説明

リチウム二次電池およびその製造方法

【課題】水系ペーストを用いて形成するのに適した組成の正極活物質層を有する正極を用いて構築され、かつ内部抵抗の低いリチウム二次電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池を構成する正極は、アルミニウムを主体とする正極集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層とを備える。その正極活物質層は、有機溶剤に対して実質的に不溶性(好ましくは、水系溶媒に対して可溶性)である少なくとも一種のバインダと、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質とを含む正極活物質層とを備える。ここで、前記正極集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面は、仕事関数4.5以上の元素(例えば白金)を1質量%以上含む材料により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関し、特に水系ペーストを用いて作製された正極を備えるリチウム二次電池に関する。また本発明は、かかるリチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る材料(活物質)を有する正極を備え、該正極と負極の間の電解質(典型的には非水電解液)をリチウムイオンが行き来することにより充放電する二次電池である。
一般にリチウム二次電池に装備される正極は、導電性基体(以下「集電体」という。)と該集電体上に形成された活物質層とから構成されている。かかる活物質層は、多くの場合、LiNiO2、LiCoO2等の正極活物質と結着材(バインダ)と必要に応じて用いられる導電材とを含み、ペースト(またはスラリー)状に調製された活物質層形成用組成物(すなわち活物質層形成用ペースト)を集電体に塗布することによって形成されている。正極用の集電体としては、アルミニウムを主構成材料とするものが好適に用いられる。
【0003】
活物質層形成用ペーストとして、従来、有機溶剤を溶媒とし且つポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の溶剤系結着材を含む溶剤系ペーストと、水を溶媒とし且つカルボキシメチルセルロース(CMC)等の水系結着材を含む水系ペーストとが利用されている。水系ペースト(すなわち水系結着材)の使用は、水系結着材が非水電解液に不溶であることから活物質の結着性能に優れ、電池の良好なサイクル特性(長寿命)を実現し得る。また、溶剤系ペーストに比べて水系ペーストは概して取り扱いが容易であり、製造設備の簡略化、作業環境の改善、材料費の節減等にも寄与し得る。その反面、正極活物質の内容(例えば、次式:LiNixCo1-x2(0≦x≦1);により表されるリチウム遷移金属複合酸化物等)によっては、該活物質から溶出したリチウムイオンによって水系ペーストが強アルカリ性となる。かかる強アルカリ性の水系ペーストがアルミニウム製集電体に塗布されると、該集電体の表面が腐食されて高電気抵抗性を示す化合物(腐食堆積物、以下「電気抵抗物質」ということもある。)を生じやすく、ひいては電池の内部抵抗が増大しやすい。電池の内部抵抗の増大は放電特性の低下を招くため好ましくない。
【0004】
アルミニウムを用いた正極集電体の腐食防止に関し、特許文献1には、アルミニウム製正極集電体の表面にAlF3膜のようなフッ素化合物皮膜を生じさせることによってアルミニウムの腐食を防止する技術が記載されている。また、水系ペーストを用いたリチウム二次電池の製造に関する従来技術文献として特許文献2および3が挙げられる。他の従来技術文献として特許文献4が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−007962号公報
【特許文献2】特開2000−106174号公報
【特許文献3】特開2000−294252号公報
【特許文献4】特開平7−307150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、水系ペーストの塗布によるアルミニウム製集電体の腐食防止に対して特許文献1に記載の技術を適用すると、界面抵抗を減少させる効果は得られるとしても、AlF3自体が絶縁性であることからバルクの抵抗が上昇してしまう。すなわち、界面抵抗の低下分の少なくとも一部がバルク抵抗の上昇により相殺されるため、トータルの内部抵抗を低減する効果を十分に発揮することができない。
【0007】
本発明の一つの目的は、アルミニウムを主構成材料とする正極集電体に水系ペーストを付与した場合にも電気抵抗物質の生成を防いで高性能の電池を構築し得る正極を備えたリチウム二次電池を提供することである。また、本発明の他の目的は、そのようなリチウム二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される一つの発明は、正極と負極とを備えるリチウム二次電池に関する。当該電池の正極は、アルミニウムを主体とする正極集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層とを有する。その正極活物質層は、有機溶剤に対して実質的に不溶性である少なくとも一種のバインダと、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質とを含む。前記正極集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面は、仕事関数4.5以上の元素を1質量%以上含む材料により構成されている。
かかる構成の正極集電体によると、該集電体に水系ペーストが付与された場合にも電気抵抗物質の生成が防止または抑制され得る。したがって、このような正極集電体を備える正極を用いて構築された電池は、より良好な電池性能(例えば、より低い内部抵抗)を示すものとなり得る。
【0009】
ここに開示される電池の一つの好ましい態様では、前記正極集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面が、仕事関数4.5以上の元素を1〜10質量%含むアルミニウム材料により構成されている。
このような構成の正極集電体を備える正極を用いて構築された電池は、より良好な電池性能を示すものとなり得る。例えば、バルク抵抗を顕著に上昇させることなく界面抵抗を低下させることにより、電池の内部抵抗が効果的に低減され得る。
【0010】
好ましい一つの態様として、前記仕事関数4.5以上の元素は、例えば、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、金(Au)、タングステン(W)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)およびクロム(Cr)からなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。例えば、Pt,Ni,AuおよびWからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。また、例えば、Fe,Cu,SiおよびCrからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。
【0011】
ここに開示される電池の一つの好ましい態様では、前記正極活物質の主成分が、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物からなる群から選択されるいずれかである。
このような組成の正極活物質を用いて調製された水系ペーストは強アルカリ性を呈するものとなりやすい。したがって、上記構成の正極集電体を採用することによる効果がよりよく発揮され得る。
【0012】
ここに開示される電池の一つの好ましい態様では、前記正極活物質層は、前記正極活物質と水系溶媒と該水系溶媒に溶解または分散している前記バインダとを含む活物質層形成用組成物を前記正極集電体に付与して成る。
かかる態様の正極では、上記構成の正極集電体に活物質層形成用組成物(水系ペースト)を付与することにより、正極集電体表面における電気抵抗物質の生成を防止または抑制しつつ正極活物層が形成されている。このような正極を用いて構築されたリチウム二次電池は、より良好な電池性能(例えば、より低い内部抵抗)を示すものとなり得る。
【0013】
ここに開示される他の一つの発明は、リチウム二次電池の製造方法に関する。その方法は、正極を用意することと、負極を用意することと、それら正極および負極を用いてリチウム二次電池を構築することとを含む。ここで、前記正極を用意することは、アルミニウムを主体とする正極集電体であって仕事関数4.5以上の元素を1質量%以上含む材料により構成された活物質層形成用表面を備える正極集電体を用意することを含み得る。また、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質と水系溶媒と該水系溶媒に溶解または分散しているバインダとを含む活物質層形成用組成物を用意することを含み得る。また、該組成物を前記活物質層形成用表面に付与することを含み得る。
かかる製造方法によると、上記活物質層形成用表面に活物質層形成用組成物(水系ペースト)を付与することにより、正極集電体表面における電気抵抗物質の生成を防止または抑制しつつ、該集電体上に正極活物層を形成することができる。このような正極を用いてリチウム二次電池を構築することにより、より良好な電池性能(例えば、より低い内部抵抗)を示す電池が製造され得る。
【0014】
なお、本明細書により開示される技術には以下のものが含まれる。
すなわち、正極と負極とを備えるリチウム二次電池であって、前記正極は、アルミニウムを主体とする正極集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層とを備える。その正極活物質層は、有機溶剤に対して実質的に不溶性である少なくとも一種のバインダと、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質とを含む。前記正極集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面は、仕事関数4以上の元素であってアルミニウム以外の元素を1質量%以上含む材料により構成されている。
ここで、仕事関数4以上の元素(ただし、アルミニウムを除く。)の具体例としては、上記で例示した仕事関数4.5以上の元素に加えて、ホウ素(B;仕事関数4.45)、スズ(Sn;仕事関数4.42)、亜鉛(Zn;仕事関数4.33)、チタン(Ti;仕事関数4.33)、バナジウム(V;仕事関数4.3)、ニオブ(Nb;仕事関数4.3)、銀(Ag;仕事関数4.26)、インジウム(In;仕事関数4.12)、ジルコニウム(Zr;仕事関数4.05)等が例示される。これらのうち、少なくともアルミニウム(仕事関数4.28)よりも仕事関数の大きい元素を1質量%以上含む材料により構成された正極集電体表面に正極活物質層が設けられていることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここに開示されるリチウム二次電池を構成する正極(または、ここに開示されるリチウム二次電池製造方法に使用される正極)は、正極集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層とを有する。上記集電体の形状は、正極および電池の形状に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、網状、シート状もしくは箔状等の種々の形態であり得る。例えば、ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様として、捲回型電極体を備える電池が挙げられる。この態様において、箔状の正極集電体が好ましく使用される。
【0017】
ここで使用する正極集電体は、上述の通りアルミニウム(Al)を主体とし(すなわち、該集電体の主構成元素がアルミニウムであり)、かつ、該集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面は仕事関数(work function)4.5以上の元素を1質量%以上含む材料により構成されている。この仕事関数の値は種々の文献から容易に入手することができる。ここに開示される技術において利用し得る仕事関数4.5以上の元素の具体例としては、Pt(仕事関数5.65)、Ir(仕事関数5.27)、Ni(仕事関数5.15)、Pd(仕事関数5.12)、Au(仕事関数5.1)、Co(仕事関数5)、Ge仕事関数5)、Rh(仕事関数4.98)、Ru(仕事関数4.71)、W(仕事関数4.55)、Fe(仕事関数4.7)、Cu(仕事関数4.65)、Si(仕事関数4.52)、Cr(仕事関数4.5)等が挙げられる。これらのうちいずれか一種の元素を1質量%以上含んでもよく、これらから選択される二種以上の元素を合計で1質量%以上含んでもよく、これらから選択される二種以上の元素をそれぞれ1質量%以上含んでもよい。仕事関数5以上の元素(例えば、Pt,Ir,Ni,Pd,Au,Co,Ge)から選択される一種または二種以上を合計で1質量%以上含むことが好ましい。
【0018】
かかる高仕事関数(4.5以上、好ましくは5以上)を有する元素(以下、「高仕事関数元素」ということもある。)は、典型的には、単体または合金の状態で(換言すれば、酸化物、アルカリ金属塩、フッ化物等の化合物としてではなく)、正極集電体の少なくとも正極活物質層側の表面に含有される。この表面部における高仕事関数元素の含有割合は少なくとも1質量%であり、好ましくは3質量%以上である。該正極活物質層側の表面が主として一種または二種以上の高仕事関数元素から構成されていてもよい。上記高仕事関数元素としては、単体であるいはアルミニウムとの合金として良好な導電性(すなわち、低電気抵抗)を発揮し得る元素(典型的には金属元素)を選択することが好ましい。
【0019】
ここに開示される一つの好ましい態様では、正極集電体の正極活物質層側の表面が、高仕事関数元素を1〜100質量%(好ましくは3〜70質量%)の割合で含む材料により構成されている。このような正極集電体は、例えば、アルミニウムを主体とする箔状体に対し、上記高仕事関数元素を蒸着する処理、メッキする処理、スパッタリングする処理、あるいはこれらを適宜組み合わせた処理を施すことによって用意され得る。なお、該表面を構成する高仕事関数元素以外の元素は、典型的には主としてアルミニウムである。
【0020】
ここに開示される一つの好ましい態様では、上記正極活物層側の表面が、上記高仕事関数元素の一種または二種以上を1〜10質量%の割合で含有するアルミニウム材料により構成されている。二種以上の高仕事関数元素を含有する場合には、それらの合計含有割合を上記範囲とすることが好ましい。ここでアルミニウム材料とは、主たる構成元素がアルミニウム(典型的には、単体または合金)である材料をいう。したがって、上記好ましい態様では、上記正極活物層側の表面が、上記高仕事関数元素1〜10質量%(より好ましくは3〜7質量%)と、アルミニウム50質量%以上とを含む。高仕事関数元素の含有割合が上記範囲よりも少なすぎると、アルミニウムの腐食を抑制する効果が少なくなりがちである。一方、高仕事関数元素の含有割合が上記範囲よりも多すぎると正極集電体の強度が低下傾向となる場合がある。
なお、正極集電体の表面を構成する元素の比率は、例えば、株式会社堀場製作所製のグロー放電発光分光分析装置により測定可能である。
【0021】
正極集電体のうち正極活物質層側の表面以外の部分(例えば内部)は、正極活物質層側表面と実質的に同じ組成のアルミニウム材料により構成され得る。このような構成の正極集電体は、当該組成のアルミニウム材料に従来公知の成形方法(例えば金属箔形成方法)を適用することにより製造(例えば箔状化)され得る。
また、正極集電体のうち正極活物質層側の表面以外の部分(例えば内部)は、正極活物質層側表面とは異なる組成のアルミニウム材料により構成されていてもよい。例えば、正極活物質層側の表面とは異なる種類の高仕事関数元素を含んでもよく、該表面と同じ種類の高仕事関数元素を上記範囲よりも少ない割合で(例えば1質量%未満)含んでもよい。好ましい一つの態様では、正極集電体のうち正極活物質層側の表面以外の部分が純度99質量%以上のアルミニウム材料により構成されている。このような正極集電体は、例えば、上記純度のアルミニウムからなる箔状体の表面に上記高仕事関数元素をスパッタリングすることによって用意され得る。
【0022】
なお、上記構成の正極集電体を用いることにより水系ペースト(強アルカリ性であり得る。)を用いて正極活物質層を形成する場合にも高性能の電池を構築し得る理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、正極集電体の少なくとも正極活物質層側の表面に上記高仕事関数元素を存在させることにより、該集電体の主構成元素たるアルミニウム(仕事関数4.28)との間に局所電池構造を形成することができる。このことによって、該集電体に水系ペーストが付与された際にアルミニウムからの電子の引き抜きが抑制され、その結果、アルミニウムの溶解速度が低下する(すなわち、アルミニウムの腐食が抑制される)ものと考えられる。
【0023】
このような構成の正極集電体の少なくとも一方の表面(活物質層形成用表面)に正極活物質層が形成されている。この正極活物質層は、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質(典型的には、該酸化物から実質的に構成される正極活物質)を含む。使用するリチウム遷移金属複合酸化物は、従来この種の二次電池で用いられている酸化物であればよく、特定のリチウム遷移金属複合酸化物に限定されない。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物(該酸化物を構成する主たる遷移金属元素がニッケルであるリチウム遷移金属複合酸化物をいい、典型例としてLiNiO2が挙げられる。以下同様。)、リチウムコバルト系複合酸化物(典型例としてはLiCoO2)、リチウムマンガン系複合酸化物(典型例としてはLiMn24)等を正極活物質として好ましく用いることができる。二種以上の遷移金属元素を構成元素として含む複合酸化物(例えば一般式:LiNixCo1-x2で示される複合酸化物、ここでxは0<x<1を満足する正の実数)であってもよい。あるいは、Ni、Co以外の元素を構成要素とするものでもよい。例えば、一般式:Lix(Ni1-yCoy1-zz2;で示される複合酸化物であり得る。ここで、xは好ましくは0.9≦x≦1.1を満足する数であり、yは好ましくは0≦y≦1を満たす数であり、zは好ましくは0.01≦z≦0.2を満足する数である。Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)およびホウ素(B)から成る群から選択される少なくとも一種の元素であることが好ましく、Alを含むものが特に好ましい。
【0024】
上記正極活物質層は、また、有機溶剤(典型的には、リチウム二次電池等において非水電解液として用いられ得る有機溶剤)に対して実質的に不溶性である少なくとも一種のバインダを含む。水系溶媒(典型的には水)に対して可溶性であるか、少なくとも高度に分散可能な水系バインダの使用が好ましい。ここに開示される技術におけるバインダとしては、このような特性を示す種々のポリマーを使用し得る。従来からリチウム二次電池の正極活物質層を形成するのに水系結着材として(典型的には、水系ペーストの構成成分として)好適に用いられている種々のポリマーが好適である。例えば、親水性(水溶性)ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等の、種々のセルロース誘導体が好適例として挙げられる。これらのうちCMCの使用が好ましい。また、水系溶媒(典型的には水)に対して高度に分散可能な(ディスパージョンを形成し得る)ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類;等が挙げられる。これらのうちPTFE等のフッ素系樹脂の使用が好ましい。
【0025】
上記正極活物質層は、該活物質層中の正極活物質と集電体との間に十分な導電経路(導電パス)を確保するため、必要に応じて種々の導電材をさらに含有することができる。使用する導電材は、従来この種の二次電池において利用されているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック等)のような炭素(カーボン)粉末、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いることができる。
【0026】
このような組成の正極活物質層を形成する好適な一方法として、適当な水系溶媒と、上記正極活物質と、上記バインダとを含む活物質層形成用組成物を用意(典型的には調製)し、該組成物を上記正極集電体に付与する方法が挙げられる。ここで「水系溶媒」とは、水または水を主体とする混合溶媒を指す。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択することができる。特に好ましい水系溶媒は水である。ここに開示される電池またはその製造方法の好ましい一つの態様では、上記活物質層形成用組成物を構成する水系溶媒の80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)が水である。
【0027】
このような活物質層形成用組成物は、リチウム二次電池用正極の製造に従来用いられてきた水系ペーストと同様に調製すればよく、特別な操作を必要としない。例えば、水系溶媒と、正極活物質(典型的には粉末状)と、有機溶剤に対して実質的に不溶性である少なくとも一種のバインダ(CMC、PTFE等のような、水に対して可溶性または高度に分散可能な水系バインダの使用が好ましい。)を適当な質量割合で水系溶媒に添加して混合することによって、ペースト(またはスラリー)状の組成物を容易に調製することができる。例えば、活物質と水系バインダとの合計量を100質量%としたときの活物質の含有率が85〜99質量%、水系バインダの含有率が1〜15質量%となるようにこれらを配合して、適用な水系溶媒に添加することが好ましい。
【0028】
また、形成される活物質層中の正極活物質と集電体との間に十分な導電経路(導電パス)を確保するため、上記活物質形成用組成物に導電材をさらに含有させることが好ましい。特に限定しないが、活物質と導電材と水系バインダとの合計量を100質量%としたときの活物質の含有率が80〜95質量%、導電材の含有率が2〜15質量%、水系バインダの含有率が1〜15質量%となるようにこれらを配合することが好ましい。
【0029】
上述のようにして調製した活物質層形成用組成物(水系ペースト)を、所定割合の高仕事関数元素を含む集電体表面(活物質層形成用表面)に付与することによって集電体上に導電層を形成する。典型的には、適当な塗布装置(コーター)を使用して、集電体表面に活物質層形成用ペーストを所定の厚みで層状に塗布することができる。該ペーストを塗布する厚みは特に限定されず、正極および電池の形状や用途に応じて適宜異なり得る。例えば、厚み10〜30μm程度の箔状集電体(例えばAl箔)の表面に、乾燥後の厚みが5μm〜100μm程度となるように塗布する。塗布後、適当な乾燥機を用いて塗布物を乾燥することによって、集電体表面に所定の厚みの活物質層を形成することができる。このようにして得られた正極を、所望によりプレスすることによって、目的とする厚みの正極シートを得ることができる。したがって、ここに開示される技術には、上述のような構成のリチウム二次電池用の正極および該正極を製造する方法が含まれる。
【0030】
ここに開示されるリチウム二次電池製造方法は、このようにして用意された正極を用いてリチウム二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)を構築することを含む。該正極を用いて電池を構築する手段は、上述の正極を製造(または用意)し且つその正極を用いること以外、従来のリチウム二次電池製造方法に準じればよく、特に説明を要する特別な処理を必要としない。例えば、上述した正極シートと、金属(例えば銅)またはカーボン等から成る負極用箔状集電体の表面に適当な負極活物質を付着させて得た負極シートと、多孔質ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)シート等のセパレータとを用い、従来公知の方法に基づいて、上述したような捲回型その他のシート構造電極を備えるリチウム二次電池を構築することができる。
【0031】
具体的には、リチウムイオン(Li)を挿入および脱離可能なグラファイト構造(層状構造)のカーボン材料(すなわち負極活物質)を有する負極シートおよび上述したセパレータを予め用意する。そして、正極シートと負極シートとをセパレータを介して重ね合わせる(積層する)。この積層物を適当な電池容器に収容する。好ましい態様では、該積層物を捲回して捲回型電極構造体を構成し、それを電池容器に収容する。あるいは、複数枚の正極シートおよび複数枚の負極シートをそれぞれセパレータを挟んで交互に積層した積層型電極構造体を構成し、それを電池容器に収容してもよい。
【0032】
このような電極構造体を収容した電池容器に、予め用意しておいた電解液を供給(注入)することにより、正極、負極およびセパレータに電解液を含浸させる。これにより、所望するリチウムイオン二次電池を構築することができる。
典型的には、リチウムイオン二次電池用電解液は、非水系溶媒と該溶媒に添加され溶解しているリチウム塩(支持塩)とを含む非水電解液である。
非水系溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性の溶媒を用いることができる。プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般に非水系電池(リチウムイオン二次電池等)の電解液等に使用し得るものとして知られている非水系溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0033】
電解液に含有させる支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC49SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
なお、電解液における支持塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される電解液と同様でよく、特に制限はない。適当なリチウム化合物(支持塩)を0.1〜5mol/L程度の濃度で含有する電解液を使用することができる。
【0034】
以下、本発明に関する実験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0035】
<実施例1>
表面に白金をドープしたアルミニウム箔を正極集電体に用いて、以下のようにして円筒形標準タイプである18650型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0036】
まず、本実施例に使用した正極集電体について説明する。
JIS規格1N30材からなる厚み約15μmの長尺状アルミニウム箔(日本製箔株式会社製)の両面に、スパッタリング法によって白金(Pt)をドープした。スパッタリング処理されたアルミニウム箔の表面付近の組成を、株式会社堀場製作所製のグロー放電発光分光分析装置により調べたところ、アルミニウム箔中に5質量%程度のPtがドープされていた。このようにして、白金を5質量%程度含むアルミニウム材料(すなわち、Al/Ptの質量比が凡そ95/5)から成る表面を備えた正極集電体を用意した。
【0037】
また、本実施例では以下のようにして調製した水系の正極活物質ペーストを使用した。
正極活物質としてのLiCoO2粉末(日本重化学工業製品)と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、水溶性バインダとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、水分散性バインダとしてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子とをイオン交換水と混合して、正極活物質層形成用のペースト状組成物(水系の正極活物質ペースト)を調製した。この組成物は、正極活物質と導電材とCMCとPTFEとを、凡そ85:10:2.5:2.5の質量比で含有する。
【0038】
この正極活物質ペースト(水系ペースト)を、上記スパッタリング処理された正極集電体の表面(正極活物質層形成用表面)に、乾燥後の付着量が7mg/cm2となるように塗布した。これを真空乾燥させた後、全体の厚みが約35μmとなるようにプレスした。このようにしてシート状の正極(正極シート)を作製した。
【0039】
他方、負極活物質として天然黒鉛を使用し、バインダとしてCMCおよびスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)を使用して負極活物質層形成用組成物を調製した。すなわち、前記負極活物質および結着材をイオン交換水と混合して負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストに含まれる各材料(水以外)の凡その質量比は、カーボン材料:98質量%、CMC:1質量%、SBR:1質量%である。負極集電体としての厚み約15μmの長尺状銅箔の両面に上記ペーストを塗布(付着)して乾燥させ、該集電体の両面に厚み約20μmの負極活物質層を形成した。次いで全体の厚みが約40μmとなるようにプレスした。このようにして負極シートを作製した。
【0040】
得られた正極シートおよび負極シートを二枚のセパレータ(ここでは多孔質ポリエチレンシートを用いた。)とともに積層し、この積層シートを捲回して捲回型電極構造体を作製した。この電極構造体を電解液とともに容器に収容して、直径18mm、高さ65mm(すなわち18650型)の円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては従来のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液を特に制限なく用いることができるが、ここではエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との3:7(体積比)混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた組成の非水電解液を用いた。このようにして、実施例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0041】
<比較例1>
正極集電体として、実施例1で使用したアルミニウム箔をそのまま(すなわち、白金をドープすることなく)使用した。その他の点については実施例1と同様にして、比較例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0042】
<比較例2>
比較例1で用いたものと同じアルミニウム箔に、特許文献1と同様の手法によりフッ化処理を施した。すなわち、EC/DEC=3:7(体積比)の混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた非水電解液に浸漬した。そして、このアルミニウム箔と対極としてのリチウム箔との間に4.0Vの電圧を印加して、該アルミニウム箔の表面にフッ化アルミニウム(AlF3)被膜を生成させた。そのAlF3被膜上に上記正極活物質ペーストを塗布した。その他の点については実施例1と同様にして、比較例2に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0043】
<内部抵抗の評価>
上述した各実施例および比較例で得られたリチウムイオン二次電池の内部抵抗を評価した。すなわち、各電池を満充電の約60%の充電状態(State of charge:SOC)に調整し、25℃において周波数10mHz〜1MHz間のインピーダンスを測定した。実施例1および比較例1についての測定結果を図1に示す。図1中、丸で示したプロットを実線で結んだ曲線は実施例1についての測定結果を表し、十字(クロス)で示したプロットを破線で結んだ曲線は比較例1についての測定結果を表している。
これらの測定結果に基づいて、グラフの曲線と横軸とが交差する点における横軸の値(X1、実施例1ではRe|Z|=38mΩ)からバルクの抵抗値を求め、この値(X1)からアーチ型を描いて下降した曲線が再び上昇する変曲点に相当する横軸の値(X2、実施例1ではRe|Z|=51.5mΩ)との差から界面抵抗値を求めた。比較例1および比較例2(図示せず)についても同様にして、インピーダンスの測定結果からバルク抵抗値および界面抵抗値を求めた。
各電池について得られたバルク抵抗値および界面抵抗値を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す結果から明らかなように、高仕事関数元素(ここではPt)を5質量%程度含有させたアルミニウム箔(正極集電体)の表面に水系ペーストを塗布して成る正極を用いた実施例1のリチウムイオン二次電池によると、該アルミニウム箔(1N30材)をそのまま使用した比較例1の電池に比べて界面抵抗を大幅に低下させることができた。また、実施例1のバルク抵抗は比較例1と同程度であった。その結果、トータルの内部抵抗値を比較例1に対して30%程度低下させることができた。
一方、表面にAlF3被膜を形成したアルミニウム箔を用いた比較例2では、比較例1に比べて界面抵抗値は低減されたものの、バルク抵抗値が上昇したことによりその低減効果が減殺され、トータルの内部抵抗値は比較例1に対して10%程度の低下に留まった。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】インピーダンス(内部抵抗)の測定結果を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを備えるリチウム二次電池であって、
前記正極は、
アルミニウムを主体とする正極集電体と、
該集電体上に形成された正極活物質層であって、有機溶剤に対して実質的に不溶性である少なくとも一種のバインダと、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質とを含む正極活物質層と、を備え、
ここで、前記正極集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面は、仕事関数4.5以上の元素を1質量%以上含む材料により構成されている、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極集電体のうち少なくとも前記正極活物質層側の表面は、仕事関数4.5以上の元素を1〜10質量%含むアルミニウム材料により構成されている、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記仕事関数4.5以上の元素は、白金、ニッケル、金およびタングステンからなる群から選択される一種または二種以上の元素である、請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記仕事関数4.5以上の元素は、鉄、銅、ケイ素およびクロムからなる群から選択される一種または二種以上の元素である、請求項2に記載の電池。
【請求項5】
前記正極活物質の主成分が、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物からなる群から選択されるいずれかである、請求項1から4のいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と水系溶媒と該水系溶媒に溶解または分散している前記バインダとを含む活物質層形成用組成物を前記正極集電体に付与して成る、請求項1から5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
正極を用意することと、負極を用意することと、それら正極および負極を用いてリチウム二次電池を構築することとを含むリチウム二次電池の製造方法であって、
前記正極を用意することは:
アルミニウムを主体とする正極集電体であって仕事関数4.5以上の元素を1質量%以上含む材料により構成された活物質層形成用表面を備える正極集電体を用意すること;
リチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質と水系溶媒と該水系溶媒に溶解または分散しているバインダとを含む活物質層形成用組成物を用意すること;および、
該組成物を前記活物質層形成用表面に付与すること;
を包含する、リチウム二次電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−109454(P2007−109454A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297244(P2005−297244)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】