説明

リザーバタンク

【課題】容器内の作動オイルの油面変動を無くし、キャビテーションにより生じたエアーを確実に作動オイルから分離することができるリザーバタンクを提供する。
【解決手段】流入口及び流出口を備える筒状の容器と、前記容器内部で、前記流入口と連通するダーティサイドと、前記流出口と連通するクリーンサイドとを区画するフィルタとを備え、前記フィルタのダーティサイド側には、前記流入口に向けて開口した箱状のバッフルが形成され、前記バッフル内部は、前記開口を介して前記ダーティサイドと連通し、前記バッフルの上面は、斜面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置等の作動オイルを貯蔵するリザーバタンクの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パワーステアリング等の作動オイルを貯蔵するリザーバタンクとして、円筒状の容器の下部に流出口を形成し、流出口よりも上方の側面に、細径の流入口を形成したものが知られている。流出口は、オイルポンプの吸い込み側に接続され、流入口は、オイルポンプの吐出側に接続される。パワーステアリングの作動オイルは、容器内部に貯蔵され、オイルポンプとリザーバタンクとを循環する。また、流入口と流出口との間には、フィルタが配置されており、細径の流入口から還流されたオイルをろ過することができるようになっている。
【0003】
また、細径の流入口から還流した作動オイルの流速が速い場合や、リザーバタンクの小型化によるタンク容量の減少などによって、流入口から還流した作動オイルが容器内壁に沿って旋回し、容器内で渦巻きが発生する場合があった。このとき、リザーバタンク内の作動オイルは、その遠心力によって容器の中心付近での液面が低下し、オイル貯蔵量の減少や低温時のオイル粘度の低下により、容器の中心付近での液面が、流出口の近傍まで低下することがあった。このため、流出口からエアーが噛み込むおそれがあり、このエアーの噛み込みにより、パワーステアリングのハンドル操作が不安定になってしまうといった問題があった。
【0004】
このようなエアーの噛み込みを防止するために、容器内に貯蔵された作動オイルの液面の安定化及び作動オイルの還流循環によってキャビテーションが生じた場合、作動オイルに含まれるエアーを適切に分離することを目的として、種々の構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000− 95125号公報
【特許文献2】特開2005−132240号公報
【0006】
特許文献1に記載されたパワーステアリングオイルタンクは、略円筒状の容器の下部に流出口を設け、前記容器の側面に流入口を設け、前記容器の頂部から内筒を垂設したパワーステアリングオイルタンクにおいて、前記内筒の外周面に前記容器の高さ方向に延びる整流板が突設して形成されている。
【0007】
このように特許文献1に記載されたパワーステアリングオイルタンクは、内筒の外周面に整流板を突設したので、容器内を円周方向に旋回する作動オイルの流れは、整流板によって邪魔され、作動オイルの円周方向の速度成分が減少し、容器内で渦巻きが発生することを防止することができる。
【0008】
特許文献2に記載されたリザーバタンクは、上部に注入口が形成され、下縁が円形で開放された筒状の上部タンクと、この上部タンクの下縁に上縁の全周が連結される流出口が形成された下部タンクと、上部タンクならびに下部タンクの間に脱着される加圧室を有するバッフルよりなり、上部タンクの筒部に同上部タンク内に流体を導入する流入口を形成してなるリザーバタンクにおいて、流入口を筒部の中心線付近に向かう半径方向に沿って形成し、筒部の内周部分にはバッフルの離脱時に流入口と対向して同流入口から戻される流体の向きを筒部の下部の内周面に沿った円周方向に変えかつバッフルの装着時に同バッフルの一部と共同して流入口から戻される流体をバッフル内の加圧室内に導入する整流板を備えている。
【0009】
このような構成を備えることで、特許文献2に記載されたリザーバタンクは、バッフル装着時には、流入口から流入した作動オイルをバッフルに沿って案内し、その内周面に沿った回流を生成して作動オイルの粘性が高い寒冷地においても容易に下部タンクを通してパワーステアリング装置のオイルポンプに作動オイルを送り込むことができる。また、特許文献2に記載されたリザーバタンクは、バッフルの上壁面にエアー抜き孔を形成し、キャビテーションが発生した場合でも、当該エアー抜き孔からエアーを抜くことで、エアーを作動オイルから分離することができるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来のリザーバタンクの構成によると、特許文献1に記載されたパワーステアリングオイルタンクのように、容器内に整流板を形成しても、作動オイルの油面変動を完全に無くすことはできなかった。また、特許文献2に記載されたリザーバタンクのように、バッフルを備えた場合には、バッフルとフィルタとが別部品となってしまうため、部品点数が増大し製造コストの低減を図ることが難しいといった問題もあった。さらに、バッフルにエアー抜き孔を形成する構造によると、エアー抜き孔を大きくすると、オイルポンプより還流した作動オイルの流速が高速であることにより、エアー抜き孔から作動オイルが噴出し、容器内の作動オイルの油面変動が生じてしまうという問題があった。また、このような油面変動を防止するために、エアー抜き孔の大きさを小さくすると、キャビテーションによって生じたエアーを完全に抜くことができず、エアーの噛み込みを完全に防止することができないといった問題があった。
【0011】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、容器内の作動オイルの油面変動を無くし、キャビテーションにより生じたエアーを確実に作動オイルから分離することができるリザーバタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るリザーバタンクは、流入口及び流出口を備える筒状の容器と、前記容器内部で、前記流入口と連通するダーティサイドと、前記流出口と連通するクリーンサイドとを区画するフィルタとを備え、前記フィルタのダーティサイド側には、前記流入口に向けて開口した箱状のバッフルが形成され、前記バッフル内部は、前記開口を介して前記ダーティサイドと連通し、前記バッフルの上面は、斜面が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るリザーバタンクにおいて、前記バッフルの上面の前記開口側と反対の端部には、エアー抜き孔が形成されていると好適である。
【0014】
また、本発明に係るリザーバタンクにおいて、前記バッフルは、前記フィルタと一体に形成されていると好適である。
【0015】
また、本発明に係るリザーバタンクにおいて、前記クリーンサイドには、前記流出口に向けて作動オイルを案内する案内壁が形成されていると好適である。
【0016】
上記発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るリザーバタンクは、バッフルの上面に斜面が形成され、開口を介してバッフルの内部がバッフルの外部のダーティサイドと連通しているので、作動オイルの油面変動を確実に防止しつつ、キャビテーションによって生じたエアーを作動オイルから分離することができる。
【0018】
また、本発明に係るリザーバタンクは、バッフルの上面の前記開口側と反対の端部には、エアー抜き孔が形成されているので、上述した斜面と相まって、キャビテーションによって生じたエアーを作動オイルから分離することができる。
【0019】
また、本発明に係るリザーバタンクは、バッフルがフィルタと一体に形成されているので、部品点数を低減させることができ、製造コストを抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係るリザーバタンクは、クリーンサイドに前記流出口に向けて作動オイルを案内する案内壁が形成されているので、クリーンサイド内での作動オイルの流れを整流し、作動オイルの拡散を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係るリザーバタンクの概要を説明するための平面図。
【図2】本実施形態に係るリザーバタンクの構造を説明するための分解斜視図。
【図3】本実施形態に係るリザーバタンクの構造を説明するための一部断面図。
【図4】図1におけるA−A断面図。
【図5】図1におけるB−B断面図。
【図6】本実施形態に係るリザーバタンクのバッフルの構成を説明するための正面図。
【図7】本実施形態に係るリザーバタンクのバッフルの構成を説明するための側面図。
【図8】本実施形態に係るリザーバタンクのバッフルの構成を説明するための下面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、本実施形態に係るリザーバタンクの概要を説明するための平面図であり、図2は、本実施形態に係るリザーバタンクの構造を説明するための分解斜視図であり、図3は、本実施形態に係るリザーバタンクの構造を説明するための一部断面図であり、図4は、図1におけるA−A断面図であり、図5は、図1におけるB−B断面図であり、図6は、本実施形態に係るリザーバタンクのバッフルの構成を説明するための正面図であり、図7は、本実施形態に係るリザーバタンクのバッフルの構成を説明するための側面図であり、図8は、本実施形態に係るリザーバタンクのバッフルの構成を説明するための下面図である。なお、本実施形態の説明において、図1における紙面の上下方向を本実施形態における上下方向として定義する。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るリザーバタンク1は、流入口12及び流出口11とを備える有底筒状の容器10を備えている。また、容器10の上端は蓋体10aによって閉塞されている。さらに、蓋体10aの上部には容器10内と連通して作動オイルなどを容器10内部に供給するための供給口13が形成されており、該供給口13は、シール部材21及び閉塞キャップ20が着脱自在に組み付けられることにより閉塞及び解放されている。なお、蓋体10aは、振動溶着,超音波溶着,スピン溶着など、様々な溶着手段により容器10に組み付けられている。さらに、蓋体10aの組み付け方法は、上述した溶着に限定されず、ボルト/ナットにより締結しても構わないし、容器10と蓋体10aとを直接螺合しても構わない。
【0025】
図3に示すように、容器10の内部には、フィルタ部材30が組みつけられており、容器10内部で、流入口12と連通するダーティサイドDと、流出口11と連通するクリーンサイドCとを区画している。フィルタ部材30は、濾材31を備えており、流入口12から還流した作動オイルを該濾材31によってろ過し、当該ろ過された作動オイルをクリーンサイドCを介して流出口11からオイルポンプへ供給することができるようになっている。濾材31は、周知の濾材を用いることができるが、ナイロンメッシュで形成すると好適である。
【0026】
なお、容器10の流出口11が形成される下部は、流入口12が形成される側部よりも小径に形成されており、容器10のこの小径に形成された部位とフィルタ部材30とによってクリーンサイドCを形成している。さらに、流入口12が形成される側部とフィルタ部材30及び蓋体10aとによってダーティサイドDが形成されている。また、ダーティサイドDとクリーンサイドCとの境界部には、容器10の下部が小径に形成されていることにより、段差15が形成されており、当該段差15にフィルタ部材30が組み付けられている。フィルタ部材30は、振動溶着,超音波溶着,スピン溶着など、種々の溶着手段により容器10に組み付けることができるが、容器10の内部に組み付けることを考慮すると、スピン溶着による溶着が好適である。
【0027】
また、フィルタ部材30のダーティサイドD側には、バッフル32がフィルタ部材30と一体に形成されている。図4に示すように、バッフル32は、開口33を備える箱状に形成されており、開口33が流入口12に向けてられていると共に、開口33を介してバッフル32の内部とダーティサイドDが連通している。このように、バッフル32を形成すると、流入口12から還流してきた作動オイルをバッフル32内で受け止めることができ、作動オイルの旋回を防止することができる。
【0028】
さらに、容器10のクリーンサイドC側には、容器10の底部から立設するように案内壁14が形成されている。図5に示すように、案内壁14は、容器10の上面から見た形状が略U字状に形成されており、フィルタ部材30を通過した作動オイルを流出口11に円滑に案内することができるように形成されている。
【0029】
次に、図6〜8を参照して、本実施形態に係るリザーバタンク1の最も特徴的なバッフル32の構造について説明する。
【0030】
図6に示すように、バッフル32は、濾材31から立設した側壁32aと側壁32aの上端に延設された上壁32bとを有している。図4に示すように側壁32aは、容器10の上方から見た場合に略U字状に形成されており、該略U字状の形状により開口33が形成されている。
【0031】
図7に示すように、上壁32bは、開口33に向かって上方に傾斜するとともに、濾材31に対して傾斜角θを有する斜面として形成されている。このように、バッフル32の上面に斜面が形成されているので、流入口12から還流してきた作動オイルがキャビテーションの発生によりエアーが含まれている場合であっても、当該エアーはバッフル32内を上昇し、斜面に沿って開口33からバッフル32外に排出される。なお、バッフル32外に排出されたエアーは、容器10内を上昇し、容器10の上部に溜められて作動オイルから確実に分離される。さらに、バッフル32の上面が傾斜角θの斜面に形成されているので、作動オイルに含まれたエアーを、作動オイルの油面を変動させることなくゆっくりとバッフル32外に排出させることができる。なお、傾斜角θは作動オイルの油面変動が生じない程度の微小角度に設定することができるが、特に5〜10°に設定すると好適である。
【0032】
さらに、図4に示すように、バッフル32の上面の開口33と反対の端部には、エアー抜き孔34が形成されており、当該エアー抜き孔34からもエアーを排出することができるようになっている。なお、エアー抜き孔34の大きさは、エアー抜きの際に作動オイルの還流の勢いによりエアー抜き孔34から作動オイルが噴出しない程度に小径に形成されている。
【0033】
図8に示すように、フィルタ部材30の濾材31は、濾材31の略中心から放射状に延びるリブ35によって補強されている。このように、濾材31がリブ35によって補強されているので、流入口12から還流してきた作動オイルが濾材31を通過する際に濾材31が損傷することを防止している。
【0034】
なお、本実施形態においては、流入口12は図4に示すように、容器10の接線方向に延びるように形成した場合について説明したが、流入口12及び流出口11が形成される位置は、リザーバタンク1及びオイルポンプが設置される位置やこれらの部材を連結する配管の方法により適宜変更することができる。さらに、流入口12の位置を変更した場合であっても、バッフル32の開口33が流入口12に向くように回転させることで、フィルタ部材30を共用することができるので、製造コストの抑制を図ることができる。
【0035】
また、本実施形態においては、エアー抜き孔34を1箇所形成した場合について説明したが、エアー抜き孔34の数はこれらに限定されず、作動オイルの油面変動が生じなければ、複数形成しても構わない。
【0036】
さらに、本実施形態においては、パワーステアリング装置に用いられるリザーバタンク1について説明したが、本実施形態に係るリザーバタンク1は、この用途に限定されず、例えば、ブレーキ装置などの油圧装置のリザーバタンクとして適用することもできる。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0037】
1 リザーバタンク, 10 容器, 10a 蓋体, 11 流出口, 12 流入口, 13 供給口, 14 案内壁, 15 段差, 20 閉塞キャップ, 21 シール部材, 30 フィルタ部材, 31 濾材, 32 バッフル, 32a 側壁, 32b 上壁, 33 開口, 34 エアー抜き孔, 35 リブ, θ 傾斜角, C クリーンサイド, D ダーティサイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口及び流出口を備える筒状の容器と、
前記容器内部で、前記流入口と連通するダーティサイドと、前記流出口と連通するクリーンサイドとを区画するフィルタとを備え、
前記フィルタのダーティサイド側には、前記流入口に向けて開口した箱状のバッフルが形成され、
前記バッフル内部は、前記開口を介して前記ダーティサイドと連通し、
前記バッフルの上面は、斜面が形成されていることを特徴とするリザーバタンク。
【請求項2】
前記バッフルの上面の前記開口側と反対の端部には、エアー抜き孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリザーバタンク。
【請求項3】
前記バッフルは、前記フィルタと一体に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のリザーバタンク。
【請求項4】
前記クリーンサイドには、前記流出口に向けて作動オイルを案内する案内壁が形成されていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載のリザーバタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−122672(P2011−122672A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280959(P2009−280959)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000223034)株式会社ROKI (51)
【Fターム(参考)】