説明

リチウムチタン複合酸化物、その製造方法、それを用いた電池用電極およびリチウムイオン二次電池

【課題】固相法で製造することができ、微粒子を用いることができ、製造過程における管理を容易にし、高実効容量かつ高レート特性を呈するリチウムチタン複合酸化物を提供すること
【解決手段】レーザー回折測定で測定される粒度分布において、最大粒子径(D100)が20μm以下であり、平均粒径D50が1.0〜1.5μmであり、平均粒径D50の2倍の粒子径より大きい粒子の頻度合計値が16〜25%であり、好ましくはBET法により測定される比表面積値が6〜14m/gであり、別途好ましくは安息角が35〜50°である、リチウムチタン複合酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池の電極材料として好適なリチウムチタン複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のエネルギーデバイスとしてリチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われ、民生機器、産業機械、自動車など様々な分野にて利用され始めている。リチウムイオン二次電池に求められる特性としては、高エネルギー密度、高パワー密度など大容量で急速充放電可能なものが挙げられる。その一方で、発火事故などの事例もあり、リチウムイオン二次電池についてはさらなる安全性が求められている。とりわけ車載用、医療用などでの事故は人命に直結するため、より高い安全性が問われる。リチウムイオン二次電池に用いられる材料についても同様に安全性が求められ、安定した充放電挙動を示し、不測の事態においても、破裂や発火が起きない材料が求められている。
【0003】
チタン酸リチウムには、たとえばLiTi12あるいはLi4/3Ti5/3あるいはLi[Li1/6Ti5/6で表されるものがあり、なかでもLiTi12 はスピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウムである。前記チタン酸リチウムは、充電によるリチウムイオン挿入において岩塩型の結晶構造へと変化し、リチウムイオン脱離において再びスピネル型の結晶構造に変化する。この充放電の際の格子体積の変化は従来の負極材料であるカーボン系材料に比べ、僅少であり、正極との短絡が起きた場合も発熱がほとんどなく、発火事故に至らず、安全性が高い。チタン酸リチウムを主成分とし、必要に応じて微量成分を添加してなるリチウムチタン複合酸化物は、安全性を特に重視したリチウムイオン二次電池製品に採用され始めている材料である。
【0004】
リチウムチタン複合酸化物を始めとした電池材料一般の粉体性状として、従来から評価されている粉体でのタップ密度は、粉体をハンドリングする上で重要な因子であるが、これは粉体を構成する一次粒子が数μm〜数十μmと比較的大きい場合あるいは顆粒状に造粒しているまま電極塗膜を形成する場合に有用な因子である。一方、近年、リチウムイオン二次電池の高性能化に対応するべく、材料の粉体物性が大きく見直されつつあり、その一環として粉体の一次粒子径を小さくすることが試みられている。これは急速な充放電(レート特性)にとって重要な因子であり、粒子径が小さければ小さいほど、リチウムイオンの挿入脱離反応がスムーズになるため、特性が良好となる。
【0005】
粉体を構成する粒子を微細にする手法として、特許文献1のように、液相法によって一次粒子自体を細かくする手法(ビルドアップ法)や、特許文献2の実施例1のように、比較的粗い熱処理後の一次粒子を粉砕によって微細化する手法(ブレークダウン法)などがある。液相法ではないが、原材料に非常に微細なチタン化合物を用いてリチウム化合物との混合物を得て、これを低温で熱処理して微細なチタン酸リチウム粒子を製造する手法もある。特許文献3ではレーザー回折測定により測定された粒度分布に関する開示がなされていて、粒度分布がレート特性に効くとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3894614号公報
【特許文献2】特開2002−289194号公報
【特許文献3】特許第4153192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2では、用途に応じてハンドリングしやすい粉体設計としていると思われるが、微粒子を効果的にハンドリングするための明確な粉体設計手法が開示されていない。特許文献3では、粒度分布の開示が二次粒子の平均値および分布幅についてにとどまり、これだけでは一次粒子径の平均値や分布幅については明確には分からない。また、塗工液や塗膜の性状について何ら言及がない。ここで、粒子径は一次粒子径と二次粒子径とを区別することに注意しなければならない。また一次粒子径分布と二次粒子径分布も同様にそれぞれ重要な因子となり得る。一次粒子とは粉体を構成する最小単位の粒子であり、二次粒子とは一次粒子が集まって形成した凝集体である。
【0008】
粒子径が小さすぎると、電極用塗工液を調製する際に分散が困難になるなど、ハンドリング性が悪化してしまう。微粒子から電極塗膜を形成すると、従来の大粒子とは異なり、電極密度が上がらない。これは電極用塗工液を調製する際に、分散媒に粒子が安定分散せずに、三次元的な架橋構造を形成してしまうためである。大粒子では粉体でのタップ充填性と塗膜の密度にある程度の相関があるが、微粒子では粉体のときのタップ充填性とは異なり、塗工液中において粒子表面の濡れ性や分散媒との親和性が低くなりやすく、容易に凝集・架橋構造形成を引き起こす。このような塗工液を用いて電極用塗膜を形成すると、塗膜密度が低くなり、結果としてリチウムイオン二次電池にしたときのエネルギー密度が低くなってしまう他、膜はがれによる信頼性の低下なども引き起こす。これを防止するために多量のバインダ等の添加剤を使用しなくてはいけなくなる。従来と同等量のバインダでありながらも、レート特性が発現しやすい微細な粒子径の粉体をうまくハンドリングすることが重要である。
【0009】
また、一般的にレーザー回折測定により測定される粒度分布では0.2μm以下の超微細な粒子は、測定原理上の問題と分散媒で比較的凝集しやすいために捉えにくく、全体の粒子径が微細になるほど信頼性が低くなる。すなわち平均粒子径が1μm以下となるような微細な粒子においては、レーザー回折測定のみの粉体評価だけでは最適な電池特性を発現するための粉体物性を明確に表現することは出来ない。従来技術では、電極用塗工液の分散安定性やハンドリング性、電極塗膜密度を最適にしつつ、かつレート特性等の電池特性に最も適した粉体設計の提示がない。
【0010】
これらのことを考慮し、本発明は、製造コストが低い固相法で製造することができ、微粒子を用いることができ、製造過程における管理を容易にし、高実効容量かつ高レート特性を呈するチタン酸リチウムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らの鋭意検討の結果、以下の発明を完成した。
本発明のリチウムチタン複合酸化物は、レーザー回折測定で測定される粒度分布において、平均粒径D50が1.0〜1.5μmであり、平均粒径D50の2倍の粒子径より大きい粒子の頻度合計値が16〜25%であり、最大粒子径(D100)が20μm以下であり、別途好ましくはBET法により測定される比表面積値が6〜14m/gであり、さらに別途好ましくは安息角が35〜50°である。
本発明のリチウムチタン複合酸化物の製造方法によれば、チタン化合物とリチウム化合物の混合物を700℃以上での熱処理に供することによりリチウムチタン複合酸化物を得て、得られたリチウムチタン複合酸化物粉体の100重量部と10重量部以下の分散媒との存在下で粉砕処理を施してリチウムチタン複合酸化物の比表面積値を5.0m/g以上増加させ、好ましくは、その後に再熱処理を行うことによりリチウムチタン複合酸化物の比表面積を0.5〜6.0m/g減少させる。
本発明によれば、上述のリチウムチタン複合酸化物を用いた電池用電極およびそのような電極を有するリチウムイオン二次電池も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱処理により得られたリチウムチタン複合酸化物をスラリー化することなく、すなわち乾式で粉砕することで一次粒子、二次粒子ともに平均粒子径を低減させることができる。この際、粉砕をある程度過度に行うことで一次粒子径を低減させることができ、発生する再凝集を制御することで微粒子の量や二次粒子径分布を制御する。このようにして得られた本発明のリチウムチタン複合酸化物は、一次粒子が十分微細であるためにレート特性を発現しやすい。また一次粒子径が微細であっても調製した電極用塗工液に用いられる分散媒の量が少なくても粘度が塗工に適するほど低く、塗工により形成された塗膜は密度が高く、バインダ量を増やすことなく剥離強度も高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ハーフセルの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、LiTi12で表されるスピネル構造のチタン酸リチウムを主成分とし、必要に応じて微量成分が添加されているセラミック材料が提供され、当該セラミック材料には、前記チタン酸リチウムが、典型的には90%以上、好ましくは95%以上含まれる。本明細書ではこのようなセラミック材料を「リチウムチタン複合酸化物」と表現することがある。本発明によれば、リチウムチタン複合酸化物の形態は、以下詳述する形状(粒径分布等)の粒子の集合体としての粉末状である。本発明によれば、リチウムチタン複合酸化物にはチタン、リチウム、酸素以外の元素が含有されていてもよく、含有されていてもよい元素としては、例えば、カリウム、リン、ニオブ、イオウ、シリコン、ジルコニウム、カルシウム、ナトリウムなどが挙げられる。これらの成分は実質的にはすべて酸化物としてチタン酸リチウムのセラミック構造中に固溶されることが好ましい。
【0015】
本発明者らは、電池特性に影響する因子として粒度分布の詳細な条件および最適な凝集度があることを明らかにした。本発明によれば、二次粒子径における平均値(D50)および最大値(D100)が重要である。全体の粒度分布の範囲が最も電池特性に影響するためである。D50は基本的な粒子の微細度を知るには最も簡単な評価基準であり、電池特性が良好となる範囲は0.5〜1.5μmである。ただし本発明者らの新知見では、レーザー回折で測定したD50が0.5〜1.0μmとなった場合でも電池特性が悪くなることがあること確認されている。この要因として非常に細かい粒子が多すぎることが挙げられる。一般に粒度が細かくなりすぎると、塗工液が不安定になりやすくなり、形成した塗膜の電極密度が低下する傾向がある。このような場合、電池特性としては初期の特性は良好だが、充放電サイクルを繰り返したときの経時劣化が顕著となる。従って、レーザー回折測定単独で最適粉体設計を表現するにはD50が小さすぎないことが重要であり、D50が1μm以上であることが最良である。つまりD50が1μm未満の粒度分布ではレーザー回折測定単独で正確に判断することが困難となり、別の評価手法との併用が望ましくなる。よって本発明ではレーザー回折測定により測定されるD50が1.0〜1.5μmであることが必要である。
【0016】
D50を上げる手段としては、リチウムチタン複合酸化物を合成する熱処理温度の高温化による粒子成長(主に一次粒子径を増大させる)やリチウムチタン複合酸化物を熱処理合成した後の凝集操作(主に二次粒子径を増大させる)などが挙げられ、D50を下げる手段としては、合成時の熱処理温度の低温化による粒子成長抑制(主に一次粒子径を減少させる)やリチウムチタン複合酸化物を熱処理合成した後の粉砕操作(主に二次粒子径を減少させる)などが挙げられる。
【0017】
電池特性に効く因子を総合的に決定するにはD50だけでは不十分である。D100は最も粗大な二次粒子径であるため、粒度の範囲を知るには重要である。本発明によれば、D100は20μm以下である。本発明者らの新知見では、D50とD100の特定に加えて、D50に対してある程度粗大な粒子の量と、D50に対してある程度微細な粒子の量を規定することが効果的である。D100を上げる手段としては、リチウムチタン複合酸化物を合成した後の凝集操作、再熱処理によるネッキングの形成などが挙げられ、下げる手段としては、リチウムチタン複合酸化物を合成した後の粉砕操作、分級操作などが挙げられる。
【0018】
本発明によれば、D50に対して比較的粒径の大きい粒子の量が、電極用塗工液および塗膜の性状に影響する因子になることが明らかとなった。すなわちD50の2倍以上の粒子径の、粒子の頻度の合計が全体の16〜25%の範囲になるようにすることによって、レート特性の悪化を伴うことなく、電極用塗工液および塗膜の性状を良好にすることが可能となった。D50の2倍以上の粒子径の、粒子の頻度が、リチウムチタン複合酸化物全体の頻度の25%以上となると、均一な塗膜が得られ難くなったり、レート特性等の電池特性が悪化したりする。そのような大きな粒子が生じる要因として、凝集過多あるいは粗大一次粒子の存在が挙げられる。凝集過多の場合には、レート特性等の悪化は少ないが、電極塗膜の性状が悪化し、膜剥がれや容量バラツキが大きくなり、充放電サイクル特性が悪化する。粗大一次粒子が多い場合には、レート特性が著しく悪化する。またD50の2倍以上の粒子頻度が全体の16%を下回る場合、レート特性には大きな変化はないものの、形成した塗膜の膜強度が低下する。また塗工液調製において分散媒やバインダの必要量が増加する。D50の2倍以上の粒子の頻度を上げるための手段として、リチウムチタン複合酸化物を熱処理合成した後の凝集操作、再熱処理によるネッキングの形成などが挙げられ、下げるための手段としてリチウムチタン複合酸化物を熱処理合成した後の粉砕操作や分級操作などが挙げられる。
【0019】
また本発明によれば、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法により測定される比表面積値が好ましくは6〜14m/gであり、より好ましくは6〜12m/gである。BET法による比表面積値は主として一次粒子のサイズに起因する。比表面積値が大きい、すなわち、非常に微細な粒子が含まれる要因としては合成後のリチウムチタン複合酸化物の粉砕処理でリチウムチタン複合酸化物の一次粒子が過度に粉砕されることが考えられる。合成後のリチウムチタン複合酸化物は熱処理の温度や原料にも依存するが、熱処理により強固に凝結している場合があり、これを粉砕工程で解膠することが、電池用電極を形成する際のハンドリング性の観点から重要である。本発明によればD50が1μm以上の粒度分布となるリチウムチタン複合酸化物において、粉砕による比表面積の増加分は5m/g以上が望ましく、より望ましくは7m/g以上である。また、熱処理によるリチウムチタン複合酸化物の合成後においては、後工程の粉砕工程の負荷低減とレート特性の電池性能に鑑みて、比表面積値は1m/g以上とすることが望ましくさらに望ましくは1.5m/g以上である。
【0020】
さらに、粉砕においてはある程度の凝集を設計することが望ましく、凝集形態をある程度保持するために、粉砕後に再度熱処理することが望ましい。熱処理の温度としては合成の際の熱処理温度より低い温度、すなわち300〜700℃が一般的であり、粉体により適宜設定し得る。目安として、熱処理に伴う比表面積の減少分が判断基準となり、0.5〜6.0m/gの減少が望ましく、さらに望ましくは1.0〜5.0m/gの減少である。このような範囲とする理由として、粒子同士の溶着(ネッキング)形成の程度が高すぎず、低すぎず、適切である点が挙げられる。
【0021】
すなわち本発明において、最終的に得られるリチウムチタン複合酸化物のBET比表面積は、好ましくは6〜14m/gであり、より好ましくは7〜13m/gであり、さらに好ましくは8〜12m/gである。本発明によれば、二次粒子径がそれなりに大きい粒子を所定の頻度で存在させることが設計のポイントである。最良の形態は微細な一次粒子がある程度凝集していることと、この凝集体が占める割合が多すぎないことである。すなわち予めまとまって二次粒子として存在することで、必要とする分散媒量やバインダ量を抑えたまま塗工液分散媒に安定分散でき、このような塗工液から得られる塗膜は密度・強度ともに高くなる。理由として、マクロレベルでは凝集体がフィラーのように、塗膜を補強していると考えられる。また二次粒子径および一次粒子径のバランスも重要であり、あまり大きな二次粒子径では塗膜厚を薄くすることができなくなり、表面粗さも悪化してしまう。一次粒子が小さすぎても、凝集形成を制御しにくくなる。一次径と二次径のバランスを制御することが重要であり、粉砕により一次粒子を微細にすることで発生する微細粒子が多くなりすぎると、粉体時および塗工液調製において制御困難となる。
【0022】
また、実用途での利便性を考慮すると、ハンドリング性として安息角が重要となる。安息角は、粉末を平明に堆積させたときに、平面と粉末の稜線とのなす角度のことであり、本発明では、JIS R9301−2−2:1999に記載の安息角測定法において測定される安息角が好ましくは30〜50°であり、より好ましくは35〜50°である。このような安息角を呈する粉末は、ハンドリングする上で、閉塞しにくくまた流動性が適度である。安息角を上げるための処理としては、粉砕による粒子の小径化および分級操作による粒度分布の狭小化、二次粒子形状の不定形化などが挙げられ、下げるための処理としては、凝集操作による粒度の大径化および粒度分布の広大化、二次粒子形状の球形化などが挙げられる。
【0023】
本発明のリチウムチタン複合酸化物の製造方法は特に限定されず、以下の好適例は一例である。リチウムチタン複合酸化物は、一般的には、原料を均一に混合する工程、得られた混合物を熱処理する工程、熱処理により粗大なリチウムチタン複合酸化物が得られる場合は粉砕する工程を経て製造される。
【0024】
固相法において、リチウムチタン複合酸化物は、典型的には、チタン化合物とリチウム化合物と必要に応じて微量成分とを混合、焼成して得られる。
【0025】
リチウム源としては、リチウム塩又は水酸化リチウムが典型的に用いられる。リチウム塩としては、炭酸塩、酢酸塩などが挙げられる。水酸化リチウムとしては、1水和物などの水和物を用いてもよい。リチウム源は上記のものを複数種組み合わせて使用してもよい。その他のリチウム原料としては、一般的に入手が容易なリチウム化合物を適宜使用することができる。ただし、熱処理工程でリチウム化合物由来の物質が残存することが許容できない場合はC、H、O以外の元素を含むリチウム化合物は避けた方が無難である。チタン源としては二酸化チタンあるいは含水酸化チタンが適用可能である。リチウム化合物とチタン化合物とを、LiとTiとのモル比が好ましくは4:5となるように湿式又は乾式にて混合する。なお、リチウムは製造工程において部分的に揮発したり器壁ロスなどで減少する場合があるため、最終的に目標とするLiの量よりも多くのリチウム源を用いてもよい。
【0026】
湿式混合は、水やエタノールなどの分散媒を用い、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミルなどを用いる手法である。乾式混合は、分散媒を用いずボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、流動式混合機、また、圧縮力やせん断力を与えて精密混合やメカノケミカル効果を効率良く付与できるノビルタ(ホソカワミクロン)、ミラーロ(奈良機械製作所)などによる手法である。
【0027】
混合後の原料を大気中あるいは乾燥空気、窒素、アルゴンなどの雰囲気下において700℃以上、好ましくは750〜950℃で熱処理することでリチウムチタン複合酸化物を得る。原材料の粒子径および混合度、また目的のリチウムチタン複合酸化物粒子径により詳細な熱処理温度は適宜変更する。
【0028】
一般に700℃以上で熱処理して得られたリチウムチタン複合酸化物は一次粒子が比較的大きく、一次粒子同士の凝結も発生している場合が多い。このような場合、比較的高エネルギーを与えて粉砕処理を施すと最適な粒子性状の範囲に入りやすい。そのような粉砕処理前のリチウムチタン複合酸化物の比表面積は好ましくは0.5〜5m/gであり、より好ましくは1〜3m/gである。この比表面積の値は熱処理温度を上げたり熱処理時間を長くすることによって低くすることができる。また比表面積の値を高くするにはリチウムチタン複合酸化物の合成反応がおこなわれる範囲内で熱処理温度を下げたり熱処理時間を短くすればよい。粉砕処理前後の比表面積の増加分としては5.0m/g以上、好ましくは6.0〜13.0m/gとなるように粉砕すると最適な粒子が得られやすい。好適には上記熱処理で得られたリチウムチタン複合酸化物100重量部と10重量部以下の分散媒との存在下で粉砕処理が施される。粉砕時間を長くすれば粉砕処理後の比表面積の値を高くする事ができ、粉砕時間を短くすれば粉砕処理後の比表面積の値を低くすることができる。
【0029】
次いで、凝集の設計を行うことが好適である。すなわち、粉砕を行い、一次粒子と二次粒子とを微細に設計した後、所定の条件において凝集処理を行うという手法である。凝集処理の手法として、リチウムチタン複合酸化物の合成での熱処理よりも低温の300〜700℃程度での熱処理(以下、「再熱処理」ともいう。)で部分的に粒子のネッキングを発生させる方法や、各種粉体処理装置での処理で粉体同士の付着凝集を促進させる方法などが挙げられる。
【0030】
粉体処理装置で粉砕を行う際に凝集を形成させる場合、粉体と装置が直接に接しづらいジェットミルなどでは凝集設計は困難であり、また分級ローターなどの分級機構が付属する機器は使用に適さない。ただし、粉砕を行った後に再度凝集工程を設ける場合はこの限りではない。また、有機溶剤等は添加助剤として粉砕を促進させる効果をもつと共に、部分的に粉体を凝集させる凝集剤としても使用できる。例えば擂潰処理のような粉砕を目的とした粉体機器においても、助剤を効果的に用いることで、ある大きさ以下の凝集体を保持することが可能である。凝集体の粒径は助剤の種類によって変化する。ただし助剤添加量は粉体に対して多くても10重量%以下とすることが望ましい。より望ましくは5重量%以下、さらに望ましくは2重量%以下が良い。助剤の効果としては粉体の粉砕効率の向上および凝集体形成が挙げられる。特に、凝集体の形成は最適な粉体設計を行う上で非常に重要となる。上記粉砕処理、凝集体形成処理および低温での熱処理(再熱処理)を併用すると、本発明の最良の形態となる。リチウムチタン複合酸化物を合成した後の粉体の粒度分布を調整し、そのように粒度分布が調整された粉体を再度熱処理することで、塗工液調製時や塗膜形成時、塗膜のプレス時などに容易には解れ難くすることができ、さらには粉体輸送時のフレコンバッグ内での自重による粉体を圧縮する応力に対しても粒度分布を変化させずにハンドリングすることが可能となる。
【0031】
再熱処理を行う場合、再熱処理に供するリチウムチタン複合酸化物の比表面積は好ましくは7〜18m/gであり、より好ましくは8〜15m/gである。再熱処理後の比表面積の値は再熱処理温度を上げたり熱処理時間を長くすることによって低くすることができる。また比表面積の値を高くするには再熱処理温度を下げたり再熱処理時間を短くすればよい。再熱処理を行うことによるリチウムチタン複合酸化物の比表面積の減少量は好ましくは0.5〜6.0m/gである。
【0032】
リチウムチタン複合酸化物の製造法としては上述してきた固相法がコストの面で有利であるが、ゾルゲル法やアルコキシドなどを用いる湿式法を採用することもできる。
【0033】
本発明のリチウムチタン複合酸化物はリチウムイオン二次電池の電極の活物質として好適に用いることができる。電極は正極であってもよいし負極であってもよい。リチウムチタン複合酸化物を活物質として含有する電極や、そのような電極を有するリチウムイオン二次電池の構成や製法については従来技術を適宜援用することができる。後述の実施例においても、リチウムイオン二次電池の製造例が提示される。典型的には活物質としてのリチウムチタン複合酸化物と、導電助剤と、結着剤と、溶剤とを含む電極用塗工液を調製して、この電極用塗工液を金属片等に塗布して乾燥することにより電極が形成される。導電助剤としては例えばアセチレンブラックが挙げられ、結着剤としては各種樹脂、より詳細にはフッ素樹脂などが挙げられ、溶剤としてはn−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。このようにして得られる電極と、リチウム塩を含有する電解液とセパレータなどからリチウムイオン二次電池を構成することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。まず、各実施例・比較例で得られた試料の分析および評価方法を説明する。
【0035】
(D50、D100等の測定方法)
D50やD100は、レーザー回折粒度分布測定による累積頻度を基準とした粒径の指標である。粒径の小さいほうからカウントして累積頻度が50%となったときの粒径をD50とし、同様に累積頻度が100%となったときの粒径をD100とする。日機装製マイクロトラックHRA9320−X100を測定装置として用い、分散媒にエタノールを用い、前処理として超音波ホモジナイザーにて3分間の超音波による分散を行った。
【0036】
(比表面積の測定)
比表面積測定は島津製作所製のフローソーブII−2300にて行った。
【0037】
(安息角の測定)
安息角はJIS R9301−2−2:1999にしたがって測定した。
【0038】
(電池評価−ハーフセル)
図1はハーフセルの模式断面図である。リチウムチタン複合酸化物を活物質として電極合剤を作製した。活物質として得られたリチウムチタン複合酸化物90重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック5重量部と、結着剤としてポリジフッ化ビニリデン(PVdF)5重量部を、溶剤としてn−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い混合した。混合には高せん断ミキサーを用いて粘度が安定となるまで処理した。混合後の塗工液の粘度が100s−1で500〜1000mPa・secの範囲となるようにNMPの量を調整し、その必要量(固形分1重量部に対する重量比率)を記録した。上記電極合剤5をドクターブレード法で目付け量が3mg/cmとなるようにアルミ箔4へ塗布した。130℃で真空乾燥後、ロールプレスした。そのときの塗膜の密度を膜厚と目付け量から算出して記録した。塗膜について、市販のセロファンテープによる剥離試験を同一箇所に5回繰り返して行った。試験結果を◎(剥離がみられない。)、○(◎でもなく、×でもないもの。)、×(30%以上が剥離する。)に分類して記録した。さらに、塗膜の平滑性を目視にて観察し、◎(凹凸あるいは凹凸に由来する模様が視認されない。)、○(◎でもなく、×でもないもの。)、×(100mm四方あたり3つ以上の凹凸あるいは凹凸に由来する模様がある。)に分類して記録した。塗膜を10cmの面積で打ち抜き、電池の正極とした。負極としては、金属Li板6をNiメッシュ7に貼り付けたものを用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:2にて混合した溶媒に1mol/LのLiPFを溶解したものを用いた。セパレータ9としては、セルロース多孔膜を使用した。その他、図示するように、Alリード1、8を熱圧着テープ2で固定し、Alリード1と正極とをカプトンテープ3で固定した。以上のようにして、アルミラミネートセル10を作製した。この電池を用いて初期放電容量を測定した。電流密度0.105mA/cm(0.2C)の定電流で1.0Vまで充電し、その後、3.0Vまで放電し、このサイクルを3回繰り返し、3サイクル目の放電容量を、初期放電容量の値とした。続いてレート特性を測定した。充放電レートを0.2C、1C、2C、3C、5C、10Cと、段階的に上げながら測定を行った。2サイクル目の10Cレートにおける放電容量の、0.2C放電容量に対する比率をレート特性(%)として記録した。
【0039】
(実施例1)
比表面積値10m/g(一次粒子径約0.15μm)のアナターゼ型の高純度二酸化チタンを728g、平均粒子径25μmの試薬グレードの炭酸リチウムを272g量りとり、5Lのポットに直径10mmのジルコニア製ビーズ7kgと共に封入し、100rpmで24hr攪拌処理した後、ビーズと分離することで混合粉を得た。混合粉を匣鉢に充填し、大気中連続焼成炉にて最高温度890℃で3hr保持するようなプロファイルにて熱処理した。この熱処理粉を直径10mmのジルコニア製ビーズが充填されている回分式ビーズミルに700g投入し、30min粉砕処理を施した後、ディスク径250mmのピンミルを用いて7000rpmにて2パス処理した。その後、自動擂潰機にて10min擂潰処理した。回分式ビーズミルおよび自動擂潰機投入時において、助剤として粉体に対して0.5重量%のエタノールを滴下した。得られた粉体を匣鉢に充填し、大気中連続焼成炉にて最高温度585℃で3hr保持するようなプロファイルにて再熱処理して、リチウムチタン複合酸化物を得た。
【0040】
(実施例2、3)
自動擂潰機における処理時間をそれぞれ5min(実施例2)および20min(実施例3)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0041】
(実施例4〜7)
再熱処理の最高温度をそれぞれ、620℃(実施例4)、570℃(実施例5)、560℃(実施例6)および635℃(実施例7)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0042】
(実施例8〜10)
回分式ビーズミルの処理時間をそれぞれ45min(実施例8)、12.5min(実施例9)および9min(実施例10)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0043】
(実施例11、12)
二酸化チタンと炭酸リチウムとの混合粉の熱処理の最高温度をそれぞれ905℃(実施例11)および930℃(実施例12)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0044】
(比較例1、2)
自動擂潰機における処理時間をそれぞれ2min(比較例1)および30min(比較例2)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0045】
(比較例3、4)
再熱処理の最高温度をそれぞれ550℃(比較例3)および650℃(比較例4)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0046】
(比較例5)
二酸化チタンと炭酸リチウムとの混合粉の熱処理の最高温度を980℃にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0047】
(比較例6)
回分式ビーズミルの処理時間を5minにしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0048】
(比較例7、8)
自動擂潰機における処理時間をそれぞれ5min(比較例7)および20min(比較例8)にしたことのほかは比較例6と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0049】
(比較例9)
回分式ビーズミルの処理時間を40minにし、ビーズミルでの粉砕時および自動擂潰機での粉砕時において、助剤にエタノールではなくポリエチレングリコールを用いたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0050】
実施例・比較例の評価結果を表1、2にまとめる。
【表1】

【表2】

【0051】
以上の結果より、本発明に係るリチウムチタン複合酸化物を電極活物質として含むリチウムイオン二次電池は、初期放電容量が高く、レート特性に優れ、電極の平滑性も良好となることが分かった。
【符号の説明】
【0052】
1、8 Alリード
2 熱圧着テープ
3 カプトンテープ
4 アルミ箔
5、15、16 電極合剤
6 金属Li板
7 Niメッシュ
9 セパレータ
10 アルミラミネートセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折法にて測定される粒度分布が以下の(a)、(b)及び(c)を満足するリチウムチタン複合酸化物。
(a)平均粒径D50が1.0〜1.5μmである。
(b)平均粒径D50の2倍の粒子径より大きい粒子の頻度合計値が16〜25%である。
(c)最大粒子径(D100)が20μm以下である。
【請求項2】
BET法により測定される比表面積値が6〜14m/gである請求項1に記載のリチウムチタン複合酸化物。
【請求項3】
安息角が35〜50°である請求項1または2のいずれか1項に記載のリチウムチタン複合酸化物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムチタン複合酸化物を正極活物質として含有する電池用正極。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムチタン複合酸化物を負極活物質として含有する電池用負極。
【請求項6】
請求項4に記載の正極又は請求項5に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
チタン化合物とリチウム化合物の混合物を700℃以上での熱処理に供することによりリチウムチタン複合酸化物を得て、
得られたリチウムチタン複合酸化物100重量部と10重量部以下の分散媒との存在下で粉砕処理を施してリチウムチタン複合酸化物の比表面積値を5.0m/g以上増加させる、リチウムチタン複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記粉砕処理を施した後に再熱処理を行うことによりリチウムチタン複合酸化物の比表面積を0.5〜6.0m/g減少させる請求項7記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−91584(P2013−91584A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235219(P2011−235219)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】