説明

リチウムイオン伝導性固体電解質を含む組成物及びその保存方法

【課題】硫化物系固体電解質を分散させた状態で長期間保存可能であり、かつバインダーが溶解している組成物を提供する。
【解決手段】リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質、R−CNで示されるニトリル化合物、及びバインダーを含み、前記ニトリル化合物は、温度25℃、圧力101325Paで液体であり、0.05≦(Y+Z)/(X+Y+Z)≦0.75、及びZ/(Y+Z)≦0.5を満たす組成物。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。Xは前記ニトリル化合物の重量、Yは前記リチウムイオン伝導性固体電解質の重量、Zはバインダーの重量を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性固体電解質を含む組成物及びその保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の移動通信、情報電子機器の発達に伴い、高容量かつ軽量なリチウム二次電池の需要が増加する傾向にある。室温で高いリチウムイオン伝導性を示す電解質のほとんどが液体であり、市販されているリチウムイオン二次電池の多くが有機系電解液を用いている。
この有機系電解液を用いたリチウム二次電池では、漏洩、発火・爆発の危険性があり、より安全性の高い電池が望まれている。固体電解質を用いた全固体電池では、電解質の漏洩や発火が起こりにくいという特徴を有するが、固体電解質のイオン伝導度は一般的に低く実用化が難しいのが現状である。
【0003】
固体電解質を用いたリチウム二次電池では、従来、室温で10−3Scm−1の高いイオン伝導性を示す固体電解質としてLiNをベースとするリチウムイオン伝導性セラミックが知られている。しかし、分解電圧が低いため3V以上で作動する電池を構成することができなかった。
【0004】
硫化物系固体電解質としては、特許文献1に10−4Scm−1台の固体電解質が開示されており、また特許文献2ではLiSとPから合成された電解質で同様に10−4Scm−1台のイオン伝導性が開示されている。さらに、特許文献3ではLiSとPを68〜74モル%:26〜32モル%の比率で合成した硫化物系結晶化ガラスで10−3Scm−1台のイオン伝導性を実現している。
【0005】
該電解質は、水分と接触すると加水分解を起こし、イオン伝導度が低下するという欠点を有する。そのため、該電解質を露点−40℃以下で取り扱う方法が開発された(特許文献4)。
【0006】
しかし、該電解質を保存する場合に露点−40℃以下の状態で保存するためには、気密性の高い容器内で保存するか、無極性溶液中で保存する必要がある。
【0007】
また、リチウムイオン電池の電解質層を塗布法により製造する際には、該電解質を液体に分散させたスラリーを用いて製造するが、該電解質は無機物であるため、有機系の結着材(以下、「バインダー」という。)を用いないと電解質層が電極層に密着しない。また、バインダーとして機能するためには上記液体にバインダーが溶解している必要があった。
しかし、上記無極性溶液には、バインダーは溶解しないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−202024号公報
【特許文献2】特開2002−109955号公報
【特許文献3】特開2005−228570号公報
【特許文献4】特開2002−212705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、硫化物系固体電解質を分散させた状態で長期間保存可能であり、かつバインダーが溶解している組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下の組成物等が提供される。
1.リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質、
式(1)で示されるニトリル化合物、及び
バインダーを含み、
前記ニトリル化合物は、温度25℃、圧力101325Paで液体であり、
式(I)及び(II)を満たす組成物。
R−CN・・・(1)
(式(1)中、Rは直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。)
0.05≦(Y+Z)/(X+Y+Z)≦0.75・・・(I)
Z/(Y+Z)≦0.5・・・(II)
(式(I)及び(II)中、Xは前記ニトリル化合物の重量、Yは前記リチウムイオン伝導性固体電解質の重量、Zはバインダーの重量を示す。)
2.前記リチウムイオン伝導性固体電解質は、粉砕した電解質粒子である1に記載の組成物。
3.前記ニトリル化合物の水分量が50ppm以下である1又は2に記載の組成物。
4.活物質を含む1〜3のいずれかに記載の組成物。
5.リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質を、温度25℃、圧力101325Paで液体である式(1)で示されるニトリル化合物中で保存する、リチウムイオン伝導性固体電解質の保存方法。
R−CN・・・(1)
(式(1)のRは、直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。)
6.リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質及びバインダーを、温度25℃、圧力101325Paで液体である式(1)で示されるニトリル化合物中で保存する、リチウムイオン伝導性固体電解質及びバインダーの保存方法。
R−CN・・・(1)
(式(1)のRは、直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硫化物系固体電解質を分散させた状態で長期間保存可能であり、かつバインダーが溶解している組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の組成物は、リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質(以下、固体電解質という)、式(1)で示されるニトリル化合物、及びバインダーを含む。
R−CN・・・(1)
式(1)中、Rは直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。
上記ニトリル化合物は、温度25℃圧力101325Pa(大気圧)の環境下で液体である。
【0013】
また、本発明の組成物は式(I)及び(II)を満たす。
0.05≦(Y+Z)/(X+Y+Z)≦0.75・・・(I)
Z/(Y+Z)≦0.5・・・(II)
式(I)及び(II)において、Xは上記ニトリル化合物の重量、Yは上記固体電解質の重量、Zはバインダーの重量を示す。
【0014】
1.固体電解質
固体電解質は、ガラスであってもガラスセラミックスであってもよい。
尚、固体電解質は好ましくは粒子状である。粒径は特に制限なく、例えば、0.1μm以上100μm以下である。粒径は実施例に記載の方法により測定できる。
【0015】
(1)原料
固体電解質は、Li及びSを含む。また、固体電解質は、P、B、Si、Ge及びAlからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、並びにLi元素及びS元素を含むことが好ましい。
特に、Li、S及びPを含み、かつLi、S、Pの割合が、20〜42:11〜20:47〜60(モル%)であることが好ましい。
【0016】
硫化物系固体電解質を、硫化リチウム、及び五硫化二りんから製造する場合、混合モル比は、通常50:50〜80:20、好ましくは60:40〜75:25である。特に好ましくは、LiS:P=68:32〜74:26(モル比)程度である。
【0017】
(2)ガラスセラミックス
結晶構造は、LiPS、Li、LiPS及びLi11からなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶相が好ましく、より好ましくはLi11結晶相であることが好ましい。
上記結晶構造であれば、ガラスよりもイオン伝導度が高く、この結晶構造を有するガラスセラミックスを使用してリチウムイオン電池を製造すると高性能のリチウムイオン電池を製造することができる。
【0018】
(3)ガラス・ガラスセラミックスの製法
ガラス・ガラスセラミックは、露点を−40℃以下に保って製造するが、不活性ガス気流下で製造することが好ましい。ガラスの原料である硫化リチウム、五硫化二りん、ガラス及びガラスセラミックスは水分と反応し加水分解を起こすためである。
【0019】
(i)ガラスの製法
以下、原料としてP及びLiSを用いた場合のガラス固体電解質の製造方法を説明する。
ガラス固体電解質の製造方法としては、溶融急冷法やメカニカルミリング法(MM法)が挙げられる。
溶融急冷法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、ペレット状にしたものを、カーボンコートした石英管中に入れ真空封入する。所定の反応条件(通常400℃〜1000℃、0.1時間〜12時間)で反応させた後、氷中に投入し急冷することにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。
尚、急冷法で製造した固体電解質は塊であり、粒子状ではないため、下記するように、塊の状態で保存しても、粉砕して粒子状にして保存してもよい。
【0020】
MM法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、メカニカルミリング法にて反応させることにより、硫化物系ガラス固体電解質が得られる。LiSは高純度のものが好ましい。
MM法は回転ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル等種々の形式を用いることができる。MM法の条件としては、例えば遊星型ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
【0021】
(ii)ガラスセラミックスの製法
上記ガラスを結晶化するための加熱処理は、かかる硫化物系ガラスのガラス転移温度が230℃であるため、230℃以上の温度で行う。
230℃以上350℃以下の温度範囲で0.1時間以上24時間以下、より好ましくは0.5時間以上12時間以下、さらに好ましくは2時間以上5時間以下加熱することにより、結晶化が起こる。
【0022】
(3)ガラス・ガラスセラミックスの粉砕
固体電解質は、上記ガラス・ガラスセラミックスを粉砕したものであってもよい。粉砕は、ガラス・ガラスセラミックスを粉砕できる方法であれば特に制限はないが、例えば、遊星ボールミル等で粉砕することができる。
【0023】
2.ニトリル化合物
ニトリル化合物は式(1)で示され、温度25℃圧力101325Paの環境下で液体である。
R−CN・・・(1)
式(1)のRは、直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。このようなニトリル化合物(溶媒)は上記固体電解質を劣化させず、下記のバインダーを溶解することができる。
【0024】
炭素数3以上40以下の炭化水素基は、好ましくは直鎖状又は分岐状(より好ましくは分岐状)の炭素数3以上10以下(より好ましくは3以上6以下)のアルキル基である。
炭素数3〜10の環状構造は、好ましくはベンゼン環であり、炭素数3〜10の環状構造を有する基は、例えば、フェニル基、アルキル(炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6)フェニル基又はフェニルアルキル(炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6)基である。
【0025】
式(1)は、式(2)であることが好ましい。
【化1】

式(2)において、Rは、炭素数1以上20以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素数3以上10以下のシクロアルキル基である。R、R、Rは、水素、炭素数1以上20以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素数3以上10以下のシクロアルキル基であり、R〜Rは同一でも異なっていてもよい。
また、RとRが水素である場合には、炭素数はR+R≧3である。
【0026】
より好ましくは、式(1)は下記式(3)で表わされる。
【化2】

式(3)において、R12及びR13はメチル基又は水素であり、R11は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基である。
11がフェニル基である場合には、R12及びR13が水素であること、即ちR11、R12及びR13で示される置換基は、無置換のフェニル基であることがより好ましい。
11がフェニル基である場合には、式(3)中のCN、R12及びR13はそれぞれフェニル基の異なる位に置換される。
【0027】
ニトリル化合物として、具体的にはベンゾニトリル、イソブチロニトリル、イソバレロニトリル等が挙げられる。
ニトリル化合物中の水分量が50ppm以下であることが好ましい。水分量が50ppm以下であれば、上記電解質の劣化をより抑えることができる。水分量は、カールフィッシャー水分計により測定する。
【0028】
3.バインダー
バインダーは、上記溶液により劣化しないものであればよい。バインダーとは、電解質粒子を電極層に密着させるとともに電解質粒子同士を密着させる機能を有するものをいう。
バインダーとしては、ポリエチレン系、フッ化ビニリデン系が好適であり、
ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリシロキ酸、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
【0029】
好ましくは、バインダーは下記式(10)の単位、又は式(11)の単位を有する重合体である。
−[OCHCH−・・・(10)
−[CH−CF−・・・(11)
重量平均分子量は10000〜100000が好ましい。重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定する。
【0030】
さらに好ましくは下記式で表わされる。
20−[OCHCH−H
21−[CH−CF−R21´
20、R21及びR21´は、それぞれ直鎖状又は分岐状の炭化水素基、環状構造を有する基、又は官能基であり、炭化水素基及び環状構造を有する基は官能基を含んでもよい。
【0031】
4.各成分の割合
固体電解質とニトリル化合物(溶媒)の割合は特に制限はなく、例えば、容器中で保存する場合には、固体電解質が溶媒に浸漬していればよい。
【0032】
バインダー及び固体電解質を一緒に保存する場合には、固体電解質及びバインダーが溶媒に浸漬していればよい。
例えば、下記式に従うことが好ましい。
0.05≦(Y+Z)/(X+Y+Z)≦0.75
Z/(Y+Z)≦0.5
式中、Xは上記溶媒の重量、Yは上記固体電解質の重量、Zは上記バインダーの重量を示す。
【0033】
(Y+Z)/(X+Y+Z)が0.05未満であると液状になり塗布できなくなるおそれがある。また、(Y+Z)/(X+Y+Z)が0.75を超えると固形成分が多くなり塗布法により電解質層を形成することが艱難になるおそれがある。
ここで、X,Y及びZの単位は同じであり、Xの単位がgであれば、Y及びZの単位もgである。
【0034】
5.その他の成分
本発明の組成物は、活物質を含んでいてもよい。
尚、活物質は上記ニトリル化合物に溶解していてもよく、分散していてもよい。
【0035】
(1)活物質
活物質は、上記溶液により劣化しないものであればよい。
活物質には、正極の製造に用いる正極活物質と、負極の製造に用いる負極活物質がある。
正極活物質としては、リチウムイオンの挿入脱離が可能な金属酸化物、電池分野において正極活物質として公知のものが使用できる。
【0036】
例えば、硫化物系では、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni)等が使用でき、特にTiSが好適である。これらの物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また酸化物系としては、好ましくは下記式のものが挙げられる。
LiNi1−x
LiNiCoAl1−a−b
(式中、xは0.1<x<0.9を満たす数であり、MはFe,Co,Mn及びAlからなる群から選ばれる元素であり、0≦a≦1、0≦b≦1である。)
【0038】
また、例えば、酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V13)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)や、ニッケル−マンガン系酸化物(LiNi0.5Mn0.5)、ニッケル−アルミニウム−コバルト系酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、ニッケル−マンガン−コバルト系酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)等が使用でき、特にLiCoOやLiNi0.8Co0.15Al0.05が好適である。これらの物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
尚、上記の硫化物系と酸化物系を混合して用いることも可能である。また、上記の他に、セレン化ニオブ(NbSe)も使用することができる。
必要に応じて表面を酸化物や硫化物等でコート処理したものも好適に使用できる。
【0040】
負極活物質としては、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質、電池分野において負極活物質として公知のものが使用できる。
例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等が挙げられ、特に人造黒鉛が好適である。
【0041】
また、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素、金属スズ等の金属自体や他の元素、化合物と組合せた合金を、負極活物質として用いることができる。
これらの負極活物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
6.本発明の保存方法
本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質の保存方法は、上記の固体電解質を、上記のニトリル化合物中で保存する。
尚、保存に用いるニトリル化合物の量は、リチウムイオン伝導性固体電解質が浸漬し、空気と接触しない程度がよい。
従って、ニトリル化合物の量は保存する容器により異なる。
【0043】
尚、硫化物系固体電解質は粒子状であれば、第1の保存方法によれば、ニトリル化合物中に硫化物系固体電解質粒子を分散させているので、これにバインダーを溶解し、電解質層用のスラリーとして塗布法により電解質層を製造することができる。
尚、固体電解質とニトリル化合物に上記のバインダーを加えて保存してもよい。
【0044】
保存容器は、通常の保存容器を用いることができるが、気密性が高いものが好ましい。また、溶液を満たしていない空間には、アルゴンガス等の不活性ガスを充填できるものが好ましい。
【実施例】
【0045】
製造例1
以下は、露点−60℃以下に保った雰囲気下で行った。
(1)硫化リチウムの製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
【0046】
続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0047】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。
【0048】
(3)硫化物系固体電解質(ガラス)の製造
上記(2)で製造した硫化リチウム16.27g、及びP(アルドリッチ製)33.73gを遊星ボールミル(レッチェ社製PM−400)500ml容器に入れ(LiS70モル%:P30モル%)、さらに10mm直径のアルミナボール175個を入れて冶具で固定した。
この状態で36時間処理することにより70LiS−30P系硫化物固体電解質(ガラス)を得た。
【0049】
ガラスの粒径の測定方法は、レーザー回折式粒度分布測定装置がMalvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000である場合、以下の通りである。
まず、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。
ここで、トルエンに分散剤を添加するのは、固体電解質含有組成物内の「凝集している固体電解質粒子」を一次粒子にする(分散させる)ためではなく、測定する固体電解質含有組成物内の固体電解質粒子が凝集しないようにするためである。
【0050】
レーザー回折式粒度分布測定方法は、組成物を乾燥せずに粒度分布を測定することができ、組成物中の粒子群にレーザーを照射してその散乱光を解析することで粒度分布を測定することができる。
【0051】
上記混合物を十分混合した後、固体電解質粒子を添加して粒子径を測定する。固体電解質粒子の添加量は、マスターサイザー2000で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するレーザー散乱強度が規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることができなくなるおそれがある。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定ができないおそれがある。マスターサイザー2000では、固体電解質粒子の添加量に基き、レーザー散乱強度が表示されるので、上記レーザー散乱強度に入る添加量を見つけるとよい。
固体電解質粒子の添加量は組成物の濃度によって最適量は異なるが、概ね10μL〜200μL程度である。
【0052】
この硫化物系固体電解質(ガラス)の平均粒径は、150μm(体積基準平均、以下同じ)であった。
【0053】
(4)ガラスセラミックスの製造
上記70LiS−30P系硫化物固体電解質(ガラス)を300℃で2時間加熱することにより70LiS−30P系硫化物固体電解質(ガラスセラミックス)を得た。ガラスセラミックスの平均粒径は、100μmであった。ガラスセラミックスのイオン伝導度は、1.32×10−3S/cmであった。
【0054】
製造例2
製造例1の(3)固体電解質の調製において、LiSとP(アルドリッチ製)をモル比で75:25となるように混合して、75LiS−25P系硫化物固体電解質(ガラス)を得た。ガラスの平均粒径は、68μmであった。
尚、LiSとPの原料比が異なる点以外は、製造例1の(3)と同様に行った。
固体電解質ガラス粒子の回収率は82%であり、X線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)では、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。また、得られたガラス粒子のイオン伝導度は、2.29×10−4S/cmであった。
【0055】
実施例1
(1)固体電解質のスラリー
製造例1のガラスセラミックス16.5gを、予め直径10mmのZrボール20個入れた45mlミルポットに移し、24時間Nバブリング処理したベンゾニトリル(和光純薬製)(水分量30ppm以下)20gを加えて密閉をした(固形分濃度45wt%)。これを370rpmで60分、メカニカルミリング処理して、ガラスセラミックスを粉砕して、粉砕したガラスセラミックスを含むスラリーを得た。
【0056】
このスラリーを風乾後、チューブヒーターにより150℃2時間真空乾燥を行い、粒径を測定したところ、平均粒径は10μmであった。粒径の測定方法は、上記と同様である。
【0057】
(2)スラリーの保存
このスラリーを下記条件の下で保存し、イオン伝導度を測定した。
スラリーをグローブボックス(露点−60℃、酸素濃度0.1ppm、25℃)内で0時間(MM処理直後)、120時間、及び240時間保管した。
その後、スラリーそれぞれを風乾後、チューブヒーターにより150℃2時間真空乾燥を行い、上記の方法に従いイオン伝導度を測定した。
【0058】
イオン伝導度は、以下の通りであった。
0時間:1.31×10−3S/cm
120時間:1.55×10−3S/cm
240時間:1.61×10−3S/cm
【0059】
尚、硫化物系固体電解質ガラスセラミックのイオン伝導度は下記方法に従い測定した。
硫化物系固体電解質ガラスセラミックを錠剤成形機に充填し、4〜6MPaの圧力を加え成形体を得た。さらに、電極としてカーボンと該電解質ガラスセラミックを重量比1:1で混合した合材を成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えることで、伝導度測定用の成形体(直径約10mm、厚み約1mm)を作製した。
この成形体について交流インピーダンス測定によりイオン伝導度測定を実施した。伝導度の値は25℃における数値を採用した。
【0060】
上記結果から、ガラスセラミックスは、ベンゾニトリル中で劣化するスピードが遅いことが分かった。
【0061】
(3)バインダーとの混合
また、上記MM処理直後のスラリーにPEO(ポリエチレンオキシド)系ポリマー(アルドリッチ製)1.13gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。また、上記MM処理直後のスラリーにPVDF−HFP(フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)(バインダー:アルケマ製、製品名:KYNAR2750−01)0.75gを混合したところに上記スラリーに溶解したことを確認した。
【0062】
実施例2
(1)固体電解質のスラリー
製造例1のガラスセラミックス5gを、予め直径10mmのZrボール20個を入れた45mlミルポットに移し、24時間Nバブリング処理したイソブチロニトリル(水分量50ppm以下)15gを加えて密閉をした(固形分濃度25wt%)。これを370rpmで120分メカニカルミリング処理して、ガラスセラミックスを粉砕して、粉砕したガラスセラミックスを含むスラリーを得た。
【0063】
また、このスラリーを風乾後、チューブヒーターにより150℃2時間真空乾燥を行い、粒径を測定したところ、平均粒径は1μmであった。尚、粒径の測定方法は、上記と同様である。
【0064】
(2)スラリーの保存
実施例1と同様にスラリーを保管し、真空乾燥150℃4時間後、上記方法に従いイオン伝導度を測定した。イオン伝導度は、以下の通りであった。
0時間:1.25×10−3S/cm
48時間:9.88×10−4S/cm
120時間:8.28×10−4S/cm
ガラスセラミックスは、イソブチロニトリル中で劣化するスピードが遅いことが分かった。
【0065】
(3)バインダーとの混合
また、上記のMM処理直後のスラリーに、実施例1と同じPEO系ポリマー 0.62gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。また、上記のMM処理直後のスラリーにPVDF−HFP 0.41gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。
【0066】
実施例3
(1)固体電解質のスラリー
製造例2のガラス4gを、予め直径10mmのZrボール20個を入れた45mlミルポットに移し、24時間Nバブリング処理したイソブチロニトリル(水分量50ppm以下)16gを加えて密閉をした(固形分濃度20wt%)。これを370rpmで120分メカニカルミリング処理して、ガラスを粉砕して、粉砕したガラスを含むスラリーを得た。
【0067】
(2)スラリーの保存
実施例1と同様にスラリーを保管し、150℃で4時間の真空乾燥後、上記方法に従いイオン伝導度を測定した。イオン伝導度は、以下の通りであった。
0時間:1.40×10−4S/cm
70時間:3.24×10−4S/cm
166時間:2.26×10−4S/cm
ガラスは、イソブチロニトリル中で劣化するスピードが遅いことが分かった。
【0068】
(3)バインダーとの混合
また、上記MM処理直後のスラリーにPEO系ポリマー 0.62gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。また、上記のMM処理直後のスラリーにPVDF−HFP 0.41gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。
【0069】
比較例1
製造例1と同様に70LiS−30P硫化物系固体電解質(ガラスセラミックス)を作製し、この固体電解質30gをガラスビン内に密閉した。この操作は、グローブボックス(露点−90℃、酸素濃度0.1ppm)内で実施した。
この状態で240時間保管し、イオン伝導度を測定し評価した。イオン伝導度は1.32×10−3S/cmであった。
比較例1は、露点が非常に低い状態で保存すれば、電解質の劣化を防ぐことができることを示す。従って、本発明によれば、露点が非常に低い状態での保存と同等に電解質の劣化を防ぐことができることが分かる。
【0070】
比較例2
(1)固体電解質のスラリー
製造例1のガラスセラミックス8gを、予め直径10mmのZrボール20個を入れた45mlミルポットに移し、24時間Nバブリング処理したジエチルカーボネート(キシダ化学社製、製品名:特級)(水分量50ppm以下)12gを加えて密閉をした(固形分濃度40wt%)。これを370rpmで120分メカニカルミリング処理して、ガラスセラミックスを粉砕して、粉砕したガラスセラミックスを含むスラリーを得た。
また、このスラリーを風乾後、チューブヒーターにより150℃2時間真空乾燥を行い、粒径を測定したところ、平均粒径は10μmであった。粒径の測定方法は、上記と同様である。
【0071】
(2)スラリーの保存
実施例1と同様にスラリーを保存し、イオン伝導度を測定した。イオン伝導度は以下の通りであった。
0時間:8.76×10−4S/cm
48時間:4.19×10−4S/cm
120時間:2.72×10−4S/cm
ガラスセラミックスは、ジエチルカーボネート中で劣化するスピードが速いことが分かった。
【0072】
(3)バインダーとの混合
また、上記MM処理直後のスラリーにPEO系ポリマー 0.62gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。しかし、上記MM処理直後のスラリーにPVDF−HFP 0.41gを混合したところ、上記スラリーに溶解しなかった。
【0073】
比較例3
製造例1のガラスセラミックス10gを、予め直径10mmのZrボール20個を入れた45mlミルポットに移し、24時間Nバブリング処理したプロピオニトリル(CHCHCN)(水分量50ppm以下)15gを加えて密閉をした(固形分濃度40wt%)。これを370rpmで60分メカニカルミリング処理して、ガラスセラミックスを粉砕して、粉砕したガラスセラミックスを含むスラリーを得ようとした。
しかし、ガラスセラミックスが膨張し、スラリー状にならなかった。
【0074】
比較例4
(1)固体電解質のスラリー
製造例2のガラス2gを、24時間Nバブリング処理したジエチルカーボネート(キシダ化学社製、製品名:特級)(水分量50ppm以下)6.4gを加えて密閉をした(固形分濃度24wt%)。これを3h撹拌し、ガラスを含むスラリーを得た。
【0075】
(2)スラリーの保存
実施例1と同様にスラリーを保存し、イオン伝導度を測定した。イオン伝導度は以下の通りであった。
0時間:2.49×10−5S/cm
ガラスは、ジエチルカーボネート中で劣化するスピードが速いことが分かった。
【0076】
(3)バインダーとの混合
また、上記MM処理直後のスラリーにPEO系ポリマー 0.26gを混合したところ、上記スラリーに溶解したことを確認した。しかし、上記MM処理直後のスラリーにPVDF−HFP 0.17gを混合したところ、上記スラリーに溶解しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の組成物は、リチウムイオン電池の部材に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質、
式(1)で示されるニトリル化合物、及び
バインダーを含み、
前記ニトリル化合物は、温度25℃、圧力101325Paで液体であり、
式(I)及び(II)を満たす組成物。
R−CN・・・(1)
(式(1)中、Rは直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。)
0.05≦(Y+Z)/(X+Y+Z)≦0.75・・・(I)
Z/(Y+Z)≦0.5・・・(II)
(式(I)及び(II)中、Xは前記ニトリル化合物の重量、Yは前記リチウムイオン伝導性固体電解質の重量、Zはバインダーの重量を示す。)
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導性固体電解質は、粉砕した電解質粒子である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ニトリル化合物の水分量が50ppm以下である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
活物質を含む請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質を、温度25℃、圧力101325Paで液体である式(1)で示されるニトリル化合物中で保存する、リチウムイオン伝導性固体電解質の保存方法。
R−CN・・・(1)
(式(1)のRは、直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。)
【請求項6】
リチウム及び硫黄を含むリチウムイオン伝導性固体電解質及びバインダーを、温度25℃、圧力101325Paで液体である式(1)で示されるニトリル化合物中で保存する、リチウムイオン伝導性固体電解質及びバインダーの保存方法。
R−CN・・・(1)
(式(1)のRは、直鎖状又は分岐状の炭素数3以上40以下の炭化水素基、又は炭素数3〜10の環状構造を有する基であり、炭素数1以上20以下の炭化水素基及び/又は炭素数3〜10の環状構造を有する基を含んでいてもよい。)

【公開番号】特開2012−138346(P2012−138346A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260355(P2011−260355)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】