説明

リチウムイオン二次電池用負極と、これを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】高容量で、高い充放電効率を有し、さらに、充放電を繰り返しても集電体から剥離、脱落することなく、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極と、これを用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】表面に突起部を有する負極集電体と、前記負極集電体の表面に成膜され、シリコンを主成分とし、少なくとも元素Aを0.05質量%以上含む薄膜状の負極活物質層とを有し、前記元素Aは、シリコンの原子半径rに対する前記元素Aの原子半径rが、|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たす元素であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極、およびこの負極を用いたリチウムイオン二次電池とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極と、これを用いたリチウムイオン二次電池に関するものであり、特に、高容量で、高い充放電効率を有し、さらに、充放電を繰り返しても集電体から剥離、脱落することなく、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯機器を中心に使用されており、使用機器の小型化や多機能化に伴って高容量化が要求されている。しかし、現在のリチウムイオン二次電池に使用されている負極活物質は、人造黒鉛や天然黒鉛などの炭素系材料であり、理論容量が372mAh/gであって、これ以上の容量増大は望めない。
【0003】
そのため、理論容量がより大きいシリコン(Si)や錫(Sn)等の金属材料やその酸化物材料を用いた負極が提案され(例えば、特許文献1参照)、特に高比容量が得られるシリコンが注目されている。これらの材料は、初期の数サイクル程度は非常に高い容量を示すが、充放電を繰り返すことによって活物質の膨張収縮による微粉化が生じ、負極活物質が集電体から脱落するため、次第に充放電容量が低下して電池の寿命となるサイクル特性が劣るという問題があった。
【0004】
また、これらの材料を、CVD法、スパッタリング法、蒸着法またはめっき法等により、集電体上に薄膜として形成して負極を作製する方法が提案されている。この薄膜型負極によると、集電体上に粉末状の負極活物質をバインダー等と共に含むスラリーを塗布して作製する従来の塗布型負極と比較して、負極活物質の微粉化を抑制でき、さらに、集電体と活物質とを密着性良く一体化することができるため、負極における電子伝導性が良好となることが知られている。
【0005】
さらに、発泡状の集電体上に負極活物質の薄膜を形成することで、集電体と負極活物質の密着性をより高く維持したまま、電池の容量を確保することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−29602号公報
【特許文献2】特開2004−71305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の薄膜型負極は、電極特性が大きく向上するものの、パソコンや携帯電話等の電子機器用途に必要な実容量を満たす活物質量の薄膜を形成すると、充放電サイクル特性が悪化し、繰り返し使用可能な寿命が短くなる傾向があった。そのため、リチウムイオン二次電池に用いる場合は、必然的に活物質量を少なくする必要があるため用途が限定され、汎用的な実用化は困難であった。
【0008】
また、発泡状の集電体の使用は、電極の厚みが大きくなるため、結果として、電極のエネルギー密度の低下および電池のエネルギー密度の低下を導いてしまっていた。そしてさらに、電極加工時に、集電体の発泡部のエッジ部分が露出しやすいために、薄いセパレータを貫通して内部短絡を発生しやすいという問題もあった。
【0009】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、高容量で、充放電を繰り返しても体積変化による劣化や活物質層の剥離が少なく、高い充放電効率を有し、さらに、サイクル特性に優れた電池寿命の長いリチウムイオン二次電池用負極と、長寿命で高エネルギー密度のリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、シリコン(Si)を主成分とする負極活物質材料について、シリコンに、Siと同程度の大きさの原子半径を有する第2元素を導入することにより、負極活物質材料の格子または原子間に大きすぎる歪を与えることなく、また、イオン半径の小さなLiイオンの充放電の際の、シリコン活物質格子間への挿入(充電)と脱離(放電)を障害無く容易に生じさせることができ、充電後の放電に伴うLiイオン残留による無駄な不可逆容量の発生を減少することが可能なことを見出すに至った。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
【0011】
すなわち本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)表面に突起部を有する負極集電体と、前記負極集電体の表面に成膜され、シリコンを主成分とし、少なくとも元素Aを0.05質量%以上含む薄膜状の負極活物質層とを有し、前記元素Aは、シリコンの原子半径rに対する前記元素Aの原子半径rが、|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たす元素であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
(2)前記元素Aが、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Asからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする(1)記載のリチウムイオン二次電池用負極。
(3)前記負極活物質層が、さらに、酸素またはフッ素を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
(4)前記負極集電体が、銅箔であり、前記銅箔の、前記活物質層が設けられる表面に電解粗面化処理が施されて突起部が設けられ、表面粗さRzが1μm〜6μmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
(5)電解粗面化処理前の前記銅箔の、前記活物質層が設けられる表面の表面粗さRzが0.5μm〜3μmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
(6)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、(1)〜(5)のいずれかに記載の負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを有し、リチウムイオン伝導性を有する電解質中に、前記正極と前記負極と前記セパレータとを設けていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高容量で、高い充放電効率を有し、さらに、充放電を繰り返しても集電体から剥離、脱落することなく、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現する負極活物質材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極の一例を示す断面模式図。
【図2】本発明に係るリチウムイオン二次電池の一例を示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(1.リチウムイオン二次電池用負極)
(1−1.リチウムイオン二次電池用負極の構成)
まず、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極を、図1を参照して説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用負極1は、表面に突起部5を有する負極集電体7と、前記負極集電体7の表面に成膜される薄膜状の負極活物質層3とを有する。
本発明における負極活物質層3は、特徴的な成分構成のシリコン系薄膜からなり、また、この負極活物質層3に対しては、特異な形態を有する負極集電体7を使用するようにしている。
【0015】
(1−2.負極活物質層)
本発明の負極活物質層3は、負極集電体7の表面に一体的に成膜される薄膜であって、シリコンを主成分とし、第2の元素として、少なくとも元素Aを含んでいる。シリコンは、リチウムを吸蔵しやすい元素であるため、この負極活物質層も高いリチウム吸蔵能を有する。またシリコンは、リチウム吸蔵能を有する元素の中でも、比較的コストが低いという利点がある。
【0016】
元素Aは、原子半径rがSiの原子半径r(0.117nm)に近似した元素であり、|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たすものとする。元素Aの原子半径rとSiの原子半径rが上記の関係を満たし、元素AがSiと同程度の原子半径を有すると、この元素AはSi格子やSiを主体とする系において、Si格子のSi原子位置とほぼ同じ位置に置換する可能性が高く、またはSiと化合物を形成し易く、Si格子構造を安定させた状態で存在することができる。一方で、|(r−r)/r|が0.1を超過する場合、Siの原子半径に比べて小さすぎるまたは大きすぎる原子半径を有する元素がSi格子やSiを主体とする系に含まれることとなる。大きすぎる元素は、Siの格子間位置に侵入したり、空格子点を生じさせたりして、Si格子に過大な歪をもたらし、また、小さすぎる元素も、過剰な固溶限となり多量の拡散合金化による過大な歪を与える。このような元素は、そのものが、Liイオンの電気化学的移動を阻害したり、充電時にSi格子に侵入して合金化したLiイオンを放電時に脱離させずにその後の充放電に寄与しない無駄な不可逆容量を発生させる可能性が生じたりするため、本発明の負極活物質材料としては好ましくない。
【0017】
このような元素Aは、下記表1に示したとおり、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Se、Brの群より1種以上を選択して用いることができる。これらの元素Aは、Liと化合しない元素であるか、または、Liと化合してもリチウム吸蔵量が少なく、シリコンと比較して大きな密度変化を生じない化合物を形成する元素であるため、充放電の際のシリコンの体積膨張収縮を抑制することができる。なお、元素Aはシリコンと化合物を形成してもよいし、固溶体として存在してもよい。化合物を形成する場合は、結晶質であるか非晶質であるかは問わない。
【0018】
さらに、元素Aとしては、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Asからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることが好ましい。P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Asは、比較的コストの低い経済的な元素であり、実用的である。さらに、PとAs以外の元素については、SiとSiM型またはSiM型の化合物を形成することができ、体積膨張収縮の抑制効果が高いためである。
【0019】
【表1】

【0020】
以上の元素Aは、負極活物質層中に0.05質量%以上含むようにする。元素Aを複数含む場合は、それらの元素の含有量の合計が0.05質量%以上となるようにする。含有量を0.05質量%以上とすることで、充放電時のシリコンの体積膨張収縮を効果的に抑制することができる。元素Aの含有量の上限については特に規定しないものの、シリコンのリチウム吸蔵能等を考慮して50質量%未満の範囲で任意に決定することができる。元素Aは、Siに比べて十分に少ない量であっても体積膨張収縮の抑制効果は得られるため、例えば、30質量%以下、さらには20質量%以下等とすることが例示される。
【0021】
また、本発明に係る負極活物質層は、さらに、第3の元素として、酸素またはフッ素を含んでもよい。酸素とフッ素は、原子半径は小さいものの、上記表1に示したように、イオン半径rA’がSiの原子半径r(0.117nm)に匹敵する大きさであり、余計な歪を生じさせず、またLiイオンの侵入と脱離の障害となることなく、シリコンの体積変化を抑制し、充放電サイクル寿命をさらに向上させることができる。酸素とフッ素は、Liの一部と化合分散し、活物質を安定化させる効果をも有する。なお、AgとCdについては、イオン半径がSiの原子半径rに匹敵する大きさであるものの、イオン結合性化合物は形成し難いので、本発明に係る負極活物質層を構成する第3の元素としては好ましくない。
【0022】
なお、酸素およびフッ素は、活物質層の全体に均一に含まれていてもよいし、例えばその表面部等の一部に含まれていてもよい。酸素およびフッ素の含有量については、充放電特性を高く維持するため、0.5質量%以上であることが好ましく、元素Aの含有量との合計を50質量%以下とするのが好ましい。
【0023】
このような本発明に係る負極活物質層は、実用的には、少なくとも1μm以上の厚みが必要であり、電子機器等の高エネルギー密度用途には、1μm〜6μm程度の厚みを有していることが望ましい。
【0024】
なお、本発明において、シリコンを主成分とするとは、粒子を構成する元素のうちシリコンの含有量が最も多いことを意味し、シリコンの含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることを示している。また、第2の元素、第3の元素とは、粒子を構成する元素のうち、シリコン以外で、特徴的な役割をもつ元素群について、第2の元素、第3の元素と呼ぶようにしており、両者の含有量とは関係がない。
【0025】
以上の本発明の負極活物質層は、結晶構造が、結晶質、微結晶質、非晶質あるいはこれらが混在する状態のいずれであってもよい。これは、充電の際のLiイオンとの合金化により、いずれの結晶形態であっても非晶質化するためである。
【0026】
また、本発明に係る負極活物質層の製膜の方法については特に限定されず、例えば公知の各種の製膜方法を利用して、上記のとおりの組成および厚みを有する薄膜を形成することができる。具体的には、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法などを例示することができ、これらの手法によると、均一な薄膜の形成が容易である。
【0027】
(1−3.負極集電体)
本発明に係る負極集電体は、リチウムと合金化しない材料で構成することができ、例えば、銅、ニッケル、ステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなる箔を用いることができる。これらの金属は、単体で用いてもよいし、それぞれの合金であってもよい。箔の薄さ、強度、導電率等の観点から、銅箔を用いるのが好ましい。集電体は、用途によるが突起部を除いた厚さが4μm〜35μm程度であるのが好ましく、さらに6μm〜20μm程度であることがより好ましい。
【0028】
そして本発明における負極集電体は、突起部を有している。この突起部は、銅箔の表面に電解粗面化処理が施されて設けられたものであることが好ましく、表面粗さRzは1μm〜6μmであるのが望ましい。というのは、負極活物質材料は、リチウムとの合金化によって膨張するため、集電体の表面形状を表面粗さRzで1μm〜6μmという適度な微細粗面形状にして比表面積を大きくし、単位面積当たりの負極活物質量が少なくなるように負極を形成することで、充放電により負極活物質層に体積変化が生じる場合においても、突起部間の空隙により負極活物質層の膨張収縮による応力を緩和することができ、サイクル特性を向上させることができるからである。また、表面積が増大されるため、集電体表面に形成される負極活物質層を、負極として必要な量だけ、密着性良く担持することができる。
【0029】
突起部による表面粗さRzが1μm未満であると、集電体上に薄膜として直接形成される負極活物質層を、剥離なく担持しておくことが困難となる。そしてまた、たとえ上記の本発明に係る負極活物質層を用いても、集電体の表面積が十分に大きくないため、担持できる負極活物質量では容量不足になってしまい、また、単位面積当たりの充放電サイトが減少するためサイクル特性も低下してしまうために好ましくない。表面粗さRzが6μmを越えると、集電体のマイクロメータ測定厚さが大きくなりすぎて、負極活物質層の形成に悪影響が生じ、例えば、ジェリーロール型の円筒形や角型のリチウムイオン二次電池の負極用集電体として実用化することが困難となるため好ましくない。なお、本発明における表面粗さRzは、日本工業規格JIS B0601−1994の十点平均粗さで規定される。
【0030】
このような突起部は、金属箔の平滑な表面に、湿式(電気めっき、無電界めっき、化学エッチングまたは電気化学的エッチング等)法、乾式(蒸着、化字イオン蒸着等)法、および塗装、研磨などの粗面化処理の手法を利用して形成することができる。そして、本発明においては、表面粗さRzが0.5μm〜3μmの銅箔に、電解粗面化処理を施すことで形成することが望ましい態様として示される。
【0031】
粗面化処理を施す前の金属箔(いわゆる、未処理箔)には、電解法または圧延法により形成の両面光沢箔または両面平滑箔を用いることができる。表面粗さRzを0.5μm以上とするのは、両面光沢箔または両面平滑箔にとって現実的な小さな粗度であるからであり、3μmを超えると突起形成後の粗さのバラツキが大きくなってしまうために好ましくない。なお、未処理箔であっても表面粗さRzが1μm以上のものがあるが、箔の製造の際に形成される凹凸にはなだらかな凹凸も含まれ、活物質層との密着性を確実に向上させることができないため、未処理箔をそのまま用いることは好ましくない。粗面化処理により、形状が複雑な凹凸を形成することが重要である。そしてさらに、上記の表面粗さの両面平滑箔に粗面化処理を施すことで、集電体に形成される突起部が同一面内、および表裏両面共に均一となり、負極活物質層とより一層良好な密着性を示し、負極活物質層が脱落し難く、負極の長寿命化と実容量の確保に寄与することができる。
【0032】
電解粗面化処理は、未処理箔の表面に凹凸を有するめっき膜を形成することにより表面を粗面化するものであり、例えば、一般的に用いられているめっきによる粗面化方法を用いることができる。すなわち、いわゆる焼けめっきにより、硫酸銅水溶液を用いて電気めっきを行い、箔表面に粒粉状銅めっき層を形成した後、この粒粉状銅めっき層の上に、通常の被膜状のめっき(カプセルめっき)を行い、突起部を形成することができる。この焼けめっきは、めっき層の均質な制御と再現性の確保が可能で、品質管理に優れるため好ましい。また、例えば、集電体の材質が銅の場合、電気めっきにより形状が複雑な突起部を形成することができるために好ましい。電解銅箔を用いることによりばらつきの少ない集電体突起を容易に形成することが可能である。
【0033】
また、突起部が形成された集電体には、ニッケルや亜鉛のめっき、クロメート処理、シランカップリング処理により、防錆層を形成することもできる。この防錆層により、例えば、製造から在庫期間での経時劣化や、負極活物質層の形成の際の高温雰囲気による劣化を防止または抑制することができる。また、集電体の成分と負極活物質の成分との過剰拡散を防止して、密着性を良好に保つことにも寄与する。実用的には、突起部が形成された集電体に対し、このような公知の硫酸塩水溶液等による電気めっきや、浸漬処理、置換めっき、または気相法による機能表面処理、防錆処理、密着向上処理のいずれか1種以上を行うことが好ましい。
【0034】
(1−4.リチウムイオン二次電池用負極の効果)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極によれば、負極活物質層が、シリコンの他に、シリコンと同程度の大きさの原子半径を有する元素Aを少なくとも含むため、元素AはSi格子またはSi原子間に大きすぎる歪を与えることなく、イオン半径の小さなLiイオンの充放電の際の、シリコン系活物質格子間への挿入(充電)と脱離(放電)を障害無く容易に生じさせることができ、充電後の放電に伴うLiイオン残留による無駄な不可逆容量の発生を減少させることができる。
【0035】
また、シリコンはリチウムを吸蔵すると体積膨張するのに対し、元素Aはリチウムを吸蔵しないか、または吸蔵し難いため、膨張収縮による体積変化および歪が少なく、サイクル特性時の放電容量の低下が抑制されたリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
さらに、Si原子半径に近いイオン半径を有する酸素またはフッ素を第3の元素として含むことで、充放電サイクル特性と電池寿命がより改善されたリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【0036】
また、負極集電体が所定の表面粗さであるため、上記のとおりの負極活物質層の効果が十分に発揮されるリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【0037】
(2.リチウムイオン二次電池の構成)
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を、図2を参照して説明する。本発明のリチウムイオン二次電池11は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極13と、上記の本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極1と、正極13と負極1との間に配置されたセパレータ15とを有し、リチウムイオン伝導性を有する電解質17中に、正極13と負極1とセパレータ15とが設けられている。
【0038】
(3.正極)
正極は、正極活物質の組成物をアルミ箔などの金属集電体上に直接塗布・乾燥し、作製することができる。正極活物質の組成物は、正極活物質、導電助剤、結着剤および溶媒を混合して調製することができる。
【0039】
(3−1.正極活物質)
前記正極活物質としては、一般的に使われるものであればいずれも使用可能であり、例えばLiCoO、LiMn、LiMnO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiFePOなどの化合物である。
【0040】
(3−2.導電助剤)
導電助剤は、炭素、銅、スズ、亜鉛、ニッケル、銀からなる群より選ばれた少なくとも1種の導電性物質からなる粉末である。炭素、銅、スズ、亜鉛、ニッケル、銀の単体の粉末でもよいし、それぞれの合金の粉末でもよい。例えば、ファーネスブラックやアセチレンブラックなどの一般的なカーボンブラックを使用できる。また、カーボンナノホーンを導電助剤として加えることが好ましい。ここで、カーボンナノホーン(CNH)とは、グラフェンシートを円錐形に丸めた構造をしており、実際の形態は多数のCNHが頂点を外側に向けて、放射状のウニの様な形態の集合体として存在する。CNHのウニ様集合体の外径は50nm〜250nm程度である。特に、平均粒径80nm程度のCNHが好ましい。
【0041】
導電助剤の平均粒径は一次粒子の平均粒径を指す。アセチレンブラック(AB)のような高度にストラクチャー形状が発達している場合にも、ここでは一次粒径で平均粒径を定義する。粒径の計測は、電子顕微鏡(SEM)の画像情報と動的光散乱光度計(DLS)の体積基準メディアン径を併用することができる。平均粒径は、SEM画像によりあらかじめ粒子形状を確認し、画像解析(例えば、旭化成エンジニアリング製「A像くん」(登録商標))で粒径を求めたり、粒子を溶媒に分散してDLS(例えば、大塚電子製DLS−8000)により測定したりすることが可能である。微粒子が十分に分散しており、凝集していなければ、SEMとDLSでほぼ同じ測定結果が得られる。
【0042】
また、粒子状の導電助剤とワイヤー形状の導電助剤の両方を用いても良い。ワイヤー形状の導電助剤は導電性物質のワイヤーであり、粒子状の導電助剤に挙げられた導電性物質を用いることができる。ワイヤー形状の導電助剤は、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、銅ナノワイヤー、ニッケルナノワイヤーなどの外径が300nm以下の線状体を用いることができる。ワイヤー形状の導電助剤を用いることで、負極活物質や集電体などと電気的接続が保持しやすくなり集電性能が向上すると共に、ポーラス膜状の負極に繊維状物質が増え、負極にクラックが生じにくくなる。例えば粒子状の導電助剤としてABや銅粉末を用い、ワイヤー形状の導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF:Vapor Grown Carbon Fiber)を用いることが考えられる。なお、粒子状の導電助剤を加えずに、ワイヤー形状の導電助剤のみを用いても良い。
【0043】
ワイヤー形状の導電助剤の長さは、好ましくは0.1μm〜2mmである。導電助剤の外径は、好ましくは4nm〜1000nmであり、より好ましくは25nm〜200nmである。導電助剤の長さが0.1μm以上であれば、導電助剤の生産性を上げるのには十分な長さであり、長さが2mm以下であれば、スラリーの塗布が容易である。また、導電助剤の外径が4nmより太い場合、合成が容易であり、外径が1000nmより細い場合、スラリーの混練が容易である。導電物質の外径と長さの測定方法は、SEMによる画像解析により行うことができる。
【0044】
(3−3.結着剤)
結着剤は、樹脂の結着剤であり、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系、さらには、ポリイミド(PI)や水溶性アクリル系バインダーなどの有機材料を用いることができる。
【0045】
(3−4.溶媒)
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水などを使用する。このとき、正極活物質、導電助剤、結着剤および溶媒の含量は、リチウムイオン二次電池で通常的に使用するレベルで適宜調整できる。
【0046】
(3−5.正極の作製)
以上のように調整した正極活物質の組成物を、例えば、コーターを用いて、集電体の片面に均一に塗布する。コーターは、組成物を集電体に塗布可能な一般的な塗工装置を用いることができ、例えばロールコーターやドクターブレードによるコーター、コンマコーター、ダイコーターである。
【0047】
集電体は、銅、ニッケル、ステンレスからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属からなる箔である。それぞれを単独で用いてもよいし、それぞれの合金でもよい。厚さは、用途にもよるが4μm〜35μmが好ましく、さらに6μm〜20μmがより好ましい。
正極活物質の組成物を塗布した後、50〜150℃程度で乾燥し、厚みを調整するため、ロールプレスを通して、正極を得る。
【0048】
(4.セパレータ)
セパレータとしては、正極と負極の電子伝導を絶縁する機能を有し、リチウムイオン二次電池で通常的に使われるものであればいずれも使用可能である。例えば、微多孔性のポリオレフィンフィルムを使用できる。
【0049】
(5.電解質)
電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する各種の電解液および電解質を使用することができる。例えば、有機電解液(非水系電解液)、無機固体電解質、高分子固体電解質等が使用できる。
【0050】
有機電解液の溶媒の具体例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ―ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒、あるいはこれらの溶媒のうちの2種以上を混合した混合溶媒が挙げられる。
【0051】
有機電解液の電解質には、LiPF、LiClO、LiBF、LiAlO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiCSO、LiN(CFSO等のリチウム塩からなる電解質の1種または2種以上を混合させたものを用いることができる。
【0052】
有機電解液には、添加剤として、負極活物質の表面に有効な固体電解質界面被膜を形成できる化合物を添加することが望ましい。例えば、分子内に不飽和結合を有し、充電時に還元重合できる物質、例えばビニレンカーボネート(VC)などを添加する。
【0053】
また、上記の有機電解液に代えて固体状のリチウムイオン伝導体を用いることができる。例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン等からなるポリマーに前記リチウム塩を混合した固体高分子電解質や、高分子材料に電解液を含浸させゲル状に加工した高分子ゲル電解質を用いることができる。
【0054】
さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料を無機固体電解質として用いてもよい。
【0055】
(6.リチウムイオン二次電池の組立て)
本発明のリチウムイオン二次電池は、前述したような正極と本発明のリチウムイオン電池用負極との間にセパレータを配置して、電池素子を形成している。このような電池素子を巻回、または積層して円筒形や角形の電池ケースに入れた後、電解質を注入して、リチウムイオン二次電池とする。
【0056】
具体的には、図2に示したように、本発明のリチウムイオン二次電池11は、正極13、負極1を、セパレータ15を介して、セパレータ−負極−セパレータ−正極の順に積層配置し、正極13が内側になるように巻回して極板群を構成し、これを電池缶19内に挿入する。そして正極13は正極リード23を介して正極端子25に、負極1は負極リード21を介して電池缶19にそれぞれ接続し、リチウムイオン二次電池11内部で生じた化学エネルギーを電気エネルギーとして外部に取り出し得るようにする。次いで、電池缶19内に電解質17を極板群を覆うように充填した後、電池缶19の上端(開口部)に、円形蓋板とその上部の正極端子25からなり、その内部に安全弁機構を内蔵した封口体27を、環状の絶縁ガスケットを介して取り付けることで製造することができる。
【0057】
(7.本発明に係るリチウムイオン二次電池の効果)
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、炭素よりも単位体積あたりの容量の高いSiと、Siと同程度の大きさの原子半径を有する第2の元素を含む粒子からなり、不可逆容量の発生を減少する負極活物質材料を用いているため、従来のリチウムイオン二次電池よりも容量が大きく、かつ、粒子が体積膨張収縮し難く微粉化しにくいためにサイクル特性が良い。
【0058】
また、負極活物質層と集電体の間の結合力が高く、また負極活物質材料の膨張収縮による応力の緩和が可能な本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いているため、サイクル特性に優れ、経済的なリチウムイオン二次電池が提供される。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
(集電体の作製)
厚さ10μmの電解銅箔(古河電工製 NC−WS箔、表面粗さRz1.5μm)に、電解めっきを施して突起部のある集電体を作製した。めっき条件は以下のとおりである。
【0060】
(a)粗面化処理の焼けめっき:銅30g/dm、硫酸150g/dmを主成分とする電解液中で、加温することなく、電流密度10〜20A/dmの範囲において、電解時間と共に適宜選択し、あらかじめ決定した所定の表面形状を得る条件によりカソード電解を行った。
(b)粗面化処理の平滑状銅めっき(カプセルめっき):銅70g/dm、硫酸100g/dmを主成分とし液温40℃に保った電解液中で、電流密度5〜10A/dmの範囲において、あらかじめ(a)の条件と共に決定した所定の表面形状を得る電解時間と共に適宜選択した条件によりカソード電解を行った。
【0061】
さらに、この銅箔にニッケルおよび亜鉛による無機被膜を形成し、クロメート処理を公知の水溶液を用いたカソード電解により行ってナノメートル程度の厚さの被膜を形成したのち、クリロキシ系シランカップリング水溶液に浸漬して各防錆処理層を形成して、集電体とした。
【0062】
(リチウムイオン二次電池用負極の作製1)
得られた集電体の表面に、Si、Si−P、Si−As、Si−B、Si−N系の組成の負極活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。詳細には、負極活物質層の形成には、触媒化学気相成長(Cat−CVD)装置を用い、以下の条件にて製膜した。まず、Si薄膜の製膜には、原料ガスとしてモノシランガスを用い、流量を20sccmとし、集電体温度250℃、タングステン線触媒体温度1800℃を基本条件として、製膜厚さに応じて適宜製膜時間を調製した。
【0063】
また、第2の元素としてPを含有させる場合には、原料ガスとして、モノシランガスに加え、フォスフィンガスを10sccmまたは1sccmと流量を変えて供給した。同様に、第2の元素としてAsを含有させる場合には、原料ガスとして、モノシランガスに加え、アルシンガス10sccmを、Bを含有させる場合には、ジボランガス10sccmを、Nを含有させる場合には、アンモニアガス100sccmを供給した。
【0064】
(リチウムイオン二次電池用負極の作製2)
得られた集電体の表面に、第3の元素として酸素を加える場合には、酸素を含有するSiの反応性スパッタリングにより、Si−P−Oの組成の負極活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。具体的には、酸素含有量の異なるSiとPの基板をスパッタリングして所望の割合の活物質を形成した。
【0065】
(リチウムイオン二次電池用負極の作製3)
上記のCat−CVD装置を用いて得られた負極に対し、180℃に加熱した恒温槽にて大気酸化処理を施して、酸素を含有させた。
【0066】
[実施例1〜3]
突起部を設けた集電体に、Cat−CVD法によりP含有量と厚みとを変えて、3通りの負極活物質層を形成して負極とした。
[実施例4]
突起部を設けた集電体に、Cat−CVD法によりSiとPを含有する負極活物質層を形成し、さらに恒温槽による酸化を施して、SiとPとOを含有する負極とした。
[実施例5]
実施例3の負極に恒温槽による酸化を施して、SiとPとOを含有する負極活物質層を形成して負極とした。
[実施例6]
突起部を設けた集電体に、反応性スパッタリングによりSiとPとOを含有する負極活物質層を形成して負極とした。
[実施例7]
突起部を設けた集電体に、Cat−CVD法によりSiとAsを含有する負極活物質層を形成して負極とした。
[実施例8]
実施例7の負極に恒温槽による酸化を施して、SiとAsとOを含有する負極活物質層を形成して負極とした。
[実施例9]
実施例1と異なる、平滑な表面の銅箔に、粗面化処理をし、突起部を有するものの表面粗さが小さい銅箔に、Cat−CVD法によりSiとPを含む負極活物質層を形成して負極とした。
【0067】
[比較例1]
突起部を設けた銅箔に、Cat−CVD法によりSi単体からなる負極活物質層を形成して負極とした。
[比較例2]
突起部を設けた銅箔に、Cat−CVD法によりSiとBを含む負極活物質層を形成して負極とした。
[比較例3]
突起部を設けた銅箔に、Cat−CVD法によりSiとNを含む負極活物質層を形成して負極とした。
[比較例4]
突起部を設けない両面平滑銅箔(Rz1.5μmのWS箔、未処理箔)に、Cat−CVD法によりSiとPを含む負極活物質層を形成して負極とした。
【0068】
(負極活物質層組成の分析)
作製した負極の負極活物質層の断面に対してX線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて分析し、2〜3成分についてZAF補正法による定量化を行った。その結果を、副成分濃度として、表2に示した。なお、副成分濃度は、層を構成する成分全体の質量を100とした時の副成分の割合(mass%)を示している。
【0069】
(シリコン電極の電気化学特性評価セルの作製)
得られた負極を、直径20mmの円盤状に加工し、電気化学特性評価における作用極とした。また、対極と参照極としてリチウム金属、電解液として1molのLiPFを溶解したエチレンカーボネート+ジエチルカーボネート(体積比で1:1)の混合溶媒を用い、作用極と共にこれらをビーカーに入れて、電気化学特性評価セルを作製した。
【0070】
(シリコン電極の電気化学特性の評価)
次に電気化学特性評価セルを用いて、充放電性能を評価するための試験を行った。作用極の電位を卑な方向(還元側)に走査する過程を充電と称し、作用極の電位を貴な方向(酸化側)に走査する過程を放電と称するものとする。
【0071】
まず、初回充放電は0.1CAで、充電は0.02Vまで(定電位で0.05CAに到達するまで)、放電は1.5Vまで行なった。2サイクル目以降の充放電は、充電は0.2CAで0.02V(定電位で0.05CAに到達するまで)、放電は0.2CAで1.5Vまで行なった。評価温度は25℃とした。このような条件で評価し、初回充放電の放電容量サイクルと50サイクル目の放電容量から容量維持率を求めた。なお、容量維持率の定義は次のようにした。
【0072】
容量維持率=(50サイクル目の放電容量/初回サイクルの放電容量)×100
表2に、試験極とした負極の仕様と、試験評価結果の容量維持率を示した。表に示す容量は、シリコンの質量当たりの容量である。
【0073】
(シリコン重量計測)
作製した負極について、負極全体の重量から集電体(突起部含む)の重量の差をとってシリコンの重量とし、その結果を表2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
以上の結果から、比較例1のSiのみからなる活物質層をもつ負極に比べて、実施例1〜8の原子半径がSiの原子半径(0.117nm)に近似し、|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たす第2元素(P,As)を含有する活物質層を用いた負極は、充放電50サイクル後の容量維持率が大幅に改善されることが分かった。
【0076】
そして、実施例2と実施例9の比較から、本発明に係る負極活物質層は、表面粗さRzが十分に大きい集電体との組み合わせにより、著しく放電容量および容量維持率が向上され、より一層充放電サイクル特性が向上されることが確認できた。なお、実施例9の負極は、比較例1に比べて膜厚およびシリコン質量が約半分に少ないにもかかわらず、比較例1の負極に遜色のない放電容量および容量維持率を有している。
【0077】
さらに、実施例4〜6,8の結果から、活物質層は酸素を含む方が容量維持率がさらに高く、より望ましいことが確認された。実施例5の結果から、酸素の含有量は0.7質量%でも十分な効果が発揮されることが確認された。
【0078】
一方、比較例2〜3から、原子半径が|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たさない元素(B、N)を導入した場合は、負極の容量維持率が大きく低下してしまうことが確認された。
【0079】
また、比較例4の結果から、集電体の表面に突起部が形成されていないと、集電体に負極活物質層を担持させることができないことが分かった。
【0080】
本実施例では、負極活物質層を構成する第2の元素としてP、Asを、さらに第3の元素として酸素を用いる場合を示したが、本発明の負極はこれに限るものではない。第2の元素としては、少なくとも原子半径が|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たす元素であればよく、P、Asの他に、例えば、Fe、Ni、Cr、CoやCu等を使用したり、第3の元素としてフッ素を使用したりしても、同様の結果が得られることが推測される。
【0081】
本実施例では、集電体の粗面化の手法として焼けめっきおよびカプセルめっきを施すようにしたが、本発明の集電体の突起の形成手法はこれに限るものではない。集電体の表面に所定の表面粗さとなる突起部を有する安定な被膜を形成できる手法であれば、本実施例と同じ傾向の結果が得られることが推測される。
【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0083】
1………負極
3………負極活物質層
5………突起部
7………負極集電体
11………リチウムイオン二次電池
13………正極
15……セパレータ
17……電解質
19………電池缶
21………正極リード
23………負極リード
25………正極端子
27………封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に突起部を有する負極集電体と、前記負極集電体の表面に成膜され、シリコンを主成分とし、少なくとも元素Aを0.05質量%以上含む薄膜状の負極活物質層とを有し、
前記元素Aは、シリコンの原子半径rに対する前記元素Aの原子半径rが、|(r−r)/r|≦0.1の関係を満たす元素
であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記元素Aが、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Asからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記負極活物質層が、さらに、酸素またはフッ素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記負極集電体が、銅箔であり、
前記銅箔の、前記活物質層が設けられる表面に電解粗面化処理が施されて突起部が設けられ、表面粗さRzが1μm〜6μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
電解粗面化処理前の前記銅箔の、前記活物質層が設けられる表面の表面粗さRzが0.5μm〜3μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、請求項1〜5のいずれかに記載の負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを有し、リチウムイオン伝導性を有する電解質中に、前記正極と前記負極と前記セパレータとを設けていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−178309(P2012−178309A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41379(P2011−41379)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】