説明

リニアガイド装置

【課題】リニアガイド装置を、簡単な方法で、取付姿勢に関わらず潤滑油が両脚部の方向転換路に行き渡るようにする。
【解決手段】エンドキャップ22(スライダ)の両脚部22Aを上下方向に配置し、胴部22Bの幅方向中心の給油口22dを使用する場合、給油口22dから下方に向かって延びる給油溝22faに、潤滑油の流量を減少させる部品5を埋める。給油口22dから供給される潤滑油は、部品5が埋められている給油溝22faで流量が減少されるため、上に向かって延びる給油溝22fbにも流入し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライダが直動方向で本体とエンドキャップに分割されるリニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置の従来例について図4〜6を用いて説明する。
図4は、エンドキャップの右側半分を外した状態のリニアガイド装置を示す正面図である。図5は、循環経路の内部が分かるように部分的に断面で示したリニアガイドの平面図である。図6は、エンドキャップとリターンガイドを示す斜視図である。
これらの図に示すように、リニアガイド装置は、案内レール1と、スライダ(「ベアリング」とも称される。)2と、複数個のボール(転動体)3とで構成される。
【0003】
案内レール1には、長手方向と平行に延びる転動溝(転動面)11が、両側面にそれぞれ二本形成されている。スライダ2は、案内レール1の幅方向両側に配置される脚部2Aと、両脚部2Aを連結する胴部2Bとからなる。胴部2Bは、案内レール1の厚さ方向(長さ方向と幅方向の両方に垂直な方向)一端側(この図では、案内レール1の上面側)に配置されている。そして、スライダ2の両内側面が案内レール1の両側面に対向配置されている。
【0004】
スライダ2は、直動方向でスライダ本体21とエンドキャップ22とに分割され、エンドキャップ22がスライダ本体21の直動方向両端に配置されている。このスライダ本体21の両内側面に、案内レール1の各転動溝11と対向する転動溝(転動面)21aが形成されている。これらの転動溝11,21aでボール3の転動通路12が形成される。
また、スライダ本体21の各転動溝21aより外側に、直線状の戻し通路21bが、上下方向に間隔を開けて二本形成されている。この二本の戻し通路21bの間に、エンドキャップ22を取り付けるための雌ねじ21cが形成されている。また、スライダ本体21の胴部2BのグリースニップルNを取り付ける位置の両脇にも、エンドキャップ22を取り付けるための雌ねじ21dが形成されている。
【0005】
図6に示すように、エンドキャップ22は、スライダ2の脚部2Aの直動方向端部をなす1対の脚部22Aと、スライダ2の胴部2Bの直動方向端部をなす胴部22Bとからなる。
各脚部22Aのスライダ本体21側の面に、二つの半円弧状の凹部22aと、リターンガイド4を取り付ける溝(リターンガイド用溝)22bが形成されている。各脚部22Aには、また、本体21の雌ねじ21cに対応する位置に貫通穴22cが設けてあり、二つの凹部22aはこの貫通穴22cを挟んだ上下に配置されている。
【0006】
リターンガイド4は半円筒状に形成され、その円弧状の凸面4aがエンドキャップ22のリターンガイド用溝22bに嵌合される。これにより、エンドキャップ22の凹部(方向転換路の外側溝)22aとリターンガイド4の円弧状の凸面(方向転換路の内側溝)4aとで、方向転換路24が形成される。なお、リターンガイド4には、上下二つの凹部22aに対応させて二つの通油穴41が設けてある。
【0007】
一方のエンドキャップ22の胴部22Bの幅方向中心には、グリースニップルN(または給油配管用継手)を取り付ける穴(給油口)22dが形成されている。また、グリースニップル取付穴22dの両脇であって、スライダ本体21の雌ねじ21dに対応する位置に、貫通穴22eが設けてある。
エンドキャップ22のスライダ本体21側の面には、さらに、方向転換路24に潤滑油を導入する給油溝22fが形成されている。この給油溝22fは、グリースニップル取付穴22dから左右(幅方向外側)に向かい、貫通穴22eに沿ってその周囲を通った後に、直角に曲がって凹部22aに至るように形成されている。
【0008】
したがって、リターンガイド4をリターンガイド用溝22bに嵌合した後に、エンドキャップ22をスライダ本体21に取り付けることにより、スライダ本体21とリターンガイド4との間に油路45(図5参照)が形成される。これにより、グリースニップルN(または給油配管用継手)から供給された潤滑油は、給油溝22fを通って油路45に入った後、通油穴41から方向転換路24に導入され、方向転換路24でボール3が潤滑される。
【0009】
また、方向転換路24で転動通路12と戻し通路21bとが連通され、これら各路でボール3を無限に循環させる循環経路25が構成される。そして、各循環経路25をボール3が循環することによって、スライダ2が案内レール1に沿ってスライドする。
このようなリニアガイド装置を、図7に示すように、スライダの両脚部を上下方向に配置して使用する場合、潤滑油は、自重により下方に向かって流動するため、給油口22dから下方に向かって延びる給油溝22faには流入しやすい(矢印A)が、給油口から上方に向かって延びる給油溝22fbには流入し難い(矢印B)。これにより、上側の脚部22Aの凹部(方向転換路の外側溝)22aに潤滑油が行き渡り難くなり、潤滑不良の原因となる。
【0010】
そのため、エンドキャップ22の両側に給油口22g,22kを設け、上側に配置された給油口22gを使用することが行われているが、その場合でも、給油口22gに続く給油路22hに沿って延びて下方に向かう給油溝22fa,22fbと比較して、上側に配置された脚部側の給油溝22fcには潤滑油が流入し難い。
また、図8に示すように、スライダの両脚部が斜めに配置され、斜め上方に開口する給油口22gを使用する場合、これに続く給油路22hに沿って延びて斜め下方に向かう給油溝22fa,22fbと比較して、斜め上方に配置された脚部側の給油溝22fcには潤滑油が流入し難い。
【0011】
また、特許文献1には、潤滑油塗布体、潤滑油吸蔵体、および油量調整板からなる潤滑油供給部材をエンドキャップの外側に取り付けることで、リニアガイド装置の取付姿勢に関わらず、潤滑油が両側の方向転換路に行き渡るようにすることが記載されている。
【特許文献1】特開平10−184683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、スライダの軸方向寸法が長くなるという問題点がある。
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、簡単な方法で(スライダの軸方向寸法を変えずに)、リニアガイド装置の取付姿勢に関わらず、潤滑油が両側の方向転換路に行き渡るようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、案内レールとスライダと複数個の転動体とで構成され、案内レールの幅方向両側面に、転動体の転動面が形成され、スライダは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、案内レールの厚さ方向一端側に配置されて両脚部を連結する胴部とからなり、前記両脚部の内側面に、案内レールの転動面に対向配置される転動面を有し、この転動面と案内レールの転動面とにより転動体の転動通路が形成され、前記両脚部に転動体の戻し通路が形成され、前記両脚部にはまた、前記戻し通路と前記転動通路を連通させる方向転換路が形成され、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で構成された循環経路内を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直動するリニアガイド装置において、スライダは、直動方向で分割される本体とエンドキャップとで構成され、エンドキャップはスライダ本体の直動方向両端に配置され、エンドキャップは、スライダ本体側の面に、方向転換路の外側溝と方向転換路に潤滑剤を導入する給油溝とが形成され、この給油溝に潤滑油を導入する給油口を有し、前記給油溝の、取付姿勢に応じて前記給油口から潤滑油が向かい易い側に配置される部分に、潤滑油の流量を減少させる部品を埋めたことを特徴とするリニアガイド装置を提供する。
【0014】
前記部品としては、一定量までは潤滑油を吸収して保持し、一定量を超えると排出される材料からなるものと、潤滑油を吸収しない材料からなり、一定方向に延びる複数の貫通穴を有するものが挙げられる。後者の場合は、貫通穴の方向と給油溝の流れの方向を合わせて埋める。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリニアガイド装置によれば、簡単な方法で(スライダの軸方向寸法を変えずに)、リニアガイド装置の取付姿勢に関わらず、潤滑油が両側の方向転換路に行き渡るようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
なお、この実施形態で示すリニアガイド装置の基本的な構造は図4〜6と同じであるため、同じ部分は同じ符号を記して説明は省略する。
図1は、リニアガイド装置がスライダの両脚部を上下方向に配置して使用されている状態を示す図である。この図では、手前側のエンドキャップとスライダ本体が省略されて、奥側のエンドキャップのスライダ本体側の面と案内レールが表示され、このエンドキャップのリターンガイド用溝にリターンガイドが取り付けられている。
この実施形態では、胴部22Bの給油口22dを使用するため、給油口22dから下方に向かって延びる給油溝22faに、潤滑油の流量を減少させる部品5を埋める。また、エンドキャップ22の両側の給油口22g,22kは塞がれている。
【0017】
この部品5として、図2(a)に示すように、一定量までは潤滑油を吸収して保持し、一定量を超えると排出されるような材料(繊維や多孔質材料など)からなる直方体や、図2(b)に示すように、金属や合成樹脂などの潤滑油を吸収しない材料からなり、一定方向に延びる複数の貫通穴51を有する直方体を使用する。図2(b)の部品5を用いる場合には、貫通穴51の延びる方向と給油溝の流れの方向を合わせて埋める。
したがって、この実施形態のリニアガイド装置によれば、給油口22dから供給される潤滑油は、部品5が埋められている給油溝22faで流量が減少されるため、上に向かって延びる給油溝22fbにも流入し易くなる。よって、給油口22dから供給された潤滑油が、両脚部22Aの凹部(方向転換路の外側溝)22aに行き渡るようになる。
【0018】
図3は、リニアガイド装置がスライダの両脚部を斜め上下方向に配置して使用されている状態を示す図である。この図では、手前側のエンドキャップとスライダ本体が省略されて、奥側のエンドキャップのスライダ本体側の面と案内レールが表示され、このエンドキャップのリターンガイド用溝にリターンガイドが取り付けられている。
【0019】
この実施形態では、脚部22Aの斜め上方に開口する給油口22gを使用するため、給油溝22fbの、上側に配置される貫通穴22eと給油口22dとの間の位置に、潤滑油の流量を減少させる部品5を埋める。また、脚部22Aの斜め下方に開口する給油口22kは塞がれている。また、胴部22Bの給油口22dは、給油溝の一部として使用するスライダ本体側の部分は閉塞されず、それ以外の部分は閉塞されている。
【0020】
ここで、給油口22gから供給された潤滑油は、給油路22hを通って胴部22Bに沿った給油溝22fbと上側の脚部22Aに沿った給油路22fcに向かうが、通常は、給油路22hに沿った給油溝22fbに向かい易い。これに対して、この実施形態のリニアガイド装置によれば、部品5が埋められている給油溝22fbで潤滑油の流量が減少されるため、上側の脚部22Aに沿った給油路22fcにも流入し易くなる。よって、給油口22gから供給された潤滑油が、両脚部22Aの凹部(方向転換路の外側溝)22aに行き渡るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態を説明する図であって、リターンガイドが取り付けられた状態での、エンドキャップのスライダ本体側の面を示す正面図である。
【図2】潤滑油の流量を減少させる部品を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態を説明する図であって、リターンガイドが取り付けられた状態での、エンドキャップのスライダ本体側の面を示す正面図である。
【図4】エンドキャップの右側半分を外した状態のリニアガイド装置を示す正面図である。
【図5】循環経路の内部が分かるように部分的に断面で示したリニアガイドの平面図である。
【図6】エンドキャップとリターンガイドを示す斜視図である。
【図7】リニアガイド装置の従来例であって、スライダの両脚部を上下方向に配置して使用されている状態を示す図である。
【図8】リニアガイド装置の従来例であって、スライダの両脚部を斜め上下方向に配置して使用されている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 案内レール
11 転動溝(転動面)
12 転動通路
2 スライダ
2A 脚部
2B 胴部
21 スライダ本体
21a 転動溝(転動面)
21b 戻し通路
21c 雌ねじ
21d 雌ねじ
22 エンドキャップ
22a 半円弧状の凹部(方向転換路の外側溝)
22b リターンガイド用溝
22c 貫通穴
22d グリースニップル取付穴
22e 貫通穴
22fa〜22fc 方向転換路に潤滑剤を導入する油路
24 方向転換路
3 ボール(転動体)
4 リターンガイド
4a リターンガイドの円弧状の凸面(方向転換路の内側溝)
41 通油穴
42 油路(リターンガイドの半円弧状の凹部)
43 リターンガイドの軸方向に延びる端面
45 通油溝
5 潤滑油の流量を減少させる部品
51 貫通穴
N グリースニップル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールとスライダと複数個の転動体とで構成され、
案内レールの幅方向両側面に、転動体の転動面が形成され、
スライダは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、案内レールの厚さ方向一端側に配置されて両脚部を連結する胴部とからなり、
前記両脚部の内側面に、案内レールの転動面に対向配置される転動面を有し、この転動面と案内レールの転動面とにより転動体の転動通路が形成され、前記両脚部に転動体の戻し通路が形成され、前記両脚部にはまた、前記戻し通路と前記転動通路を連通させる方向転換路が形成され、
前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で構成された循環経路内を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直動するリニアガイド装置において、
スライダは、直動方向で分割される本体とエンドキャップとで構成され、エンドキャップはスライダ本体の直動方向両端に配置され、
エンドキャップは、スライダ本体側の面に、方向転換路の外側溝と方向転換路に潤滑剤を導入する給油溝とが形成され、この給油溝に潤滑油を導入する給油口を有し、
前記給油溝の、取付姿勢に応じて前記給油口から潤滑油が向かい易い側に配置される部分に、潤滑油の流量を減少させる部品を埋めたことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
前記部品は、一定量までは潤滑油を吸収して保持し、一定量を超えると排出される材料からなる請求項1記載のリニアガイド装置。
【請求項3】
前記部品は、潤滑油を吸収しない材料からなり、一定方向に延びる複数の貫通穴を有し、貫通穴の方向と給油溝の流れの方向を合わせて埋めてある請求項1記載のリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−57700(P2008−57700A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236711(P2006−236711)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】