説明

リグノセルロース系バイオマスを用いた糖化液の製造方法

【課題】リグノセルロース系バイオマスから、効率よく糖化液を製造することを目的とする。
【解決手段】本発明は、リグノセルロース系バイオマスを粉砕する工程と、得られた粉砕物を加水分解酵素を用いて加水分解する工程とを含む、糖化液の製造方法である。また、該糖化液を含む培地で微生物を培養することによる、微生物代謝産物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを用いた糖化液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以来、燃料や化学品の原料として、化石燃料、特に石油が大量に消費されてきた。その結果、今日、二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化は、もはや一刻の猶予もないほど深刻化しており、さらに、石油の可採年数が数十年との予測もなされている。そこで、石油に取って替わる、地球に優しい新たな資源の確保が急務となっている。
【0003】
これらの問題の一つの解決策として、バイオマス(再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)から燃料や化学品の原料を生産しようとする、バイオリファイナリーの研究・開発が世界各地で進められている。
【0004】
こうしたバイオリファイナリー技術の中でも、バイオマスエタノール(以下、「バイオエタノール」とも称する)は、近年、実用化の段階にまで差し掛かってきており、トウモロコシやサトウキビなどの可食部に含まれるデンプン質または糖質を用いたエタノール生産が、米国やブラジルなどで大規模に行われている。しかしながら、これらの食糧資源をバイオエタノールの原料とすることで、食糧価格の高騰や、発展途上国での深刻な食糧不足を引き起こすことが懸念されている。本発明者は、こうした状況を鑑みて、作物の非可食部である葉や茎など(ソフトバイオマス)、あるいは木材など(ハードバイオマス)に含まれるリグノセルロース系バイオマスを原料とするバイオリファイナリー技術の開発に取り組んできた。
【0005】
一般に、バイオリファイナリーにおいては、まずバイオマスに含まれる多糖類を加水分解(以下、「糖化」とも称する)することによって、単糖類を含む糖化液を得る。そしてこの単糖類から微生物を用いた発酵等により、各種化学品を得る。しかしながら、作物の葉や茎または木材のようなリグノセルロース系バイオマスは、構造性多糖であるセルロースに芳香族化合物の重合体であるリグニンおよびヘミセルロースが強固に結合する構造を有しており、デンプン質や糖質を主成分とするデンプン系バイオマスや糖質系バイオマスと比較して、加水分解反応の効率が著しく低いことが知られている。
【0006】
これらの理由から、従来のリグノセルロース系バイオマスの加水分解反応においては、酸またはアルカリを用いた化学的な加水分解法が用いられていた(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大深正徳 他、「デンプン・セルロース系混合原料の酸糖化液のエタノール発酵特性」、寒地土木研究所月報、2007年、651、p.19−20
【非特許文献2】Hajime Minato、“Effect of Sodium Hydroxide Treatment of Rice Straw on Cell Wall Composition and Digestibility of Dry Matter”、Animal Science Journal、(1977)、70、p.61−66
【非特許文献3】E.Yu Valensco、H.Ding、J.M.Labavitch、and S.P.Shoemaker、“Enzymatic Hydrolysis of Pretreated Rice Straw”、Biosource Technology、(1997)、5、p.109−119
【非特許文献4】Nicoletta Curreji、Mario Agelli、Brunella Pisu、Antonio Recigno、Enrico Sanjust、and Augusto Rinaldi、“Complete and Efficient Enzyme Hydrolysis of Pretreated wheat Straw”、Process Biochemistry、(2002)、37、p.937−941
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、かような化学的加水分解法では、リグノセルロース系バイオマスを強酸性または強アルカリ性条件下で加水分解する必要があるため、大量の酸またはアルカリ試薬を要する。このような化学的加水分解法を工業的規模で行うとすると、環境汚染の観点からも好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、リグノセルロース系バイオマスから、効率よく糖化液を製造するため、鋭意研究を行った。その結果、リグノセルロース系バイオマスを粉砕し、該粉砕物を加水分解酵素を用いて加水分解することによって、高効率で加水分解反応が進行することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、リグノセルロース系バイオマスを粉砕する工程と、得られた粉砕物を加水分解酵素を用いて加水分解する工程とを含む、糖化液の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リグノセルロース系バイオマスから、効率よく糖化液を製造することができる。該製造方法は、従来のように酸またはアルカリといった化学薬品を大量に使用しないため、環境に優しいバイオリファイナリー技術の構築に貢献しうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。
【0013】
本実施形態は、リグノセルロース系バイオマスを粉砕する工程と、得られた粉砕物を加水分解酵素を用いて加水分解する工程とを含む、糖化液の製造方法に関する。
【0014】
[糖化液の製造方法]
まず、リグノセルロース系バイオマスを粉砕する工程について説明する。
【0015】
本発明において、「リグノセルロース系バイオマス」とは、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンを主成分とするバイオマスを意味する。リグノセルロース系バイオマスとしては、上記成分を主成分として含むバイオマスであれば特に制限なく用いることができるが、具体例としては、稲わら、籾殻、麦わら、バガス、ヤシ殻、コーンコブ、雑草、木材、パルプ、および紙などが挙げられる。さらに、食品産業、建築業、家庭から排出される廃棄物なども含まれうる。これらのリグノセルロース系バイオマスは、従来、そのほとんどが焼却によって廃棄処理されてきたが、本発明により、これらのリグノセルロース系バイオマスを資源として有効利用することができる。
【0016】
リグノセルロース系バイオマスを粉砕する工程において、粉砕としては、湿式粉砕および乾式粉砕などの従来公知の方法を適宜用いることができる。このうち、より高い糖化率が達成可能な、乾式粉砕であることが好ましい。乾式粉砕に用いる装置としては、例えば、ボールミル、タワーミルなどの媒体ミル、ハンマーミル、ピンミルなどの衝撃式ミル、ジェットミルなどが挙げられる。また、湿式粉砕に用いる装置としては、例えば、ホモジナイザー、パールミル、マスコロイダーなどが挙げられる。これらの粉砕装置は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、効率よく粉砕するために、リグノセルロース系バイオマスを予め1〜5cm程度に裁断、あるいは1〜10mm程度に粗粉砕しておくことが好ましい。
【0017】
リグノセルロース系バイオマスを粉砕した粉砕物の粒度は、特に制限はないが、好ましくは0.01〜1.0mmであり、より好ましくは0.1〜1.0mmである。リグノセルロース系バイオマスをかような粒度に粉砕することによって、続く加水分解反応の効率が著しく向上する。粒度の下限値は特に制限はないが、取り扱いの容易さの観点からは0.01mm以上であることが好ましい。同じく、加水分解反応の効率化の観点から、粉砕物の粒度は可能な限り均一であることが好ましいが、工業的に大量のリグノセルロース系バイオマスを粉砕することを考慮すると、粉砕物の全質量(乾燥質量換算)に対して、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは98質量%以上の粉砕物の粒度が1.0mm未満となるように粉砕する。なお、本発明において「粒度」とは、下記実施例で用いた方法によって測定した値を採用する。
【0018】
続いて、上記粉砕物を加水分解酵素(以下、単に「酵素」とも称する)を用いて加水分解する工程について説明する。
【0019】
本発明において、加水分解酵素は、リグノセルロース系バイオマスに含まれる多糖類(オリゴ糖を含む)のグリコシド結合を切断して単糖類へと加水分解する役割を果たす。加水分解酵素は、様々な形態のものが使用できる。例えば、微生物などの生体内で産生される加水分解酵素を該生体内から分離した酵素製剤の形態であってもよいし、生体内に含まれたままの状態で微生物などを培養することによって酵素反応を行わせるものであってもよい。
【0020】
リグノセルロース系バイオマスには、セルロース、ヘミセルロース、およびデンプンなどの多糖類(オリゴ糖を含む)が含まれる。セルロースはグルコースがβ−1,4−グリコシド結合により重合した直鎖状の多糖類である。ヘミセルロースはセルロースと共に植物細胞壁を構成するセルロース以外の多糖類であって、ホモ多糖類およびヘテロ多糖類の総称をいう。ヘミセルロースとしては、例えば、マンナン、グルコマンナン、グルコキシラン、ガラクタン、キシラン、アラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、ペクチン、キチン、ガラクトグルコマンナン、クロノキシラン、キシログルカンなどが挙げられる。デンプンは、グルコースがα−1,4−グリコシド結合および/またはα−1,6−グリコシド結合により重合した、らせん状または網目状構造を有する多糖類である。上記のリグノセルロース系バイオマスに含まれる多糖類を加水分解することによって得られる単糖類としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、およびアラビノースなどの単糖類、ガラクツロン酸、グルクロン酸などのウロン酸、水酸基がエステル化されたエステル誘導体、水酸基がメチル基などで誘導体化されたアルキル誘導体が生成される。
【0021】
リグノセルロース系バイオマスに含まれる多糖類としては、上述のように、セルロース、ヘミセルロース、およびデンプンなどが挙げられる。セルロースの加水分解酵素(セルラーゼ)としては、セルロースのβ−1,4−グリコシド結合を切断できる酵素であれば特に制限はないが、例えば、エンド−β−1,4−グルカナーゼ、エキソ−β−1,4ーグルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、およびカルボキシメチルセルラーゼが挙げられる。ヘミセルロースの加水分解酵素(ヘミセルラーゼ)としては、ヘミセルロースのグリコシド結合を切断できる酵素であれば特に制限なく用いることができるが、例えば、β−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、マンノシダーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、ペクチナーゼなどが挙げられる。デンプンの加水分解酵素(アミラーゼ)としては、デンプンのグリコシド結合を切断できる酵素であれば特に制限なく用いることができるが、例えば、α−1,4−グリコシド結合および/またはα−1,6−グリコシド結合を切断できるα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、およびプルラナーゼなどが挙げられる。これらの加水分解酵素は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、リグノセルロース系バイオマスには上述のように様々なグリコシド結合を有する多糖類が含まれているので、反応性の異なる加水分解酵素を2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0022】
上記加水分解酵素は、リグノセルロース系バイオマスを加水分解可能な微生物などの生体中で産生されうる。後述の微生物代謝産物を産生する微生物と区別するために、以下、リグノセルロース系バイオマスを加水分解可能な微生物を「加水分解酵素産生微生物」とも称する。通常、加水分解酵素産生微生物は、上記の反応性の異なる数種の加水分解酵素を産生するので、加水分解反応には、この数種の加水分解酵素を含む酵素群が用いられる。酵素群に含まれる各加水分解酵素成分の組成は、産生する加水分解酵素産生微生物の種類により異なることが知られている。リグノセルロース系バイオマスに含まれる各種グリコシド結合の加水分解反応は、その各種グリコシド結合を切断可能な加水分解酵素の組成に左右されるので、リグノセルロース系バイオマスに含まれる種々のグリコシド結合を効率よく切断できるような酵素組成を有する酵素群を用いることが好ましい。上記の加水分解酵素を産生する酵素産生微生物としては、アクレモニウム属(Acremonium)、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、フザリウム属(Fusarium)、ペニシリウム属(Penicillium)、シゾゾフィラム属(Schizophyllum)、クロストリジウム属(Clostridium)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、およびテルモモノスポラ属(Thermomonospora)に属する微生物が知られている。このうち、高いリグノセルロース系バイオマス分解能を有する加水分解酵素を産生する、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アクレモニウム・テルモフィルム(Acremonium thermophilum),トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、アスペルギルス・アクレタス(Aspergillus acculeatus)、アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギウス・ニガー(Aspergillus niger)、フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)、シゾフィラム・コムネ(Schizophyllum commune)、クロストリジウム・テルモセラム(Clostridium thermocellum)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、およびテルモモノスポラ・クルバタ(Thermomonospora curvata)からなる群から選択される加水分解酵素産生微生物が産生する加水分解酵素を用いることが好ましい。なお、リグノセルロース系バイオマス分解能に悪影響を及ぼさない範囲において、これらの加水分解酵素産生微生物の変異体が産生する加水分解酵素も用いることができる。
【0023】
本発明における加水分解酵素は、上記の加水分解酵素産生微生物が産生した酵素を、微生物の生体内から分離した、酵素製剤の形態であってもよく、あるいは、固定化酵素の形態であってもよい。上記加水分解酵素産生微生物から分離された加水分解酵素としては、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)、スミチームC(新日本化学工業株式会社製)、スミチームX(新日本化学工業株式会社製)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社製)、グリンドアミルH(ダニスコ ジャパン株式会社製)、およびペントパン(ノボザイムズ ジャパン株式会社製)などが挙げられる。このうち、特に高い加水分解能を有する、メイセラーゼ、およびスミチームCを用いることが好ましい。
【0024】
本発明おける加水分解反応は、従来公知の方法を適宜採用して行うことができる。まず、上記のリグノセルロース系バイオマスの粉砕物を水性媒体に懸濁して懸濁液を調製する。水性媒体は加水分解酵素が失活しない範囲においては特に制限はないが、水、緩衝液、酸性水溶液、またはアルカリ性水溶液を用いることが好ましい。懸濁液中に含まれるリグノセルロース系バイオマスの粉砕物の濃度は、水性媒体に対して、通常、50〜300g/Lであり、好ましくは100〜200g/Lである。例えば、加水分解酵素産生微生物を培養することによって糖化液を製造する場合においては、pHは通常3〜9であり、好ましくは4〜7である。また、培養温度は通常20〜50℃であり、好ましくは30〜37℃である。培養時間は通常12〜144時間であり、好ましくは24〜72時間である。また、加水分解反応は、リグノセルロース系バイオマスの粉砕物の懸濁液中に加水分解酵素を添加し、該懸濁液をインキュベートすることによっても行われうる。懸濁液に添加する酵素量は、懸濁するリグノセルロース系バイオマスの粉砕物の質量に対し、好ましくは0.1〜1質量%である。かような量の酵素を用いることによって、通常12〜144時間、好ましくは24〜72時間で加水分解反応が完了しうる。また、加水分解条件は、用いる酵素の至適条件を用いることが好ましい。pHは通常3〜8であり、好ましくは4〜6である。また、反応温度は通常30〜60℃であり、好ましくは40〜50℃である。
【0025】
加水分解反応終了後の糖化液は、糖化液中の不溶物を適宜ろ過してもよいし、そのままの状態で次の微生物代謝産物の製造に供しても構わない。撹拌効率および収率向上の観点の観点からは糖化液中の不溶物を予めろ過することが好ましい。
【0026】
また、リグノセルロース系バイオマスの粉砕物は、反応効率向上の観点から、加水分解反応に供する前に蒸煮処理を行うことが好ましい。蒸煮処理は、従来公知の方法を用いることができる。さらに、加水分解反応の前に適宜酸またはアルカリ処理を行ってもよい。
【0027】
上記製造方法によって製造される糖化液に含まれる単糖の質量(以下、「全糖量」とも称する)は、加水分解反応に供したリグノセルロース系バイオマスの粉砕物の全質量に対して、好ましくは10〜90質量%であり、より好ましくは、20〜80質量%であり、さらに好ましくは、30〜70質量%である。本製造方法によると、下記実施例でも示したが、60%以上の高い糖化率で、リグノセルロース系バイオマスから単糖を得ることができる。
【0028】
[微生物代謝産物の製造方法]
次に、上記製造方法によって製造された糖化液を含む培地で微生物を培養する工程を含む、微生物代謝産物の製造方法について説明する。
【0029】
本発明で用いる培地は、上記の製造方法によって製造された糖化液を含む。培地は、一般的には、炭素源、窒素源、および無機塩を含むが、上記糖化液中に培養に必要なこれらの栄養源が十分に含まれている場合には、適宜濃度を調節した上記糖化液のみを用いることもできるし、必要によって、糖化液のほかに栄養源を添加することによって培地を調製してもよい。
【0030】
培地に添加する炭素源としては、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、およびキシロースなどの単糖、マルトース、ラクトース、およびスクロースなどの二糖、グリセリンおよびキシリトールなどの糖アルコールといった糖類が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩、尿素、L−グルタミン酸などのアミノ酸類、あるいは尿酸などの無機あるいは有機の窒素化合物が使用できる。さらに、窒素源としては、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、ミルクカゼイン、カザミノ酸、コーンスティープリカーなどの窒素含有天然物を使用してもよい。これらのうち、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、L−グルタミン酸などのアミノ酸類、尿酸などの無機あるいは有機窒素化合物、ペプトン、肉エキス、酵母エキスなの窒素含有天然物が好ましい。これらの窒素源は、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。無機物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウムなどの、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄および亜鉛などのリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩および酢酸塩などが用いられる。そのほか、チアミン、ビオチンなどのビタミン類、さらに必要に応じて、アデニン、ウラシルなどの核酸関連物質が使用されてもよい。これらの無機物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
本発明では、上記培地に、微生物代謝産物を産生しうる微生物を添加し、培養することによって微生物代謝産物を生産する。本発明において、「微生物代謝産物」とは、微生物が生命維持のために外界から摂取した有機物あるいは無機物を、生命機能を利用して変換した物質を意味する。微生物代謝産物は、化学品またはその原料として用いることができるものであれば特に制限はないが、例えば、有機酸、アミノ酸、アルコール、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸塩基、脂質、飽和および不飽和脂肪酸、炭水化物、芳香族化合物、ビタミン、ならびに酵素などが挙げられる。このうち、有機酸は、酸性を示す有機化合物であれば特に制限はないが、酸性基としてカルボキシル基を有する化合物であることが好ましい。かような有機酸としては、具体的には、乳酸、フマル酸、イタコン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、レブリン酸、プロピオン酸、グルコン酸、およびアコニット酸などが挙げられる。これらの有機酸のうち、乳酸、フマル酸、イタコン酸、リンゴ酸、またはピルビン酸であることが好ましい。乳酸は、生分解プラスチック原料、医薬品原料、食品添加物、飼料用添加物としても有用である。フマル酸は、ポリエステル樹脂原料、サイズ剤の原料、香料の原料、食品添加物、飼料用添加物として用いられうる。イタコン酸は、合成樹脂およびラテックスなどの改質剤、塗料原料、食品添加物として用いられうる。リンゴ酸は、飲料や食品の酸味料、pH調整剤、および乳化剤などに用いられうる。ピルビン酸は、香料、化粧品、および農薬等の原料として用いられうる。アルコールとしては、分子中に1〜6個のヒドロキシ基を有する化合物であれば特に制限はないが、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、およびアラビニトールなどが挙げられる。これらのアルコールのうち、エタノールおよびキシリトールであることが好ましい。エタノールは、次世代の自動車燃料として期待されている。キシリトールは、う蝕抑制効果のある甘味料および糖尿病患者用の甘味料として用いられうる。この他にも、アミノ酸としては、リシン、グルタミン酸、メチオニン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、およびトレオニン;ヌクレオチドとしては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)およびアデノシン一リン酸(AMP);不飽和脂肪酸としては、γ−リノレン酸、アラキドン酸、およびドコサヘキサエン酸;炭水化物としては、ヒアルロン酸およびトレハロース;芳香族化合物としては、芳香族アミン、バニリン、およびインジゴ;ビタミンとしては、アスコルビン酸、ビタミンB、ビタミンB12、およびリボフラビン;酵素としては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、およびアミラーゼ等が挙げられる。
【0032】
上記微生物代謝産物はこれらを産生しうる微生物を培養することによって製造されうる。これらの微生物としては、例えば、リゾプス属(Rhizopus)、パチソレン属(Pachysolen)、アスペルギルス属(Aspergillus)、トルロプシス属(Torulopsis)、カンジダ属(Candida)、アクレモニウム属(Acremoniumu)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、バチルス属(Bacillus)、アシビヤ属(Ashbya)、エシェリキア属(Escherichia)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アクチノバチルス属(Actinobacillus)、アナエロビオスピリルム属(Anaerobiospirillum)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、およびクロストリジウム属(Clostridium)に属する微生物が挙げられるが、これらに制限されるものではない。具体的には、パチソレン・タンノフィルス(Pachysolen tannophilus)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、アルペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis・glabrata)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、枯草菌(Bacillus subtilis)、アシビヤ・ゴシッピー(Ashbya gossypii)、大腸菌(Escherichia coli)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、リゾプス・オリザエ(Rhizops oryzae)、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)、アナエロビオスピリルム・スクシニプロデューセンス(Anaerobiospirillum succiniproducens)、アクチノバチルス・スクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbruckii)、ラクトバチルス・レイクマニー(Lactobacillus leichmannii)、プロピオニバクテリウム・アラビノーサム(Propionibacterium arabinosum)、プロピオニバクテリウム・シャーマニー(Propionibacterium schermanii)、プロピオニバクテリウム・フローデンレイチー(Propionibacterium freudenreichii)、クロストリジウム・プロピオニカム(Clostridium propionicum)、およびクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutlicum)などが挙げられる。なかでも、乳酸を産生するRizopus属、イタコン酸を生産するAspergillus terreus、エタノールを産生するPachysolen tannophilus、フマル酸を産生するRhizopus oryzae、リンゴ酸を産生するAspergillus flavus、ピルビン酸を産生するTorulopsis glabrata、キシリトールを産生するCandida tropicalis、セルラーゼを産生するAcremoniumu thermophilumからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0033】
培養条件は、本発明の微生物の増殖が実質的に阻害されず、微生物代謝産物を生産できる範囲であれば、特に制限なく当業者によって適宜調整されうるが、培養温度は、通常は20〜40℃、好ましくは30〜35℃である。また、培地のpHは、通常は4〜7であるが、滅菌後の培地における雑菌の増殖を抑えるためには、4〜5であることが好ましい。培養前または培養中にpHが4未満となる場合は、アンモニアなどを用いてpH制御を行うことが好ましく、逆にpHが10以上となる場合は、硫酸や塩酸などを用いてpH制御をすることが好ましい。
【0034】
培養方法は、微生物の種類によって異なるが、嫌気的条件および好気的条件のいずれかの培養方法を適宜採用することができる。培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができるが、微生物代謝産物の生産速度の向上のためには、撹拌装置を備えた培養槽を用いることが好ましい。かような培養装置としては、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、充填床培養槽、および流動床培養槽などが挙げられる。
【0035】
以上の説明では、糖化液を製造する段階と、微生物代謝産物を製造する段階とを別々の段階として行うことによる微生物代謝産物の製造方法について説明してきたが、本発明によると、リグノセルロース系バイオマスの加水分解反応と微生物代謝産物を一段階で行うことも可能である。例えば、リグノセルロース系バイオマスの粉砕物を含む懸濁液に、加水分解酵素産生微生物および微生物代謝産物を産生する微生物を同時に添加し、混合培養を行うことによっても、微生物代謝産物を製造することができる。
【0036】
上記の培養終了後、微生物代謝産物を含む培地から従来公知の手法により所望の微生物代謝産物を分離することができる。分離方法としては、例えば、カラムクロマトグラフィー、蒸留、および晶析などが挙げられる。これらの分離方法は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせても勿論よい。
【実施例】
【0037】
本発明の作用効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0038】
<稲わらの粉砕>
[製造例1]
脱穀した後、約2ヶ月屋内倉庫に保管した稲わらを、家庭用はさみで1〜5cm程度に裁断し、家庭用ミキサーで5分間粗く粉砕して、粉砕物Aを得た。
【0039】
[製造例2]
製造例1で調製した粉砕物Aを、さらに、ボールミル(ANZ−60S、日陶科学株式会社製)で12時間微粉化して、粉砕物Bを得た。
【0040】
[製造例3]
製造例1で調製した粉砕物Aを、さらに、一旦水道水に懸濁し、これをホモジナイザー(ポリトロン PT2100、KINEMATICA AG社)で1分間湿式粉砕して、粉砕物Cとした。
【0041】
(粉砕物の粒度分布の測定)
製造例1および2で調製した粉砕物AおよびBの粒度分布を2種類の試験用ふるい(呼び寸法1.0mmおよび0.1mm、SANPO社製)を用いて測定した。具体的には、1.0mmおよび0.1mmの2種類のふるいを上から順番に重ね、最上部にサンプル5g入れて間歇的に5分間ふるい、それぞれの段に残存した粉の質量を、サンプル5gに対する質量百分率(%)で示した。なお、製造例3の粉砕物Cは水中に懸濁しているために測定は不可能であった。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
<稲わら粉砕物の粒度の糖化への影響>
[実施例1]
製造例2で調製した粉砕物B 1.0g、水道水10mLを100mL三角フラスコ中で懸濁し、1N硫酸を添加することによりpH4.5に調整した。該懸濁液に加水分解酵素としてメイセラーゼ(明治製菓株式会社製、以下同じ)を粉砕物Bに対して1質量%添加し、ロータリーシェーカー(MMS−110、東京理化学器械株式会社製)上で、50℃で24時間振盪(200rpm)して糖化を行った。
【0044】
[比較例1]
粉砕物Bに換えて、製造例3で調製した粉砕物Cを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で糖化を行った。なお、粉砕物Cは十分に乾燥させて、乾燥質量として秤量した。
【0045】
[比較例2]
粉砕物Bに換えて、製造例1で調製した粉砕物Aを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で糖化を行った。
【0046】
(全糖の定量)
全糖の定量は、中村道徳編、貝沼圭二編、「生物化学実験法(25)澱粉・関連糖質酵素実験法」、学会出版センター版、1989年10月発行、206頁に記載の硫酸フェノール法に準じて行った。
【0047】
(グルコースの定量)
グルコースの定量は、和光純薬工業株式会社製、グルコースCIIテストワコーを用いて行った。
【0048】
全糖濃度、グルコース濃度、糖化率(稲わら粉砕物の乾燥質量に対する全糖量の質量百分率)の結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
<加水分解酵素の影響>
[実施例2]
製造例2で調製した粉砕物B 2.0g、水道水10mLを100mL三角フラスコ中で懸濁し、1N硫酸を添加することによりpH4.5に調整した。該懸濁液に加水分解酵素としてメイセラーゼを粉砕物Bに対して1質量%添加し、ロータリーシェーカー上で、50℃で24時間振盪(200rpm)して糖化を行った。
【0051】
[実施例3]
加水分解酵素として、メイセラーゼに換えて、スミチームC(新日本化学工業株式会社製)を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0052】
[実施例4]
加水分解酵素として、メイセラーゼ1質量%に換えて、液剤セルラーゼ(XL−522、ナガセケムテックス株式会社製)を粉砕物Bの質量に対して1.0%(v/w)を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0053】
[実施例5]
加水分解酵素として、メイセラーゼに換えて、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社製)を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0054】
[比較例3]
加水分解酵素に換えて、1N硫酸を添加することによりpH1.0に調整してオートクレーブ121℃で30分間処理することによって、硫酸加水分解を行い、その後、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpH4.5に調整したことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。なお、反応後の糖化液は黒褐色に着色していた。
【0055】
実施例2〜5および比較例3の全糖濃度、グルコース濃度、糖化率の結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
<加水分解酵素添加量の影響>
[実施例6]
製造例2で調製した粉砕物B 2.0g、水道水10mLを100mL三角フラスコ中で懸濁し、1N塩酸を添加することによりpH4.5に調整した。該懸濁液に加水分解酵素としてメイセラーゼを粉砕物Bに対して1質量%添加し、ロータリーシェーカー上で、50℃で24時間振盪(200rpm)して糖化を行った。
【0058】
[実施例7]
メイセラーゼの添加量を0.5質量%としたことを除いては、実施例6と同様の方法で糖化を行った。
【0059】
[実施例8]
メイセラーゼの添加量を0.25質量%としたことを除いては、実施例6と同様の方法で糖化を行った。
【0060】
実施例6〜8の全糖濃度、グルコース濃度、糖化率の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
<前処理条件の影響>
[実施例9]
上記実施例2において、前処理として、粉砕物Bを水道水に懸濁し、1N硫酸を添加することによりpH4.5に調整し、オートクレーブ(HV−50、株式会社平山製作所製)で121℃、20分間蒸煮した後に、該懸濁液にメイセラーゼを添加したことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0063】
[実施例10]
上記実施例2において、前処理として、粉砕物Bを水道水に懸濁し、1N硫酸を添加することによりpH1.04に調整し、121℃で20分間蒸煮した後に、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpH4.5に調整し、該懸濁液にメイセラーゼを添加したことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0064】
[実施例11]
上記実施例2において、前処理として、粉砕物Bを水道水に懸濁し、1Nアンモニア水を添加することによりpH10.1に調整し、121℃で20分間蒸煮した後に、1N硫酸を添加することによりpH4.5に調整し、該懸濁液にメイセラーゼを添加したことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0065】
[実施例12]
上記実施例2において、前処理として、粉砕物Bを水道水に懸濁し、1Nアンモニア水を添加することによりpH10.5に調整し、121℃で20分間蒸煮した後に、1N硫酸を添加することによりpH4.5に調整し、該懸濁液にメイセラーゼを添加したことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0066】
[実施例13]
上記実施例2において、前処理として、粉砕物Bを水道水に懸濁し、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpH10.5に調整し、121℃で20分間蒸煮した後に、1N硫酸を添加することによりpH4.5に調整し、該懸濁液にメイセラーゼを添加したことを除いては、実施例2と同様の方法で糖化を行った。
【0067】
実施例2および9〜13の全糖濃度、グルコース濃度、糖化率の結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
<糖化における初発のpHの影響>
[実施例14〜22]
製造例2で調製した粉砕物B 1.0g、水道水10mLを100mL三角フラスコ中で懸濁し、表6に示すように1N硫酸または1N水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpHを調整した。該懸濁液に加水分解酵素としてメイセラーゼを粉砕物Bに対して1質量%添加し、ロータリーシェーカー上で、50℃で24時間振盪(200rpm)して糖化を行った。
【0070】
実施例14〜22の全糖濃度、グルコース濃度、糖化率の結果を表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
<乳酸製造用培地の最適化>
[実施例23]
製造例2で調製した粉砕物Bを水道水に対して300g/Lとなるように懸濁し、1N硫酸を添加することによりpHを4.5に調整した。該懸濁液に加水分解酵素としてメイセラーゼを粉砕物Bに対して1質量%添加し、ロータリーシェーカー上で、50℃で24時間振盪(200rpm)して糖化を行った(得られた糖化液を、「糖化液A」と称する)。糖化液Aに含まれる全糖の濃度は、120g/Lであった。乳酸製造用培地として、糖化液A60mLを300mL三角フラスコに入れ、オートクレーブを用いて121℃で25分滅菌して、培地を調製した。該培地に、予め前培養培地a(グルコース50g/L、コーンスターチ(日本コーンスターチ株式会社製、以下同じ)50g/L、硫安1.35g/L、リン酸二水素カリウム0.30g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.25g/L、硫酸亜鉛七水和物0.04g/L、炭酸カルシウム1g/L、オートクレーブにて121℃で25分間滅菌)で前培養(ロータリーシェーカーにて170rpm、30℃で24時間培養)したRhizopus sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)を3mL添加し、ロータリーシェーカー上で、30℃で96時間振盪(170rpm)して乳酸発酵を行った。なお、乳酸発酵中のpH調整のために、別途殺菌した炭酸カルシウム1gを添加した。
【0073】
[実施例24]
糖化液Aに、酵母エキス(212750、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)を3g/Lとなるように添加したものを乳酸製造用培地として用いた以外は、実施例23と同様の方法で乳酸発酵を行った。
【0074】
[実施例25]
糖化液Aに、コーンスティープリカー(CLS)(034−16775、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)を3g/Lとなるように添加したものを乳酸製造用培地として用いた以外は、実施例23と同様の方法で乳酸発酵を行った。
【0075】
[実施例26]
糖化液Aに、硫安を3g/Lとなるように添加したものを乳酸製造用培地として用いた以外は、実施例23と同様の方法で乳酸発酵を行った。
【0076】
[実施例27]
糖化液Aに、硝安を3g/Lとなるように添加したものを乳酸製造用培地として用いた以外は、実施例23と同様の方法で乳酸発酵を行った。
【0077】
[比較例4]
培地1Lに対して、グルコース120g、硫安1.35g、リン酸二水素カリウム0.3g、硫酸マグネシウム七水和物0.25g、硫酸亜鉛七水和物0.04gとなるように添加した培地(標準培地X)を乳酸製造用培地として用いた以外は、実施例23と同様の方法で乳酸発酵を行った。
【0078】
実施例23〜27および比較例4の結果を表7に示す。なお、全ての実施例および比較例において、乳酸発酵終了後の培地に含まれる残糖は極微量であった。
【0079】
【表7】

【0080】
表7の結果より、本発明の糖化液の製造方法によると、微量の窒素源を添加するのみで、標準培地Xと同等のL−乳酸が製造できることが示された。
【0081】
<稲わら糖化液を用いたL−乳酸の製造>
[実施例28]
3Lジャーファーメンター(3MDL、株式会社丸菱バイオエンジ製、以下同じ)に水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら上記製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物200gを加えて懸濁し、これに1N硫酸を添加してpHを4.5に調整した。該懸濁液にメイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1.0質量%添加して、50℃で72時間糖化を行った。糖化反応中の糖化液の全糖濃度、グルコース濃度、および糖化率を測定した。結果を表8に示す。
【0082】
【表8】

【0083】
得られた糖化液をヌチェでろ過することによって不溶成分を取り除き、水道水を加えて液量を1.5Lに調整して、続く乳酸発酵に供した。該糖化液に、リン酸二水素カリウムを0.3g/L、硫酸マグネシウムを0.25g/Lとなるように添加し、オートクレーブを用いて121℃で10分間滅菌して、培地を調製した。該培地に、予め前培養培地aで前培養(ロータリーシェーカーにて170rpm、30℃で24時間培養)したRhizopus sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)を100mLを添加し、300rpm、通気量0.5vvm、培養温度30℃で72時間培養した。培養中、培地のpHをpHセンサー(GS−8405、東亜ディーケーケー株式会社製)で随時モニタリングし、25%アンモニア水を加えることによってpHを6.0に維持した。培養開始後の乳酸濃度、全糖濃度、およびグルコース濃度の経時変化を表9に示す。なお、全糖に対するL−乳酸の収率は67質量%であり、使用した稲わら粉砕物に対するL−乳酸の収率は47質量%であった。
【0084】
【表9】

【0085】
[比較例5]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物200gを加えて懸濁し、さらに水道水を加えることによって懸濁液の総容積を1.5Lとした。これに1N硫酸を添加してpHを1.5に調整し、オートクレーブにて121℃、2時間加圧して酸糖化を行った。得られた糖化液の全糖濃度は40.2g/L、グルコース濃度は23.5g/Lであった。該糖化液に、別に殺菌したリン酸二水素カリウムを0.3g/L、硫酸マグネシウムを0.25g/Lとなるように添加した後、pHセンサーでモニタリングしながら、同じく殺菌した25%アンモニア水でpHを6.0に戻した。該培地に、予め前培養培地aで前培養(ロータリーシェーカーにて170rpm、30℃で24時間培養)したRhizopus sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)を添加し、300rpm、通気量0.5vvm、培養温度30℃ので48時間培養した。培養中、培地のpHをpHセンサーで随時モニタリングし、25%アンモニア水を加えることによってpHを6.0に維持した。培養中の乳酸濃度、全糖濃度、およびグルコース濃度の経時変化を表10に示す。
【0086】
【表10】

【0087】
表10を参照すると、48時間で18.7g/LのL−乳酸が生産されており、収率を算出すると、全糖に対しては47質量%、稲わら粉砕物に対しては14質量%となった。これらの収率は、酵素を用いた糖化液を用いた上記実施例28と比較して、著しく低く、また得られたL−乳酸培養液が黒褐色に着色していたため、精製回収が非常に困難であると考えられた。
【0088】
<混合培養によるL−乳酸の製造>
[実施例29]
グルコース30g/L、アルボセル(三木産業製)10g/L、大豆粉(豊年製油)60g/L、硝酸アンモニウム3.2g/Lを含む培地60mLを300mL三角フラスコに入れ、121℃で25分殺菌した。該培地に、スラント(YPD寒天培地)上のAcremoniumu thermophilum ATCC 24622を一白金耳接種し、ロータリーシェーカー(200rpm)を用いて30℃で72時間培養した。一方、製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物を100g/L、硫安を1.35g/L、リン酸二水素カリウムを0.3g/L、硫酸マグネシウム七水和物を0.25g/L、硫酸亜鉛七水和物を0.04g/Lとなるように添加し、水道水で1Lとして3Lジャーファーメンターに入れオートクレーブを用いて121℃で25分間殺菌した。この培地に上記A.thermophilumの培養液60mLを添加し、撹拌しながら35℃で24時間培養した。A.thermophilumの増殖を顕微鏡で確認後、該培養液に、別途上記前培養培地a 60mLを入れた300mL三角フラスコでロータリーシェーカーを用いて30℃で24時間振盪培養したRhizopus sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)を全量添加し、35℃でA.thermophilumとR.sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)による混合培養を行った。通気量は0.5vvmとし、溶存酸素(DO)濃度はDOセンサー(OX−2500、丸菱バイオエンジ株式会社製)でモニタリングしながら20%以上に維持した。また、25%アンモニウム水を用いてpHを6.0に維持した。培養中のA.thermophilumおよびR.sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)の生菌数、全糖濃度、グルコース濃度および乳酸濃度の経時変化を表11に示す。なお、稲わら粉砕物に対するL−乳酸の収率は25質量%であった。
【0089】
【表11】

【0090】
以上の結果より、A.thermophilumとR.sp.MK96−1156(受託番号:FERM BP−6777)の混合培養によって同時に糖化および乳酸発酵を行えることが示された。
【0091】
<稲わら糖化液を用いたエタノールの製造>
[実施例30]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物200gを加えて懸濁し、さらに水道水を加えて液量を1.5Lとした。次に、該懸濁液に25%塩酸を加えてpHを4.5に調整し、メイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1質量%加えて、50℃で24時間糖化を行った。得られた糖化液に1N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを6.0に調整した。該糖化液をオートクレーブを用いて、121℃で15分間滅菌して培地とした。これとは別に、YPD培地(グルコース20g/L、ポリペプトン(394−0015、日本製薬株式会社製、以下同じ)20g/L、酵母エキス(212750、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)10g/L)に予め30℃で2日間往復振盪培養したPachysolen tannophilus NBRC 1007を100mL添加し、溶存酸素濃度を20%に維持しながら、培養温度30℃で通気撹拌培養を行った。培養の経過変化を表12に示す。
【0092】
【表12】

【0093】
表12に示すように、該エタノール産生菌は、培養開始後24時間でグルコースを全て消費した。その後、キシロースなどのグルコース以外の糖類が消費され、最終的には培養開始後144時間で資化可能な糖類はほぼ全て消費された。エタノールの収率は、全糖に対して39.8質量%であり、稲わら粉砕物に対して26質量%であった。
【0094】
<稲わら糖化液を用いたイタコン酸の製造>
[実施例31]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物200gを加えて懸濁し、該懸濁液に1N硫酸を添加してpHを4.5に調整した。これにメイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1質量%加えて、50℃で24時間糖化を行った。得られた糖化液に20%硝酸を添加してpHを2.0に調整した。該糖化液をオートクレーブで121℃、5分間滅菌して、イタコン酸生産培地とした。これとは別に、前培養培地b(グルコース55.5g/L、コーンスティープリカー(034−16775、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)3g/L、硝酸ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム七水和物1.8g/L)を用いて予め30℃で2日間往復振盪培養したAspergillus terreus TN−484(Yahiro,K., Takahama, T., T. Park, Y.S., Okabe M., “Breeding of Aspergillus terreus mutant TN−484 for itacoic acid production with high yield.” J. Ferment. Bioeng., 79, 506〜508 (1995))を100mL添加し、溶存酸素濃度をDOセンサーでモニタリングしながら20%に維持し、培養温度30℃で通気撹拌培養を行った。なお、イタコン酸濃度は、Capcell PaK C18 MG Lot. BS14カラム(株式会社資生堂製)を装着したHPLC(LC−10A、株式会社島津製作所製)で分析した。70%アセトニトリルを移動相とし、1mL/minの速度で溶出し、257nmで検出することによって測定した。また、菌体質量は、菌体を0.85%生理食塩水で洗浄し、105℃で2時間乾燥後秤量することによって測定した。培養の経時変化を表13に示す。
【0095】
【表13】

【0096】
表13に示すように、培養開始と同時にグルコースが消費され、培養開始96時間後にほぼ全て消費された。最終的に、培養開始144時間後のイタコン酸の収率は、全糖に対しては41質量%(理論収率は72%)であり、稲わら粉砕物に対しては32質量%であった。
【0097】
<稲わら糖化液を用いたフマル酸の製造>
[実施例32]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物250gを加えて懸濁し、該懸濁液に1N硫酸を添加してpHを4.5に調整した。これにメイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1質量%加えて、50℃で24時間糖化を行った。該糖化液を3Lジャーファーメンターに入れ、これに硫安を1.35g/L、リン酸二水素カリウムを0.3g/L、硫酸マグネシウム七水和物を0.25g/L、硫酸亜鉛七水和物を0.04g/Lとなるように添加した。該糖化液に1N硫酸を添加してpHを4.5に調整し、さらに水道水を加えて液量を1.5Lとした後、オートクレーブにて121℃、25分間殺菌を行い、フマル酸生産培地とした。これとは別に、滅菌済みの500mL容三角フラスコに、前培養培地c(グルコース55.5g/L、硫安1.35g/L、リン酸二水素カリウム0.3g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.25g/L、硫酸亜鉛七水和物0.04g/L、炭酸カルシウム15g/L)を90mL分注した。Rhizopus oryzae NBRC 4707(IFO 4707)を培養するスラントに、滅菌した0.85%生理食塩水を10mL入れて胞子を懸濁した。そして、上記前培養培地に該懸濁液を植菌し、ロータリーシェーカー上で220rpm、32℃で、18時間往復振盪培養を行った。該前培養液100mLを上記フマル酸生産培地1.5Lに添加後、温度32℃、回転数300rpm、通気量0.5vvmで培養を行った。培養中のpHをpHセンサーを用いてモニタリングしながら、12.5%アンモニア水でpHを6.0に維持した。なお、培養液中のフマル酸濃度および菌体濃度の測定は、以下の方法を用いて行った。培養の経時変化を表14に示す。
【0098】
(フマル酸濃度の測定)
フマル酸濃度は、HPLC(CL−10A、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。液体クロマトグラフLC−10A、カラムオーブンCTO−6A、紫外線検出器SPD−6A、クロマトパックC−R6A(株式会社島津製作所製)を用いて行った。カラムはCAPCELL PAK C18(4.6mmφ×250mm)、ガードカラムはCAPCELL PAK C18(4.6mmφ×35mm)(株式会社資生堂製)を用いた。移動相は2.5%高速液体クロマトグラフ用アセトニトリル(和光純薬工業)と0.1%HPO(和光純薬工業)の混合液を0.45μmのメンブレンフィルター(JH、日本ミリポア株式会社製)でろ過した。カラム温度35℃、流速1.0mL/minに設定した。紫外線で検出を行い、検出波長は210nmとした。
【0099】
(菌体濃度の測定)
菌体濃度は、乾燥菌体重量法(Dry Cell Weight)を用いて菌体質量を求めた後、これを濃度に換算することによって求めた。菌体質量の測定は、具体的には以下の方法で行った。まず、シャーレにろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)を入れ、105℃のオーブンで2時間乾熱後、デシケーター内で放冷し、ろ紙を定量した。このろ紙を用いて、培養液10mLを吸引ろ過し、蒸留水でよく洗浄した後、105℃のオーブンで2時間乾熱した。デシケーターで放冷後、秤量し、菌体質量を求めた。
【0100】
【表14】

【0101】
表14に示すように、96時間後のフマル酸の収率は、全糖に対して29質量%であり、稲わら粉砕物に対して17質量%であった。
【0102】
<稲わら糖化液を用いたリンゴ酸の製造>
[実施例33]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物350gを加えて懸濁し、該懸濁液に1N硫酸を添加してpHを4.5に調整した。これにメイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1質量%加えて、50℃で24時間糖化を行った。得られた糖化液を、全糖濃度が120g/Lとなるように希釈し、硫安を1.2g/L、リン酸二水素カリウムを0.035g/L、リン酸水素二カリウムを0.035g/L、硫酸マグネシウムを0.1g/L、硫酸鉄を0.06g/L、塩化カルシウムを0.1g/L、塩化ナトリウムを0.005g/L、炭酸カルシウムを90g/Lとなるように添加した。この糖化液を2.5Lをジャーファーメンター(5MDL、丸菱バイオエンジ株式会社)に入れ、オートクレーブにて121℃、25分間滅菌して、リンゴ酸生産培地とした。これとは別に、滅菌済みの500mL容三角フラスコに、前培養培地d(グルコース120g/L、硫安4g/L、リン酸二水素カリウム0.75g/L、リン酸水素二カリウム0.75g/L、硫酸マグネシウム0.1g/L、硫酸鉄0.005g/L、塩化カルシウム0.1g/L、塩化ナトリウム0.005g/L)を90mL分注した。Aspergillus flavus ATCC13697を培養するスラントに、滅菌した0.85%生理食塩水を10mL入れて胞子を懸濁した。そして、上記前培養培地に該懸濁液を植菌し、ロータリーシェーカー上で220rpm、32℃で、18時間往復振盪培養を行った。上記リンゴ酸生産培地に対して10体積%の量の前培養培地を、リンゴ酸生産培地に植菌し、温度32℃、回転数300rpm、通気量0,5vvmで264時間培養を行った。なお、培養液中のリンゴ酸濃度は実施例32のフマル酸濃度の測定に準じて行った。また、菌体濃度の測定は、実施例32と同様の方法で行った。培養の経時変化を表15に示す。
【0103】
【表15】

【0104】
表15に示すように、264時間後のL−リンゴ酸の収率は、全糖に対して72質量%であり、稲わら粉砕物に対して29質量%であった。
【0105】
<稲わら糖化液を用いたピルビン酸の製造>
[実施例34]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物300gを加えて懸濁し、該懸濁液に1N硫酸を添加してpHを4.5に調整した。これにメイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1質量%加えて、50℃で24時間糖化を行った。得られた糖化液を、全糖濃度が50g/Lとなるように希釈し、コーンスティープリカーを15g/L、硫安を6g/L、リン酸水素二カリウムを1g/L、硫酸マグネシウムを0.5g/L、ニコチン酸(142−012323、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)を0.4mg/L、ピリドキシン塩酸塩(168−20031、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)を0.2g/L、チアミン塩酸塩(203−00851、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)を0.02g/L、ビオチン(023−08711、和光純薬工業株式会社製、以下同じ)を0.005mg/Lとなるように添加した。そして、1N硫酸を添加してpHを5.0に調整した。該培地を3Lジャーファーメンターに入れ、オートクレーブにて121℃で25分間滅菌して、ピルビン酸生産培地とした。これとは別に、前培養培地e(グルコース50g/L、コーンスティープリカー15g/L、硫安6g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、硫酸マグネシウム0.5g/L、ニコチン酸0.4mg/L、ピリドキシン塩酸塩0.2g/L、チアミン塩酸塩0.02g/L、ビオチン0.005mg/L)で予め30℃で2日間往復振盪培養したTorulopsis glabrata NBRC 0005(IFO 0005)の前培養液100mLを、上記ピルビン酸生産培地に添加し、溶存酸素濃度を20%に維持しながら、培養温度30℃で通気撹拌培養を行った。なお、培養液中のピルビン酸濃度は実施例32のフマル酸濃度の測定に準じて行った。また、菌体濃度の測定は、実施例32と同様の方法で行った。培養の経時変化を表16に示す。
【0106】
【表16】

【0107】
表16に示すように、培養開始36時間後でピルビン酸の濃度は44.6g/Lに達し、その後徐々に減少した。84時間後のピルビン酸の収率は、全糖に対して31質量%であり、稲わら粉砕物に対しては19質量%であった。
【0108】
<稲わら糖化液を用いたキシリトールの製造>
[実施例35]
3Lジャーファーメンターに水道水1.0Lを入れ、撹拌しながら製造例2と同様の方法で得た稲わら粉砕物220gを加えて懸濁し、該懸濁液に1N硫酸を添加してpHを4.5に調整した。これにメイセラーゼを稲わら粉砕物に対して1質量%加えて、50℃で24時間糖化を行った。得られた糖化液をD−キシロース濃度が6%となるように希釈し、酵母エキスを1%、リン酸水素二カリウムを1.5%、硫安を0.3%、硫酸マグネシウム七水和物を0.3%となるように添加した。そして、1N硫酸を添加してpHを5.0に調整した。該培地を3Lジャーファーメンターに入れ、オートクレーブにて121℃で25分間滅菌して、キシリトール生産培地とした。これとは別に、前培養培地f(D−キシロース6%、酵母エキス1%、リン酸水素二カリウム1.5%、硫安0.3%、硫酸マグネシウム七水和物0.3%)で予め30℃で2日間往復振盪培養したCandida tropicalis NBRC 0618(IFO 0618)の前培養液100mLを、上記キシリトール生産培地に添加し、溶存酸素濃度を20%に維持しながら、培養温度30℃、回転数300rpm、通気寮0.5vvmで通気撹拌培養を行った。なお、培養液中のキシリトール濃度は、Shodex Asahipak NH2p−50 4Eカラムを装着したHPLC(LC−10A、株式会社島津製作所製)で分析した。アセトニトリル/水=70/30(v/v)を移動相とし、1mL/minの速度で溶出し、257nmで検出することによって測定した。また、菌体濃度の測定は、実施例32と同様の方法で行った。培養の経時変化を表17に示す。
【0109】
【表17】

【0110】
表17に示すように、培養開始72時間後のキシリトールの収率は、全糖に対して56.8質量%であり、稲わら粉砕物に対しては39質量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスを粉砕する工程と、得られた粉砕物を加水分解酵素を用いて加水分解する工程とを含む、糖化液の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕物の全質量(乾燥質量換算)に対して50質量%以上の粉砕物の粒度が、1.0mm未満である、請求項1に記載の糖化液の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕が、乾式粉砕である、請求項1または2に記載の糖化液の製造方法。
【請求項4】
前記リグノセルロース系バイオマスが、稲わら、籾殻、麦わら、バガス、ヤシ殻、コーンコブ、雑草、木材、パルプ、および紙からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の糖化液の製造方法。
【請求項5】
前記加水分解酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、およびアミラーゼからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の糖化液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造された糖化液を含む培地で微生物を培養する工程を含む、微生物代謝産物の製造方法。
【請求項7】
前記微生物代謝産物が、乳酸、エタノール、イタコン酸、フマル酸、リンゴ酸、ピルビン酸、およびキシリトールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の微生物代謝産物の製造方法。
【請求項8】
前記微生物が、リゾプス属(Rhizopus)、パチソレン属(Pachysolen)、アスペルギルス属(Aspergillus)、トルロプシス属(Torulopsis)、カンジダ属(Candida)、およびアクレモニウム属(Acremoniumu)に属する微生物からなる群から選択させる少なくとも1種に属する、請求項6または7に記載の微生物代謝産物の製造方法。
【請求項9】
リグノセルロース系バイオマスの粉砕物を含む培地で、加水分解酵素産生微生物および微生物を培養する工程を含む、微生物代謝産物の製造方法。

【公開番号】特開2010−104361(P2010−104361A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204944(P2009−204944)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】