説明

リチウムイオン電池負極材の製造方法

天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択された一種以上を基体として、基体が非黒鉛系炭素材料によって被覆され、被覆後の微粒子には導電性材料が複合されているリチウムイオン電池負極材である。リチウムイオン電池負極材の製造方法も提供されている。液相混合、乾燥、炭素化処理、高温処理、複合化などのステップを含む。本発明では、原材料として炭素含有量が比較的低い黒鉛を利用することにより、原材料のコストを大幅に低下させ、熱風乾燥により製造プロセスが簡略化され、被覆層がより一層堅固・緻密になり、比較的低い炭素化温度と高温熱処理の温度で、エネルギー消費量を低減することにより、製品コストが更に低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池負極材及びその製造方法、特にリチウムイオン電池炭素負極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池炭素負極材を製造する方法は、高純度の球形黒鉛を原料として、その炭素含有量が99.9%以上と高く、外形が球形に近く、複雑な製造プロセスにより黒鉛に対する処理を行い、例えば多相被覆、ドーピング等を含み、製品の収率が比較的低く、50%以下である。それらの方法では、負極材のコスト増加が避けられないことになるため、リチウムイオン電池の動力電池への発展スピードに影響している。そのほか、従来の製品と関連製造方法では、負極材の比容量が低く、且つ圧縮密度が低いという欠点を克服できないため、リチウムイオン電池のエネルギー密度の更なる向上に影響している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、リチウムイオン電池負極材及びその製造方法を提供することであり、解决しようとする技術的課題は、リチウムイオン電池負極材のコストを低下させ、そのエネルギー密度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る技術的手段は、リチウムイオン電池負極材であり、前記リチウムイオン電池負極材は、天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択された一種以上を基体として、基体が厚さ1〜10nmの非黒鉛系炭素材料によって被覆され、被覆後の微粒子には基体質量の1〜20%を占める導電性材料が混合されており、前記非黒鉛系炭素材料はアスファルト乳剤に対する熱処理により得られ、前記導電性材料は導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉及び/または導電性カーボンブラックである。
【0005】
本発明において、リチウムイオン電池負極材は、球形、長短軸比が1.0〜4.5の類似球形、塊状及び/またはシート状の外形を有し、その粒度が4.0〜48.0μmであり、比表面積が2.5〜5.0m/gであり、粉体圧縮密度が1.65〜2.05g/cmであり、層間距離が0.3354〜0.3360nmである。
【0006】
本発明において、リチウムイオン電池負極材は、磁性物質Fe、Cr、Ni及びZnの総和が20ppb未満であり、陰イオン含有量がF≦30ppm、Cl≦50ppm、NO≦30ppm、SO2−≦50ppm、微量元素Fe≦20ppm、Cu≦10ppm、Ni≦5ppm、Cr≦5ppm、Al≦20ppmであり、PH値が4.0〜7.0である。
【0007】
本発明において、リチウムイオン電池負極材の比容量が360mAh/g以上である。
【0008】
本発明において、天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛または天然結晶脈状黒鉛は、その炭素含有量が80〜92%であり、粒度範囲が2.0〜50μmである。
【0009】
本発明において、アスファルト乳剤は、アスファルト質量含有量が20〜70%であり、乳化剤含有量が0.1〜5%であり、安定剤の含有量が0〜0.1%であり、その他は水である。
【0010】
本発明において、導電性材料は、導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉または導電性カーボンブラックであり、炭素含有量が99.9wt%以上であり、その平均粒径が1.0〜10.0μmであり、比表面積が5.0〜40.0m/gであり、層間距離d002が0.3354〜0.337nmである。
【0011】
(1)天然黒鉛粉と、天然黒鉛粉の質量の10〜50%を占めるアスファルト乳剤と、天然黒鉛粉の質量の0.1〜0.5%を占める高分子有機物とを、600〜2100r/minの回転速度で、10〜180分間攪拌し、液相混合して懸濁液状の混合物を得るステップと、
(2)入り口の温度を200〜360℃、出口の温度を70〜100℃にし、圧力20〜100Paで、前記混合物に対して遠心噴霧乾燥を行うステップと、
(3)1〜20℃/minの昇温速度で450〜700℃まで昇温させ、炭素化処理を1〜30時間実施してから、1〜20℃/minの降温速度で室温まで冷却するステップと、
(4)1〜20℃/minの昇温速度で1800〜2400℃まで昇温させ、高温処理を1〜144時間実施してから、室温まで自然冷却するステップと、
(5)天然黒鉛粉の質量1〜20%を占める導電性材料を入れて、100〜500r/minの速度で、5〜180分間混合してから、さらに、回転速度500〜3000r/minで、隙間を0.01〜1.0cmとして、温度20〜50℃で10〜200分間の融合処理を行い、リチウムイオン電池負極材を得るステップと、を含むリチウムイオン電池負極材の製造方法である。
【0012】
本発明において、融合処理後、磁気誘導強度3000〜30000Gs、処理温度10〜80℃、電磁ハンマーによる打つ回数が3〜180/秒で消磁を実施し、自然昇温または降温させる。
【0013】
本発明において、高温処理時、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、塩素ガス、及びフッ素ガスからなる群より選択された一種以上である保護性または純化ガスを流量1〜150L/hで充填する。
【0014】
本発明において、導電性材料は、天然黒鉛粉の質量の2.0〜10%を占めている。
【0015】
本発明において、天然黒鉛粉は、炭素含有量が80〜92%であり、粒度が2.0〜50.0μmであり、形状が球形、長短軸比1.0〜4.5の類似球形、塊状及び/またはシート状の天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択された一種以上であり、
前記アスファルト乳剤は、質量固体含有量が20〜70%であり、乳化剤含有量が0.1〜5%であり、安定剤の含有量が0〜0.1%であり、その他は水であり、
前記高分子有機物は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレン・オキシド、ポリプロピレン・オキシド、ポリエチレン・グリコールコハク酸エステル、ポリエチレングリコールセバシン酸(polyethylene glycol sebacate)及びポリエチレン・グリコールイミドからなる群より選択された一種以上であり、
前記導電性材料は、導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉及び/または導電性カーボンブラックであり、その炭素含有量が99.9wt%以上であり、その平均粒径が1.0〜10.0μmであり、比表面積SSAが5.0〜40.0m/gであり、層間距離d002が0.3354〜0.337nmである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来の技術に比べ、本発明では、原材料は炭素含有量が比較的低い黒鉛であるため、原材料のコストが大幅に低下し、熱風乾燥により製造プロセスが簡略化され、被覆層がより一層堅固・緻密になり、比較的低い炭素化温度と高温熱処理の温度で、エネルギー消費量を低減することにより、製品コストが更に低下する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施例1のSEM図である。
【図2】本発明に係る実施例1の電化学性能テスト結果グラフである。
【図3】本発明に係る実施例1のXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面と実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。本発明に係るリチウムイオン電池負極材は、天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択されたいずれか一種以上を基体として、基体を厚さ1〜10nmの非黒鉛系炭素材料によって被覆し、被覆された微粒子に基体質量が1〜20%である導電性材料を組み合わせたものである。
【0019】
前記リチウムイオン電池負極材は、球形、長短軸比が1.0〜4.5である類似球形、塊状及び/またはシート状の外形を有し、その粒度が4.0〜48.0μmであり、比表面積が2.5〜5.0m/gであり、粉体圧縮密度が1.65〜2.05g/cmであり、層間距離d002が0.3354〜0.3360nmである。
【0020】
前記リチウムイオン電池負極材は、磁性物質Fe、Cr、Ni及びZnの総計が20ppb(質量mg/kg)未満であり、陰イオン含有量がF≦30ppm、Cl≦50ppm、NO≦30ppm、SO2−≦50ppmであり、微量元素がFe≦20ppm、Cu≦10ppm、Ni≦5ppm、Cr≦5ppm、Al≦20ppmであり、PH値が4.0〜7.0である。
【0021】
前記リチウムイオン電池負極材は、高いエネルギー密度及び優れている電気特性を有し、なお、サンプル電池比容量が360mAh/g以上に達している。負極材のエネルギー密度は電池容量×圧縮密度であるため、高い容量と高い圧縮密度を有することであれば、高いエネルギー密度を有すると言える。
【0022】
前記天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛または天然結晶脈状黒鉛は、炭素含有量が80〜92%であり、粒度範囲が2.0〜50μmである。
【0023】
前記非黒鉛系炭素材料はアスファルト乳剤であり、その質量固体含有量が20〜70%であり、乳化剤含有量が0.1〜5%であり、安定剤の含有量が0〜0.1%であり、その他は水である。
【0024】
前記導電性材料は、導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉、導電性カーボンブラック及び/または電池製作に利用できるその他の導電性材料であり、その炭素含有量が99.9wt%以上であり、その平均粒径が1.0〜10.0μmであり、比表面積SSAが5.0〜40.0m/gであり、層間距離d002が0.3354〜0.337nmである。
【0025】
本発明に係るリチウムイオン電池負極材の製造方法は、以下のステップを含む。
【0026】
(1)混合:形状が球形、長短軸比が1.0〜4.5である類似球形、塊状及び/またはシート状の天然黒鉛粉と、天然黒鉛粉の質量10〜50%を占める非黒鉛系炭素材料のアスファルト乳剤と、天然黒鉛粉の質量0.1〜0.5%を占める高分子有機物とを、無錫新光粉体加工プロセス有限公司のGS−300型の高速攪拌機により、600〜2100r/minの回転速度で、攪拌時間が10〜180minの条件で、水に液相混合して懸濁液状の混合物が得られ、その固体含有量が10〜70wt%である。液体はアスファルト乳剤と水の質量の総和である。
【0027】
天然黒鉛粉は、炭素含有量が80〜92%であり、粒度が2.0〜50.0μmの天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択されたいずれか一種以上である。
【0028】
アスファルト乳剤は、アスファルト質量含有量が20〜70%であり、乳化剤質量含有量が0.1〜5%であり、安定剤質量含有量が0〜0.1%であり、その他は水である。乳化剤は、陰イオン乳化剤、陽イオン乳化剤または両性イオン乳化剤である。前記陰イオン乳化剤は、カルボン酸塩、硫酸塩及びスルホン酸塩からなる群より選択された一種以上であり、陽イオン乳化剤は、アミンの誘導体またはアンモニウム塩であり、両性イオン乳化剤は、ポリオキシエチレンエーテル(polyoxyethylene ether)系またはポリプロピレンエーテル(polypropylene ether)系である。前記カルボン酸塩は、石鹸C15〜17H31〜35CONa、ステアリン酸ナトリウ塩C1735CONaであり、前記硫酸塩は、ラウリル硫酸ナトリウム塩C1225OSONaであり、前記スルホン酸塩は、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム塩であり、前記アミンの誘導体は、ポリアミノアミド系として、N.N−(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミド(double-hydroxyethyl alkyl amides)C1123CON(CHCHOH)、ポリアクリルアミド[−CH−CH(CONH)]−であり、リグニン系として、リグニンスルホン酸ナトリウムであり、有機ハロゲン化アンモニウム系として、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(Cetyl trimethyl ammonium chloride)C1633(CHNCl、又はジステアリルジメチルアンモニウムクロライドであり、前記アンモニウム塩は第四級アンモニウム塩系ドデシルトリメチルアンモニウムクロリドC1225(CHNCl)であり、前記ポリオキシエチレンエーテル系は、オクチルフェノール‐ポリエチレンオキシドC17−C−O−(CHCHO)10H、ポリオキシエチレンイソトリデカノールエーテル(Iso-tridecanol polyoxyethylene ether)RO(CHCHO)H R、又は、ヘキサデカノールポリオキシエチレンエーテルであり、前記ポリプロピレンエーテル系は、ビスフェノール−A ポリプロピレンエーテルC1516(CO)、又は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリトリトールエーテルC[CHO(CO)(CO)H]である。安定剤は塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩酸、リン酸、硝酸、ポリビニル‐アルコール、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる群より選択された一種以上である。
【0029】
高分子有機物は、高分子導電性ポリマー(ポリエステル、ポリアルキル基系又はポリイミド系)であり、詳しくは、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレン・オキシド、ポリプロピレン・オキシド、ポリエチレン・グリコールコハク酸エステル、ポリエチレン・グリコールセバシン酸及びポリエチレン・グリコールイミドからなる群より選択された一種以上である。
【0030】
(2)乾燥:混合物をポンプにより無錫市陽光乾燥設備工場のGZ−500型高速遠心噴霧乾燥機に吸い込み、入り口の温度は200〜360℃であり、出口の温度は70〜100℃であり、圧力の強さが10〜100Paの条件で遠心噴霧乾燥を行い、このとき、混合物の固体含有量が10〜70wt%であることに基づき、原料供給流量は160kg〜1000kg/hとなっている。
【0031】
(3)炭素化処理:乾燥された取得物を江蘇飛達公司のRGD−300−8型のトンネル窯に入れてから、1〜20℃/minの昇温速度で、450〜700℃まで炭素化処理を1〜30時間行い、その後1〜20℃/minの降温速度で室温まで冷却する。
【0032】
(4)高温処理:さらに、炭素化処理後の産物を1〜20℃/minの昇温速度で、1800〜2400℃まで高温処理を1〜144時間行い、その後、設備内で室温まで自然冷却することにより、半製品が得られる。ここで、熱処理設備として、山東省青島瑞美機電有限公司の黒鉛化炉SHL-2500が利用される。
【0033】
高温処理時、保護性または純化ガスとして、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、塩素ガス、及びフッ素ガスからなる群より選択された一種以上を導入し、このとき流量を1〜150L/hとする。
【0034】
(5)複合化:天然黒鉛粉質量の1〜20%を占める導電性材料を前記高温処理後の材料に入れて、無錫新光粉体加工プロセス有限公司のVC−500精密混合機により、速度が100〜500r/minであり、混合時間が5〜180minであり、複合を行った後、さらに融合処理を行い、材料融合の過程において、狭い隙間に入り、摩擦させつつ転がすことにより、その中の小粒子が大粒子に嵌め込み、材料の圧縮密度を向上させることができる。そして、日本HOSOKAWA MICRON GROUPのAMS融合機を利用し、回転速度が500〜3000r/minであり、時間が10〜200minであり、隙間が0.01〜1.0cmであり、融合温度が室温から50℃の間で、室温まで自然降温させる。
【0035】
前記導電性材料は天然黒鉛粉の質量の2.0〜10%を占めることが好ましい。
【0036】
前記導電性材料は、導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉、導電性カーボンブラック及び/または電池製作に利用できるその他の導電性材料であり、その炭素含有量が99.9wt%以上であり、その平均粒径が1.0〜10.0μmであり、比表面積SSAが5.0〜40.0m/gであり、層間距離d002が0.3354〜0.337nmである。
【0037】
(6)100〜400目の篩により篩分けし、日本HOSOKAWA MICRON GROUPのSD−F消磁機を用い、消磁を行う。このとき、磁気誘導強度が3000〜30000Gsであり、処理温度が10〜80℃であり、磁気網の枚数が15〜40枚であり、電磁ハンマーによる打つ回数が3〜180/秒であり、処理速度が100〜2000kg/hであり、室温まで自然昇温または降温させる。
【0038】
(7)包装と入庫
【0039】
原材料としては、本発明では炭素含有量が比較的低い黒鉛を利用する。しかしながら、伝統的な製造方法には球形黒鉛が利用され、その製造過程が複雑で、炭素含有量を向上させなければならない。球形黒鉛の製造には多段粉砕、純化、球形化などのステップが必要である。利用される原材料のコストが低いため、本発明の負極材では完成品材料のコストが大幅に低下し、本発明に係る方法では、従来の気相被覆の代わりに、負圧遠心噴霧乾燥を採用することにより、製造プロセスが簡略化され、被覆層がより一層堅固・緻密になり、従来の技術ではプロセス炭素化温度が1000℃以上であり、高温黒鉛化温度が3000℃に達することに比べ、比較的低い炭素化温度450〜700℃及び高温熱処理の温度1800〜2400℃で、エネルギー消費の削減ができ、製品のコストもさらに低下する。
【0040】
負極材の性能を向上するために、本発明では、天然黒鉛粉、アスファルト乳剤及び高分子有機物により共同で基体を形成することにより、天然黒鉛に薄く且つ均一な被覆層を有するようにし、天然黒鉛の表面の活性スポットが減少することにより、活性スポットと電解液との反応を低下させる。そして、導電性材料を添加剤として、電池サイクル過程中において黒鉛粒子の“孤島(アイランド)”の形成を有効に回避でき、負極材の可逆容量とサイクル安定性を向上させることができ、陰イオン含有量がF≦30ppm、Cl≦50ppm、NO≦30ppm、SO2−≦50ppmであり、電池の初回の充・放電時に負極材の表面に界面膜SEI即ちSEI膜が形成される時に発生する電化学反応を変更でき、不可逆容量を低下させ、磁性物質の含有量Fe、Cr、Ni及びZnの総和が20ppb未満であるため、充・放電過程中の磁性物質と電解液などの副反応が減少し、電池容量ロストや、電池の蓄積性能、自己放電も減少し、電池のサイクル安定性、安全性の向上に有利である。
【0041】
本発明では、負極材の安全性を向上するために、消磁・篩分け処理を行うことにより、有効に微粒子磁性物を除去し、磁性微粒子が電池内部で電解液等と副反応することを回避でき、電池の安全性が向上する。当該処理過程において収率が85〜97wt%であり、その収率の計算式は:消磁・篩分け後の篩下試料の重量を投入試料の総重量で除算し、(M(篩下試料重量)/M(投入試料重量))×100%である。
【0042】
本発明に係る方法により製造されたリチウムイオン電池負極材に対し、北京科儀発展有限公司が製造したKYKY2800Bスキャン電子顕微鏡で形態を観察し、オランダパナリティカルのX'PertのPW3040/60X放射線回折器械で結晶体の構成、結晶格子パラメータ、異なる構成の含有量を分析し、広州フェノメネクス科学器械有限公司の透射電子顕微鏡H−9500で被覆層の厚さを取得した。アメリカパーキンエルマー公司OPTIMA 2100 DVインダクタンスカップリング等のイオン発射スペクトル器械で磁性物質または微量元素を測定した。アメリカダイオネクス公司のICS−3000多機能色層器械で陰イオンCl、SO2−、NOまたはPO3−酸根イオン含有量を測定し、上海雷磁器械工場のPHS−3C型酸度計でpH値のテストを行った。
【0043】
本発明に係るリチウムイオン電池負極の黒鉛粉を利用し、電池の負極を製造した後、前記負極材を利用し、粘着剤PVDFをNMPに追加して溶解した後に得られた10%の溶液と、導電性剤SPとを、負極粉:PVDF:SP=96:3:1の質量比となるように混合し、得られた懸濁液を、厚さが10μmの銅箔上に均一に塗布してから、プレスにかけてシートを製造する。その後、直径lcmの炭素膜として製造してから、乾燥箱で120℃、12hの乾燥を行い、備品としておく。前記電極パッドを作用電極として、金属リチウムシートを補助電極と基準電極として、電解液はlmol/L LiPFのEC/DMC/EMC溶液を採用し、体積比がl:l:1であり、アルゴンガスが充填されたグローブ・ボックスに内径がФ12mmのサンプル電池を製造する。電池の充・放電テストは、武漢金諾のランド(land)電池テストシステムのCT2001C電池検査システム上で行い、充・放電電圧範囲が0.01V〜2.0Vであり、電流が0.2Cである。
【0044】
実施例1〜6のプロセスパラメータを表1及び表2に示す。図1に示されるように、実施例1の形状が球形、長短軸比が1.0〜4.5の類似球形、塊状及び/またはシート状の不規則な天然黒鉛は、アスファルト乳剤で改質された後、表面が均一な被覆層が得られる。
【0045】
比較例として、不規則な天然黒鉛、炭素含有量が90%で、粒度が5.006〜45.521μmの球形黒鉛を直接に負極材として、前記方法に従い、サンプル電池を製造し、その理化性能指標及び電気特性をテストする。実施例1〜6及び比較例の構成、理化性能及び電気特性のテスト結果を表3に示す。
【0046】
図2に示されるように、実施例1のリチウムイオン電池負極の黒鉛粉により電池の負極を製造し、前記方法により製作されたサンプル電池は内径がФ12mmであり、可逆容量が360mAh/g以上であるが、不可逆容量が小さい。
【0047】
図3に示されるように、実施例1のリチウムイオン電池負極の黒鉛粉、002結晶面の回折ピーク強度が高く、半ピーク幅が狭く、それに43.5と46.5では菱形ピークが存在しないため、構成の安定性が優れている。
【0048】
テストの結果から見ると、本発明に係るリチウムイオン電池負極材を利用して製造されたリチウムイオン電池は、初回の可逆容量が高く、初回のクーロン効率が高く、この材料を負極として製造されたリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高い(エネルギー密度=圧縮密度×容量)。それと共に、当該材料は一定の低温性能を兼ね備え、安全性能が優れている。
【0049】
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池負極材であって、前記リチウムイオン電池負極材は、天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択された一種以上を基体として、基体が厚さ1〜10nmの非黒鉛系炭素材料によって被覆され、被覆後の微粒子には基体質量の1〜20%を占める導電性材料が複合されており、前記非黒鉛系炭素材料はアスファルト乳剤に対する熱処理により得られ、前記導電性材料は導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉及び/または導電性カーボンブラックであることを特徴とするリチウムイオン電池負極材。
【請求項2】
前記リチウムイオン電池負極材は、球形、長短軸比が1.0〜4.5の類似球形、塊状及び/またはシート状の外形を有し、その粒度が4.0〜48.0μmであり、比表面積が2.5〜5.0m/gであり、粉体圧縮密度が1.65〜2.05g/cmであり、層間距離(d002)が0.3354〜0.3360nmであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池負極材。
【請求項3】
前記リチウムイオン電池負極材は、磁性物質Fe、Cr、Ni及びZnの総和が20ppb未満であり、陰イオン含有量がF≦30ppm、Cl≦50ppm、NO≦30ppm、SO2−≦50ppmであり、微量元素Fe≦20ppm、Cu≦10ppm、Ni≦5ppm、Cr≦5ppm、Al≦20ppmであり、PH値が4.0〜7.0であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン電池負極材。
【請求項4】
前記リチウムイオン電池負極材の比容量が360mAh/g以上であることを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン電池負極材。
【請求項5】
前記天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛または天然結晶脈状黒鉛は、その炭素含有量が80〜92%であり、粒度範囲が2.0〜50μmであることを特徴とする請求項1、2または3に記載のリチウムイオン電池負極材。
【請求項6】
前記アスファルト乳剤は、アスファルト質量含有量が20〜70%であり、乳化剤含有量が0.1〜5%であり、安定剤の含有量が0〜0.1%であり、その他は水であることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン電池負極材。
【請求項7】
前記導電性材料は、導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉または導電性カーボンブラックであり、炭素含有量が99.9wt%以上であり、その平均粒径が1.0〜10.0μmであり、比表面積が5.0〜40.0m/gであり、層間距離d002が0.3354〜0.337nmであることを特徴とする請求項6に記載のリチウムイオン電池負極材。
【請求項8】
(1)天然黒鉛粉と、天然黒鉛粉の質量の10〜50%を占めるアスファルト乳剤と、天然黒鉛粉の質量の0.1〜0.5%を占める高分子有機物とを、600〜2100r/minの回転速度で、10〜180分間攪拌し、液相混合して懸濁液状の混合物を得るステップと、
(2)入り口の温度を200〜360℃、出口の温度を70〜100℃にし、圧力20〜100Paで前記混合物に対して遠心噴霧乾燥を行うステップと、
(3)1〜20℃/minの昇温速度で450〜700℃まで昇温させ、炭素化処理を1〜30時間実施してから、1〜20℃/minの降温速度で室温まで冷却するステップと、
(4)1〜20℃/minの昇温速度で1800〜2400℃まで昇温させ、高温処理を1〜144時間実施してから、室温まで自然冷却するステップと、
(5)天然黒鉛粉の質量の1〜20%を占める導電性材料を入れて、100〜500r/minの速度で、5〜180分間混合してから、さらに、回転速度500〜3000r/minで、隙間を0.01〜1.0cmとして、温度20〜50℃で10〜200分間の融合処理を行い、リチウムイオン電池負極材を得るステップと、を含むことを特徴とするリチウムイオン電池負極材の製造方法。
【請求項9】
前記融合処理後、磁気誘導強度3000〜30000Gs、処理温度10〜80℃、電磁ハンマーによる打つ回数が3〜180/秒で消磁を実施し、自然昇温または降温させることを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン電池負極材の製造方法。
【請求項10】
前記高温処理時、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、塩素ガス、及びフッ素ガスからなる群より選択された一種以上である保護性または純化ガスを流量1〜150L/hで充填することを特徴とする請求項8または9に記載のリチウムイオン電池負極材の製造方法。
【請求項11】
前記導電性材料は、天然黒鉛粉の質量の2.0〜10%を占めていることを特徴とする請求項10に記載のリチウムイオン電池負極材の製造方法。
【請求項12】
前記天然黒鉛粉は、炭素含有量が80〜92%であり、粒度が2.0〜50.0μmであり、形状が球形、長短軸比1.0〜4.5の類似球形、塊状及び/またはシート状の天然結晶質黒鉛、天然隠微晶質黒鉛及び天然結晶脈状黒鉛からなる群より選択された一種以上であり、
前記アスファルト乳剤は、質量固体含有量が20〜70%であり、乳化剤含有量が0.1〜5%であり、安定剤の含有量が0〜0.1%であり、その他は水であり、
前記高分子有機物は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレン・オキシド、ポリプロピレン・オキシド、ポリエチレン・グリコールコハク酸エステル、ポリエチレングリコールセバシン酸及びポリエチレン・グリコールイミドからなる群より選択された一種以上であり、
前記導電性材料は、導電性の天然黒鉛粉、導電性の人工黒鉛粉及び/または導電性カーボンブラックであり、その炭素含有量が99.9wt%以上であり、その平均粒径が1.0〜10.0μmであり、比表面積SSAが5.0〜40.0m/gであり、層間距離d002が0.3354〜0.337nmであることを特徴とする請求項11に記載のリチウムイオン電池負極材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−506233(P2013−506233A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530112(P2012−530112)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/CN2010/074904
【国際公開番号】WO2012/000201
【国際公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【出願人】(512077952)シェンヅェン ビーティーアール ニュー エナジー マテリアルズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN BTR NEW ENERGY MATERIALS INC
【住所又は居所原語表記】No. 8, High Tech Industrial Park Xitian, Gongming Town, Guangming New District Shenzhen, Guangdong 518106 CHINA
【Fターム(参考)】