説明

リグノセルロース分解酵素遺伝子およびその利用

【課題】木質バイオマスを分解する活性を有する微生物が発現しているリグノセルロース分解酵素遺伝子を同定し、より効率的にリグノセルロースを分解するための手段を提供する。
【解決手段】以下の(a)または(b)のDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子:(a)特定な配列の塩基配列からなるDNA、(b)特定な配列の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース分解酵素遺伝子、該遺伝子によってコードされるリグノセルロース分解酵素、該遺伝子を担持する形質転換微生物、ならびに該形質転換微生物を用いたリグノセルロース材料の処理方法および繊維成分の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系バイオマスは、結晶性の高いセルロースにリグニンおよびヘミセルロースが複雑に絡み合う強固な構造を有することから難分解性であり、微生物の攻撃による被害を受けにくい。しかしながらある種の微生物、とりわけ担子菌を主とする白色腐朽菌は、木材中のセルロースおよびヘミセルロースを分解する能力が高い。これらの菌は、フェニルプロパン構造を主体とするリグニン複合体を、酸化酵素であるペルオキシダーゼなどにより、ラジカルの発生を伴う酸化反応を介して逐次低分子へ分解し、ヘミセルロースやセルロースへのセルラーゼおよびヘミセルラーゼによる攻撃を容易にしていると考えられている。
【0003】
これまでに担子菌ファネロカエテ・クリソスポリウムのゲノム解析が行われ、多数のリグニン分解酵素、ならびにセルラーゼ遺伝子およびヘミセルラーゼ遺伝子の存在が明らかになった。しかし、担子菌は一般に生育速度が遅く、リグノセルロース成分を分解するまでに時間を要するという問題があった。そこでリグニン分解酵素やセルラーゼなどの生産が増強され、効率的にリグノセルロースを分解できる微生物の開発が求められていた(非特許文献1)。
【0004】
一方、紙パルプ工業で製造されているパルプは、その製造方法により機械パルプと化学パルプに分けられる。機械パルプは機械的エネルギーを用いて木材繊維を物理的に摩砕することにより製造される。従って機械パルプは、木材成分をほとんどそのまま含んでいるため、高い収率で製造することができ、これを用いて薄く不透明度の高い紙を作ることができる。しかしながら、その製造には、摩砕のために大きな電力が必要とされる。
【0005】
前記のような多大な電力の消費を抑制するため、微生物、特に白色腐朽菌と呼ばれるリグニン分解力を有する担子菌で予め木材チップを処理し、エネルギーを削減しようという研究が行われてきた。例えば、ハンノキの一次解繊サーモメカニカルパルプ(TMP)の製造に先立ち、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)をグルコースとともに木材チップに添加し、2週間放置すると、TMP製造の二次解繊のエネルギーを25から30%削減できることが報告されている(非特許文献2)。
【0006】
また、ファネロカエテ・クリソスポリウムとディコミタス・スクアレンス(Dichomitus squalens)を用い、アスペン材を処理すると、コントロールと比べて紙力強度が増加することが報告されている(非特許文献3)。
【0007】
Akamatsuらは、アラゲカワラタケ(Trametes hirsuta)を含む白色腐朽菌10株をポプラ材上に培養し、パルプ収率、解繊エネルギー、パルプ強度について調べている。そして、アラゲカワラタケで処理すると解繊エネルギーが減少し、結晶化度が増加するなど、用いた菌株の中ではアラゲカワラタケがチップの前処理菌として好ましいことを報告した。しかしながら、このとき、収率が約7%低下していた(非特許文献4)。
【0008】
また、Nishibeらは、白色腐朽菌61種85株から予備選抜した10種類の腐朽菌を使って、サワグルミ木片と針葉樹2次解離TMPを微生物分解し、選択的に脱リグニンを行い、パルプ繊維の崩壊が少ないネナガノヒトヨタケ(Coprinus cinereus)、ファネロカエテ・クリソスポリウムを選抜し、これらを用いることにより、グルコースと尿素の存在下で紙力強度の低下が抑えられることを報告した。しかし、14日間、30℃の処理で、それぞれ6.3%、9.7%のパルプ収率の低下がみられ、アラゲカワラタケを用いた場合は、収率減は7.5%であった(非特許文献5)。
【0009】
Kashinoらは、白色腐朽菌IZU-154を自然界からスクリーニングし、ファネロカエテ・クリソスポリウムやカワラタケ(Trametes versicolor)を用いて広葉樹を7日間処理した場合、解繊エネルギーが1/2〜2/3減少することを確認した。また、このときパルプ強度が約2倍増加することが確認された。針葉樹を10〜14日間処理した場合では、解繊エネルギーが1/3減少し、強度増加も得られることが確認された(非特許文献6)。
【0010】
さらに、米国ではUSDA Forest Products Laboratoryのグループを中心に、研究機関、紙パルプ産業数社からなるリグニンコンソーシアムが形成され、リグニン分解力が高く、セルロース分解力の低い菌株のスクリーニングが行われ、セリポリオプシス・サブバーミスポラ(Ceriporiopsis subvermispora)が新たに選抜された。この株を用いて機械パルプの動力削減が検討され、例えば、TMPの製造エネルギーの40%近くを削減できること、このときの収率の低下が3〜5%程度であり、心配される紙の強度への悪影響はなく、むしろ強度が向上することが報告された(非特許文献7)。
【0011】
USDA Forest Products Laboratoryでは既にパイロットプラントを建設し、単離したセリポリオプシス・サブバーミスポラの実証試験を行っている。米国内の工場を想定し、工場のチップヤードで微生物処理を行うことを考えている。しかし、セリポリオプシス・サブバーミスポラは増殖に好適な温度が低く、32℃までの温度でしか効果が得られないが、チップを保存しているパイル内部が高温となるため、冷却のための通気エネルギーおよびコストが大きく、温暖な地域での使用には不適切である。
【0012】
フィンランドのTeknillinen Tutkimuskeskus(VTT)研究所のJaakko Pereらは、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロカエテ属、ペニシリウム属(Penicillium)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、フミコーラ属(Humicola)およびバチルス(Bacillus)属に属する微生物が生産するセロビオヒドロラーゼを有するセルラーゼ酵素製剤を1gのチップあたり0.5 mg用いて、生の木材チップを45℃で24時間処理し、叩解エネルギーを10%程度削減させることに成功した(特許文献1)。このことにより、セルラーゼの添加が叩解エネルギー削減に効果があることが認められている。
【0013】
以上のように担子菌類の木材成分を分解する能力を利用することにより、動力削減やエネルギー削減などの効果を得ることができ、有益であることが知られている。
【0014】
一方、担子菌の染色体遺伝子の全配列については、ファネロカエテ・クリソスポリウムで解析が行われている。解読された遺伝子においては、多数のリグニン分解酵素遺伝子、セルラーゼ遺伝子およびヘミセルラーゼ遺伝子の存在が明らかになっている(非特許文献1)。
【0015】
これらのどの遺伝子に由来する酵素がどのような場面で重要な働きを担っているかを明らかにするには、それぞれの状況に応じて、発現している遺伝子に関する検討が必要である。この様な解析の例として、担子菌においてこれまでに各種培地を用いたEST解析が行われ、各種条件において発現する遺伝子に関する報告がなされている。
【0016】
Leeらはヒラタケ(Pleurotus ostereatus)の栄養液体培地培養時と子実体形成時におけるEST解析を比較し、子実体形成時にしか発現しない遺伝子を同定した(非特許文献8)。しかし、リグニン分解酵素遺伝子やリグノセルロース分解酵素遺伝子の発現に関する報告はなされていない。
【0017】
また、Guettlerらは、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)を窒素源過剰培地と窒素源制限培地で生育させ、発現してくる遺伝子の差違を検討し、窒素源制限下において細胞周期関連の遺伝子が多く発現していることを報告した(非特許文献9)。本報告においてもリグノセルロース分解酵素遺伝子の発現は記載されていない。
【0018】
【特許文献1】US Patent Number 6,099,688
【非特許文献1】Martines et. al., Nature Biotech.22 (10), 695 (2004)
【非特許文献2】Bar-Lev and K.T. Kirk, Tappi J., 65, (10), 111 (1982)
【非特許文献3】Myers., Tappi J., 71, (5), 105 (1988)
【非特許文献4】Akamatsu et al., Mokuzai Gakkaishi, 30 (8) 697-702, 1984
【非特許文献5】Nishibe et al., Japan Tappi, 42 (2) (1988)
【非特許文献6】Kashino et al., Tappi J., 76 (12), 167 (1993)
【非特許文献7】Scott et al., Tappi J., 81. (12). 153 (1998)
【非特許文献8】Lee, et al., Fungal Genetics and Biology, 35, 115 (2002)
【非特許文献9】Guettler et al., Fungal Genetics and Biology, 39, 191 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
木質バイオマスはリグニンやヘミセルロースを含み構造が複雑であるため、分解が困難であり、木質バイオマスの分解を促進するためには、これらの分解に必要な酵素成分を明らかにする必要があった。またリグノセルロース材料から繊維成分を取得する方法、特に紙パルプ製造においては、省資源および省エネルギー化のため、機械パルプや化学パルプ製造に先立って微生物処理を行うと、微生物が生産するリグノセルロース分解酵素により、紙の主成分であるセルロースが適度に分解され、チップ叩解エネルギーを削減できるが、どの酵素遺伝子が実際に作用しているかは明らかではなかった。
【0020】
従って、本発明は、木質バイオマスを分解する活性を有する微生物が発現しているリグノセルロース分解酵素遺伝子を同定し、より効率的にリグノセルロースを分解するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、強力なリグノセルロース分解担子菌であるアラゲカワラタケを、木質バイオマス成分を単一炭素源とする培地で生育させ、発現している遺伝子を網羅的に調べた。その結果、複数のセルロース分解酵素遺伝子およびヘミセルロース分解酵素遺伝子が発現していることを突き止めた。そして、これらの遺伝子を導入した微生物を用いてより効率的にリグノセルロースを分解できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)以下の(a)または(b)のDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子:
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(2)(1)記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(3)(1)記載の遺伝子によってコードされるリグノセルロース分解酵素。
【0023】
(4)以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質。
【0024】
(5)以下の(a)および(b):
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列からなるDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子、
(b)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子
から選択される少なくとも1つのリグノセルロース分解酵素遺伝子を担持する形質転換微生物。
【0025】
(6)リグノセルロース材料を処理する方法であって、(5)記載の形質転換微生物またはその処理物とリグノセルロース材料とを接触させることを含む前記方法。
(7)リグノセルロース材料から繊維成分を取り出すことにより繊維成分を製造する方法であって、(5)記載の形質転換微生物でリグノセルロース材料を処理し、繊維成分を分離・取得することを含む前記方法。
(8)繊維成分がパルプである(7)記載の方法。
(9)パルプが紙パルプである(8)記載の方法。
(10)紙パルプを分離・取得する方法が、化学パルプ化法、機械パルプ化法、またはセミケミカルパルプ化法である(9)記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、リグノセルロース分解力が増強された微生物が提供され、該微生物を用いてリグノセルロース材料を効率的に処理することができ、パルプの製造においては、エネルギーの削減が可能となる。また、該微生物を用いることにより、ペーパースラッジなどのバイオマスを効率的に分解することが可能となる。またバイオマスボイラーにおける前処理としての木質バイオマスの破砕や、酸加水分解、加圧熱水処理などの前処理に行う粉砕のエネルギーを削減することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、強力なリグノセルロース分解担子菌であるアラゲカワラタケで発現している複数のリグノセルロース分解酵素遺伝子を同定し、これらの遺伝子を導入した微生物を用いてより効率的にリグノセルロースを分解できることを見出した。
【0028】
リグノセルロース分解酵素遺伝子は、リグノセルロース分解酵素、すなわちリグノセルロース分解活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をさす。リグノセルロースは、構造性多糖のセルロースおよびヘミセルロースと芳香族化合物の重合体であるリグニンとから構成される成分をさす。リグノセルロース分解酵素には、セルロース分解酵素およびヘミセルロース分解酵素が包含される。セルロース分解酵素(セルラーゼ)は、セルロースを分解する活性を有し、セルロースを分子内部から切断するエンドグルカナーゼ、および糖鎖の還元末端と非還元末端のいずれかから分解しセロビオースを遊離するセロビオヒドロラーゼ(セロビオヒドロラーゼIおよびセロビオヒドロラーゼII)にわけられる。ヘミセルロース分解酵素(ヘミセルラーゼ)には、ヘミセルロースを構成する成分を分解する活性を有し、キシランを分解するキシラナーゼおよびアセチルキシランエステラーゼ、ならびにマンナンを分解するマンナナーゼが包含される。
【0029】
本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子の具体例としては、配列番号1の塩基配列からなるDNAからなるエンドグルカナーゼ遺伝子B01-J20、配列番号3の塩基配列からなるDNAからなるエンドグルカナーゼ遺伝子B02-O15、配列番号5の塩基配列からなるDNAからなるエンドグルカナーゼ遺伝子B03-A07、配列番号7の塩基配列からなるDNAからなるセロビオヒドロラーゼI遺伝子B01-M03、配列番号9の塩基配列からなるDNAからなるセロビオヒドロラーゼI遺伝子B03-D20、配列番号11の塩基配列からなるDNAからなるセロビオヒドロラーゼII遺伝子A03-C16、配列番号13の塩基配列からなるDNAからなるキシラナーゼ遺伝子A04-C07、配列番号15の塩基配列からなるDNAからなるアセチルキシランエステラーゼ遺伝子B02-G09、配列番号17の塩基配列からなるDNAからなるマンナナーゼ遺伝子B04-E14が挙げられる。
【0030】
本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子には、これらの遺伝子と機能的に同等の遺伝子も包含される。ここで「機能的に同等の遺伝子」とは、対象となる遺伝子によってコードされるタンパク質が、同等の生物学的機能、生化学的機能を有することをさす。ある遺伝子と機能的に同等の遺伝子を調製する当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press (1989))を利用する方法が挙げられる。従って、本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子には、以下の遺伝子も包含される:
配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるエンドグルカナーゼ遺伝子、
配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるエンドグルカナーゼ遺伝子、
配列番号5の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるエンドグルカナーゼ遺伝子、
配列番号7の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にセロビオヒドロラーゼI活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるセロビオヒドロラーゼI遺伝子、
配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にセロビオヒドロラーゼI活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるセロビオヒドロラーゼI遺伝子、
配列番号11の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にセロビオヒドロラーゼII活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるセロビオヒドロラーゼII遺伝子、
配列番号13の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるキシラナーゼ遺伝子、
配列番号15の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にアセチルキシランエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるアセチルキシランエステラーゼ遺伝子、および
配列番号17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性、特にマンナナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるマンナナーゼ遺伝子。
【0031】
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、低ストリンジェントな条件および高ストリンジェントな条件が挙げられるが、高ストリンジェントな条件が好ましい。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件であり、好ましくは50℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件である。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSCおよび0.1% SDSで洗浄する条件である。上記のようなストリンジェントな条件下では、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列と高い相同性(相同性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、または同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上)を有する塩基配列からなるDNAが、該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとハイブリダイズすることができる。
【0032】
本発明はまた、上記リグノセルロース分解酵素遺伝子によってコードされるリグノセルロース分解酵素に関する。本発明のリグノセルロース分解酵素としては、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本発明のリグノセルロース分解酵素には、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質も包含される。従って、本発明のリグノセルロース分解酵素には、以下のタンパク質も包含される:
配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質、
配列番号4のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質、
配列番号6のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質、
配列番号8のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にセロビオヒドロラーゼI活性を有するタンパク質、
配列番号10のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にセロビオヒドロラーゼI活性を有するタンパク質、
配列番号12のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にセロビオヒドロラーゼII活性を有するタンパク質、
配列番号14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にキシラナーゼ活性を有するタンパク質、
配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にアセチルキシランエステラーゼ活性を有するタンパク質、および
配列番号18のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性、特にマンナナーゼ活性を有するタンパク質。
【0033】
ここで数個とは、2〜5個、好ましくは2〜3個を意味する。上記各配列番号で表されるアミノ酸配列における、1または数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換は、常用される技術、例えば、部位特異的変異誘発法(Zoller et al., Nucleic Acids Res. 10 6478-6500, 1982)により、各配列番号で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAの配列を改変することにより実施することができる。上記におけるアミノ酸残基の置換は保存的置換であることが好ましい。アミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、グリシンとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、スレオニンとセリン(Ser)またはアラニン、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のアミノ酸の間での置換が知られている。
【0034】
本発明のリグノセルロース分解酵素には、2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列と80%以上の同一性、好ましくは90%以上の同一性、より好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質も包含される。
【0035】
本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子を微生物に導入して形質転換することにより、リグノセルロースを効率的に分解できる微生物が得られる。典型的には、本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子をコードするDNAを適当なベクターに連結し、該ベクターで宿主微生物を形質転換することにより、本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子を担持する形質転換微生物を得ることができる。具体的には、宿主微生物に該遺伝子をコードするDNAを多コピーにて導入したり、構成的に発現するプロモーター支配下に該遺伝子をコードするDNAを連結したり、または誘導酵素系遺伝子プロモーター支配下に該遺伝子をコードするDNAを連結したりして、リグノセルロース分解酵素を効率的に分解できる微生物を得ることができる。
【0036】
形質転換微生物は、上記のような本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子の1種を担持していてもよいし、2種以上、例えば、3種、4種、5種、6種、7種、8種または9種を担持していてもよい。複数のリグノセルロース分解酵素遺伝子を担持する形質転換微生物を作成する場合、複数のリグノセルロース分解酵素遺伝子をコードするDNAを単一のベクターに連結して宿主微生物に導入してもよいし、複数のベクターにそれぞれ連結して宿主微生物に導入してもよい。
【0037】
ベクターは、形質転換される宿主の種類に応じて選択される。ベクターとしては、宿主細胞において自律複製可能または染色体中に相同組換え可能なベクターを使用することができる。例えば、プラスミド、ファージを含むウイルス、コスミドなどが挙げられる。細菌、真菌、酵母などの原核および真核生物用の種々のベクターが市販されているか、あるいは、文献等に記載されており、これらを適宜使用することができる。
【0038】
本発明のリグノセルロース分解酵素遺伝子をコードするDNAは、導入された微生物においてリグノセルロース分解酵素を発現するようにベクターに連結される。すなわち、リグノセルロース分解酵素遺伝子をコードするDNAの上流にプロモーターを連結し、プロモーターの作動によりRNAに転写されるようにする。
【0039】
プロモーターとしては、プロモーターの作用を有するDNA断片であれば特に限定されることなく、あらゆる遺伝子のプロモーターを使用することができる。例えば、セロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、GPD(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子プロモーター、ras遺伝子プロモーターなどが挙げられる。前記プロモーターは、例えば、アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(FERM P-15015)、アラゲカワラタケ由来ras遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli DH5α/pCHRAS(FERM P-17352)から調製することが可能である。
【0040】
プロモーターとリグノセルロース分解酵素遺伝子をコードするDNAは、必要に応じて制限部位の導入、平滑末端化または付着末端化の後、適当なDNAリガーゼを用いて連結することができる。クローニング、連結反応、PCR等を含む組換えDNA技術は、例えば、J. Sambrookら(上記)およびShort Protocols In Molecular Biology, Third Edition, A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.に記載されるものを利用することができる。
【0041】
ベクターは、さらに、選択マーカー、複製開始点、ターミネーター、ポリリンカー、エンハンサー、リボゾーム結合部位などを適宜含むことができる。
【0042】
宿主微生物へのDNA導入は、例えば、J. Sambrookら(上記)に記載される技術を使用して実施することができる。得られた組換えDNAを環状のまま形質転換に用いることも可能である。また意図しない遺伝子を同時に形質転換することを避けるために、必要な領域のみを切り出して形質転換に供することも可能である。
【0043】
宿主微生物としては、例えば、担子菌、真菌、酵母および細菌を用いることができる。好ましい宿主微生物はリグノセルロース分解活性を有する担子菌であり、好ましくは白色腐朽菌である。白色腐朽菌としては、例えば、トラメテス(Trametes)属、シゾフィラム(Schizophyllum)属、プレウロタス(Pleurotus)属、ファネロカエテ(Phanerochaete)属、ジェルカンデラ(Bjerkandera)属、イルペックス(Irpex)属、マイセリオソラ(Myceliophthora)属、ピクノポラス(Pycnoporus)属、ボツリティス(Botrytis)属、グリフォラ(Grifola)属、ステレウム(Stereum)属等に属する菌を例示することができる。本発明においては、好ましくはトラメテス属菌、特にアラゲカワラタケ(Trametes hirsuta)を宿主微生物として用いる。具体的には、アラゲカワラタケNBRC4917株、アラゲカワラタケOJI-1078株(FERM BP-4210)を宿主として使用できる。
【0044】
形質転換法としては、塩化カルシウム/PEG法、リン酸カルシウム法、酢酸リチウム法、エレクトロポーレション法、プロトプラスト法、スフェロプラスト法、リポフェクション法、アグロバクテリウム法などを例示できるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の形質転換微生物でリグノセルロース材料を処理することにより、リグノセルロース材料を効率的に分解することができる。リグノセルロース材料は、リグノセルロースを多量に含む植物性材料をさし、例えば、木材、バガス、牧草(例えばオーチャードグラスおよびチモシー)、竹、綿、リンター、トウモロコシ穂軸、ビール粕、わら類、もみ殻等の農産廃棄物、古新聞、雑誌、段ボール、オフィス古紙、パルプおよび製紙メーカーから排出する廃パルプ等が挙げられる。ここでバガスとは、さとうきびから糖汁を搾ったあとのカスをさす。
【0046】
従って、本発明の形質転換微生物を用いて、リグノセルロースを含むバイオマス、特に木質バイオマスを分解すること、およびリグノセルロース材料から繊維成分を取り出すことにより繊維成分を製造することができる。繊維成分は、リグノセルロースから得られる繊維状成分、例えば、パルプをさす。繊維状成分はセルロースとヘミセルロースを主成分とする。パルプは、木材その他の植物から機械的または化学的処理によって抽出したセルロース繊維の集合体を意味し、製造方法によって機械パルプと化学パルプに、また用途によって製紙パルプと溶解パルプに分類される。
【0047】
従って一実施形態において本発明は、リグノセルロース材料から繊維成分を取り出すことにより繊維成分を製造する方法であって、本発明の形質転換体微生物でリグノセルロース材料を処理し、繊維成分を分離・取得することを含む前記方法に関する。
【0048】
繊維成分として、好ましくはパルプを、より好ましくは紙パルプを分離・取得する。繊維成分として、紙の原料となるパルプを取り出す場合、リグノセルロース材料として、木材を機械的に2〜3cm、厚さ約5mmの大きさに小片化した木材チップを、本発明の形質転換微生物で処理する。木材チップは、例えば、マツ、スギ、モミ、トウヒ、ダグラスファー、ラジアータパイン等の針葉樹、およびブナ、カバ、ハンノキ、カエデ、ユーカリ、ポプラ、アカシア、ラワン、ゴム等の広葉樹を含む木材から得られる。
【0049】
紙パルプを分離・取得する方法としては、化学パルプ化法、機械パルプ化法およびセミケミカルパルプ化法などを使用できる(紙パルプ製造技術シリーズ、第1巻クラフトパルプ、第2巻メカニカルパルプ、紙パルプ技術協会編)。
【0050】
リグノセルロース材料を本発明の形質転換微生物で処理する工程においては、リグノセルロース材料は前処理なくそのまま用いることができるが、他の微生物を殺菌するための前処理を実施した方が本発明の形質転換微生物が生育しやすいのであれば、オートクレーブやスチーミング等の処理により、リグノセルロース材料を予め処理することが好ましい。
【0051】
リグノセルロース材料を、本発明の形質転換微生物で処理する温度は10〜60℃が好ましく、さらに好ましくは20〜30℃である。リグノセルロース材料中の水分は20〜80%、好ましくは30〜50 %とするのがよい。接種後リグノセルロース材料への空気供給量はセルロース分解力を抑制した微生物が十分に生育可能であれば必要ないが、通常、対チップもしくはリグノセルロース材料容積1L当たりに供給する空気量が毎分0.001〜1 L/(L・min)(以下、空気供給量の単位 L/(L・min)をvvmと称する)とするのがよく、好ましくは、対チップもしくはリグノセルロース材料容積当たり0.01 vvm〜0.1 vvmである。
【0052】
本発明の形質転換微生物のリグノセルロース材料への接種量は、パルプ収率や紙力を軽減することがない限り、適宜設定することができる。本発明の形質転換微生物は、滅菌水とともに粉砕し、リグノセルロース材料に対して植菌して培養することができるが、リグノセルロース材料に培地を添加して処理してもよい。培地は、本発明の形質転換微生物が生育できるのであればいずれの培地も用いることができる。例えば、炭素源としては、グルコース、セロビオース、デンプン、非晶性セルロース等を使用することができる。また、窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、各種アミノ酸、大豆粕、コーンスティープリカー、尿素や各種無機窒素などの窒素化合物を用いることができる。さらに、必要に応じて、各種塩類やビタミン、ミネラル等を適宜用いることができる。
【0053】
本発明により、リグノセルロース分解力が増強された微生物が提供され、これを用いて木材チップを処理し、ついでパルプを製造すれば、機械パルプ、例えば、サーモメカニカルパルプ(TMP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)において、解繊エネルギーの減少や紙力の増加を達成することができる。一方、リグノセルロース材料の分解においては、バイオマスを効率的に分解することが可能となる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0055】
実施例1
a. 木質バイオマス上に生育させたアラゲカワラタケからのmRNA調製
供試菌株アラゲカワラタケNBRC4917株を表1記載の滅菌済木粉培地に植菌し、30℃で7日間培養した。
【0056】
【表1】

【0057】
培養終了後、培養シャーレから菌体を回収し、QIAGEN社製のRNeasy Plant Mini Kitを用いてtotalRNAを回収し、Vector-Capping法にてcDNAライブラリーを作製した。
【0058】
b. cDNA塩基配列の解析
得られたcDNAライブラリーから無作為に3,072クローンを選抜し、Applied biosystems社のABI3700により塩基配列解析を行った。その結果、木質バイオマス分解中に発現している各種リグノセルロース分解酵素遺伝子を見出すことができた。具体的には、エンドグルカナーゼ遺伝子B01-J20(配列番号1)、エンドグルカナーゼ遺伝子B02-O15(配列番号3)、エンドグルカナーゼ遺伝子B03-A07(配列番号5)、セロビオヒドロラーゼI遺伝子B01-M03(配列番号7)、セロビオヒドロラーゼI遺伝子B03-D20(配列番号9)、セロビオヒドロラーゼII遺伝子A03-C16(配列番号11)、キシラナーゼ遺伝子A04-C07(配列番号13)、アセチルキシランエステラーゼ遺伝子B02-G09(配列番号15)、マンナナーゼ遺伝子B04-E14(配列番号17)である。
【0059】
実施例2 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来エンドグルカナーゼ遺伝子B01-J20発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にエンドグルカナーゼ遺伝子B01-J20の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpCHGPEGJ20Mとした。
【0060】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0061】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0062】
一方、エンドグルカナーゼB01-J20をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、エンドグルカナーゼB01-J20遺伝子断片を鋳型として、配列番号20、21に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約700 bpのDNA断片を得た(断片3)。
5’- AAGCTCGCACTCCTCTCC -3’(配列番号20)
5’- GGGTCTGAGTCACCCAGACCAGAC -3’(配列番号21)
【0063】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片3および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、エンドグルカナーゼB01-J20発現ベクターpGPEGJ20を構築した。
【0064】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0065】
また、上記発現ベクターpGPEGJ20を制限酵素Xba IおよびHind IIIで消化し、断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPEGJ20Mを得た。
【0066】
実施例3 アラゲカワラタケの形質転換
a. 一核菌糸体培養
直径6 mm前後のガラスビーズを約30個入れた500 ml容三角フラスコにSMY培地(シュークロース1 %、麦芽エキス1 %、酵母エキス0.4 %)100 mlを分注して滅菌後、アラゲカワラタケOJI-1078株の平板寒天培地から直径5 mmの寒天片をコルクボーラーで打ち抜きSMY培地に植菌し、28 ℃で7日間静置培養した(前培養)。ただし、菌糸を細分化するために、1日に1〜2回振り混ぜた。次に、1 L容の三角フラスコにSMY培地200 mlを分注し、さらに回転子を入れ、滅菌後、前培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径30 μm)で濾集し、全量を植菌し、28 ℃で培養した。なお、スターラーで1日2時間程度撹拌することにより菌糸を細分化した。この培養を4日間行った。
【0067】
b. プロトプラストの調製
上記液体培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径30 μm)で濾集し、浸透圧調節溶液(0.5 M MgSO4、50mlマレイン酸バッファー(pH 5.6))で洗浄した。次に、湿菌体100 mgあたり1 mlの細胞壁分解酵素液に懸濁し、緩やかに振盪しながら28℃で3 時間インキュベートしてプロトプラストを遊離させた。細胞壁溶解酵素として、次の市販酵素製剤を組み合わせて使用した。即ち、セルラーゼ・オノズカ(cellulase ONOZUKA RS)ヤクルト社製5 mg、ヤタラーゼ(Yatalase)(宝酒造社製)10 mgを上記浸透圧調節溶液1 mgに溶解して酵素液として用いた。
【0068】
c. プロトプラストの精製
上記酵素反応液からナイロンメッシュ(孔径30 μm)で菌糸断片を除いた後、プロトプラストの回収率を高めるため、ナイロンメッシュ上に残存する菌糸断片とプロトプラストを上記浸透圧調節溶液で1回洗浄した。得られたプロトプラスト懸濁液を遠心分離(1,000×g、5分間)し、上清を除去し、4 mlの1 Mシュークロースを含む20 mM MOPS緩衝液(pH 6.3)で再懸濁後、遠心操作を繰り返し、上記1 Mシュークロース溶液で2回洗浄した。沈殿物を、1 Mソルビトールを含む20 mM MES緩衝液(pH 6.4)に40 mM塩化カルシウムを加えた溶液500 μlに懸濁し、プロトプラスト懸濁液とした。この懸濁液を4 ℃で保存した。
【0069】
プロトプラスト濃度は血球計算盤を用いて、直接検鏡により求めた。すべての遠心操作はスウィングローターで1,000×gで5分間、室温で行った。
【0070】
d. 形質転換
約106個/100 μlのプロトプラスト懸濁液100 μlに対して、実施例2で得られたエンドグルカナーゼJ20遺伝子発現ベクターpGPEGJ20Mを制限酵素EcoR IおよびHind IIIにより処理して得られた約2.6 kbpのDNA断片2 μgを添加した。さらに選択マーカーとして、アラゲカワラタケ由来のオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ遺伝子を保持するプラスミドpUCR1(特開平6-054691号公報;FERM BP-4201)を制限酵素Sal Iで処理し、アラゲカワラタケ由来部分のみをアガロースゲルから回収し、0.2 μg添加し、30分間氷冷した。次に、液量に対して等量のPEG溶液(50 % PEG 3400を含む20 mM MOPS緩衝液(pH6.4))を加え、30分間氷冷した。次に、0.5 Mシュークロースおよびロイシンを含む最小寒天培地(寒天1 %)に混合してシャーレに撒いた。上記シャーレを28 ℃で数日間培養に付し、形質転換体を得た。さらに形質転換体から染色体DNAを回収し、目的とするリグノセルロース分解酵素遺伝子が組み込まれていることをPCR法により確認した。
【0071】
実施例4 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
前記形質転換法にて単離された形質転換体はグルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。カルボキシメチルセルロース(CMC)分解活性を経時的に測定した。
【0072】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0073】
CMC分解活性はSomogyi-Nelson法を用いた生成還元糖量の測定より求めた。本培養の培養液からエッペンチューブにサンプリングし、15,000 rpmで10分間遠心した。これを煮沸し失活させたものをブランクとした。試験管にサンプル10 μlと、1.25%カルボキシメチルセルロース(125 mM酢酸バッファー、pH 5)を40μl入れ、40 ℃の恒温槽で30分間反応させた。反応中は試験管の口にビー玉を乗せて蒸発を防いだ。Somogyi液(A+B液)を50 μl入れ反応を停止させた後、10 分間煮沸した。煮沸後氷水中に浸け冷却し、Nelson試薬を50 μl、水1.25 mlを加え、Voltexで攪拌した後15 分間放置した。試験管は3,000 rpm で1分間遠心した。上清を200 μl取り、96穴プレートで492 nmの吸光度を測定した。検量線は、10 mM グルコースをそれぞれ0 mM〜5 mMになるように希釈したものを用いて作成した。1分間に1 μmolの還元糖を生成する酵素活性を1 Uとした。
【0074】
pGPEGJ20M形質転換株におけるCMC分解活性の経時変化を図1に示す。図1の結果から、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のCMC分解活性において培養10日目で約5倍、分解活性が増大していた。
【0075】
実施例5 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来エンドグルカナーゼ遺伝子B02-O15発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にエンドグルカナーゼ遺伝子B02-O15の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPEGO15Mとした。
【0076】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0077】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0078】
一方、エンドグルカナーゼB02-O15をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、エンドグルカナーゼB02-O15遺伝子断片を鋳型として、配列番号24、25に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約950 bpのDNA断片を得た(断片5)。
5’- AAGGGCTTTGCTTCTCTC -3’(配列番号24)
5’- GGGTCTGAGTTACAGGCATTGGC -3’(配列番号25)
【0079】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片5および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、エンドグルカナーゼB02-O15発現ベクターpGPEGO15を構築した。
【0080】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0081】
また、上記発現ベクターpGPEGO15を制限酵素Xba IおよびHind IIIで消化し、断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPEGO15Mを得た。
【0082】
実施例6 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例5記載の発現ベクターpGPEGO15Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。CMC分解活性を経時的に測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のCMC分解活性において培養10日目で約8倍分解活性が増大していた。
【0083】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0084】
実施例7 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来エンドグルカナーゼ遺伝子B03-A07発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にエンドグルカナーゼ遺伝子B03-A07の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPEGA07Mとした。
【0085】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0086】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0087】
一方、エンドグルカナーゼB03-A07をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、エンドグルカナーゼB03-A07遺伝子断片を鋳型として、配列番号26、27に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約730 bpのDNA断片を得た(断片6)。
5’- TTCGCATCTGCTGTGCTC -3’(配列番号26)
5’- GGGTCTGAGTCAACCCTGCCAAAC -3’(配列番号27)
【0088】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片6および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、エンドグルカナーゼB03-A07発現ベクターpGPEGA07を構築した。
【0089】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0090】
また、上記発現ベクターpGPEGA07を制限酵素Xba IおよびHind IIIで消化し、断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPEGA07Mを得た。
【0091】
実施例8 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例7記載の発現ベクターpGPEGA07Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。CMC分解活性を経時的に測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のCMC分解活性において培養10日目で約7倍、分解活性が増大していた。
【0092】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0093】
実施例9 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来セロビオヒドロラーゼI遺伝子B01-M03発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にセロビオヒドロラーゼI遺伝子B01-M03の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPCBHIM03Mとした。
【0094】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0095】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0096】
一方、セロビオヒドロラーゼIB01-M03をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、セロビオヒドロラーゼIB01-M03遺伝子断片を鋳型として、配列番号28、29に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約1370 bpのDNA断片を得た(断片7)。
5’- TTCCCCGCAGTCGCCCTC -3’(配列番号28)
5’- GGGTCTGAGTTAGTAGGTCGAGCC -3’(配列番号29)
【0097】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片7および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、セロビオヒドロラーゼIB01-M03発現ベクターpGPCBHIM03を構築した。
【0098】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0099】
また、上記発現ベクターpGPCBHIM03を制限酵素Xba IおよびHind IIIで消化し、上記断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPCBHIM03Mを得た。
【0100】
実施例10 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例9記載の発現ベクターpGPCBHIM03Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。セロビオヒドロラーゼI(CBH I)活性を経時的に測定した。
【0101】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0102】
CBH I活性は4-メチルウンベリフェリル-β-D-ラクトシドを蛍光基質として用い、酵素分解により遊離するウンベリフェロンの蛍光強度より求めた。本培養の培養液からエッペンチューブにサンプリングし、15,000 rpm で10分間遠心した。これを煮沸し失活させたものをブランクとした。具体的には、1.25 mMの4-メチルウンベリフェリル-β-D-ラクトシド(125 mM酢酸バッファー、pH 5)を32 μl、β-グルコシダーゼ阻害剤である40 mM グルコノ-1,5-ラクトン 4 μlを96 穴プレートに加えた。これに適宜希釈した培養上清を4 μlずつ加えて、40 ℃で30 分間反応させた。反応後、Stop solution (0.5 M グリシンNaOH (pH 10.5)バッファー)を200μl加え、励起波長350 nmで、測定波長460 nmの蛍光を測定した。検量線は4-メチルウンベリフェロンを0 pmol〜500 pmolになるように希釈したものを用いて作成した。また、セロビオヒドロラーゼI以外にある種のエンドグルカナーゼによる基質の分解によるメチルウンベリフェロンの生成が生じるため、上記反応系に最終濃度5 mMとなるようにセロビオースを添加した反応系より得られる蛍光強度を差分したものから導き出した値をセロビオヒドロラーゼIのみの蛍光強度とした。なお、活性の定義は1 分間に1 μmolのメチルウンベリフェロンを生成する活性を1 Uとした。
【0103】
その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のCBH I活性において培養7日目で約5倍、CBH I活性が増大していた。
【0104】
実施例11 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来セロビオヒドロラーゼI遺伝子B03-D20発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にセロビオヒドロラーゼI遺伝子B03-D20の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPCBHID20Mとした。
【0105】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0106】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0107】
一方、セロビオヒドロラーゼIB03-D20をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、セロビオヒドロラーゼIB03-D20遺伝子断片を鋳型として、配列番号30、31に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約1370 bpのDNA断片を得た(断片8)。
5’- TTCCCCGCAGCCTCCCTC -3’(配列番号30)
5’- GGGTCTGAGTCAGAAAGTCGAGCC -3’(配列番号31)
【0108】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片8および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、セロビオヒドロラーゼIB03-D20発現ベクターpGPCBHID20を構築した。
【0109】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0110】
また、上記発現ベクターpGPCBHID20を制限酵素Xba IおよびHind IIIで消化し、上記断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPCBHID20Mを得た。
【0111】
実施例12 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例11記載の発現ベクターpGPCBHID20Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。CBH I活性を経時的に測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のCBH I活性において培養7日目で約3倍、CBH I活性が増大していた。
【0112】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0113】
実施例13 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来セロビオヒドロラーゼII遺伝子A03-C16発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にセロビオヒドロラーゼII遺伝子A03-C16の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPCBHIIC16Mとした。
【0114】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0115】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0116】
一方、セロビオヒドロラーゼIIA03-C16をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、セロビオヒドロラーゼIIA03-C16遺伝子断片を鋳型として、配列番号32、33に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約1360 bpのDNA断片を得た(断片9)。
5’- TCCAAGTTCGCGACGC -3’(配列番号32)
5’- GGGTCTGAGTCACAGCGGCGGGTTG -3’(配列番号33)
【0117】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片9および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、セロビオヒドロラーゼIIA03-C16発現ベクターpGPCBHIIC16を構築した。
【0118】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0119】
また、上記発現ベクターpGPCBHIIC16を制限酵素Xba IおよびHind IIIで消化し、上記断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPCBHIIC16Mを得た。
【0120】
実施例14 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例13記載の発現ベクターpGPCBHIIC16Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。セロビオヒドロラーゼII(CBH II)タンパク質量を経時的にSDS-PAGEにより測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のCBH IIタンパク質に対応する約50kDaのバンドが培養7日目で約3倍、増大していた。
【0121】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0122】
実施例15 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来キシラナーゼ遺伝子A04-C07発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にキシラナーゼ遺伝子A04-C07の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPXYNC07Mとした。
【0123】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0124】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0125】
一方、キシラナーゼA04-C07をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、キシラナーゼA04-C07遺伝子断片を鋳型として、配列番号34、35に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約1140 bpのDNA断片を得た(断片10)。
5’- AAGAGCCTCGCCGCACTC -3’(配列番号34)
5’- GGGTCTGAGTCAAGCCAACGCCTG -3’(配列番号35)
【0126】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片10および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、キシラナーゼA04-C07発現ベクターpGPXYNC07を構築した。
【0127】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0128】
また、上記発現ベクターpGPXYNC07を制限酵素Xba IおよびHind IIIで部分消化し、上記断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPXYNC07Mを得た。
【0129】
実施例16 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例15記載の発現ベクターpGPXYNC07Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。キシラナーゼ活性を経時的に測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のキシラナーゼ活性において培養7日目で約3倍、キシラナーゼ活性が増大していた。
【0130】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0131】
なお、キシラナーゼの活性は、次のように測定した。50mM 酢酸緩衝液(pH 5.4)中においてRemazolbrilliant blue-modified xylan(RBB-Xylan;Sigma, 5.75mg/ml)を基質として30 ℃で反応後、2倍量の96 %エタノールを加えて反応を停止させた。この液の595 nmの吸光度の増加をキシラナーゼ活性として測定した。キシラナーゼ活性は、培養液1ml、1分間当たり吸光度を1.0増加させる活性を1 Uと定義した。
【0132】
実施例17 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来アセチルキシランエステラーゼ遺伝子B02-G09発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にアセチルキシランエステラーゼ遺伝子B02-G09の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPAXEG09Mとした。
【0133】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0134】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0135】
一方、アセチルキシランエステラーゼB02-G09をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、アセチルキシランエステラーゼB02-G09遺伝子断片を鋳型として、配列番号36、37に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約1400 bpのDNA断片を得た(断片11)。
5’- CAGCTCTCGACCGCCGTGC -3’(配列番号36)
5’- GGGTCTGAGTCAGTGAAGCTGGGGG -3’(配列番号37)
【0136】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片11および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、アセチルキシランエステラーゼB02-G09発現ベクターpGPAXEG09を構築した。
【0137】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0138】
また、上記発現ベクターpGPAXEG09を制限酵素Xba IおよびHind IIIで部分消化し、上記断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPAXEG09Mを得た。
【0139】
実施例18 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例17記載の発現ベクターpGPAXEG09Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。 アセチルキシランエステラーゼ活性を経時的に測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のアセチルキシランエステラーゼ活性において培養7日目で約3倍、アセチルキシランエステラーゼ活性が増大していた。
【0140】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0141】
アセチルキシランエステラーゼ活性は次のように測定した。カバアセチルキシランを20% w/v溶液となるように0.4 Mリン酸バッファー(pH 6)に懸濁した。次に適当に希釈した培養上清を等量加え、さらに微生物の繁殖を防ぐため、トルエンを2、3滴加え、40 ℃で反応を開始した。反応液から経時的にサンプリングを行い、不溶性物質を遠心により除去後、Bio-Rad Aminex HPX-87Hカラムを用いたHPLCにより遊離した酢酸含量を測定した。
アセチルキシランエステラーゼ活性は、反応液100μlに含まれる10mgの基質から1分間当たりに酢酸1μモルを遊離する活性を1 Uとした。
【0142】
実施例19 アラゲカワラタケ由来グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子プロモーターによるアラゲカワラタケ由来マンナナーゼ遺伝子B04-E14発現ベクターの構築
アラゲカワラタケ由来GPD遺伝子プロモーターの下流にマンナナーゼ遺伝子B04-E14の構造遺伝子領域を連結し、遺伝子発現ベクターpGPMANE14Mとした。
【0143】
具体的にはGPD遺伝子プロモーターを含む大腸菌組換え体であるE. coli JM109/pCHGP(特開平9-47289、FERM P-15015)から制限酵素EcoR IおよびBamH I消化により得られる3.8 kbpのDNA断片(断片1)を得た。ファージベクターM13mp18のEcoR I、BamH IサイトにT4DNAリガーゼを用いて前記断片1を連結し、これを大腸菌JM109株に形質転換し、一本鎖ファージDNAを調製した。
【0144】
次に、配列番号19に示すDNAプライマーを合成し、上記一本鎖ファージDNAにアニーリングさせ、プライマー伸長法によりGPD遺伝子のプロモーター領域だけを合成し、制限酵素EcoR Iで切断することにより0.9 kbpのDNA断片(断片2)を調製した。
5’-CATGGTGTGTGGTGGATG-3’(配列番号19)
【0145】
一方、マンナナーゼB04-E14をコードしている遺伝子領域だけを取り出すため、マンナナーゼB04-E14遺伝子断片を鋳型として、配列番号38、39に示すプライマーでPCR反応を行った後、制限酵素Xba Iにて消化することにより、約1300 bpのDNA断片を得た(断片12)。
5’- TTTAGCGTTGGCTTGATC -3’(配列番号38)
5’- GGGTCTGAGTCAGCCTCTCGCCTTG -3’(配列番号39)
【0146】
次に、プラスミドpUC18を制限酵素EcoR IおよびXba Iにて消化することにより、ベクター部分(断片4)を調製し、断片2、断片11および断片4を混合してT4DNAリガーゼにより各種DNA断片を連結し、マンナナーゼB04-E14発現ベクターpGPMANE14を構築した。
【0147】
さらに、アラゲカワラタケ由来マンガンパーオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpBSMPOG1(特開平8-308581、FERM P-14933)を鋳型として、以下に示す2つのプライマー(配列番号22、23)を用いてPCR法によりマンガンパーオキシダーゼ遺伝子の最終イントロン領域を含むターミネーター領域の増幅を行い、制限酵素XbaIとHind IIIで消化し、約1kbのDNA断片を得た(断片5)。
5’- GGGTCTAGAGTCACCTCCGT -3’(配列番号22)
5’- GGGAAGCTTGGGTACTGTG -3’(配列番号23)
【0148】
また、上記発現ベクターpGPMANE14を制限酵素Xba IおよびHind IIIで部分消化し、上記断片5を混合し、T4DNAリガーゼを用いて連結し、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子由来のターミネーター領域を有する発現ベクターpGPMANE14Mを得た。
【0149】
実施例20 リグノセルロース分解酵素活性が増強された形質転換体の選抜
実施例3記載の形質転換法を用いて、実施例19記載の発現ベクターpGPMANE14Mで遺伝子導入された形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。マンナナーゼ活性を経時的に測定した。その結果、形質転換体は、対照例と比較して、培養上清中のマンナナーゼ活性において培養7日目で約3倍、マンナナーゼ活性が増大していた。
【0150】
なお、対照例としては、アラゲカワラタケ野性株NBRC4917株を、広葉樹パルプ・ペプトン培地(広葉樹パルプ2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養したものを用いた。
【0151】
マンナナーゼ活性は次のように測定した。基質としてRemazol Brilliant Blue(RBB) dyed carob galactomannanを1%となるように0.3 M酢酸バッファー(pH 5)に懸濁し、前記基質1 mlに対し、適当に希釈した酵素液を0.5 ml添加し、40℃で10分間反応させた。その後、3 mlのエタノールを加えることにより反応を終了させ、不溶物を遠心で除去後、上清の595 nmにおける吸光度の増加を測定した。マンナナーゼ活性は、培養液1ml、1分間当たり吸光度を1.0増加させる活性を1 Uと定義した。
【0152】
実施例21 複数のリグノセルロース分解酵素活性を増強した形質転換体の利用
実施例2、実施例5、実施例7、実施例9、実施例11、実施例13、実施例15、実施例17および実施例19で作成した各種リグノセルロース分解酵素遺伝子発現ベクターpGPEGJ20M、pGPEGO15M、pGPEGA07M、pGPCBHIM03M、pGPCBHID20M、pGPCBHIIC16M、pGPXYNC07M、pGPAXEG09MおよびpGPMANE14Mを同時に実施例3記載の形質転換法によりアラゲカワラタケ宿主OJI1078株へCa/PEG法により選択マーカー遺伝子であるオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ染色体遺伝子と共に導入し、すべての遺伝子が同時に挿入された形質転換体をPCR法により確認した。このように得られた形質転換体を、グルコース・ペプトン培地(グルコース2 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、 MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 mlずつ含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28 ℃、120 rpmで振盪培養した。得られた培養上清を用いて1%広葉樹パルプを40℃にて処理したところ、48時間において野性株の培養液を用いた時と比べ、パルプ残渣が減少する速度が早いことが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】pGPEGJ20M形質転換株におけるCMC分解活性の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子:
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項3】
請求項1記載の遺伝子によってコードされるリグノセルロース分解酵素。
【請求項4】
以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質。
【請求項5】
以下の(a)および(b):
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列からなるDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子、
(b)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリグノセルロース分解活性を有するタンパク質をコードするDNAからなるリグノセルロース分解酵素遺伝子
から選択される少なくとも1つのリグノセルロース分解酵素遺伝子を担持する形質転換微生物。
【請求項6】
リグノセルロース材料を処理する方法であって、請求項5記載の形質転換微生物またはその処理物とリグノセルロース材料とを接触させることを含む前記方法。
【請求項7】
リグノセルロース材料から繊維成分を取り出すことにより繊維成分を製造する方法であって、請求項5記載の形質転換微生物でリグノセルロース材料を処理し、繊維成分を分離・取得することを含む前記方法。
【請求項8】
繊維成分がパルプである請求項7記載の方法。
【請求項9】
パルプが紙パルプである請求項8記載の方法。
【請求項10】
紙パルプを分離・取得する方法が、化学パルプ化法、機械パルプ化法、またはセミケミカルパルプ化法である請求項9記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−124995(P2009−124995A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303270(P2007−303270)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】