説明

リチウムイオン二次電池負極炭素材料用の原料油組成物

【課題】優れた高速充放電特性を達成するのに有用なリチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物を提供する。
【解決手段】残油流動接触分解装置のボトム油を原料とする、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物であって、薄層クロマトグラフィー法により展開して得られる飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分のうち、飽和成分が30〜50質量%の範囲であり、アスファルテン成分が10質量%以下であり、かつ、芳香族炭素分率(fa)が0.35〜0.60の範囲である、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い充放電容量を発現し得るリチウムイオン二次電池の負極炭素材を製造するための原料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の二次電池であるニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛電池と比較し、軽量であり且つ優れた入出力特性を有することから、近年、電気自動車やハイブリッド車用の電源として期待されている。リチウムイオン二次電池の電極を構成する活物質には炭素材料が用いられており、リチウムイオン二次電池の性能を高めるべく、炭素材料についてこれまでに種々の検討がされている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極材料として使用される炭素材料は、一般に黒鉛系と非晶質系に大別される。黒鉛系炭素材料は、非晶質系炭素材料と比較し、単位体積あたりのエネルギー密度が高いという利点がある。従って、コンパクトでありながら大きい充電放電容量が要求される携帯電話やノート型パソコン用のリチウムイオン二次電池においては、負極材料として黒鉛系炭素材料が一般に用いられている。黒鉛は炭素原子の六角網面が規則正しく積層した構造を有しており、充放電の際には六角網面のエッジ部でリチウムイオンの挿入離脱反応が進行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3056519号公報
【特許文献2】特公平4−24831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の負極材料として黒鉛系炭素材料を使用した場合、上述のように単位体積あたりのエネルギー密度を高くできるもののハイブリッド車などの自動車分野に適用するには高速充放電特性、特に高速充電特性の点で改善の余地があった。これは、黒鉛系炭素材料は結晶性の高いことから、それをリチウムイオン二次電池の負極に用いた場合、炭素層における溶媒和リチウムイオンの拡散が制限されることが主因と考えられる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池の優れた充放電特性を達成するのに有用なリチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
充放電容量が大きく且つ高速充電放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を製造するには、負極材料として用いる炭素材料の結晶構造を極めて発達したものとするとともにその炭素層内に溶媒和リチウムイオンの拡散経路が多数並ぶように形成する必要がある。すなわち、炭素層面の発達と、より多くの秩序性の高い炭素エッジ面の形成とが必要である。
【0008】
本発明者らは、優れた結晶構造を具備する炭素材料について、結晶構造の生成機構に着目して検討を行った。例えば、ニードルコークスは、重質油を高温処理することによって熱分解及び重縮合反応が起きてメソフェーズと呼ばれる液晶球体が生成し、これらが合体してバルクメソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て製造される。本発明者らは、炭素材料の製造に使用する原料油組成物及び原料炭組成物が結晶構造に与える影響について幅広い検討を行った。
【0009】
検討の結果、本発明者らは、上記要求性能を満足するリチウムイオン二次電池を得るためには、バルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に炭素層内にリチウムイオンの拡散経路を形成するのに寄与するガスを生じ得る飽和成分を、適度に含有する原料油組成物を用いることが有効であるとの知見を得た。
また、本発明者らは、流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking:FCC)による残油処理は、触媒の劣化や運転温度調節の困難さから不適当とされてきたが、鋭意検討した結果、驚くことに、残油流動接触分解(RFCC)装置のボトム油が、上記原料油組成物の原料として好適なことを見出した。
【0010】
本発明は、残油流動接触分解装置のボトム油を原料とする、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物であって、薄層クロマトグラフィー法により展開して得られる飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルト成分のうち、該飽和成分が30〜50質量%の範囲であり、該アスファルテン成分が10質量%以下であり、かつ、芳香族炭素分率(fa)が0.35〜0.60の範囲である、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物を提供する。
また、本発明は、この原料油組成物を熱処理して得られるリチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料炭組成物を提供し、この原料炭組成物を平均粒子径30μm以下に粉砕して原料炭組成物粉体を形成する工程と、上記原料炭組成物粉体を炭素化及び/又は黒鉛化する工程とを少なくとも含むリチウムイオン二次電池の負極炭素材料の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、この製造方法によって得られた炭素材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池を提供する。
【0011】
上記組成の原料油組成物から製造される炭素材料を負極に使用したリチウムイオン二次電池は優れた高速充放電特性を達成できる。この主因は、原料油組成物のコーキング過程での熱分解及び重縮合反応において、良好なメソフェーズが生成するとともに、そのバルク化及び固化時において適度な量のガスが発生することで炭素層内にリチウムイオンの拡散経路が十分に発達するためと推察される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、残油流動接触分解装置のボトム油を原料とし、出発原料油組成を適切に調整することで、リチウムイオン二次電池の優れた高速充放電特性を発現するリチウムイオン二次電池の負極材料用の原料油組成物が提供される。
特に本発明では、出発段階の原料油組成を適切に調整することでリチウムイオン二次電池負極材料用として最適化できるため、その組成の調整が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
原料油組成物の各成分の組成比は、TLC−FID法により測定したものである。TLC−FID法とは、薄層クロマトグラフィー(TLC)により試料を飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分に4分割し、その後、水素炎イオン化検出器(Flame Ionization Detector:FID)にて各成分を検出し、各成分量の全成分量に対する百分率をもって組成成分値としたものである。
【0014】
まず、試料0.2g±0.01gをトルエン10mlに溶解して、試料溶液を調整する。予め空焼きしたシリカゲル棒状薄層(クロマロッド)の下端(ロッドホルダーの0.5cmの位置)にマイクロシリンジを用いて1μlスポットし、ドライヤー等により乾燥させる。次に、このマイクロロッド10本を1セットとして、展開溶媒にて試料の展開を行う。展開溶媒としては、第1展開槽にヘキサン、第2展開槽にヘキサン/トルエン(体積比20:80)、第3展開槽にジクロロメタン/メタノール(体積比95:5)を使用する。飽和成分については、ヘキサンを溶媒とする第1展開槽にて溶出して展開する。アスファルテン成分については、第1展開、第2展開の後、ジクロロメタン/メタノールを溶媒とする第3展開槽にて溶出して展開する。展開後のクロマロッドを測定器(例えば、ダイアヤトロン社(現三菱化学ヤトロン社)製の「イアトロスキャンMK−5」(商品名))にセットし、水素炎イオン化検出器(FID)で各成分量を測定する。各成分量を合計すると全成分量が得られる。
【0015】
本発明の原料油組成物は、原料油組成物を薄層クロマトグラフィー法により展開して得られる飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分の合計100質量%のうち、飽和成分の含有量が30〜50質量%、好ましくは35〜45質量%である。
原料油組成物に適度に含まれる飽和成分は、コークスの製造過程におけるメソフェーズの固化時に結晶を1軸方向に配向させるのに有効である。飽和成分の含有量が30質量%未満であると、メソフェーズを1軸方向に十分に配向させることができず、ランダムな組織となり好ましくない。飽和成分の含有量が50質量%を超えると、ガス発生が過多となり、バルクメソフェーズの配向を逆に乱す方向に働く傾向がある。この場合、炭素化及び/又は黒鉛化過程においても炭素層面の並びが悪く、充電時にリチウムイオンを多く取り込むことができなくなり、充電容量が小さくなり好ましくない。
また、飽和成分の含有量が30質量%より少なくなると相対的にアロマ成分が多くなる傾向があり、アロマ成分が多くなりすぎるとfaが好適な範囲を超える場合がある。
【0016】
本発明の原料油組成物は、原料油組成物を薄層クロマトグラフィー法により展開して得られる飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分の合計100質量%のうち、アスファルテン成分の含有量が10質量%以下であり、好ましくは9質量%以下である。アスファルテン成分は、含まれないことがより好ましい。
10質量%を超えると早期にメソフェーズが生成してしまい、これが成長する前にコークス化が進行して、モザイクと呼ばれる小さな組織のコークスが得られる。このようなコークスは炭化黒鉛化後においても、炭素層面が発達せず、反応性の高いエッジ面が極端に多くなる。このような材料を負極に用いると、電解液と炭素エッジ面との反応によるガス発生が起こり好ましくない。
【0017】
本発明の原料油組成物は、原料油組成物を薄層クロマトグラフィー法により展開して得られる飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分の合計100質量%のうち、アロマ成分の含有量とレジン成分の含有量は、飽和成分とアスファルテン成分の含有量が上記範囲にあれば、特に限定されない。
【0018】
原料油組成物の芳香族炭素分率(fa)は、Knight法により求めることができる。Knight法では、炭素の分布を13C−NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A,A,A)に分割する。ここで、Aは芳香族環内部炭素数、置換されている芳香族炭素と置換されていない芳香族炭素の半分(13C−NMRの約40〜60ppmのピークに相当)、Aは置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C−NMRの約60〜80ppmのピークに相当)Aは脂肪族炭素数(13C−NMRの約130〜190ppmのピークに相当)であり、これらから、faは
fa=(A+A)/(A+A+A
により求められる。13C−NMR法が、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法であることは、文献(「ピッチのキャラクタリゼーション II. 化学構造」横野、真田、(炭素、1981(No.105)、p73〜81)に示されている。
【0019】
本発明の原料油組成物の芳香族炭素分率(fa)は、0.35〜0.60、好ましくは0.40〜0.55である。この条件は、良好なメソフェーズの生成及び成長に不可欠である。faが0.35未満では、コークスの収率が低下し、工業的に適さない。faが0.60を超えるとコークスの製造過程においてマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生する。この場合、メソフェーズのシングル成長よりも合体が起こり、これによりコークス組織が変形し、その後の炭化黒鉛化過程においても炭素層面の並びが悪くなる。このような材料を負極に用いると、充電時にリチウムイオンを多く取り込むことができず、充電容量が小さくなり好ましくない。
【0020】
本発明の原料油組成物は、石油系重質油の残油流動接触分解(RFCC)装置のボトム油を原料とする。流動接触分解(FCC)による残油処理自体が、触媒の劣化や運転温度調節の困難さから不適当とされてきたが、本発明では、残油を流動接触分解(FCC)する残油流動接触分解(RFCC)装置のボトム油を好適に利用できる。
残油流動接触分解装置(RFCC)は、原料油として残油(常圧残油等)を使用し、触媒を使用して分解反応を選択的に行わせ、高オクタン価のFCCガソリンを得る流動床式の流動接触分解する装置である。残油流動接触分解装置のボトム油としては、例えば、常圧残油等の残油をリアクター反応温度(ROT)510〜540℃の範囲で、触媒/油質量比率を6〜8の範囲で変化させて製造したボトム油が挙げられる。
【0021】
本発明の原料油組成物は、残油流動接触分解装置のボトム油を少なくとも含むが、必要に応じて他の油を含んでもよい。
残油流動接触分解装置ボトム油が、所定の飽和成分及びアルファルテン成分を有し、所定の芳香族炭素分率(fa)を有するときは、単独で原料油組成物を形成してもよい。また、残油流動接触分解装置ボトム油に、流動接触分解(FCC)装置のボトム油、減圧蒸留装置の残渣油(VR)、減圧蒸留装置の留出油、脱硫脱瀝油、及び芳香族化合物のタールなどからなる一群から選ばれる一以上を組合せてもよい。
流動接触分解装置のボトム油は、原料油として減圧軽油を使用し、触媒を使用して分解反応を選択的に行わせ、高オクタン価のFCCガソリンを得る流動床式の流動接触分解する装置のボトム油である。減圧蒸留装置の残渣油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧残油を得た後、この常圧残油を、例えば、10〜30Torrの減圧下、加熱炉出口温度320〜360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。減圧蒸留装置の留出油は、上記の常圧残油を、例えば、10〜30Torrの減圧下、加熱炉出口温度320〜360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置の留出油である。脱硫脱瀝油は、例えば、減圧蒸留残渣油等の油を、プロパン、ブタン、ペンタン、又はこれらの混合物等を溶剤として使用する溶剤脱瀝装置で処理し、そのアスファルテン分を除去し、得られた脱瀝油(DAO)を、好ましくは硫黄分0.05〜0.40質量%の範囲までに脱硫したものである。
これらを適宜混合することにより、本発明に規定の組成の原料油組成物を調整する。例えば、適宜組み合わせた後、その一部をサンプリングして、本発明に規定の条件を満たした原料油については、次の炭化処理工程に移行させ、条件を満たさない原料油については再調整して、本発明に規定の組成を満たしたもののみを次の炭化処理工程に供するようにすればよい。
本発明の原料油組成物は、残油流動接触分解装置のボトム油を原料油組成物中に好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜90質量%含む。
なお、原料油組成物には、硫黄や金属等の不純物を極力含まないことが好ましいことはいうまでもない。
【0022】
このようにして特定組成に調整された原料油組成物を熱処理(例えば、コーキング処理)し、原料炭組成物を得る。その後、粉砕し、必要に応じて分級したあと、炭素化及び/又は黒鉛化してリチウムイオン二次電池の負極炭素材料を調製する。
【0023】
上記所定の組成を有する原料油組成物は、従来公知の方法でコーキング処理する。例えば、オートクレーブで、加圧下(例えば1MPa)、450〜550℃程度の温度で、数時間コーキングさせることにより、原料炭組成物が得られる。本発明の原料油組成物は易黒鉛化性を有しており、コーキング過程において、熱分解反応により生成した縮合多環芳香族が積層して黒鉛類似の微結晶炭素を含有する原料炭となる。特に本発明では、この黒鉛類似の微結晶炭素が原料炭組成物に含まれることが好ましい。黒鉛類似の微結晶とは、X線回折により求められる六角網目状の縮合多環芳香族が集積したものである。
【0024】
原料炭の粉砕工程は、公知の方法で行われる。平均粒子径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは5〜30μmである。リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒子径が30μm以下であるからである。即ち、数値限定される理由の本質は、原料炭組成物を粉砕し、必要に応じて分級したあと、炭素化及び/又は黒鉛化してリチウムイオン二次電池の負極炭素材料として使用されるまで、二度と粉砕工程を経由しないことである。なお、平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。
【0025】
原料炭組成物を、炭素化及び/又は黒鉛化してリチウムイオン二次電池の負極炭素材料を調製する。
炭素化工程は、特に限定されないが、例えば、原料炭組成物をロータリーキルン、シャフト炉等で1000〜1500℃で焼成してか焼コークスを得る。
黒鉛化工程は、特に限定されないが、例えば、か焼コークスをアチソン炉等で2200〜2850℃で処理する。
【0026】
次に、粉砕された炭素材料を用いてリチウムイオン二次電池用負極を製造する方法、並びに、リチウムイオン二次電池について説明する。
【0027】
リチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本実施形態に係る炭素材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物を加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、炭素材料、バインダー、導電助剤等を有機溶媒中でスラリー化し、該スラリーを集電体上に塗布したのち、乾燥する方法が挙げられる。
【0028】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレン−ブタジエンラバー)等を挙げることができる。バインダーの使用量は、炭素材料100質量%に対して1〜30質量%が適当であるが、3〜20質量%程度が好ましい。
【0029】
導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、あるいは、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、炭素材料100質量%に対して1〜15質量%が好ましい。
【0030】
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
【0031】
炭素材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー又はプラネタリーミキサー等の公知の装置を用いた方法が挙げられる。得られた混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形する。このときの圧力は100〜300MPa程度が好ましい。
【0032】
集電体の材質及び形状については、特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン又はステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状又はメッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、集電体として、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0033】
負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法又はスクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行う。
【0034】
また、シート状、ペレット状等の形状に成形されたスラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0035】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、上記のようにして製造したリチウムイオン二次電池用負極と正極とをセパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
【0036】
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、及びこれらの複酸化物(LiCoNiMn、X+Y+Z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0037】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0038】
リチウム二次電池に使用する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
【0039】
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン;テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル;エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート;γ−ブチロラクトン;N−メチルピロリドン;アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。なかでも、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等を好ましい例として挙げることができ、特に好ましい例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系非水溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
これらの溶媒の溶質(電解質)には、リチウム塩が使用される。リチウム塩としてLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO等が挙げられる。
【0041】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
【0042】
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【0043】
本実施形態に係る炭素材料を負極材料に用いたリチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群とするか、あるいは、これらを平板状として積層して積層式極板群とし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウムイオン二次電池は、例えば、ぺーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池などとして使用される。
【0044】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池は、従来の炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、急速充放電特性に優れ、自動車用、例えば、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用に使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1〜8及び比較例1〜12>
(1)リチウムイオン二次電池負極用炭素材料の製造
各種重質油をブレンドして原料油組成物を調製した。より具体的には、実施例1〜8の原料油組成物は、残油流動接触分解装置のボトム油、流動接触分解装置のボトム油及び南方系減圧蒸留残渣油を、表1に示すとおりブレンドすることによってそれぞれ調製した。
比較例1〜12の原料油組成物はナフサタール、石油系重質留出油、中東系減圧蒸留残渣油をブレンドすることによってそれぞれ調製した。
各原料油組成物の芳香族炭素分率(fa)と、薄層クロマトグラフィー法によって求めた飽和成分とアスファルテン成分含有量の結果を表2と表3に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
各原料油組成物について、オートクレーブ装置を用いて0.7Mpa加圧下、500℃で3時間熱処理を行い生コークス化し、得られた生コークスを1000℃で1時間焼成してか焼コークスを得た。さらに上記か焼コークスを2400℃で5分間黒鉛化処理し、リチウムイオン二次電池負極用炭素材料を得た。
【0048】
(2)負極材料の充放電評価
(a)負極の作製
活物質としてリチウムイオン二次電池負極用炭素材料の微粒子、導電材としてアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を80:10:10(質量比)の割合でN−メチル−2−ピロリドン中で混合し、スラリーを作製した。該スラリーを銅箔上に塗布し、ホットプレートで10分間乾燥した後、ロールプレスでプレス成形した。
(b)評価用電池の作製
負極として上記の組成物(30×50mm)、正極としてニッケル酸リチウム(30×50mm)、電解液としてエチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)混合液(EC/MEC質量比:3/7、溶質:LiPF(1M体積モル濃度)、及びセパレータとしてポリエチレン微孔膜を用いた。
(c)高速充放電レート特性の評価
作成した電池の高速充放電特性の測定結果を表2と表3に示した。なお、本評価におけるCレートは10Cとした。
利用率%は、10Cでの充放電容量を1Cでの充放電容量で除して求めた。
【0049】
表2と表3に示すように、実施例1〜8に係る原料油組成物から製造された炭素材料を負極に用いたリチウムイオン二次電池は、比較例1〜12に係る原料油組成物から製造された炭素材料を負極に用いたものと比較し、高速充放電条件(10C)における充電容量及び放電容量の両方がバランスよく優れていた。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
残油流動接触分解装置のボトム油を原料とする、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物であって、
薄層クロマトグラフィー法により展開して得られる飽和成分、アロマ成分、レジン成分及びアスファルテン成分のうち、該飽和成分が30〜50質量%の範囲であり、該アスファルテン成分が10質量%以下であり、かつ、
芳香族炭素分率(fa)が0.35〜0.60の範囲である、
リチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の原料油組成物を熱処理して得られるリチウムイオン二次電池の負極炭素材料用の原料炭組成物。
【請求項3】
黒鉛類似の微結晶炭素を有する請求項2に記載の原料炭組成物。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の原料炭組成物を平均粒子径30μm以下に粉砕して原料炭組成物粉体を形成する工程と、
上記原料炭組成物粉体を炭素化及び/又は黒鉛化する工程と
を少なくとも含むリチウムイオン二次電池の負極炭素材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法によって得られた炭素材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−14942(P2012−14942A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150165(P2010−150165)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】