説明

リチウムチタン複合酸化物、その製造方法、それを用いた電池用電極およびリチウムイオン二次電池

【課題】固相法で製造することができ、微粒子を用いることができ、製造過程における管理を容易にし、電極製造時に取り扱いやすくかつ高レート特性の電池製造のためのチタン酸リチウムを提供すること。
【解決手段】(a)レーザー回折法による粒度分布測定における平均粒径D50が0.5〜1.0μmであり、(b)レーザー回折法による粒度分布測定における最大粒子径D100と走査型電子顕微鏡観察により測長される一次粒子径の最大値d100との比率D100/d100が1.5〜15であり、(c)BET法による比表面積測定から算出される球相当径DBETと上記D50との比率D50/DBETが3〜7であり、好ましくは安息角が35〜50°である、リチウムチタン複合酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池、その電極、電極材料として好適なリチウムチタン複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のエネルギーデバイスとしてリチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われ、民生機器、産業機械、自動車など様々な分野にて利用され始めている。リチウムイオン二次電池に求められる特性としては、高エネルギー密度、高パワー密度など大容量で急速充放電可能なものが挙げられる。その一方で、発火事故などの事例もあり、リチウムイオン二次電池についてはさらなる安全性が求められている。とりわけ車載用、医療用などでの事故は人命に直結するため、より高い安全性が問われる。リチウムイオン二次電池に用いられる材料についても同様に安全性が求められ、安定した充放電挙動を示し、不測の事態においても、破裂や発火が起きない材料が求められている。
【0003】
チタン酸リチウムには、たとえばLiTi12あるいはLi4/3Ti5/3あるいはLi[Li1/6Ti5/6で表されるものがあり、なかでもLiTi12 はスピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウムである。前記チタン酸リチウムは、充電によるリチウムイオン挿入において岩塩型の結晶構造へと変化し、リチウムイオン脱離において再びスピネル型の結晶構造に変化する。この充放電の際の格子体積の変化は従来の負極材料であるカーボン系材料に比べ、僅少であり、正極との短絡が起きた場合も発熱がほとんどなく、発火事故に至らず、安全性が高い。チタン酸リチウムを主成分とし、必要に応じて微量成分を添加してなるリチウムチタン複合酸化物は、安全性を特に重視したリチウムイオン二次電池製品に採用され始めている材料である。
【0004】
リチウムチタン複合酸化物を始めとした電池材料一般の粉体性状として、従来から評価されている粉体でのタップ密度は、粉体をハンドリングする上で重要な因子であるが、これは粉体を構成する一次粒子が数μm〜数十μmと比較的大きい場合あるいは顆粒状に造粒しているまま電極塗膜を形成する場合に有用な因子である。一方、近年、リチウムイオン二次電池の高性能化に対応するべく、材料の粉体物性が大きく見直されつつあり、その一環として粉体の一次粒子径を小さくすることが試みられている。これは急速な充放電(レート特性)にとって重要な因子であり、粒子径が小さければ小さいほど、リチウムイオンの挿入脱離反応がスムーズになるため、特性が良好となる。
【0005】
粉体を構成する粒子を微細にする手法として、特許文献1のように、液相法によって一次粒子自体を細かくする手法(ビルドアップ法)や、特許文献2の実施例1のように、比較的粗い熱処理後の一次粒子を粉砕によって微細化する手法(ブレークダウン法)などがある。液相法ではないが、原材料に非常に微細なチタン化合物を用いてリチウム化合物との混合物を得て、これを低温で熱処理して微細なチタン酸リチウム粒子を製造する手法もある。特許文献3ではレーザー回折測定により測定された粒度分布に関する開示がなされていて、粒度分布がレート特性に効くとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3894614号公報
【特許文献2】特開2002−289194号公報
【特許文献3】特許第4153192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2では、用途に応じてハンドリングしやすい粉体設計にしていると思われるが、微粒子を効果的にハンドリングするための明確な粉体設計手法が開示されていない。特許文献3では、粒度分布の開示が二次粒子の平均値および分布幅についてにとどまり、これだけでは一次粒子径の平均値や分布幅については明確には分からない。また、塗工液や塗膜の性状について何ら言及がない。ここで、粒子径は一次粒子径と二次粒子径とを区別することに注意しなければならない。また一次粒子径分布と二次粒子径分布も同様にそれぞれ重要な因子となり得る。一次粒子とは粉体を構成する最小単位の粒子であり、二次粒子とは一次粒子が集まって形成した凝集体である。
【0008】
粒子径が小さすぎると、電極用塗工液を調製する際に分散が困難になるなど、ハンドリング性が悪化してしまう。微粒子から電極塗膜を形成すると、従来の大粒子とは異なり、電極密度が上がらない。これは電極用塗工液を調製する際に、分散媒に粒子が安定分散せずに、三次元的な架橋構造を形成してしまうためである。大粒子では粉体でのタップ充填性と塗膜の密度にある程度の相関があるが、微粒子では粉体のときのタップ充填性とは異なり、塗工液中において粒子表面の濡れ性や分散媒との親和性が低くなりやすく、容易に凝集・架橋構造形成を引き起こす。このような塗工液を用いて電極用塗膜を形成すると、塗膜密度が低くなり、結果として得られるリチウムイオン二次電池のエネルギー密度が低くなってしまう他、膜はがれによる信頼性の低下なども引き起こす。これを防止するために多量のバインダ等の添加剤を使用しなくてはいけなくなる。従来と同等量のバインダでありながらも、レート特性が発現しやすい微細な粒子径の粉体をうまくハンドリングすることが重要である。
【0009】
また、一般的にレーザー回折測定により測定される粒度分布では0.2μm以下の超微細な粒子は、測定原理上の問題と分散媒で比較的凝集しやすいために捉えにくく、全体の粒子径が微細になるほど信頼性が低くなる。すなわち平均粒子径が1μm以下となるような微細な粒子においては、レーザー回折測定のみの粉体評価だけでは最適な電池特性を発現するための粉体物性を明確に表現することは出来ない。従来技術では、電極用塗工液の分散安定性やハンドリング性、電極塗膜密度を最適にしつつ、かつレート特性等の電池特性に最も適した粉体設計の提示がない。
【0010】
これらのことを考慮し、本発明は、製造コストが低い固相法で製造することができ、微粒子を用いることができ、製造過程における管理を容易にし、電極製造時に取り扱いやすくかつ高レート特性の電池製造のためのチタン酸リチウムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、1μm以下の微細な粒子径の粉体においては、粉体の粒度をより総合的に判断するために、マクロな粉体物性に寄与する全体的な粒度分布(二次粒子径分布)を評価するためのレーザー回折測定、超微細な粒子による差異をより正確に判断するためのBET比表面積値測定、粗大粒子を評価するための走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を併せて行うなど、多角的に評価することで、電池特性に最も適した粉体設計を明らかにすべきであるとの見地に立って、これらを併用しての多角的な評価を行うことにより、以下の発明を完成した。
【0012】
本発明によれば、(a)レーザー回折法による粒度分布測定における平均粒径D50が0.5〜1.0μmであり、(b)レーザー回折法による粒度分布測定における最大粒子径D100と走査型電子顕微鏡観察により測長される一次粒子径の最大値d100との比率D100/d100が1.5〜15であり、(c)BET法による比表面積測定から算出される球相当径DBETと上記D50との比率D50/DBETが3〜7である、リチウムチタン複合酸化物が提供される。好適には、リチウムチタン複合酸化物の安息角は35〜50°である。
【0013】
本発明によれば、上述のリチウムチタン複合酸化物を活物質として含有する電池用正極や電池用負極が提供される。これら電池用正極や電池用負極を有するリチウムイオン二次電池もまた本発明の実施形態の一つである。
【0014】
本発明のリチウムチタン複合酸化物の製造方法によれば、チタン化合物とリチウム化合物の混合物を700℃以上での熱処理に供することによりリチウムチタン複合酸化物を得て、得られたリチウムチタン複合酸化物粉体の100重量部と10重量部以下の分散媒との存在下で粉砕処理を施してリチウムチタン複合酸化物の比表面積値を5.0m/g以上増加させ、好ましくは、その後に再熱処理を行うことによりリチウムチタン複合酸化物の比表面積を0.5〜6.0m/g減少させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱処理により得られたリチウムチタン複合酸化物をスラリー化することなく、すなわち乾式で粉砕することで一次粒子、二次粒子ともに平均粒子径を低減させることができる。この際、発生する再凝集を制御することで微粒子の量や二次粒子径分布を制御する。このようにして得られた本発明のリチウムチタン複合酸化物は、一次粒子が十分微細であるためにレート特性を発現しやすい。また一次粒子径が微細であっても調製した電極用塗工液に用いられる分散媒の量が少なくても粘度が塗工に適するほど低く、塗工により形成された塗膜は密度が高く、バインダ量を増やすことなく剥離強度も高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ハーフセルの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、LiTi12で表されるスピネル構造のチタン酸リチウムを主成分とし、必要に応じて微量成分が添加されているセラミック材料が提供され、当該セラミック材料には、前記チタン酸リチウムが、典型的には90%以上、好ましくは95%以上含まれる。本明細書ではこのようなセラミック材料を「リチウムチタン複合酸化物」と表現することがある。本発明によれば、リチウムチタン複合酸化物の形態は、以下詳述する形状(粒径分布等)の粒子の集合体としての粉末状である。本発明によれば、リチウムチタン複合酸化物にはチタン、リチウム、酸素以外の元素が含有されていてもよく、含有されていてもよい元素としては、例えば、カリウム、リン、ニオブ、イオウ、シリコン、ジルコニウム、カルシウム、ナトリウムなどが挙げられる。これらの成分は実質的にはすべて酸化物としてチタン酸リチウムのセラミック構造中に固溶されることが好ましい。
【0018】
本発明者らは、電池特性に影響する因子として粒度分布の詳細な条件および最適な凝集度があることを明らかにした。本発明によれば、二次粒子径における平均値(D50)および最大値(D100)が重要である。全体の粒度分布の範囲が最も電池特性に影響するためである。D50は基本的な粒子の微細度を知るには最も簡単な評価基準であり、電池特性が良好となる範囲は一般には0.5〜1.5μmであり、電池特性とレート特性とが両方とも良好となる範囲は0.5〜1.0μmである。D50やD100は、レーザー回折粒度分布測定による累積頻度を基準とした粒径の指標である。
【0019】
D50を上げる手段としては、リチウムチタン複合酸化物を合成する熱処理温度の高温化による粒子成長(主に一次粒子径を増大させる)やリチウムチタン複合酸化物を熱処理合成した後の凝集操作(主に二次粒子径を増大させる)などが挙げられ、D50を下げる手段としては、合成時の熱処理温度の低温化による粒子成長抑制(主に一次粒子径を減少させる)やリチウムチタン複合酸化物を熱処理合成した後の粉砕操作(主に二次粒子径を減少させる)などが挙げられる。
【0020】
電池特性に効く因子を総合的に決定するにはD50だけでは不十分である。ここで、BET法による比表面積測定から算出される球相当径DBETに着目する。BET法により測定された比表面積値S(m/g)から全ての粒子が同一径の球だと仮定して、計算式1.724/SとしてDBET(μm)が算出される。前記計算式における定数は本材料系の比重を考慮している。本発明によれば、D50/DBETの比率に着目する。この比率は微細な粒子が多く含まれるほど大きくなる。つまり実際の一次粒子径に対してどれだけ二次粒子径が大きいかを示す程度(凝集度)であると評価することができる。なお、上記比率の逆数DBET/D50は逆に微細度であると評価することができる。凝集度は微細な粒子に着目した値なので便宜上微粉凝集度と呼ぶ。本発明によれば、良好な電池特性が得られる点から、微粉凝集度D50/DBETは3〜7であり、好ましくは3.5〜6である。微粉凝集度D50/DBETはレーザー回折測定のみで記述するのではないため、より精度が向上している。
【0021】
微粉凝集度D50/DBETが3未満では、電極用塗工液や電極塗膜の性状が悪化しやすい。D50/DBETが小さすぎるということは、非常に細かい粒子が多くないにもかかわらずD50が小さいということであり、比較的単分散に近い状態であることが考えられる。凝集体を形成していない微細な粒子が多く分散媒中に分散することで、分散媒中で三次元的なネットワークを形成しやすく、結果として塗工液の分散安定性が低下しやすくなると考えられる。分散安定性を確保するため、あるいは、塗膜強度を高めるためには、分散媒あるいはバインダの使用量を増加させるという方法をとらざるを得なくなる。DBETが極端に大きい、すなわち、形成する一次径が粗大となっているとD50/DBETが過小になり、この場合、レート特性が著しく低下する。
微粉凝集度D50/DBETが7を超えると、電極用塗工液の安定性の低下、分散媒やバインダの必要使用量の増加、あるいは、サイクル特性の悪化が引き起こされる。その原因については、非常に微細な粒子が多くなることで粉体の比表面積が過大となり、分散媒やバインダの必要量が多くなり、電池中において電解液との反応が起こりやすく、寿命が短くなるためと考えられる。本発明の範囲外であるが、D50が大きくなりすぎることでD50/DBETが7を超えた場合、塗工液や電極塗膜の性状は良好となりやすいが、レート特性が発現しにくくなるため、やはり不適当である。
【0022】
D50/DBETの比率を上げるためには、上述したD50を上げる手段を講じることのほか、リチウムチタン複合酸化物を合成する熱処理温度の低温化による粒子成長抑制やリチウムチタン複合酸化物合成後の粉砕などにより、比表面積を大きくすることなどが挙げられる。D50/DBETの比率を下げるためには、上述したD50を下げる手段を講じることのほか、リチウムチタン複合酸化物を合成する熱処理温度の高温化による粒子成長促進やリチウムチタン複合酸化物合成後の粉砕の強度を下げるあるいは粉砕を行わないなど、比表面積を小さくすることなどが挙げられる。
【0023】
本発明者らは、走査型電子顕微鏡観察により測長される一次粒子径d100にも着目した。微細な粒度分布を呈する試料系において、凝集体の影響を受けるレーザー回折測定でd100を求めることは事実上不可能である。このため、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したうちで最も粗大な一次粒子の粒子径を求める。SEM観察によるd100の測長は次の方法で行う。測定対象の粉体をプレス機にて20kgf/cmにてプレスしてペレット状にした試料を調製する。カーボンブラック粒子を分散状態で含有するアクリル樹脂でこの試料をSEM試料台に固定して、150℃にて乾燥し、Pt蒸着を施す。走査型電子顕微鏡10000倍の倍率にて任意箇所の粒子像を10枚撮影する。粒子径の計測の仕方としては、それぞれの粒子において、feret径を求める。具体的には、粒子像に外接させるように描いた長方形の2辺の長さと、45度傾斜させて外接させるように描いた長方形の2辺の長さの計4辺の平均値を、観察した粒子の粒子径とする。このようにして各画像で最も大きい粒子径を抽出し、10個の最大径の平均値d100を算出する。d100は好ましくは1〜3μmである。
【0024】
本発明によれば、良好な電池特性を得る観点から、上述のD100とd100の比率D100/d100は1.5〜15であり、好ましくは1.5〜12であり、より好ましくは2〜10である。上記のD50/DBETが微粉の凝集の程度を表すのに対して、比率D100/d100は粗粉の凝集の程度(粗粉凝集度)を表す。
【0025】
粗粉凝集度D100/d100が1.5未満ということは、d100が過大であり及び/又はD100が過小である。d100が過大であるとレート特性が悪化する傾向が顕著となり、D100が過小であると塗工液調製時に分散媒やバインダの必要量が増加し、電極塗膜密度が低下しやすい。d100が過大であると粗大一次粒子が多くなりすぎるためであり、D100が小さい場合は全体的に単分散に近い、いわゆる分散過多の状態となるためである。粗粉凝集度D100/d100が過大であると、均一な塗膜が得られ難くなる。要因としては凝集過多傾向になるので電極塗膜の性状が悪化し、密度・強度共に低下し、膜剥がれや容量バラツキが大きくなり、サイクル特性が悪化する。
【0026】
D100/d100の比率を上げるためには、リチウムチタン複合酸化物を合成する熱処理温度の低温化による粒子成長抑制やリチウムチタン複合酸化物合成後の粉砕でd100を低下させること、あるいはリチウムチタン複合酸化物合成後の粉砕時あるいは粉砕後に凝集を施してD100を増大させることなどが挙げられる。D100/d100の比率を下げるためには、リチウムチタン複合酸化物を合成する熱処理温度の高温化による粒子成長促進やリチウムチタン複合酸化物合成後の粉砕の強度を下げるあるいは粉砕を行わないなどでd100を増大させること、あるいはリチウムチタン複合酸化物合成後の粉砕時あるいは粉砕後に凝集をさせずにD100を低下させることなどが挙げられる。
【0027】
本発明によれば、二次粒子径がそれなりに大きい粒子を所定の頻度で存在させることが設計のポイントである。最良の形態は微細な一次粒子がある程度凝集していることと、この凝集体が占める割合が多すぎないことである。すなわち予めまとまって二次粒子として存在することで、必要とする分散媒量やバインダ量を抑えたまま塗工液分散媒に安定分散でき、このような塗工液から得られる塗膜は密度・強度ともに高くなる。理由として、マクロレベルでは凝集体がフィラーのように、塗膜を補強していると考えられる。また二次粒子径および一次粒子径のバランスも重要であり、あまり大きな二次粒子径では塗膜厚を薄くすることができなくなり、表面粗さも悪化してしまう。一次粒子が小さすぎても、凝集形成を制御しにくくなる。一次径と二次径のバランスを制御することが重要であり、粉砕により一次粒子を微細にすることで発生する微細粒子が多くなりすぎると、粉体時および塗工液調製において制御困難となる。
【0028】
また、実用途での利便性を考慮すると、ハンドリング性として安息角が重要となる。安息角は、粉末を平明に堆積させたときに、平面と粉末の稜線とのなす角度のことであり、本発明では、JIS R9301−2−2:1999に記載の安息角測定法において測定される安息角が好ましくは30〜50°であり、より好ましくは35〜50°である。このような安息角を呈する粉末は、ハンドリングする上で、閉塞しにくくまた流動性が適度である。安息角を上げるための処理としては、粉砕による粒子の小径化および分級操作による粒度分布の狭小化、二次粒子形状の不定形化などが挙げられ、下げるための処理としては、凝集操作による粒度の大径化および粒度分布の広大化、二次粒子形状の球形化などが挙げられる。
【0029】
本発明のリチウムチタン複合酸化物の製造方法は特に限定されず、以下の好適例は一例である。リチウムチタン複合酸化物は、一般的には、原料を均一に混合する工程、得られた混合物を熱処理する工程、熱処理により粗大なリチウムチタン複合酸化物が得られる場合は粉砕する工程を経て製造される。
【0030】
固相法において、リチウムチタン複合酸化物は、典型的には、チタン化合物とリチウム化合物と必要に応じて微量成分とを混合、焼成して得られる。
【0031】
リチウム源としては、リチウム塩又は水酸化リチウムが典型的に用いられる。リチウム塩としては、炭酸塩、酢酸塩などが挙げられる。水酸化リチウムとしては、1水和物などの水和物を用いてもよい。リチウム源は上記のものを複数種組み合わせて使用してもよい。その他のリチウム原料としては、一般的に入手が容易なリチウム化合物を適宜使用することができる。ただし、熱処理工程でリチウム化合物由来の物質が残存することが許容できない場合はC、H、O以外の元素を含むリチウム化合物は避けた方が無難である。チタン源としては二酸化チタンあるいは含水酸化チタンが適用可能である。リチウム化合物とチタン化合物とを、LiとTiとのモル比が好ましくは4:5となるように湿式又は乾式にて混合する。なお、リチウムは製造工程において部分的に揮発したり器壁ロスなどで減少する場合があるため、最終的に目標とするLiの量よりも多くのリチウム源を用いてもよい。
【0032】
湿式混合は、水やエタノールなどの分散媒を用い、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミルなどを用いる手法である。乾式混合は、分散媒を用いずボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、流動式混合機、また、圧縮力やせん断力を与えて精密混合やメカノケミカル効果を効率良く付与できるノビルタ(ホソカワミクロン)、ミラーロ(奈良機械製作所)などによる手法である。
【0033】
混合後の原料を大気中あるいは乾燥空気、窒素、アルゴンなどの雰囲気下において700℃以上、好ましくは750〜950℃で熱処理することでリチウムチタン複合酸化物を得る。原材料の粒子径および混合度、また目的のリチウムチタン複合酸化物粒子径により詳細な熱処理温度は適宜変更する。
【0034】
一般に700℃以上で熱処理して得られたリチウムチタン複合酸化物は一次粒子が比較的大きく、一次粒子同士の凝結も発生している場合が多い。このような場合、比較的高エネルギーを与えて粉砕処理を施すと最適な粒子性状の範囲に入りやすい。そのような粉砕処理前のリチウムチタン複合酸化物の比表面積は好ましくは0.5〜5m/gであり、より好ましくは1〜3m/gである。この比表面積の値は熱処理温度を上げたり熱処理時間を長くすることによって低くすることができる。また比表面積の値を高くするにはリチウムチタン複合酸化物の合成反応がおこなわれる範囲内で熱処理温度を下げたり熱処理時間を短くすればよい。粉砕処理前後の比表面積の増加分としては1.0m/g以上、好ましくは5.0m/g以上、より好ましくは6.0〜13.0m/gとなるように粉砕すると最適な粒子が得られやすい。好適には上記熱処理で得られたリチウムチタン複合酸化物100重量部と10重量部以下の分散媒との存在下で粉砕処理が施される。粉砕時間を長くすれば粉砕処理後の比表面積の値を高くすることができ、粉砕時間を短くすれば粉砕処理後の比表面積の値を低くすることができる。
【0035】
次いで、凝集の設計を行うことが好適である。すなわち、粉砕を行い、一次粒子と二次粒子とを微細に設計した後、所定の条件において凝集処理を行うという手法である。凝集処理の手法として、リチウムチタン複合酸化物の合成での熱処理よりも低温の300〜700℃程度での熱処理(以下、「再熱処理」ともいう。)で部分的に粒子のネッキングを発生させる方法や、各種粉体処理装置での処理で粉体同士の付着凝集を促進させる方法などが挙げられる。
【0036】
粉体処理装置で粉砕を行う際に凝集を形成させる場合、粉体と装置が直接に接しづらいジェットミルなどでは凝集設計は困難であり、また分級ローターなどの分級機構が付属する機器は使用に適さない。ただし、粉砕を行った後に再度凝集工程を設ける場合はこの限りではない。また、有機溶剤等は添加助剤として粉砕を促進させる効果をもつと共に、部分的に粉体を凝集させる凝集剤としても使用できる。例えば擂潰処理のような粉砕を目的とした粉体機器においても、助剤を効果的に用いることで、ある大きさ以下の凝集体を保持することが可能である。凝集体の粒径は助剤の種類によって変化する。ただし助剤添加量は粉体に対して多くても10重量%以下とすることが望ましい。より望ましくは5重量%以下、さらに望ましくは2重量%以下がよい。助剤の効果としては粉体の粉砕効率の向上および凝集体形成が挙げられる。特に、凝集体の形成は最適な粉体設計を行う上で非常に重要となる。上記粉砕処理、凝集体形成処理および低温での熱処理(再熱処理)を併用すると、本発明の最良の形態となる。リチウムチタン複合酸化物を合成した後の粉体の粒度分布を調整し、そのように粒度分布が調整された粉体を再度熱処理することで、塗工液調製時や塗膜形成時、塗膜のプレス時などに容易には解れ難くすることができ、さらには粉体輸送時のフレコンバッグ内での自重による粉体を圧縮する応力に対しても粒度分布を変化させずにハンドリングすることが可能となる。
【0037】
再熱処理を行う場合、再熱処理に供するリチウムチタン複合酸化物の比表面積は好ましくは7〜18m/gであり、より好ましくは8〜15m/gである。再熱処理後の比表面積の値は再熱処理温度を上げたり熱処理時間を長くすることによって低くすることができる。また比表面積の値を高くするには再熱処理温度を下げたり再熱処理時間を短くすればよい。再熱処理を行うことによるリチウムチタン複合酸化物の比表面積の減少量は好ましくは0.5〜6.0m/gである。
【0038】
リチウムチタン複合酸化物の製造法としては上述してきた固相法がコストの面で有利であるが、ゾルゲル法やアルコキシドなどを用いる液相法を採用することもできる。
【0039】
本発明のリチウムチタン複合酸化物はリチウムイオン二次電池の電極の活物質として好適に用いることができる。電極は正極であってもよいし負極であってもよい。リチウムチタン複合酸化物を活物質として含有する電極や、そのような電極を有するリチウムイオン二次電池の構成や製法については従来技術を適宜援用することができる。後述の実施例においても、リチウムイオン二次電池の製造例が提示される。典型的には活物質としてのリチウムチタン複合酸化物と、導電助剤と、結着剤と、溶剤とを含む電極用塗工液を調製して、この電極用塗工液を金属片等に塗布して乾燥することにより電極が形成される。導電助剤としては例えばアセチレンブラックが挙げられ、結着剤としては各種樹脂、より詳細にはフッ素樹脂などが挙げられ、溶剤としてはn−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。このようにして得られる電極と、リチウム塩を含有する電解液とセパレータなどからリチウムイオン二次電池を構成することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。まず、各実施例・比較例で得られた試料の分析および評価方法を説明する。
【0041】
(D50、D100等の測定方法)
D50やD100は、レーザー回折粒度分布測定による累積頻度を基準とした粒径の指標である。粒径の小さいほうからカウントして累積頻度が50%となったときの粒径をD50とし、同様に累積頻度が100%となったときの粒径をD100とする。日機装製マイクロトラックHRA9320−X100を測定装置として用い、分散媒にエタノールを用い、前処理として超音波ホモジナイザーにて3分間の超音波による分散を行った。
【0042】
(比表面積の測定)
比表面積測定は島津製作所製のフローソーブII−2300にて行った。
【0043】
(走査型電子顕微鏡観察)
走査型電子顕微鏡観察は、日立製作所製の高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S−4800を用い、加速電圧5kVにて2次電子像を撮影し、画像よりferet径を求めた。
【0044】
(安息角の測定)
安息角はJIS R9301−2−2:1999にしたがって測定した。
【0045】
(電池評価−ハーフセル)
図1はハーフセルの模式断面図である。リチウムチタン複合酸化物を活物質として電極合剤を作製した。活物質として得られたリチウムチタン複合酸化物90重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック5重量部と、結着剤としてポリジフッ化ビニリデン(PVdF)5重量部を、溶剤(分散媒)としてn−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い混合した。混合には高せん断ミキサーを用いて粘度が安定となるまで処理した。混合後の塗工液の粘度が100s−1で500〜1000mPa・secの範囲となるようにNMPの量を調整し、その必要量(固形分1重量部に対する重量比率)を記録した。上記電極合剤5をドクターブレード法で目付け量が3mg/cmとなるようにアルミ箔4へ塗布した。130℃で真空乾燥後、ロールプレスした。そのときの塗膜の密度を膜厚と目付け量から算出して記録した。塗膜について、市販のセロファンテープによる剥離試験を同一箇所に5回繰り返して行った。試験結果を◎(剥離がみられない。)、○(◎でもなく、×でもないもの。)、×(30%以上が剥離する。)に分類して記録した。さらに、塗膜の平滑性を目視にて観察し、◎(凹凸あるいは凹凸に由来する模様が視認されない。)、○(◎でもなく、×でもないもの。)、×(100mm四方あたり3つ以上の凹凸あるいは凹凸に由来する模様がある。)に分類して記録した。塗膜を10cmの面積で打ち抜き、電池の正極とした。負極としては、金属Li板6をNiメッシュ7に貼り付けたものを用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:2にて混合した溶媒に1mol/LのLiPFを溶解したものを用いた。セパレータ9としては、セルロース多孔膜を使用した。その他、図示するように、Alリード1、8を熱圧着テープ2で固定し、Alリード1と正極とをカプトンテープ3で固定した。以上のようにして、アルミラミネートセル10を作製した。この電池を用いて初期放電容量を測定した。電流密度0.105mA/cm(0.2C)の定電流で1.0Vまで充電し、その後、3.0Vまで放電し、このサイクルを3回繰り返し、3サイクル目の放電容量を、初期放電容量の値とした。続いてレート特性を測定した。充放電レートを0.2C、1C、2C、3C、5C、10Cと、段階的に上げながら測定を行った。2サイクル目の10Cレートにおける放電容量の、0.2C放電容量に対する比率をレート特性(%)として記録した。
【0046】
(実施例1)
比表面積値10m/g(一次粒子径約0.15μm)のアナターゼ型の高純度二酸化チタンを728g、平均粒子径25μmの試薬グレードの炭酸リチウムを272g量りとり、5Lのポットに直径10mmのジルコニア製ビーズ7kgと共に封入し、100rpmで24hr攪拌処理した後、ビーズと分離することで混合粉を得た。混合粉を匣鉢に充填し、大気中連続焼成炉にて最高温度870℃で3hr保持するようなプロファイルにて熱処理した。この熱処理粉を直径10mmのジルコニア製ビーズが充填されている回分式ビーズミルに700g投入し、25min粉砕処理を施した後、ディスク径250mmのピンミルを用いて7000rpmにて2パス処理した。その後、自動擂潰機にて10min擂潰処理した。さらにローター径320mmの分級ローターが付属する乾式分級機にて1500rpmの回転数にて分級処理を行い、分級ローター通過分を回収した。得られた粉体を匣鉢に充填し、大気中連続焼成炉にて最高温度590℃で3hr保持するようなプロファイルにて再熱処理して、リチウムチタン複合酸化物を得た。
【0047】
(実施例2)
分級機による分級処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0048】
(実施例3)
分級機による分級処理の回転数を5000rpmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0049】
(実施例4)
回分式ビーズミルの処理時間を35minとし、回分式ビーズミルおよび自動擂潰機投入時において、助剤として粉体に対して0.5重量%のエタノールを滴下したこと以外は実施例2と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0050】
(実施例5)
ピンミル処理を行わなかったこと以外は実施例4と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0051】
(実施例6)
分級機による分級処理の回転数を5500rpmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0052】
(実施例7〜10)
回分式ビーズミルの処理時間をそれぞれ45min(実施例7)、10min(実施例8)、80min(実施例9)、7.5min(実施例10)に変えたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0053】
(実施例11、12)
回分式ビーズミルの処理時間をそれぞれ80min(実施例11)、7.5min(実施例12)に変えたこと以外は実施例5と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0054】
(比較例1)
擂潰処理を行わなかったこと以外は実施例5と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0055】
(比較例2)
分級機による分級処理の回転数を6000rpmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0056】
(比較例3、4)
回分式ビーズミルの処理時間をそれぞれ120min(比較例3)、5min(比較例4)に変えたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0057】
(比較例5、6)
回分式ビーズミルの処理時間をそれぞれ120min(比較例5)、5min(比較例6)に変えたことのほかは実施例5と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0058】
(比較例7、8)
連続焼成炉による焼成の最高温度をそれぞれ970℃(比較例7)、770℃(比較例8)にしたことのほかは実施例1と同様の方法でリチウムチタン複合酸化物を作製した。
【0059】
実施例・比較例の評価結果を表1〜3にまとめる。
【表1】

【表2】

【表3】

【0060】
以上の結果より、本発明に係るリチウムチタン複合酸化物を電極活物質として含むリチウムイオン二次電池は、初期放電容量が高く、レート特性に優れ、電極の平滑性も良好となることが分かった。
【符号の説明】
【0061】
1、8 Alリード
2 熱圧着テープ
3 カプトンテープ
4 アルミ箔
5、15、16 電極合剤
6 金属Li板
7 Niメッシュ
9 セパレータ
10 アルミラミネートセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)レーザー回折法による粒度分布測定における平均粒径D50が0.5〜1.0μmであり、
(b)レーザー回折法による粒度分布測定における最大粒子径D100と走査型電子顕微鏡観察により測長される一次粒子径の最大値d100との比率D100/d100が1.5〜15であり、
(c)BET法による比表面積測定から算出される球相当径DBETと上記D50との比率D50/DBETが3〜7である、
リチウムチタン複合酸化物。
【請求項2】
安息角が35〜50°である請求項1記載のリチウムチタン複合酸化物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリチウムチタン複合酸化物を正極活物質として含有する電池用正極。
【請求項4】
請求項1又は2記載のリチウムチタン複合酸化物を負極活物質として含有する電池用負極。
【請求項5】
請求項3に記載の正極又は請求項4に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
チタン化合物とリチウム化合物との混合物を700℃以上での熱処理に供することによりリチウムチタン複合酸化物を得て、
得られたリチウムチタン複合酸化物100重量部と10重量部以下の液体分散媒との存在下で粉砕処理を施してリチウムチタン複合酸化物の比表面積値を1.0m/g以上増加させる、リチウムチタン複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記粉砕処理を施した後に再熱処理を行うことによりリチウムチタン複合酸化物の比表面積を0.5〜6.0m/g減少させる請求項6記載の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−95647(P2013−95647A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241736(P2011−241736)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】