説明

リチウムイオン二次電池、電動工具、電動車両および電力貯蔵システム

【課題】優れた電池容量特性およびサイクル特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】負極22の負極活物質層22Bは、負極活物質として、SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有する。正極21の正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウム複合酸化物を含有する。このリチウム複合酸化物は、リチウム(組成比=a)と、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含む。組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極の正極活物質としてリチウム複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池、ならびにそれを用いた電動工具、電動車両および電力貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用端末機器などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、最近では、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器への応用も検討されている。
【0003】
二次電池としては、さまざまな充放電原理を利用するものが広く提案されているが、中でも、リチウムイオンの吸蔵放出を利用するリチウムイオン二次電池が注目されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池などよりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その正極および負極は、それぞれリチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質および負極活物質を含んでいる。正極活物質としては、リチウムおよび遷移金属を構成元素として有するリチウム複合酸化物が広く用いられている。充放電反応に直接関わる正極活物質の選択は、電池性能に大きな影響を及ぼすため、リチウム複合酸化物の組成に関しては、さまざまな検討がなされている。
【0005】
具体的には、大容量および高電位を得ると共に充放電サイクル特性を向上させるために、Lia MIb MIIc d (MIはMn、NiおよびCo等、MIIはAl等、1.1<a<1.5、0.9<b+c<1.1、1.8<d<2.5)で表されるリチウム複合酸化物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。ただし、MIとMIIとの合計に対するLiの組成比(Li/MIとMIIとの合計)は、モル比で1よりも大きい。
【0006】
Si系またはSn系の負極活物質の不可逆容量に起因する正極容量のロスを改善すると共に、その負極活物質の高容量特性を十分に活用するために、Lih Mni Coj Nik 2 で表されるリチウムリッチのリチウム複合酸化物を用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。ここで、h=[3(1+x)+4a]/3(1+a)、i=[3α(1+x)+2a]/3(1+a)、j=β(1−x)/(1+a)、k=γ(1−x)/(1+a)、0<a<1、α>0、β>0、γ>0、α+β+γ=1、0≦x<1/3である。この複合酸化物は、Li1+x (Mnα Coβ Niγ 1-x 2 ・aLi4/3 Mn2/3 2 で表される固溶体である。しかしながら、サイクル特性は十分に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3873717号明細書
【特許文献2】特開2009−158415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電子機器はますます高性能化および多機能化しており、その使用頻度は増加しているため、リチウムイオン二次電池の充放電は頻繁に繰り返される傾向にある。そこで、電池容量特性およびサイクル特性に関して、さらなる改善が望まれている。
【0009】
特に、負極活物質としては、さらなる高容量化を実現するために、黒鉛などの炭素材料に代えて、ケイ素、スズまたはそれらの酸化物などの金属系材料(リチウムを除く)を用いることが有望視されている。ところが、これらの金属系材料を用いると、初回(1サイクル目)の充放電時において負極で生じる不可逆容量が大きく、その分だけ正極活物質を余分に用いる必要があるため、容量ロスが生じる。また、上記した金属系材料は黒鉛などの炭素材料よりも貴の電位をもち、同じ充電電位で用いる場合、その金属系材料と組み合わせる正極活物質も黒鉛などの炭素材料よりも貴の電位をもつことになるため、サイクル特性が低下しやすくなる。そこで、金属系材料を用いた場合においても電池容量特性およびサイクル特性を確保する必要がある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池容量特性およびサイクル特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えたものである。正極は、リチウム複合酸化物を含有し、負極は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有する。リチウム複合酸化物は、リチウム(組成比=a)と、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含む。組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たす。また、本発明の電動工具、電動車両および電力貯蔵システムは、上記したリチウムイオン二次電池を用いるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、正極が上記した組成のリチウム複合酸化物を含有していると共に、負極がケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有している。この場合には、正極に起因するサイクル特性の劣化が抑制される。おそらく、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化するため、リチウムイオンが安定に吸蔵放出されやすくなるからであると考えられる。また、初回の充電時において充電電圧を高電圧にすれば、正極の充電容量が大幅に増大し、負極で生じる不可逆容量が補填されるため、その不可逆容量に起因する電池容量の低下が抑制される。よって、不可逆容量を増大させる性質を有し、黒鉛などの炭素材料よりも貴の電位をもつ負極活物質を用いても、高い放電容量が得られると共に充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなるため、優れた電池容量特性およびサイクル特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における他のリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のIV−IV線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.リチウムイオン二次電池
1−1.円筒型
1−2.ラミネートフィルム型
2.リチウムイオン二次電池の用途
【0015】
<1.リチウムイオン二次電池>
<1−1.円筒型>
図1および図2は、本発明の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。」)の断面構成を表しており、図2では、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大している。
【0016】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に巻回電極体20および一対の絶縁板12,13が収納されたものであり、いわゆる円筒型である。この巻回電極体20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回されたものである。
【0017】
電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有していると共に、例えば、鉄、アルミニウムまたはそれらの合金などにより形成されている。なお、電池缶11が鉄製である場合には、その電池缶11の表面にニッケルなどが鍍金されていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0018】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(positive temperature coefficient:PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられている。これにより、電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面には、アスファルトが塗布されていてもよい。
【0019】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。正極21には、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されている。負極22には、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされ、電池蓋14と電気的に接続されていると共に、負極リード26は、電池缶11に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0020】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの片面または両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
【0021】
正極活物質層21Bは、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質として、以下で説明する組成を有するリチウム複合酸化物(以下、単に「リチウム複合酸化物」という。)を含んでいる。なお、正極活物質層21Bは、必要に応じて、正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0022】
リチウム複合酸化物は、リチウム(組成比=a)と、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含んでいる。ただし、組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たしている。
【0023】
このリチウム複合酸化物は、リチウム、ならびに第1および第2元素の組成比がa>b+cであることから明らかなように、いわゆるリチウムリッチの複合酸化物であり、過剰のリチウムを構成元素として有している。後述するように、負極22の負極活物質層22Bが負極活物質として不可逆容量を増大させる性質を有する金属系材料を含んでいても、優れた電池容量特性およびサイクル特性が得られるからである。
【0024】
詳細には、二次電池の初回の充電時には、負極22の表面に被膜(SEI(Solid Electrolyte Interface )膜など)が形成されるため、不可逆容量が生じることが知られている。これに伴い、初回の充電時において正極活物質から放出されるリチウムイオンは、不可逆容量を生じさせるために消費される。この場合には、第1元素が上記した組成の範囲内である場合において、リチウム複合酸化物がリチウムリッチであると、初回の充電時において充電電圧を高電圧(例えば4.5V)にすることで、正極活物質から十分な量のリチウムイオンが放出されるため、負極22で生じる不可逆容量が補填される。また、第2元素を含有することで、リチウム複合酸化物の結晶構造も安定に維持される。これにより、負極活物質が不可逆容量を増大させる性質を有し、黒鉛などの炭素材料よりも貴の電位をもつ金属系材料であっても、初回の充放電時において不可逆容量によるロスに起因した電池容量の低下が抑制されると共に、十分なサイクル特性が得られる。
【0025】
なお、金属系材料とは、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料であり、より具体的には、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種である。中でも、ケイ素またはスズの酸化物、より具体的には酸化ケイ素(SiOv :0.2<v<1.4)などは、不可逆容量を増大させやすい性質を有する。正極活物質から放出されたリチウムイオンが酸化物中の酸素と不可逆的に反応(結合)しやすいからである。また、リチウムイオンの吸蔵放出に伴う体積変化が大きいため、導電性が不十分である場合、初回の充放電効率が低下する傾向があるからである。
【0026】
第1元素は、レドックス主体として機能する元素であり、上記したように、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である。すなわち、第1元素は、マンガンおよびニッケルという2種、マンガンおよびコバルトという2種、またはマンガン、ニッケルおよびコバルトという3種である。高い電池容量および電位が得られるからである。中でも、マンガンおよびコバルトが好ましく、マンガン、ニッケルおよびコバルトがより好ましい。電池容量がより高くなるからである。
【0027】
第2元素は、リチウム複合酸化物の結晶構造を安定化させる機能を果たす元素である。このため、リチウム複合酸化物では、充放電を繰り返しても電池容量特性およびサイクル特性が低下しにくくなる。この第2元素は、リチウム複合酸化物(第2元素を構成元素として含まない)の結晶構造中において第1元素の一部と置換されており、その第1元素のサイトに配置されている。中でも、第2元素は、アルミニウムを含むことが好ましい。リチウム複合酸化物の結晶構造がより安定化するからである。
【0028】
リチウム複合酸化物の組成(a〜cの値)は、充放電を繰り返しても優れた電池容量特性およびサイクル特性が得られるように適正化されている。
【0029】
aが1.1<a<1.3であるのは、a≦1.1であると、リチウムの絶対量が不足するため、初回の充放電時における著しい充電容量の増大およびその後の充放電時における放電容量の増大に関する効果が小さいからである。また、a≧1.3であると、リチウム複合酸化物の酸化還元に寄与する遷移金属が減少するため、電池容量が低下すると考えられるからである。中でも、aは1.1<a<1.25であることが好ましい。初回に高電圧充電することで充電容量が確保されると共に、放電容量も増大するからである。これにより、十分な電池容量が得られると共に、安定したサイクル特性も得られる。
【0030】
bおよびcが0.7<b+c<1.1であるのは、その範囲外では単一相の層状構造を有するようにリチウム複合酸化物が形成されにくいと共に、その結晶構造も不安定になるため、電池容量などが低下するからである。なお、bおよびcは、0.7<b+c<0.9であることがより好ましい。より大きな電池容量が得られるからである。
【0031】
cが0<c<0.1であるのは、c=0であると、リチウム複合酸化物の結晶構造が不安定になるからである。また、c≧0.1であると、第1元素の絶対量が相対的に減少しすぎるため、電池容量が低下するからである。なお、第2元素の機能を効果的に発揮させるためには、cは、0.001<c<0.1であることが好ましく、0.005<c<0.1であることがより好ましい。
【0032】
リチウム複合酸化物は、下記の式(1)で表される化合物でもよい。dが1.8<d<2.5であるのは、その範囲外では単一相の層状構造を有するようにリチウム複合酸化物が形成されにくいと共に、その結晶構造も不安定になるため、電池容量などが低下するからである。
【0033】
Lia M1b M2c d ・・・(1)
(M1はマンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である。M2はアルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である。a〜dは1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+c、1.8<d<2.5を満たす。)
【0034】
または、リチウム複合酸化物は、第2元素の濃度がリチウム複合酸化物の表面から中心に向かう方向において不均一に分布しているものでもよく、例えば、第2元素の濃度が中心に向かって変化しているものでよい。この場合には、第2元素の濃度が中心に向かって減少していてもよいし、増加していてもよいし、両者が混在していてもよい。また、第2元素は、リチウム複合酸化物中の表面から中心に至る全領域に存在していてもよいし、表面およびその近傍の一部領域だけに存在していてもよい。
【0035】
このリチウム複合酸化物は、種々の方法により形成される。例えば、各構成元素(Li、第1元素および第2元素など)の供給源となる材料(原料)を混合してから焼成する。この原料は、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、三酸化二マンガン(Mn2 3 )、水酸化ニッケル(Ni(OH)2 )、水酸化コバルト(Co(OH)2 )、硝酸アルミニウム(Al(NO3 3 ・9H2 O)、二酸化チタン(TiO2 )、シュウ酸マグネシウム(MgC2 4 ・2H2 O)または三酸化二ホウ素(B2 3 )などである。より具体的には、例えば、原料を所定比で混合し、エタノールなどを分散媒とするボールミルを用いて混合粉砕したのち、大気中または酸素雰囲気中において焼成する。なお、原料は、上記した各材料に限られず、各原料ごとに炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、酸化物または水酸化物などを任意に選択できる。
【0036】
なお、リチウム複合酸化物の表面に、その表面の少なくとも一部を被覆すると共に第3元素を構成元素として含む被覆層が設けられていることが好ましい。被覆層によりリチウム複合酸化物が保護されるため、充電状態において正極21が強い酸化状態になっても、電解液の分解反応が抑制されると共に、リチウム複合酸化物の分解反応および溶出反応も抑制されるからである。この第3元素は、マグネシウム、カルシウム(Ca)、チタン、ジルコニウム(Zr)、硫黄(S)、フッ素(F)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ホウ素、アルミニウム、リン(P)、炭素(C)、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくとも1種である。
【0037】
第3元素の種類は、第2元素の種類と同じでもよいし、別でもよい。中でも、第3元素は、第2元素と同じ種類の元素を含んでいることが好ましい。リチウム複合酸化物に対する被覆層の密着性がなどが向上するからである。この場合には、特に、第3元素の含有量を制御することで、リチウム複合酸化物の表層領域における結晶構造中に、第3元素の少なくとも一部が取り込まれていることが好ましい。また、リチウム複合酸化物に含まれている第2元素は、被覆層に含まれていた第3元素によりリチウム複合酸化物の構成元素が置換されたものであることが好ましい。
【0038】
「表層領域」とは、リチウム複合酸化物のうちの外側部分(内側部分(中心部分)の周囲を囲む部分)を意味し、具体的には、粒子状の複合酸化物において、その複合酸化物のうちの最表面から粒径(メジアン径)の0.1%に相当する厚さ(深さ)に至る部分である。
【0039】
また、「第3元素が表層領域における結晶構造中に取り込まれている」とは、リチウム複合酸化物の表層領域における結晶構造中において、その結晶構造を構成する元素のうちの少なくとも一部が第3元素により置換されていることを意味する。なお、第3元素は、表層領域において、最表面から中心に向かう方向において均一に分布していてもよいし、その方向において存在量が次第に減少または増加するように分布していてもよい。もちろん、両分布状態が混在していてもよい。
【0040】
リチウム複合酸化物の表層領域における結晶構造中に第3元素の少なくとも一部が取り込まれていると、以下の理由により、電池容量特性およびサイクル特性が向上する。第1に、リチウム複合酸化物の構造安定性(結晶構造など)が向上するため、充放電を繰り返しても正極活物質が破損しにくくなると共に、その正極活物質の抵抗が低下する。第2に、第3元素を含む表層領域によりリチウム複合酸化物の中心部分(第3元素を含んでいない部分)が保護されるため、その中心部分が電解液から隔離される。これにより、充電状態において正極21が強い酸化状態になっても、電解液の分解反応が抑制されると共に、中心部分の分解反応および溶出反応も抑制される。第3に、リチウム複合酸化物の表面に第3元素を含む化合物を成膜し、その化合物でリチウム複合酸化物の表面を被覆した場合と比較して、リチウムイオンの吸蔵放出が阻害されにくくなる。この利点は、上記したように電解液の分解反応が抑制されるため、リチウムイオンの移動を阻害する不活性な被膜が形成されにくくなることによっても得られる。第4に、第3元素がリチウム複合酸化物の結晶構造中に取り込まれているため、その第3元素が結晶構造中に取り込まれていない場合と比較して、充放電を繰り返しても第3元素がリチウム複合酸化物から脱落しにくくなる。
【0041】
中でも、第3元素は、マグネシウムを含むことがより好ましい。電池容量特性およびサイクル特性がより向上するからである。
【0042】
リチウム複合酸化物に取り込まれている第3元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、リチウムの含有量に対して十分に少ないことが好ましい。表層領域に存在する第3元素の絶対量が多すぎると、リチウムイオンの吸蔵放出が阻害される可能性があるからである。中でも、リチウム複合酸化物における第3元素の含有量は、リチウムの含有量に対して0.01mol%〜5mol%であることが好ましい。表層領域による保護機能を維持しつつ、十分な電池容量が得られるからである。
【0043】
この表層領域に第3元素が取り込まれたリチウム複合酸化物は、種々の方法により形成される。例えば、第3元素を含まないリチウム複合酸化物と、その第3元素を含む化合物を用いて、リチウム複合酸化物の表面に第3元素を含む化合物をメカノケミカル反応により被着させてから焼成する。この場合には、第3元素を含む化合物がリチウム複合酸化物と固溶体を形成していることが好ましい。また、第3元素は、リチウム複合酸化物の表層領域における結晶構造中において、過剰に存在するリチウムの一部と置換されていることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、第3元素を含む化合物は、例えば、リン酸マグネシウムなどであるが、第3元素の種類に応じて炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、酸化物または水酸化物などを任意に選択できる。
【0044】
なお、正極活物質は、上記したリチウム複合酸化物と共に他の種類のリチウム複合酸化物を含んでいてもよいし、それらは固溶体になっていてもよい。
【0045】
[正極活物質の分析方法]
正極活物質が上記した構成を有していることを確認するためには、各種の元素分析法を用いて正極活物質を分析すればよい。この元素分析法は、例えば、X線回折(XRD:x-ray diffraction )法、飛行時間型二次イオン質量分析 (TOF−SIMS:time of flight secondary ion mass spectrometry )法、高周波誘導結合プラズマ(ICP:inductively coupled plasma)発光分光分析法、ラマン分光分析法またはエネルギー分散X線分光法(EDX:energy dispersive x-ray spectrometry)などである。この場合には、リチウム複合酸化物の表層領域を酸などで溶解してから分析してもよい。
【0046】
特に、第2元素がリチウム複合酸化物中において不均一に分布していたり、第3元素がリチウム複合酸化物の結晶構造中に取り込まれている場合、その第2元素等が結晶構造の一部を形成していることや、結晶構造中における第2元素等の存在範囲などを調べるためには、XRD法を用いることが好ましい。また、リチウム複合酸化物における第3元素の含有量を調べるためには、例えば、ICP発光分光分析法、TOF−SIMS法またはEDX法などを用いればよい。
【0047】
ICP発光分光分析法を用いる場合の手順は、例えば、以下の通りである。最初に、リチウム複合酸化物に第3元素が取り込まれている正極活物質の粒子に緩衝溶液を加えて攪拌する。続いて、正極活物質の粒子表面が溶解した緩衝溶液を所定時間ごとに採取して、フィルタで濾過する。続いて、ICP発光分光分析法により、各時間ごとに採取した緩衝溶液中におけるリチウムおよび第3元素の質量を測定する。最後に、測定した質量からリチウムおよび第3元素の物質量(mol)を算出して、リチウムに対する第3元素のモル比(mol%)を求める。
【0048】
なお、二次電池において充放電が行われる領域(正極と負極とが対向している領域)では、充放電によりリチウム複合酸化物の結晶構造が失われやすいため、XRD法などでは充放電後において結晶構造を確認できない可能性がある。しかしながら、正極21に充放電が行われない領域(未充放電領域)が存在する場合には、その領域において正極活物質を分析することが好ましい。この未充放電領域では充放電前におけるリチウム複合酸化物の結晶構造が維持されているため、充放電の有無に関係せずに結晶構造を分析できるからである。この「未充放電領域」は、例えば、安全性確保のために正極21(正極活物質層21B)の端部表面に絶縁性の保護テープが貼り付けられているため、その絶縁性の保護テープの存在に起因して正極21と負極22との間で充放電を行うことができない領域などである。このように未充放電領域を分析することが好ましいことは、第3元素の含有量を調べる場合においても同様である。
【0049】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種または2種以上である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはポリイミドなどである。
【0050】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのいずれか1種または2種以上である。炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0051】
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aの片面または両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0052】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理で微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中で電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法で作製された銅箔は、一般に電解銅箔と呼ばれている。
【0053】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および正極導電剤と同様である。この負極活物質層22Bでは、例えば、充放電時において意図せずにリチウム金属が析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0054】
負極材料は、例えば、炭素材料である。リチウムイオンの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂あるいはフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0055】
また、負極材料は、例えば、金属元素および半金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を構成元素として有する材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、金属元素または半金属元素の単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種以上でもよいし、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、本発明における合金には、2種以上の金属元素からなる材料に加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種以上の共存物などがある。
【0056】
上記した金属元素または半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素であり、具体的には、以下の元素の1種または2種以上である。マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)、スズまたは鉛(Pb)である。ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム、イットリウム、パラジウム(Pd)または白金(Pt)である。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方が好ましい。リチウムイオンを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0057】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料は、ケイ素またはスズの単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種以上でもよいし、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0058】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として以下の元素の1種または2種以上を有する材料である。スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムである。ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として酸素または炭素を有するものが挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した元素のいずれか1種または2種以上を有していてもよい。
【0059】
ケイ素の合金または化合物は、例えば、以下の材料などである。SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 またはTaSi2 である。VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)またはLiSiOである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0060】
スズの合金は、例えば、スズ以外の構成元素として以下の元素の1種または2種以上を有する材料などである。ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムである。スズの化合物としては、例えば、酸素または炭素を構成元素として有する材料などが挙げられる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素としてスズの合金について説明した元素のいずれか1種または2種以上を有していてもよい。スズの合金または化合物としては、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOまたはMg2 Snなどが挙げられる。
【0061】
また、スズを有する材料としては、例えば、スズを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料が好ましい。第2構成元素は、例えば、以下の元素の1種または2種以上である。コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウムまたはジルコニウムである。ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマスまたはケイ素である。第3構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンの1種または2種以上である。第2および第3構成元素を有すると、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0062】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を有する材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料の組成としては、例えば、炭素の含有量が9.9質量%〜29.7質量%であり、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0063】
このSnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
【0064】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、炭素の存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
【0065】
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態については、例えば、X線光電子分光法(XPS:x-ray photoelectron spectroscopy)で確認できる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。炭素の少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0066】
なお、SnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。このような他の構成元素としては、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムおよびビスマスの1種または2種以上が挙げられる。
【0067】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は9.9質量%〜29.7質量%であり、鉄の含有量は0.3質量%〜5.9質量%であり、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は11.9質量%〜29.7質量%である。また、スズ、コバルトおよび鉄の含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%であり、コバルトおよび鉄の含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0068】
また、他の負極材料は、例えば、金属酸化物または高分子化合物などである。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0069】
負極活物質層22Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法または焼成法(焼結法)、あるいはそれらの2種以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、有機溶剤などの溶媒に分散させて塗布する方法である。気相法としては、例えば、物理堆積法または化学堆積法などが挙げられる。具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition )法またはプラズマ化学気相成長法などである。液相法としては、例えば、電解鍍金法または無電解鍍金法などが挙げられる。溶射法とは、負極活物質を溶融状態または半溶融状態で吹き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0070】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23には、液状の電解質(電解液)である電解液が含浸されている。セパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、それらの2種以上の多孔質膜が積層されたものでもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどである。
【0071】
[電解液]
電解液は、溶媒および電解質塩を含んでおり、必要に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。
【0072】
溶媒は、例えば、以下で説明する非水溶媒(有機溶媒)のいずれか1種または2種以上である。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランである。2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンまたは1,4−ジオキサンである。酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルまたはトリメチル酢酸エチルである。アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンまたはN−メチルオキサゾリジノンである。N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0073】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0074】
特に、溶媒は、1または2以上の不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル(不飽和炭素結合環状炭酸エステル)でもよい。充放電時において負極22表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。なお、非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0075】
また、溶媒は、1または2以上のハロゲン基を有する鎖状炭酸エステル(ハロゲン化鎖状炭酸エステル)、および1または2以上のハロゲン基を有する環状炭酸エステル(ハロゲン化環状炭酸エステル)のうちの1種でもよい。充放電時において負極22表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン基の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素基、塩素基または臭素基が好ましく、フッ素基がより好ましい。高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲン基の数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。なお、非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0076】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)でもよい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。なお、非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0077】
さらに、溶媒は、酸無水物でもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、ジカルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。ジカルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。なお、非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0078】
[電解質塩]
電解質塩は、例えば、以下で説明するリチウム塩のいずれか1種または2種以上である。ただし、電解質塩は、リチウム塩以外の他の塩(例えばリチウム塩以外の軽金属塩)でもよい。
【0079】
リチウム塩は、例えば、以下の化合物などである。六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )または六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )である。テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )またはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )である。六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)または臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0080】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0081】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0082】
なお、正極21(正極活物質層21B)、負極22(負極活物質層22B)および電解液のうちの少なくとも1つは、2種以上のオキソ酸の縮合物であるヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物のうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。初回の充電時において電極の表面に被膜(SEI膜)が形成されるからである。リチウムイオンを吸蔵放出できるヘテロポリ酸化合物由来の被膜は優れたリチウムイオンの透過性を有するため、電極と電解液との反応を抑制しながら、サイクル特性を低下させずに、正極活物質などの分解反応に起因するガス(酸素ガスなど)の発生が抑制される。これにより、二次電池の膨れを抑制できる。
【0083】
ヘテロポリ酸化合物およびヘテロポリ酸化合物を構成するヘテロポリ酸は、下記の元素群(a)から選択されるポリ原子を有する化合物、または、元素群(a)から選択されるポリ原子を有すると共にそのポリ原子の一部が元素群(b)から選択される少なくともいずれかの元素により置換された化合物である。
である。
元素群(a):Mo、W、Nb、V
元素群(b):Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、Re、Tl、Pb
【0084】
また、ヘテロポリ酸化合物およびへテロポリ酸は、下記の元素群(c)から選択されるヘテロ原子を有する化合物、または、元素群(c)から選択されるヘテロ原子を有すると共にそのへテロ原子の一部が元素群(d)から選択される少なくともいずれかの元素により置換された化合物である。
元素群(c):B、Al、Si、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、As
元素群(d):H、Be、B、C、Na、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Rh、Sn、Sb、Te、I、Re、Pt、Bi、Ce、Th、U、Np
【0085】
具体的には、ヘテロポリ酸化合物に含まれるヘテロポリ酸は、例えば、リンタングステン酸、ケイタングステン酸などのヘテロポリタングステン酸や、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸などのヘテロポリモリブデン酸である。また、複数のポリ元素を含む材料としては、リンバナドモリブデン酸、リンタングトモリブデン酸、ケイバナドモリブデン酸、ケイタングトモリブデン酸などが挙げられる。
【0086】
ヘテロポリ酸化合物は、例えば、下記の式(2)〜式(5)で表される化合物のうちの少なくとも1種である。
【0087】
x y (BD6 24)・zH2 O ・・・(2)
(Aはリチウム、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンモニウム(NH4 )、アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。Bはリン、ケイ素、ヒ素(As)またはゲルマニウム(Ge)である。Dはチタン、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、スズ、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)およびタリウム(Tl)のうちの少なくとも1種である。xは0≦x≦8、0≦y≦8、0≦z≦50であり、xおよびyのうちの少なくとも一方は0でない。)
【0088】
x y (BD1240)・zH2 O ・・・(3)
(Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンモニウム、アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。Bはリン、ケイ素、ヒ素またはゲルマニウムである。Dはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ロジウム、カドミウム、インジウム、スズ、タンタル、タングステン、レニウムおよびタリウムのうちの少なくとも1種である。xは0≦x≦4、0≦y≦4、0≦z≦50であり、xおよびyのうちの少なくとも一方は0でない。)
【0089】
x y (B2 1862)・zH2 O ・・・(4)
(Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンモニウム、アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。Bはリン、ケイ素、ヒ素またはゲルマニウムである。Dはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ロジウム、カドミウム、インジウム、スズ、タンタル、タングステン、レニウムおよびタリウムのうちの少なくとも1種である。xは0≦x≦8、0≦y≦8、0≦z≦50であり、xおよびyのうちの少なくとも一方は0でない。)
【0090】
x y (B5 30110 )・zH2 O ・・・(5)
(Aはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンモニウム、アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。Bはリン、ケイ素、ヒ素またはゲルマニウムである。Dはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ロジウム、カドミウム、インジウム、スズ、タンタル、タングステン、レニウムおよびタリウムのうちの少なくとも1種である。xは0≦x≦15、0≦y≦15、0≦z≦50であり、xおよびyのうちの少なくとも一方は0でない。)
【0091】
中でも、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸およびケイタングステン酸のうちの少なくとも1種が好ましい。より高い効果が得られるからである。また、正極活物質層22Bにおけるヘテロポリ酸等の含有量は、0.01重量%〜3重量%であることが好ましい。電池容量などを大幅に低下させずに、ガス発生が抑制されるからである。
【0092】
ヘテロポリ酸化合物は、例えばLi+ 、Na+ 、K+ 、Rb+ およびCs+ 、ならびにR4 + 、R4 + (なお、式中、RはHあるいは炭素数10以下の炭化水素基である)等の陽イオンを有することが好ましい。また、陽イオンとしては、Li+ 、テトラ−ノルマル−ブチルアンモニウムあるいはテトラ−ノルマル−ブチルホスホニウムであることがより好ましい。
【0093】
具体的には、ヘテロポリ酸化合物は、例えば、ケイタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸テトラ−テトラ−n−ブチルホスホニウム塩などのヘテロポリタングステン酸化合物である。また、ヘテロポリ酸化合物は、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸トリ−テトラ−n−ブチルアンモニウム塩などのヘテロポリモリブデン酸化合物である。さらに、複数のポリ元素を含む化合物としては、リンタングトモリブデン酸トリ−テトラ−n−アンモニウム塩などが挙げられる。これらのヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、2種以上混合して用いてもよい。これらのヘテロポリ酸やヘテロポリ酸化合物は、溶媒に溶解しやすく、また電池中において安定しており、他の材料と反応する等の悪影響を及ぼしにくい。
【0094】
上記したように、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、ガス発生の抑制などに寄与する。このため、正極21および負極22のうちの少なくとも一方に、ゲル状の被膜、より具体的にはヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物のうちの少なくとも一方に由来するゲル状の被膜が設けられていることが好ましい。このゲル状の被膜は、充電時や予備充電時にヘテロポリ酸またはヘテロポリ酸化合物が電解して3次元網目構造に析出した析出物を含んでいる。すなわち、ゲル状の被膜は、1種以上のポリ元素を有する非晶質のポリ酸およびポリ酸塩化合物のうちの少なくとも一方を含んでおり、その非晶質のポリ酸およびポリ酸化合物が電解液を含むことでゲル状になっている。この被膜は、厚さ方向に成長するが、リチウムイオンの伝導性に悪影響を及ぼしにくい。そして、セパレータ23と正極21や負極22とが接触して急激に大電流が流れることを防止し、二次電池の瞬間的な発熱を抑制する。ゲル状の被膜は、正極21等の表面の少なくとも一部に設けられていればよい。なお、ゲル状の被膜の存在および組成などに関しては、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、X線吸収微細構造(XAFS:X-ray absorption fine structure )解析、TOF−SIMS法などで確認できる。
【0095】
上記したゲル状の被膜は、負極22におけるポリ酸およびポリ酸化合物のうちの少なくとも一方の一部が還元され、ポリ原子の価数が6価未満になっており、一方で、還元されず、ポリ原子イオンの価数にして6価として存在するポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方も同時に存在していることが好ましい。このように還元状態にあるポリ原子イオンと非還元状態にあるポリ原子イオンとが混在することにより、ガス吸収効果を有するポリ酸およびポリ酸化合物の安定性が高くなり、電解液に対する耐性向上が見込まれる。析出したポリ酸およびポリ酸化合物の少なくとも一方の還元状態は、X線光電子分光(XPS)分析により確認することができる。この場合、電池を解体後に、炭酸ジメチルで洗浄を行う。表面に存在する低揮発性の溶媒成分および電解質塩を除去するためである。サンプリングは可能な限り、不活性雰囲気下で行うことが望ましい。また、複数のエネルギーに帰属されるピークの重畳が疑われる場合には、測定したスペクトルに対して波形解析を行ってピークを分離することで、6価および6価未満のタングステンまたはモリブデンイオンに帰属されるピークの有無を判断することができる。
【0096】
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0097】
この場合には、初回の充電時における充電電圧(正極電位:対リチウム金属標準電位)を高電圧にすることが好ましく、具体的には4.4V以上にすることが好ましい。上記したように、初回の充電時において負極22における不可逆容量の発生反応を実質的に完了させるためである。ただし、リチウム複合酸化物の分解反応を抑制するために、初回の充電時における充電電圧は、極端に高すぎないことが好ましく、具体的には4.6V以下であることが好ましい。
【0098】
なお、初回以降の充電時における充電電圧(正極電位:対リチウム金属標準電位)は、特に限定されないが、中でも、初回の充電時における充電電圧よりも低いことが好ましく、具体的には4.3V前後であることが好ましい。電池容量を得るために正極活物質からリチウムイオンが円滑に放出されると共に、電解液の分解反応およびセパレータの溶解反応などが抑制されるからである。
【0099】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0100】
まず、正極21を作製する。正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。続いて、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0101】
次に、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合した負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、必要に応じて負極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0102】
なお、正極21とは異なる手順により、負極22を作製してもよい。例えば、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、負極活物質層22Bを形成する。
【0103】
最後に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。最初に、溶接法などを用いて、正極集電体21Aに正極リード25を取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層してから巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて、正極リード25の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に取り付ける。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。続いて、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめる。
【0104】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池によれば、負極22の負極活物質層22Bが金属系材料(ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料)を含んでいる場合において、正極21の正極活物質層21Bが上記した組成のリチウム複合酸化物を含んでいる。この場合には、上記したように、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化するため、リチウムイオンが安定に吸蔵放出されやすくなる。また、初回の充電時における充電電圧を高電圧にすれば、負極22で生じる不可逆容量が補填される。よって、不可逆容量を増大させる性質を有し、炭素材料よりも貴の電位をもつ負極活物質を用いても、高い放電容量が得られると共に充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなるため、優れた電池容量特性およびサイクル特性を得ることができる。
【0105】
特に、リチウム複合酸化物の表面に、その表面の少なくとも一部を被覆すると共に第3元素を構成元素として含む被覆層が設けられていれば、サイクル特性をより向上させることができる。中でも、リチウム複合酸化物の構成元素が第3元素により置換されており、そのリチウム複合酸化物における第3元素の含有量がリチウムの含有量に対して0.01mol%〜5mol%であれば、より高い効果を得ることができる。
【0106】
また、正極21、負極22および電解液のうちの少なくとも1つが式(2)〜式(5)に示したヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物のうちの少なくとも1種を含んでいれば、二次電池の膨れを抑制できる。
【0107】
<1−2.ラミネートフィルム型>
図3は、本発明の一実施形態における他のリチウムイオン二次電池の分解斜視構成を表しており、図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面を拡大して示している。以下では、既に説明した円筒型のリチウムイオン二次電池の構成要素を随時引用する。
【0108】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されたものであり、いわゆるラミネートフィルム型である。この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものである。正極33には正極リード31が取り付けられていると共に、負極34には負極リード32が取り付けられている。この巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37により保護されている。
【0109】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0110】
外装部材40は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウム箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0111】
中でも、外装部材40としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムでもよい。
【0112】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0113】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ35の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0114】
電解質層36は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層36は、いわゆるゲル状の電解質である。高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。
【0115】
高分子化合物は、例えば、以下の高分子材料などのいずれか1種または2種以上である。ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンまたはポリフッ化ビニルである。ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンまたはポリカーボネートである。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0116】
電解液の組成は、円筒型の場合と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液の非水溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0117】
なお、ゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0118】
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極33から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極34から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して正極53に吸蔵される。この場合においても、初回の充電時において負極34における不可逆容量の発生反応を実質的に完了させるために、初回の充電時における充電電圧を初回以降の充電時における充電電圧よりも高くすることが好ましい。
【0119】
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0120】
第1手順では、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極33および負極34を作製する。この場合には、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などの溶媒とを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極33および負極34に塗布してゲル状の電解質層36を形成する。続いて、溶接法などを用いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層してから巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて外装部材40の外周縁部同士を接着させて巻回電極体30を封入する。この場合には、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。
【0121】
第2手順では、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33および負極34を積層してから巻回させて巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付ける。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40を密封する。続いて、モノマーを熱重合させる。これにより、高分子化合物が形成されるため、ゲル状の電解質層36が形成される。
【0122】
第3手順では、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種または2種以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材40の開口部を密封する。続いて、外装部材40に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層36が形成される。
【0123】
この第3手順では、第1手順よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層36中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0124】
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極34の負極活物質層34Bが負極活物質として金属系材料(ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料)を含んでいる場合において、正極33の正極活物質層33Bが上記した組成のリチウム複合酸化物を含んでいる。よって、円筒型と同様の理由により、優れた電池容量特性およびサイクル特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、円筒型と同様である。
【0125】
<2.リチウムイオン二次電池の用途>
次に、上記したリチウムイオン二次電池の適用例について説明する。
【0126】
この二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。後者の場合、主電源は二次電池に限られない。
【0127】
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノートパソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末(PDA:personal digital assistant)などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの生活用電気器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電動車両(ハイブリッド自動車を含む)である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。
【0128】
中でも、二次電池は、電動工具、電動車両または電力貯蔵システムなどに適用されることが有効である。二次電池について優れた特性が要求されるため、本発明の二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動するものである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)するものであり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その二次電池に貯蔵された電力が必要に応じて消費されることにより、家庭用電気製品などの各種機器が使用可能になる。
【実施例】
【0129】
本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0130】
(実験例1−1〜1−25)
[正極活物質の合成]
以下の手順により、正極活物質を得た。まず、原料である炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸マンガン(MnCO3 )と水酸化ニッケル(Ni(OH)2 )と水酸化コバルト(Co(OH)2 )と硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3 3 ・9H2 O)とを混合したのち、メカノケミカル(MC:mechanochemical )法を用いて十分に混合粉砕した。この場合には、MC法として、水を分散媒とするボールミルを用いた。また、得られるリチウム複合酸化物の組成(Liと第1元素M1と第2元素M2とのモル比)が表1に示した値となるように原料の配合比を調整した。続いて、得られた混合物を大気中で850℃×12時間焼成して、第1元素M1としてマンガン、ニッケルおよびコバルト、第2元素M2としてアルミニウムをそれぞれ含むリチウム複合酸化物(Li1.13(Mn0.6 Ni0.2 Co0.2 0.87Al0.012 )を合成した。
【0131】
この他、表1および表2に示したように、原料として二酸化チタン(TiO2 )、シュウ酸マグネシウム(MgC2 4 ・2H2 O)および三酸化二ホウ素(B2 3 )を追加すると共に、原料の配合比に応じてリチウム複合酸化物の組成を変更したことを除いて、同様の手順により、一連の正極活物質を得た。
【0132】
また、必要に応じて、表2に示したように、リチウム複合酸化物の形成方法を変更すると共に、リチウム複合酸化物の表面に第3元素M3を含む被覆層を形成したことを除いて、同様の手順により、一連の正極活物質を得た。
【0133】
リチウム複合酸化物の形成方法として共沈法を用いる場合には、原料である硫酸ニッケル(NiSO4 )と硫酸コバルト(CoSO4 )と硫酸マンガン(MnSO4 )とアルミン酸ナトリウム(NaAlO2 )とを混合して水に溶解させたのち、十分に攪拌しながら水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて、マンガン・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合共沈水酸化物を得た。この場合には、マンガンとニッケルとコバルトとのモル比がMn:Ni:Co=60:20:20、アルミニウムとマンガン、ニッケルおよびコバルトとのモル比がAl:(Mn+Ni+Co)=1:86となるように原料の配合比を調整した。続いて、共沈物を水洗して乾燥させたのち、水酸化ナトリウム一水和塩を加えて前駆体を得た。この場合には、リチウムとマンガン、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムとのモル比がLi:(Mn+Ni+Co+Al)=113:87となるように配合比を調整した。続いて、前駆体を大気中で850℃×12時間焼成したのち、室温まで冷却してから粉砕して、リチウム複合酸化物(Li1.13(Mn0.6 Ni0.2 Co0.2 0.87Al0.012 )を得た。レーザ散乱法を用いてリチウム複合酸化物の粒子径を測定したところ、平均粒子径は11μmであった。
【0134】
リチウム複合酸化物の表面に被覆層を形成する場合には、MC法を用いて合成されたリチウム複合酸化物に対して、第3元素M3を含む化合物であるリン酸マグネシウムをLi:Mg=100:1のモル比となるように秤量および混合した。続いて、メカノケミカル装置を用いて1時間処理して、リチウム複合酸化物の表面にリン酸マグネシウムを被着させた。続いて、毎分3℃の速度で昇温して900℃×3時間焼成した。これにより、表層領域に第3元素M3(マグネシウム)が取り込まれたリチウム複合酸化物を得た。この第3元素M3の含有量は、リチウムの含有量に対して1mol%である。
【0135】
[二次電池の作製]
上記した正極活物質を用いて電池性能を調べるために、図3および図4に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0136】
まず、正極33を作製した。表1および表2に示した正極活物質90質量部と、正極結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF:polyvinylidene difluoride )5質量部と、正極導電剤であるアモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)5質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に正極合剤を分散させて、正極合剤スラリーを得た。続いて、正極集電体33A(アルミニウム箔:厚さ=15μm)の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、温風で乾燥させて正極活物質層33Bを形成した。続いて、ロールプレス機を用いて正極活物質層33Bを圧縮成型したのち、帯状(48mm×300mm)に切断した。
【0137】
次に、負極34を作製した。表1および表2に示した負極活物質とポリイミドの20重量%NMP溶液とを7:2の質量比で混合して、負極合剤スラリーを得た。この負極活物質としては、ケイ素の単体、スズの単体(いずれもメジアン径は10μm)または酸化ケイ素(SiO:メジアン径は7μm)を用いた。続いて、バーコータ(ギャップ=35μm)を用いて負極集電体34A(銅箔:厚さ=15μm)の両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから80℃で乾燥させたのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型すると共に700℃×3時間加熱して負極活物質層34Bを形成した。最後に、負極活物質層34Bを帯状(50mm×310mm)に切断した。
【0138】
次に、電解液を調製した。溶媒である炭酸エチレン(EC)および炭酸エチルメチル(EMC)を混合したのち、電解質塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この場合には、溶媒の組成(質量比)をEC:EMC=50:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/dm3 (=1mol/l)とした。なお、必要に応じて、電解液にヘテロポリ酸であるケイタングステン酸(0.5重量%)を加えた。
【0139】
最後に、正極33および負極34を用いて二次電池を組み立てた。この場合には、正極33の正極集電体33Aにアルミニウム製の正極リード25を溶接すると共に、負極34の負極集電体34Aに銅製の負極リード26を溶接した。続いて、セパレータ35(微孔性ポリエチレンフィルム:厚さ=25μm)を介して正極33と負極34とを積層すると共に長手方向に巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を貼り付けた。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、外装部材40の3辺における外周縁部同士を熱融着して袋状にした。この外装部材40は、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=25μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された耐湿性のアルミラミネートフィルムである。続いて、外装部材40の内部に電解液を注入してセパレータ35に含浸させたのち、減圧環境中において外装部材40の残りの1辺を熱融着した。
【0140】
[電池性能の測定]
上記したラミネートフィルム型の二次電池を用いて電池容量特性、サイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。
【0141】
電池容量特性およびサイクル特性を調べる場合には、以下の手順により、放電容量(2サイクル目の放電容量)および容量維持率(300サイクル後の容量維持率)を求めた。23℃の環境中において二次電池を2サイクル充放電させて、2サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。続いて、サイクル数の合計が300回になるまで二次電池を充放電させて、300サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。これらの結果から、容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。なお、1サイクル目の充放電時には、0.2Cの電流で電池電圧が4.5Vに到達するまで定電流充電し、引き続き4.5Vの定電圧で電流値が0.01Cに絞られるまで定電圧充電したのち、0.1Cの電流で電池電圧が2.5Vに到達するまで定電流充電した。2サイクル目以降の充放電時には、定電流充電時の目標電池電圧を4.25Vに変更したことを除いて、1サイクル目と同様の条件で充放電した。0.2C、0.01Cおよび0.1Cとは、それぞれ電池容量を5時間、100時間および10時間で放電しきる電流値である。なお、表1および表2に示した放電容量は、後述する実験例2−1の放電容量を100として規格化した値である。
【0142】
膨れ特性を調べる場合には、充放電前の二次電池の厚さ(mm)を測定したのち、その二次電池を1サイクル充放電させて充放電後の厚さ(mm)を測定した。この結果から、膨れ量(mm)=充放電後の厚さ−充放電前の厚さを算出した。なお、充放電条件は、電池容量特性等を調べた場合における1サイクル目の充放電条件と同様である。
【0143】
【表1】

【0144】
【表2】

【0145】
(実験例2−1〜2−23)
比較のために、表3および表4に示したように、正極活物質の組成および負極活物質の種類を変更したことを除いて、実験例1−1〜1−25と同様の手順により、正極活物質を合成すると共に二次電池を作製した。負極活物質としては、炭素材料であるメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)を用いた。この二次電池の電池性能を調べたところ、表3および表4に示した結果が得られた。
【0146】
【表3】

【0147】
【表4】

【0148】
負極活物質として炭素材料を用いた場合には、正極活物質としてリチウム複合酸化物を用いても、放電容量は変化せず、容量維持率はほとんど高くならなかった。これに対して、負極活物質として金属系材料を用いた場合には、正極活物質としてリチウム複合酸化物を用いると、そのリチウム複合酸化物が所定の組成を有する場合において、容量維持率が著しく高くなった。この利点は、金属系材料の種類およびリチウム複合酸化物の形成方法に依存せずに得られた。
【0149】
上記した結果は、放電容量および容量維持率に寄与するリチウム複合酸化物の特別な機能が、負極活物質として炭素材料を用いた場合にはほとんど発揮されず、金属系材料を用いた場合において特異的に発揮されることを表している。すなわち、リチウム複合酸化物を金属系材料と組み合わせて用いなければ、放電容量および容量維持率が向上するという有利な効果が得られないということである。
【0150】
この理由は、以下の通りであると考えられる。炭素材料を用いると、その放電電位がケイ素などの金属系材料よりも卑であり、同じ高電圧充電の場合、正極活物質の電位も卑側となるため、その正極活物質が劣化しにくい傾向にある。この場合には、リチウム複合酸化物の特別な機能が発揮されないため、電池性能にほとんど変化が見られない。これに対して、金属系材料を用いると、その放電電位が炭素材料も貴であるため、高電位時において正極活物質がもともと劣化しやすい傾向にある。この場合には、高電位の厳しい条件下において正極活物質の劣化を抑制するというリチウム複合酸化物の特別な機能が発揮されるため、電池性能が向上するという画期的な変化が見られれる。
【0151】
この他、リチウム複合酸化物の表面に第3元素M3を含む被覆層を設けると、放電容量維持率がほぼ維持されたまま、容量維持率がより高くなった。また、電解液が添加剤としてヘテロポリ酸を含んでいると、膨れ量が著しく減少した。
【0152】
表1〜表4の結果から、負極活物質が金属系材料である場合において、正極極活物質が上記した組成のリチウム複合酸化物であると、優れた電池容量特性およびサイクル特性が得られた。
【0153】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、実施形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の正極活物質は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とリチウム金属の析出溶解に伴う容量とを含み、それらの容量の和により表されるリチウムイオン二次電池についても、同様に適用可能である。この場合には、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0154】
また、実施形態および実施例では、電池構造が円筒型またはラミネートフィルム型である場合、あるいは電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これに限られない。本発明のリチウムイオン二次電池は、コイン型、角型またはボタン型などの他の電池構造を有する場合、あるいは電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても、同様に適用可能である。
【0155】
また、実施形態および実施例では、式(1)に示したリチウム複合酸化物の組成(a〜dの値)について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、組成が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本発明の効果が得られるのであれば、上記した範囲から組成が多少外れてもよい。
【0156】
また、例えば、本発明の正極活物質は、リチウムイオン二次電池に限らず、キャパシタなどの他のデバイスに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0157】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極は、リチウム複合酸化物を含有し、
前記負極は、ケイ素(Si)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有し、
前記リチウム複合酸化物は、リチウム(Li:組成比=a)と、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)のうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびホウ素(B)のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含み、前記組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たす、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物は下記の式(1)で表される化合物である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
Lia M1b M2c d ・・・(1)
(M1はマンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である。M2はアルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である。a〜dは1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+c、1.8<d<2.5を満たす。)
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物中において、前記第2元素の濃度は、前記リチウム複合酸化物の表面から中心に向かう方向において不均一に分布している、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記第1元素はマンガン、ニッケルおよびコバルトであると共に、前記第2元素はアルミニウムを含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記組成比aは1.1<a<1.25を満たす、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料は酸化物である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記リチウム複合酸化物の表面に、その表面の少なくとも一部を被覆すると共に第3元素を構成元素として含む被覆層が設けられており、
前記第3元素は、マグネシウム、カルシウム(Ca)、チタン、ジルコニウム(Zr)、硫黄(S)、フッ素(F)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ホウ素、アルミニウム、リン(P)、炭素(C)、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくとも1種である、
請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記第3元素は、前記第2元素と同じ種類の元素を含む、請求項7記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記第2元素は、前記被覆層に含まれていた前記第3元素により前記リチウム複合酸化物の構成元素が置換されたものである、請求項8記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記第3元素はマグネシウムを含む、請求項7記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記リチウム複合酸化物の構成元素の一部は前記第3元素により置換されており、前記リチウム複合酸化物における前記第3元素の含有量は前記リチウムの含有量に対して0.01mol%〜5mol%である、請求項7記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記被覆層は、前記リチウム複合酸化物の表面に前記第3元素を含む化合物がメカノケミカル反応により被着されてから焼成されたものである、請求項7記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記第3元素を含む化合物は前記リチウム複合酸化物と固溶体を形成している、請求項12記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
前記正極、前記負極および前記電解液のうちの少なくとも1つは、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物のうちの少なくとも一方を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項15】
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方にゲル状の被膜が設けられ、そのゲル状の被膜は、1種以上のポリ元素を有する非晶質のポリ酸およびポリ酸塩化合物のうちの少なくとも一方を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
前記ゲル状の被膜は、ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物のうちの少なくとも一方に由来する、請求項15記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項17】
前記ポリ酸およびポリ酸塩化合物のうちの少なくとも一方は、6価のポリ原子イオンと、6価未満のポリ原子イオンとを含む、請求項15記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項18】
正極および負極と共に電解液を備えたリチウムイオン二次電池を電源として可動し、
前記正極は、リチウム複合酸化物を含有し、
前記負極は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有し、
前記リチウム複合酸化物は、リチウム(組成比=a)と、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含み、前記組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たす、
電動工具。
【請求項19】
正極および負極と共に電解液を備えたリチウムイオン二次電池を電源として作動し、
前記正極は、リチウム複合酸化物を含有し、
前記負極は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有し、
前記リチウム複合酸化物は、リチウム(組成比=a)と、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含み、前記組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たす、
電動車両。
【請求項20】
正極および負極と共に電解液を備えたリチウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用い、
前記正極は、リチウム複合酸化物を含有し、
前記負極は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有し、
前記リチウム複合酸化物は、リチウム(組成比=a)と、マンガン、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくともマンガンを含む2種以上である第1元素(組成比=b)と、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびホウ素のうちの少なくとも1種である第2元素(組成比=c)とを構成元素として含み、前記組成比a〜cは、1.1<a<1.3、0.7<b+c<1.1、0<c<0.1、a>b+cを満たす、
電力貯蔵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−142154(P2012−142154A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293267(P2010−293267)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】