説明

リチウムの回収方法

【課題】 リンやフッ素等の不純物が含まれていないリチウムを効率的に回収することができるリチウムの回収方法を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出されたリチウムを含有する放電液及び/又は洗浄液にアルカリを添加し、pH9以下、0〜25℃の温度条件で酸性系溶媒抽出剤を接触させてリチウムイオンを抽出する抽出工程と、抽出工程にてリチウムイオンを抽出した酸性系溶媒抽出剤を、pH3以下の酸性溶液と接触させてリチウムイオンを逆抽出する逆抽出工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムの回収方法に関し、特に、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出される放電液や洗浄液に含まれているリチウムを効率的に回収することができるリチウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の地球温暖化傾向に対し、電力の有効利用が求められている。その一つの手段として電力貯蔵用2次電池が期待され、また大気汚染防止の立場から自動車用電源として、大型2次電池の早期実用化が期待されている。また、小型2次電池も、コンピュータ等のバックアップ用電源や小型家電機器の電源として、特にデジタルカメラや携帯電話等の電気機器の普及と性能アップに伴って、需要は年々増大の一途を辿る状況にある。
【0003】
これら2次電池としては、使用する機器に対応した性能の2次電池が要求されるが、一般にリチウムイオン電池が主に使用されている。
【0004】
このリチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極基板に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極基板にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質が固着させた正極材、アルミニウムや銅からなる集電体、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルム製セパレータ、及び電解液や電解質等が封入されている。
【0005】
ところで、リチウムイオン電池の拡大する需要に対して、使用済みのリチウムイオン電池による環境汚染対策の確立が強く要望され、有価金属を回収して有効利用することが検討されている。
【0006】
上述した構造を備えたリチウムイオン電池から有価金属を回収する方法としては、例えば特許文献1及び2に記載されるような乾式処理又は焼却処理が利用されている。しかしながら、これらの方法は、熱エネルギーの消費が大きいうえ、リチウムやアルミニウムを回収できない等の欠点があった。
【0007】
一方で、特許文献3及び4に記載されているように、湿式処理によって有価金属を回収する方法も提案されている。しかしながら、これら湿式処理による方法においては、一部に乾式処理を用いていたり、処理プロセスの複雑さから低コスト化が難しくなる等、有価金属を効率的に回収することができていない。
【0008】
特に、有価金属のリチウムに関しては、リンやフッ素等の不純物が混入してしまう等の問題もあり、品質のよいリチウムを単体の形で効率的に回収することはできていない。つまり、リチウムイオン電池には、有価金属であるリチウムを構成した六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等が電解質として含有されているが、このLiPFは湿式処理を通して加水分解反応が起こりリン酸リチウムやフッ化リチウムの形態で沈殿を形成してしまい、リチウムを単体として効率的に回収することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−207349号公報
【特許文献2】特開平10−330855号公報
【特許文献3】特開平08−22846号公報
【特許文献4】特開2003−157913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、リンやフッ素等の不純物が含まれていないリチウムを効率的に回収することができるリチウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出された放電液及び/又は洗浄液に対して、低温条件下で酸性系溶媒抽出剤を接触混合させて溶媒抽出処理を行うことにより、有価金属であるリチウムを、リンやフッ素等の不純物が混入しない形態で回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出されたリチウムを含有する放電液及び/又は洗浄液にアルカリを添加し、pH9以下、0〜25℃の温度条件で酸性系溶媒抽出剤を接触させてリチウムイオンを抽出する抽出工程と、前記抽出工程にてリチウムイオンを抽出した酸性系溶媒抽出剤を、pH3以下の酸性溶液と接触させてリチウムイオンを逆抽出する逆抽出工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LiPF等の加水分解反応を効果的に抑制して、リンやフッ素等の不純物が含まれていないリチウムを効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出された放電液及び/又は洗浄液から、溶媒抽出処理によりリチウムを回収する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るリチウムの回収方法について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.本発明の概要
2.リチウムイオン電池からの有価金属回収方法
2−1.ニッケル及びコバルトの回収
2−2.リチウムの回収
3.他の実施形態
4.実施例
【0016】
<1.本発明の概要>
本発明は、リチウムイオン電池から有価金属であるリチウムを回収する方法であって、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出された放電液や洗浄液に含まれるリチウムを、リン(P)やフッ素(F)等の不純物の混入を防止して、効率的に回収する方法である。
【0017】
リチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたり、放電液を用いて使用済みのリチウムイオン電池を放電する処理や、洗浄液を用いて電池解体物を洗浄する処理等が行われる。これらの処理後の放電液や洗浄液には、リチウムイオン電池を構成する電解質の成分であるLiPF等の形態でリチウムが含有されている。したがって、このような放電液や洗浄液等の処理液から、リチウムを効率的に回収し、回収した高品位のリチウムを電解質成分として再利用することが望ましい。
【0018】
しかしながら、LiPFは室温より高い温度条件で加水分解反応が起こり、リン酸塩(LiPO)やフッ化物(LiF)の沈殿を形成してしまうため、放電液や洗浄液に対して水溶性炭酸塩等を添加して炭酸リチウムの沈殿を形成させようとしても、その沈殿物中には、リンやフッ素を多く含んだものとなってしまう。このようなリチウムは、リンやフッ素により汚染されたために再度、正極活物質の成分として活用することはできない。
【0019】
そこで、本発明では、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出された放電液及び/又は洗浄液にアルカリを添加して、pH9以下、0〜25℃の低温の温度条件で酸性系溶媒抽出剤を接触させてリチウムイオンを抽出し、リチウムイオンを抽出した酸性系溶媒抽出剤を、pH3以下の酸性溶液と接触させてリチウムイオンを逆抽出することによって、リチウムイオンを水溶液中に取り込む。このように本発明では、pH9以下、0〜25℃の低温の温度条件下で酸性系溶媒抽出剤を用いて溶媒抽出処理を行うようにしていることから、LiPFの加水分解を抑制して、リンやフッ素が混入していない、純度の高いリチウムを回収することができる。
【0020】
以下、本発明を適用した、リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法に関する実施形態(以下、「本実施の形態」という。)についてさらに詳細に説明する。
【0021】
<2.リチウムイオン電池からの有価金属回収方法>
まず、本実施の形態におけるリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法を、図1に示す工程図を参照して以下に説明する。図1に示すように、有価金属の回収方法は、放電工程と、破砕・解砕工程と、洗浄工程と、正極活物質剥離工程と、浸出工程と、硫化工程とを有し、そしてリチウムを回収する方法として、上述した放電工程及び洗浄工程からそれぞれ排出された放電液及び/又は洗浄液を用いて溶媒抽出を行う溶媒抽出工程と、抽出液からリチウムイオンを逆抽出する逆抽出工程とを有する。以下では、リチウムイオン電池からニッケル及びコバルトを回収する工程、並びにその工程において排出される放電液と洗浄液からリチウムを回収する工程について説明する。
【0022】
<2−1.ニッケル及びコバルトの回収>
(放電工程)
放電工程では、使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたって使用済み電池を解体するに先立ち、電池を放電させる。後述する破砕・解砕工程で電池を破砕・解砕することによって解体するに際して、電池が充電された状態では危険であることから、放電させて無害化する。
【0023】
この放電工程では、硫酸ナトリウム水溶液や塩化ナトリウム水溶液等の放電液を用い、使用済みの電池をその水溶液中に浸漬させることによって放電させる。この放電液は、この放電処理の後に排出されることになるが、排出された放電液には放電処理に伴ってリチウムイオン電池を構成する電解質や電解液の成分が溶出されている。すなわち、電解質や電解液等のリチウムを含む成分を含有した処理後の放電液が排出されることとなる。
【0024】
(破砕・解砕工程)
破砕・解砕工程では、放電して無害化させた使用済みのリチウムイオン電池を破砕・解砕することによって解体する。
【0025】
この破砕・解砕工程では、無害化させた電池を、通常の破砕機や解砕機を用いて適度な大きさに解体する。また、外装缶を切断し、内部の正極材や負極材等を分離解体することもできるが、この場合は分離した各部分をさらに適度な大きさに切断することが好ましい。
【0026】
(洗浄工程)
洗浄工程では、破砕・解砕工程を経て得られた電池解体物を、水又はアルコールで洗浄することにより、電解液及び電解質を除去する。リチウムイオン電池には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の有機溶剤や、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)のような電解質が含まれている。そのため、これらを予め除去することで、後述する正極活物質剥離工程での浸出液中に有機成分やリン(P)やフッ素(F)等が不純物として混入することを防ぐ。
【0027】
電池解体物の洗浄には水又はアルコールを使用し、振盪又は撹拌して有機成分及び電解質を除去する。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合液等を用いる。カーボネート類は一般的には水に不溶であるが、電解液成分である炭酸エチレンは水に任意に溶け、その他の有機成分も水に多少の溶解度を有しているため、水でも洗浄可能である。
【0028】
電池解体物の洗浄は、複数回繰り返して行うことが好ましく、この洗浄工程により、有機成分及び電解質に由来するリンやフッ素等を後工程に影響を及ぼさない程度にまで除去する。
【0029】
この洗浄工程では、上述した水やアルコールを用いた洗浄により、電池に含まれていた電解液や電解質が除去されることから、例えばLiPF等の電解質や炭酸エチレンや炭酸ジエチル等の電解液が含まれた洗浄液が、処理後に排出されることとなる。すなわち、電解質や電解液等のリチウムを含む成分を含有した処理後の洗浄液が排出されることとなる。
【0030】
(正極活物質剥離工程)
正極活物質剥離工程では、洗浄工程を経て得られた電池解体物を、硫酸水溶液等の酸性溶液や界面活性剤を含有した水溶液に浸漬させることにより、その正極基板から正極活物質を剥離して分離する。この工程にて電池解体物を硫酸水溶液等の酸性溶液や界面活性剤溶液に投入して撹拌することにより、正極活物質とアルミニウム箔を固体のままで分離することができる。なお、この工程では、電池解体物全てを硫酸水溶液や界面活性剤溶液に浸漬してもよいが、電池解体物から正極材部分だけを選び出して浸漬してもよい。
【0031】
酸性溶液として、例えば硫酸水溶液を使用する場合、その溶液のpHはpH0〜3の範囲に制御する。硫酸水溶液に対する電池解体物の投入量としては、10〜100g/lとする。また、界面活性剤含有溶液を用いる場合、その使用する界面活性剤の種類としては、特に限定されず、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等を用いることができる。界面活性剤の添加量としては1.5重量%〜10重量%とし、また界面活性剤の溶液のpHとしては中性とする。
【0032】
正極活物質剥離工程を終了した電池解体物は、篩い分けして、正極基板から分離したニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質、及びこれに付随するものを回収する。電池解体物全てを処理した場合には、負極活物質である黒鉛等の負極粉、及びこれに付随するものも回収する。一方、正極基板や負極基板の部分、アルミニウムや鉄等からなる外装缶部分、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルムからなるセパレータ部分、及びアルミニウムや銅(Cu)からなる集電体部分等は、分離して各処理工程に供給する。
【0033】
この正極活物質剥離工程では、上述した酸性溶液や界面活性剤含有溶液等を用いて電池解体物から正極活物質を剥離することにより、正極活物質やアルミニウム箔等の固形分が分離され、一方で固形分以外の、剥離処理に用いた酸性溶液や界面活性剤溶液等の処理液がろ液として排出される。このろ液には、洗浄工程で除去されなかった電解質や電解液等が溶解して含有されることがある。
【0034】
(浸出工程)
浸出工程では、正極活物質剥離工程にて剥離回収された正極活物質を、固定炭素含有物や還元効果の高い金属等の存在下で、酸性溶液で浸出してスラリーとする。この浸出工程によって、正極活物質を酸性溶液に溶解して、正極活物質を構成する有価金属であるニッケルやコバルト等を金属イオンとする。
【0035】
正極活物質の溶解に用いる酸性溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の鉱酸のほか、有機酸等を使用することができる。また、使用する酸性溶液のpHは、少なくとも2以下とし、反応性を考慮すると0.5〜1.5程度に制御することが好ましい。
【0036】
(硫化工程)
硫化工程では、浸出工程を経て得られた溶液を反応容器に導入し、硫化剤を添加することによって硫化反応を生じさせ、ニッケル・コバルト混合硫化物を生成することによって、リチウムイオン電池から有価金属であるニッケル、コバルトを回収する。硫化剤としては、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウム等の硫化アルカリを用いることができる。
【0037】
具体的に、この硫化工程では、浸出工程を経て得られた溶液中に含まれるニッケルイオン(又はコバルトイオン)が、下記(1)式又は(2)式に従って、硫化アルカリによる硫化反応により、硫化物となる。
Ni2+ + NaHS ⇒ NiS + H + Na ・・・(1)
Ni2+ + NaS ⇒ NiS + 2Na ・・・(2)
【0038】
硫化工程における硫化剤の添加は、それ以上に硫化剤を添加しても反応溶液中のORPの変動がなくなる時点まで行う。また、硫化反応に用いる溶液のpHとしては、pH2〜4程度とする。また、硫化反応の温度としては、特に限定されるものではないが、70〜95℃とし、好ましく80℃程度とする。
【0039】
このように、硫化工程における硫化反応を生じさせることにより、リチウムイオン電池の正極活物質に含まれていた有価金属であるニッケル、コバルトを、ニッケル・コバルト硫化物(硫化澱物)として回収することができる。
【0040】
以上説明したように、リチウムイオン電池からニッケル及びコバルトを回収するにあたって、その放電工程から放電処理に用いた放電液や、洗浄工程から電池解体物を洗浄して電解質や電解液を洗浄するために用いた洗浄液が排出される。これら処理後に排出された放電液や洗浄液には、リチウムイオン電池を構成するLiPF等の電解質が含まれており、その放電液や洗浄液から、リンやフッ素等の不純物を混入させることなく効率的にリチウムを回収することが望ましい。
【0041】
<2−2.リチウムの回収>
そこで、本実施の形態においては、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出されリチウムを含有する放電液及び/又は洗浄液を、低温に保持しながら酸性系溶媒抽出剤に接触させて溶媒抽出処理を行う。これにより、処理後の放電液や洗浄液に含まれたLiPFが加水分解されてLiPOやLiFの沈殿を形成することを抑制しながら、リチウムイオンを効率的に抽出することができる。
【0042】
具体的に、本実施の形態のおけるリチウムの回収方法は、リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出されリチウムを含有した放電液及び/又は洗浄液にアルカリを添加し、pH9以下、0〜25℃の低温の温度条件で酸性系溶媒抽出剤を接触させてリチウムイオンを抽出する抽出工程と、抽出工程にて得られた酸性系溶媒抽出剤をpH3以下の酸性溶液に接触させてリチウムイオンを逆抽出する逆抽出工程とを有する。
【0043】
(溶媒抽出工程)
溶媒抽出工程では、上述したリチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出された放電液及び/又は洗浄液から、溶媒抽出処理によりリチウムイオンを抽出する。本実施の形態においては、特に、その放電液及び/又は洗浄液を、酸性系溶媒抽出剤を用いて低温の温度条件下で溶媒抽出する。
【0044】
溶媒抽出の対象となる放電液は、上述したように、リチウムイオン電池から有価金属を回収するにあたって放電処理するために用いられた放電液であり、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等の溶液である。この放電液を用いて使用済みのリチウムイオン電池に対して放電処理を行うことによって、放電処理後の排出された放電液中には、リチウムイオン電池を構成しているLiPF等の電解質成分が含有されることとなる。つまり、この処理後の放電液にはリチウムが含有されていることとなる。
【0045】
また、溶媒抽出の対象となる洗浄液は、上述したように、使用済みのリチウムイオン電池を破砕・解砕した後の電池解体物を洗浄するために用いられた洗浄液であり、水やアルコール等の溶液である。この洗浄液を用いて電池解体物を洗浄することによって、電池解体物に含まれる電解質や電解液が除去され、処理後に排出された洗浄液中には、LiPF等の電解質成分が含有されることとなる。つまり、この処理後の洗浄液にはリチウムが含有されていることとなる。
【0046】
これら放電液や洗浄液は、回収後にそのまま用いて溶媒抽出処理を行ってもよいが、溶媒抽出処理に先立って、水を用いて逆抽出処理を行うようにしてもよい。すなわち、回収後の放電液や洗浄液を水で洗浄する処理を行ってもよい。このようにして、回収した放電液や洗浄液を、先ず水で逆抽出することにより、懸濁しているLiPOやLiF等の沈殿物を洗浄除去することができる。これにより、回収するリチウムが、リンやフッ素によって汚染されることをより効果的に防止できるとともに、沈殿物がリチウムを回収する際の障害になることを防止でき、リチウムをより効率的に回収することが可能となる。
【0047】
酸性系溶媒抽出剤としては、例えば、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル、ジ(2−エチルヘキシル)ホスホン酸、ビス(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスホン酸、フェニルアルキルベータジケトンとトリオクチルホスフィンオキシドの混合物等を用いることができる。その中でも特に、弱いアルカリ性の条件下で抽出可能なジ(2−エチルヘキシル)ホスホン酸を用いることが好ましい。LiPFは、アルカリ性の環境下においても分解反応が起こり、リン酸塩やフッ化物等の沈殿を形成するため、低いpH条件で効率的に抽出することが好ましい。
【0048】
この溶媒抽出工程において添加するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を用いることができる。この溶媒抽出工程では、このアルカリを添加することにより、リチウム含有する放電液及び/又は洗浄液をpH9以下、より好ましくはpH4〜9に調整し、上述の酸性系溶媒抽出剤を用いて溶媒抽出処理を行う。このように、pH9以下に調整することにより、LiPFの分解反応を効果的に抑制して、溶媒抽出処理を行うことができる。
【0049】
この溶媒抽出工程において用いる酸性系溶媒抽出剤は、アルカリ性領域において金属イオンを抽出し、抽出後pHを酸性側にすることによりHとのイオン交換を生じさせて、抽出された金属イオンを放出するという特徴を有する。したがって、本実施の形態では、アルカリの添加によりアルカリ性領域でリチウムイオンを抽出した酸性系溶媒抽出剤を、酸性に調整した水溶液と接触させることにより、最初に抽出したリチウム含有溶液の濃度(数g/l程度)よりも高い濃度でリチウムイオンを水溶液に逆抽出することができる。特に、本実施の形態においては、上述のように、pH9以下の条件で溶媒抽出処理することにより、LiPFの分解反応を効果的に抑制しながら、効率的にリチウムイオンの抽出を行うことができる。
【0050】
また、本実施の形態においては、この溶媒抽出工程において、放電液及び/又は洗浄液を0〜25℃の低温の温度条件で溶媒抽出する。より好ましくは、0〜20℃の温度条件で溶媒抽出する。LiPFは、高い温度状況下において加水分解反応が進行することから、0〜25℃の低温に保持しながら溶媒抽出を行う。これにより、LiPFの加水分解反応をより一層効果的に抑制し、LiPOやLiFの沈殿が形成されることを防止することができ、リンやフッ素による汚染のないリチウムイオンを抽出することができる。
【0051】
(逆抽出工程)
逆抽出工程では、溶媒抽出工程にて抽出した酸性系溶媒抽出剤を、pH3以下の酸性溶液と接触させてリチウムイオンを逆抽出することによってリチウムイオンを水溶液中に取り込む。
【0052】
この逆抽出工程では、上述の溶媒抽出工程において用いた酸性系溶媒抽出剤のpHを酸性側にすることによってリチウムイオンとHとのイオン交換を生じさせ、金属イオンを放出させて水溶液中に取り込む。
【0053】
また、この逆抽出工程では、抽出工程においてリチウムイオンと共に抽出されたLiPFを分解し、より多くのリチウムイオンを逆抽出して水溶液中に取り込む。すなわち、上述した溶媒抽出工程においては、酸性系溶媒抽出剤を用いて抽出処理を行うことによりリチウムイオンが抽出されるが、このとき、エントレイメント等の影響により、リチウムイオンと共にLiPFが抽出剤に抽出されることとなる。溶媒抽出処理においては、0〜25℃の低温条件でLiPFが加水分解されることを防止していることから、残存したLiPFがリチウムイオンと共に抽出されることとなる。そこで、この逆抽出工程において酸性溶液により抽出剤を洗浄することにより、抽出されたLiPFをLiとPFとに分離させて、リチウムイオンのみを逆抽出する。
【0054】
本実施の形態においては、このようにして抽出工程において抽出処理を行った酸性系溶媒抽出剤を酸性溶液に接触させることにより、リチウムイオンを含む水溶液を得るとともに、効果的にリンやフッ素を含有した化合物を分解し、高濃度のリチウムイオン含有水溶液を得ることができる。
【0055】
酸性溶液としては、硫酸溶液や塩酸溶液等を用いることができ、この酸性溶液のpHを3以下に調整して酸性系溶媒抽出剤と接触させる。
【0056】
また、この逆抽出工程においても、0〜25℃の低温の温度条件で逆抽出処理を行うことが好ましい。このようにして抽出処理及び逆抽出処理における温度条件を0〜25℃の低温に保持しながら行うことにより、抽出されたLiPFが加水分解してLiPOやLiFの沈殿を形成することを防止することができる。
【0057】
このように、この逆抽出工程では、抽出工程においてリチウムを含有した放電液及び/又は洗浄液からリチウムイオンを抽出した酸性系溶媒抽出剤を、pH3以下の酸性溶液と接触させることにより、抽出したリチウムイオンを水溶液中に取り込むことができる。そしてまた、リチウムイオンと共に抽出されたLiPFを、LiとPFとに分離することができ、リンやフッ素による汚染を防止しながら、より高い濃度でリチウムイオンを水溶液中に取り込むことができる。
【0058】
なお、この逆抽出工程では、逆抽出側の水溶液を繰り返し使用して、上述した逆抽出操作を繰り返すことによって、水溶液中のリチウムイオン濃度を濃縮することができる。また、pHを正確に制御することで抽出率や逆抽出率を制御することができ、水溶液中の最終的なリチウムイオン濃度をコントロールすることも可能となる。
【0059】
(炭酸塩固定工程)
なお、上述した逆抽出工程にて得られたリチウムイオンを含む逆抽出液に、炭酸ガス又は水溶性炭酸塩を添加して混合攪拌し、炭酸リチウムを析出させるようにしてもよい。このようにして、炭酸塩固定工程として、リチウムイオンを含む抽出液に炭酸ガス又は水溶性炭酸塩を添加することにより、抽出したリチウムを固体として回収することができる。
【0060】
水溶性炭酸塩としては、炭酸ナトリウム溶液や炭酸カルシウム溶液等を用いることができる。また、その水溶液炭酸塩の濃度としては、100〜200g/lとする。
【0061】
この炭酸リチウム析出工程では、リチウムイオンを含有する逆抽出液の温度を60〜80℃とすることが好ましい。リチウムの炭酸塩である炭酸リチウムは、他の塩とは溶解性が異なり、水溶液の温度が高くなると急激に溶解度が低下する。このため、高濃度リチウムイオン水溶液の温度を60℃以上に高めることによって、溶解度の高い硫酸ナトリウム等の他の塩よりも炭酸リチウムの溶解度が低くなり、炭酸リチウムを選択的に結晶として沈殿することができ、高純度の炭酸リチウム固体を得ることができる。なお、高濃度リチウムイオン水溶液の温度は高い方がよいが、一般的に80℃より高くとなると反応槽や周辺装置の耐熱性の観点から操作が難しくなったりコスト増になることから、60〜80℃とすることが好ましい。
【0062】
<3.他の実施形態>
本発明は、上述した実施の形態に限れられるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更することができる。
【0063】
具体的には、リチウムイオン電池からの有価金属回収工程としては上述したものに限られるものではなく、他の工程を含んでいてもよい。
【0064】
また、上述した処理後の放電液や洗浄液と共に、正極活物質剥離工程から排出されたろ液を含めて溶媒抽出処理を行い、リチウムを回収するようにしてもよい。すなわち、正極活物質剥離工程では、正極活物質やアルミニウム箔等の固形分が分離される一方で、固形分以外の剥離処理に用いた酸性溶液や界面活性剤溶液等の処理液がろ液として排出される。このろ液には、洗浄工程で除去されなかった電解質や電解液等が溶解して含有されていることがあることから、このろ液を溶媒抽出対象としてリチウム回収処理を行ってもよい。
【実施例】
【0065】
<4.実施例>
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(リチウムイオン電池からの有価金属の回収工程)
まず、処理中に発火等の危険を避けるため、使用済みのリチウムイオン電池を、放電液である塩化ナトリウム(NaCl)水溶液100g/Lに浸漬して放電状態とした。この放電処理の後、排出された放電液を回収した。そして、放電済のリチウムイオン電池を、二軸破砕機により1cm角以下の大きさに解体し電池解体物を得た。
【0067】
次に、得られた電池解体物を水で洗浄して電池解体物に含まれる電解液や電解質を除去した。洗浄処理後、電解液や電解質が含まれた洗浄液(水)が排出された。
【0068】
一方、洗浄処理後の電池解体物からスクリーンで分離した固形分は、界面活性剤であるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(エマルゲンシリーズ 花王株式会社製)を1.8重量%含有する水を添加し、攪拌による剥離操作を行って正極活物質を回収した。
【0069】
剥離した正極活物質を硫酸(HSO)水溶液で浸出して有価金属であるニッケル及びコバルトを浸出させた。得られた浸出液に、硫化ナトリウム(NaS)を硫化剤として添加し、ニッケル及びコバルトの混合硫化物を得た。
【0070】
(放電液及び洗浄液からのリチウム回収操作)
(実施例1)
上述した使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収する操作においては、放電処理に用いられた放電液や洗浄処理に用いられた洗浄液が、処理工程を経た後に排出された。
【0071】
これら処理後の放電液や洗浄液には、電解質を構成する化合物に由来するリチウムが含有されているため、この放電液及び洗浄液の混合液を、ジ(2−エチルヘキシル)ホスホン酸(D2EHPA、バイエル株式会社製)を用いて溶媒抽出処理を行った。この溶媒抽出処理においては、処理液に8mol/l水酸化ナトリウム溶液を添加して抽出処理液のpHを8に調整した。また、温度を20℃に調整して行った。
【0072】
溶媒抽出後、抽出剤であるD2EHPAを、pH3に調整した硫酸溶液に接触混合させて逆抽出処理を行った。なお、温度を20℃に調整して行った。
【0073】
逆抽出操作を行って得られた硫酸リチウム溶液に、濃度200g/lの炭酸ナトリウム水溶液を滴下混合し、温度を60℃に調整して、炭酸リチウムの結晶を析出させた。
【0074】
得られた炭酸リチウムの結晶を分析したところ、リチウム以外の成分は1%以下であり、リンやフッ素の成分は、検出下限(1mg/l)以下であった。
【0075】
(比較例1)
使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収する操作において排出されリチウムを含有する放電液と洗浄液との混合液に、直接炭酸ナトリウム水溶液を添加して沈殿を形成させた。
【0076】
得られた沈殿を分析したところ、リンやフッ素が相当量含まれており、汚染されたリチウムしか回収できず、再度正極活物質を製造するために利用できる品位には至らなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池から有価金属を回収する工程において排出されたリチウムを含有する放電液及び/又は洗浄液にアルカリを添加し、pH9以下、0〜25℃の温度条件で酸性系溶媒抽出剤を接触させてリチウムイオンを抽出する抽出工程と、
前記抽出工程にてリチウムイオンを抽出した酸性系溶媒抽出剤を、pH3以下の酸性溶液と接触させてリチウムイオンを逆抽出する逆抽出工程と
を有するリチウムの回収方法。
【請求項2】
前記抽出工程では、水で洗浄した放電液及び/又は洗浄液を用いることを特徴とする請求項1記載のリチウムの回収方法。
【請求項3】
前記逆抽出工程の温度条件を0〜25℃とすることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムの回収方法。
【請求項4】
前記酸性系溶媒抽出剤は、ジ(2−エチルヘキシル)ホスホン酸であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のリチウムの回収方法。
【請求項5】
さらに、前記逆抽出工程にて得られたリチウムイオンを含む逆抽出液に炭酸ガス又は水溶性炭酸塩を添加し、炭酸リチウムを析出させる炭酸リチウム析出工程を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1記載のリチウムの回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−41621(P2012−41621A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186257(P2010−186257)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】