説明

リチウムイオン電池用セパレータおよびそれを用いたリチウムイオン電池

【課題】電池の過充電時によるセパレータの溶融で起こる正極と負極の短絡および短絡で生じる急激なジュール発熱による電池温度の急上昇を防止する。
【解決手段】電池容器内に設けられた正極および負極と、正極および前記負極の電気絶縁を保つためのセパレータと、電解液と、を備えたリチウムイオン電池であって、負極と正極との間に半導電性層が設けられ、半導体層は絶縁体を含み、半導体層は半導体または導体を含み、半導電性層の電気抵抗率は、例えば103Ωm〜107Ωmであるリチウムイオン電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池容器内に、正極と負極、および両極の電気絶縁のためのセパレータと非水溶性電解液を備えたリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池に用いられるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高容量,高エネルギー密度で、寿命特性や充放電サイクル特性も優れているため、2次電池として広く利用されている。しかし、エネルギー密度が高いため、他の2次電池よりも安全確保に充分な対策を講じる必要がある。
【0003】
このためリチウムイオン電池の充電電圧は、過剰な充電により正極材および負極材が化学的に不安定となり発熱が生じて電池温度が上昇することを防ぐため、電圧の制御回路を用いて所定の値を超えないようにしている。
【0004】
また、リチウムイオン電池の正極と負極間に挿入されているセパレータには例えばポリオレフィン系の微多孔膜が用いられるが、融点は160℃程度であり、過剰な充電による発熱で熱収縮が起こり易いため、無機物等を添加して耐熱性を向上させる方策が採られている。
【0005】
しかし、リチウムイオン電池の充電時に、電圧の制御回路の動作不良により充電電圧が制御されず過充電が行われると、電池に蓄えられた過剰な電気エネルギーにより上記の耐熱性セパレータの裕度を超える発熱が生じてセパレータが溶融し、正極と負極の短絡が起こり、電池温度が急激に上昇して発火に至る。
【0006】
このようなリチウムイオン電池の過充電時における電池の発火を防止するため、特許文献1では電池内部にセパレータと共にガラス繊維またはアルミナ繊維あるいはセラミック繊維の不織布を設置していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−127545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン電池の過充電時には、耐熱性セパレータが溶融して電池の正極と負極が直接接触して短絡することにより、電池に過剰に蓄えられた電気エネルギーが瞬時に放出されて急激なジュール発熱が起こり、電池温度が急上昇する。
【0009】
このような電池の過充電時における温度の急上昇を防止し安全性を確保するために、特許文献1では電池内部にセパレータと共にガラス繊維またはアルミナ繊維あるいはセラミック繊維の不織布を設置している。ガラス繊維,アルミナ繊維,セラミック繊維共にセパレータと比べて耐熱温度が高いため、過充電時の発熱でセパレータが溶融した場合でも、いずれも不織布の形状を維持したまま正極と負極の間に残存する。これにより、正極と負極が直接接触して短絡することがなく、急激なジュール発熱ひいては電池温度の急上昇を招くことを防止できる。
【0010】
しかし、不織布の材料であるガラス繊維,アルミナ繊維,セラミック繊維はいずれも絶縁体であり、正極と負極の間には殆ど電流が流れないため過充電で電池に蓄えられた電気エネルギーを放出できない。このため、電池のエネルギーを安全に放出するための装置や作業が新たに必要となり、処理作業費用を含めた電池コストがアップするという問題点がある。
【0011】
また、過充電された電池の処理は安全面から好ましくない。
【0012】
本発明はリチウムイオン電池の過充電時における電池温度の急上昇の防止と過充電で蓄えられた電気エネルギーを安全に放出することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
リチウムイオン電池の過充電時における電池温度の急激な上昇の抑制と過充電で蓄えられた電気エネルギーの安全な放出のため、以下の手段を用いる。
(1)電池容器内に設けられた正極および負極と、正極および負極の電気絶縁を保つためのセパレータと、電解液と、を備えたリチウムイオン電池であって、負極と正極との間に半導電性層が設けられ、半導体層は絶縁体を含み、半導体層は半導体または導体を含むリチウムイオン電池。
(2)半導電性層は、セパレータの正極側表面に形成されたリチウムイオン電池。
(3)半導電性層の空隙率は、20%以上50%未満であるリチウムイオン電池。
(4)半導電性層の厚さは、10〜30μmであるリチウムイオン電池。
(5)絶縁体の形状は、不織布またはメッシュであり、半導体または導体は、絶縁体に付着しているリチウムイオン電池。
(6)絶縁体は樹脂で形成され、絶縁体に半導体または導体が混合されているリチウムイオン電池。
(7)絶縁体および半導体または導体の溶融温度は、セパレータの溶融温度より大きいリチウムイオン電池。
(8)半導電性層の電気抵抗率は103Ωm〜107Ωmであるリチウムイオン電池。
(9)絶縁体は、アルミナ,窒化ケイ素,窒化アルミまたはガラスのいずれか一種以上であるリチウムイオン電池。
(10)半導体層に半導体が含まれる場合、半導体は、SiまたはSnOのいずれか一種以上であり、半導体層に導体が含まれる場合、導体は、Cu,Ni,MnまたはMgのいずれか一種以上であるリチウムイオン電池。
(11)正極および負極の電気絶縁を保つためのセパレータと、セパレータの表面に設けられた半導電性層と、を有するリチウムイオン電池用セパレータであって、半導体層は絶縁体を含み、半導体層は半導体または導体を含むリチウムイオン電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0014】
正極および半導電性材と負極の間にはセパレータが存在するため電気絶縁が保たれ、半導電性材を追設する前と同様にリチウムイオン電池の充放電を正常に行うことができる。また、半導電性材により過充電時に蓄えられた電気エネルギーを安全に放出できる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例を示すリチウムイオン電池の構成図。
【図2】本発明の実施例を示すセパレータの構成図。
【図3】別の実施例を示すセパレータの構成図。
【図4】別の実施例を示すセパレータの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0017】
リチウムイオン電池の過充電時における電池温度の急上昇を防止するためには、過充電による発熱でセパレータが溶融した場合に正極と負極が直接接触して短絡することで起こる急激なジュール発熱を防止することが必要である。
【0018】
また、過充電された電池には電気エネルギーが蓄えられており、そのままの状態で保持することは安全上好ましくない。
【0019】
そこで、リチウムイオン電池のセパレータの正極側または負極側表面に半導電性材を塗布することにより、過充電による発熱でセパレータが溶融した場合にも、正極と負極の間に半導電性材が残存して両極の直接接触を防ぐと共に、半導電性材の所定の抵抗値に応じた一定の電流が流れることにより、急激なジュール発熱による電池温度の急上昇を防ぐと共に、過充電で電池に蓄えられた電気エネルギーを安全に放出することが可能となる。電極の発熱を考慮した場合、リチウムイオン電池のセパレータの正極側表面に半導電性材を設けることが望ましい。
【0020】
尚、半導体性材をセパレータの正極側表面に塗布することにより、半導電性材の成形が容易となり、また、電池の捲回作業が複雑化せず、従来と同様の製造性が得られる。
【実施例1】
【0021】
図1と図2に本発明の実施例を示す。図1に本実施例を適用したリチウムイオン電池を示す。リチウムイオン電池は正極5と負極2、および正極5と負極2を電気絶縁するためのセパレータ4を両極間に挟んだ状態で捲回して電池容器3内に入れた後、非水溶性あるいは水溶性の電解液を注液し封入されている。正極5は正極端子1と、負極2は負極端子6と各々電気的に接続されており、正極端子1と負極端子6を介して、電池の充放電を行う。本発明を適用する上で、図1のような円筒型以外に角型でもよい。
【0022】
正極5は正極活物質,導電剤,結着剤,有機溶剤を混錬したペーストを集電体に塗布して作成することができる。
【0023】
正極活物質には、リチウムイオンを吸着,放出できる物質を用いることができ、Ni系,Co系,Mn系等の活物質が挙げられる。
【0024】
正極5の導電剤としては、アセチレンブラック,ケッチェンブラック等の炭素系材料が用いられる。
【0025】
正極5の結着剤には、例えばポリフッ化ビニリデンを用いることができる。
【0026】
正極5の有機溶媒には、N−メチル−2−ピロリドンを用いることができる。
【0027】
正極5用の集電体には、導電性金属であるアルミニウムの箔を用いることができる。
【0028】
セパレータ4には、正極5と負極2の間の電気絶縁を保ち、かつ正極5と負極2の間をリチウムイオンが移動できるような微多孔膜が用いられる。セパレータ4の材料には、電解液中に含まれる溶剤への耐性、電池の充放電による酸化や還元に対しての耐性を考慮してポリエチレンやポリプロピレンなどが用いられる。セパレータ4には発熱により電池温度が上昇した場合に、孔が閉じてリチウムイオンの移動を抑えるシャットダウン機能を有する材料を選定するのが好ましい。
【0029】
負極2は負極活物質,導電剤,結着剤,有機溶媒を混錬したペーストを集電体に塗布して作成することができる。
【0030】
負極活物質には、リチウムイオンを挿入,離脱できる物質として、例えば黒鉛,炭素繊維等を用いることができる。
【0031】
負極2の導電剤,結着剤,有機溶媒には正極5と同様の材料を用いることができる。
【0032】
負極2の集電体には、導電性材料として例えば銅箔を用いることができる。
【0033】
非水電解液に用いる非水性溶媒(有機溶媒)としては、高誘電率のものが好ましく、カーボネート類を含むエステル類がより好ましい。中でも、誘電率が30以上のエステルを使用することが推奨される。このような高誘電率のエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート,γ−ブチロラクトン,イオウ系エステル(エチレングリコールサルファイトなど)などが挙げられる。これらの中でも環状エステルが好ましく、エチレンカーボネート,ビニレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネートなどの環状カーボネートが特に好ましい。前記の各種溶媒以外にも、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネートなどに代表される低粘度の極性の鎖状カーボネート,脂肪族の分岐型のカーボネート系化合物を用いることができる。環状カーボネート(特にエチレンカーボネート)と鎖状カーボネートとの混合溶媒が特に好ましい。
【0034】
非水電解液として非水性溶媒に電解質塩を添加してもよい。非水電解液に用いる電解質塩としては、リチウムの過塩素酸塩,有機ホウ素リチウム塩,含フッ素化合物のリチウム塩,リチウムイミド塩などのリチウム塩を好適に用いることができる。このような電解質塩の具体例としては、例えば、LiClO4,LiPF6,LiBF4,LiAsF6,LiSbF6,LiCF3SO3,LiCF3CO2,Li224(SO3)2,LiN(CF3SO2)2,LiN(C25SO2)2,LiC(CF3SO2)3,LiCNF2N+1SO3(N≧2),LiN(RfOSO2)2[ここで、Rfはフルオロアルキル基である]などが挙げられ、これらのリチウム塩の中では、含フッ素有機リチウム塩を好適に用いることができる。
【0035】
本実施例に用いたセパレータ4の断面図を図2に示す。
【0036】
セパレータ4の正極側表面には、絶縁体7のアルミナ微粒子と補助体8として半導体のシリコン微粒子を混合しペースト状に調整した半導電性材を塗布し、半導電性層10を形成した。アルミナ微粒子とシリコン微粒子の平均粒径は共に2μmとした。アルミナ微粒子の平均粒径がシリコン微粒子の平均粒径と異なっていても、本実施例のように同じにしても良い。両者の重量割合は共にアルミナ微粒子とシリコン微粒子の総重量に対して50wt%とした。半導電性層の厚さは20μm、空隙率は20%とした。空隙率は、半導電性層10の寸法と重量から算出した。抵抗率測定器で測定した半導電性層10の抵抗値は392Ω(106Ωm)であった。半導電性層10としてアルミナ微粒子とシリコン微粒子以外の物質が含まれていても良いし、アルミナ微粒子とシリコン微粒子のみで構成されていても良い。
【0037】
以上のように半導電性層10を形成することにより、セパレータ4に半導電性の機能を付与できると共に、電池の組立時にセパレータと4別に半導電性材を捲回する必要がないので、従来と同様の製造性が得られる。
【0038】
過充電時における本発明の効果を確認するために、図1のリチウムイオン電池の過充電試験を行った。電池の正極端子1と負極端子6を充放電装置に接続した。また、電池の温度特性を評価するために電池表面に熱電対を取り付けた。電池をレート1Cの定電流モードで連続充電し、電池電圧と電池温度の経時変化を確認した。試験の安全のため充電電圧の上限値は20Vとした。電圧は充電割合(SOC)100%を超えたあたりから徐々に増加割合が大きくなり、その後、急激に電池電圧が20Vまで上昇した状態で充電を停止した。電池温度もSOC100%を超えたあたりから上昇し始めたが、電池電圧が20Vに達した状態でも100℃程度であり、急な温度上昇は認められなかった。正極5と負極2の間には半導電性層10の抵抗値に応じた電流が流れた。電流の初期値は51mAで、その後電気エネルギーの放出によって徐々に値が減少した。電池に蓄えられた電気エネルギーが全て放出されて電池電圧が0となるまでの時間は431sであった。
【0039】
図2のセパレータ4に塗布する半導電性層10を構成する絶縁体7としては、アルミナ微粒子の他に、窒化ケイ素微粒子,窒化アルミ微粒子,ガラス等のいずれか一種以上を用いることができる。これらの微粒子の融点はセパレータ4の溶融温度である200℃より高く、過充電時に正極5と負極2の間に残存するので、両極が直接接触し短絡することがない。つまり、過充電による発熱でセパレータ4が溶融した場合にも絶縁体7は溶融せず、正極5と負極2の間に残存し、両極の直接接触による短絡を防止して、急激なジュール発熱による電池温度の急上昇を抑制できる。本発明でいう絶縁体の抵抗率は、およそ108Ωm以上である。
【0040】
半導電性層10を構成する補助体8として、半導体ならばシリコンの他に酸化スズ、導体ならば銅,ニッケル,マンガン,モリブデン,マグネシウム等のいずれか一種以上を用いることができる。これらの材料の融点は、セパレータ4の溶融温度である200℃より高く、過充電時にセパレータ4が溶融した場合にも、補助体8が溶融することがなく、所定の電気抵抗を維持することができ、過充電で蓄えられた電気エネルギーを安全に放出することができる。
【0041】
特に、導体である銅,ニッケル,マンガン,モリブデン,マグネシウムは抵抗率が低く(102Ωm以下)、絶縁物と少量混合するだけで所定の抵抗率の半導電性層10を得ることができる。また、これらの材料は比較的安価であるため、半導電性層10を得るのに必要なコストのアップを抑えられる。本発明でいう半導体の抵抗率は、およそ103Ωm〜107Ωmである。本発明でいう導体の抵抗率は、およそ102Ωm以下である。
【0042】
半導電性材を絶縁体と半導体または導体との混合物とすることにより、半導電性材の電気抵抗率の範囲を103Ωm〜107Ωm、望ましくは105Ωm〜107Ωmとし、セパレータ4溶融後に残存する半導電性材に流れる電流の値を任意に選定でき、正負極間の通電によるジュール発熱および電気エネルギーの放出時間を適性値に調整できる。
【0043】
セパレータ4に塗布した半導電性層10の空隙率が小さ過ぎると、リチウムイオンの移動が妨げられ電池の充放電に支障が生じるので、ある程度高い方が好ましく、20%以上とすることが望ましい。半導電性層10の空隙率が高すぎると、正極5と負極2が直接接触する可能性があるので50%未満とすることが望ましい。これにより、電池の充放電に必要な通気度を確保できると共に、過充電時にセパレータが溶融した際の正極5と負極2の短絡を防ぎ、急激な電池温度の上昇を抑制できる。
【0044】
また、セパレータ4の正極側表面に形成した半導電性層10の厚さは、薄すぎると正極5と負極2の接触防止効果が不充分となるため10μm以上とすることが望ましい。これにより、正極5と負極2の短絡防止に必要な距離を確保できる。セパレータ4の正極側表面に形成した半導電性層10の厚さは、厚すぎると電池の捲回が困難となるため30μm以下であることが好ましい。これにより、電池の捲回時における作業性を向上できる。
【0045】
実施例1の結果から、リチウムイオン電池のセパレータ4の正極側表面に絶縁体7と補助体8の混合物を塗布して半導電性層10を形成することにより、電池の過充電時における正極5と負極2の短絡による電池温度の急上昇の防止と、過充電で電池に蓄えられた電気エネルギーを安全に放出できることを確認した。
【0046】
本実施例のように半導電性層10を構成する材料を絶縁体および半導体、または、絶縁体および導体、とすることにより、セパレータ4が溶融した際に正極5と負極2の間に残存する半導電性材の電気抵抗率を任意の値に調整でき、過充電で電池に蓄えられた電気エネルギーを安全に放出するために正負極間に流す電流の値を自由に選定できる。これにより、電気エネルギーの放出時に発生するジュール発熱が過剰となるのを防ぎ、かつ適正な放出時間とすることができる。
【0047】
〔比較例1〕
半導電性層10にアルミナ微粒子のみを用いてシリコン微粒子を用いなかった以外は、実施例1と同様のリチウムイオン電池を作製した。アルミナ微粒子の抵抗率は、およそ109Ωmであった。比較例1では、電池に蓄えられた電気エネルギーが全て放出されなかった。
【実施例2】
【0048】
図3に別の実施例を示す。図3はリチウムイオン電池のセパレータ4と正極5との間にセパレータ4とは別に半導電性層10を設置したものである。半導電性層10は絶縁体7と補助体8から構成した。絶縁体7はアルミナ繊維不織布であり、この繊維の表面にナノメータサイズの酸化スズを付着させ厚さ20μmの半導電性層10を形成した。酸化スズの付着量は、半導電性層10に対して20〜30wt%であった。半導電性層10の抵抗値は39Ω(105Ωm)であった。過充電試験により電池電圧20Vまで充電した場合の電池温度の時間変化を確認した。電池温度は電池電圧20Vで充電が停止した後も100〜150℃程度であり、急に上昇することはなかった。正極5と負極2に流れる電流の初期値は510mAで、その後、時間と共に減少した。電池の電気エネルギーが全て放出されるまでの時間は43sであった。図3で用いた半導電性層10を構成する絶縁材には、アルミナ繊維不織布のほか、ガラス繊維のメッシュを用いることができる。セパレータ4と正極5との間に設ける半導電性材を、セパレータ4とは別の繊維層またはメッシュとしたことにより、より確実に過充電時の安全性を確保できる。また、補助体8の材料となる半導体および導体には実施例1で用いた材料を全て適用することができる。
【0049】
実施例2はセパレータ4と正極5の間に設ける半導電性層10をセパレータ4とは別の成形体とすることにより、過充電時に正極5と負極2の間に半導電性層10がより確実に残存するので、過充電電圧がより高くなる場合や高容量電池の過充電の場合等の過充電条件が厳しい場合の安全性確保に適している。本実施例では、単位時間当たりの発熱量を抑制し、放電終了までの作業時間を短縮できる。
【0050】
実施例2の結果から、セパレータ4と正極5の間にセパレータ4とは別に半導電性層10を設けることで、リチウムイオン電池の過充電時における電池温度の急上昇を防止し、安全性を確保できることを確認した。
【0051】
〔比較例2〕
半導電性層10にアルミナ繊維不織布のみを用いて酸化スズを用いなかった以外は、実施例1と同様のリチウムイオン電池を作製した。アルミナ繊維不織布の抵抗率は、およそ109Ωmであった。比較例2では、電池に蓄えられた電気エネルギーが全て放出されなかった。
【実施例3】
【0052】
図4には、リチウムイオン電池のセパレータ4と正極5の間にセパレータ4とは別に半導電性材として導電性複合体9を用いた場合を示している。導電性複合体9は絶縁体の樹脂材料に半導体として酸化スズを混合し成形した。樹脂材料としてポリカーボネイトを用いた。導電性複合体9の抵抗値は3920Ω(107Ωm)であった。上限電圧20Vの過充電試験で電池温度の時間変化を確認した処、実施例1および実施例2と比べて温度上昇の度合いはさらに緩やかであった。過充電後に正極5と負極2の間に流れる電流値は初期値が5mAであった。電池に蓄えられた電気エネルギーを全て放出するまでの時間は4300sであった。
【0053】
半導電性材として導電性複合体9を用いる場合には、絶縁体が樹脂であり融点がアルミナやガラスなどと比べて低いため、過充電電圧が低い場合や低容量電池の場合等電池温度が低めの場合に適用できる。
【0054】
樹脂としては加熱により成形が容易な熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、ポリアミド,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,メチルペンテン,ポリアミドイミド,ポリテトラフロロエチレン,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。
【0055】
また、半導電性材の抵抗値を高くして単位時間当たりのジュール発熱を抑え電池温度の上昇を防ぐ必要がある。
【0056】
実施例3の結果から、セパレータ4と正極5の間にセパレータ4とは別に半導電性材として導電性複合体9を設けることで、リチウムイオン電池の過充電時における電池温度の急上昇を防止し、安全性を確保できることを確認した。
【符号の説明】
【0057】
1 正極端子
2 負極
3 電池容器
4 セパレータ
5 正極
6 負極端子
7 絶縁体
8 補助体
9 導電性複合体
10 半導電性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器内に設けられた正極および負極と、
前記正極および前記負極の電気絶縁を保つためのセパレータと、
電解液と、を備えたリチウムイオン電池であって、
前記負極と前記正極との間に半導電性層が設けられ、
前記半導体層は絶縁体を含み、
前記半導体層は半導体または導体を含むリチウムイオン電池。
【請求項2】
請求項1において、
前記半導電性層は、前記セパレータの前記正極側表面に形成されたリチウムイオン電池。
【請求項3】
請求項1において、
前記半導電性層の空隙率は、20%以上50%未満であるリチウムイオン電池。
【請求項4】
請求項1において、
前記半導電性層の厚さは、10〜30μmであるリチウムイオン電池。
【請求項5】
請求項1において、
前記絶縁体の形状は、不織布またはメッシュであり、
前記半導体または導体は、前記絶縁体に付着しているリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記絶縁体は樹脂で形成され、
前記絶縁体に前記半導体または前記導体が混合されているリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項1において、
前記絶縁体および前記半導体または前記導体の溶融温度は、前記セパレータの溶融温度より大きいリチウムイオン電池。
【請求項8】
請求項2において、
前記半導電性層の電気抵抗率は103Ωm〜107Ωmであるリチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項5において、
前記絶縁体は、アルミナ,窒化ケイ素,窒化アルミまたはガラスのいずれか一種以上であるリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項1において、
前記半導体層に前記半導体が含まれる場合、前記半導体は、SiまたはSnOのいずれか一種以上であり、
前記半導体層に前記導体が含まれる場合、前記導体は、Cu,Ni,MnまたはMgのいずれか一種以上であるリチウムイオン電池。
【請求項11】
正極および負極の電気絶縁を保つためのセパレータと、
前記セパレータの表面に設けられた半導電性層と、を有するリチウムイオン電池用セパレータであって、
前記半導体層は絶縁体を含み、
前記半導体層は半導体または導体を含むリチウムイオン電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−243434(P2012−243434A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110007(P2011−110007)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】