説明

リチウム二次電池

【課題】高温保存時におけるNi系正極の表面からのガスの発生を抑制するとともに、電池性能の低下を抑制する。
【解決手段】組成式LiNi1−y(ただし、0≦x≦1.2、0≦y<0.5であり、Mは、Al、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素である。)で表わされる正極活物質を用い、この正極活物質の表面をACO及びAOH(ただし、Aはアルカリ金属である。)のうち少なくとも一種以上の化合物で被覆し、この化合物の表面をスルホ基、又はスルホ基及びカルボキシル基を含むポリマーで被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度が高く、その特性を生かしてノートパソコンや携帯電話などに広範に利用されている。近年では、二酸化炭素の増加に伴う地球温暖化防止の観点から、電気自動車への関心が高まり、その電源としてもリチウム二次電池の適用が検討されている。
【0003】
ノートパソコンなどの携帯機器用のリチウム二次電池の場合、より一層の大容量化が求められる。そのような背景の下、電池の大容量化のための開発が鋭意進められている。
【0004】
リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む。
【0005】
正極は、正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極材料をアルミニウム製の集電体に塗布して形成されている。また、負極は、負極活物質、導電材及びバインダーを含む負極材料を銅製の集電体に塗布して形成されている。
【0006】
リチウム二次電池の大容量化は、例えば、正極及び負極の単位面積あたりの塗布量を多くすることにより達成することができる。しかし、塗布量を増やしすぎると、内部抵抗が増加し、電池性能を低下させる原因となる。また、正極及び負極は、正極と負極との間にセパレータをはさみ、巻回して電池缶に挿入して使用するが、塗布量が増加すると電極に破断が起こり、生産性が低下する。そのため、電池の大容量化のためには、正極活物質及び負極活物質自体の大容量化が必須である。
【0007】
従来、正極活物質には、LiCoOが多く用いられている。しかし、4.3V〜3.0Vの電位範囲で充放電可能な正極単極の容量は、150mAh/g程度と低いため、更なる大容量化のためには、材料自体の改良が必要である。一方、正極活物質において、LiCoOのCoの代わりに、NiやMnなどを用いることも可能である。Niを用いたLiNiOは、4.3V〜3.0Vの電位範囲で200mAh/g程度の容量が得られるため、正極の大容量化のためには有効である。
【0008】
しかし、LiNiOは、熱安定性が低いため、Niと他の金属、例えば、Co、Mn、Alなどの金属を合わせて用い、正極の熱安定性を向上させる試みも行われている。例えば、金属にNi、Co及びAlを用いたLNCAO正極活物質や、Ni、Mn及びCoを用いたLNMCO正極活物質が開発されている。以下、正極活物質(LiNi1−y)において、0≦y<0.5のものを、Ni系正極と表記する。
【0009】
しかし、Ni系正極を使用した電池は、高温で放置した場合に、ガスが発生して電池缶が膨れる問題がある。ガス発生の要因は、第一に電解液の分解が考えられている(非特許文献1)。
【0010】
また、Ni系正極は、それ自体の反応性が高く、大気中の二酸化炭素や水の影響を受け、表層にLiCOなどが生成する。そのLiCOと、電解質塩が分解して生成したフッ化水素とが反応することによりガスが発生する(非特許文献2)。
【0011】
電池の内部でガスが発生すると、電池が膨張し、安全性を確保することが難しくなる。また、この問題は、円筒形電池に比べ、角型の電池で顕著に表れるため、角型電池にNi系正極を適用するには、ガス発生量をより一層低下させる必要がある。
【0012】
ガス発生の原因は、正極において電解液と正極活物質とが接することによって起こるため、正極表面を被覆し、正極の反応性を低下させることが有効と考えられる。
【0013】
特許文献1には、正極活物質であるリチウム−鉄複合硫化物を大気中に存在する水分などから保護するため、表面をエチルセルロースで被覆する技術が開示されている。
【0014】
特許文献2には、正極にLiCoOを用い、負極にケイ素を用いたリチウム二次電池において、電池の充放電効率を向上させる目的で、電解液にスルホン酸イオン基を有するモノマーを添加する技術が開示されている。また、特許文献2には、スルホン酸イオン基を有する高分子化合物よりなる被覆を設けた電極が開示されている。
【0015】
特許文献3には、正極または非水電解質に、分子中に炭素−炭素不飽和結合を有し、かつ13族、14族または15族の元素Mと酸素(O)との単結合または二重結合を有し、スルホ基を有する被膜形成化合物が添加されているリチウム二次電池が開示されている。
【0016】
特許文献4には、正極活物質の表面に、ルイス塩基として働く官能基を有するポリマーであるポリカチオンと、ルイス酸として働く官能基を有し、カルボキシル基、スルホ基を有するポリマーであるポリアニオンとが形成されたリチウム二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005−267853号公報
【特許文献2】特開2007−42387号公報
【特許文献3】特開2008−146862号公報
【特許文献4】特開2004−171907号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Journal of Power Sources、Volume 132、Issues 1−2、20 May 2004、Pages 201−205
【非特許文献2】Electrochemistry、Vol.71、No.12、pp.1162−1167(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1に記載されたエチルセルロースは、イオン導電性が低く、エチルセルロースで正極活物質を被覆すると内部抵抗が大きくなり、電池性能が低下する問題がある。
【0020】
特許文献2に記載されているように、電解液にモノマーを添加し、充放電時に皮膜を形成すると、モノマーが負極上でも反応し、高抵抗皮膜を形成するため、電池の内部抵抗が大きくなり、電池性能が低下する問題があった。
【0021】
上述のように、従来技術を用いてNi系正極を被覆したとしても、電池性能が低下するため適用が困難であった。
【0022】
本発明の目的は、高温保存時におけるNi系正極の表面からのガスの発生を抑制するとともに、電池性能の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のリチウム二次電池用正極材料は、組成式LiNi1−y(ただし、0≦x≦1.2、0≦y<0.5であり、Mは、Al、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素である。)で表わされる正極活物質の表面をACO及びAOH(ただし、Aはアルカリ金属である。)のうち少なくとも一種以上の化合物で被覆し、前記化合物の表面をスルホ基、又はスルホ基及びカルボキシル基を含むポリマーで被覆したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電池性能を低下させることなく、高温保存時のガス発生抑制を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例のリチウム二次電池用正極材料を示す模式断面図である。
【図2A】実施例のリチウム二次電池を示す上面図である。
【図2B】実施例のリチウム二次電池を示す部分断面図である。
【図3】図2A及び2Bに示すリチウム二次電池の斜視図である。
【図4】実施例1におけるポリマー(1)のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例2におけるポリマー(2)のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例1における正極活物質(1)のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2における正極活物質(2)のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例1におけるラミネート電池の正極のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例2におけるラミネート電池の正極のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図10】比較例1における正極活物質のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【図11】比較例1におけるラミネート電池の正極のTOF−SIMSによる測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者は、鋭意検討した結果、Ni系正極(Ni系正極活物質)を分子内にスルホ基、またはスルホ基とカルボキシル基とを有するポリマーで被覆することにより、高温保存時におけるガスの発生を抑制することができることを見出した。また、本発明で見出したポリマー型被覆材は、リチウム二次電池(以下、リチウム電池とも、単に電池とも呼ぶ。)の性能を低下させることがほとんどないことが分かった。
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用正極材料について説明する。
【0028】
前記リチウム二次電池用正極材料の被覆材として用いるポリマーは、ポリマーの分子内にスルホ基、またはスルホ基およびカルボキシル基を有するものである。
【0029】
スルホ基およびカルボキシル基の対イオンとしては、水素、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が挙げられる。
【0030】
アルカリ金属としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。アルカリ土類金属としては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンが挙げられる。電池性能を低下させない観点からは、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンが好ましく、リチウムイオン及びナトリムイオンが特に好ましい。
【0031】
スルホ基およびカルボキシル基の末端の一部は、アルキル基で置換されていてもよい。すなわち、硫酸エステル又はカルボン酸エステルであってもよい。アルキル基は、炭素数10以下であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0032】
また、前記リチウム二次電池用正極材料の被覆材として用いるポリマーは、飛行時間型二次イオン質量分析計(Time−of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometer:TOF−SIMS)で、質量数64のSOおよび質量数80のSOに由来するシグナルが、少なくとも一つ以上観測されることを特徴とする。
【0033】
分子内にスルホ基を有するポリマーの製造方法は、分子内に重合性官能基を有し、なおかつスルホ基を有するモノマーをラジカル重合することにより、製造することができる。
【0034】
分子内にスルホ基とカルボキシル基とを有するポリマーにおいては、分子内に重合性官能基及びスルホ基を有するモノマーと、分子内に重合性官能基及びカルボキシル基を有するモノマーとを混合し、重合することにより製造できる。また、分子内にスルホ基を有するポリマーと、分子内にカルボキシル基を有するポリマーをそれぞれ合成した後、2種類のポリマーを混合して用いてもよい。
【0035】
重合性官能基としては、重合反応を起こすものであれば特に限定はされないが、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの不飽和二重結合を有する有機基が好適に用いられる。
【0036】
重合は、従来から知られているバルク重合、溶液重合及び乳化重合のいずれによっても良い。また、重合方法は、特に限定はされないが、ラジカル重合が好適に用いられる。重合に際しては、重合開始剤を用いても用いなくても良く、取り扱いの容易さの点からはラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。
【0037】
ラジカル重合開始剤を用いた重合方法は、通常行われている温度範囲および重合時間で行うことができる。電気化学デバイスに用いられる部材を損なわない目的から、分解温度および速度の指標である10時間半減期温度範囲として、30〜90℃のラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。ここで、10時間半減期温度とは、ベンゼン等のラジカル不活性溶媒における初期濃度が0.01モル/リットルである場合に未分解のラジカル重合開始剤の量が10時間で1/2となるために必要な温度をいう。
【0038】
重合開始剤の配合量は、重合性化合物に対して0.1〜20wt%であり、好ましくは0.3〜5wt%である。
【0039】
ラジカル重合開始剤としては、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ヘキシルペルオキシピバレート、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1、1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、2、2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、n−ブチル−4、4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、2、5−ジメチルヘキサン−2、5−ジハイドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α、α’−ビス(t−ブチルペルオキシm−イソプロピル)ベンゼン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシプロピルカーボネート等の有機過酸化物や、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、1、1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2、4−ジメチル−バレロニトリル、2、2−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−ヒドロキシフェニル]−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(4、5、6、7−テトラヒドロ−1H−1、3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(3、4、5、6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3、4、5、6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2、2’−アゾビス{2−メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス{2メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2、2’−アゾビス(2、4、4−トリメチルペンタン)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル、2、2’−アゾビスイソブチレート、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2、2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ化合物が挙げられる。
【0040】
正極活物質をポリマーで被覆する方法としては、ポリマーを溶媒に溶解し、ポリマー溶液に正極活物質を加え、その後、溶媒を除去することにより被覆することが望ましい。
【0041】
ここで用いる溶媒は、ポリマーが溶解するものであれば問わないが、コストの観点から、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドンなどが好適に用いられる。また、Ni系正極とポリマー溶液とを混合し、スプレードライ法で被覆してもよい。
【0042】
ポリマーの被覆量は、正極活物質に対して0.001〜10wt%である。好ましくは、0.01〜1wt%であり、特に好ましくは0.05〜0.5wt%である。ポリマーの被覆量が少なすぎると、高温保存時のガス発生抑制効果が低くなり、また、被覆量が多いと、電池性能が低下する。
【0043】
前記リチウム二次電池用正極材料の正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであり、LiNi1−yの組成式で表わされることを特徴とする。xは、0≦x≦1.2、yは0≦y<0.5であり、Mは、Al、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む。また、Mは、Mn、Co又はAlが好適に用いられる。
【0044】
Ni系正極(Ni系正極活物質)において、正極の表面をLiCOなどの炭酸塩やLiOHなどの水酸化物で被覆することが望ましい。炭酸塩及び水酸化物は、アルカリ金属の炭酸塩や水酸化物であってもよい。正極活物質を被覆する炭酸塩や水酸化物は、Ni系正極を保護してNi系正極がLiCO等に変化することを抑制する。さらに、上記の炭酸塩や水酸化物は、正極活物質の代わりに、電解質塩の分解により生成したフッ化水素と反応するため、正極活物質の消耗を抑制することができる。この結果として、電池性能の低下を抑制することができる。
【0045】
通常、Ni系正極において、正極の表層にLiCOなどの炭酸塩やLiOHなどの水酸化物が存在すると、ガス発生の原因になるが、上記のポリマーで被覆することにより、正極の表層に炭酸塩や水酸化物が存在しても、ガス発生抑制効果が発現する。
【0046】
負極活物質は、天然黒鉛、石油コークス、石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で熱処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素又は炭素繊維、又はリチウムと合金化する金属、炭素粒子表面に金属を担持した材料等が用いられる。例えば、リチウム、銀、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム及びマグネシウムよりなる群から選ばれた金属あるいは合金である。これらの金属又はこれらの金属の酸化物を負極活物質として利用できる。さらに、チタン酸リチウムを用いることもできる。
【0047】
電解液は、非水溶媒に支持電解質を溶解させたものである。
【0048】
非水溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、次に挙げるものが好ましい。ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、テトロヒドロフラン、ジメトキシエタン等の有機溶媒、これらを一種以上混合したものである。
【0049】
また、上記の電解液には、ビニレンカーボネートなどの分子内に不飽和二重結合を有する化合物や、シクロヘキシルベンゼンやビフェニルなどの芳香族化合物を添加してもよい。また、分子内に硫黄、窒素などのヘテロ元素を含む有機化合物を添加してもよい。
【0050】
支持電解質は、非水溶媒に可溶なものならば特に問わないが、以下に挙げるものが好ましい。すなわち、LiPF、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiClO、LiBF、LiAsF、LiI、LiBr、LiSCN、Li10Cl10、LiCFCOなどの電解質塩、これらを一種以上混合したものである。
【0051】
セパレータとしては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどのポリマーで形成されたものや、繊維状のガラス繊維を用いたガラスクロスを用いることができる。これらは、リチウム電池に悪影響を及ぼさない補強材であれば材質を問わないが、ポリオレフィンが好適である。
【0052】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、それらのフィルムを重ね合わせて使用することもできる。
【0053】
また、セパレータの通気度(sec/100mL)は、10〜1000であり、好ましくは50〜800であり、特に好ましくは90〜700である。
【0054】
電池の形状は、外部との接触を避けるものであればどのようなものでもよく、例えば、円筒型や角型が挙げられる。角型電池は、電池の内部でガスが発生すると、円筒型電池よりも電池の膨れが顕著に表れるため、前記リチウム二次電池用正極材料は、角型電池において特に有効である。
【0055】
以下、実施例の正極、負極及び電池について更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
図1は、実施例のリチウム二次電池用正極材料を示す模式断面図である。
【0057】
本図において、リチウム二次電池用正極材料は、粒子状の正極活物質201の表面をアルカリ金属の炭酸塩又は水酸化物を含む無機化合物202で被覆し、無機化合物202の表面をスルホ基、又はスルホ基及びカルボキシル基を含むポリマー203で被覆したものである。
【0058】
図2A、2B及び図3を用いてリチウム二次電池について説明する。
【0059】
図2Aは、実施例のリチウム二次電池を示す上面図である。図2Bは、実施例のリチウム二次電池を示す部分断面図である。図3は、図2A及び2Bに示すリチウム二次電池の斜視図である。
【0060】
図2A、図2B及び図3において、巻回電極体6は、負極1と、正極2と、負極1及び正極2に挟まれたセパレータ3とを渦巻状に巻回し、扁平状になるように加圧して形成したものである。そして、巻回電極体6は、角形の電池ケース4に電解液と共に収容されている。ただし、図2A及び2Bにおいては、煩雑化を避けるため、負極1及び正極2の作製において使用した集電体としての金属箔や電解液などは図示していない。
【0061】
電池ケース4は、アルミニウム合金製で電池の外装材を構成するものであり、正極端子を兼ねている。そして、電池ケース4の底部には、ポリエチレンシートで形成された絶縁体5が配置してあり、扁平状の巻回電極体6からは、負極1及び正極2のそれぞれ一端に接続された負極リード体7及び正極リード体8が引き出されている。
【0062】
また、電池ケース4の開口部には、アルミニウム合金製の封口用蓋板9が挿入されている。電池ケース4と封口用蓋板9との接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口されている。アルミニウム合金製の封口用蓋板9には、ポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11にステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。リード板13には、負極リード体7が溶接されている。封口用蓋板9とリード板13との間には、溶接絶縁体12が設けてある。リード板13を介して負極リード体7と端子11とを導通させることにより、端子11が負極端子として機能するようにしている。
【0063】
一方、正極リード体8は、封口用蓋板9に直接溶接することにより、電池ケース4及び封口用蓋板9が正極端子として機能するようにしている。
【0064】
なお、電池ケース4の材質などによっては、負極1及び正極2を導通させる部材を交換してもよい。すなわち、負極リード体7を封口用蓋板9に直接溶接し、正極リード体8をリード板13に溶接してもよい。
【0065】
封口用蓋板9には、電解液注入口14が設けられており、この電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。(したがって、図2A、図2B及び図3の電池において、実際には、電解液注入口14は、電解液注入口であり、かつ、封止部材であるが、説明を容易にするために、電解液注入口14として示している。)さらに、封口用蓋板9には、防爆ベント15が設けられている。
【0066】
表1は、実施例及び比較例についてまとめたものである。
【0067】
【表1】

【0068】
<正極活物質の作製方法>
まず、NiSO水溶液に所定量のCoおよびAlの硫酸塩を加えた。その溶液に水酸化ナトリウムの水溶液を滴下して、Ni0.74Co0.20Al0.06(OH)を作製した。その後、水酸化物を採取し、水洗後、乾燥させた。乾燥させた水酸化物を大気中において610℃で加熱して、Ni0.74Co0.20Al0.06を合成した。合成したNi0.74Co0.20Al0.06に水酸化リチウムを、Ni、CoおよびAlの原子数の和とLiの原子数との比率が1.05よりもわずかに多くなるように加え、乾燥空気中において780℃で加熱することにより、化合物Li1.01Ni0.74Co0.20Al0.06を合成した。
【0069】
ここで、この化合物の組成は、実際に混合した原料物質に含まれる元素の組成比を表している。
【0070】
この化合物を、X線光電子分光(XPS)で分析したところ、正極活物質の表面にLiOHおよびLiCOが生成していることを確認した。
【0071】
この結果から、原料として混合したLiの一部が水酸化物及び炭酸塩となっていることがわかる。したがって、合成された化合物の内部におけるLiの組成は1.0に近いものと考えられる。
【0072】
以上のことを考慮して、上記の化合物の組成、すなわち、後述の実施例で用いる正極活物質の組成は、LiNi0.74Co0.20Al0.06と表記することにする。
【0073】
<正極の作製方法>
正極活物質、導電剤(黒鉛:日本黒鉛工業(株)製、SP270)及びバインダー(ポリフッ化ビニリデン:(株)クレハ製、KF1120)を重量比85:10:10で混合して正極合剤とし、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに投入混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。正極合剤の塗布量は、200g/m であった。その後、プレスし、10cmの大きさに電極を裁断して正極を作製した。
【0074】
<負極の作製方法>
グラファイトを重量比90:10で混合して負極合剤とし、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに投入混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmの銅箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。負極合剤のかさ密度が1.0g/cmになるようにプレスし、10cmの大きさに電極を裁断して正極を作製した。
【0075】
<ラミネート電池の作製方法>
正極と負極との間に、ポリオレフィン製のセパレータを挿入し、電極群を形成した。そこに電解液を注液した。その後、電池をアルミ製ラミネートで封入し、電池を作製した。その後、充放電を3サイクル繰り返すことにより電池を初期化した。
【0076】
<電池の評価方法>
1.電池の初期容量
電池の充電は、予め設定した上限電圧まで電流密度0.1mA/cmで充電した。放電は、予め設定した下限電圧まで、電流密度0.1mA/cmで放電した。上限電圧は4.2V、下限電圧は2.5Vであった。1サイクル目に得られた放電容量を、電池の初期容量とした。
【0077】
2.電池性能試験(サイクル評価)
作製した電池は、電圧範囲4.2V〜2.5V、電流密度0.1mA/cmで充放電した。この条件で充放電を繰り返してサイクル評価を実施した。サイクル評価は、50サイクル行い、50サイクル後の容量を初期容量で割ることにより、容量維持率を算出した。
【0078】
2.高温保存試験
別途、ラミネート電池を作製し、初期化した。その電池を、4.2Vに充電した。その後、85℃の恒温槽に入れて24時間保存した。24時間保存した後、電池を取り出し、電池を室温まで冷却し、発生したガスをシリンジで捕集した。
【0079】
3.角型電池評価
モデルセルと同様に角型電池を作製した。角型電池のサイズは、縦43mm、横34mm、厚さ4.6mmであった。作製した電池は、4.2Vに充電した後、85℃の恒温槽に入れて24時間保存した。その後、室温まで冷却し、電池の厚さを測定した。電池の厚さは、電池の中心点で測定し、加熱前後の電池の厚さから電池の膨れを算出した。
【0080】
<ポリマーの合成法>
モノマーを反応容器に入れ、重合開始剤を加えた。重合開始剤は、AIBNを用いた。重合開始剤の濃度は、モノマーの総量に対し1wt%になるように加えた。その後、60℃に加熱したオイルバスに反応容器を入れ、3時間加熱することによりポリマーを合成した。加熱した後、反応溶媒を除去し、ポリマーを洗浄した後、乾燥した。
【0081】
<TOF−SIMSによる分析>
TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析計:Time−of−Flight Secondary Ion Mass Spectometer)は、アルバック・ファイ(株)製のTRIFT(III)を使用した。測定において、一次イオンはAuを使用した。
【実施例1】
【0082】
ビニルスルホン酸ナトリウム(13g)及びアクリル酸ナトリウム(85g)を用いてポリマー(1)を合成した。ポリマー(1)をTOF−SIMSで測定したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した(図4)。
【0083】
また、精製後、ポリマー(1)の赤外吸収スペクトルを測定したところ、二重結合に由来する1640cm−1付近のシグナルは観測されなかった。このことから、ポリマー(1)にはモノマーが含まれないことが確認できた。
【0084】
精製したポリマー(1)10mgを100gの水に溶解させた。その後、10gの正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)をポリマー(1)の水溶液に加えた。その後、95℃に加熱したオイルバスで水を蒸発させ、ポリマー(1)で正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(1)と呼ぶ。)。
【0085】
正極活物質(1)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した(図6)。このことから、正極活物質(1)は、ポリマー(1)により被覆されていることが確認できた。
【0086】
正極活物質(1)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は96%であった。
【0087】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した(図8)。このことから、電池を評価した後でも、正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0088】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.065mLであった。
【0089】
次に、正極活物質(1)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、850mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.10mmであった。
【実施例2】
【0090】
ビニルスルホン酸ナトリウム(130g)を用いてポリマー(2)を合成した。ポリマー(2)をTOF−SIMSで測定したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した(図5)。
【0091】
また、精製後、ポリマー(2)の赤外吸収スペクトルを測定したところ、二重結合に由来する1640cm−1付近のシグナルは観測されなかった。このことから、ポリマー(2)にはモノマーが含まれないことが確認できた。
【0092】
精製したポリマー(2)10mgを100gの水に溶解させた。その後、10gの正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)をポリマー(2)の水溶液に加えた。その後、95℃に加熱したオイルバスで水を蒸発させ、ポリマー(2)で正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(2)と呼ぶ。)。
【0093】
正極活物質(2)を、TOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した(図7)。このことから、正極活物質が、ポリマー(2)により被覆されていることが確認できた。
【0094】
正極活物質(2)を用い、電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は96%であった。
【0095】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した(図9)。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0096】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.070mLであった。
【0097】
次に、正極活物質(2)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、850mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.13mmであった。
【実施例3】
【0098】
ビニルスルホン酸ナトリウム(91g)及びアクリル酸ナトリウム(28g)を用いてポリマー(3)を合成した。ポリマー(3)をTOF−SIMSで測定したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。精製後、ポリマー(3)の赤外吸収スペクトルを測定したところ、二重結合に由来する1640cm−1付近のシグナルは観測されなかった。このことから、ポリマー中にはモノマーが存在しないことが確認できた。
【0099】
精製したポリマー(3)10mgを100gの水に溶解させた。その後、10gの正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)をポリマー(3)の水溶液に加えた。その後、95℃に加熱したオイルバスで水を蒸発させ、ポリマー(3)で正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(3)と呼ぶ。)。
【0100】
正極活物質(3)を、TOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質が、ポリマー(3)により被覆されていることが確認できた。
【0101】
正極活物質(3)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は96%であった。
【0102】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0103】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.075mLであった。
【0104】
次に、正極活物質(3)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、850mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.18mmであった。
【実施例4】
【0105】
ポリマー(1)を5mgにすること以外は、実施例1と同様に正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(4)と呼ぶ。)。正極活物質(4)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質が、ポリマー(1)により被覆されていることが確認できた。
【0106】
正極活物質(1)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は95%であった。
【0107】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0108】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.073mLであった。
【0109】
次に、正極活物質(1)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、850mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.18mmであった。
【実施例5】
【0110】
ポリマー(1)を50mgにすること以外は、実施例1と同様に正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(5)と呼ぶ。)。正極活物質(5)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質がポリマー(1)により被覆されていることが確認できた。
【0111】
正極活物質(5)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は31mAhであり、容量維持率は95%であった。
【0112】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0113】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.077mLであった。
【0114】
次に、正極活物質(5)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、831mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.20mmであった。
【実施例6】
【0115】
ポリマー(1)を1mgにすること以外は、実施例1と同様に正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(6)と呼ぶ。)。正極活物質(6)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質がポリマー(1)により被覆されていることが確認できた。
【0116】
正極活物質(6)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は95%であった。
【0117】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0118】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.093mLであった。
【0119】
次に、正極活物質(6)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、849mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.32mmであった。
【実施例7】
【0120】
ポリマー(1)を100mgにすること以外は、実施例1と同様に正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(7)と呼ぶ。)。正極活物質(6)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質がポリマー(1)により被覆されていることが確認できた。
【0121】
正極活物質(7)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は30mAhであり、容量維持率は94%であった。
【0122】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0123】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.090mLであった。
【0124】
次に、正極活物質(7)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、790mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.31mmであった。
【実施例8】
【0125】
ポリマー(1)を1gにすること以外は、実施例1と同様に正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(8)と呼ぶ。)。正極活物質(8)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質がポリマー(1)により被覆されていることが確認できた。
【0126】
正極活物質(8)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は29mAhであり、容量維持率は85%であった。
【0127】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0128】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.120mLであった。
【0129】
次に、正極活物質(7)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、760mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.40mmであった。
【実施例9】
【0130】
ビニルスルホン酸ナトリウム(13g)及びメチルメタクリレート(90g)を用いて、ポリマー(4)を合成した。ポリマー(4)をTOF−SIMSで測定したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。精製後、ポリマー(4)の赤外吸収スペクトルを測定したところ、二重結合に由来する1640cm−1付近のシグナルは観測されなかった。このことから、ポリマー(4)にはモノマーが含まれないことが確認できた。
【0131】
精製したポリマー(4)10mgを100gの水に溶解させた。その後、10gの正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)をポリマー(4)の水溶液に加えた。その後、95℃に加熱したオイルバスで水を蒸発させ、ポリマー(4)で正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(9)と呼ぶ。)。正極活物質(9)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質がポリマー(4)により被覆されていることが確認できた。
【0132】
正極活物質(9)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は96%であった。
【0133】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0134】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.090mLであった。
【0135】
次に、正極活物質(1)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、846mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.31mmであった。
【実施例10】
【0136】
ビニルスルホン酸ナトリウム(65g)及びメチルメタクリレート(50g)を用いてポリマー(5)を合成した。ポリマー(5)をTOF−SIMSで測定したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。精製後、ポリマー(5)の赤外吸収スペクトルを測定したところ、二重結合に由来する1640cm−1付近のシグナルは観測されなかった。このことから、ポリマー(5)にはモノマーが含まれないことが確認できた。
【0137】
精製したポリマー(5)10mgを100gの水に溶解させた。その後、10gの正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)をポリマー(5)の水溶液に加えた。その後、95℃に加熱したオイルバスで水を蒸発させ、ポリマー(5)で正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(10)と呼ぶ。)。正極活物質(10)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、正極活物質がポリマー(5)により被覆されていることが確認できた。
【0138】
正極活物質(10)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は95%であった。
【0139】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0140】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.095mLであった。
【0141】
次に、正極活物質(1)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、846mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは1.35mmであった。
【実施例11】
【0142】
実施例1の正極活物質(1)の代わりにLiNi0.33Co0.33Mn0.33(Ni:33%)を用いてラミネート電池を作製し、高温保存試験におけるガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.070mLであった。
【実施例12】
【0143】
実施例1の正極活物質(1)の代わりにLiNi0.40Co0.30Mn0.30(Ni:40%)を用いてラミネート電池を作製し、高温保存試験におけるガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.080mLであった。
【実施例13】
【0144】
実施例1の正極活物質(1)の代わりにLiNi0.50Co0.25Mn0.25(Ni:50%)を用いてラミネート電池を作製し、高温保存試験におけるガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は1.50mLであった。
【0145】
(比較例1)
実施例1において、ポリマーを加えずに作製した正極活物質を用いて正極を作製した。
【0146】
本比較例における正極活物質をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルは観測されなかった(図10)。
【0147】
その後、その正極を用いてラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は32mAhであり、容量維持率は95%であった。
【0148】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSによる分析を行った。SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)は観測されなかった(図11)。
【0149】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.300mLであった。
【0150】
次に、ポリマーで被覆していない正極活物質を用いて角型電池を試作した。電池容量は、850mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは3.10mmであった。
【0151】
(比較例2)
被覆材としてエチルセルロース10mgを100gの水に溶解した。つぎに、10gの正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)をエチルセルロースの水溶液に加えた。その後、95℃に加熱したオイルバスで水を蒸発させ、ポリマーであるエチルセルロースで正極活物質を被覆した(以下、正極活物質(11)と呼ぶ。)。
【0152】
正極活物質(11)をTOF−SIMSで分析したところ、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルは観測されなかった。
【0153】
正極活物質(11)を用いて電極を作製し、その後、ラミネート型電池を作製した。電池の初期容量は30mAhであり、容量維持率は80%であった。
【0154】
電池を評価した後、電池を解体して正極を取り出し、TOF−SIMSの分析をした。その結果、SO(質量数:64)およびSO(質量数:80)のシグナルを観測した。このことから、電池を評価した後でも正極がポリマーにより被覆されていることが確認できた。
【0155】
その後、高温保存試験用に、別途、ラミネート電池を作製し、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果、ガス発生量は0.310mLであった。
【0156】
次に、正極活物質(1)を用いて角型電池を試作した。電池容量は、790mAhであった。その後、加熱試験を実施したところ、電池の膨れは3.21mmであった。
【0157】
(比較例3)
実施例3において、ビニルスルホン酸ナトリウム(モノマー(1))をあらかじめ重合させることなく、水溶液にし、モノマー(1)で正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)を被覆し、ラミネート電池を作製した。モノマー(1)の添加量は、正極活物質の重量に対して0.1wt%にした。電池の初期容量は21mAhであり、容量維持率は30%であった。また、ラミネート電池が大きく膨らんだため、以後の評価は実施しなかった。
【0158】
(比較例4)
実施例1において、ビニルスルホン酸ナトリウム(モノマー(1))及びアクリル酸ナトリウム(モノマー(2))をあらかじめ重合させることなく、水溶液にし、モノマー(1)及びモノマー(2)で正極活物質(LiNi0.74Co0.20Al0.06)を被覆し、ラミネート電池を作製した。添加量は、正極活物質の重量に対して0.1wt%にした。電池の初期容量は25mAhであり、容量維持率は25%であった。また、ラミネート電池が大きく膨らんだため、以後の評価は実施しなかった。
【符号の説明】
【0159】
1:負極、2:正極、3:セパレータ、4:電池ケース、5:絶縁体、6:巻回電極体、7:負極リード体、8:正極リード体、9:封口用蓋板、10:絶縁パッキング、11:端子、12:溶接絶縁体、13:リード板、14:電解液注入口、15:防爆ベント、201:正極活物質、202:無機化合物、203:ポリマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiNi1−y(ただし、0≦x≦1.2、0≦y<0.5であり、Mは、Al、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素である。)で表わされる正極活物質の表面をACO及びAOH(ただし、Aはアルカリ金属である。)のうち少なくとも一種以上の化合物で被覆し、前記化合物の表面をスルホ基、又はスルホ基及びカルボキシル基を含むポリマーで被覆したことを特徴とするリチウム二次電池用正極材料。
【請求項2】
飛行時間型二次イオン質量分析法により測定される前記ポリマーのシグナルは、質量数64のSO及び質量数80のSOに由来するシグナルのうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項3】
被覆に用いた前記ポリマーの量は、前記正極活物質に対して0.001〜10wt%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材料を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項5】
外形が角型であることを特徴とする請求項4記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−84420(P2012−84420A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230237(P2010−230237)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】