説明

リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法、及び有価物を含有する回収物

【課題】リチウムイオン二次電池からコバルトなどの有価物を高い回収率で回収でき、かつ有価物を含有する回収物への鉄などの不純物の混入量が少なく、更に工程が簡単な有価物の回収方法などの提供。
【解決手段】金属製の電池ケース内に有価物を含むリチウムイオン二次電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を液体とともに撹拌して前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を分離する分離工程と、前記分離工程により分離された前記内容物と前記金属製の電池ケースとを選別し、前記有価物を含有する回収物を得る選別工程とを含むリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、並びに使用機器及び電池の寿命に伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池等からコバルトなどの有価物を回収可能な、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法、及び該回収方法により得られる有価物を含有する回収物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、高起電力の二次電池であり、パソコン、電気自動車、携帯機器などの二次電池として使用されている。リチウムイオン二次電池の正極には、コバルトやニッケルなどの有価物が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、三元系正極材(LiNiCoMn2(x+y+z))などとして使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、今後も使用の拡大が予想されていることから、製造過程で発生した不良品や使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池からコバルトなどの有価物を回収することが、資源リサイクルの観点から望まれている。
リチウムイオン二次電池から前記有価物を回収する際には、使用されている種々の金属を分離して回収することが、回収物の価値を高める点から重要である。特に、鉄などと、前記有価物を分離して回収することは、有価物を含有する回収物の価値を高める点で非常に重要である。
【0004】
有価物の回収方法としては、使用済みリチウム二次電池を350℃以上の温度で一次焙焼し、次にせん断系の破砕機により破砕した後、破砕物を篩分けし、更に篩下を二次焙焼し、酸で処理し、この処理液に酸化性ガスを吹き込みながらpHを4〜5.5に調整して濾過した後、濾液にアルカリを添加し、更に濾過して沈殿物を回収する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、使用済みリチウム二次電池を350℃以上の温度で焙焼し、次にせん断系の破砕機により破砕した後、破砕物を篩分けし、篩下を磁力選別するコバルトの回収方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、これらの提案の技術では、破砕工程において、次工程である篩選別工程の際にコバルトなどの有価物と電池ケース(筐体)に用いられる鉄などの他の金属とが充分に分離可能な状態にまで破砕されていないため、篩選別後の篩上にもコバルトなどの有価物が残存してしまう。その結果、篩下に得られる回収物における有価物の回収率が低くなるという問題がある。なお、篩上には鉄などが含まれるため、篩上から有価物を回収することは、更に多くの工程が必要となり、経済的ではない。また、せん断系の破砕機を使用した場合、粒子の小さい鉄が発生し篩下の回収物に混入する。鉄、コバルトともに磁着することから、篩選別後にコバルトを磁力選別する際に、鉄も同時に回収してしまい、回収物に鉄が不純物として混入するという問題がある。
また、乾式にて破砕や篩選別を行った際に負極のカーボンを主とする粉塵が発生し、爆発する危険性があるという問題がある。
【0005】
また、焙焼をせず、リチウムイオン二次電池を解体した後に、アルコールを用いて、ボールミルで分離を行うことが提案されている(特許文献3参照)。しかし、この提案の技術では、数回の分離工程が必要であるという問題や、電池ケース(筐体)の金属としての鉄が粉砕され、電極に含有される有価物と混合し、回収物に鉄が不純物として多く混入してしまうという問題がある。
【0006】
したがって、リチウムイオン二次電池からコバルトなどの有価物を高い回収率で回収でき、かつ有価物を含有する回収物への鉄などの不純物の混入量が少なく、更に工程が簡単な有価物の回収方法、及び該回収方法により得られる有価物を含有する回収物が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−207349号公報
【特許文献2】特開平7−245126号公報
【特許文献3】特開2007−122885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、リチウムイオン二次電池からコバルトなどの有価物を高い回収率で回収でき、かつ有価物を含有する回収物への鉄などの不純物の混入量が少なく、更に工程が簡単な有価物の回収方法、及び該回収方法により得られる有価物を含有する回収物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 金属製の電池ケース内に有価物を含むリチウムイオン二次電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を液体とともに撹拌して前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された前記内容物と前記金属製の電池ケースとを選別し、前記有価物を含有する回収物を得る選別工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<2> 有価物がコバルトである前記<1>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<3> 分離工程が、ボールミル、ロッドミル、メディアを用いないミル、及び回転式洗濯機のいずれかで行われる前記<1>から<2>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<4> 分離工程における液体の使用量が、焙焼物1kgに対して0.5kg〜100kgである前記<1>から<3>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<5> 選別工程が、篩分けにより行われる前記<1>から<4>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<6> 篩分けで得られる篩下の回収物の粒度が、1mm以下である前記<5>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法により得られることを特徴とする有価物を含有する回収物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、リチウムイオン二次電池からコバルトなどの有価物を高い回収率で回収でき、かつ有価物を含有する回収物への鉄などの不純物の混入量が少なく、更に工程が簡単な有価物の回収方法、及び該回収方法により得られる有価物を含有する回収物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1における分離工程後の金属製の電池ケースの写真である。
【図2】図2は、比較例1における破砕後の焙焼物の写真である。
【図3】図3は、比較例2における分離工程後の金属製の電池ケース、及び内容物の混合物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法、及び有価物を含有する回収物)
本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法は、焙焼工程と、分離工程と、選別工程とをこの順で少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の有価物を含有する回収物は、本発明の前記リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法により得られる。
【0013】
<焙焼工程>
前記焙焼工程としては、リチウムイオン二次電池を焙焼して焙焼物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0014】
−リチウムイオン二次電池−
前記リチウムイオン二次電池としては、金属製の電池ケースと、該金属製の電池ケース内に有価物とを含むリチウムイオン二次電池であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命等により廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0015】
前記リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質及び有機溶剤を含有する電解液と、前記正極、前記負極、前記セパレーター及び前記電解液を収容する金属製の電池ケースとを備えたリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0016】
前記金属製の電池ケースとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄製の電池ケースが挙げられる。前記鉄製の電池ケースは、鉄以外の金属、例えばニッケルなど、が含有されていてもよいし、合金であってもよい。
【0017】
前記正極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム箔からなる集電体と、前記集電体上に付与された正極材とを備えた正極が挙げられる。
前記正極材としては、有価物を含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有価物を含有する複合酸化物を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材が挙げられる。
前記有価物としては、例えば、コバルト、ニッケルなどが挙げられる。
前記複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、LiNiCoMn2(x+y+z)などが挙げられる。
【0018】
前記リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒形、ボタン形、コイン形、角形、平形などが挙げられる。
【0019】
−焙焼−
前記焙焼を行うことにより、前記有価物を含有する前記正極材が付着した前記集電体(例えば、アルミニウム箔)が溶融するなどして前記正極材と分離しやすくなる。また、前記リチウムイオン二次電池内部の内容物中の有機物、例えば、電解質などが燃焼することにより、前記リチウムイオン二次電池内部の圧力(内圧)が高くなり、前記金属製の電池ケースの安全弁がはずれ、前記分離工程において前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物が分離されやすくなる。そのため、次工程である前記分離工程の際の撹拌により、容易に前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を分離できる。また、前記正極材は前記集電体から分離した後は容易に細かくできることから、有価物を含有する前記正極材と、前記集電体や前記電池ケースなどの鉄とが篩などにより高度に選別できるようになる。
【0020】
前記焙焼の焙焼温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、400℃以上が好ましく、650℃〜800℃がより好ましい。前記焙焼温度が、400℃未満であると、前記集電体の溶融が起こりにくく、その結果、前記有価物の回収率が低下することがある。前記焙焼温度が、800℃を超えると、電池ケース構成材料まで溶融することで所望の有価物の回収ができないことがある。
ここで、焙焼温度とは、焙焼時のリチウムイオン二次電池の温度をいう。前記焙焼温度は、焙焼中のリチウムイオン二次電池に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより測定することができる。
【0021】
前記焙焼の焙焼時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間〜5時間が好ましく、1分間〜2時間がより好ましく、1分間〜1時間が特に好ましい。前記焙焼時間は前記集電体と前記正極材が所望の温度まで到達する焙焼時間であればよく、保持時間はその時間よりも短くてもよい。前記焙焼時間が、前記特に好ましい範囲内であると、焙焼にかかるコストの点で有利である。
【0022】
前記焙焼の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、焙焼炉を用いて行うことが挙げられる。前記焙焼炉としては、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル炉等のバッチ式炉、キュウポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0023】
前記焙焼の雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、酸化雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気などが挙げられる。なお、焙焼中は、通気させておくことが好ましい。
ここで、前記大気雰囲気(空気雰囲気)とは、酸素が21%、窒素78%の大気(空気)を用いた雰囲気を意味する。
前記酸化雰囲気とは、前記不活性雰囲気中に酸素を1質量%〜21質量%含む雰囲気を意味し、酸素を1質量%〜5質量%含む雰囲気が好ましい。
前記不活性雰囲気とは、窒素、アルゴンなどの不活性ガスからなる雰囲気を意味する。
前記還元性雰囲気としては、例えば、前記不活性雰囲気中にCO、H、HS、SOなどを含む雰囲気が挙げられる。
これらの中でも、大気雰囲気(空気雰囲気)が、炉内雰囲気のコントロールが容易である点から好ましい。
【0024】
<分離工程>
前記分離工程としては、前記焙焼物を液体とともに撹拌して前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を分離する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記焙焼工程により前記リチウムイオン二次電池の前記金属製のケース内部の内容物のほとんどは細かく、かつ脆く崩れやすくなっていることから、前記分離工程において、前記焙焼物を液体とともに撹拌することで、前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を容易に分離することができる。
前記分離工程により、例えば、前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物が抜き出される。
【0025】
−撹拌−
前記撹拌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、前記撹拌は、前記金属製の電池ケースを破砕、又は粉砕しないように行う。前記金属製の電池ケースが破砕、又は粉砕されると、電池ケースの材料である鉄などの金属と前記有価物との分離回収が困難になるためである。なお、前記撹拌において、前記金属製の電池ケースが、多少凹むことはなんら問題ない。
また、前記焙焼工程において、前記金属製の電池ケースの安全弁がはずれていなくとも、前記撹拌の際の衝撃により、前記安全弁を外すことができる。
【0026】
前記撹拌の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ボールミル、ロッドミル、メディアを用いないミル、及び回転式洗濯機のいずれかで行うことが好ましい。
ここで、ミルで撹拌を行う際には、メディアを用いると、前記金属製の電池ケースが破砕、又は粉砕されたり、前記金属製の電池ケースが板状に変形したりするため、通常、メディアを用いない。メディアを用いる場合には、前記金属製の電池ケースが破砕、又は粉砕されない程度、板状に変形しない程度の条件で行うことが好ましい。
【0027】
前記液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、有機溶剤などが挙げられる。
前記水としては、酸性水、中性水、アルカリ性水などが挙げられる。
前記有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。前記アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどが挙げられる。前記グリコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。前記グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
前記液体の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、焙焼物1kgに対して、0.5kg〜100kgが好ましく、1kg〜5kgがより好ましい。前記使用量が、0.5kg未満であると、水などの前記液体が十分に行き届かないために、前記金属製の電池ケース内部と前記有価物を含有する内容物との分離がうまく行われないことがあり、100kgを超えると、固液分離の後に、液体の処分が困難になることがある。
【0029】
撹拌時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間〜5時間が好ましく、5分間〜3時間がより好ましく、10分間〜2時間が特に好ましい。前記撹拌時間が、1分間未満であると、分離が不十分となり前記有価物の回収率が低下することがあり、5時間を超えると、過粉砕により選別工程の際に分離が困難となることや、前記金属製の電池ケースが摩擦により削られ、回収物における不純物濃度が上昇することがある。
【0030】
前記分離工程を液体とともに行う、即ち湿式で行うことには、前記焙焼物に含まれる炭素による粉塵爆発を防ぐことができる利点がある。また、前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を効率よく分離することができる利点がある。
【0031】
ここで、図1に前記分離工程後の前記金属製の電池ケースの写真を示す。前記金属製の電池ケースは、安全弁が外れており、かつ多少の凹みはあるものの、破砕、及び粉砕はされていない。また、前記分離工程により、前記金属製の電池ケース内部の内容物は、分離されている。
【0032】
<選別工程>
前記選別工程としては、前記分離工程により分離された前記内容物と前記金属製の電池ケースとを選別し、前記有価物を含有する回収物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、篩分けにより行うことが装置が簡易でありかつ操作が簡便である点で好ましい。
【0033】
−篩分け−
前記篩分けとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩などを用いて行うことができる。
篩の篩目の目開きとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.025mm〜2mmが好ましく、0.025mm〜1.5mmがより好ましく、0.075mm〜1mmが特に好ましい。前記篩目の目開きが、0.025mm未満であると、篩下における前記有価物の回収率が低下することがあり、2mmを超えると、鉄くずなどが篩下に混入し、更に選別する工程を要してしまうことがある。前記篩目の目開きが、前記特に好ましい範囲内であると、前記有価物の回収率が向上する点で有利である。
【0034】
前記篩分けは、乾式であってもよいし、湿式であってもよい。これらの中でも、湿式であることが、前記分離工程で得られる前記内容物を前記液体と分離せず前記篩分けを行うことができるため工程が簡素化できる点、及び粉塵を防止できる点で好ましい。
【0035】
前記篩分け後の篩上には、主に鉄、アルミニウムなどが電池ケースやアルミニウム箔として含まれており、篩下には、主に前記正極材が含まれている。
前記篩分けは、通常、篩を揺り動かしながら、言い換えれば、篩に振動を付与しつつ行うため、例えば、電池ケース内部に有価物(例えばコバルト)が残存していたり、アルミニウム箔に有価物(例えばコバルト)が包み込まれていても、振動により、有価物(例えばコバルト)を電池ケースやアルミニウム箔から離すことができることから、前記粉砕工程により細かく粉砕された前記正極材は、高効率で篩下に選別される。
【0036】
前記篩分けでは、篩下を更に篩分けしてもよい。
ここで、前記篩選別工程において、前記篩下を更に篩分けする場合には、1度目に篩分けした際の篩上を第1の篩上、篩下を第1の篩下と称し、前記第1の篩下を更に篩分けした際の篩上を第2の篩上、篩下を第2の篩下と称する。
前記第1の篩下を更に篩分けすることにより、前記負極の材料である炭素を前記第2の篩下に移動させ、前記第2の篩上に残る前記有価物を含有する前記回収物から前記炭素を選別できる。
前記第1の篩下を更に篩分けする場合には、前記篩選別工程において、多段式篩を用いることができる。また、前記第1の篩上、前記第2の篩上を再度篩分けすることもできる。
前記第1の篩下を更に篩分けする際の、篩の篩目の目開きとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.0075mm〜0.3mmが好ましく、0.025mm〜0.15mmがより好ましく、0.025mm〜0.075mmが特に好ましい。前記篩目の目開きが、0.0075mm未満であると、粒径が小さすぎるため選別が困難となることがあり、0.3mmを超えると、前記有価物の回収率が低下することがある。前記篩目の目開きが、前記特に好ましい範囲内であると、篩下を取り除いた際に損失する前記有価物の量を極力少なくすることができる点で有利である。
【0037】
前記篩分けで得られる前記篩下(前記第1の篩下)の回収物の粒度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1mm以下であることが、コバルトの回収率が高く、他の不純物量が少ない点から好ましい。前記粒度を1mmにする方法としては、例えば、目開き1mmの篩で篩分けすることが挙げられる。
【0038】
前記リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法は、前記選別工程の後に、二次焙焼工程や磁力選別工程を行う必要がなく、工程が簡単である上に、高い回収率でコバルトなどの有価物を回収することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
リチウムイオン二次電池として、使用済みのパソコン用リチウムイオン二次電池を用いた。
−焙焼工程−
マッフル炉(FJ−41、ヤマト科学株式会社製)にリチウムイオン二次電池を入れ、焙焼温度を800℃とし、昇温速度10℃/分で800℃まで昇温した。温度到達後、1時間焙焼し、焙焼物を得た。また、炉内雰囲気は空気雰囲気とした。
−分離工程−
前記焙焼工程により得られた焙焼物8kgと水30Lを、メディアを入れていないボールミル(容積220L)へ入れ、回転数50rpmで2.5時間撹拌し、前記リチウムイオン二次電池の金属製の電池ケースから該金属製の電池ケース内部に入っていた有価物を含有する内容物を抜き出した。
−選別工程−
前記分離工程により分離された水中の粗粒物と、水中の金属製の電池ケースを、篩目の目開きがそれぞれ、1.00mmの篩を用いて篩分けした。
【0041】
<評価>
篩分け後、篩上及び篩下を乾燥して水分を除去した。
乾燥後の篩上及び篩下それぞれの質量を測定し、電池に対する篩上の質量割合、及び篩下の質量割合を求めた。
また、乾燥後の篩上及び篩下(回収物)をそれぞれ王水に加熱溶解させ、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(iCaP6300、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により分析を行い、コバルトの回収率、不純物としての鉄の混入率、篩上の金属含有量、篩下の金属含有量を求めた。
結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
実施例1において、分離工程に代えて、せん断式破砕機であるグッドカッター、(UG−102−10−240、氏家製作所製、刃幅10mm)を用い、焙焼物8kgを10秒間破砕した以外は、実施例1と同様にして、有価物を回収し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、破砕は乾式で行ったため、篩分け後の乾燥は行っていない。
【0043】
(比較例2)
実施例1において、ボールミルに鉄メディア(直径30mm〜70mmの鉄球)180kgを入れた以外は、実施例1と同様にして、有価物を回収し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1において、コバルト(Co)回収率は、実施例、及び比較例に用いたリチウムイオン二次電池に含まれるコバルトを100%とした際の回収率である。鉄の混入率は、篩通過前の鉄の総量を100%とした場合の混入率である。篩上の金属含有量は、篩上全量に対するコバルト、鉄のそれぞれの含有量である。篩下の金属含有量は、篩下全量に対するコバルト、鉄のそれぞれの含有量である。
【0046】
表1に示すように、比較例1及び比較例2では鉄製の電池ケースが粉砕され、いずれも目開き1.00mmを通過した篩下の回収物に鉄が混入した結果、比較例1では篩通過前の鉄の総量を100%とした場合の10.3%、比較例2では28.8%の鉄が目開き1.00mmの篩を通過した。このことは、コバルトなどの有価物を含有する回収物へ不純物として混入する結果となった。なお、鉄とコバルトはともに磁着物であり、コバルトを回収する際に磁力選別を行った場合、鉄とコバルト両方が磁着回収され分離が困難となる。
一方、実施例1では、有価物を含有する回収物における鉄の混入率は7.0%と非常に低く、優れていた。
また、篩上及び篩下の質量の比較から、比較例1では篩上の割合が実施例1と比較して高く、コバルトが篩上に残存していることがわかる。また、比較例2では、実施例1と比較して篩下の割合が高く、破砕し過ぎることにより、粒度の細かい破砕物が増加していることがわかる。
これらの結果から、実施例1では、粉砕し過ぎることなく、リチウムイオン二次電池の内容物であるコバルトを、主に不純物となる鉄が少ない状態で回収できている。
【0047】
なお、図1に、実施例1における分離工程後の金属製の電池ケースの写真を示した。また、図2に、比較例1における破砕後の焙焼物の写真を示した。また、図3に、比較例2における分離工程後の金属製電池ケース、及び内容物の混合物の写真を示した。実施例1では、金属製の電池ケースは多少の凹みはあるものの、破砕、又は粉砕はされておらず、かつ内容物は、該金属製の電池ケースから抜き出されていた。一方、比較例1、及び比較例2では、金属製の電池ケースは、破砕、又は粉砕され、細かい破砕物、又は粉砕物となっていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法は、リチウムイオン二次電池からコバルトなどの有価物を高い回収率で回収でき、かつ有価物を含有する回収物への鉄の混入量が少なく、更に工程が簡単であることから、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の電池ケース内に有価物を含むリチウムイオン二次電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を液体とともに撹拌して前記金属製の電池ケース内部から前記有価物を含有する内容物を分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された前記内容物と前記金属製の電池ケースとを選別し、前記有価物を含有する回収物を得る選別工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項2】
有価物がコバルトである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項3】
分離工程が、ボールミル、ロッドミル、メディアを用いないミル、及び回転式洗濯機のいずれかで行われる請求項1から2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項4】
分離工程における液体の使用量が、焙焼物1kgに対して0.5kg〜100kgである請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項5】
選別工程が、篩分けにより行われる請求項1から4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項6】
篩分けで得られる篩下の回収物の粒度が、1mm以下である請求項5に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法により得られることを特徴とする有価物を含有する回収物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138301(P2012−138301A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291012(P2010−291012)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】