説明

リチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料及び非水電解質2次電池用正極の製造方法

【課題】遷移金属元素の酸化が抑制されたリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム源、遷移金属源およびシリコン源を用いて、微粒子混合物を合成する工程(a)と、前記微粒子混合物に炭素源と混合する工程(b)と、前記炭素源と混合した前記微粒子混合物を、金型に充填・加圧して圧粉体を作製する工程(c)と、前記圧粉体を不活性ガス充填雰囲気で焼成する工程(d)と、前記圧粉体を粉砕する工程(e)と、を具備することを特徴とするリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料の製造方法である。特に、前記工程(a)において、噴霧燃焼法を採用し、前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を、支燃性ガスと可燃性ガスとともに火炎中に供給して、微粒子混合物を合成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム遷移金属シリケートを含み、非水電解質2次電池の正極に用いられる正極活物質材料などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のモバイル化と高機能化に伴い、駆動電源である2次電池は最重要部品のひとつになっている。特に、Liイオン2次電池は、用いられる正極活物質材料と負極活物質材料の高い電圧から得られるエネルギー密度の高さから、従来のNiCd電池やNi水素電池に替わり、2次電池の主流の位置を占めるに至っている。しかしながら、現在、一般的に用いられる、コバルト酸リチウム(LiCoO)系正極活物質材料とカーボン系負極活物質材料の組み合わせによるLiイオン2次電池は、昨今の高機能高負荷電子部品の消費電力量を充分に供給することができず、携帯電源としては要求性能を満たすことができなくなっている。
【0003】
正極活物質材料の理論電気化学比容量は、一般に小さく、コバルト酸系リチウム以外で使用されているマンガン酸系リチウムやニッケル酸系リチウム、または次の実用化を目指し検討されるリン酸鉄系リチウムにしても、現在のカーボン系負極活物質材料の理論比容量よりも小さい値に止まる。しかし、年々性能を少しずつ向上させてきたカーボン系負極活物質材料も理論比容量に近付きつつあり、現用の正極と負極の活物質系統の組み合わせでは、もはや大きな電源容量の向上は見込めなくなってきており、今後の更なる電子機器の高機能化と長時間モバイル駆動化の要求や、採用が拡がる電動工具、無停電電源、蓄電装置などの産業用途、並びに電気自動車用途への搭載には限界が出ている。
【0004】
このような状況で、現状より飛躍的に電気容量を増加させ得る方法として、カーボン(C)系負極活物質材料にかわる金属系負極活物質材料の適用が検討されている。これは現行のカーボン系負極の数倍から十倍の理論比容量を有する、ゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)、シリコン(Si)系物質を負極活物質材料に用いるものであり、特にSiは、実用化が難しいとされる金属Liに匹敵する比容量を有するので、検討の中心となっている。
【0005】
しかしながら、組み合わされる他方の正極活物質材料側の比容量が低いために、Siの大きな理論比容量を、実際には実用電池で実現することはできないのが現状である。当面正極活物質材料に実用を検討されている、層状岩塩型またはスピネル型の複合酸化物の単位質量あたりの理論比容量は、せいぜい150mAh/gを超える程度であり、現行のカーボン系負極活物質材料の比容量の2分の1以下であり、Si理論比容量に対しては実に20分の1以下である。このため、正極活物質材料の高容量化を目指した物質系統の検討も必要である。新たな正極活物質材料の候補として、成分によっては従来の2倍の300mAh/gを超えると見込まれているリチウム遷移金属シリケート(ケイ酸遷移金属リチウムとも呼ばれる)系化合物の検討が始められている(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−266882号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】安富実希、外4名、「リチウムイオン電池用Li2−xM(SiO4)1−x(PO4)x (M=Fe,Mn)正極活物質の水熱反応による合成とその電気化学特性」、GS Yuasa Technical Report、株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション、平成21年6月26日、第6巻、第1号、p21〜26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、従来のケイ酸鉄リチウム系正極活物質材料では、初回充電容量に対して、初回放電容量が大きく、初回の充放電容量のバランスが悪いという問題点があった。
【0009】
仮に、正極活物質中のケイ酸鉄リチウムの鉄が全て二価であり、LiFeSiOのみで構成されていれば、初回充電容量と初回放電容量とが同じになるはずである。しかし、製造工程において鉄が酸化され、正極活物質材料に三価の鉄の化合物であるLiFeSiOが含まれることにより、充電前にはリチウムが含まれていなかったサイトにも、放電時にリチウムイオンが取り込まれ、初回充電容量に比べて初回放電容量が大きくなると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、遷移金属元素の酸化が抑制されたリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の発明者は、検討の結果、正極活物質材料の前駆体である微粒子混合物を焼成する際に、圧粉体の状態で焼成すると、粉末の状態で焼成する場合に比べて、焼成時の微粒子混合物の酸化が抑制され、酸化が抑制されたリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)リチウム源、遷移金属源およびシリコン源を用いて、微粒子混合物を合成する工程(a)と、前記微粒子混合物に炭素源を混合する工程(b)と、前記炭素源を混合した前記微粒子混合物を、金型に充填・加圧して圧粉体を作製する工程(c)と、前記圧粉体を不活性ガス充填雰囲気で焼成する工程(d)と、前記圧粉体を粉砕する工程(e)と、を具備することを特徴とするリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料の製造方法。
(2)前記工程(a)において、前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を、支燃性ガスと可燃性ガスとともに火炎中に供給して、微粒子混合物を合成することを特徴とする(1)に記載の正極活物質材料の製造方法。
(3)前記工程(a)において、前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を含む混合溶液を、霧状の液滴にて、前記火炎中に供給することを特徴とする(2)に記載の正極活物質材料の製造方法。
(4)前記工程(a)において、前記火炎の温度が1000〜3000℃であることを特徴とする(2)または(3)に記載の正極活物質材料の製造方法。
(5)前記工程(a)において、前記可燃性ガスが炭化水素系ガスであり、前記支燃性ガスが空気であることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかに記載の正極活物質材料の製造方法。
(6)前記工程(a)が、前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を含む混合溶液の霧状の液滴を加熱して、微粒子混合物を合成する工程であることを特徴とする(1)に記載の正極活物質材料の製造方法。
(7)前記リチウム源のリチウム化合物が、塩化リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、シュウ酸リチウム、ナフテン酸リチウム、リチウムエトキシド、酸化リチウム、過酸化リチウム、のいずれか一つ以上であり、前記遷移金属源の遷移金属化合物が、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属の塩化物、シュウ酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物、エチルヘキサン塩、ナフテン酸塩、ヘキソエートの塩、シクロペンタジエニル化合物、アルコキシド、有機酸金属塩(ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、アセチルアセトネート、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の塩)、酸化物のいずれか一つ以上であり、前記シリコン源のシリコン化合物が、四塩化ケイ素、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、二酸化ケイ素や一酸化ケイ素またはこれら酸化ケイ素の水和物、縮合ケイ酸、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン、TEOS)、テトラメチルオルトシリケート(テトラメトキシシラン、TMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルトリシロキサン(OMTSO)、テトラ−n−ブトキシシランのいずれか一つ以上であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の正極活物質材料の製造方法。
(8)前記炭素源が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の正極活物質材料の製造方法。
(9)前記工程(d)において、前記焼成が、不活性ガス充填雰囲気で、300〜900℃で0.5〜10時間の熱処理を実施することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の正極活物質材料の製造方法。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の正極活物質材料の製造方法により製造された正極活物質材料を含有するスラリーを作製する工程と、前記スラリーを集電体に塗布焼成する工程と、を具備することを特徴とする非水電解質2次電池用正極の製造方法。
(11)前記スラリーが、(1)〜(9)のいずれかに記載の正極活物質材料の製造方法により製造された正極活物質材料を加えて造粒した0.5〜20μmサイズの2次粒子を含有することを特徴とする(10)に記載の非水電解質2次電池用正極の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、遷移金属元素の酸化が抑制されたリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る微粒子混合物を生成するための噴霧燃焼法に用いる微粒子製造装置の概略図。
【図2】本発明に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池の概略断面図。
【図3】実施例及び比較例に係る微粒子混合物及び正極活物質材料のXRD測定結果。
【図4】(a)実施例1の焼成前の微粒子混合物の透過型電子顕微鏡(TEM)像、(b)実施例1の焼成後の正極活物質材料のTEM像、(c)比較例1の焼成後の正極活物質材料のTEM像。
【図5】(a)実施例1の焼成後の正極活物質材料のHAADF−STEM像、(b)同一の観察箇所における鉄原子のEDSマップ、(c)同一の観察箇所におけるシリコン原子のEDSマップ、(d)同一の観察箇所における酸素原子のEDSマップ。
【図6】(a)比較例1の焼成後の正極活物質材料のHAADF−STEM像、(b)同一の観察箇所における鉄原子のEDSマップ、(c)同一の観察箇所におけるシリコン原子のEDSマップ、(d)同一の観察箇所における酸素原子のEDSマップ。
【図7】(a)実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池の1サイクル目の充放電曲線、(b)同じく2サイクル目の充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る微粒子混合物や正極活物質材料などの好ましい実施態様を説明する。なお、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0016】
本発明の正極活物質材料は、粉体材料として得られ、提供される。さらに、正極活物質材料は、そのままの状態、または造粒処理してサイズを大きくした2次粒子にした状態で、分散剤や増粘剤または導電材等を所定割合加えた、水系溶媒または有機溶剤のスラリーとしても提供される。また、集電体基材上にこれらスラリーを塗布して正極活物質材料を皮膜状形成した電極形態としても提供される。そして、本発明における2次電池は、本発明の2次電池用正極を用い、公知の負極やセパレータ、電解液など他の構成材料と共に2次電池として組み立て、提供される。
【0017】
本発明に係る正極活物質材料は、同一反応系へ構成原料を供給することにより活物質前駆体である微粒子混合物を合成し、これを加熱処理することにより合成される。
【0018】
(噴霧燃焼法による微粒子混合物の製造方法)
噴霧燃焼法は、塩化物などの原料気体を供給する方法や、気化器を通して原料液体を供給する方法により、構成原料を火炎中へ供給し、構成原料を反応させ、目的物質を得る方法である。噴霧燃焼法として、VAD(Vapor−phase Axial Deposition)法などが好適な例として挙げられる。これらの火炎の温度は、可燃性ガスと支燃性ガスの混合比や、さらに構成原料の添加割合によって変化するが、通常1000〜3000℃の間にあり、特に1500〜2500℃程度であることが好ましい。
【0019】
また、火炎加水分解法は、火炎中で構成原料が加水分解される方法である。火炎加水分解法では、火炎として酸水素火炎が一般に用いられる。水素ガスと酸素ガスが供給された火炎の元に、正極活物質材料の構成原料と、火炎原料(酸素ガスと水素ガス)を同時にノズルから供給して目的物質を合成する。火炎加水分解法では、不活性ガス充填雰囲気中、ナノスケールの極微小な、主として非晶質からなる目的物質の微粒子を得ることができる。
【0020】
また、熱酸化法とは、火炎中で構成原料が熱酸化される方法である。熱酸化法では、火炎として炭化水素火炎が一般に用いられ、炭化水素ガス(例えばプロパンガス)と酸素ガス供給火炎の元に、構成原料と火炎原料(例えば、プロパンガスと酸素ガス)を同時にノズルから供給しながら目的物質を合成する。
【0021】
本発明の微粒子混合物を得るための構成原料は、リチウム源、遷移金属源、シリコン源である。例えば、リチウム源としてナフテン酸リチウム、遷移金属源としてのオクチル酸鉄、シリコン源としてオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)などの溶液が用いられる。原料が固体の場合は、粉末のまま供給するか、液体に分散して、または溶媒に溶かして溶液とし、気化器を通じて、火炎に供給する。原料が溶液の場合には、気化器を通じるほかに、供給ノズル前に加熱または減圧およびバブリングによって蒸気圧を高めて気化供給することもできる。
【0022】
リチウム源としては、塩化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウムなどのリチウム無機酸塩、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、ナフテン酸リチウムなどのリチウム有機酸塩、リチウムエトキシドなどのリチウムアルコキシド、リチウムのβ―ジケトナト化合物などの有機リチウム化合物、酸化リチウム、過酸化リチウム、などを用いることができる。なお、ナフテン酸とは、主に石油中の複数の酸性物質が混合した異なるカルボン酸の混合物で、主成分はシクロペンタンとシクロヘキサンのカルボン酸化合物である。
【0023】
遷移金属源としては、塩化第二鉄、塩化マンガン、四塩化チタン、塩化バナジウムなどの各種遷移金属の塩化物、シュウ酸鉄、シュウ酸マンガンなど遷移金属のシュウ酸塩、酢酸マンガンなどの遷移金属の酢酸塩、硫酸第一鉄や硫酸マンガンなどの遷移金属の硫酸塩、硝酸マンガンなどの遷移金属の硝酸塩、オキシ水酸化マンガンや水酸化ニッケルなど遷移金属の水酸化物、2−エチルヘキサン酸第二鉄、2−エチルヘキサン酸第二マンガンなどの遷移金属のエチルヘキサン酸塩(オクチル酸塩とも呼ばれる)、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ナフテン酸鉄、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸クロム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸ジルコニウム、ナフテン酸コバルトなどのナフテン酸遷移金属塩、ヘキソエートマンガンなどのヘキソエートの遷移金属塩、遷移金属のシクロペンタジエニル化合物、チタンテトライソプロポキシド(TTIP)、チタンアルコキシドなどの遷移金属アルコキシド等を用いることができる。さらに、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、アセチルアセトネート、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの遷移金属の有機金属塩、酸化鉄や酸化マンガンほか各種遷移金属の酸化物なども条件により使用される。
後述のように、2種以上の遷移金属をリチウム遷移金属シリケート化合物に用いる場合は、2種以上の遷移金属の原料を火炎中に供給するようにする。
【0024】
シリコン源としては、四塩化ケイ素、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、二酸化ケイ素や一酸化ケイ素またはこれら酸化ケイ素の水和物、オルトケイ酸やメタケイ酸、メタ二ケイ酸等の縮合ケイ酸、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン、TEOS)、テトラメチルオルトシリケート(テトラメトキシシラン、TMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルトリシロキサン(OMTSO)、テトラ−n−ブトキシシラン、等々を用いることができる。
【0025】
また、リチウム遷移金属シリケート化合物のシリケートの一部を他のアニオンにより置換する場合は、アニオン源として、遷移金属の酸化物、リン酸の原料、ホウ酸の原料を加える
例えば、酸化チタン、亜チタン酸鉄や亜チタン酸マンガンなどの亜チタン酸金属塩、チタン酸亜鉛やチタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムなどのチタン酸塩、酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化クロム、クロム酸塩や二クロム酸塩、酸化マンガン、過マンガン酸塩やマンガン酸塩、コバルト酸塩、酸化ジルコニウム、ジルコン酸塩、酸化モリブデン、モリブデン酸塩、酸化タングステン、タングステン酸塩、オルトリン酸やメタリン酸などのリン酸、ピロリン酸、リン酸水素2アンモニウムやリン酸2水素アンモニウムなどのリン酸水素アンモニウム塩、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウムなどの各種リン酸塩またはピロリン酸塩、およびリン酸第一鉄など導入遷移金属のリン酸塩、ホウ酸や三酸化二ホウ素、メタホウ酸ナトリウムや四ホウ酸ナトリウム、ホウ砂などの各種ホウ酸塩を、それぞれ所望のアニオン源と合成条件に応じて用いることができる。
【0026】
これらの原料を同一反応系に火炎原料と共に供給して微粒子混合物を合成する。生成した微粒子混合物は、排気中からフィルタで回収することができる。また、以下のように芯棒の周囲に生成させることもできる。反応器の中にシリカやシリコン系の芯棒(種棒とも呼ばれる)を設置し、これに吹き付けている酸水素火炎中やプロパン火炎中に火炎原料と共にリチウム源、遷移金属源、シリコン源を供給し、加水分解または酸化反応させると、芯棒表面に主にナノオーダーの微粒子が生成付着する。これらの生成微粒子を回収し、場合によってはフィルタやふるいに掛けて、不純物や凝集粗大分を除く。このようにして得られた微粒子混合物は、ナノスケールの極微小な粒径を持ち、主として非晶質である微粒子からなる。
【0027】
本発明に係る微粒子混合物の製造方法である噴霧燃焼法では、製造できる微粒子混合物は、非晶質であり、粒子の大きさも小さい。さらに、噴霧燃焼法では、従来の水熱合成法や固相反応法に比べて、短時間で大量の合成が可能であり、低コストで均質な微粒子混合物を得ることができる。
【0028】
(噴霧燃焼法による微粒子混合物の特徴)
微粒子混合物は、主にリチウム、遷移金属、シリコンの酸化物や、リチウム遷移金属シリケートの非晶質な微粒子からなるが、遷移金属の結晶性酸化物も混合生成している場合が多い。さらに、一部にはリチウム遷移金属シリケート系化合物の結晶成分も含まれる。
【0029】
これら微粒子混合物を2θ=10〜60°の範囲の粉末法X線回折を測定すると、回折ピークが小さく幅の広い回折角を示す。これらは結晶子の小さい微粒子、または小さな単結晶の集まった多結晶微粒子、並びにこれら微粒子の周囲に非晶質成分が存在する微結晶形態である、それぞれのリチウム遷移金属シリケート系化合物結晶面に由来する回折を示すと思われる。なお、ピークの位置は、結晶のゆがみや測定誤差の影響で、±0.1°〜±0.2°程度シフトする可能性がある。
【0030】
得られた微粒子混合物に含まれるリチウム遷移金属シリケート微粒子は、LiMSiOで表されるリチウム遷移金属シリケート系化合物を含む。Mは、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属である。また、本願の噴霧燃焼法では、火炎中で炭素は燃焼するので、得られた微粒子混合物には、炭素が含まれない。仮に炭素成分が混入したとしても、ごく微量であり、正極に使用する際の導電助剤となるほどの量ではない。
【0031】
(噴霧熱分解法による微粒子混合物の製造方法)
また、活物質の前駆体である微粒子混合物は、噴霧熱分解法により製造することもできる。噴霧熱分解法とは、リチウム源、遷移金属源、シリコン源を含む混合溶液を、霧状の液滴にし、500〜900℃程度まで加熱した反応容器内を流通させ、加熱により熱分解を進行させて微粒子混合物を得る方法である。反応容器での加熱は、電気炉を用いても良いし、火炎炉を用いてもよい。
【0032】
前述の噴霧燃焼法とは、使用できるリチウム源、遷移金属源、シリコン源の種類や、霧状の液滴を形成する点が同じである。しかし、噴霧燃焼法では、火炎中にて2000℃前後で反応が進むが、噴霧熱分解法では、反応容器内で、より低温で反応が進む点が異なる。また、霧状の液滴のキャリアガスが、噴霧熱分解法では空気や不活性ガスであるのに対して、噴霧燃焼法では可燃性ガスと支燃性ガスを含む点が異なる。また、噴霧熱分解法は、反応容器内を流通させるため、噴霧燃焼法に比べて反応時間が長い点が異なる。
【0033】
噴霧熱分解法においても、噴霧燃焼法と同様に、活物質の前駆体である、主にリチウム、遷移金属、シリコンの酸化物や、リチウム遷移金属シリケートの非晶質な微粒子からなる微粒子混合物が得られる。
【0034】
(水熱合成法、固相反応法による微粒子混合物の製造方法)
また、微粒子混合物は、水熱合成法、固相反応法により製造することもできる。水熱合成法とは、原料溶液を密閉容器内に入れ、高温高圧の水の存在下で化合物を合成する方法であり、固相反応法とは、粉末原料を混合した後、熱処理を行って固相から直接的に化合物を合成する方法である。なお、本発明において、固相反応法により製造された微粒子混合物とは、リチウム源、遷移金属源、シリコン源の単なる混合物でなく、熱処理を行い、固相反応を進めた後の化合物の粉末を意味する。
【0035】
(正極活物質材料の製造)
微粒子混合物を熱処理することにより、微粒子混合物に含まれる非晶質な化合物や酸化物形態の混合物が、熱処理により主にリチウム遷移金属シリケート系の結晶形態の化合物に変化し、リチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料が得られる。
【0036】
まず、熱処理後の生成物の導電性を高めるために、微粒子混合物に、ポリビニルアルコールなどの多価アルコールやショ糖などの糖類、カーボンブラックなどの炭素源を添加し、混合する。この際、多価アルコールの一種であるポリビニルアルコールは、炭素源としての役割と同時に、後述する圧粉工程における成型のバインダーとしての役割も果たすうえ、焼成中に鉄成分を還元できるので、特に好ましい。
【0037】
その後、炭素源を混合した後の微粒子混合物を金型に充填し、加圧して、圧粉体を作製する。この金型は、圧粉体の形成に用いられる通常の金型を使用でき、例えば、タブレット型やペレット型の圧粉体を成型できる金型を用いる。また、圧粉体を形成する際の加圧条件は、1〜10MPaの押圧力で、5〜120秒の間加圧することが好ましい。
【0038】
その後、微粒子混合物と炭素源の圧粉体を、不活性ガス充填雰囲気で焼成を行う。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガスなどを使用することができる。焼成条件は温度300〜900℃と処理時間0.5〜10時間の組み合わせで適宜所望の結晶性と粒径の焼成物を得ることができる。高温や長時間の熱処理による過大な熱負荷は粗大な単結晶を生成させ得るので回避すべきであり、所望の結晶性または微結晶性のリチウム遷移金属シリケート化合物が得られる程度の加熱条件で、結晶子の大きさを極力小さく抑制できる熱処理条件が望ましい。
【0039】
その後、焼成後の圧粉体を、乳鉢やボールミルほか粉砕手段に掛けることにより、微粒子とすることができ、Liイオンのインターカレーションホスト足り得る本発明の正極活物質材料が得られる。
【0040】
(本発明にかかる正極活物質材料の特徴)
本発明に係る正極活物質材料は、圧粉体の状態で焼成工程を行うため、遷移金属元素の酸化を抑制できる。そのため、本発明では目的とした組成の正極活物質材料を得ることができ、本発明に係る正極活物質材料を用いた非水電解質2次電池は、初回充放電時に、3価のリチウム遷移金属シリケートとリチウムイオンが反応する副反応が起きにくいため、初回充電容量と初回放電容量が近くなる。
【0041】
本発明にかかる正極活物質材料は、従来の正極活物質材料より、酸化された正極活物質材料が少ないことから、非水電解質2次電池に用いた際に、容量が大きくなる。
【0042】
また、酸化された正極活物質材料は、合成直後はリチウムがなかったサイトに、初回放電時にリチウムイオンが挿入されるため、構造が壊れやすい。本発明にかかる正極活物質材料は、従来の正極活物質材料より、酸化された正極活物質材料が少ないことから、非水電解質2次電池に用いた際に、サイクル寿命が長くなる。
【0043】
本発明における酸化の抑制は、圧粉体にすることで、焼成中及び焼成前後において、実効的な表面積が小さく、それぞれの微粒子が大気と接触する表面積を少なくすることができ、酸化を抑えることができると考えられる。
【0044】
本発明の正極活物質材料に含まれる結晶化リチウム遷移金属シリケート系化合物の大部分は微細結晶であるが、一部には非晶質成分を含む「微結晶」状態も存在する。例えば、結晶子が複数集まって構成される微粒子が非晶質成分で覆われている状態、或いは非晶質成分マトリクス中に微細な結晶が存在する状態、また微粒子周囲と微粒子間に非晶質成分が存在する状態をいう。
【0045】
また、本発明に係る正極活物質材料を、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒径を測定して粒度分布を求めると、10〜200nmの範囲に存在し、平均値が25〜100nmに存在する。これらの粒子は、結晶子が複数集まって構成される。また、粒度分布は、10〜150nmの範囲に存在し、平均値が25〜80nmに存在することがより好ましい。なお、粒度分布が10〜200nmの範囲に存在するとは、得られた粒度分布が10〜200nmの全範囲にわたる必要はなく、得られた粒度分布の下限が10nm以上であり、上限が200nm以下であることを意味する。つまり、得られた粒度分布が10〜100nmであってもよいし、50〜150nmであってもよい。
本発明に係る正極活物質材料は、粒子の大きさが小さいので、Liイオンまたは電子の、単結晶や多結晶粒子中の導電パスが短く、イオン導電性と電子伝導性が優れるので、充放電反応の障壁を低下させることができる。
【0046】
本発明に係る正極活物質材料は、略球形を示す。部分的には角ばった箇所も認められるものの、全体としては概略球形状を示す。
【0047】
本発明にかかる正極活物質において、リチウム遷移金属シリケート微粒子が、少なくとも一部にカーボンコートされるか、少なくとも一部にカーボンが担持されていることが好ましい。カーボンコートとは、粒子の表面を炭素で被覆することであり、カーボン担持とは、粒子内に炭素を含有させることである。カーボンコートやカーボン担持により、材料としての導電率が上昇し、リチウム遷移金属シリケート微粒子への導電パスが得られ、正極に用いる際の電極特性が向上する。
【0048】
得られた正極活物質材料は、用いる遷移金属とその種類によって、充放電の容量等の特性が変わってくる。例えば、遷移金属源としてFe原料を用いると低コストで合成も容易であるが、Fe1種類だけでは容量は従来レベルに止まる。Mn原料の場合も低コストで合成も容易であるが、リチウムマンガンシリケートはLiのインターカレートとデインターカレートにより結晶構造が崩壊し易い欠点があり、充放電サイクル寿命が短い傾向にある。そこで、FeとMnの2原料を用いたリチウム鉄マンガンシリケート(LiFe1−xMnSiO)のように遷移金属を2元素用いると、前記の低容量と結晶構造崩壊の問題は解決する。他方、Feは結晶構造の安定化に寄与する。Fe、Mn以外のTi、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、W、についても同様のことが云える。
【0049】
他方、アニオンまたはポリアニオンの(SiOシリケートも同様であり、(SiOの一部を他のアニオンにより置換させることもできる。例えば、前記の遷移金属の酸であり、チタン酸(TiO)やクロム酸(CrO)、バナジン酸(VO、V)、ジルコン酸(ZrO)、モリブデン酸(MoO、Mo24)、タングステン酸(WO)、等々であり、またはリン酸(PO)やホウ酸(BO)による置換である。ポリケイ酸イオンの一部をこれらのアニオン種により置換することにより、Liイオンの脱離と復帰の繰り返しによる結晶構造変化の抑制と安定化に寄与し、サイクル寿命を向上させる。また、これらのアニオン種は、高温においても酸素を放出し難いので、発火につながることもなく安全に用いることができる。
【0050】
(非水電解質2次電池用正極の製造方法)
微粒子混合物を熱処理した圧粉体を粉砕することにより得られた、正極活物質材料を用いて正極電極を形成するには、カーボンをコーティングしたり担持したりした正極活物質材料の粉末に、必要に応じてさらにカーボンブラック(特にアセチレンブラック)などの導電材料を加えると共に、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン、ポリイミドなどの結着剤、またはブタジエンゴムなどの分散剤、またはカルボキシメチルセルロースほかセルロース誘導体などの増粘剤を加えた混合物を、水系溶媒か有機溶媒マトリクス中に加えてスラリーとしたものを、アルミニウムを95重量%以上含むアルミニウム合金箔などの集電体上に、片面ないしは両面に塗布し、焼成して溶媒を揮発乾固する。これにより、本発明の正極が得られる。
【0051】
この際に、スラリーの塗布性や集電体と活物質材料との密着性、集電性を上げるために、前記正極活物質材料とカーボン源等を用いてスプレードライ法により造粒して焼成した2次粒子を、前記の活物質材料に替えてスラリー中に含有させて用いることができる。造粒した2次粒子の塊は概略0.5〜20μm程度の大きな塊になるが、これによりスラリー塗布性が飛躍的に向上して、電池電極の特性と寿命もさらに良好となる。スプレードライ法に用いるスラリーは水系溶媒または非水系溶媒のいずれも用いることができる。
【0052】
さらに、前記正極活物質材料を含むスラリーをアルミニウム合金箔等の集電体上に塗工形成した正極において、活物質層形成面の集電体表面粗さとして日本工業規格(JIS B 0601−1994)に規定される十点平均粗さRzが0.5μm以上であることが望ましい。形成した活物質層と集電体との密着性に優れ、Liイオンの挿入脱離に伴う電子伝導性および集電体までの集電性が増し、充放電のサイクル寿命が向上する。
【0053】
また、前記の集電体と集電体上形成した活物質層の界面において、集電体の主成分が少なくとも活物質層へ拡散した混成状態を示すと、集電体と活物質材料との界面接合性が向上し、充放電サイクルにおける体積や結晶構造の変化に対して耐性が増すので、サイクル寿命が向上する。前記の集電体表面粗さ条件も満たす場合さらに良好である。溶媒を揮発させ得る充分な焼成条件によれば、集電体成分が活物質層に拡散するなど相互成分を有する界面状態となり密着性に優れ、充放電を重ねてもLiイオンの出入りによる体積変化にも耐え、サイクル寿命が向上する。
【0054】
(非水電解質2次電池)
本発明の正極を用いた高容量な2次電池を得るには、従来公知の負極活物質材料を用いた負極や電解液、セパレータ、電池ケース等の各種材料を、特に制限なく使用することができる。本発明の非水電解質2次電池は、前述したような正極と負極との間にセパレータを配置して、電池構造体を形成している。このような電池構造体を巻くか、または折って円筒形や角形の電池ケースに入れた後、電解液を注入して、リチウムイオン2次電池が完成する。
【0055】
具体的には、図2に示したように、本発明の非水電解質2次電池11は、正極13、負極15を、セパレータ17を介して、セパレータ−負極−セパレータ−正極の順に積層配置し、正極13が内側になるように巻回して極板群を構成し、これを電池缶21内に挿入する。そして正極13は正極リード23を介して正極端子27に、負極15は負極リード25を介して電池缶21にそれぞれ接続し、非水電解質2次電池11内部で生じた化学エネルギーを電気エネルギーとして外部に取り出し得るようにする。次いで、電池缶21内に非水系電解質19を充填した後、電池缶21の上端(開口部)に、円形蓋板とその上部の正極端子27からなり、その内部に安全弁機構を内蔵した封口体29を、環状の絶縁ガスケットを介して取り付けて、本発明の非水電解質2次電池11を製造することができる。
【0056】
本発明に係る正極を用いた2次電池は、容量が高く、良好な電極特性が得られるが、2次電池を構成する非水溶媒を用いる電解液に、フッ素を含有する非水溶媒を用いるか、または添加すると、充放電による繰り返しを経ても容量が低下し難く長寿命となる。例えば、特にはシリコン系の高容量な負極活物質材料を含む負極を用いる場合には、Liイオンのドープ・脱ドープによる大きな膨張収縮を抑制するために、電解液にフッ素を含有するか、フッ素を置換基として有する非水溶媒を含む電解液を用いることが望ましい。フッ素含有溶媒は充電時、特に初めての充電処理の際のLiイオンとの合金化によるシリコン系皮膜の体積膨張を緩和するので、充放電による容量低下を抑制することができる。フッ素含有非水溶媒にはフッ素化エチレンカーボネートやフッ素化鎖状カーボネートなどを用いることができる。フッ素化エチレンカーボネートにはモノ−テトラ−フルオロエチレンカーボネート(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、FEC)が、フッ素化鎖状カーボネートにはメチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、エチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネートなどがあり、これらを単一または複数併用して電解液に添加して用いることができる。フッ素基はシリコンと結合し易く強固でもあるので、Liイオンとの充電合金化による膨張の際にも皮膜を安定化させ膨張の抑制に寄与することができるとみられる。
【0057】
(本発明の効果)
本発明に係る正極活物質材料は、圧粉体の状態で焼成工程を行うため、遷移金属元素の酸化を抑制できる。そのため、本発明に係る非水電解質2次電池は、初回放電時に、3価のリチウム遷移金属シリケートとリチウムイオンが反応する副反応が起きにくいため、初回充電容量と初回放電容量が近くなる。
【0058】
本発明にかかる正極活物質材料は、従来の正極活物質材料より、酸化された正極活物質材料が少ないことから、非水電解質2次電池に用いた際に、容量が大きくなり、サイクル寿命が長くなる。
【0059】
本発明の2次電池用正極活物質材料は、従来にないナノスケールの小さな結晶や1次粒子を有しており、さらに結晶性が低いためにLiイオンや電子が移動する距離が小さいために、イオン導電性や電子伝導性が優れるので、本来リチウム遷移金属シリケート系化合物が有する高い容量を充放電に際して得ることができる。
【0060】
また、本発明に係る正極活物質材料を用いると、活物質材料の粒子自体のLiイオン拡散性や電子伝導性が向上する結果、Liイオンのデインターカレートおよびインターカレートが容易になることができることを見出した。本発明は、リチウム遷移金属シリケート系化合物が本来有する高い充放電容量を将来実現する基礎となるものである。
【0061】
また、本発明に係る正極活物質材料は、従来の材料に比べて、X線回折測定による回折ピーク半値幅が大きく、結晶子の大きさが小さいので、或いは粒子の大きさや、粒度が小さいので、Liイオンまたは電子の、単結晶や多結晶粒子中の導電パスが短く、イオン導電性と電子伝導性が優れる。
【0062】
さらに、導電助剤や導電性カーボンをコーティングしたり担持したりすると、電気伝導性と導電パス網による集電体までのマクロの集電性が向上し、通常使用の室温などの低温環境でも充放電できるリチウム遷移金属シリケート系化合物を提供することができる。
【0063】
また、本発明に係る正極活物質材料は、従来の正極活物質材料に比較して、非晶質成分が周囲の一部に存在する結晶を有する微結晶状態であることも特徴である。これらは、従来一般に用いられてきた固相反応法による製造法では得られず、正極活物質材料の材料源となる原料を同一反応系に供給して火炎中で反応させる方法などにより、主に非晶質な活物質前駆体を生成させた後に、焼成を行うことで得られる。このような製造法によれば、焼成後の微粒子混合物をミクロに粉砕することで、粒径が小さく、略球形状微粒子など均質な正極活物質材料を得ることができる。これにより、集電体上に塗工し易い大きさの2次粒子へ造粒することも可能になり、集電体と活物質材料との密着性に優れる、集電体成分が拡散した正極活物質層を得ることができる。
【0064】
本発明の正極活物質材料に含まれるリチウム遷移金属シリケート系化合物の成分には、充放電反応において2電子反応が得られる複数の遷移金属を含む場合にはさらに高容量を得ることができる。また、酸素を放出しないシリケート系化合物であるので、高温環境においても発火燃焼することがなく、安全な2次電池を提供することが可能になる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本実施例に本発明が何ら限定されることはない。
なお、以下の実施例では、ケイ酸鉄リチウム化合物の合成を行ったが、その他の遷移金属を用いる場合や、その他のアニオンを組成材料に加える場合でも同様に、合成、提供できる。
【0066】
(1−1)実施例1
(微粒子混合物の作製)
噴霧燃焼法により微粒子混合物を製造する製造装置を図1に示す。図1に示す装置の反応容器は、容器内に微粒子合成ノズル3が配置され、プロパンガス、空気、及び原料溶液がノズル3から生じる火炎中に供給される。他方に、生成微粒子や反応生成物を排気する排気管を有し、排気中の微粒子混合物7を微粒子回収フィルタ5により回収する。ノズルに供給する原料の種類と供給条件は以下とした。また、原料溶液は、液滴の大きさが20μmとなるよう、二流体ノズルを用いて火炎中に供給した。火炎の温度は約2000℃であった。
可燃性ガス:プロパン(C):1dm/min、
支燃性ガス:空気:5dm/min、
リチウム源:ナフテン酸リチウム(4M溶液):0.025dm/min
鉄源:C1630FeO(2−エチルヘキサン鉄(II)、オクチル酸鉄)(1M溶液):0.1dm/min
シリコン源:オクタメチルシクロテトラシロキサン:0.1dm/min、
【0067】
噴霧燃焼法による微粒子混合物の製造方法は以下のとおりである。まず、Nガスを所定量供給し、反応容器中を不活性ガス雰囲気とした。このような条件下で、リチウム源、鉄源、シリコン源をそれぞれ混合した溶液を、霧化器を通じて20μmの液滴にし、プロパンガス及び空気とともに火炎に供給した。火炎中で生成した酸化リチウム、酸化鉄、シリコン酸化物等の微粒子、ケイ酸鉄リチウム化合物の微粒子などの微粒子混合物を微粒子回収フィルタにて回収した。得られた微粒子混合物が微粒子混合物aである。
【0068】
(正極活物質材料の製造)
次に、微粒子混合物にポリビニルアルコールを、ポリビニルアルコールが全体の10wt%となるように加えて、混合した。その後、内径10mmの円筒状の金型に、微粒子混合物を充填し、10MPaの圧力を30秒間かけ、直径10mm、厚さ6mmの円盤状の圧粉体を形成した。
その後、圧粉体をNガス充填の炉に入れ、650℃で4時間の加熱処理を行って、焼成を行った。焼成と同時にカーボンコートまたはカーボン担持を実施した。この圧粉体に粉砕処理を行い、正極活物質材料Aを得た。
【0069】
(2−1)比較例1
(正極活物質の製造)
実施例1で得られた微粒子混合物aにポリビニルアルコールを、ポリビニルアルコールが全体の10wt%となるように加えて、混合した。
その後、特に圧粉体を形成せずに、微粒子混合物をNガス充填の炉に入れ、650℃で4時間の加熱処理を行って、焼成を行った。焼成と同時にカーボンコートまたはカーボン担持を実施した。焼成後の微粒子混合物に粉砕処理を行い、正極活物質材料Bを得た。
【0070】
(3)試料の測定観察確認
(3−1)粉末X線回折測定
実施例1と比較例1の微粒子混合物及びそれぞれの焼成後の正極活物質材料の粉末X線回折測定(2θ=10〜60°)を行った。X線回折測定結果を図3に示す。
【0071】
図3(a)に示すとおり、活物質の前駆体である焼成前の微粒子混合物は、幅の広いピークを有し、微結晶形態であることがわかる。さらに、図3(b)及び(c)に示すとおり、焼成後の正極活物質材料は多数のピークを有し、これらのピークはケイ酸鉄リチウムの結晶構造に由来するピークであった。微粒子混合物を焼成することにより、ケイ酸鉄リチウムの結晶構造が成長しているが、焼成後であっても、従来の材料よりもピークが幅広であり、結晶粒が小さいことがわかる。
【0072】
(3−2)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
同様に、得られた正極活物質材料について、TEMにより観察を行った。TEM像観察結果を図4に示す。
図4(a)に示すとおり、焼成前の微粒子混合物は略球状であり、一次粒子径が10〜50nmの粒子が観察された。また、図4(b)に示すとおり、実施例に係る正極活物質材料の一次粒子径は10〜50nmであり、ケイ酸鉄リチウム粒子の周囲にアモルファス状の炭素がコーティングされている。同様に図4(c)においても、比較例にかかる正極活物質材料ケイ酸鉄リチウム粒子の周囲に炭素がコーティングされている。
【0073】
(3−3)EDSによる組成分析
実施例1の焼成後の正極活物質材料の粒子形状の観察と組成分析を、走査透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM 3100FEF)を用いて、HAADF−STEM(High−Angle−Annular−Dark−Field−Scanning−Transmission−Electron−Microscopy:高角度散乱暗視野−走査透過型電子顕微鏡法)による粒子形状の観察と、EDS(Energy Dispersive Spectroscopy:エネルギー分散型X線分析)分析により行った。図5(a)は、実施例1の焼成後の正極活物質材料のHAADF−STEM像であり、図5(b)は、同一の観察箇所における鉄原子のEDSマップであり、図5(c)は、同一の観察箇所におけるシリコン原子のEDSマップであり、図5(d)は、同一の観察箇所における酸素原子のEDSマップである。また、図6は、比較例1の焼成後の正極活物質材料のHAADF−STEM像やEDSマップである。
【0074】
図5(a)において、アモルファス状の物質で覆われた粒子を観察できる。さらに、図5(b)〜(d)において、酸素と鉄とシリコンの原子の分布が、それぞれ一致していることから、粒子内において組成に偏りがなく均一であり、さらに粒子間においても組成に偏りがなく均一であることが分かる。
【0075】
図6の比較例1にかかる焼成後の正極活物質材料においても、酸素と鉄とシリコンの原子の分布がある程度一致しているが、実施例にかかる正極活物質材料ほどは分布が一致していない。
【0076】
(4)活物質試料を用いた試験評価用正極電極と2次電池の作製
実施例及び比較例で得た正極活物質材料A、Bに対して、導電助剤(カーボンブラック)を10重量%となるように混合し、内部を窒素で置換したボールミルを用いて更に5時間混合した。混合粉末と結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、重量比95:5の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて十分混練し、正極スラリーを得た。
【0077】
表面粗さRz(JIS B 0601−1994 十点平均粗さ)が0.7μmの厚さ15μmのアルミニウム箔集電体に、正極スラリーを50g/mの塗工量で塗布し、120℃で30分間乾燥した。その後、ロールプレスで2.0g/cmの密度になるように圧延加工し、2cmの円盤状に打抜いて正極とした。
【0078】
これらの正極と、負極に金属リチウム、電解液にエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解したものを用い、リチウム2次電池を作製した。なお、作製雰囲気は露点が−50℃以下とした。各極は集電体の付いた電槽缶に圧着して用いた。上記正極、負極、電解質及びセパレータを用いて直径25mm、厚さ1.6mmのコイン型リチウム2次電池とした。
【0079】
(5)試料の試験評価
次に、前記のコイン型リチウム2次電池により、本発明の正極活物質材料の試験評価を、次のように実施した。
試験温度25℃、CC−CV法により、0.1Cの電流レートにて、4.2V(対Li/Li)まで充電を行い、その後電流レートが0.005Cまで低下した後に充電を停止した。その後、0.1Cレートにて、CC法により1.5V(前記に同じ)まで放電を行って、初期の充放電容量を測定した。
次いで、同様の条件にて、2サイクル目の充放電特性を測定した。
【0080】
実施例1及び比較例1に係る正極活物質材料の1サイクル目の充放電曲線を図7(a)に、2サイクル目の充放電曲線を図7(b)に示し、それぞれの充電容量と放電容量を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
図7(a)に示すとおり、比較例においては、1サイクル目の放電容量は、充電容量の約2倍であったが、焼成前に圧粉工程を有する実施例においては、1サイクル目の放電容量は、充電容量の約1.1倍であり、実施例は比較例に比べて初回充放電容量のバランスが改善された。
【0083】
また、図7(b)に示すとおり、2サイクル目においては、実施例における充電容量と放電容量はほぼ同じであり、比較例における充電容量と放電容量もほぼ同じであった。しかしながら、比較例に比べて実施例の方が高容量となっている。
【0084】
なお、上述の実施例においては、噴霧燃焼法を用いて微粒子混合物を形成したが、微粒子混合物を焼成する際に、微粒子混合物をペレットやタブレット状の圧粉体に成型することで、得られる正極活物質の酸化を抑制するという本発明の構成上、噴霧熱分解法を用いて形成された微粒子混合物を用いても、同様に正極活物質の酸化を抑制できる。
【0085】
また、固相反応法や水熱合成法により得られた微粒子混合物についても、本発明の効果が得られると考えられる。つまり、固相反応法や水熱合成法により得られた微粒子混合物にカーボンコートを行う際に、炭素源を混合した後、本発明のように圧粉体の状態で焼成すると、正極活物質の酸化を抑制できると考えられる。
【0086】
また、上述の実施例においては、遷移金属元素として鉄を用いたが、微粒子混合物を焼成する際に、微粒子混合物をペレットやタブレット状の圧粉体に成型することで、得られる正極活物質の酸化を抑制するという本発明の構成からすると、鉄以外の他の遷移金属元素を用いても、同様に正極活物質の酸化を抑制できると考えられる。
【0087】
以上に説明したように、本発明の正極活物質材料を、所定の集電体に塗工した正極は、非水電解質を用いるリチウムイオン2次電池をはじめとする充放電可能な2次電池において、優れた充放電特性を示す正極として用いることができる。今後、更なる改良によって、本発明の化合物系統が本来有するさらに高い理論比容量を目標に充放電容量を向上させる基礎となる。これにより、従来の電子機器用途をはじめ、実用化が始まった産業用途や自動車用途の2次電池に、従来にない高エネルギーや高出力を示す特性を付与することができる。しかも、本発明の微粒子混合物の製造法のうち、特に噴霧燃焼法は量産性に優れ、低コストで製品を提供できることが可能になる。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0089】
1………微粒子製造装置
3………微粒子合成ノズル
5………微粒子回収フィルタ
7………微粒子混合物
11………非水電解質二次電池
13………正極
15………負極
17………セパレータ
19………電解質
21………電池缶
23………正極リード
25………負極リード
27………正極端子
29………封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源、遷移金属源およびシリコン源を用いて、微粒子混合物を合成する工程(a)と、
前記微粒子混合物に炭素源を混合する工程(b)と、
前記炭素源を混合した前記微粒子混合物を、金型に充填・加圧して圧粉体を作製する工程(c)と、
前記圧粉体を不活性ガス充填雰囲気で焼成する工程(d)と、
前記圧粉体を粉砕する工程(e)と、
を具備することを特徴とするリチウム遷移金属シリケート系正極活物質材料の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)において、
前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を、支燃性ガスと可燃性ガスとともに火炎中に供給して、微粒子混合物を合成することを特徴とする請求項1に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)において、
前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を含む混合溶液を、霧状の液滴にて、前記火炎中に供給することを特徴とする請求項2に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)において、
前記火炎の温度が1000〜3000℃であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、
前記可燃性ガスが炭化水素系ガスであり、
前記支燃性ガスが空気であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)が、
前記リチウム源、前記遷移金属源および前記シリコン源を含む混合溶液の霧状の液滴を加熱して、微粒子混合物を合成する工程であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム源のリチウム化合物が、塩化リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、シュウ酸リチウム、ナフテン酸リチウム、リチウムエトキシド、酸化リチウム、過酸化リチウム、のいずれか一つ以上であり、
前記遷移金属源の遷移金属化合物が、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属の塩化物、シュウ酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物、エチルヘキサン塩、ナフテン酸塩、ヘキソエートの塩、シクロペンタジエニル化合物、アルコキシド、有機酸金属塩(ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、アセチルアセトネート、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の塩)、酸化物のいずれか一つ以上であり、
前記シリコン源のシリコン化合物が、四塩化ケイ素、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、二酸化ケイ素や一酸化ケイ素またはこれら酸化ケイ素の水和物、縮合ケイ酸、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン、TEOS)、テトラメチルオルトシリケート(テトラメトキシシラン、TMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルトリシロキサン(OMTSO)、テトラ−n−ブトキシシランのいずれか一つ以上である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭素源が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程(d)において、
前記焼成が、不活性ガス充填雰囲気で、300〜900℃で0.5〜10時間の熱処理を実施することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の正極活物質材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の正極活物質材料の製造方法により製造された正極活物質材料を含有するスラリーを作製する工程と、
前記スラリーを集電体に塗布焼成する工程と、
を具備することを特徴とする非水電解質2次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
前記スラリーが、請求項1〜9のいずれか1項に記載の正極活物質材料の製造方法により製造された正極活物質材料を加えて造粒した0.5〜20μmサイズの2次粒子を含有することを特徴とする請求項10に記載の非水電解質2次電池用正極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−195134(P2012−195134A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57575(P2011−57575)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】