説明

リチウムのプリドープ方法及びこの方法を用いた電極、蓄電デバイス

【課題】リチウムドープ可能材料とリチウム金属を、溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをプリドープする工程において、ボールとの衝突、摩擦による混練混合工程を含むことにより、この材料にリチウムを短時間にかつ均一にプリドープでき、かつ、容易に電極製造が可能にする。
【解決手段】リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをプリドープする工程において、ボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とするリチウムのプリドープ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便、かつ、実用的なリチウムのプリドープ方法及びこの方法を用いた電極、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される小型携帯機器用の電源、深夜電力貯蔵システム、太陽光発電に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車のための蓄電システムなどに関連して、各種の高エネルギー密度電池の開発が精力的に行われている。特に、リチウムイオン電池は、350Wh/lを超える体積エネルギー密度を有すること、金属リチウムを負極として用いるリチウム二次電池に比べて、安全性、サイクル特性などの信頼性が優れることなどの理由により、小型携帯機器用の電源として、その市場が飛躍的に拡大している。リチウムイオン電池は、正極としてLiCoO、LiMnなどに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極として黒鉛に代表される炭素系材料を用いている。現在、リチウムイオン電池のより一層の高容量化が進められているが、実用化されている正極酸化物及び負極炭素系材料の改良による高容量化は、ほぼ限界に達しており、機器側からの高エネルギー密度に対する要求を満たすことは困難である。また、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)、あるいは燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、エンジンあるいは燃料電池が最大効率で運転するためには、一定出力での運転が必須であり、負荷側の出力変動あるいはエネルギー回生に対応するために、蓄電システム側には高出力放電特性、高率充電特性が要求されている。この要求に対応するため、蓄電システムにおいては高エネルギー密度を特徴とするリチウムイオン電池の高出力化あるいは高出力を特徴とする電気二重層キャパシタの高エネルギー密度化に向けたリチウムイオンキャパシタの研究開発が実施されている。
【0003】
一方、リチウムイオン電池あるいはキャパシタなどの蓄電デバイスにおいて、活物質にあらかじめリチウムイオンを担持させること(以下、プリドープと呼ぶ)により、蓄電デバイスを高容量化、高電圧化する技術が注目されている。例えば非特許文献1、特許文献1、非特許文献2、非特許文献3などに記載されているポリアセン系骨格構造を含有する不溶不融性基体などの高容量材料に対し、このプリドープを適用することにより、非特許文献4に記載されているように、その特徴(高容量)を充分に活かした蓄電デバイス設計が可能となり、上記蓄電デバイスの高エネルギー密度化あるいは高出力化の要求に応えることが可能となる。プリドープは古くから実用化されている技術であり、例えば、非特許文献5、特許文献2には、リチウムを負極活物質であるポリアセン系骨格構造を含有する不溶不融性基体にプリドープさせた、高電圧かつ高容量な蓄電デバイスが開示されている。リチウムのプリドープは、プリドープする電極を作用極とし、対極としてリチウム金属を用いる電気化学システムを組み立て、電気化学的にドーピングすることが可能であるが、この方法では、プリドープした電極を電気化学システムから取り出し、電池・キャパシタに組み替えることが必要である。そこで、実用的なプリドープ法として、活物質を含有する電極にリチウム金属箔を貼り付けることにより接触させ、電解液注液後、リチウムを活物質内にドープする方法が長く用いられてきた。この技術は電極数が少なく、比較的厚い電極を用いるコイン型電池などに有効であるが、薄い電極を複数枚積層する積層型構造電池、あるいは、巻回型構造電池においては、工程が煩雑になる、あるいは、薄型リチウム金属の取り扱いなどに課題があり、簡便かつ実用的なプリドープ法が必要であった。
【0004】
この問題を解決する方法として、特許文献3〜6には、孔開き集電体を用いるプリドープ法が開示されている。特許文献3には、表裏面を貫通する孔を備え、負極活物質がリチウムを可逆的に担持可能であり、負極由来のリチウムが負極あるいは正極と対向して配置されたリチウムとの電気化学的接触により担持され、かつ、該リチウムの対向面積が負極面積の40%以下であることを特徴とする有機電解質電池が開示されている。この電池では貫通孔を備えた集電体上に電極層を形成し、電池内に配置されたリチウム金属と負極を短絡することにより、電解液注液後、リチウムイオンが集電体の貫通孔を通過し、すべての負極にドープされる。特許文献3の実施例には、貫通孔を備えた集電体にエキスパンドメタルを用い、正極活物質にLiCoO、負極活物質にポリアセン系骨格構造を含有する不溶不融性基体を用いた有機電解質電池が開示されており、該負極活物質には、電池内に配置されたリチウム金属からリチウムイオンを簡便にプリドープすることができる。
また、電極内にリチウム金属粉末を混合する、あるいは、特許文献7に記載されているようにリチウム金属粉末を負極上に均一に分散させ、注液後、電極上で局部電池を構成し電極内に均一に吸蔵する方法が開示されている。更に、特許文献8には、負極中にポリマー被覆Li微粒子を混合し負極を製造し、キャパシタを組み立て後、電解液を含浸させることにより、ポリマー被覆Li微粒子のうちポリマー部分を電解液に溶出させ、Li金属と負極のカーボンを導通(短絡)させることにより負極のカーボン中にLiをドープさせる方法も開示されている。
【0005】
上記プリドープ技術は、いずれも、電池、キャパシタを組み立て後、電解液を注液することにより、プリドープを開始させる技術である。一方、n−ブチルリチウムをヘキサンなどの有機溶剤に溶解した溶液中に電極材料を浸漬して、リチウムを電極材料に反応させ、リチウム化した電極材料で電極を作製する技術(特許文献9)、Tow−Bulb法と呼ばれる手法でリチウムを気相状態でリチウムと黒鉛を反応させ黒鉛にリチウムを含有させる方法(特許文献10)、メカニカルアロイング法でリチウムを機械的に合金化する方法(特許文献10)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−3806号公報
【特許文献2】特開平3−233860号公報
【特許文献3】WO98/33227号公報
【特許文献4】WO00/07255号公報
【特許文献5】WO03/003395号公報
【特許文献6】WO04/097867号公報
【特許文献7】特開平5−234621号公報
【特許文献8】特開2007−324271号公報
【特許文献9】特開平10−294104号公報
【特許文献10】特開2002−373657号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.Yamabe,M.Fujii,S.Mori,H.Kinoshita,S.Yata:Synth.Met.,145,31(2004)
【非特許文献2】S.Yata,Y.Hato,K.Sakurai,T.Osaki,K.Tanaka,T.Yamabe:Synth.Met.,18,645(1987)
【非特許文献3】S.Yata,H.Kinoshita,M.Komori,N.Ando,T.Kashiwamura,T.Harada,K.Tanaka,T.Yamabe:Synth.Met.,62,153(1994)
【非特許文献4】S.Yata,Y.Hato,H.Kinoshita,N.Ando,A.Anekawa,T.Hashimoto,M.Yamaguchi,K.Tanaka,T.Yamabe:Synth.Met.,73,273(1995)
【非特許文献5】矢田静邦,工業材料,Vol.40,No.5,32(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のごとく、リチウムイオン電池の高出力化あるいはキャパシタの高エネルギー密度化に向けた開発においてプリドープ技術は重要であり、様々な方法のプリドープ法が提案されている。現在、実用性が高いと考えられているプリドープ技術は、活物質(電極)とリチウムを直接接触あるいは電気的回路を介して短絡させた状態で電池を組み立て、電解液を注液することにより、プリドープを実施する電気化学的方法である。しかし、この場合、全体に均一にドープするためには、多くの時間を必要とすること、更には、電池内に組み込まれる金属リチウムが完全にプリドープされず残る、あるいは、プリドープにより消失したリチウム部分が隙間となり電池の内部抵抗等に影響を与えるという課題があった。また、貫通孔を備えた集電体を用いる場合には、孔開き集電体に電極を塗布しなければならないという課題、活物質を含有する電極にリチウム金属箔を貼り付ける方法は均一性が比較的高いが、30μm以下の極薄リチウム金属箔の厚み精度、取り扱いの課題等、製造上解決していかなければならない課題も多く含んでいる。
【0009】
一方、背景技術に記載されるように、アルキルリチウムをヘキサンなどの有機溶剤に溶解した溶液中に活物質を浸漬させ、活物質に直接プリドープすれば、均一なプリドープが可能となるが、リチウム源にリチウム金属を用いる場合に比べ、大量の含リチウム試薬が必要となること、反応後、活物質を取り出す、残試薬を分離するなど、非常に煩雑な工程が必要となる。また、Tow−Bulb法(気相)、メカニカルアロイング法(固相)でのドープは、その条件が煩雑であること、特殊かつ大掛かりな装置が必要であること、更には、プリドープする材料が高温に曝される、あるいは、過激な力での粉砕による材料構造の破壊等の致命的課題があり、実用に供することは困難であった。本発明の目的はこれら課題を解決する、簡便、かつ、実用的なリチウムのプリドープ方法を提供することにあり、この方法を用いることでリチウムをドープした材料を含む電極が簡便に量産可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の様な従来技術の問題点に留意しつつ研究を進めた結果、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を、溶剤の存在下において混合することにより、リチウムを簡便にプリドープできることを見出し、更に、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を、溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをプリドープする工程において、ボールとの衝突、摩擦による混練混合工程を含むことにより、この材料にリチウムを短時間にかつ均一にプリドープでき、かつ、容易に電極製造が可能なことを見出し本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
【0011】
(1)リチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする方法であって、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする工程を含み、前記工程中にボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とするリチウムのプリドープ方法。
(2)前記リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合する工程において、粘度の高い状態で、ボールとの衝突、摩擦なしに混練混合する工程の後、ボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とする前記(1)に記載のリチウムのプリドープ方法。
(3)前記リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合する工程において、リチウム金属を複数回にわたって加えることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のリチウムのプリドープ方法。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載のリチウムのプリドープ方法によりリチウムをドープした材料を含む蓄電デバイス用電極。
(5)前記(4)に記載の電極を用いた蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプリドープ方法は、リチウムドープ可能材料に、電気化学的手法を用いず、簡便かつ均一にリチウムをドープ可能であるという効果を奏する。また、この方法でリチウムをプリドープした材料を用い、電極、蓄電デバイスを製造することにより、上記従来の方法で問題となっていた、プリドープ時間、均一性に係る課題、孔開き集電体、極薄リチウム金属箔使用による製造上の課題などを解決することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、説明すれば以下の通りである。本発明のプリドープ法はリチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする工程を含み、前記工程中にボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とする。本発明におけるリチウムドープ可能材料とは、リチウムをドーピング(インターカレーション、挿入、吸蔵、担持、合金化等種々の言葉で表現されるが、これらを総称して、本発明ではドーピングと記載する)できる材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、負極活物質に用いる材料としては、リチウム系二次電池、キャパシタ等のリチウムイオンを含む電解質を用いる蓄電デバイスの負極活物質用材料として報告されている材料が挙げられ、具体的には、ポリアセン系骨格構造を含有する不溶不融性基体等の水素/炭素の原子比が0.05〜0.5であるような多環芳香族系炭化水素、炭素系物質、黒鉛系物質、導電性高分子、錫あるいはその酸化物、ケイ素あるいはその酸化物等を用いることができ、リチウムのドープ、脱ドープの効率が85%以下である材料に対して効果が大きい。また、正極活物質に用いる材料としては、例えば、リチウム系二次電池、キャパシタ等のリチウムイオンを含む電解質を用いる蓄電デバイスの正極活物質用材料として報告されている材料が挙げられ、具体的には、リチウムをドーピング可能な金属酸化物、金属硫化物、導電性高分子、硫黄、炭素系材料などであり、中でも、特に、炭素系材料、五酸化バナジウム、二酸化マンガン、二硫化モリブデン、硫化鉄等のリチウムをドーピング可能であるがリチウムを含まない材料に対して、本発明の効果が大きい。
【0014】
リチウムドープ可能材料の形態は、特に限定されるものではないが、球状粒子、不定形粒子、繊維状等から適宜選択されるものであり、リチウムをプリドープ後、粉砕等の工程を経ることなく電極製造に用いることが可能な形態が好ましく、電極の厚み、密度(気孔率)あるいは目的とする蓄電デバイスの入出力特性、信頼性、安全性などを考慮して決定される。例えば、球状粒子、不定形粒子の場合の平均粒径、あるいは、繊維状材料の平均繊維長さは、通常50μm以下であり、より好ましくは30μm以下、0.1μm以上である。
【0015】
本発明のプリドープ法はリチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする工程を含み、前記工程中にボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことにより、短時間に、かつ、均一にリチウムをプリドープする方法である。このプリドープ方法にはリチウム金属だけでなく、例えば、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金も同様に使用可能であるが、リチウムアルミニウム合金を用いる場合を例にとると、プリドープ後、アルミニウムが残るという課題が発生する。
【0016】
本発明に用いるリチウム金属の形態は、特に、限定されるものではなく、塊状、箔状、粒状、粉状、繊維状等の種々の形態が適用できるが、プリドープ速度を考慮した場合には、薄い、あるいは、細かい等の表面積が大きい形状が好ましく、リチウム金属の取り扱い、生産性、プリドープ雰囲気の影響を考慮すると表面積が小さい形状が好ましい。結果として、1mm以下、0.005mm以上、好ましくは、0.5mm以下、0.01mm以上の厚みを有する箔状、あるいは、箔を細かく切断したリチウム金属箔や、粒径が1mm以下、0.005mm以上、好ましくは、0.5mm以下、0.01mm以上、特に好ましくは、0.5mm以下、0.05mm以上のリチウム金属粒あるいは粉末を用いることが望ましい。また、ポリマーなどで被覆したリチウム金属等も、以下で説明する混練混合時にリチウム金属の全部あるいは一部がリチウムドープ可能材料と接触する状態になれば使用することが可能となる。
【0017】
本発明に用いる溶剤は、当然のことながら、リチウム金属及びリチウムをプリドープしたリチウムドープ可能材料(以下、「リチウムドープ材料」という)と反応しないものから選択することが好ましい。リチウム金属及びリチウムドープ材料は強い還元能を有し、溶剤と反応あるいは溶剤の重合の触媒等となりうる場合があるが、ここでいう反応は継続的に進行する反応であり、例えば、リチウムドープ材料と溶剤が反応し、材料の表面に反応生成物が安定被膜を作り、その後リチウムドープ材料との反応を阻害し、反応が継続的に進行しない場合、その溶剤は使用することが可能である。また、溶剤に微量の反応成分が含まれている場合、その反応成分がすべて反応し、反応が停止する場合も、その溶剤は使用することが可能である。更には、リチウム金属及びリチウムドープ材料との反応が遅く、溶剤が除去されるまでの時間における反応が、蓄電デバイスの特性にほとんど影響を与えない場合、その溶剤は使用することが可能である。
【0018】
また、本発明に用いる溶剤は、リチウムドープ材料を用いて製造する電池、キャパシタの蓄電デバイスの充放電において分解等の致命的な影響を与えない溶剤が好ましい。このような溶剤の一例としては、電池、キャパシタの蓄電デバイスの電解液に用いることが可能な溶媒であり、例えば、カーボネート類、ラクトン類、スルホラン類、エーテル類から選ばれる1種又は2種以上の混合物であり、好ましくは、環状カーボネート類、ラクトン類、スルホラン類、エーテル類から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、ジオキサン等のエーテル類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、スルホラン類、酢酸メチル、蟻酸メチル等のエステル類等の1種又は2種以上からなる有機溶媒を用いることができる。更に、ヘキサン、ドデカン、デカリンなどの炭化水素等も用いることが可能である。理由は後述するが、好ましくは、沸点が150℃以上、更には200℃以上であることが好ましい。当然のことながら、溶剤は水分含量が低いことが好ましく、具体的には水分含量が1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、特に、好ましくは200ppm以下のものを用いれば、リチウム金属及びリチウムドープ材料との反応を最小限に抑えることが可能である。プリドープ時に使用する溶剤にリチウム塩等の電解質を含ませることも可能であるが、製造した電極に残る電解質の扱いを考慮する必要があり、その後の工程に影響を与えることもある。
【0019】
本発明のプリドープ法は、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをプリドープする工程において、ボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とするものであり、そのポイントは如何にリチウムドープ可能材料へのリチウムのドーピング機会を増大させるかが重要である。従来のセル内プリドープ法(リチウム塩を含む電解液中で、リチウムドープ可能材料を含む電極とリチウム金属を直接接触させる、あるいは、電気的に短絡させてプリドープする)は、電解液中のリチウムイオンを介しプリドーピングするものであるが、本発明のプリドープ法は溶剤の存在下、混合混練により、リチウムドープ可能材料にリチウム金属を直接接触させることでドーピング機会を創り出す。従って、短時間に、かつ、均一にプリドープを進行させるには、溶剤の存在下での混練混合時にリチウムドープ可能材料とリチウム金属に応力をかける必要がある。この応力が不足すると、プリドープ時間が長くなる、あるいは、リチウム金属が残る等で均一なプリドープが進行しない、電極化時に凝集物が残ることにより電極塗布が困難になるなどの課題を生じることとなる。
【0020】
混練混合時にリチウムドープ可能材料とリチウム金属に応力をかける具体的手法としては、以下に例示するが、リチウムドープ可能材料の形状、比表面積等の材料物性、リチウム金属の形態、プリドープするリチウム量、プリドープ時の発熱等により、その混練混合手法、応力のかけ具合を適宜選定することができる。
【0021】
応力をかける具体的手法としては、リチウムドープ可能材料と溶剤の比率により、粘土状、高粘度状としたリチウムドープ可能材料と溶剤の混合物にリチウム金属を加え、高粘度物質を混練混合可能な混合機で混練混合する方法が挙げられる。
【0022】
一方、本発明は、前記のような混練混合を大規模かつ短時間で、均一なプリドープが可能な、効率の良いリチウムのプリドープ方法を提供するものであり、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする工程を含み、前記工程中にボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明において、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下でのボール(本発明では一般にボール、ビーズと称される媒体を総称してボールと記載する)との衝突、摩擦による混練混合は、溶剤の存在下においてリチウムドープ可能材料とリチウム金属を同時に混練混合して行うことができれば、どのような方法によっても行うことができるが、通常は、ボールを用いて混練混合する混練混合機を用いることができる。このような混練混合機としては、ボールミル、遊星型ボールミル、ビーズミル等を用いることができる。また、自公転ミキサーにボールを入れ混練混合することも可能である。
【0024】
本発明で溶剤の存在下においてリチウムドープ可能材料、リチウム金属を、ボールを用いて混練混合する場合に、混合物が、粘土状、高粘度状の混合物であることが好ましい。この場合、リチウムドープ可能材料とリチウム金属に極めて強い応力がかかり、混練混合時温度上昇が大きくなる場合があり、生成物のリチウムドープ材料が高温にならないように留意する必要があり、このような時には、混練混合機の回転数の制御、冷却等で温度上昇を制御する必要がある。
【0025】
発熱を抑制する好ましい本発明の混練混合の実施形態の一つとしては、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下、粘度の高い流動性のない状態(例えば、10Pa・s以上)で、ボールとの衝突、摩擦なしに、以下に記載する方法で混練混合(所謂、固練り)後、得られる混練混合物を、更に、ボールとの衝突、摩擦による混練混合の工程を実施することである。このように、粘度の高い状態による所定量のリチウムとの混練混合(所謂、固練り)後、ボールとの衝突、摩擦による混練混合工程を実施することにより、混練混合時の発熱を抑止し、リチウム金属を完全にプリドープすることが可能である。
【0026】
上記ボールとの衝突、摩擦なしに、混練混合(所謂、固練り)により応力をかける具体的手法としては、リチウムドープ可能材料と溶剤の比率により、リチウムドープ可能材料と溶剤の混合物を粘土状、高粘度状の流動性のない状態とし、この混合物にリチウム金属を加え、混練混合可能な混合機で混練する方法が挙げられる。このような混練混合機としては、例えば、プラネタリーミキサー、自公転ミキサー、ニーダー等が挙げられる。ここで、プラネタリーミキサーは、2本のブレードで構成されており、遊星運動(プラネタリー運動)によりブレード相互間及びブレードとタンク内面の精密な間隔によって強い応力(せん断力)を与えることが可能である。また、自公転ミキサーは、高速の自転・公転で生じた強い遠心力(例えば100G以上の遠心力)が押圧力となり、リチウムドープ可能材料とリチウム金属に応力をかけることが可能である。
【0027】
また、粘度の高い状態で、ボールとの衝突、摩擦なしに、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下、混練混合(所謂、固練り)後、溶剤を添加し粘度を低下させた流動性のある状態(例えば、10Pa・s以下)で、ボールとの衝突、摩擦による混練混合工程を実施することも可能である。
【0028】
更に、本発明によれば、リチウムドープ可能材料、リチウム金属及び溶剤の混合物が、粘土状、高粘度状の混合物でなくても、例えば、10Pa・s未満の流動性のあるスラリー状であっても、ボールとの衝突、摩擦による混練混合により、リチウムドープ可能材料とリチウム金属に応力をかけることが可能である。前記の粘度の低いスラリー状の混合物を、ボールとの衝突、摩擦による混練混合する場合は、発熱が少なく、混練混合に特別な冷却装置が必要ないという利点がある。
【0029】
上述のように、ボールとの衝突、摩擦による混練混合のタイミング、混練混合時の粘度を調整することにより、混練混合時の発熱を抑えながら、かつ、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下、ボールとの衝突、摩擦により混練混合することによりドーピング機会が増大し、均一なプリドープが容易となり、プリドープ後の電極製造時に凝集物が残るなどの課題を解決することができる。
【0030】
また、前記リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合する工程において、リチウム金属は一度に所定量を加えるのではなく、複数回数で、徐々に加えていく方が、短時間で効率的にプリドープすることが可能となる。
【0031】
また、本発明の実施形態として、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下ボールとの衝突、摩擦による混練混合を行うのに先立って、リチウムドープ可能材料と溶剤を混練混合しておき、それにリチウム金属を加えてボールとの衝突、摩擦による混練混合する方法を用いることもできる。
【0032】
本発明のプリドープ法を更に詳細に説明するが、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下、混練混合することによりリチウムをプリドープする工程において、ボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含んでいれば、以下の説明により何ら限定されるものではない。
【0033】
まず、球状粒子、不定形粒子、繊維状等から適宜選択された形状のリチウムドープ可能材料は、乾燥により水分を可能な限り除去しておくことが好ましく、これら材料の水分量は、好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは、200ppm以下である。得られたリチウムドープ可能材料は上記溶剤と混合され、そこに、塊状、箔状、粒状、粉状、繊維状等の適宜選択された形状のリチウム金属を加え、上記の方法で、混練混合する。
【0034】
リチウムドープ可能材料と溶剤の比率は、リチウムドープ可能材料の真密度、比表面積、形状等、材料の物性、溶剤の種類、上記の混練混合方法により適宜決定されるが、通常、リチウムドープ可能材料の重量に対し、10%〜300%程度であり、この比率で上記混練混合時の粘度を調整することが可能である。
【0035】
また、上記、溶剤の存在下で混練混合時、リチウムドープ可能材料とリチウム金属以外に導電材、バインダーなどを加えておくことも可能である。
【0036】
上記プリドープ工程は、リチウム金属が安定に扱える、水分量250ppm以下、好ましくは、水分量100ppm以下のドライエアー、アルゴンなどの不活性ガス、あるいは、真空中で実施する。また、混練混合時、溶剤の蒸発により、リチウム金属を均一に混練混合し難しくなることやプリドープした材料が水分等と反応しやすくなることから、用いる溶剤の沸点が150℃以上、好ましくは200℃以上であることが望ましい。
【0037】
かくして得られたリチウムドープ材料は、溶剤を含んだ状態で扱うことが可能であることから、雰囲気中の水分等に対しても比較的安定であり、本発明では、上記方法でプリドープしたリチウムドープ材料を用いて電極を量産することが可能である。電極の製造は溶剤を含むプリドープした材料を用いる以外は塗布法、シート成形法、プレス法等の公知の方法で製造できる。以下、このリチウムドープ材料を用いて電極を製造する方法を説明する。
【0038】
本発明のプリドープ方法を用いた電極の製造法は、[1]リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下、ボールとの衝突、摩擦により混練混合する工程を含む、リチウムドープ可能材料にリチウムをドープするプリドープ工程(スラリー調整工程を同時に含む場合もある)、[2]前記工程の混合物にバインダーを添加、溶剤を添加または蒸発させ、塗布可能なスラリーを調整するスラリー調整工程、[3]集電体上への前記スラリーを塗布する塗布工程、[4]前記集電体上へ塗布したスラリーを乾燥する乾燥工程を含んでいる。また、目的とする電極物性などを考慮し、必要に応じて、[4]の乾燥工程の後、所定の電極密度まで電極を圧縮するプレス工程などを含めることも可能である。これら工程は、リチウム金属の混練混合、電極製造時の使用溶剤の選定、雰囲気調整は必要なものの、既存の電極製造工程が適用可能である。
【0039】
本発明のプリドープ方法を用いた電極製造における、少なくともリチウムドープ材料、バインダー、溶剤から成る塗布可能なスラリーの調整工程について説明する。ここでは、プリドープ工程で得られたリチウムドープ材料、バインダー、溶剤から成る塗布可能なスラリーを調整する。また、リチウムドープ材料、バインダー、溶剤の他に、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の炭素材料や金属材料等の導電材、増粘材など、電極製造に必要な材料を混合したスラリーを調整することも可能である。これら材料の混合順序は、スラリー中の分散性、製造における利便性などを考慮して決定されるが、プリドープ工程時にあらかじめ混合しておくことも可能である。
【0040】
本発明のプリドープ方法を用いた電極の製造に使用するバインダーは、特に、限定されるものではないが、リチウムドープ材料を結着可能であり、かつ、プリドープに使用する溶媒と同様に、リチウムドープ材料と反応しないことが重要であり、例えば、リチウムイオン電池用負極に用いられる公知のバインダー、リチウムイオン電池に用いられる公知のゲル電解質用ポリマー、リチウムイオン電池に用いられる公知の固体電解質用ポリマーが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン六フッ化プロピレン(PVDF−HFP)共重合体、フッ素ゴム、SBR、ポリエーテル系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。バインダーはスラリー中の溶剤に対し、可溶、膨潤、不溶いずれでも構わず、リチウムドープ材料の結着性を考慮してその種類、量を決定する。また、バインダーは、乾燥などにより水分を可能な限り除去しておくことが好ましい。バインダーの混合量は特に限定されるものではないが、リチウムドープ材料の重量に対し1%〜30%、好ましくは、2%〜20%である。
【0041】
本発明のプリドープ方法を用いた電極の製造において、スラリーを調整する場合、プリドープ工程での混錬混合に用いた溶剤に加え、必要に応じ、新たに溶剤を追加し、塗布可能な粘度に調整する。ここでの溶剤は、プリドープ工程で使用する溶剤と同じ、あるいは、乾燥などの条件を考慮して、異なった溶剤を用いても構わないが、やはり、プリドープに使用する溶媒と同様に、リチウムドープ材料と反応しないことが重要であり、水分量については、好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、特に好ましくは200ppm以下の溶剤を使用する。プリドープ工程で用いる溶剤、あるいは、スラリーの調整工程で用いる溶剤は、上記バインダーの溶解性、膨潤性を考慮して決定することもある。スラリーを調整する雰囲気は水分量250ppm以下、好ましくは、水分量100ppm以下のドライエアー、アルゴンなどの不活性ガス、あるいは、真空中で実施する。
【0042】
上記で得られたスラリーは集電体上へ塗布される。本発明では、リチウムドープ材料を塗布することから、従来、プリドープに必要とされてきた孔開き箔集電体を、特に用いる必要はなく、通常の銅箔、アルミ箔等の金属箔を集電体として用いることが可能である。
【0043】
本発明のプリドープ方法を用いた電極の製造では、上記塗布工程の後、溶剤を乾燥する。ここでの乾燥は、蓄電デバイスを組み立てることが可能なレベルまで溶剤を乾燥すればよく、例えば、溶剤を電極重量に対し30%以下まで乾燥すれば、完全に溶剤を除去する必要はない。この乾燥工程時の乾燥温度が高すぎると、加熱によりプリドープしたリチウムが失活する場合があるので、具体的温度はリチウムドープ材料、使用した溶剤によるが、好ましくは160℃以下、更に好ましくは120℃以下である。乾燥工程は水分量30ppm以下、特には25ppm以下で実施することが好ましいが、溶剤をリチウムドープ材料の重量に対して10%以上残した場合、例えば、水分が100ppm以下の雰囲気で製造することも可能である。
【0044】
本発明のプリドープ方法を用いた上記製造法により得られる電極は、セパレータ及びリチウム塩が非水溶媒に溶解されてなる非水系電解液と組み合わせ、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタなどの蓄電デバイスを構成することができる。この場合、プリドープ型電極が負極の場合は正極と、プリドープ型電極が正極の場合は負極と組み合わせる。本発明では、リチウムドープ材料を含む電極を用いてセルを製造することから、プリドープを実施しない通常の既存製造方法と同様の工程で製造が可能である。
【0045】
本発明のリチウムのプリドープ方法、電極の製造方法を用いることにより、プリドープ手法を適用するリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタなどの蓄電デバイスが、簡便かつ短時間に、製造可能となる。
【0046】
以下に実施例を示し、本発明の特徴とするところをさらに明確化するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
(多環芳香族系炭化水素:PAHsの合成)
石炭系等方性ピッチ(軟化点280℃)を、コーヒーミルで粉砕し、粒度1mm以下のピッチ原料を得た。該ピッチ粉末1000gをステンレス鋼製の皿に入れ、電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置して、熱反応を行った。熱反応は、窒素雰囲気下で行い、窒素流量を10リットル/分とした。熱反応に際しては、室温から100℃/時間の速度で680℃(炉内温)まで昇温した後、この温度で4時間保持し、続いて自然冷却により、60℃まで冷却し、反応生成物を電気炉から取り出した。得られた生成物は、原料の形状を留めず、不定形な不溶不融性固体であった。収量は790gであり、収率は79重量%であった。
【0048】
得られた生成物をジェットミルにより粉砕し、平均粒度4μmに分級して、多環芳香族系炭化水素(以下、PAHsと記載する)を得た。該負極材料を用いて、元素分析(測定使用機:パーキンエルマー製、元素分析装置“PE3400シリーズII、CHNS/O”)及びBET法による比表面積測定(測定使用機:ユアサアイオニクス社(現、シスメックス社)製、“NOVA1200”)を行ったところ、水素炭素の原子比はH/C=0.195であり、比表面積は11m/gであった。
【0049】
得られたPAHs、導電材にアセチレンブラック、バインダーにPVDFを用いて電極を試作し、対極にリチウム金属を用い、電解液にエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを3:7の重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLiPFを溶解した溶液を用い、電気化学的にリチウムをドープ/脱ドープしたところ、そのドープ量は1134mAh/g、脱ドープ量は855mAh/gであり、得られたPAHsはリチウムドープ可能材料である。
【0050】
(プリドープの実施)
上記PAHs、アセチレンブラックを170℃で10時間真空乾燥した後、水分100ppm以下のドライエアー中で、PAHs5g、アセチレンブラック0.5gを混合し、水分30ppm以下のプロピレンカーボネート(沸点242℃)5.0gを加え、自公転ミキサー(シンキー製:あわとり練太郎AR−250:容器100ml)を用いて混練混合した。得られた高粘度混合物(流動性なし)に30μmのリチウム金属箔をカットしたものを約0.07g加え、自公転ミキサーを用いて自転速度2000rpm、公転速度2000rpmの条件で2分間、混練混合した。その後、リチウム金属の消失を確認しながら、リチウム金属箔を約0.07gずつ加え、上記条件で2分間混練混合する操作を繰り返し、総計0.5gの所定量のリチウム金属(PAHsの重量に対し380mAh/gに相当)を混練混合した。
【0051】
次に上記混練混合物に、ジルコニア製ボール(10mmφ)2個を入れ、自転速度2000rpm、公転速度2000rpmの条件で2分間混練混合し、1分間放置する操作を3回繰り返した。この時、所定量のリチウム金属を混練混合した後に、ボールを加え混練混合したことから、混練混合時の発熱は小さかった。得られた混練混合物にPVDF(ポリフッ化ビニリデン):KYNAR(商標)−HSV900を0.5g、プロピレンカーボネート2.5gを添加し、混合することにより塗布可能な均一かつ流動性のあるスラリーが得られた。このスラリーを厚さ18μmの銅箔上に塗布、90℃のホットプレート上で10分乾燥し電極が得られた。電極表面には凝集物等は見られなかった。
【0052】
得られた電極を17mmφに打ち抜き、この電極を作用極、リチウム金属を対極とする2極セルを作製し、作用極、180μmのガラスマット、リチウム金属を積層し、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを3:7の重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLiPFを溶解した溶液を電解液として注液し、その直後のリチウム金属に対する作用極(プリドープした材料よりなる電極)の電位を測定した。本実施例ではリチウム金属に対し300mVであった。リチウムをドープしないPAHsの電位はリチウム金属に対し約3Vであり、組み立て直後に300mVを示したことから、上記プリドープ方法によりPAHsにリチウムがドープされていたことが確認された。
【0053】
(実施例2)
実施例1に記載のPAHs、アセチレンブラックを170℃で10時間真空乾燥した後、水分100ppm以下のドライエアー中で、PAHs5g、アセチレンブラック0.5gを混合し、水分30ppm以下のプロピレンカーボネート(沸点242℃)7.7gを加え、自公転ミキサー(シンキー製:あわとり練太郎AR−250:容器100ml)を用いて混練混合した。容器にジルコニア製ボール(10mmφ)2個を入れ、得られた流動性のある混合物に30μmのリチウム金属箔をカットしたものを約0.07g加え、400G以上の遠心力で混練混合可能な上記自公転ミキサーを用いて自転速度2000rpm、公転速度2000rpmの条件で2分間、混練混合した。リチウム金属の消失を確認しながら、次のリチウム金属箔を約0.07gずつ加え、上記条件で2分間混練混合する操作を繰り返し、総計0.5gのリチウム金属(PAHsの重量に対し380mAh/gに相当)を混練混合した。この混練混合時の温度は40℃程度であり、著しい発熱は見られなかった。終了後、加えたリチウム金属箔はほぼ完全に消失していた。本実施例ではリチウムの小片がごく微量残る状態であったが、380mAh/gという実用的プリドープ量を短時間でプリドープ可能であった。
【0054】
上記、プリドープしたPAHs、アセチレンブラック、プロピレンカーボネートの混合物を17mmφに打ち抜いたステンレスメッシュ上に塗りつけ評価用電極とした。評価用電極を作用極、リチウム金属を対極とする2極セルを作製し、作用極、180μmのガラスマット、リチウム金属を積層し、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを3:7の重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLiPFを溶解した溶液を電解液として注液し、その直後のリチウム金属に対する作用極(プリドープした材料よりなる電極)の電位を測定した。本実施例ではリチウム金属に対し270mVであった。リチウムをドープしないPAHsの電位はリチウム金属に対し約3Vであり、組み立て直後に270mVを示したことから、上記プリドープ方法によりPAHsにリチウムがドープされていたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、リチウムイオン電池の高エネルギー密度化、高出力化あるいはリチウムイオンキャパシタの開発に重要であるリチウムの新規なプリドープ方法を提案するものであり、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをプリドープする工程において、ボールとの衝突、摩擦による混練混合工程を含むとにより、リチウムを短時間に、かつ、均一なプリドープを可能とするものであり、容易に電極製造が可能となる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする方法であって、リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合することによりリチウムをリチウムドープ可能材料にプリドープする工程を含み、前記工程中にボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とするリチウムのプリドープ方法。
【請求項2】
前記リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合する工程において、粘度の高い状態で、ボールとの衝突、摩擦なしに混練混合する工程の後、ボールとの衝突、摩擦による混練混合する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムのプリドープ方法。
【請求項3】
前記リチウムドープ可能材料とリチウム金属を溶剤の存在下において混練混合する工程において、リチウム金属を複数回にわたって加えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムのプリドープ方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のリチウムのプリドープ方法によりリチウムをドープした材料を含む蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極を用いた蓄電デバイス。


【公開番号】特開2012−204306(P2012−204306A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70772(P2011−70772)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成22年9月29日 株式会社KRIのホームページにアップロード (2)平成22年10月15日 日刊工業新聞社発行の「日刊工業新聞」に発表 (3)平成22年11月8日 社団法人電気化学会 電池技術委員会発行の「第51回電池討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】