説明

リチウム二次電池及びリチウム二次電池用正極

【課題】高出力のリチウム二次電池を提供する
【解決手段】非水電解液を用いたリチウム二次電池に用いる正極であって、化学式LiaxPO4(0<a≦1.2,0.9≦x≦1.1,MはFe,Mnのいずれかを含む遷移金属)で表されるオリビン構造を有する複合酸化物を含み、正極のCu−Kα線を用いたX
線回折測定における(020)と(101)のピーク強度比(I(020)/I(101))が3.5以上4.2以下、好ましくは3.8以上4.2以下である。また、正極材の一次粒子径が20nmから200nm、比表面積が10−30m2/gであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液を用いたリチウム二次電池、特にリチウム二次電池用の正極に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用リチウム二次電池では、高出力(電池抵抗の低減),高安全性が要求されている。遷移金属としてFe或いはMnで構成されるオリビン構造の正極活物質(LiMPO4,MはFe或いはMnを含む遷移金属で、以下、オリビン正極材と略す)では、結晶構造中の酸素と燐の結合が強く、過充電時に結晶構造から酸素が放出されにくいため安全性が高い。
【0003】
非特許文献1には、オリビン正極材のリチウムイオンが結晶のb軸方向に一次元拡散することが開示されている。特許文献1には、LiFePO4(以下オリビン鉄と略す)の合成方法と、オリビン鉄を用いた電極,コイン型リチウム電池の作製について開示し、その特性の評価が開示されている。また、特許文献2では、溶融法を用いたオリビン鉄の製法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−134725号公報
【特許文献2】特開2005−155941号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature Materials 7, 707-711 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウム二次電池では更なる高出力化が求められている。そこで本発明の目的は、オリビン正極材の改善により、高出力のリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明は、非水電解液を用いたリチウム二次電池に用いる正極に関する。リチウムイオン二次電池用の正極は、集電体上に、正極活物質を含む正極合材層を有する。本発明の特徴は、化学式LiaxPO4(0<a≦1.2,0.9≦x≦1.1,MはFe,Mnのいずれかを含む遷移金属)で表されるオリビン構造を有する複合酸化物を含み、Cu−Kα線を用いた正極のX線回折測定における(020)と(101)のピーク強度比(I(020)/I(101))が3.5以上4.2以下、好ましくは3.8以上4.2以下である。
【0008】
また、正極材の一次粒子径が20nmから200nm、比表面積が10−30m2/gであることが好ましい。さらに、一次粒子のアスペクト比(a軸或いはc軸方向の長さ/b軸方向厚み)が、1.2以上2.5以下、特に2.1以上2.5以下であることが好ましい。
【0009】
また、上記の正極を用いたリチウム二次電池にある。リチウム二次電池は複数個を電気的に接続された電池モジュールとして使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極の抵抗を低くし、高出力の二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】正極における正極活物質の結晶配向性と電極抵抗の関係を示す図である。
【図2】正極における高密度扁平状活物質の配向性を示す正極の断面図である。
【図3】円筒型リチウム二次電池の切り欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
エネルギーを効率的に利用できるハイブリッド自動車用電源として、高出力・高エネルギー密度の電池が求められている。リチウム二次電池は、電池電圧が高く、軽量で高エネルギー密度であるため、ハイブリッド自動車用電池として有望である。ハイブリッド自動車用二次電池は、自動車の減速時にエネルギーを回生して電池に蓄え、このエネルギーを高率放電して加速アシストすることが求められている。ここで、ハイブリッド自動車応用では、10秒間以内の加速で所望の速度に到達するため、電池として必要な特性は、10秒間の優れた出力特性である。このため、電池抵抗の低減が求められる。また、車載用リチウム二次電池は大型電池となるため安全性の確保が重要となる。
【0013】
オリビン正極材は電子伝導性が低く、また、正極材中へのリチウムイオン拡散係数が低いことが報告されている。オリビン正極材は、材料を高比表面積とすることでリチウムイオンの拡散性を改善できる。また、炭素被覆により、正極材に導電性を付与できる。炭素被覆を設けることで、電極中の導電ネットワークを構成でき、ハイブリッド自動車に適した電池の出力特性を得ることが可能となる。さらに、炭素被覆によれば、導電性の付与とともに結晶成長を抑制し、一次粒子の小粒径化による高比表面積化に寄与できる。
【0014】
本発明者らは、正極を構成する正極活物質の一次粒子径と結晶方位の相関関係の検討により、正極内での導電ネットワークとリチウムイオンの拡散性が改善され、リチウム二次電池の高出力化を達成できることを見出した。オリビン正極材は電子伝導性が低く、また、正極材中へのリチウムイオン拡散係数が低い。オリビン正極材を実用化するため、小粒径化で材料を高比表面積とすることでリチウムイオンの拡散性を改善するとともに炭素被覆により導電性が付与され、出力特性が改善される。
【0015】
さらに、非特許文献1に記載されているように、オリビン正極材ではリチウムイオンの拡散が結晶のb軸方向からの一次元拡散である。そこで、発明者らはこの特徴に着目し、イオンの移動方向と結晶構造の関係を最適化することが出力特性の改善に有効であることを見出した。以下に詳細を示す。リチウムイオン二次電池の放電過程では、正極と対向する負極からリチウムイオンが正極中に拡散する。正極を構成する活物質がオリビン正極材の場合、リチウムイオンの移動方向はb軸方向の一次元拡散であるから、正極中でオリビン正極材のb軸結晶方向が負極方向に配向していることが望ましい。また、オリビン正極材のb軸方向が薄く、アスペクトレシオの大きい粒子構造であれば正極材へのイオン拡散に対して好ましい。またさらに、オリビン正極材の比表面積が高ければ電解液との反応面積が多くなり、イオン拡散に対して好ましい。以上のようにリチウムイオン電池用正極中のオリビン正極の性状を制御することでイオンの拡散性に優れ、電極抵抗の低いリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0016】
本発明は、非水溶媒を使用するリチウムイオン二次電池の正極材料及び正極電極、及びその製造方法に関し、より詳細には、Liイオン伝導性の改善に関する。概要は以下の通りである。
【0017】
正極に、正極材として化学式LiaxPO4(0<a≦1.2,0.9≦x≦1.1,MはFe,Mnの少なくともいずれか一方を含む遷移金属)で表されるオリビン構造を有する複合酸化物を含む。好ましくは、正極材の比表面積が10〜30m2/gである。また、一次粒子径が20〜200nmであり、一次粒子のアスペクト比(a軸或いはc軸方向の長さ/b軸方向厚み)が、好ましくは1.2以上2.5以下、特に好ましくは2.1以上2.5以下である。
【0018】
また、二次電池用正極のX線回折ピークを測定した場合に、(020)面と(101)面の回折ピーク強度比(I(020)/I(101))(X線回折測定のX線源としてCu−Kα線を用いる)が、好ましくは3.55以上4.2以下、より好ましくは3.8以上4.2以下である。
【0019】
正極は、上記正極材,バインダ,導電材などの混合材料が金属箔など(集電板)上に層状に形成されている構造が一般的である。このとき、正極材,バインダ,導電材を混合した高密度の複合正極材を事前に作成し、この複合正極材をオリビン正極材,導電材,バインダと混合して基材上に設けた正極としてもよい。
【0020】
このような正極は、リチウム二次電池に用いられ、高出力が必要とされる機器、例えばハイブリッド車や工具用二次電池などに適用できる。また、リチウム二次電池の大型化や、リチウムイオン二次電池が電気的に複数接続された電池モジュールとすることができる。
【0021】
〔リチウム二次電池用正極材料〕
本発明者らは、オリビン正極材を含み構成される正極の一次粒子径,比表面積,アスペクトレシオ,結晶配向性、及び正極密度を考慮することにより正極の抵抗を低減することを見出した。リチウム二次電池用正極を構成するオリビン正極材は、化学式LiaxPO4(0<a≦1.2,0.9≦x≦1.1,MはFe,Mnのいずれかを含む遷移金属)で表されるオリビン構造を有する複合酸化物である。
【0022】
オリビン正極材の一次粒子の粒径は20nmから200nmが好ましい。一次粒子径が20nm以下では正極を作製した場合には、正極密度の向上と正極内の導電ネットワーク形成を同時に達成することができない。一方、一次粒子径が200nmを超える場合には、リチウムイオンの拡散長が長くなり電極抵抗が上昇する。このため、高出力電池を得るためには、一次粒子径が20−200nmであるオリビン正極材が望ましい。正極内のオリビン正極材の一次粒子は、正極の断面あるいは破面の電子顕微鏡観察で評価することができる。
【0023】
オリビン正極材の比表面積は10−30m2/gが好ましい。比表面積が10m2/g未満では、正極材とリチウムイオンとの反応面積が少ないために電極抵抗が上昇し、比表面積が30m2/gを超える場合には、正極密度の向上と正極内の導電ネットワーク形成を同時に達成することができない。特に、オリビン正極材の場合、電子伝導性が低いため、導電ネットワークが形成できなければ高抵抗となる。したがって、高出力電池を得るためには、比表面積が10−30m2/gであるオリビン正極材が望ましい。
【0024】
なお、オリビン正極材の比表面積評価法を以下に示す。予め120℃で乾燥させ、試料セルに充填し、これを窒素ガス中、300℃で30分間乾燥させる。次いで、試料セルを測定部に装着し、He/N2混合ガスによる脱着時の信号をカウント後、BET法により比表面積を算出することができる。
【0025】
また、電池の高出力化に適したオリビン正極材の特徴として、アスペクトレシオを規定することが好ましい。オリビン正極材はb軸方向からリチウムイオンが拡散するため、アスペクトレシオ(a軸或いはc軸方向の長さ/b軸方向厚み)が好ましくは1.2から2.5以下、より好ましくは2.1から2.5以下であることが望ましい。アスペクトレシオが1.2未満であればリチウムイオンの拡散に不利であり、また、2.6以上であれば正極密度の向上と導電ネットワークの形成を同時に達成することができない。
【0026】
本願発明者は、オリビン正極材と導電材及びバインダからスラリーを作製し、これをアルミ集電体上に塗布して正極を作製した。得られた正極にX線回折を行い、X線回折パターンから(020)ピークと(101)ピークの強度比(I(020)/I(101))を算出した。その結果、図1に示すように正極の(I(020)/I(101))と、正極の電極抵抗との間には相関があることを見出した。3.55以上4.2以下であるときに電極抵抗の低下が認められた。特に、3.8以上4.2以下が好ましいことがわかった。また、その後の検討で、正極密度とピークの強度比(I(020)/I(101))との間にも相関があることがわかった。
正極密度1.81g/cm3以上とすることで、ピーク強度比を3.55以上とすることができる。
【0027】
なお、X線回折測定の方法の詳細は下記の通りである。まず、正極をガラス試料板に貼付しサンプルとして用意する。次に、このサンプルを自動X線回折装置(リガク社製:RINT−UltimaIII)にセットし、線源CuKα,管電圧40kV,管電流40mA,走査範囲10°≦2θ≦130°,走査速度1.5°/min,サンプリング間隔0.0
2°/step,発散スリット0.5°,散乱スリット0.5°,受光スリット0.15mmの条件でX線回折プロファイルを測定できる。
【0028】
また、正極の作製工程で単純に加工時の圧力を上げた場合には、アルミ集電体から電極が剥離してしまう場合がある。図2は正極の断面構造を示す図である。図2に記載される複合正極材を混合した正極によれば、この問題を解消でき高出力電池に有効である。
【0029】
複合正極材を混合した正極は、正極材,導電材,バインダよりなるスラリーを乾燥,緻密化させて粉砕し、複合正極材粒子を作製した後、この複合正極材粒子を混合することにより、局所的に正極密度の高い正極を達成するものである。
【0030】
まず、オリビン正極材,導電材及びバインダでスラリーを作製し、これを基材(金属箔或いは樹脂テープなど)上に塗布して正極合剤層を形成した後、乾燥を行う。次に、プレス或いは圧延加工を行い緻密化する。ここで、正極合剤層が基材から剥離するまで加工を行い、扁平複合正極材1を得る。ここで、この扁平複合正極材1は、二次粒子のアスペクトレシオが2.2以上3.0未満である。このアスペクトレシオが2.2未満であれば複合正極材の緻密化が不十分となる。また、アスペクトレシオが3.0以上では、正極を構成
したときに正極の中に不要な空隙を形成してしまう。この材料にボールミル粉砕を行い、粒径5−10μmの扁平複合正極材粒子とする。
【0031】
複合正極材粒子と、オリビン正極材、導電材及びバインダでスラリーを作製し、これをアルミ集電体3上に合剤層2を塗布して乾燥した後に圧延加工を行い、図2に示す正極を得る。この正極では、局所的に正極密度が高く、また、(I(020)/I(101))が高い。その結果、高出力の二次電池に有効な正極となる。
【0032】
〔オリビン正極材料の製造方法〕
微細に粉砕したシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことでオリビン正極材を得ることができる。
【0033】
〔リチウムイオン二次電池〕
リチウムイオン二次電池は、円筒型,積層型,コイン型,カード型等,種々の形状のものが知られている。リチウムイオン二次電池は、高出力化などのため複数個の電池を直列/並列に接続したリチウムイオン電池モジュールを構成して使用してもよい。本発明の正極はいずれの形状の電池にも適用が可能である。例として、円筒型リチウム二次電池の切り欠き断面図を図3に示す。正極板7と負極板8がセパレータ9を介して重ねられ、捲回されており、電池缶10内に収められ、蓋部12で封止されている。正極,負極からはそれぞれリード片が出されており、蓋部,電池缶と接続されている。以下に円筒型リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する。
【0034】
1)正極の作製方法
オリビン正極材に、アセチレンブラック等の導電材を添加して混合する。なお、本発明で用いるオリビン正極材のように高比表面積の正極材では電極作製時に用いる有機溶媒の吸液性が高い。このため、予め有機溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(以下、NMPと略す)を正極活物質と混合して正極活物質にNMPを吸液させた後、正極活物質に導電材を分散させることが好ましい。この後、この混合物にNMPなどの溶媒に溶解させたポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略す)などの結着剤を加えて混練し、正極スラリーを得る。次に、このスラリーをアルミニウム金属箔上に塗布した後、乾燥して正極板を作製する。
【0035】
2)負極の作製方法
負極活物質である非晶質炭素材に、アセチレンブラック、炭素繊維などの導電材を加え、混合する。これに結着剤としてNMPに溶解したPVDF或いはゴム系バインダー(SBR等)を加えた後に混練し、負極スラリーを得る。次に、このスラリーを銅箔上に塗布した後、乾燥して負極板を作製する。
【0036】
3)電池の形成方法
正極及び負極板を、圧延加工により緻密化し、所望の形状に裁断して電極を作製する。
次に、これらの電極に電流を流すためのリード片を設ける。正極及び負極の間に多孔質絶縁材のセパレータを挟みこみ、これを捲回した後、ステンレスやアルミニウムで成型された電池缶に挿入する。リード片と電池缶を接続した後、非水系電解液を注入し、最後に、電池缶を封缶してリチウムイオン二次電池を得る。
【0037】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。まず、実施例で使用する各種のオリビン正極材を作製した。
【0038】
<オリビン正極材(1)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことで炭素で被覆されたLiFePO4のオリビン正極材(1)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0039】
上記オリビン正極材(1)を透過型電子顕微鏡により50000倍の視野でこの粒子を観察した結果、平均の一次粒子径は20nmであった。また、一次粒子のアスペクトレシオは1.2であった。
【0040】
上記オリビン正極材(1)の比表面積測定を行った。予め120℃で乾燥させ、試料セルに充填し、これを窒素ガス中、300℃で30分間乾燥させた。次いで、試料セルを測定部に装着し、He/N2混合ガスによる脱着時の信号をカウント後、BET法により比表面積を算出した。その結果、オリビン正極材(1)の比表面積は30m2/gであった。
【0041】
<オリビン正極材(2)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で4時間の熱処理を行うことで炭素被覆されたLiFePO4のオリビン正極材(2)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0042】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、オリビン正極材(2)の平均一次粒子径は10nm、一次粒子のアスペクトレシオは1.2、比表面積は40m2/gであった。
【0043】
<オリビン正極材(3)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で12時間の熱処理を行うことで炭素被覆されたLiFePO4のオリビン正極材(3)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0044】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、上記オリビン正極材(3)の平均一次粒子径は200nm、一次粒子のアスペクトレシオは1.2、比表面積は10m2/gであった。
【0045】
<オリビン正極材(4)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で20時間の熱処理を行うことで炭素被覆されたLiFePO4のオリビン正極材(4)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0046】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、上記オリビン正極材(4)の平均一次粒子径は210nm、一次粒子のアスペクトレシオは1.2、比表面積は9m2/gであった。
【0047】
<オリビン正極材(5)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.05となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことで炭素被覆されたLiFePO4のオリビン正極材(5)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0048】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、上記オリビン正極材(5)の平均一次粒子径は20nm、一次粒子のアスペクトレシオは2.1、比表面積は30m2/gであった。
【0049】
<オリビン正極材(6)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.1となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことで炭素被覆されたLiFePO4正極材のオリビン正極材(6)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0050】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、上記オリビン正極材(6)の平均一次粒子径は20nm、一次粒子のアスペクトレシオは2.5、比表面積は30m2/gであった。
【0051】
<オリビン正極材(7)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、650℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことで炭素被覆LiFePO4正極材のオリビン正極材(7)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0052】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、上記オリビン正極材(7)の平均一次粒子径は18nmであった。また、一次粒子のアスペクトレシオは1.1であった。また、オリビン正極材(7)の比表面積は35m2/gであった。
【0053】
<オリビン正極材(8)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、2:2:1.15となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリビニルアルコールを混合し、650℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことで炭素被覆LiFePO4正極材のオリビン正極材(8)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0054】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、平均一次粒子径は200nmであった。また、一次粒子のアスペクトレシオは2.6であった。また、上記オリビン正極材(8)の比表面積は10m2/gであった。
【0055】
<オリビン正極材(9)の作製>
ボールミルで3時間の微細粉砕を行ったシュウ酸鉄二水和物,炭酸マンガン,リン酸二水素アンモニウム及び炭酸リチウムをモル比で、1.6:0.4:2:1.0となるように混合し、これを300℃の窒素雰囲気下で仮焼して前駆体を得た。その後、前駆体とポリ
ビニルアルコールを混合し、700℃の窒素雰囲気下で8時間の熱処理を行うことで炭素被覆されたLiFeMnPO4正極材のオリビン正極材(9)を得た。ここで、被覆した炭素量は4wt%であった。
【0056】
オリビン正極材(1)と同様の方法により観察した結果、上記オリビン正極材(9)の平均一次粒子径は40nmであった。また、一次粒子のアスペクトレシオは1.2であった。また、比表面積は25m2/gであった。
【0057】
【表1】

【0058】
上記のオリビン正極材(1)ないし(9)を使用し、リチウムイオン二次電池の正極の実施例,比較例を作製した。
【実施例1】
【0059】
オリビン正極材(1)を用い、正極板を以下の手順で作製した。
【0060】
あらかじめ結着剤のPVDFを溶媒のNMPに溶解した溶液と、オリビン正極材(1)と平均粒子径35nmの炭素系導電材を混合して正極合剤スラリーを作製した。このとき、オリビン正極材(1),炭素系導電材及び結着剤を重量百分率比で表してそれぞれ、85:5:10の割合となるように混合した。このスラリーを、厚み20μmのアルミシート上に均一に塗布した後、100℃で乾燥し、プレスにて1.5ton/cm2で加圧し、約100μm厚の塗膜を形成し、正極板7を得た。正極板の電極密度は1.81g/cm3であった。また、正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した。(020)/(101)ピーク強度比は3.55であった。
【0061】
次に、上記の正極板を用いて試験用電池を作製した。正極板7をφ15に打ち抜き、正極とし、対極及び参照極を金属リチウムとした。電解液には1.0モルのLiPF6を電解質としたエチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を用いた。
【0062】
<抵抗値の測定>
この試験用電池を0.3Cで上限電圧3.6V,下限電圧2.0Vまでの充放電を3回繰り返して初期化した。さらに、0.3C相当で上限電圧3.6V、5時間の定電流定電圧充
電を行った後、1C相当で下限電圧2.0Vまでの定電流放電を実施し、放電前の開回路電圧と放電10秒後の電圧とを測定し、両者の差である電圧降下(ΔV)を求めた。さらに、放電電流を3C,6C相当と変え、同様の充放電を行い各放電電流(I)の電圧降下を測定した。これらの放電電流(I)と電圧降下(ΔV)をプロットし、傾きから開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した。その結果、電極抵抗は26Ωであり、低抵抗のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0063】
<円筒型電池の作製>
正極板と負極板を組み合わせ、図4に模式的に示す円筒型電池を以下の手順で作製した。
【0064】
オリビン正極材(1)を用いた正極板7を塗布幅5.4cm,塗布長さ60cmとなるよう切断し、電流を取り出すためにアルミニウム箔製のリード片を溶接し正極板を作製した。
【0065】
次に、負極板を作製した。負極活物質の黒鉛炭素材を結着剤のNMPに溶解して混合した負極合材スラリーを作製した。このとき、黒鉛炭素材と結着剤の乾燥重量比が92:8となるようにした。このスラリーを10μmの圧延銅箔に均一に塗布した。その後、ロールプレス機により圧縮整形し、塗布幅5.6cm,塗布長さ64cmとなるよう切断し、銅箔製のリード片を溶接して負極板を作製した。
【0066】
正極板7と負極板8が直接接触しないように間にセパレータ9を配置して捲回して電極群を作製した。セパレータ9は厚さ25μm,幅5.8cmの微多孔性ポリプロピレンフィルムとした。このとき、正極板のリード片13と負極板のリード片11とが電極群の互いに反対側の両端面に位置するようにした。さらに、正極板7と負極板8の配置で、正極の合材塗布部が負極の合材塗布部からはみ出すことがないようにした。
【0067】
次に、電極群をSUS製の電池缶10に挿入し、負極リード片11を缶底部に溶接し、正極電流端子を兼ねる密閉蓋部12に正極リード片13を溶接した。この電極群を配置した電池缶10に非水電解液(エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC)の体積比で1:2の混合溶媒に1.0モル/リットルのLiPF6を溶解させたもの)を注入した後、パッキン15を取り付けた密閉蓋部12を電池缶10にかしめて密閉し、直径18mm,長さ65mmの円筒型電池とした。ここで、密閉蓋部12には電池内の圧力
が上昇すると開裂して電池内部の圧力を逃がす開裂弁があり、密閉蓋部12と電極群の間に絶縁板14を配した。
【0068】
<円筒型電池の評価>
この小型円筒型電池を0.3Cで上限電圧3.6V,下限電圧2.0Vまでの充放電を3回繰り返して初期化した。さらに、0.3Cで上限電圧3.6V,下限電圧2.0Vまでの
充放電を行い、電池放電容量を測定した。次に、0.3C相当で上限電圧3.6V、5時間の定電流定電圧充電を行った後、1C相当で下限電圧2.0Vまでの定電流放電を実施し、放電前の開回路電圧と放電10秒後の電圧とを測定し、両者の差である電圧降下(ΔV)を求めた。さらに、放電電流を3C,6C相当と変え、同様の充放電を行い各放電電流(I)の電圧降下を測定した。これらの放電電流(I)と電圧降下(ΔV)をプロットし、傾きから開回路電圧3.42Vの電池抵抗を算出した。
【0069】
その結果、実施例1の円筒型電池の抵抗は56mΩであった。また、電池充電状態が50%の開回路電圧と電池抵抗から電池出力を求めた結果、35Wの高出力の電池が得られた。またこの電池を直列に10本接続した電池モジュールを作製した。本実施例の円筒型電池を電池モジュールとすることで、少ない本数で要求される仕様に合致する出力が得られた。また、本実施例のリチウムイオン二次電池を用いた電池モジュールは、高出力化することができる。
【実施例2】
【0070】
実施例1と同様の方法で、オリビン正極材(1)を用い、正極板を作製した。ただし、電極の密度を1.85g/cm3とした。実施例1と同様にX線回折を行い(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.8であった。
【0071】
実施例1と同様に電極抵抗を評価した結果、25Ωと低抵抗であった。実施例2の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【0072】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で、オリビン正極材(1)を用い、正極板を作製した。ただし、電極の密度を1.6g/cm3とした。実施例1と同様の方法でX線回折を行い(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.1であった。
【0073】
実施例1と同様に電極抵抗を評価した結果、35Ωと高抵抗であった。
【0074】
〔比較例2〕
実施例1と同様の方法で、オリビン正極材(1)を用い、正極板を作製した。ただし、電極の密度を2.0g/cm3とした。密度の変更は圧密化加工の圧力を変化させて実施した。実施例1では、1.5ton/cm2、比較例では、1.2ton/cm2とした。実施例1と同様の方法でX線回折を行い(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4.1であった。実施例1と同様に電極抵抗を評価した結果、44Ωと高抵抗であった。電極密度を2.0g/cm3としたため、電極に微小なクラックが発生し、所望の低抵抗化を達成することができなかった。
【0075】
〔比較例3〕
オリビン正極材(2)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板7の電極の密度は、1.7g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.2であった。実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、34Ωで高抵抗であった。
【実施例3】
【0076】
オリビン正極材(3)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.81g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.55であった。
【0077】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、27Ωで低抵抗であった。実施例3の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【0078】
〔比較例4〕
オリビン正極材(4)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.81g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.2であった。
【0079】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、34Ωで高抵抗であった。
【実施例4】
【0080】
オリビン正極材(5)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.81g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4であった。
【0081】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、22Ωで低抵抗であった。実施例4の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【実施例5】
【0082】
本実施例は、実施例4の電極の密度を変化させた例である。
【0083】
オリビン正極材(5)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.85g/cm3とした。X線回折を行い(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4.1であった。
【0084】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、21Ωと低抵抗であった。実施例5の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【実施例6】
【0085】
オリビン正極材(6)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.81g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4.1であった。
【0086】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、21Ωで低抵抗であった。実施例6の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【0087】
〔比較例5〕
オリビン正極材(7)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.7g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.1であった。
【0088】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、44Ωで高抵抗であった。
【0089】
〔比較例6〕
オリビン正極材(8)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板の電極の密度は1.6g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.1であった。
【0090】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、44Ωで高抵抗であった。
【実施例7】
【0091】
本実施例は、正極の一部に正極合材よりなる複合粒子を混合した例である。
【0092】
まず、複合粒子を作製した。オリビン正極材(1),導電材及びバインダを重量百分率で85:5:10としたスラリーを作製し、これをアルミ基材上に塗布して厚さ50μmの正極合剤層を形成した後、120度で乾燥を行う。次に、1.5ton/cm2の圧力でプレス加工を行い緻密化した。ここで、正極合剤層が基材から剥離するまで加工を行い、複合正極材を得た。複合正極材にボールミル粉砕を行い、粒径5−10μmの扁平複合正極材粒子とした。扁平複合正極材は、二次粒子のアスペクトレシオが2.2であった。
【0093】
扁平複合正極材粒子と、オリビン正極材(1)をFe元素換算で等モル比として混合した後、導電材及びバインダを混合したスラリーを作製し、これをアルミ集電体上に塗布して乾燥した後に圧延加工を行い、扁平複合正極材が混合された正極材を得た。ここで、得られた正極中の組成は、正極材,導電材及びバインダの混合比率が85:5:10となるように調整された。電極の密度を測定したところ、1.9g/cm3であった。実施例1と同様にX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4であった。
【0094】
実施例1と同様に電極抵抗を評価した結果、22Ωと低抵抗であった。実施例7の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【実施例8】
【0095】
本実施例は、実施例7と同様に正極の一部に正極合材よりなる複合粒子を混合した例である。
【0096】
オリビン正極材(1),導電材及びバインダを重量百分率で85:5:10としたスラリーを作製し、これをアルミ基材上に塗布して厚さ50μmの正極合剤層を形成した後、120度で乾燥を行う。次に本実施例の複合粒子は、1.7ton/cm2の圧力でプレス加工を行い緻密化した。実施例7と同様に、正極合剤層が基材から剥離するまで加工を行い、複合正極材を得た。複合正極材にボールミル粉砕を行い、粒径5−10μmの扁平複合正極材粒子とした。本実施例の扁平複合正極材は、二次粒子のアスペクトレシオが3.0であった。
【0097】
実施例7と同様に加工し、上記扁平複合正極材が混合された正極を得た。実施例1と同様にX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4.1であった。
【0098】
実施例1と同様に電極抵抗を評価した結果、21Ωと低抵抗であった。実施例7の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【0099】
〔比較例7〕
本比較例は、実施例7と同様に正極の一部に正極合材よりなる複合粒子を混合した例である。オリビン正極材(1),導電材及びバインダを重量百分率で85:5:10としたスラリーを作製し、これをアルミ基材上に塗布して厚さ50μmの正極合剤層を形成した後、120度で乾燥を行う。次に、1.2ton/cm2の圧力でプレス加工を行い緻密化した。正極合剤層が基材から剥離するまで加工を行い、複合正極材を得た。複合正極材にボールミル粉砕を行い、粒径5−10μmの扁平複合正極材粒子とした。この扁平複合正極材は、二次粒子のアスペクトレシオが2.1であった。
【0100】
さらに、実施例7と同様に、この材料とオリビン正極材(1),導電材及びバインダでスラリーを作製し、この合剤層をアルミ集電体上に塗布して乾燥した後に1.5ton/cm2の圧力でプレス加工を行い、電極密度が1.85g/cm3の扁平複合材正極を得た。実施例1と同様にX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.8であった。
【0101】
得られた正極の試験電池評価を実施例1と同様に行った結果、電極抵抗は30Ωで高抵抗であった。本電極では、局所的に複合材の密度が高密度となり、所望の電極低抵抗化が達成できなかった。
【0102】
〔比較例8〕
本比較例は、実施例7と同様に正極の一部に正極合材よりなる複合粒子を混合した例である。
【0103】
オリビン正極材(1),導電材及びバインダを重量百分率で85:5:10としたスラリーを作製し、これをアルミ基材上に塗布して厚さ50μmの正極合剤層を形成した後、120度で乾燥を行う。次に、1.9ton/cm2の圧力でプレス加工を行い緻密化した。正極合剤層が基材から剥離するまで加工を行い、扁平複合正極材を得る。この材料にボールミル粉砕を行い、粒径5−10μmの扁平複合正極材粒子とした。この扁平複合正極材は、二次粒子のアスペクトレシオが3.1であった。
【0104】
実施例7と同様に、上記複合正極材粒子とオリビン正極材(1),導電材及びバインダでスラリーを作製し、これをアルミ集電体上に合剤層を塗布して乾燥した後に1.5ton/cm2の圧力でプレス加工を行い、電極密度が1.6g/cm3の扁平複合材正極を得た。局所的に密度が高い箇所が存在するが、アスペクトレシオが高すぎるため正極全体の電極密度を高くすることができなかった。実施例1と同様にX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、4.1であった。
【0105】
得られた正極の試験電池評価を実施例1と同様に行った結果、電極密度が低いため電極抵抗は44Ωで高抵抗であった。
【実施例9】
【0106】
オリビン正極材(9)を用い、実施例1と同様の方法で正極板を作製した。正極板7の電極の密度は、1.81g/cm3とした。正極板7のX線回折を行い、(020)/(101)ピーク強度比を算出した結果、3.6であった。
【0107】
実施例1と同様の試験用電池を作製し、開回路電圧3.42Vの電極抵抗を算出した結果、29Ωで低抵抗であった。実施例9の正極材を適用しても、高出力の二次電池を提供することが可能である。
【0108】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0109】
本実施例のリチウム二次電池用の正極材は電極抵抗が低く、二次電池の高出力化に寄与する。したがって、ハイブリッド車の車載用二次電池や、工具用二次電池などの、高出力が必要とされる製品に好適である。
【符号の説明】
【0110】
1 高密度扁平状活物質
2 合剤層
3 アルミ集電体
7 正極板
8 負極板
9 セパレータ
10 電池缶
11 負極板リード片
12 密閉蓋部
13 正極板リード片
14 絶縁板
15 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合材層を有するリチウムイオン二次電池用の正極であって、
前記正極合材層は、化学式LiaxPO4(0<a≦1.2,0.9≦x≦1.1,MはFe,Mnのいずれかを含む遷移金属)で表されるオリビン構造を有する複合酸化物に炭素が被覆された正極材と、導電材と、バインダとを含み、
前記正極のX線回折測定における(020)面と(101)面の回折ピーク強度比(I(020)/I(101))が、3.55以上4.2以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記回折ピーク強度比I(020)/I(101)が3.8以上4.2以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極材の比表面積が10−30m2/gであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極材の一次粒子径が20〜200nmであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極材の一次粒子のb軸方向厚みに対するa軸或いはc軸方向の長さの比が1.2以上2.5以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極材の一次粒子のb軸方向厚みに対するa軸或いはc軸方向の長さの比が2.1以上2.5以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項7】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極の密度が1.81g/cm3以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極
【請求項8】
請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極材は、炭素材で被覆されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
リチウムイオンを吸蔵,放出する正極及び負極と、非水溶媒を用いた電解液を備えた二次電池であって、
前記正極は、請求項1ないし8のいずれかに記載の正極であることを特徴とする二次電池。
【請求項10】
請求項9に記載された二次電池を、複数個用い、相互に電気的に接続して構成されていることを特徴とする電池モジュール。
【請求項11】
化学式LiaxPO4(0<a≦1.2,0.9≦x≦1.1,MはFe,Mnのいずれかを含む遷移金属)で表されるオリビン構造を有する複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、
前記複合酸化物と、導電材と、バインダとを混合し、複合正極材を構成し、
前記複合正極材と、追加の正極材,導電材及びバインダとを混合して正極合材スラリーを構成し、
前記正極合材スラリーを集電体上に塗布することを特徴とする二次電池用正極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−76820(P2011−76820A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225946(P2009−225946)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】