説明

リニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパー

【課題】リニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパーとして、案内レールの取り付け穴に対して着脱し易く、取り付け状態で取り付け穴から外れにくいものを提供する。
【解決手段】ストッパー7を、筒状体71と棒状体72とで構成する。筒状体71は、エラストマーで形成され、案内レール1の取り付け穴に挿入する先端部71Bと、案内レール1の上面より突出させる突出部71Cを有する。棒状体72は、筒状体71の軸方向に延びる貫通穴71Dに挿入される。貫通穴71Dに挿入された棒状体72の先端部72Aにより、筒状体71の先端部71Bが拡径されて、取り付け穴の軸収納部42に弾性変形状態で固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リニアガイド装置のスライダが案内レールから外れることを防止するストッパーに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、図5に示すように、案内レール1とスライダ(「ベアリング」とも称される)2と複数個のボール(転動体)3とを備えている。案内レール1およびスライダ2は、互いに対向配置されて転動体3の転動通路を形成する転動溝(転動面)11,21を有する。スライダ2は、案内レール1の上側に配置される胴部2Aと、両側に配置される脚部2Bを有する。
【0003】
スライダ2は、また、転動体3の戻し通路22と、この戻し通路22と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有する。そして、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、この循環経路内をボール3が循環することにより、案内レール1およびスライダ2の一方が他方に対して相対的に直線運動する。
リニアガイド装置の案内レール1には、基台等の被取付部にボルトを用いて取り付けるための取り付け穴4が形成されている。この取り付け穴4は、図6に示すように、ボルトの頭部を収める座繰り部41と、ボルトの軸部を収める軸収納部42とからなり、開口端に面取り部43が形成されている。
【0004】
このようなリニアガイド装置では、搬送時や取り付け時に、スライダが案内レールから外れることを防止する必要がある。下記の特許文献1には、そのために使用されるストッパーが記載されている。
このストッパーは、案内レールの上面を跨ぐように断面コ字状に形成され、コ字状の一方の端部が更に内側にほぼ直角に曲げてあり、この曲げた部分(引掛り部)の先端に弾性部材が固定されている。コ字状の他方の端部にネジ穴が形成され、このネジ穴に、先端に弾性部材を固定したボルトが螺合してある。このストッパを案内レールに取り付ける際には、引掛り部を案内レールの一方の側面の転動溝に係合させた後に、締めつけボルトを締めつけて、その先端を案内レールの他方の側面の転動溝に係合させる。
【0005】
また、下記の特許文献2には、弾性材料(金属板、合成樹脂板など)からなる略M形のストッパーであって、案内レール側面の転動溝に係合させる転動溝嵌合部を有し、案内レールの上面に弾接させるV字状凹陥部の底部の下方に、案内レールの取り付け穴の縁部に内接させる係止部を突出させたものが記載されている。
なお、スライダが案内レールから外れることを防止するために、案内レールの両端面に雌ねじを形成し、案内レールの上面より突出するように配置した板材をボルトで固定することや、案内レールの取り付け穴にゴム栓を弾性変形状態で挿入し、案内レールの上面より突出させることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第2535706号公報
【特許文献2】特許第2865905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているストッパーは、金属部材のプレス成形等により製造するため製造コストが高く、取り付けの際にボルトを締め付け、取り外しの際にボルトの締め付けを解除する作業が必要であるため、着脱に手間がかかる。
また、特許文献2に記載されているストッパーは、転動溝嵌合部が案内レールの軌道溝を損傷する恐れがある。
また、板材をボルトで固定する方法では、案内レールの両端面に雌ねじを形成するためコスト高となり、ボルトで固定するため着脱に手間がかかる。
【0008】
さらに、ゴム栓を用いる方法では、搬送時の衝撃や振動でスライダが移動してゴム栓の突出部に当たると、ゴム栓が外れたり損傷したりする恐れがある。ゴム栓が外れることを避けるために取り付け穴に対する圧入代を大きくすると、ゴム栓が挿入しにくくなる。
この発明は、リニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパーとして、案内レールを損傷せず、案内レールの取り付け穴に対して着脱し易く、取り付け状態で取り付け穴から外れにくいものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明の一態様のリニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパーは、案内レールと、案内レールの上側に配置される胴部および両側に配置される脚部を有するスライダと、複数個の転動体と、を備え、案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、案内レールは、さらに、案内レールをボルトで被取付部に取り付けるための取り付け穴を長さ方向に複数個有し、転動体の転動により案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置の、スライダが案内レールから外れることを防止するストッパーであって、エラストマー(ゴムまたは熱可塑性エラストマー)で形成され、前記取り付け穴に挿入する先端部および案内レールの上面より突出させる突出部を有する筒状体と、前記筒状体の軸方向に延びる貫通穴に挿入される棒状体と、からなり、前記貫通穴に挿入された前記棒状体の先端部により前記筒状体の先端部が拡径される構造を有する。
【0010】
この発明のリニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパーは、前記筒状体の先端部が、前記筒状体の貫通穴に挿入された前記棒状体の先端部により拡径されて、前記取り付け穴に弾性変形状態で固定される。そのため、案内レールの取り付け穴に対して着脱し易く、取り付け状態で取り付け穴から外れにくい。また、前記筒状体がエラストマーからなるため、案内レールを損傷しない。
【0011】
この態様のリニアガイド装置は、前記貫通穴に挿入された前記棒状体の先端部により前記筒状体の先端部が拡径される構造として、前記棒状体の先端部の外周部に凸部を設け、前記筒状体の貫通穴の先端部に前記凸部が圧入される凹部を設ける。
この態様のリニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパーは、前記棒状体が前記筒状体の貫通穴から外れないようにする止め部材としてピンを有することが好ましい。
【0012】
この発明の別の態様であるリニアガイド装置は、案内レールと、案内レールの上側に配置される胴部および両側に配置される脚部を有するスライダと、複数個の転動体と、を備え、案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、案内レールは、さらに、案内レールをボルトで被取付部に取り付けるための取り付け穴を長さ方向に複数個有し、転動体の転動により案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置において、前記態様のストッパーの前記筒状体の先端部が、前記筒状体の貫通穴に挿入された前記棒状体の先端部により拡径されて、前記取り付け穴に弾性変形状態で固定され、前記筒状体の突出部が案内レールの上面より突出している。
【発明の効果】
【0013】
この発明のリニアガイド装置のスライダ抜け止め用ストッパーは、案内レールを損傷せず、案内レールの取り付け穴に対して着脱し易く、取り付け状態で取り付け穴から外れにくいものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態のストッパーの取り付け過程を示す断面図である。
【図2】第1実施形態のストッパーが案内レールの取り付け穴に取り付けられている状態を示す断面図である。
【図3】第2実施形態のストッパーの取り付け過程を示す断面図である。
【図4】第2実施形態のストッパーが案内レールの取り付け穴に取り付けられている状態を示す断面図である。
【図5】リニアガイド装置の構造を説明する斜視図である。
【図6】案内レールの取り付け穴を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態のストッパー7は、図1に示すように筒状体71と棒状体72とピン(止め部材)73とからなる。
筒状体71は、案内レール1の取り付け穴4の座繰り部41に遊嵌する軸部71Aと、取り付け穴4の軸収納部42に挿入する先端部71Bと、案内レール1の上面より突出させる突出部71Cとからなる。筒状体71の軸方向に延びる貫通穴71Dは、軸方向に沿って軸部71Aと先端部71Bとの境界部付近から先が、先端側の径が小さくなるテーパ状に形成されている。この部分をテーパ穴71dとする。テーパ穴71dの軸方向所定位置に、周方向に沿った凹部71Eが形成されている。
【0016】
筒状体71の突出部71Cに、軸方向に垂直な貫通穴71Fが形成されている。筒状体71の貫通穴71Fの径はピン73の径より所定寸法だけ大きい。筒状体71は、例えば、ニトリルゴム(NBR)の加硫成形または射出成形か、熱可塑性エラストマーの射出成形で製造する。
棒状体72は、筒状体71の貫通穴71Dに対応させた形状の棒材であって、先端部72Aが先端側の径が小さくなるテーパ状に形成されている。棒状体72の先端部72Aのテーパは筒状体71のテーパ穴71dに対応させた形状である。棒状体72の先端部72Aに、筒状体71の凹部71Eに対応させた凸部72Bが形成されている。この凸部72Bは、外径が筒状体71の凹部71Eの内径より少し大きく、図1の状態で、筒状体71のテーパ穴71dの凹部71Eより上側に接触している。
【0017】
また、棒状体72の基端側に、軸方向に垂直な貫通穴72Cが形成されている。この貫通穴72Cの径は、ピン73の径より僅かに大きく、筒状体71の貫通穴71Eの径より小さい。棒状体72は、例えば、ゴム(耐油性に優れたニトリルゴム等)またはコルクで製造する。ピン73は、例えば、合成樹脂(POM、熱可塑性エラストマー等)製とする。
【0018】
筒状体71の貫通穴71Dに棒状体72を挿入し、棒状体72の貫通穴72Cと筒状体71の貫通穴71Fを合わせて、これらにピン73を貫通することで、棒状体72が筒状体71の貫通穴71Dから外れないようになっている。
このストッパー7をリニアガイド装置の案内レール1に取り付ける際には、先ず、図1に示す状態にする。すなわち、ストッパー7の筒状体71の先端部71Bを、案内レール1の取り付け穴の軸収納部42に挿入し、軸部71Aは座繰り部41に遊嵌された状態とする。
【0019】
次に、この状態のストッパー7からピン73を外して棒状体72を押し下げる。これにより、図2に示すように、棒状体72の先端部72Aの凸部72Bが筒状体71の先端部71Bの凹部71Eに圧入される。その結果、筒状体71の先端部71Bが、棒状体72の先端部72Aの凸部72Bにより拡径されて、取り付け穴の軸収納部42に弾性変形状態で固定される。
【0020】
ストッパー7を取り外す際には、先ず、図2の状態から、棒状体72を上側に引き上げて、凸部72Bを筒状体71の凹部71Eから外すことで、棒状体72の先端部72Aによる筒状体71の先端部71Bの拡径を解除する。次に、筒状体71の貫通穴71Fと棒状体72の貫通穴72Cの位置を合わせて、ピン73を挿入することで図1に示す状態とする。次に、ピン73を引き上げることで、棒状体72と一体に筒状体71を取り付け穴から外すことができる。
このように、第1実施形態のストッパー7は、案内レール1の取り付け穴に対して着脱し易く、取り付け状態で取り付け穴から外れにくい。また、取り付けの際に案内レールを損傷することがない。
【0021】
[第2実施形態]
第2実施形態のストッパー8は、図3に示すように、筒状体81と棒状体82とからなる。
【0022】
筒状体81は、案内レール1の取り付け穴4の座繰り部41に遊嵌する軸部81Aと、取り付け穴4の軸収納部42に挿入する先端部81Bと、案内レール1の上面より突出させる突出部81Cとからなる。筒状体81の軸方向に延びる貫通穴81Dは、軸方向に沿って軸部81Aと先端部81Bとの境界部付近から先が、先端側の径が小さくなるテーパ状に形成されている。この部分をテーパ穴81dとする。テーパ穴81dの軸方向所定位置に、周方向に沿った凹部81Eが形成されている。筒状体81は、例えば、ニトリルゴム(NBR)の加硫成形または射出成形か、熱可塑性エラストマーの射出成形で製造する。
【0023】
棒状体82は、筒状体81の貫通穴81Dに対応させた形状の棒材であって、先端部82Aが先端側の径が小さくなるテーパ状に形成され、さらにその先に円板部(止め部材)82aが形成されている。棒状体82の先端部82Aのテーパは、筒状体81のテーパ穴81dに対応させた形状である。円板部82aの最大直径A4は、棒状体82の先端部82A以外の部分の直径A5と同じである。
棒状体82の先端部82Aに、筒状体81の凹部81Eに対応させた凸部82Bが形成されている。この凸部82Bは、外径が筒状体81の凹部81Eの内径より少し大きく、図3の状態で、筒状体81のテーパ穴81dの凹部81Eより上側に接触している。棒状体82は、例えば、ゴム(耐油性に優れたニトリルゴム等)またはコルクで製造する。
【0024】
このストッパー8は、筒状体81の貫通穴81Dに円板部82a側から棒状体82を挿入し、円板部82aを、筒状体81の先端部81Bを弾性変形させてテーパ穴81dを通過させて、筒状体81の先端部81Bより先に突出させることで組み立てられる。この突出した円板部82aにより、棒状体82が筒状体81の貫通穴81Dから外れないようになっている。
【0025】
このストッパー8をリニアガイド装置の案内レール1に取り付ける際には、先ず、図3に示す状態にする。すなわち、ストッパー8の筒状体81の先端部81Bを、案内レール1の取り付け穴の軸収納部42に挿入し、軸部81Aは座繰り部41に遊嵌された状態とする。
次に、この状態から棒状体82を押し下げることで、図4に示すように、棒状体82の先端部82Aの凸部82Bが筒状体81の先端部81Bの凹部81Eに圧入される。その結果、筒状体81の先端部81Bが、棒状体82の先端部82Aの凸部82Bにより拡径されて、取り付け穴の軸収納部42に弾性変形状態で固定される。
【0026】
ストッパー8を取り外す際には、先ず、図4の状態から、棒状体82を上側に引き上げて、凸部82Bを筒状体81の凹部81Eから外すことで、棒状体82の先端部82Aによる筒状体81の先端部81Bの拡径を解除し、図3に示す状態とする。次に、棒状体82をさらに引き上げることで、円板部82aを筒状体81の先端部81Bの端面に押し当てる。そして、さらに棒状体82を引き上げることで、円板部82aにより筒状体81が持ち上げられる。これにより、棒状体82と一体に筒状体81を取り付け穴から外すことができる。
このように、第2実施形態のストッパー8は、案内レール1の取り付け穴に対して着脱し易く、取り付け状態で取り付け穴から外れにくい。また、取り付けの際に案内レール1を損傷することがない。
【符号の説明】
【0027】
1 案内レール
11 転動溝(転動面)
2 スライダ
21 転動溝(転動面)
22 戻し通路
2A 胴部
2B 脚部
3 ボール(転動体)
4 取り付け穴
41 座繰り部
42 軸収納部
43 面取り部
7 ストッパー
71 筒状体
71A 軸部
71B 先端部
71C 突出部
71D 貫通穴
71E 凹部
71F 貫通穴
71d テーパ穴
72 棒状体
72A 先端部
72B 凸部
72C 貫通穴
73 ピン(止め部材)
8 ストッパー
81 筒状体
81A 軸部
81B 先端部
81C 突出部
81D 貫通穴
81d テーパ穴
81E 凹部
82 棒状体
82A 先端部
82B 凸部
82a 円板部(止め部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、案内レールの上側に配置される胴部および両側に配置される脚部を有するスライダと、複数個の転動体と、を備え、
案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、
案内レールは、さらに、案内レールをボルトで被取付部に取り付けるための取り付け穴を長さ方向に複数個有し、
転動体の転動により案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置の、スライダが案内レールから外れることを防止するストッパーであって、
エラストマーで形成され、前記取り付け穴に挿入する先端部および案内レールの上面より突出させる突出部を有する筒状体と、
前記筒状体の軸方向に延びる貫通穴に挿入される棒状体と、からなり、
前記貫通穴に挿入された前記棒状体の先端部により前記筒状体の先端部が拡径される構造を有し、
前記棒状体の先端部の外周部に凸部を設け、前記筒状体の貫通穴の先端部に前記凸部が圧入される凹部を設けたスライダ抜け止め用ストッパー。
【請求項2】
前記棒状体が前記筒状体の貫通穴から外れないようにする止め部材を有する請求項1記載のスライダ抜け止め用ストッパー。
【請求項3】
案内レールと、案内レールの上側に配置される胴部および両側に配置される脚部を有するスライダと、複数個の転動体と、を備え、
案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、
案内レールは、さらに、案内レールをボルトで被取付部に取り付けるための取り付け穴を長さ方向に複数個有し、
転動体の転動により案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置において、
請求項1記載のストッパーの前記筒状体の先端部が、前記筒状体の貫通穴に挿入された前記棒状体の先端部により拡径されて、前記取り付け穴に弾性変形状態で固定され、前記筒状体の突出部が案内レールの上面より突出しているリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92257(P2013−92257A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−29280(P2013−29280)
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2009−19724(P2009−19724)の分割
【原出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】