であり、上限温度が97℃であることが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
リグニンは、バイオマス原料から製品を製造した後に残る生成物である。例えば、エタノールの製造では、バイオマス原料を最初に前処理(通常は蒸気爆発による)し、糖に加水分解(通常は酵素の存在下で)し、次いで、糖を発酵してエタノールを産することができる。エタノールは通常、蒸留により除去され、水、リグニン、酵母および他の酵素が残る。
【0012】
溶液からリグニンを分離することは非常に難しい。これはリグニンの吸水性が高いことに起因すると考えられている。特許文献1は、まず、混合物からリグニンゲルを分離し、臨界温度より高い温度にリグニンを加熱し、次いで、リグニンを冷却して固形物を水を含ませずに沈殿させることにより、低含水率の液体固形物を回収できると主張している。
【0013】
この方法を利用して、水、酵母、およびセルロースの酵素的加水分解用の酵素からなる水性混合物からリグニンを分離する試みは失敗に終わった。リグニンは、冷却時に沈殿せず、実際、高速での遠心分離後でも相はまだほとんど分離していない。
【0014】
バイオマスをアルコールに変換する工程中に形成される水性混合物中のリグニンは、混合物の温度を臨界温度以上に維持するとより効率よく分離できることが見出された。
【0015】
臨界温度は、溶液中のリグニンのガラス転移温度に関係していた。リグニンは、そのガラス転移温度より高い温度に加熱されると、吸収していた水を放出すると考えられる。ガラス転移は、リグニンの種類、これまでの熱処理(例えば水洗浄、蒸気爆発、および加水分解)および吸収されている水にある程度依存する。
【0016】
したがって、本明細書の目的のために、臨界温度は、リグニン塑性固形物が吸収水を放出する最低の温度であり、この温度は、これまでの条件で処理された特定のリグニンのおよそガラス転移温度であると考えられる。ガラス転移は変化しようが、臨界温度は、処理されたリグニンのガラス転移温度の始まりより10℃低い下限と、225℃の上限とを境界とする温度範囲内に現われよう。上限の225℃は、大量の水のために、操作上の実用的最高温度と考えられる温度により決定されている。
【0017】
より好ましい範囲は、ガラス転移温度の始まりから97℃である。特定の温度を超える、より高い温度では、分離の改善が生じないことが観察により示された。実験では、80℃および90℃で分離すると、非常に類似した結果が生じた。既知の知見によれば、臨界温度の許容範囲は、45℃〜97℃、60℃〜97℃、64℃〜97℃、70℃〜97℃、74℃〜97℃、79℃〜97℃および84℃〜97℃である。
【0018】
しかしながら、リグニンを他の方法で処理した場合、ガラス転移はめざましく低下し得ることが知られている。
【0019】
理論的には混合物を加熱し得る上限はないが、臨界温度より高く、しかも、230℃未満に、より好ましくは99℃未満に混合物を加熱するのが好ましい。
【0020】
加熱は、実施者が望む時間で、求められる温度に混合物の温度を上げるいかなる方法でも実施し得る。
【0021】
混合物からのリグニン固形物の分離は、遠心分離法、重力沈降法、ろ過法、水簸法を含むが、それらに限定されないいかなる技法でも実施できる。
【0022】
本方法は一般に加水分解の後に行われるので、混合物は、セルロースを糖に変換することができる少なくとも1種の酵素を含有し得る。多くの酵素が当技術分野で知られており、そのような酵素がセルロースを糖に変換できるかを評価する技法は十分に確立されている。
【0023】
混合物は一般にバイオマス原料から誘導されるので、混合物の加熱は通常、バイオマス原料に対して行われる蒸気爆発段階の後に行われる。バイオマス、特にセルロース系バイオマスの蒸気爆発は、当技術分野ではよく知られている。
【0024】
リグニンの分離時点は、バイオマス原料が変換される間の多くの時点中に可能である。例えば、混合物の加熱および分離は、バイオマスが少なくとも部分的に糖に加水分解した後で、かつ糖が発酵して最終生成物になる前に行うことができよう。
【0025】
加熱および分離は、少なくとも部分的に加水分解したバイオマスがアルコールに変換された(発酵段階としても知られる)後に行うこともできる。
【0026】
リグニンの加熱および分離はまた、混合物の水からアルコールを分離するための蒸留段階の一部として実施することもできる。
【0027】
pHも有効なパラメーターと考えられ、したがって、混合物のpHが7.0より大きい、または少なくとも3.5より大きいときに、加熱および分離を実施してもよい。
【実施例】
【0028】
次の実験で示すように、洗浄、蒸気爆発、加水分解および発酵によってバイオマス原料から誘導された混合物は、80℃に加熱し、次いで、冷却、加熱または維持して、表Iに示した温度で分離した。示された時間および示された温度において、試料を3000rpmで遠心分離した。
【0029】
試料全体で3種の相が見られるようであった。第1の相は液相であり、この液相は非常に澄んでいて、こはく色であり、80℃および95℃で分離したすべての試料で顕著であった。室温、名目上は23℃で分離した試料では、明確な相分離は観察されず、実際は、わずかに黒みがかった液相の上部に灰色固形物様物質を伴い、わずかに転相しているようであった。3種の相の存在は、50℃で4分間および8分間遠心分離した試料で最も顕著である。
【0030】
表Iの測定値は、試験管壁の直線部分に沿って測定した物質全量の高さに対して測定した場合の、目視された相を含有する試験管の比率(%)である。80℃および95℃で分離した物質については、固形物を含まない液体の量が約80%であったので、本方法が効率的であることを示している。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
真空ろ過
遠心分離法に加え、真空ろ過の成功が示された。
【0037】
溶液100mlを、0.5バールの真空下でろ過面積100cmを通してろ過した。溶液を25℃でろ過した場合は、分離時間は190秒であり、乾燥時間は90秒であった。溶液を55℃でろ過した場合は、分離時間は45秒であり、乾燥時間は15秒であった。
【0038】
混合物150mlを、0.5バールの真空下でろ過面積100cmを通してろ過した。溶液を25℃でろ過した場合は、分離時間は420秒であり、乾燥時間は90秒であった。溶液を50℃でろ過した場合は、分離時間は55秒であり、乾燥時間は15秒であった。
【0039】
また、ケーキの最終水分量は、温度を上げることにより改善した。25℃の場合、ケーキ水分量は64.4重量%であり、一方、55℃の場合は、ケーキ水分量は59.16%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)臨界温度より高い温度に混合物を加熱する段階と、
b)臨界温度以上の分離温度で混合物からリグニンを分離する段階と
を含む、水性混合物からリグニンを分離するための方法。
【請求項2】
分離の少なくとも一部分が遠心分離法によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分離の少なくとも一部分がろ過法によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分離の少なくとも一部分が重力法によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
混合物が、セルロースを糖に変換することができる酵素を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
混合物がバイオマス原料から誘導され、混合物を加熱する段階に先立って、バイオマス原料に対する蒸気爆発段階を行う、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
混合物の加熱が、バイオマスが少なくとも部分的に糖に加水分解した後に行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
混合物を加熱する段階が、少なくとも部分的に加水分解したバイオマスがアルコールに変換された後に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
混合物を加熱する段階の一部が、アルコールを水から分離するための蒸留段階の一部として行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
混合物のpHが7.0より大きい、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
混合物のpHが3.5より大きい、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
臨界温度が45℃〜98℃の範囲にある、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
臨界温度が上限温度および下限温度を有する範囲にあり、上限温度が97℃であり、下限温度が60℃である、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
下限温度が70℃であり、上限温度が97℃である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
範囲の下限温度が74℃である、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2012−532757(P2012−532757A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520150(P2012−520150)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国際出願番号】PCT/IT2009/000302
【国際公開番号】WO2011/007369
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(512007281)
【氏名又は名称原語表記】BETA RENEWABLES S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Strada Ribrocca 11, I−15057 TORTONA(Alessandria), ITALY
【Fターム(参考)】