説明

リニアガイド装置

【課題】高速運転に耐えることができるエンドキャップを備えたリニアガイド装置を提供する。
【解決手段】リニアガイド装置1が、レール軌道溝4を有するレール2と、レール軌道溝4と対向するスライダ軌道溝7と戻り路9とを有するスライダ5と、レール軌道溝4とスライダ軌道溝7とにより形成される負荷路12と、スライダ5の前後端部に配置され、方向転換路13を有するエンドキャップ11と、負荷路12を方向転換路13と戻り路9とにより連通した循環路18を循環するボール8とを備え、エンドキャップ11の方向転換路13のレール軌道溝4側に、負荷路12からボール8を掬上げる掬上部14を設け、この掬上部14の硬さを、ロックウェル硬さで35HRC以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や製造装置、射出成形機、測定機器等の機械装置の案内部に設けられ、テーブル等の移動台を直線的に移動させるためのリニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリニアガイド装置は、スライダに設けた戻り路と、エンドキャップに設けた方向転換路と、レールに設けたレール軌道溝とスライダに設けたスライダ軌道溝とを対向させて形成した負荷路とを連通した循環路に複数のボールを装填し、負荷路を転動したボールをエンドキャップの方向転換路に掬上げ、戻り路を経由して他方の方向転換路から再び負荷路へ戻して循環させ、スライダをレール上で直線的に往復移動させている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記のようなスライダは、一般に焼入れ性が保証された構造用鋼材であるH鋼を用い、これに焼入れ焼戻し処理を行って硬さを調整し、機械加工によりスライダ軌道溝等を形成して製作される。
また、エンドキャップは、樹脂材料や金属粉末を用いた射出成形により製作され、金属粉末を用いた金属粉末射出成形で製作された場合には、焼入れ焼戻し処理を行わないのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−130272号公報(第2頁段落0002−第3頁段落0005、第13図、第21図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した一般的な製作技術を用いて特許文献1の構成を有するリニアガイド装置を製作した場合には、スライダは機械加工により製作しているため、製造コストが増加すると共に、量産効果を得ることが難しいという問題がある。
また、エンドキャップは比較的硬さの低い材料で製作されているため、リニアガイド装置を高速で運転した場合には、負荷路を転動したボールをエンドキャップの方向転換路に掬上げる際に、その掬上部にボールが高速で衝突して掬上部に損傷が生じ、これが進行するとボールの脱落が生じてリニアガイド装置の機能を損なう可能性があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、高速運転に耐えることができるエンドキャップを備えたリニアガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、レール軌道溝を有するレールと、前記レール軌道溝と対向するスライダ軌道溝と戻り路とを有し、前記レールを直線的に往復移動するスライダと、前記スライダの移動方向の前後端部に配置され、方向転換路を有するエンドキャップと、前記レール軌道溝とスライダ軌道溝とにより形成される負荷路と、前記負荷路を前記方向転換路と戻り路とにより連通した循環路を循環するボールとを備えたリニアガイド装置において、前記エンドキャップの方向転換路の前記レール軌道溝側に、前記負荷路から前記ボールを掬上げる掬上部を設け、前記掬上部の硬さを、ロックウェル硬さで35HRC以上としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明は、エンドキャップの方向転換路をロックウェル硬さで35HRC以上としたので、高速運転時における高速のボールの衝突による掬上部への損傷を防止することができ、リニアガイド装置の高速運転における耐久性を向上させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例のリニアガイド装置を示す斜視図
【図2】実施例の循環路を示す説明図
【図3】各種の成形品の硬さの比較表
【図4】実施例のリニアガイド装置の高速運転試験結果を示す表
【図5】実施例のエンドキャップの掬上部の磨耗量の測定結果を示す
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して本発明によるリニアガイド装置の実施例について説明する。
【実施例】
【0011】
図1は実施例のリニアガイド装置を示す斜視図、図2は実施例の負荷路を示す説明図である。
図1において、1はリニアガイド装置である。
2はリニアガイド装置1のレールであり、合金鋼等の鋼材で製作された長尺の棒状部材であって、その上面(レール上面2aという。)にはレール2の長手方向に沿って機械装置の基台等にレール2を取付けるための段付ボルト穴であるレール取付穴3が所定のピッチで複数設けられている。
【0012】
4はレール軌道溝であり、両側のレール2の側面の長手方向に沿って形成された略円弧状断面の溝である。
5はスライダであり、バインダと金属粉末とを混練したペレットを射出成形して焼成する金属粉末射出成形により成形されたSUS440C等の金属粉末の材料とした成形品の焼入れ焼戻し処理や、SUS630L等の析出硬化型のステンレス鋼の金属粉末の材料とした成形品の時効処理により、硬さをロックウェル硬さのCスケールで35(35HRCと記す。)以上に調整して製作された略コの字状の断面形状を有する鞍状部材であって、その上面(スライダ上面5aという。)には取付ねじ穴6が設けられており、この取付ねじ穴6を用いて図示しない機械装置の移動台等がボルト等により取付けられる。
【0013】
7はスライダ軌道溝であり、スライダ5の両方の袖壁5bの内側にレール軌道溝4に対向して設けられた略円弧状断面の溝である。
8は転動体としてのボールであり、合金鋼等の鋼材で製作された球体である。
9は戻り路であり、スライダ5の袖壁5bの厚肉部に形成されたボール8を循環させるためのボール8の直径より大きい直径を有し、スライダ5の移動方向(スライダ移動方向という。)に袖壁5bを貫通する貫通穴であって、それぞれのスライダ軌道溝7に対応して設けられている。
【0014】
11はエンドキャップであり、金属粉末射出成形により成形され、焼入れ焼戻し処理により硬さをロックウェル硬さで35HRC以上に調整して製作され、スライダ5のスライダ移動方向の前後端部に配置され、そのスライダ5側には対向配置されたスライダ軌道溝7とレール軌道溝4とにより形成される負荷路12(図2参照)とスライダ5の戻り路9とをそれぞれ接続するU字状に湾曲した通路である方向転換路13がそれぞれの負荷路12に対応して設けられている。
【0015】
14は掬上部であり、図2に示すようにエンドキャップ11の方向転換路13のレール軌道溝4側に形成されてレール軌道溝4に遊嵌しており、負荷路12を転動したボール8を掬い上げて方向転換路13へ導く機能を有している。
本実施例の掬上部14は、金属粉末射出成形によりエンドキャップ11と一体に形成されている。
【0016】
15はサイドシールであり、合金鋼等の板材で製作された芯金とこの芯金のレール2側に設けられた天然ゴムや合成ゴム等のゴム材料で製作されたシール体16とにより構成されてエンドキャップ11の外側の端面に配置され、ボルト等の締結手段によりエンドキャップ11と共にスライダ5に取付けられている。
17はグリースニップルであり、エンドキャップ11のスライダ5側の端面に形成された図示しない潤滑剤供給溝に接続し、方向転換路13に潤滑剤としてのグリースを補充するときに用いられる。
【0017】
上記の負荷路12の両端部はエンドキャップ11の方向転換路13とスライダ5の戻り路9とによりそれぞれ連通されて循環路18が形成され、この循環路18には複数のボール8が装填され、循環路18に封入された所定の量のグリースにより潤滑されながらスライダ5の移動に伴って負荷路12を転動したボールが、一方の方向転換路13の掬上部14に掬上げられて方向転換路13に導かれ、戻り路9を経由して他方の方向転換路13の掬上部14から負荷路に戻されながら循環路18を循環し、負荷路12を転動するボール8がスライダ5に加えられた荷重を往復動自在に支持し、スライダ5がレール2の長手方向に沿った直線往復移動可能に支持される。
【0018】
本実施例のリニアガイド装置1には、片側に2つ、両側で4つの循環路18が形成されている。
上記のスライダ5およびエンドキャップ11を形成する金属粉末射出成形品の硬さを他の材料による成形品の硬さと比較した比較表を図3に示す。
図3に示すように、焼入れ焼戻し処理を行った金属粉末射出成形品(SUS440C)の硬さは、焼入れ焼戻し処理を行ったH鋼(SCr430H)による成形品の硬さと同レベルの56HRCであり、スライダ5を製作する場合に金属粉末射出成形を用いて製作することが可能であることが判る。
【0019】
また、図3に示すように、本実施例の焼入れ焼戻し処理を行った金属粉末射出成形品(SUS440C)の硬さは、従来のエンドキャップの形成に用いられていた樹脂成形品(ポリアセタール樹脂)や、焼入れ焼戻し処理を行わない金属粉末射出成形品(SUS316L)の硬さに比べて硬いことが判る。
なお、樹脂成形品(ポリアセタール樹脂)、および焼入れ焼戻し処理を行わない金属粉末射出成形品(SUS316L)の硬さは、ロックウェル硬さのCスケールでは測定不可能、つまりHRC0未満であるので、それぞれロックウェル硬さのMスケールおよびBスケールで測定した硬さで示してある。
【0020】
図4は、本実施例の金属粉末射出成形により成形した各種のエンドキャップ11を用いたリニアガイド装置1の高速運転による試験結果を示す表、図5は本実施例のエンドキャップ11の掬上部14の磨耗量の測定結果を示すグラフである。
なお、図4に示す△印は運転後の観察において、掬上部14に損傷が生じていたことを示し、○印は運転後に掬上部14に損傷が観察されなかったことを示す。
【0021】
また、図5は、運転速度を250m/minとしたときの掬上部14の磨耗量を示す。
図4に示すように、本実施例の焼入れ焼戻し処理を行って硬さを56HRCとした金属粉末射出成形(SUS440C)によるエンドキャップ11の掬上部14への損傷は、300m/minの高速運転においても生じないことが判る。
また、図5に示すように、運転速度を250m/minとしたときの掬上部14の磨耗量は、時効処理を行って硬さを35HRC(ビッカース硬さに換算した硬さで、340〜350Hv)とした金属粉末射出成形(SUS316L)を境にして急激に増加することが判る。
【0022】
このように、金属粉末射出成形によりスライダ5を製作するようにすれば、金属粉末射出成形後に仕上げ加工をするだけでスライダ5を製作することができ、スライダ5の製造コストを低減することができると共に、金型による製造が可能になるので量産によるコスト削減の効果を得ることができる。
また、金属粉末射出成形後に、スライダ5に焼入れ焼戻し処理を行って硬さを35HRC以上に高めたので、スライダ軌道溝7に損傷が生ずることはない。
【0023】
更に、エンドキャップ11の方向転換路13のレール軌道溝4側に設けた掬上部14の硬さをロックウェル硬さで35HRC以上としたので、高速運転時における高速のボールの衝突による掬上部14への損傷を防止することができ、リニアガイド装置1の高速運転における耐久性を向上させることができる。
更に、エンドキャップ11の方向転換路13に形成された掬上部14は、硬さを35HRC以上に高めてあるので、掬上部14の耐摩耗性を向上させることができ、過酷な環境、例えば真空中における耐久性を向上させることも可能になる。
【0024】
更に、金属粉末射出成形に用いる金属粉末をステンレス鋼で形成すれば、耐水性に優れた掬上部14を有するエンドキャップ11およびスライダ5を製作することができる。
上記の焼入れ焼戻し処理を行った金属粉末射出成形によるスライダ5や掬上部14の硬さは、ロックウェル硬さで35HRC以上とすることが望ましい。
つまり、図3に示すように、従来の焼入れ焼戻し処理を行わない金属粉末射出成形による成形品の硬さが34HRC以下であるのに対して、焼入れ焼戻し処理を行った金属粉末射出成形による成形品の硬さは35HRC以上であり、図4に示すようにこの硬さ、つまり34HRC〜35HRCの間の硬さを境にして250m/minの高速運転に耐える掬上部14が得られ、また、図5に示すように、HRC35(340〜350Hv)以上にすることで、運転速度を250m/minとしたときの掬上部14の磨耗量を大幅に改善することができるからである。
【0025】
上記の焼入れ焼戻し処理を行う金属粉末射出成形に用いる金属粉末の材料は、SUS410等のフェライト系ステンレス鋼やSUS440等のマルテンサイト系ステンレス鋼、ダイス鋼、高速度鋼等の金属粉末が好適である。
なお、本実施例では、成形後の焼入れ焼戻し処理、または時効処理により金属粉末射出成形で成形されたスライダ5やエンドキャップ11の硬さを高めるとして説明したが、焼入れ焼戻し処理等により35HRC以上の硬さとすることが可能な鋼材や、セラミック材料による成形品でスライダ5やエンドキャップ11を形成するようにしてもよい。
【0026】
以上説明したように、本実施例では、スライダを金属粉末射出成形により形成するようにしたことによって、金属粉末射出成形後に仕上げ加工をするだけでスライダを製作することができ、スライダの製造コストを低減することができると共に、金型による製造が可能になるので量産によるコスト削減の効果を得ることができる。
また、金属粉末射出成形に用いる金属粉末の材料を、ステンレス鋼で形成したことによって、耐水性を有するリニアガイド装置を得ることができる。
【0027】
更に、スライダを、焼入れ焼戻し処理、または時効処理により、ロックウェル硬さで35HRC以上としたことによって、スライダ軌道溝の損傷を防止することができる。
更に、エンドキャップの方向転換路の硬さをロックウェル硬さで35HRC以上としたことによって、高速運転時における高速のボールの衝突による掬上部への損傷を防止することができ、リニアガイド装置の高速運転における耐久性を向上させることができる。
【0028】
なお、本実施例においては、スライダを金属粉末射出成形により一体に形成するとして説明したが、スライダ軌道溝および/もしくは戻り路を金属粉末射出成形により形成し、別に形成したスライダに組込むようにしてもよい。
また、方向転換路の掬上部をエンドキャップと一体に形成するとして説明したが、掬上部単体を金属粉末射出成形で形成し、別に形成したエンドキャップに組込むようにしてもよい。このようにすれば、掬上部の高速運転に対する耐久性を確保しながら、エンドキャップの製造コストの低減を図ることができる。
【0029】
更に、本実施例においては、スライダを金属粉末射出成形し、焼入れ焼戻し処理により硬度を高めて用いるとして説明したが、スライダを焼入れ焼戻し処理を施したH鋼で形成して、硬さを35HRC以上とした掬上部と組合せて用いるようにしてもよい。このようにしても高速運転における耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 リニアガイド装置
2 レール
2a レール上面
3 レール取付穴
4 レール軌道溝
5 スライダ
5a スライダ上面
5b 袖壁
6 ねじ穴
7 スライダ軌道溝
8 ボール
9 戻り路
11 エンドキャップ
12 負荷路
13 方向転換路
14 掬上部
15 サイドシール
16 シール体
17 グリースニップル
18 循環路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール軌道溝を有するレールと、前記レール軌道溝と対向するスライダ軌道溝と戻り路とを有し、前記レールを直線的に往復移動するスライダと、前記スライダの移動方向の前後端部に配置され、方向転換路を有するエンドキャップと、前記レール軌道溝とスライダ軌道溝とにより形成される負荷路と、前記負荷路を前記方向転換路と戻り路とにより連通した循環路を循環するボールとを備えたリニアガイド装置において、
前記エンドキャップの方向転換路の前記レール軌道溝側に、前記負荷路から前記ボールを掬上げる掬上部を設け、
前記掬上部の硬さを、ロックウェル硬さで35HRC以上としたことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記掬上部を、金属粉末を材料とした金属粉末射出成形で形成したことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記金属粉末射出成形に用いる金属粉末の材料が、ステンレス鋼であることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、
前記掬上部に、焼入れ焼戻し処理、または時効処理を施したことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記掬上部を、セラミック材料で形成したことを特徴とするリニアガイド装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−220536(P2011−220536A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177346(P2011−177346)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2007−103855(P2007−103855)の分割
【原出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】