説明

リチウムイオン二次電池、及びその製造方法

【課題】熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、ケース内に位置し、リチウムイオン二次電池の通常使用温度範囲の最高温度より高く、正極活物質153の分解温度より低い温度で脱離する第1結合水161であって、第1結合水161に由来する第1由来ガスを発生する第1結合水161を含んでいる。第1結合水161の含有量を、リチウムイオン二次電池の温度が、通常使用温度範囲の最高温度を超えてから正極活物質153の分解温度に達する前に、ケース内の第1結合水161及び他のガスによりケースの内圧が開弁圧Pに達する量としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ポータブル機器や携帯機器などの電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。ところが、リチウムイオン二次電池では、何らかの異常で電池温度が上昇し過ぎると、電池温度が急上昇して過昇温(例えば、200℃以上)に至る熱暴走が生じ、発煙等する危険性がある。また、過充電により電池電圧が上昇し過ぎた場合にも、熱暴走により発煙等する危険性がある。かかる問題を解決すべく、近年、様々なリチウムイオン二次電池やその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−306510号公報
【0004】
特許文献1では、内圧上昇に応じて作動する感圧電流遮断機構を設けると共に、炭酸塩を電池缶(ケース)の内部に配置したリチウムイオン二次電池を提案している。感圧電流遮断機構は、感圧板20により構成されており、充電の際、過充電により電池内圧が上昇すると、感圧板20が内圧により変形することで、電池内部への導通経路を遮断し、その後の充電を防止する機構である。特許文献1では、さらに、電池缶(ケース)の内部に炭酸塩を配置しているので、過充電により電池電圧が上昇すると、この炭酸塩が分解することで、電池缶(ケース)の内部にガスを発生させることができる。このガスにより電池内圧を速やかに上昇させ、速やかに感圧板20を変形させて、電池内部への導通経路を遮断できることが記載されている。これにより、リチウムイオン二次電池の発煙等を防止することができると記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウムイオン二次電池では、充電時に限らず、何らかの原因で電池温度が異常上昇すると、熱暴走により発煙等する危険性がある。これに対し、特許文献1で提案されているリチウムイオン二次電池は、過充電の際に炭酸塩の分解により発生するガスで、電池内圧を上昇させるものである。このため、過充電以外の原因で電池温度が異常昇温する場合には、炭酸塩の分解反応が十分に進まず、電池内圧を速やかに上昇させることができなかった。従って、炭酸塩を電池缶(ケース)の内部に配置する手法では、熱暴走に起因する発煙等を十分に防止することができなかった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その解決手段は、正極活物質を含む正極合材を備える正極板、負極板、及びセパレータを有する電極体と、上記電極体を収容するケースと、上記ケースを封止する安全弁であって、上記ケースの内圧と外気圧との差圧が所定の開弁圧に達すると、上記ケースの封止を開放して上記ケース内のガスを排出する安全弁と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、上記ケース内に、上記リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、上記正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水であって、脱離により当該第1結合水に由来する第1由来ガスを発生する第1結合水を含み、上記第1結合水の含有量を、上記リチウムイオン二次電池の温度が、上記通常使用温度範囲の最高温度を超えた後で、且つ上記正極活物質の分解温度に達する前に、上記ケース内の上記第1由来ガス及び他のガスにより上記ケースの内圧と外気圧との差圧が上記開弁圧に達する量としてなるリチウムイオン二次電池である。
【0008】
リチウムイオン二次電池では、その温度が正極活物質の分解温度にまで上昇すると、正極活物質の分解反応により、電池温度が急上昇して過昇温(例えば、200℃以上)に至る熱暴走が生じ、発煙等する危険性がある。
【0009】
これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池は、ケース内に位置し、正極活物質の分解温度より低い温度で脱離する第1結合水であって、脱離によりこの第1結合水に由来する第1由来ガスを発生する第1結合水を含んでいる。そして、この第1結合水の含有量を、リチウムイオン二次電池の温度が、通常使用温度範囲の最高温度を超えてから正極活物質の分解温度に達する前に、ケース内の第1由来ガス及び他のガスによりケースの内圧を上昇させて、ケースの内圧と外気圧との差圧(ケースの内圧から外気圧を差し引いた差圧)が開弁圧に達する量としている。
【0010】
従って、リチウムイオン二次電池の温度が、通常使用温度範囲を超えて上昇しても、正極活物質の分解温度にまで上昇する前に、ケースの内圧を、外気圧との差圧が開弁圧に達するまで上昇させ、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。これにより、熱暴走を防止して、速やかに電池温度を低下させることができる。従って、本発明のリチウムイオン二次電池は、熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【0011】
なお、正極活物質の分解温度は、正極活物質の種類によって異なるが、例えば、LiNiO2系の正極活物質では約170℃である。ここで、LiNiO2系の正極活物質としては、LiNiO2のほか、そのNiの一部をCo,Alで置換したLiNi0.81Co0.16Al0.032等を例示できる。その他、Niの一部を、Mg,Ti,Cr,Mn,Fe,Cu,Zn,Ga,Nbから選ばれた少なくとも1種の金属元素で置換した材料を例示することができる。
【0012】
また、LiCoO2系の正極活物質では、その分解温度は約200℃である。ここで、LiCoO2系の正極活物質としては、LiCoO2のほか、LiとCoとのモル比(Liのモル数/Coのモル数)が1よりも大きくなる組成の材料を例示することができる。また、LiMn24系の正極活物質では、その分解温度は約280℃である。
【0013】
ところで、リチウムイオン二次電池では、正極活物質としてLiを含有した遷移金属酸化物を用い、負極活物質としてリチウムイオンを挿入・脱離できる材料(カーボン等)を用い、電解質としてLiPF6等のリチウム塩を用い、溶媒としてエチレンカーボネート等の有機溶媒を用いる。これらの材料は、いずれも水との反応性が高いため、電池内に水が存在する場合には、例えば、負極において、リチウムと水が反応することでリチウムが消費され、電池容量等の電池特性が著しく低下する虞がある。
【0014】
これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池では、第1結合水の脱離温度を、電池の通常使用温度範囲の最高温度より高い温度としている。このため、通常、リチウムイオン二次電池を使用する環境下において、第1結合水が脱離することがない。従って、通常、リチウムイオン二次電池を使用している間に、正極活物質と第1結合水との反応により、電池特性が著しく低下してしまう虞はない。
【0015】
なお、リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度は、電池の種類、用途により異なる。例えば、LiNiO2系の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池では、通常80℃程度まで温度が上昇するが、使用環境などにより電池の温度上昇は変動する。このため、LiNiO2系の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池では、第1結合水の脱離温度を、100℃以上に設定するのが好ましい。
【0016】
また、第1結合水は、ケース内であれば、正極板(正極活物質など)等、いずれの部材に結合していても良い。
また、第1結合水に由来する「第1由来ガス」としては、例えば、第1結合水自身が気化した水蒸気や、電解液と第1結合水との反応により生成されたCO2などを挙げることができる。
【0017】
他の解決手段は、正極活物質を含む正極合材を備える正極板、負極板、及びセパレータを有する電極体と、上記電極体を収容するケースと、上記ケースを封止する安全弁であって、上記ケースの内圧と外気圧との差圧が所定の開弁圧に達すると、上記ケースの封止を開放して上記ケース内のガスを排出する安全弁と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、上記ケース内に、上記リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、上記正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水を含み、上記ケース内の空隙部の体積をV(cm3)、上記開弁圧をP(MPa)、上記第1結合水の含有量をW(g)としたとき、W>7.93×10-3×V×Pの関係を満たすリチウムイオン二次電池である。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池では、ケース内に、当該電池の通常使用温度範囲の最高温度より高く、正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水を含んでいる。しかも、この第1結合水の含有量W(g)が、W>7.93×10-3×V(ケース内の空隙部の体積)×P(開弁圧)の関係を満たすようにしている。ケース内にこのような量の第1結合水を含有させることで、電池温度が通常使用温度範囲を超えて上昇しても、正極活物質の分解温度にまで上昇する前に、第1由来ガスにより、ケースの内圧を外気圧との差圧が開弁圧Pに達するまで上昇させることで、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。これにより、熱暴走が生じることなく、まもなく電池温度を低下させることができる。従って、本発明のリチウムイオン二次電池は、熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【0019】
なお、W>7.93×10-3×V×Pの関係式は、次のようにして導くことができる。水の分子量は18、1気圧での気体分子1モルが占める体積は22.4×103(cm3)である。従って、第1結合水の含有量をW(g)とすると、脱離した第1結合水に由来するガス(例えば、水蒸気など)の体積(cm3)は、1気圧(0.1013MPa)において、(W/18)×22.4×103程度となる。従って、ケース内の空隙部の体積をV(cm3)、ケース内での第1結合水に由来するガス(水蒸気)の分圧をP1(MPa)とすると、ボイルの法則より、P1×V=0.1013×(W/18)×22.4×103という関係式が成り立つ。この式を変形すると、P1=(W/18)×22.4×103×0.1013/Vとなる。しかるに、P1が開弁圧P(MPa)を上回れば、すなわち、(W/18)×22.4×103×0.1013/V>P(式1とする)の関係を満たせば、確実に、安全弁によるケースの封止を開放することができる。(式1)を変形して、W>7.93×10-3×V×Pの関係式を導くことができる。
【0020】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記第1結合水を、前記正極合材に結合させて含んでなるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合材(正極活物質など)に第1結合水を結合させている。これにより、正極合材に結合させた第1結合水を、適切に、前述の所定温度範囲で脱離させ、第1由来ガスを発生させることができる。
【0022】
他の解決手段は、正極活物質を含む正極合材を備える正極板、負極板、及びセパレータを有する電極体と、上記電極体を収容するケースと、上記ケースを封止する安全弁であって、上記ケースの内圧と外気圧との差圧が所定の開弁圧に達すると、上記ケースの封止を開放して上記ケース内のガスを排出する安全弁と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、上記リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、上記正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水を、上記正極合材に結合させて含み、上記正極合材における上記第1結合水の含有量は、重量換算で1500ppm以上であるリチウムイオン二次電池である。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合材に結合し、当該電池の通常使用温度範囲の最高温度より高く、正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水を含んでいる。さらに、正極合材における第1結合水の含有量を、重量換算で1500ppm以上としている。このような割合で第1結合水を含有させることで、電池温度が通常使用温度範囲を超えて上昇しても、正極活物質の分解温度にまで上昇する前に、ケースの内圧を、外気圧との差圧が開弁圧に達するまで上昇させ、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。
【0024】
具体的には、リチウムイオン二次電池の温度が、通常使用温度範囲の最高温度を超えてから正極活物質の分解温度に達する前に、第1結合水に由来するガス及びケース内の他のガスにより、ケースの内圧と外気圧との差圧が開弁圧に達し、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。これにより、熱暴走を防止して、速やかに電池温度を低下させることができる。従って、本発明のリチウムイオン二次電池は、熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【0025】
しかも、本発明のリチウムイオン二次電池では、第1結合水の脱離温度を、当該電池の通常使用温度範囲の最高温度より高い温度としている。このため、通常、リチウムイオン二次電池を使用する環境下において、第1結合水が脱離することがない。従って、通常、リチウムイオン二次電池を使用している間に、正極活物質と第1結合水との反応により、電池特性が著しく低下してしまう虞はない。
【0026】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記通常使用温度範囲内の温度で脱離する第2結合水を、前記正極合材に結合させて含んでなり、上記正極合材における上記第2結合水の含有量は、重量換算で2200ppm未満であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池では、通常使用温度範囲内の温度で脱離する第2結合水の含有量を、正極合材における重量換算で、2200ppm未満に抑制している。これにより、通常、リチウムイオン二次電池を使用している間、正極活物質と水との反応を抑制し、電池特性の低下(電池のIV抵抗値の上昇)を抑制することができる。
【0028】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記正極活物質は、LiNiO2系の正極活物質であり、前記第1結合水は、100℃より高く170℃より低い温度の範囲で脱離する水であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0029】
本発明のリチウムイオン二次電池では、正極活物質として、LiNiO2系の正極活物質を有している。LiNiO2系の正極活物質の分解温度は約170℃であるため、電池温度が170℃まで上昇すると、正極活物質の分解反応により、電池温度が急上昇して過昇温(例えば、350℃程度まで昇温)に至る熱暴走が生じ、発煙等する危険性がある。
【0030】
これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池は、第1結合水が170℃より低い温度で脱離する。これにより、ケース内において170℃未満の温度で第1結合水を脱離させ、脱離した第1結合水に由来するガスを発生させることで、リチウムイオン二次電池の温度が正極活物質の分解温度(約170℃)にまで上昇する前に、ケースの内圧を、外気圧との差圧が開弁圧に達するにまで上昇させ、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。
【0031】
このように、電池温度が正極活物質の分解温度(約170℃)にまで上昇する前に、安全弁によるケースの封止を開放することで、熱暴走を防止して、速やかに電池温度を低下させることができる。従って、本発明のリチウムイオン二次電池は、熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【0032】
しかも、本発明のリチウムイオン二次電池では、第1結合水が100℃(第1結合水の沸点)より高い温度で脱離する。これにより、通常、リチウムイオン二次電池を使用する環境下(100℃以下)において、第1結合水が脱離することがないので、リチウムイオン二次電池を使用している間に、正極活物質と第1結合水との反応により、電池特性が著しく低下してしまう虞はない。
【0033】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、1または複数種類の有機溶媒を有する電解液を含み、前記第1結合水の含有量を、上記リチウムイオン二次電池の温度が、上記1または複数種類の有機溶媒の少なくともいずれかの沸点にまで上昇する前に、前記ケース内の上記第1結合水に由来する第1由来ガス及び他のガスにより上記ケースの内圧と外気圧との差圧が前記開弁圧に達する量としてなるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0034】
リチウムイオン二次電池では、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート等の可燃性の有機溶媒を用いている。このため、電池温度が有機溶媒の沸点を上回ると、ケース内に可燃性ガスが充満し、発煙し易い状態となり危険である。
【0035】
これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池では、第1結合水の含有量を、電池温度が有機溶媒(複数種類の有機溶媒を含む場合は、少なくともいずれかの有機溶媒)の沸点にまで上昇する前に、ケース内の第1由来ガス及び他のガスによりケースの内圧と外気圧との差圧が開弁圧に達する量としている。これにより、リチウムイオン二次電池の温度が有機溶媒(複数種類の有機溶媒を含む場合は、少なくともいずれかの有機溶媒)の沸点にまで上昇する前に、ケースの内圧を、外気圧との差圧が開弁圧に達するにまで上昇させ、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。このため、発煙等する危険性を極めて小さくすることができる。
【0036】
例えば、エチレンカーボネート(沸点238℃)、ジメチルカーボネート(沸点90℃)、エチルメチルカーボネート(沸点108℃)の3種類の有機溶媒を含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池では、少なくとも、電池温度がエチレンカーボネートの沸点(238℃)に達する前に安全弁を開放できるように、所定量の第1結合水を含有させると良い。少なくともエチレンカーボネートのガスがケース内に充満するのを防止できるので、発煙等する危険性を小さくすることができる。
【0037】
さらに、電池温度がエチルメチルカーボネートの沸点(108℃)に達する前に、安全弁を開放するとより好ましい。エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートのガスがケース内に充満するのを防止できるので、発煙等する危険性をより一層小さくすることができる。
さらには、電池温度がジメチルカーボネートの沸点(90℃)に達する前に、安全弁を開放するとより好ましい。エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートのガスがケース内に充満するのを防止できるので、発煙等する危険性をより一層小さくすることができる。
【0038】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記正極合材は、炭酸塩により、その表面が被覆されてなるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合材の表面が炭酸塩により被覆されている。このように、正極合材(正極活物質や導電性カーボンなど)の表面を炭酸塩(炭酸リチウムなど)で被覆することで、正極合材と電解液との接触を抑制し、電解液の分解反応を抑制することができる。これにより、正極板の表面に、電解液の分解反応により生成される化合物の被膜が形成されるのを抑制できるので、電池のIV抵抗値(内部抵抗)の上昇を抑制し、電池の出力特性の低下を抑制できる。
【0040】
しかも、正極合材の表面を被覆する炭酸塩は、過充電時に分解し、CO2ガスを生成する。このため、過充電に伴い電池温度が上昇する場合において、速やかに、ケースの内圧を上昇させて、より低い温度で、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。従って、本発明のリチウムイオン二次電池は、信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【0041】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池であって、前記正極板は、前記正極合材の重量を基準として、前記炭酸塩に含まれる炭酸イオンの重量が0.6wt%以上2.5wt%以下となる量の炭酸塩を含むリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合材の重量を基準として、炭酸塩に含まれる炭酸イオンの重量が0.6wt%以上となる量の炭酸塩により、正極合材の表面を被覆している。これにより、適切に、正極合材と電解液との接触を抑制し、電解液の分解反応を抑制することができる。
【0043】
ところで、正極合材を被覆する炭酸塩を増加させるほど、電解液の分解反応を抑制できるが、正極合材を被覆する炭酸塩を増量し過ぎると、炭酸塩によりIV抵抗値(内部抵抗)が大きく上昇し、出力特性を低下させてしまう虞がある。これに対し、本発明のリチウムイオン二次電池では、正極合材を被覆する炭酸塩の量を、その炭酸イオンが正極合材の重量の2.5wt%以下となる量に抑制している。これにより、炭酸塩によるIV抵抗値(内部抵抗)の上昇を抑制できる。
以上より、本発明のリチウムイオン二次電池は、高出力で信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【0044】
他の解決手段は、リチウムイオン二次電池の製造方法であって、少なくとも正極活物質を水(液体)に接触させる工程を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0045】
本発明の製造方法では、正極活物質を水(液体)に接触させる。これにより、リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、正極活物質の分解温度より低い温度で脱離する第1結合水を、正極活物質に結合させることができる。このような正極活物質を用いて製造したリチウムイオン二次電池では、ケース内において正極活物質の分解温度より低い温度で第1結合水を脱離させ、脱離した第1結合水に由来するガスを発生させることができる。
【0046】
このため、リチウムイオン二次電池の温度が通常使用温度範囲を超えて上昇しても、正極活物質の分解温度にまで上昇する前に、ケースの内圧を外気圧との差圧が開弁圧に達するにまで上昇させ、ケースの封止を開放させることが可能となる。これにより、熱暴走を防止して、速やかに電池温度を低下させることが可能となる。従って、本発明の製造方法によれば、熱暴走(過昇温)に起因する発煙等の危険性が抑制された信頼性の高いリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0047】
なお、少なくとも正極活物質を水(液体)に接触させる工程としては、例えば、少なくとも正極活物質と水系バインダ樹脂と水(液体)とを混合し、第1正極ペーストを作製する工程を挙げることができる。また、正極活物質などを水中に浸漬する工程を例示することもできる。
【0048】
また、正極活物質としては、LiNiO2系の正極活物質やLiCoO2系の正極活物質などを例示することができる。LiNiO2系の正極活物質としては、LiNiO2のほか、そのNiの一部をCo,Alで置換したLiNi0.81Co0.16Al0.032等を例示できる。その他、Niの一部を、Mg,Ti,Cr,Mn,Fe,Cu,Zn,Ga,Nbから選ばれた少なくとも1種の金属元素で置換した材料を例示することができる。また、LiCoO2系の正極活物質としては、LiCoO2のほか、LiとCoとのモル比(Liのモル数/Coのモル数)が1よりも大きくなる組成の材料を例示することができる。また、正極活物質として、LiMnO2をベースとした材料(LiMnO2系の正極活物質)を用いることもできる。
【0049】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、少なくとも正極活物質と水系バインダ樹脂と水(液体)とを混合し、第1正極ペーストを作製する正極ペースト作製工程を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0050】
本発明の製造方法では、正極ペースト作製工程において、少なくとも正極活物質と水系バインダ樹脂と水(液体)とを混合し、第1正極ペーストを作製する。このように、正極活物質等を水と混合することで、リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、正極活物質の分解温度より低い温度で脱離する第1結合水を、正極活物質等に結合させることができる。
なお、正極ペースト作製工程では、正極活物質、水系バインダ樹脂、及び水に加えて、導電性カーボンなどを混合するようにしても良い。
【0051】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記第1正極ペーストを正極基材の表面に塗布する塗布工程と、上記正極基材の表面に塗布した上記第1正極ペーストを乾燥する正極ペースト乾燥工程を備え、前記正極ペースト作製工程において、少なくとも正極活物質を水(液体)に接触させた時点から、上記正極ペースト乾燥工程において、上記第1正極ペーストの乾燥を開始するまでの時間を、8時間以内とするリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0052】
正極活物質等と水(液体)とを長時間接触させると、正極活物質と水との反応が進み、正極活物質中からLiの脱離が進行してしまう。このような正極活物質を用いて電池を製作すれば、電池特性が著しく低下する虞がある。
これに対し、本発明の製造方法では、少なくとも正極活物質を水(液体)に接触させた時点から、第1正極ペーストの乾燥を開始するまでの時間を、8時間以内としている。これにより、正極活物質と水との反応を抑制し、正極活物質中からLiの脱離を抑制することができる。
【0053】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記正極ペースト作製工程において、少なくとも正極活物質を水に接触させた時点から、前記正極ペースト乾燥工程において、前記第1正極ペーストの乾燥を開始するまでの時間を、2時間以上とするリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0054】
本発明の製造方法では、少なくとも正極活物質を水(液体)に接触させた時点から、第1正極ペーストの乾燥を開始するまでの時間を、2時間以上としている。このように、正極活物質等と水(液体)とを2時間以上接触させることで、必要十分量の第1結合水を、正極活物質等に結合させることができる。
【0055】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記塗布工程の後、前記第1正極ペーストを、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第1正極ペーストの表面に炭酸塩を生成させる、または前記正極ペースト乾燥工程の後、上記第1正極ペーストを乾燥硬化させた第1硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第1硬化物の表面に炭酸塩を生成させる炭酸塩生成工程を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0056】
正極ペースト作製工程において、正極活物質等を水に接触させると、正極活物質と水との反応により、アルカリ化合物、例えば、金属水酸化物(LiOHなど)が生成される。このため、第1正極ペースト中に、アルカリ化合物(LiOHなど)が含まれることとなる。従って、第1正極ペーストを、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、第1正極ペーストに含まれているアルカリ化合物(LiOHなど)とCO2と反応させ、第1正極ペーストの表面に炭酸塩を生成することができる。また、第1正極ペーストを乾燥硬化させた第1硬化物にも、アルカリ化合物(LiOHなど)が含まれることとなる。従って、第1硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、第1硬化物に含まれているアルカリ化合物(LiOHなど)とCO2と反応させ、第1硬化物の表面に炭酸塩を生成することができる。
【0057】
しかも、第1正極ペーストは、正極活物質等と水とを混合したものであるから、アルカリ化合物(LiOHなど)は、正極活物質等の表面の全体にわたって存在する。このような第1正極ペーストまたはこれを乾燥硬化させた第1硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、第1正極ペーストまたは第1硬化物の表面(正極活物質等の表面)の全体を、炭酸塩で被覆することができる。
【0058】
従って、本発明の製造方法により製造したリチウムイオン二次電池では、正極活物質等と電解液との接触を抑制でき、電解液の分解反応を抑制できる。これにより、正極板の表面に、電解液の分解反応により生成される化合物の被膜が形成されるのを抑制できるので、電池のIV抵抗値(内部抵抗)の上昇を抑制し、電池の出力特性の低下を抑制できる。
【0059】
その上、炭酸塩は、過充電時に分解し、CO2ガスを生成する。このため、過充電に伴い電池温度が上昇する場合において、速やかに、ケースの内圧を上昇させて、より低い温度で、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。従って、本発明の製造方法によれば、高出力で信頼性の高いリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0060】
なお、炭酸塩生成工程において、第1硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒す場合としては、例えば、第1硬化物を備える正極基材を、単体で、CO2を含むガス雰囲気に晒す場合を挙げることができる。また、負極板及びセパレータと共に電極体とした状態で、さらには、電極体をケース内に収容した状態で、正極基材上の第1硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すようにしても良い。
【0061】
また、前記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記正極活物質を水中に浸漬する浸漬工程と、少なくとも上記水中に浸漬した正極活物質と溶剤系バインダ樹脂と溶剤とを混合し、第2正極ペーストを作製する正極ペースト作製工程と、を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0062】
本発明の製造方法では、正極ペースト作製工程において、バインダ樹脂として溶剤系のバインダ樹脂(例えばPVDFなど)を用い、溶媒として水ではなく溶剤を用いる。しかしながら、正極ペースト作製工程に先立ち、浸漬工程において、第2正極ペーストに用いる正極活物質を水中に浸漬するようにしている。これにより、正極活物質の表面に、第1結合水を結合させることができるので、溶剤系バインダ樹脂を用いた第2正極ペースト中にも第1結合水を含有させることができる。
なお、浸漬工程では、正極活物質に加えて、導電性カーボンなどを水中に浸漬するようにしても良い。
【0063】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記浸漬工程の後、前記正極ペースト作製工程の前に、前記水中に浸漬した正極活物質を乾燥する正極活物質乾燥工程を備え、前記浸漬工程において正極活物質を水中に浸漬した時点から、上記正極活物質乾燥工程において上記正極活物質の乾燥を開始するまでの時間を、8時間以内とするリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0064】
正極活物質と水とを長時間接触させると、正極活物質と水との反応が進み、正極活物質中からLiの脱離が進行してしまう。このような正極活物質を用いて電池を製作すれば、電池特性が著しく低下する虞がある。
これに対し、本発明の製造方法では、正極活物質を水中に浸漬した時点から、正極活物質の乾燥を開始するまでの時間を、8時間以内としている。これにより、正極活物質と水との反応を抑制し、正極活物質中からLiの脱離を抑制することができる。
【0065】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記浸漬工程において正極活物質を水中に浸漬した時点から、前記正極活物質乾燥工程において上記正極活物質の乾燥を開始するまでの時間を、2時間以上とするリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0066】
本発明の製造方法では、正極活物質を水中に浸漬した時点から、正極活物質の乾燥を開始するまでの時間を、2時間以上としている。このように、正極活物質と水とを2時間以上接触させることで、必要十分量の第1結合水を、正極活物質に結合させることができる。
【0067】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記正極活物質乾燥工程の後、前記正極活物質を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記正極活物質の表面に炭酸塩を生成させる、または前記第2正極ペーストを、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第2正極ペーストを構成する物質の表面に炭酸塩を生成させる、または上記第2正極ペーストを乾燥硬化させた第2硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第2硬化物の表面に炭酸塩を生成させる炭酸塩生成工程を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0068】
浸漬工程において、正極活物質を水中に浸漬すると、正極活物質と水との反応により、アルカリ化合物、例えば、金属水酸化物(LiOHなど)が、正極活物質の表面に生成される。このため、この正極活物質、またはこれを含む第2正極ペースト、またはこれを乾燥硬化させた第2硬化物にも、アルカリ化合物(LiOHなど)が含まれることとなる。従って、正極活物質を、第2正極ペーストを、または第2硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、アルカリ化合物(LiOHなど)とCO2と反応させ、正極活物質の表面に、第2正極ペーストを構成する物質の表面に、または第2硬化物の表面に、炭酸塩を生成することができる。ここで、第2正極ペーストを構成する物質とは、正極活物質やバインダ樹脂等をいう。
【0069】
従って、本発明の製造方法により製造したリチウムイオン二次電池では、正極活物質等と電解液との接触を抑制でき、電解液の分解反応を抑制できる。これにより、正極板の表面に、電解液の分解反応により生成される化合物の被膜が形成されるのを抑制できるので、電池のIV抵抗値(内部抵抗)の上昇を抑制し、電池の出力特性の低下を抑制できる。
【0070】
その上、炭酸塩は、過充電時に分解し、CO2ガスを生成する。このため、過充電に伴い電池温度が上昇する場合において、速やかに、ケースの内圧を上昇させて、より低い温度で、安全弁によるケースの封止を開放させることができる。従って、本発明の製造方法によれば、高出力で信頼性の高いリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(実施例1)
まず、本実施例1にかかるリチウムイオン二次電池100について説明する。リチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、直方体形状のケース110と、安全弁140と、正極端子120と、負極端子130と、電極体150とを備える角形密閉式電池である。
【0072】
ケース110は、金属からなり、直方体形状の収容空間をなす角形収容部111と、金属製の蓋部112とを有している。ケース110(角形収容部111)の内部には、電極体150、正極集電部材122、負極集電部材132、図示しない電解液などが収容されている。正極集電部材122及び負極集電部材132は、細長板形状の金属部材であり、それぞれ、正極端子120及び負極端子130に接続されている。なお、本実施例1のリチウムイオン二次電池100では、ケース110内の空隙部Gの体積Vは、22(cm3)である。
【0073】
蓋部112には、貫通孔112bが形成されている。この貫通孔112bは、円盤状をなす金属製の安全弁140により、ケース110の外側から封止されている。具体的には、安全弁140が、貫通孔112bを封止するように、蓋部112の外側面112f上に溶接されている。このようなリチウムイオン二次電池100では、ケース110の内圧と外気圧との差圧ΔP(内圧−外気圧)が開弁圧Pを超えると、安全弁140が開裂することでケース110の封止が開放され、ケース110内のガスを外部に排出することができる。
なお、本実施例1の電池100では、開弁圧Pを、約0.4(MPa)に設定している。
【0074】
電極体150は、断面長円状をなし、帯状の正極板155、負極板156、及びセパレータ157を捲回してなる扁平型の捲回体である。この電極体150は、その軸線方向(図1において左右方向)の一方端部(図1において右端部)に位置し、正極板155の一部のみが渦巻状に重なる正極捲回部155bと、他方端部(図1において左端部)に位置し、負極板156の一部のみが渦巻状に重なる負極捲回部156bとを有している。正極板155には、正極捲回部155bを除く部位に、正極活物質を含む正極合材が塗工されている。同様に、負極板156には、負極捲回部156bを除く部位に、負極活物質を含む負極合材が塗工されている。
【0075】
ここで、正極板155について、図2を参照して詳細に説明する。正極板155は、図2に示すように、アルミニウム箔からなる正極基材151と、この正極基材151の表面に塗布された正極合材152とを有している。正極合材152中には、正極活物質153(本実施例では、LiNi0.81Co0.16Al0.032)が含まれている。この正極活物質153の表面は、炭酸塩158(Li2CO3など)で被覆されている。なお、正極活物質153の分解温度は約170℃である。
【0076】
さらに、正極合材152は、導電化材159(本実施例1では、カーボン)と、図示しないバインダ樹脂(本実施例1では、CMC,PTFE)とを有している。これらの表面も、炭酸塩158(Li2CO3など)で被覆されている。
さらに、正極合材152(正極活物質153、導電化材159など)には、100℃より高く170℃より低い温度の範囲で脱離する第1結合水161と、100℃以下の温度で脱離する第2結合水162とが結合している。なお、正極合材152に含まれる第1結合水161及び第2結合水162の含有量(g)は、後に詳述することにする。
【0077】
また、本実施例1では、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(沸点238℃)、ジメチルカーボネート(沸点90℃)、エチルメチルカーボネート(沸点108℃)の3種類の有機溶媒を、30:30:40の重量比で混合した溶媒を用いている。また、溶質として、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を用いている。
【0078】
ところで、リチウムイオン二次電池100は、通常80℃程度まで温度が上昇するが、使用環境などにより電池の温度上昇は変動する。このため、本実施例1(後述する実施例2〜10においても同様)では、上述のように、第1結合水161の脱離温度を100℃より高く設定している。これにより、通常、リチウムイオン二次電池100を使用する環境下(100℃以下)において、第1結合水161が脱離することがなく、脱離する際は水蒸気として脱離(蒸発)したり、電解液に一旦抽出されて電解液と反応したり、電気分解してガスが発生すると考えられる。従って、通常、リチウムイオン二次電池100を使用している間に、正極活物質153と第1結合水161との反応により、電池特性が著しく低下してしまう虞はない。
【0079】
次に、本実施例1のリチウムイオン二次電池100の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
まず、正極ペースト作製工程において、図4に示すように、正極活物質153(LiNi0.81Co0.16Al0.032)と、導電化材159(カーボン)と、バインダ樹脂(CMC,PTFE)とを純水W中に投入し、これらを混合して第1正極ペースト152cを作製する。次いで、塗布工程に進み、図5に示すように、第1正極ペースト152cを、正極基材151(アルミニウム箔)の表面に塗布する。
【0080】
ところで、第1正極ペースト152c中には、正極活物質153(LiNi0.81Co0.16Al0.032)と水との反応により生成されたアルカリ化合物(LiOHなど)が含まれている。特に、第1正極ペースト152cは、正極活物質153等と純水とを混合したものであるから、アルカリ化合物(LiOHなど)は、正極活物質153等の表面の全体にわたって存在することとなる。特に、本実施例1では、正極活物質153として、LiNiO2系の正極活物質(具体的には、LiNi0.81Co0.16Al0.032)を用いている。LiNiO2系の正極活物質は、水との反応によりLiOHを生成し易いので、正極活物質153等の表面に、十分な量のLiOHを付着させることができる。
【0081】
次いで、正極ペースト乾燥工程に進み、図6に示すように、正極基材151の表面に塗布した第1正極ペースト152cを、熱風乾燥した。その後、プレス加工により押圧成形して正極シートを得た。なお、本実施例1では、送風される熱風の温度が40℃、120℃、150℃と異なる3つの熱風ゾーンを備える乾燥機10を用い、40秒間熱風乾燥を行った。具体的には、第1正極ペースト152cを塗布した正極基材151を、40秒間かけて3つの熱風ゾーンを通過させた。
なお、本実施例1では、正極ペースト作製工程において、正極活物質153等を水中に浸漬した時点から、正極ペースト乾燥工程において、第1正極ペースト152cの乾燥を開始するまでの経過時間Tを、2時間としている。
【0082】
これとは別に、負極活物質(カーボン粉末)とバインダ樹脂(CMC,SBR)とを混合した負極ペーストを作製した。この負極ペーストを、負極基材(銅箔)の表面に塗布し、正極シートと同様に熱風乾燥し、プレス加工を施して、負極シートを得た。
【0083】
次に、組付工程に進み、正極シート(正極板155)と負極シート(負極板156)とセパレータ157を積層し、これを捲回して断面長円状の電極体150を形成した。次いで、この電極体150を外部端子(正極端子120と負極端子130)と接続させると共に、角形収容部111内に収容した。その後、図1に示すように、角形収容部111と蓋部112とを溶接して、ケース110を成形した。次いで、真空乾燥工程に進み、ケース110内に収容した電極体150を、80℃で12時間真空乾燥した。
【0084】
次に、炭酸塩生成工程に進み、図7に示すように、電極体150を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ20内に放置した。なお、本実施例1では、チャンバ20内を真空状態とした後、チャンバ20内にCO2ガスを充填することで、チャンバ20内のCO2ガスの純度を高めている。これにより、第1正極ペースト152cを乾燥硬化させた第1硬化物152b(正極活物質153など)の表面に、炭酸塩158(Li2CO3など)を生成することができる(図2参照)。具体的には、第1正極ペースト152cを乾燥硬化させた第1硬化物152b(正極活物質153など)の表面の全体にわたって存在するアルカリ化合物(LiOHなど)をCO2と反応させることにより、図2に示すように、正極活物質153等の表面全体が炭酸塩158で被覆された正極合材152を形成することができる。
【0085】
なお、本実施例1では、電極体150を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ20内に放置する時間を、0時間,1時間,12時間の3種類に異ならせて、3種類のリチウムイオン二次電池(サンプル1〜3とする)を作製した。ここで、チャンバ20内に0時間放置した(チャンバ内に放置しない)リチウムイオン二次電池をサンプル1、チャンバ内に1時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル2、チャンバ内に12時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル3とする。
【0086】
また、これとは別に、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートの3種類の有機溶媒を、30:30:40の重量比で混合した混合溶媒に、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を溶解させた電解液を用意した。次いで、蓋部112の貫通孔112bを通じて、ケース110内に電解液を注液した後、安全弁140を蓋部112の外側面112f上に溶接して、貫通孔112bを仮封止した。電解液を注液して5時間経過した後、所定の初期充放電を行った。その後、貫通孔112bの仮封止を開放し、ケース110の内部に発生したガスを外部に排出した。
【0087】
ところで、初期充放電に伴い発生するガスは、主に水素ガスである。この水素ガスは、正極板155及び負極板156に結合していた第2結合水162(100℃未満の温度で脱離する結合力の弱い水)の還元反応により生成したと考えられる。従って、初期充放電の後、貫通孔112bの仮封止を開放し、ケース110の内部に発生したガスを外部に排出することで、ケース110内の第2結合水162を低減することができる。これにより、通常使用時におけるケース110の内圧上昇を抑制することができる。その後、貫通孔112bを安全弁140により再封止して、本実施例1のリチウムイオン二次電池100が完成する(図1参照)。なお、電解液の注液、貫通孔112bの仮封止、開放、再封止は、露点約−40℃の低水分環境下で実施した。
【0088】
次に、本実施例1の正極板155に含まれる水分量(第1結合水161及び第2結合水162の含有量)を、カールフィッシャ法により測定した。具体的には、まず、真空乾燥工程を施した正極板155から、直径30mmの測定用試料を2ヶ(測定用試料A,Bとする)打ち抜いた。次いで、測定用試料A,Bのうち、測定用試料Aを100℃で30分間加熱し、この間に測定用試料Aから脱離した第2結合水162を、キャリアガス(窒素)と共にカールフィッシャ溶液中に導いた。これにより、正極板155(正極合材152)について、100℃以下で脱離する第2結合水162の含有量を測定することができる。
【0089】
また、測定用試料Bを170℃で30分間加熱し、この間に測定用試料Bから脱離した水を、キャリアガス(窒素)と共にカールフィッシャ溶液中に導いた。これにより、正極板155(正極合材152)について、170℃未満で脱離する水の含有量を測定することができる。
なお、本実施例1では、測定装置として、京都電子工業製のカールフィッシャMKC−510N、及び水分気化装置ADP−511を用いている。
【0090】
次いで、170℃未満で脱離した水の含有量から、100℃以下で脱離する第2結合水162の含有量を差し引くことで、100℃より高く170℃より低い温度の範囲で脱離する第1結合水161の含有量を得ることができる。なお、本実施例1では、第1結合水161及び第2結合水162の含有量を、重量換算で、正極合材152中に含まれる含有量(ppm)として算出している。この結果を図8に示す。図8に示すように、本実施例1では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2850ppm、第2結合水162の含有量が1150ppmであった。
【0091】
また、真空乾燥工程を施した負極板156についても、正極板155と同様にして、100℃以下で脱離する第2結合水162の含有量を測定した。この第2結合水162の含有量を、重量換算で、負極合材中に含まれる含有量(ppm)として算出したところ、190ppmとなった。
【0092】
次に、本実施例1にかかるサンプル1〜3の正極板155について、正極合材152に含まれる炭酸塩158の炭酸イオン(CO32-)の割合を検出した。具体的には、サンプル1の正極板155から正極合材152を0.1g掻き取り、これを0.1リットルの純水に溶解させた。次いで、この水溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルタでろ過し、ろ液100μLをイオンクロマトグラフィ装置に注入し、炭酸イオン(CO32-)濃度(mg/L)を測定した。
【0093】
さらに、測定した炭酸イオン濃度(mg/L)に基づいて、正極合材152の重量を基準とした炭酸イオン(CO32-)の重量割合を算出し、これをサンプル1の炭酸イオン量x(wt%)とした。また、サンプル2,3の正極板155についても、上述のサンプル1と同様にして、炭酸イオン量x(wt%)を算出した。この結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例1では、サンプル1(CO2ガスチャンバ内に放置しない)では、炭酸イオン量xが0.7wt%であった。サンプル2(CO2ガスチャンバ内に1時間放置)では、炭酸イオン量xが2.2wt%であった。サンプル3(CO2ガスチャンバ内に12時間放置)では、炭酸イオン量xが2.7wt%であった。
【0094】
なお、本実施例1では、イオンクロマトグラフィ装置として、ダイオネクス社のDX−320を使用した。カラムは弱酸性のカラムを使用し、検出器は電気伝導度検出器を使用した。また、溶解液として0.3mmol/リットルのオクタンスルホン酸を使用した。再生液として、0.5mmol/リットルの水酸化テトラブチルアンモニウムと50mmol/リットルのホウ酸との混合液を使用した。
【0095】
(実施例2)
実施例1のサンプル1では、正極ペースト作製工程において、正極活物質153等を水中に浸漬した時点から、正極ペースト乾燥工程において、第1正極ペースト152cの乾燥を開始するまでの経過時間Tを、2時間とした。これに対し、本実施例2では、経過時間Tを8時間に変更し、他の条件はサンプル1と同一として、リチウムイオン二次電池100(サンプル4とする)を製造した。
【0096】
本実施例2のサンプル4についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例2のサンプル4では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2700ppm、第2結合水162の含有量が1200ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、190ppmであった。また、炭酸イオン量xが0.7wt%であった。
【0097】
(実施例3)
実施例1のサンプル1では、正極ペースト作製工程において、正極活物質153等を水中に浸漬した時点から、正極ペースト乾燥工程において、第1正極ペースト152cの乾燥を開始するまでの経過時間Tを、2時間とした。これに対し、本実施例3では、経過時間Tを12時間に変更し、他の条件はサンプル1同一として、リチウムイオン二次電池100(サンプル5とする)を製造した。
【0098】
本実施例3のサンプル5についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例3のサンプル5では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2750ppm、第2結合水162の含有量が1200ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、190ppmであった。また、炭酸イオン量xが0.8wt%であった。
【0099】
(実施例4)
実施例1のサンプル1では、正極ペースト乾燥工程において、正極基材151の表面に塗布した第1正極ペースト152cの乾燥時間を、40秒間とした。これに対し、本実施例4では、乾燥時間を120秒間に変更し、他の条件はサンプル1同一として、リチウムイオン二次電池100(サンプル6とする)を製造した。
【0100】
本実施例4のサンプル6についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例4のサンプル6では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2700ppm、第2結合水162の含有量が1100ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、190ppmであった。また、炭酸イオン量xが0.6wt%であった。
【0101】
(実施例5)
実施例1のサンプル1では、正極ペースト乾燥工程において、正極基材151の表面に塗布した第1正極ペースト152cの乾燥時間を、40秒間とした。これに対し、本実施例5では、乾燥時間を20秒間に変更し、他の条件はサンプル1同一として、リチウムイオン二次電池100(サンプル7とする)を製造した。
【0102】
本実施例5のサンプル7についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例5のサンプル7では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2600ppm、第2結合水162の含有量が1900ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が190ppmであった。また、炭酸イオン量xが1.5wt%であった。
【0103】
(実施例6)
実施例1のサンプル1では、正極ペースト乾燥工程において、正極基材151の表面に塗布した第1正極ペースト152cの乾燥時間を、40秒間とした。これに対し、本実施例6では、乾燥時間を10秒間に変更し、他の条件はサンプル1同一として、リチウムイオン二次電池100(サンプル8とする)を製造した。
【0104】
本実施例6のサンプル8についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例6のサンプル8では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2800ppm、第2結合水162の含有量が2200ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が190ppmであった。また、炭酸イオン量xが1.5wt%であった。
【0105】
(実施例7)
実施例1では、真空乾燥工程における乾燥温度を80℃とした。これに対し、本実施例7では、乾燥温度を60℃に変更し、他の条件は実施例1と同一として、リチウムイオン二次電池100を製造した。なお、本実施例7でも、実施例1と同様に、炭酸塩生成工程において、電極体150を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ20内に放置する時間を、0時間,1時間,12時間の3種類に異ならせて、3種類のリチウムイオン二次電池(サンプル9〜11とする)を作製した。ここで、チャンバ内に0時間放置した(チャンバ内に放置しない)リチウムイオン二次電池をサンプル9、チャンバ内に1時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル10、チャンバ内に12時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル11とする。
【0106】
本実施例7のサンプル9〜11についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例7のサンプル9〜11では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2800ppm、第2結合水162の含有量が1300ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、200ppmであった。また、炭酸イオン量xは、サンプル9では0.7wt%、サンプル10では2.3wt%、サンプル11では2.8wt%であった。
【0107】
(実施例8)
実施例1では、図3に示すように、組付工程の後、真空乾燥工程を行った。これに対し、本実施例8では、図9に示すように、正極ペースト乾燥工程の後、組付工程の前に、真空乾燥工程を行った。さらに、真空乾燥工程における乾燥温度を100℃に変更し、他の条件は実施例1と同一として、リチウムイオン二次電池100を製造した。
【0108】
なお、本実施例8でも、実施例1と同様に、炭酸塩生成工程において、電極体150を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ20内に放置する時間を、0時間,1時間,12時間の3種類に異ならせて、3種類のリチウムイオン二次電池(サンプル12〜14とする)を作製した。ここで、チャンバ内に0時間放置した(チャンバ内に放置しない)リチウムイオン二次電池をサンプル12、チャンバ内に1時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル13、チャンバ内に12時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル14とする。
【0109】
本実施例8のサンプル12〜14についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例8のサンプル12〜14では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2650ppm、第2結合水162の含有量が1050ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、180ppmであった。また、炭酸イオン量xは、サンプル12では0.6wt%、サンプル13では2.0wt%、サンプル14では2.5wt%であった。
【0110】
(実施例9)
実施例1では、図3に示すように、組付工程の後、真空乾燥工程を行った。これに対し、本実施例9では、図9に示すように、正極ペースト乾燥工程の後、組付工程の前に、真空乾燥工程を行った。さらに、真空乾燥工程における乾燥温度を120℃に変更し、他の条件は実施例1と同一として、リチウムイオン二次電池100を製造した。
【0111】
なお、本実施例9でも、実施例1と同様に、炭酸塩生成工程において、電極体150を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ内に放置する時間を、0時間,1時間,12時間の3種類に異ならせて、3種類のリチウムイオン二次電池(サンプル15〜17とする)を作製した。ここで、チャンバ内に0時間放置した(チャンバ内に放置しない)リチウムイオン二次電池をサンプル15、チャンバ内に1時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル16、チャンバ内に12時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル17とする。
【0112】
本実施例9のサンプル15〜17についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例9のサンプル15〜17では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が2400ppm、第2結合水162の含有量が800ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、160ppmであった。また、炭酸イオン量xは、サンプル15では0.6wt%、サンプル16では1.5wt%、サンプル17では1.8wt%であった。
【0113】
(実施例10)
本実施例10のリチウムイオン二次電池200は、図1に示すように、実施例1のリチウムイオン二次電池100と比較して、正極板(詳細には正極合材)が異なり、その他の部位については同様である。以下に、本実施例10のリチウムイオン二次電池200の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0114】
本実施例10では、実施例1と比較して、正極ペーストの作製方法が異なり、その他についてはほぼ同様にして、リチウムイオン二次電池200を製造した。
具体的には、実施例1では、正極ペースト作製工程(図3参照)において、図4に示すように、正極活物質153(LiNi0.81Co0.16Al0.032)と、導電化材159(カーボン)と、バインダ樹脂(CMC,PTFE)とを純水中に投入し、これらを混合して第1正極ペースト152cを作製した。
【0115】
これに対し、本実施例10では、図10に示すように、まず、浸漬工程において、正極活物質153(LiNi0.81Co0.16Al0.032)のみを、純水中に2時間浸漬し、その後、この水溶液を濾過した。次いで、正極活物質乾燥工程に進み、濾過後の正極活物質153を、120℃で24時間真空乾燥した。次いで、正極ペースト作製工程に進み、真空乾燥した正極活物質153と、実施例1と同一の導電化材159(カーボン)と、実施例1と異なるバインダ樹脂(PVDF)と、溶剤(Nメチル2ピロリドン)とを混合して、第2正極ペースト252cを作製した。
【0116】
次いで、塗布工程に進み、図5に示すように、第2正極ペースト252cを、正極基材151(アルミニウム箔)の表面に塗布した。次いで、正極ペースト乾燥工程に進み、図6に示すように、正極基材151の表面に塗布した第1正極ペースト152cを、乾燥機10により熱風乾燥した。その後、真空乾燥工程、組付工程、炭酸塩生成工程の順に進み、リチウムイオン二次電池200を製造した。
【0117】
なお、炭酸塩生成工程では、図7に示すように、電極体250を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ20内に放置した。これにより、第2正極ペースト252cを乾燥硬化させた第1硬化物252b(正極活物質153など)の表面の全体にわたって存在するアルカリ化合物(LiOHなど)をCO2と反応させることができる。これにより、図2に示すように、正極活物質153等の表面全体が炭酸塩158で被覆された正極合材252を形成することができる。
【0118】
なお、本実施例10では、実施例1と異なり、正極ペースト乾燥工程において、120秒間、熱風乾燥を行っている。また、実施例1と異なり、正極ペースト乾燥工程の後、組付工程の前に、真空乾燥工程を行っている。さらに、真空乾燥工程における乾燥温度を120℃に変更している。
【0119】
また、実施例1と同様に、炭酸塩生成工程において、電極体150を収容したケース110を、CO2ガスを充填したチャンバ20内に放置する時間を、0時間,1時間,12時間の3種類に異ならせて、3種類のリチウムイオン二次電池(サンプル18〜20とする)を作製した。ここで、チャンバ20内に0時間放置した(チャンバ内に放置しない)リチウムイオン二次電池をサンプル18、チャンバ内に1時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル19、チャンバ内に12時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル20とする。
【0120】
本実施例10のサンプル18〜20についても、実施例1と同様にして、第1結合水161の含有量、及び第2結合水162の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材152に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施例10のサンプル18〜20では、正極合材152に含まれる第1結合水161の含有量が1500ppm、第2結合水162の含有量が1500ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水162の含有量が、140ppmであった。また、炭酸イオン量xは、サンプル18では0.6wt%、サンプル19では1.3wt%、サンプル20では1.6wt%であった。
【0121】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と比較して、正極ペーストの作製方法が異なり、その他については同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
具体的には、正極ペースト作製工程において、正極活物質(LiNi0.81Co0.16Al0.032)と、導電化材(カーボン)と、バインダ樹脂(PVDF)と、溶剤(Nメチル2ピロリドン)とを混合して、第2正極ペーストを作製した。その後、実施例1と同様に、塗布工程、正極ペースト乾燥工程、組付工程、真空乾燥工程、炭酸塩生成工程の順に進み、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0122】
なお、本比較例1でも、実施例10と同様に、炭酸塩生成工程において、電極体を収容したケースを、CO2ガスを充填したチャンバ内に放置する時間を、0時間,1時間,12時間の3種類に異ならせて、3種類のリチウムイオン二次電池(サンプル21〜23とする)を作製した。ここで、チャンバ内に0時間放置した(チャンバ内に放置しない)リチウムイオン二次電池をサンプル21、チャンバ内に1時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル22、チャンバ内に12時間放置したリチウムイオン二次電池をサンプル23とする。
【0123】
本比較例1のサンプル21〜23についても、実施例1と同様にして、第1結合水の含有量、及び第2結合水の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本比較例1のサンプル21〜23では、正極合材に含まれる第1結合水の含有量が700ppm、第2結合水の含有量が400ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水の含有量が、170ppmであった。また、炭酸イオン量xは、サンプル21では0.6wt%、サンプル22では1.1wt%、サンプル23では1.3wt%であった。
【0124】
(比較例2)
比較例2でも、実施例1のサンプルと比較して、正極ペーストの作製方法が異なり、その他については同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、比較例1と同様にして第2正極ペーストを作製し、その後は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池(サンプル24とする)を製造した。なお、本比較例2では、実施例1と異なり、正極ペースト乾燥工程の後、組付工程の前に、真空乾燥工程を行っている。さらに、真空乾燥工程における乾燥温度を100℃に変更している。
【0125】
本比較例2のサンプル24についても、実施例1と同様にして、第1結合水の含有量、及び第2結合水の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本比較例2のサンプル24では、正極合材に含まれる第1結合水の含有量が550ppm、第2結合水の含有量が350ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水の含有量が、140ppmであった。また、炭酸イオン量xは、0.5wt%であった。
【0126】
(比較例3)
比較例3でも、実施例1のサンプル1と比較して、正極ペーストの作製方法が異なり、その他については同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、比較例1と同様にして第2正極ペーストを作製し、その後は、実施例1のサンプル1と同様にして、リチウムイオン二次電池(サンプル25とする)を製造した。なお、本比較例3では、実施例1と異なり、正極ペースト乾燥工程の後、組付工程の前に、真空乾燥工程を行っている。さらに、真空乾燥工程における乾燥温度を120℃に変更している。
【0127】
本比較例3のサンプル25についても、実施例1と同様にして、第1結合水の含有量、及び第2結合水の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本比較例3のサンプル25では、正極合材に含まれる第1結合水の含有量が580ppm、第2結合水の含有量が200ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水の含有量が、130ppmであった。また、炭酸イオン量xは、0.5wt%であった。
【0128】
(比較例4)
比較例3でも、実施例1のサンプル1と比較して、正極ペーストの作製方法と、加湿工程を加えた点が異なり、その他については同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。具体的には、比較例1と同様にして第2正極ペーストを作製した後、実施例1と同様に、塗布工程、正極ペースト乾燥工程、組付工程の順に進み、ケース内に電極体を収容した。次いで、実施例1と異なり、加湿工程に進み、ケース内に収容した電極体を、湿度70%の恒温槽内に72時間放置した。その後は、実施例1のサンプル1と同様にして、リチウムイオン二次電池(サンプル26とする)を製造した。
【0129】
本比較例4のサンプル26についても、実施例1と同様にして、第1結合水の含有量、及び第2結合水の含有量を測定した。また、実施例1と同様にして、正極合材に含まれる炭酸イオン量x(wt%)を測定した。これらの結果を図8に示す。
図8に示すように、本比較例4のサンプル26では、正極合材に含まれる第1結合水の含有量が1600ppm、第2結合水の含有量が1600ppmであった。また、負極合材に含まれる第2結合水の含有量が、170ppmであった。また、炭酸イオン量xは、2.5wt%であった。
【0130】
(電池の評価)
次に、サンプル1〜26について、それぞれ、通常使用後のIV抵抗値を測定した。
具体的には、前述のようにして製造した各サンプルを、25℃で10日間放置した後、電池電圧が4.1Vになるまで、定電流−定電圧で1.5時間充電を施した。その後、電池電圧が3Vになるまで、1Cの電流値で放電を行った。このときの放電容量を電池容量としたところ、いずれのサンプルも約7Ahであった。
【0131】
次いで、各サンプルを、電池電圧が3.72Vになるまで、1Cの定電流−定電圧で1.5時間充電を施して、SOC(State Of Charge)を調整した。その後、最大12Cの電流値で充電及び放電を行い、10秒後の電圧低下量を測定した。このときの、電流値(X軸)と電圧(Y軸)との関係を、IV線図として表し、このIV線図に基づいて、各サンプルのIV抵抗値(内部抵抗)を算出した。
【0132】
そして、サンプル1のIV抵抗値を基準として、サンプル2〜26の各IV抵抗値について、サンプル1のIV抵抗値との比を、IV抵抗比として算出した。サンプル2〜26にかかるIV抵抗比は、図8に示すような結果となった。なお、上述の一連の処理は、25℃の恒温槽内で行っている。
【0133】
ここで、IV抵抗比の結果について検討する。
まず、サンプル1(実施例1)と、サンプル4(実施例2)と、サンプル5(実施例3)とを比較する。これらのサンプルは、図8に示すように、経過時間T(正極ペースト作製工程において、正極活物質153等を水中に浸漬した時点から、正極ペースト乾燥工程において、第1正極ペースト152cの乾燥を開始するまでの経過時間)を異ならせた点のみが異なり、その他については同様にして製造した関係にある。
【0134】
これらのIV抵抗比を比較すると、経過時間Tを2時間としたサンプル1に対し、経過時間Tを8時間としたサンプル4では、IV抵抗比が1.04となり、僅かにIV抵抗値(内部抵抗)が上昇したものの、良好な出力特性を得ることができた。これに対し、サンプル5では、IV抵抗比が1.23となり、サンプル1に比べてIV抵抗値(内部抵抗)が大きく上昇し、出力特性が大きく低下してしまった。これは、正極活物質153と水とを12時間もの長時間接触させたことで、正極活物質153と水との反応が進み、正極活物質153中からLiの脱離が進行したためと考えられる。
以上の結果より、経過時間T(正極ペースト作製工程において、正極活物質153等を水中に浸漬した時点から、正極ペースト乾燥工程において、第1正極ペースト152cの乾燥を開始するまでの経過時間)は、8時間以内とするのが好ましいといえる。
【0135】
次に、サンプル1(実施例1)と、サンプル6〜8(実施例4〜6)とを比較する。これらのサンプルは、図8に示すように、経過時間Tは共に2時間と同一であるが、その後の乾燥時間が異なる関係にある。具体的には、乾燥時間が短いサンプルから順に、乾燥時間が、10秒(サンプル8)、20秒(サンプル7)、40秒(サンプル1)、120秒(サンプル6)と異なっている。このため、正極における第2結合水162の含有量が、乾燥時間が短いサンプルから順に、2200ppm、1900ppm、1150ppm、1100ppmとなり、乾燥時間が短いサンプルほど第2結合水の含有量が多くなっている。
【0136】
これらのIV抵抗比を比較すると、サンプル1に対し、サンプル6,7(実施例4,5)では、IV抵抗比が0.98,1.01となり、良好な出力特性を得ることができた。これに対し、サンプル8(実施例6)では、IV抵抗比が1.25となり、サンプル1に比べて出力特性が大きく低下してしまった。これは、第2結合水162の含有量が2200ppmと多いために、通常使用時において、脱離した第2結合水162と正極活物質153との反応が進行してしまったためと考えられる。この結果より、第2結合水162の含有量は、正極合材152における重量換算で2200ppm未満とするのが好ましいといえる。
【0137】
また、実施例1のサンプル1〜3について比較する。これらのサンプルは、図8に示すように、炭酸塩生成工程においてCO2ガスを充填したチャンバ20内に放置する時間(CO2処理時間とする)を異ならせた点のみが異なり、その他については同様にして製造した関係にある。すなわち、炭酸イオン量xのみが異なる関係にある。
サンプル2(炭酸イオン量x=2.2wt%)では、IV抵抗比が0.99となり、サンプル1(炭酸イオン量x=0.7wt%)に比べてIV抵抗値(内部抵抗)が小さくなった。これは、正極合材152の表面を、より多くの炭酸塩158で被覆することで、正極合材152と電解液との接触を抑制し、電解液の分解反応を抑制することができたためと考えられる。これにより、正極板155の表面に、電解液の分解反応により生成される化合物の被膜が形成されるのを抑制し、IV抵抗値(内部抵抗)の上昇を抑制し、出力特性の低下を抑制できたと考えられる。
【0138】
これに対し、サンプル3(炭酸イオン量x=2.7wt%)では、IV抵抗比が1.06となり、サンプル1(炭酸イオン量x=0.7wt%)に比べてIV抵抗値(内部抵抗)が大きくなった。これは、正極合材152の表面を被覆する炭酸塩158の量を多くし過ぎたために、炭酸塩158によりIV抵抗値(内部抵抗)が大きく上昇し、出力特性が低下したと考えられる。
【0139】
また、実施例7のサンプル9〜11についても、図8に示すように、上述のサンプル1〜3と同様な結果となった。具体的には、サンプル9(炭酸イオン量x=0.7wt%)に比べて、炭酸イオン量xを増加したサンプル10(炭酸イオン量x=2.3wt%)では、IV抵抗値(内部抵抗)が小さくなった。ところが、サンプル11(炭酸イオン量x=2.8wt%)では、炭酸イオン量xを増加し過ぎたため、サンプル9に比べてIV抵抗値(内部抵抗)が大きくなった。
【0140】
また、実施例8のサンプル12〜14についても、図8に示すように、上述のサンプル1〜3と同様な結果となった。具体的には、サンプル12(炭酸イオン量x=0.6wt%)に比べて、炭酸イオン量xを増加したサンプル13(炭酸イオン量x=2.0wt%)では、IV抵抗値(内部抵抗)が小さくなった。ところが、さらに炭酸イオン量xを増加したサンプル14(炭酸イオン量x=2.5wt%)では、サンプル9と同等のIV抵抗値(内部抵抗)となった。
以上の結果より、IV抵抗値を低減し、出力特性を向上させるために、炭酸イオン量xは、2.5wt%以下とするのが好ましいといえる。
【0141】
また、サンプル26(比較例4)では、正極における第2結合水162の含有量を2200ppm未満(具体的には1600ppm)、炭酸イオン量xを2.5wt%以下(具体的には2.5wt%)としているにも拘わらず、IV抵抗比が1.5と極めて大きくなった。これは、加湿工程を施す(正極合材152等を水蒸気に接触させる)ことにより、第1結合水161及び第2結合水162を結合させたためと考えられる。この結果より、IV抵抗値を低減し、出力特性を向上させるためには、正極合材152等を水(液体)に接触させる手法で、第1結合水161等を結合させるようにするのが好ましいといえる。
【0142】
(加熱試験)
次に、サンプル1〜25について、それぞれ、加熱試験を実施した。具体的には、前述のようにして製造した各サンプルについて、電池電圧が4.1Vになるまで定電流−定電圧で1.5時間充電を施し、SOC100%とした。その後、各サンプルを恒温槽内に配置し、各サンプルについて、安全弁140による封止が開放されるまで、昇温速度2℃/分で恒温槽内を加熱していった。このとき、各サンプルについて、安全弁140による封止が開放(開弁)された時点の電池温度(開弁温度とする)を測定した。この結果を図8に示す。
【0143】
サンプル21〜25(比較例1〜3)では、開弁温度が190℃以上となった。具体的には、電池温度が190℃以上にまで上昇した後に安全弁が開弁し、開弁後も電池温度が急上昇する熱暴走が生じた。これは、各サンプルにおいて、安全弁によるケースの封止が開放される前に、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)を超えて上昇(190℃以上に上昇)したためと考えられる。これにより、正極活物質153の分解反応が進行し、熱暴走が生じたと考えられる。
【0144】
これに対し、サンプル1〜20(実施例1〜10)では、開弁温度が110℃または120℃となった。具体的には、電池温度が110℃または120℃に達した後に安全弁140が開弁し、開弁後しばらく電池温度が上昇したが、熱暴走することなく、まもなく電池温度が低下した。これは、各サンプルにおいて、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)に達する前に、安全弁140によるケース110の封止を開放することができたためと考えられる。これにより、正極活物質153の分解反応を抑制し、熱暴走を防止することができたと考えられる。
【0145】
ここで、実施例にかかるリチウムイオン二次電池100,200と比較例にかかるリチウムイオン二次電池とについて、加熱試験の結果について詳細に比較検討する。ここで、実施例にかかるリチウムイオン二次電池100,200を代表して、サンプル3の加熱試験による内圧変化及び電池温度変化を、図11に実線で示す。さらに、比較例にかかるリチウムイオン二次電池の代表として、サンプル22の加熱試験による内圧変化及び電池温度変化を、図11に破線で示す。なお、図11において差圧ΔPは、ケース110の内圧から外気圧(本実施形態では大気圧)を差し引いた差圧である。
【0146】
図11に破線で示すように、比較例のサンプル22では、電池温度が100℃を超えた後も、差圧ΔPが緩やかに上昇している(すなわち、電池の内圧が緩やかに上昇している)。その後、電池温度が急激に上昇し始めると、電池内圧が急激に上昇することで差圧ΔPが急上昇し、電池温度が190℃にまで上昇したときに開弁した。開弁した後も、電池温度は急上昇し続け、350℃程度にまで電池温度が上昇してしまった。
【0147】
これに対し、実施例のサンプル3では、図11に実線で示すように、電池温度が100℃を超えた後は、電池の内圧が急上昇することで差圧ΔPが急上昇し、速やかに、安全弁140によるケース110の封止が開放されている。このときの電池温度は110℃であり、正極活物質153の分解温度(170℃)よりも低温であるため、熱暴走を防止することができた。具体的には、開弁後しばらく電池温度が上昇し、電池温度が150℃程度まで上昇したが、その後、電池温度が低下した。
【0148】
このように、実施例の電池では、比較例の電池に比べて、電池温度が100℃を超えた後、早期に電池内圧を、差圧ΔPが開弁圧P(0.4MPa)に達するにまで上昇させて、早期に安全弁140を開弁させることができた。これは、図8に示すように、実施例の電池(サンプル1〜20)では、比較例の電池(サンプル21〜25)に比べて、第1結合水161の含有量が極めて多いためであると考えられる。具体的には、比較例の電池(サンプル21〜25)では、正極合材152中の第1結合水の含有量が700ppm以下であるのに対し、実施例の電池(サンプル1〜20)では、正極合材152中の第1結合水の含有量を、1500ppm以上としている。
【0149】
このように、100℃より高く170℃より低い温度の範囲で脱離する第1結合水161を、正極合材152中に1500ppm以上含有させることで、電池温度が100℃を超えると、ケース110内には、第1結合水161に由来するガス(水蒸気や、電解液と第1結合水161との反応により生成されるCO2)が大量に発生することとなる。これにより、ケース110の内圧が急上昇するので、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)にまで上昇する前に、ケース110の内圧を、差圧ΔPが開弁圧P(0.4MPa)に達するにまで上昇させ、安全弁140によるケース110の封止を開放させることができる。
【0150】
ところで、水の分子量は18、1気圧での気体分子1モルが占める体積は22.4×103(cm3)である。従って、第1結合水の含有量をW(g)とすると、脱離した第1結合水に由来するガス(水蒸気)の体積(cm3)は、1気圧(0.1013MPa)において、(W/18)×22.4×103程度となる。従って、ケース内の空隙部の体積をV(cm3)、ケース内での第1結合水に由来するガス(水蒸気)の分圧をP1(MPa)とすると、ボイルの法則より、P1×V=0.1013×(W/18)×22.4×103という関係式が成り立つ。この式を変形すると、P1=(W/18)×22.4×103×0.1013/Vとなる。しかるに、P1が開弁圧P(MPa)を上回れば、すなわち、(W/18)×22.4×103×0.1013/V>P(式1とする)の関係を満たせば、確実に、安全弁によるケースの封止を開放することができると考えられる。(式1)を変形して、W>7.93×10-3×V×Pの関係式を導くことができる。
【0151】
実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、ケース110内の空隙部Gの体積Vが22(cm3)、開弁圧Pが0.4MPaである。これらの値を、W>7.93×10-3×V×Pの関係式に代入すると、W>0.07(g)となる。すなわち、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、第1結合水161を0.1gより多くケース110内に含有していれば、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)にまで上昇する前に、ケース110の内圧を、差圧ΔPが開弁圧P(0.4MPa)に達するにまで上昇させ、安全弁140によるケース110の封止を開放させることができると考えられる。
【0152】
実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、正極板155中に正極合材152を約47g含んでいる。そして、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200(サンプル1〜20)では、図8に示すように、第1結合水161の含有量を、正極合材152における重量換算で、1500ppm以上としている。従って、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200には、第1結合水161が、少なくとも47×1500×10-6=0.071(g)含まれていたこととなる。このように、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、第1結合水161を0.07gより多くケース110内に含有していたため、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)にまで上昇する前に、ケース110の内圧を、差圧ΔPが開弁圧P(0.4MPa)に達するにまで上昇させ、安全弁140によるケース110の封止を開放させることができたともいえる。
【0153】
しかも、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、第1結合水161の脱離温度を、電池の通常使用温度範囲の最高温度(100℃)より高い温度としている。このため、通常、リチウムイオン二次電池100,200を使用する環境下において、第1結合水161が脱離することがない。従って、通常、リチウムイオン二次電池100,200を使用している間に、正極活物質153と第1結合水161との反応により、電池特性が著しく低下してしまう虞もない。
【0154】
その上、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、図8に示すように、100℃以下の温度で脱離する第2結合水162の含有量を、正極合材152における重量換算で、2200ppm未満に抑制している。すなわち、リチウムイオン二次電池100,200の通常使用温度範囲内の温度(100℃以下)で脱離する第2結合水162の含有量を、正極合材152における重量換算で、2200ppm未満に抑制している。これにより、通常、リチウムイオン二次電池100,200を使用している間、正極活物質153と水との反応を抑制し、電池特性の低下(IV抵抗値の上昇)を抑制することができた。具体的には、図4に示すように、実施例1〜10では、相対的に水分量の少ない比較例1〜4と比較して、IV抵抗比が僅かに上昇しただけであった。
【0155】
ところで、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、電解液の溶媒として、エチレンカーボネート(沸点238℃)、ジメチルカーボネート(沸点90℃)、エチルメチルカーボネート(沸点108℃)の3種類の有機溶媒を、30:30:40の重量比で混合した溶媒を用いている。カーボネート系の有機溶媒は可燃性を有しているため、電池温度が有機溶媒の沸点を上回ると、ケース110内に可燃性ガスが充満し、発煙し易い状態となり危険である。
【0156】
これに対し、実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200では、前述のように、開弁温度を110℃または120℃としている。このため、電池温度がエチレンカーボネートの沸点(238℃)に達する前に、安全弁140が開裂し、ケース110内のガスを外部に排出することができる。これにより、電解液に含まれる有機溶媒のうち、少なくともエチレンカーボネートのガスがケース110内に充満するのを防止できるので、発煙等する危険性を小さくすることができる。
【0157】
(過充電試験)
次に、サンプル1〜25について、それぞれ、過充電試験を実施した。具体的には、前述のようにして製造した各サンプルについて、電池電圧が4.1Vになるまで定電流−定電圧で1.5時間充電を施し、SOC100%とした。その後、さらに、各サンプルについて、20Aの定電流で充電を施した。このとき、各サンプルについて、安全弁140による封止が開放(開弁)された時点の電池電圧(開弁電圧とする)を測定した。この結果を図8に示す。
【0158】
図8に示すように、サンプル21〜25(比較例1〜3のリチウムイオン二次電池)では、電池電圧が5.1V以上になるまで、安全弁140による封止が開放(開弁)されなかった。さらに、安全弁140が開弁したときには、既に、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)を超えて上昇していたため、開弁後も電池温度が急上昇し続け、熱暴走が生じてしまった。
【0159】
これに対し、サンプル1〜20(実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200)では、図8に示すように、いずれも、5.0V以下の電池電圧で、安全弁140による封止が開放(開弁)された。これにより、過充電試験においても、サンプル1〜20(実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200)では、熱暴走が生じなかった。これは、前述の加熱試験と同様に、サンプル1〜20(実施例1〜10のリチウムイオン二次電池100,200)では、電池温度が正極活物質153の分解温度(170℃)に達する前に、安全弁140による封止を開放(開弁)することができたためである。
【0160】
ここで、実施例1にかかるサンプル1〜3の開弁電圧を比較すると、サンプル1では、開弁電圧が4.8Vであったのに対し、サンプル2,3では、開弁電圧が4.7Vとなり、サンプル1に比べて0.1V低減することができた。これは、図8に示すように、炭酸イオン量xの違いによるものと考えられる。
【0161】
具体的には、サンプル2,3では、サンプル1と異なり、炭酸塩生成工程においてCO2処理を施しているので、サンプル1に比べて、多量の炭酸塩158で正極合材152の表面が被覆されている。正極合材152の表面を被覆する炭酸塩158は、過充電時に分解し、CO2ガスを生成する。従って、サンプル2,3では、過充電に伴い電池温度が上昇すると、第1結合水161に由来するガスに加えて、炭酸塩158の分解によりCO2ガスも発生するので、ケース110の内圧を大きく上昇させることができる。このため、サンプル2,3では、サンプル1に比べて低電圧で、すなわち、より低い温度で、安全弁140によるケース110の封止を開放させることができたと考えられる。
【0162】
さらに、実施例7(サンプル9〜11)、実施例8(サンプル12〜14)、実施例9(サンプル15〜17)、実施例10(サンプル18〜20)の各実施例について、それぞれのサンプルの開弁電圧を比較すると、上述の実施例1と同様な結果となった。すなわち、いずれの実施例においても、炭酸塩生成工程においてCO2処理を施したサンプル(CO2処理時間が1時間または12時間のサンプル)では、CO2処理を施していないサンプル(CO2処理時間が0時間のサンプル)に比べて、低電圧で、すなわち、より低い温度で、安全弁140によるケース110の封止を開放させることができた。
【0163】
以上において、本発明を実施例1〜10に即して説明したが、本発明は上記実施例等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、実施例1〜10において、電解液中にCO2を溶解させておくようにしても良い。これにより、電池温度が通常使用温度範囲を超えて上昇した場合に、電解液からCO2ガスが放出されるので、早期に(より低い温度で)、ケース110の内圧を上昇させ、早期に(より低い温度で)安全弁140を開弁させることができる。従って、より信頼性の高いリチウムイオン二次電池となる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】実施例1〜9にかかるリチウムイオン二次電池100及び実施例10にかかるリチウムイオン二次電池200の断面図である。
【図2】リチウムイオン二次電池100(200)の正極板155(255)の拡大断面図である。
【図3】実施例1〜7にかかる製造工程の流れを示すブロック図である。
【図4】正極ペースト作製工程を説明する説明図である。
【図5】塗布工程を説明する説明図である。
【図6】正極ペースト乾燥工程を説明する説明図である。
【図7】炭酸塩生成工程を説明する説明図である。
【図8】実施例1〜10にかかるリチウムイオン二次電池100,200及び比較例1〜4にかかるリチウムイオン二次電池について、評価試験の結果を示す表である。
【図9】実施例8,9にかかる製造工程の流れを示すブロック図である。
【図10】実施例10にかかる製造工程の流れを示すブロック図である。
【図11】実施例のリチウムイオン二次電池と、比較例のリチウムイオン二次電池とについて、加熱試験における電池温度変化及び差圧変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0165】
100 リチウムイオン二次電池
110 ケース
140 安全弁
150 電極体
250 電極体
151 正極基材
152 正極合材
152b 第1硬化物
152c 第1正極ペースト
252b 第2硬化物
252c 第2正極ペースト
153 正極活物質
155 正極板
156 負極板
158 炭酸塩
161 第1結合水
162 第2結合水
G ケース内の空隙部
P 開弁圧
ΔP 差圧(ケースの内圧と外気圧との差圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極合材を備える正極板、負極板、及びセパレータを有する電極体と、
上記電極体を収容するケースと、
上記ケースを封止する安全弁であって、上記ケースの内圧と外気圧との差圧が所定の開弁圧に達すると、上記ケースの封止を開放して上記ケース内のガスを排出する安全弁と、を備える
リチウムイオン二次電池であって、
上記ケース内に、上記リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、上記正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水であって、脱離により当該第1結合水に由来する第1由来ガスを発生する第1結合水を含み、
上記第1結合水の含有量を、
上記リチウムイオン二次電池の温度が、上記通常使用温度範囲の最高温度を超えた後で、且つ上記正極活物質の分解温度に達する前に、上記ケース内の上記第1由来ガス及び他のガスにより上記差圧が上記開弁圧に達する量としてなる
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極活物質を含む正極合材を備える正極板、負極板、及びセパレータを有する電極体と、
上記電極体を収容するケースと、
上記ケースを封止する安全弁であって、上記ケースの内圧と外気圧との差圧が所定の開弁圧に達すると、上記ケースの封止を開放して上記ケース内のガスを排出する安全弁と、を備える
リチウムイオン二次電池であって、
上記ケース内に、上記リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、上記正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水を含み、
上記ケース内の空隙部の体積をV(cm3)、
上記開弁圧をP(MPa)、
上記第1結合水の含有量をW(g)としたとき、
W>7.93×10-3×V×Pの関係を満たす
リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記第1結合水を、前記正極合材に結合させて含んでなる
リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極活物質を含む正極合材を備える正極板、負極板、及びセパレータを有する電極体と、
上記電極体を収容するケースと、
上記ケースを封止する安全弁であって、上記ケースの内圧と外気圧との差圧が所定の開弁圧に達すると、上記ケースの封止を開放して上記ケース内のガスを排出する安全弁と、を備える
リチウムイオン二次電池であって、
上記リチウムイオン二次電池にかかる通常使用温度範囲の最高温度より高く、上記正極活物質の分解温度より低い温度の範囲で脱離する第1結合水を、上記正極合材に結合させて含み、
上記正極合材における上記第1結合水の含有量は、重量換算で1500ppm以上である
リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記通常使用温度範囲内の温度で脱離する第2結合水を、前記正極合材に結合させて含んでなり、
上記正極合材における上記第2結合水の含有量は、重量換算で2200ppm未満である
リチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記正極活物質は、LiNiO2系の正極活物質であり、
前記第1結合水は、100℃より高く170℃より低い温度の範囲で脱離する水である
リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池であって、
1または複数種類の有機溶媒を有する電解液を含み、
前記第1結合水の含有量を、
上記リチウムイオン二次電池の温度が、上記1または複数種類の有機溶媒の少なくともいずれかの沸点にまで上昇する前に、前記ケース内の上記第1結合水に由来する第1由来ガス及び他のガスにより上記ケースの内圧と外気圧との差圧が前記開弁圧に達する量としてなる
リチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記正極合材は、炭酸塩により、その表面が被覆されてなる
リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記正極板は、
前記正極合材の重量を基準として、前記炭酸塩に含まれる炭酸イオンの重量が0.6wt%以上2.5wt%以下となる量の炭酸塩を含む
リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
少なくとも正極活物質を水に接触させる工程を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
少なくとも正極活物質と水系バインダ樹脂と水とを混合し、第1正極ペーストを作製する正極ペースト作製工程を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記第1正極ペーストを正極基材の表面に塗布する塗布工程と、
上記正極基材の表面に塗布した上記第1正極ペーストを乾燥する正極ペースト乾燥工程を備え、
前記正極ペースト作製工程において、少なくとも正極活物質を水に接触させた時点から、上記正極ペースト乾燥工程において、上記第1正極ペーストの乾燥を開始するまでの時間を、8時間以内とする
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記正極ペースト作製工程において、少なくとも正極活物質を水に接触させた時点から、前記正極ペースト乾燥工程において、前記第1正極ペーストの乾燥を開始するまでの時間を、2時間以上とする
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記塗布工程の後、前記第1正極ペーストを、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第1正極ペーストの表面に炭酸塩を生成させる、または
前記正極ペースト乾燥工程の後、上記第1正極ペーストを乾燥硬化させた第1硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第1硬化物の表面に炭酸塩を生成させる炭酸塩生成工程を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項15】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記正極活物質を水中に浸漬する浸漬工程と、
少なくとも上記水中に浸漬した正極活物質と溶剤系バインダ樹脂と溶剤とを混合し、第2正極ペーストを作製する正極ペースト作製工程と、を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記浸漬工程の後、前記正極ペースト作製工程の前に、前記水中に浸漬した正極活物質を乾燥する正極活物質乾燥工程を備え、
前記浸漬工程において正極活物質を水中に浸漬した時点から、上記正極活物質乾燥工程において上記正極活物質の乾燥を開始するまでの時間を、8時間以内とする
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記浸漬工程において正極活物質を水中に浸漬した時点から、前記正極活物質乾燥工程において上記正極活物質の乾燥を開始するまでの時間を、2時間以上とする
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項18】
請求項15〜請求項17のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記正極活物質乾燥工程の後、前記正極活物質を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記正極活物質の表面に炭酸塩を生成させる、または
前記第2正極ペーストを、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第2正極ペーストを構成する物質の表面に炭酸塩を生成させる、または
上記第2正極ペーストを乾燥硬化させた第2硬化物を、CO2を含むガス雰囲気に晒すことにより、上記第2硬化物の表面に炭酸塩を生成させる炭酸塩生成工程を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−227310(P2007−227310A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50138(P2006−50138)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】