説明

リニアモーター用電磁ブレーキ

【課題】リニアモーターを緊急に停止させるに際して、リニアモーターに加わる衝撃を軽減しつつ短時間に確実にリニアモーターを停止させることができるリニアモーター用電磁ブレーキを提供する。
【解決手段】リニアモーターの可動部に設けられ、固定バーに押圧されて前記固定バーとの間に摩擦を生じさせるブレーキパッドと、ブレーキパッドを固定バーに押圧する押圧手段と、押圧手段の押圧力に抗してブレーキパッドを固定バーから離間させて保持する保持手段とが設けられ、ブレーキパッドは、互いに独立して作動することができるn個(但しnは2以上の整数)のブレーキパッドから構成され、押圧手段は、保持手段によるブレーキパッドの保持が解除された後に、n個のブレーキパッドを第1ブレーキパッドから第nブレーキパッドまで順に、所定の時間間隔をおいて前記固定バーに押圧する多段動作式押圧手段であるリニアモーター用電磁ブレーキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停電等による電力供給停止その他の異常発生時にリニアモーターにより駆動する可動部を、衝撃を軽減しつつ短時間に確実に停止させるリニアモーター用電磁ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモーターは、高速、高加減速、高精度を有しているため、作業効率を著しく高めることができる装置として生産・加工を含む産業設備に用いられている。
【0003】
しかし、リニアモーターは回転部分を有しておらず、ブレーキ機構を構成し難い装置であるため、適切なリニアモーター用のブレーキの実用化が困難であった。このため、リニアモーターや供給電源に異常が発生した場合には、リニアモーターの可動部をその場で停止させることができず、例えば走行経路の両端に設けたストッパーまで慣性によって暴走させ、当たりで強制停止させる方式が採られていた。しかし、この方式においては、当たりの衝撃による機構の破損の修復や再起動時のメンテナンスに長時間を要するという問題があった。
【0004】
上記のような慣性によるリニアモーターの暴走を停止させるために、例えば可動部にブレーキパッド等の部材を取り付けておき、異常発生時には前記ブレーキパッドを、固定子側に取り付けた摩擦係合部材等に押圧するリニアモ−ター用電磁ブレーキが開発されている。(特許文献1〜3)
【0005】
具体的には、前記ブレーキパッドがばね等の押圧部材に支持され、常時は励磁コイルによる吸引力により可動部側に吸引されて前記摩擦係合部材と離間して保持されており、停電などにより励磁コイルへの電力の供給が停止すると前記押圧部材の押圧力により前記ブレーキパッドが前記摩擦係合部材等に押圧されるという機構が採用されている。
【特許文献1】特開2001−136726号公報
【特許文献2】特開2000−184686号公報
【特許文献3】特開平8−251904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記した特許文献1〜3に記載のリニアモーター用ブレーキは、非常時に際して高速で移動するリニアモーターを如何にして迅速に停止させるかという点に主眼をおいて開発されたものであり、リニアモーターを緊急停止させたときにリニアモーターに加わる衝撃を軽減することに関しては必ずしも十分な配慮がなされていなかった。
【0007】
そこで本発明は、リニアモーターやリニアモーターに電力を供給する電源に異常が発生したときに、リニアモーターを緊急に停止するに際して、リニアモーターに加わる衝撃を軽減しつつ短時間に確実にリニアモーターを停止させることができるリニアモーター用電磁ブレーキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、可動部にブレーキパッド等の部材を取り付けておき、異常発生時には前記ブレーキパッドを、固定バーに押圧するリニアモ−ター用電磁ブレーキにおいて、前記ブレーキパッドを各々独立して作動可能な第1ブレーキパッドから第nブレーキパッドのn個のブレーキパッドに分割し、n個のブレーキパッドを第1ブレーキパッドから第nブレーキパッドまで順に、n段階に分けて固定バーに押圧することにより前記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
リニアモーターの可動部に設けられ、前記可動部の走行経路に沿って配置された固定バーとの間に摩擦を生じさせて前記可動部を制動するリニアモーター用電磁ブレーキであって、
前記固定バーに押圧されて前記固定バーとの間に摩擦を生じさせるブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドを前記固定バーに押圧する押圧手段と、
前記押圧手段の押圧力に抗して前記ブレーキパッドを固定バーから離間させて保持する保持手段とが設けられ、
前記ブレーキパッドは、互いに独立して作動することができるn個(但しnは2以上の整数)のブレーキパッドから構成され、
前記押圧手段は、前記保持手段によるブレーキパッドの保持が解除された後に、前記n個のブレーキパッドを第1ブレーキパッドから第nブレーキパッドまで順に、所定の時間間隔をおいて前記固定バーに押圧する多段動作式押圧手段であることを特徴とするリニアモーター用電磁ブレーキである。
【0010】
請求項1の発明においては、固定バーに押圧されて摩擦を生じさせるブレーキパッドを互いに独立して作動することができるn個のブレーキパッドから構成されるブレーキパッドとし、ブレーキパッドを押圧する押圧手段を第1ブレーキパッドから第nブレーキパッドまで順に、所定の時間間隔をおいて前記固定バーに押圧する多段動作式押圧手段としたため、従来のリニアモーター用電磁ブレーキにおいて実現されていなかったリニアモーターに加わる衝撃を軽減しつつ短時間に停止させることが可能になった。
【0011】
即ち、押圧パッドを固定バーに押圧させそのときに発生する摩擦によって高速で移動するリニアモーターを停止する方式のリニアモーター用ブレーキにおいては、従来のブレーキパッドを1段階で押圧する方法では、摩擦力を微妙に制御することが難しいため、停止する際の衝撃を軽減しつつ短時間に確実に停止させることは困難である。即ち摩擦力が過剰に大きい場合にはリニアモーターを瞬時にして停止させることはできるが、リニアモーターに加わる衝撃が大きい。一方、摩擦力が不足する場合には衝撃は小さいが短時間に確実に停止させることができない。
【0012】
これに対して、本発明においては第1段目から第n段目まで所定の時間を置いて順に多段動作によりブレーキパッドを固定バーに押圧することにより、段数が進むほど摩擦力が大きくなるため、リニアモーターの移動速度を次第に減速させつつ、リニアモーターを短時間に確実に停止させることができる。そして、このようにリニアモーターを瞬時に停止させるのではなく、減速させつつ停止させるため、リニアモーターに加わる衝撃を軽減することができる。
【0013】
なお、ブレーキを停電などにより電力の供給が停止した状況下においても機能させることは、バックアップ電源を用いることによっても可能であるが、電力を使用しない方が好ましく、このため、前記押圧手段として電力の供給が停止してもその機能を失わないコイルバネや板ばね等のばね類を用いることが好ましい。一方保持手段としてはブレーキパッドを固定バーから離間させて保持した状態から保持機能の解除への切り替えを迅速に行うことができるヨーク等電磁石を用いることが好ましい。
【0014】
本発明においては、停電等による電力供給停止によってブレーキを動作させる構成としてもよいし、また異常検知手段を設け、異常検知手段からの異常検知信号によりブレーキを動作させる構成としてもよい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
前記ブレーキパッドは、第1ブレーキパッドと第2ブレーキパッドの2個のブレーキパッドから構成され、
前記押圧手段は、前記保持手段によるブレーキパッドの保持が解除された後に、前記第1ブレーキパッドを前記固定バーに押圧し、所定時間経過後前記第2ブレーキパッドを前記固定バーに押圧する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項1に記載のリニアモーター用電磁ブレーキである。
【0016】
請求項2の発明においては、ブレーキパッドを第1ブレーキパッドと第2ブレーキパッドの2個のブレーキパッドで構成し、多段動作式の押圧手段の中では最低限の2段動作式の押圧手段にしているため、低コストでメンテナンスが容易なリニアモーター用電磁ブレーキを提供することができる。なお、3段動作式以上の多段動作式押圧手段に比べて制動時に加わる衝撃は多少大きいが、実用上問題とならない範囲で軽減することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記2段動作式押圧手段は、前記第2ブレーキパッドを前記固定バーから離間させて保持されている状態で係止する係止手段と、前記第1ブレーキパッドの前記固定バーへの移動に連動して、前記係止手段による第2ブレーキパッドの係止を解除する係止解除手段により2段動作する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項2に記載のリニアモーター用電磁ブレーキである。
【0018】
請求項3の発明においては、先に第1ブレーキパッドが固定バーへの移動を開始し、第1ブレーキパッドが移動したことにより係止手段による第2ブレーキパッドの係止が解除されるため、前記押圧手段が確実に2段動作するニアモーター用電磁ブレーキを提供することができる。
【0019】
また、前記係止手段および係止解除手段は簡単な構成とすることが可能であり、容易に導入することができる。また、大きなスペースを必要とせず、かつブレーキの機構に大きな変更を必要としないため、これまで使用されていたリニアモーターに大きな設計変更を加えることなく、前記押圧手段が2段動作するリニアモーター用電磁ブレーキを提供することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、
前記2段動作式押圧手段は、前記ブレーキパッドが前記固定バーから離間保持されている時の前記第2ブレーキパッドと前記固定バーの距離を、前記第1ブレーキパッドと前記固定バーの距離より大きくして、前記第2ブレーキパッドの前記固定バーへの到達を遅らせる遅延手段により2段動作する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のリニアモーター用電磁ブレーキである。
【0021】
請求項4の発明においては、第2ブレーキパッドと固定バーの距離を第1ブレーキパッドと固定バーの距離より大きくするという極めて単純な構成で前記押圧手段が確実に2段動作するリニアモーター用電磁ブレーキを提供することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、
前記2段動作式押圧手段は、前記押圧手段による前記第2ブレーキパッドの前記固定バーへの移動速度を前記第1ブレーキパッドの前記固定バーへの移動速度より遅くする移動速度制御手段により2段動作する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のリニアモーター用電磁ブレーキである。
【0023】
請求項5の発明においては、移動速度制御手段により第2ブレーキパッドの固定バーへの移動速度を第1ブレーキパッドの固定バーへの移動速度より遅くするため、前記押圧手段が確実に2段動作するリニアモーター用電磁ブレーキを提供することができる。
【0024】
なお、ブレーキパッドと固定バーとの摩擦によって発生する摩擦力を変えないためには、押圧手段の押圧力を変えることなくブレーキパッドの移動速度を制御することが好ましい。
【0025】
請求項6に記載の発明は、
前記移動速度制御手段は、前記第2ブレーキパッドに連結され、流体中を前記固定バーに向けて摺動自在な移動速度制御部材を有し、前記移動速度制御部材が流体中を摺動時に流体から受ける抵抗により第2ブレーキパッドの移動速度を遅くする移動速度制御手段であることを特徴とする請求項5に記載のリニアモーター用電磁ブレーキである。
【0026】
請求項6の発明においては、第2ブレーキパッドに連結され流体中を前記固定バーに向けて摺動自在な移動速度制御部材を有し、前記移動速度制御部材が流体中を摺動するときに流体から受ける抵抗により第2ブレーキパッドの移動速度を制御するため、複雑な機構を必要とせずに第2ブレーキパッドの移動速度を調整することができる。
【0027】
即ち、ブレーキパッドの移動に対して加える抵抗力の中で、流体により抵抗力を加える方法は、使用する流体の粘性や、流体が流れる流路の太さや長さを調整することによって、抵抗力の大きさを調整することが可能であるため、複雑な機構を必要とせずに容易に調整を行うことができる。
【0028】
以上、請求項2〜請求項6の発明は、押圧手段が2段動作式押圧手段であるリニアモーター用電磁ブレーキの発明であるが、請求項2〜請求項6に記載の押圧手段を単独で複数適用するか、または異なる押圧手段を複数組み合わせることにより3段動作式以上の多段動作式押圧手段を構成することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、リニアモーターやリニアモーターに電力を供給する電源に異常が発生したときに、リニアモーターを緊急に停止するに際して、リニアモーターに加わる衝撃を軽減しつつ短時間に確実にリニアモーターを停止させることができるリニアモーター用電磁ブレーキを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、第1ブレーキパッドと2ブレーキパッドの2個のブレーキパッドを設けた2段動作式押圧手段を有するリニアモーター用電磁ブレーキを例に採り本発明の実施の形態につき、図を用いて説明する。なお、本発明は、以下に記載の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
第1〜第3の実施の形態は、前記2段動作式の押圧手段が第2ブレーキパッドを係止する係止手段と、係止を解除する係止解除手段とを備える例である。
【0032】
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図であって、ブレーキを正面から見た断面図である。
【0033】
図1(a)は、リニアモーターが走行状態にあり、リニアモーターの可動部に設けられたリニアモーター用電磁ブレーキ1が作動していない時の状態を示す図である。図1(a)において第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞれシャフト4、シャフト5に取り付けられており、シャフト4、シャフト5は、ブレーキ本体10に上下方向に摺動自在に取り付けられている。ヨーク13の周囲に巻かれたコイル14に電力が供給されてヨーク13は励磁され、第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞれ、ばね8、ばね9の押圧力に抗してヨーク13に吸引され、固定バー15から離間した状態で保持されている。ブレーキ本体10の内部にはストッパー11が水平方向に摺動自在に埋設されており、ストッパー11の右端がシャフト5に設けた溝7に挿入された第2ブレーキパッド3を係止している。
【0034】
図1(b)は、停電によりコイル14への電力の供給が停止した直後の状態を示す図であり、第1ブレーキパッド2がヨーク13の吸引から開放されて、ばね8の押圧力によって固定バー15に向けて移動し、固定バー15に当接し押圧される。第1ブレーキパッド2と共にシャフト4が上方に移動し、シャフト4に設けた溝6がストッパー11と同じ高さになった時点で、ストッパー11はばね12に押されて左方に移動し、図1(c)に示すように、ストッパー11の右端が溝7から引き抜かれて第2ブレーキパッド3の係止が解除される。
【0035】
ストッパー11による係止が解除された後、図1(d)に示すように、ばね9の押圧力により第2ブレーキパッド3が固定バー15に向かって移動し、第1ブレーキパッド2が押圧されてから所定時間後に固定バー15に押圧される。これにより、リニアモーター用電磁ブレーキ1は2段動作によりリニアモーターを制動することができる。
【0036】
なお、大きな摩擦力が得られる一方、固定バーの摩耗を抑制できるため、ブレーキパッドとしては銅や錫などの柔らかい金属の金属粉末やカーボン繊維、合成樹脂などを焼結した焼結体を好ましく用いることができ、固定バーとしては金属製やカーボンコンポジット材などの複合材料製を好ましく用いることができる。また、第1ブレーキパッド、第2ブレーキパッドに加える押圧力の大きさや、第1ブレーキパッドと第2ブレーキパッドによる制動開始の時間差は、停止時にリニアモーターに加わる衝撃の大きさや、ブレーキパッドを固定バーに押圧してからリニアモーターが停止するまでに要する時間、さらにはリニアモーターの移動距離等を考慮して適宜設定される。
【0037】
(第2の実施の形態)
図2は第2の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図であり、図2(a)および図2(b)の左下、左上、右の図はそれぞれ、第2の実施の形態におけるリニアモーター用ブレーキを正面から見た断面図、上側から見た断面図およびA−A’を側面から見た断面図である。ただし、右の図においては図面が煩雑にならないようにヨークとコイルの記載を省略している。
【0038】
図2(a)は、リニアモーターが走行状態にあり、リニアモーターの可動部に設けられたリニアモーター用電磁ブレーキ1が作動していない時の状態を示す図である。第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞれシャフト4、シャフト5に取り付けられており、シャフト4、シャフト5は、ブレーキ本体16に上下方向に摺動自在に取り付けられている。ヨーク13の周囲に巻かれたコイル14に電力が供給されてヨーク13は励磁され、第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞればね8、ばね9の押圧力に抗してヨーク13に吸引され、固定バー15から離間した状態で保持されている。右の図においてブレーキ本体16の上端部に設けた窪み17の内部にはストッパー18が摺動自在に設けられており、ばね19に押されて前端(図では左端)が窪み17から突出し、左上の図に示すようにストッパー18の前端(図では下端)が第2ブレーキパッド3の上端角を係止している。
【0039】
図2(b)は、停電によりコイル14への電力の供給が停止した直後の状態を示す図であり、第1ブレーキパッド2がヨーク13の吸引から開放されて、ばね8の押圧力によって固定バー15に向けて移動し、固定バー15に当接し押圧される。第1ブレーキパッド2の上端右端角は面取りされており、第1ブレーキパッド2が固定バー15に向けて移動すると、図2(b)の右の図に示すように、ストッパー18は第1ブレーキパッド2の面取りされた角20に押されて窪み17の奥に向かってに移動するため、左上の図に示すようにストッパー18による第2ブレーキパッド3の係止が解除される。そして、第2ブレーキパッド3が固定バー15に向かって移動し、第1ブレーキパッド2が押圧されてから所定時間後に固定バー15に押圧される。これにより、リニアモーター用電磁ブレーキ1は2段動作によりリニアモーターを制動することができる。
【0040】
(第3の実施の形態)
図3は第3の本実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図であり、図3(a)および図3(b)の左下、左上、右の図はそれぞれ、第3の実施の形態におけるリニアモーター用ブレーキを正面から見た断面図、上側から見た断面図およびB−B’を側面から見た断面図である。ただし、右の図においては図面が煩雑にならないようにヨークとコイルの記載を省略している。
【0041】
図3(a)は、リニアモーターが走行状態にあり、リニアモーターの可動部に設けられたリニアモーター用電磁ブレーキ1が作動していない時の状態を示す図である。図3(a)において第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞれシャフト4、シャフト5に取り付けられており、シャフト4、シャフト5は、ブレーキ本体16に上下方向に摺動自在に取り付けられている。ヨーク13の周囲に巻かれたコイル14に電力が供給されてヨーク13は励磁され、第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞればね8、ばね9の押圧力に抗してヨーク13に吸引され、固定バー15から離間した状態で保持されている。第2ブレーキパッド3の上面には段差23が設けられている。右の図においてブレーキ本体16の上端部にはストッパー24が回転可能に設けられており、ストッパー24の第1ブレーキパッド2側の部分は、ばね25により前方(図では左方)に押され、前端(図では左端)が第1ブレーキパッド2の側面に設けた切欠き21に当接している。一方左上の図に示すようにストッパー24の第2ブレーキパッド3側の前端(図では下端)は、第2ブレーキパッド3の上面に設けた段差23上に突出して第ブレーキパッド3を係止している。
【0042】
図3(b)は、停電によりコイル14への電力の供給が停止した直後の状態を示す図であり、第1ブレーキパッド2がヨーク13の吸引から開放されて、ばね8の押圧力によって固定バー15に向けて移動し、固定バー15に当接し押圧される。右の図に示すように第1ブレーキパッド2の後ろ側右端部の側面(図では右側の側面)には、下方に行くほど面が後退するように傾斜面22が設けられており、第1ブレーキパッド2が固定バー15に向かって移動すると、左上の図に示すように、ばね25に押されてストッパー24は反時計回りの方向に回転するため、ストッパー24による第2ブレーキパッド3の係止が解除される。そして、第2ブレーキパッド3が固定バー15に向かって移動し、第1ブレーキパッド2が押圧されてから所定時間後に固定バー15に押圧される。これにより、リニアモーター用電磁ブレーキ1は2段動作によりリニアモーターを制動することができる。
【0043】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態は、ブレーキパッドが固定バーから離間保持されている時の前記第2ブレーキパッドと固定バーの距離を前記第1ブレーキパッドと固定バーの距離より大きくした例である。
【0044】
図4は第4の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図であって、リニアモーターが走行状態にあり、リニアモーターの可動部に設けられたリニアモーター用電磁ブレーキ1が作動していない時の状態を示す図である。第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞれシャフト4、シャフト5に取り付けられており、シャフト4、シャフト5は、ブレーキ本体16に上下方向に摺動自在に取り付けられている。第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3は励磁されたヨーク13に吸引され、固定バー15から離間した状態で保持されている。
【0045】
図4に示すように、第2ブレーキパッド3と固定バー15の距離を第1ブレーキパッド2と固定バー15の距離より大きくしたため、停電によりコイル14への電力の供給が停止しヨーク13の吸引から開放されて、第1ブレーキパッド2と第2ブレーキパッド3がそれぞれ、ばね8、ばね9に押されて同時に固定バー15に向かって移動を開始するが、第1ブレーキパッド2が固定バー15に当接し押圧された後、所定時間経過後に第2ブレーキパッド3が固定バー15に当接する。これにより、リニアモーター用電磁ブレーキ1は2段動作によりリニアモーターを制動することができる。
【0046】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態は、第2ブレーキパッドに連結され流体中を前記固定バーに向けて移動することができる移動速度制御部材を設け、前記移動速度制御部材が流体中を移動するときに受ける流体の抵抗により第2ブレーキパッドの移動速度を制御する例である。
【0047】
図5は第5の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図であって、リニアモーターが走行状態にあり、リニアモーター用電磁ブレーキ1が作動していない時の状態を示す図である。第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3はそれぞれシャフト4、シャフト5に取り付けられており、シャフト4、シャフト5は、ブレーキ本体16に上下方向に摺動自在に取り付けられている。第1ブレーキパッド2、第2ブレーキパッド3は励磁されたヨーク13に吸引され、固定バー15から離間した状態で保持されている。また、ブレーキ本体16の下面には流体を充填したシリンダ31が設けられ、シリンダー31の内部には第2ブレーキパッド3に連結され、シリンダ31の内径よりわずかに小さい直径のピストン32の下端が設けられている。さらにシリンダ31にはシリンダ31の上端と下端を連結する配管33が設けられ、配管33の中間部分に流体の流量を調整するための調整弁34が設けられている。
【0048】
停電によりコイル14への電力の供給が停止しヨーク13の吸引から開放されて第1ブレーキパッド2と第2ブレーキパッド3がそれぞればね8、ばね9に押されて同時に固定バー15に向かって移動を開始するが、第2ブレーキパッド3に連結されたピストン32の摺動に対して流体の抵抗が加わるため、第2ブレーキパッド3の移動速度が遅くなるように制御される。このため、第1ブレーキパッド2が固定バー15に当接し押圧された後、所定時間経過後に第2ブレーキパッド3が固定バー15に当接する。これにより、リニアモーター用電磁ブレーキ1は2段動作によりリニアモーターを制動することができる。
【0049】
本実施の形態においては、使用する流体を適当な粘性を有する流体とすることや、調整弁34により流体の流量を調整することによりピストン32に加わる抵抗力の大きさを調節し、第2ブレーキパッドの移動速度の微妙な制御を行うことができる。
【0050】
なお、本実施の形態においては、ピストンやシリンダの腐食を抑制するため、流体として腐食性がない液体や不活性な気体を好ましく用いることができる。
【0051】
なお、以上記載した第1〜第5の実施の形態は、いずれも第1ブレーキパッド、第2ブレーキパッドに加わる押圧力、即ちブレーキパッドと固定バーとの間の摩擦力を変えることなく2段階動作が可能なリニアモーター用電磁ブレーキの例であり、所定の摩擦力を維持しつつ2段階動作を行うことができる。
【0052】
以上、2段動作式押圧手段を有するリニアモーター用電磁ブレーキを例に採って本発明を説明したが、本発明は2段動作式押圧手段を有するリニアモーター用電磁ブレーキに限定されるものではなく、本発明のリニアモーター用電磁ブレーキには、互いに独立して作動することができるn個のブレーキパッドをn段に分けて固定バーに押圧する多段動作式押圧手段を有するリニアモーター用電磁ブレーキも含まれる。なお、第1〜第5の実施の形態に記載の押圧手段を単独で複数適用するか、または異なる押圧手段を複数組み合わせることにより3段動作式以上の多段動作式押圧手段を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係るリニアモーター用ブレーキの2段動作の機構を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 リニアモーター用ブレーキ
2 第1ブレーキパッド
3 第2ブレーキパッド
4、5 シャフト
6、7 溝
8、9、12、19、25 ばね
10、16 ブレーキ本体
11、18、24 ストッパー
13 ヨーク
14 コイル
17 窪み
20 面取りされた角
21 切欠き
22 傾斜面
31 シリンダ
32 ピストン
33 配管
34 調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアモーターの可動部に設けられ、前記可動部の走行経路に沿って配置された固定バーとの間に摩擦を生じさせて前記可動部を制動するリニアモーター用電磁ブレーキであって、
前記固定バーに押圧されて前記固定バーとの間に摩擦を生じさせるブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドを前記固定バーに押圧する押圧手段と、
前記押圧手段の押圧力に抗して前記ブレーキパッドを固定バーから離間させて保持する保持手段とが設けられ、
前記ブレーキパッドは、互いに独立して作動することができるn個(但しnは2以上の整数)のブレーキパッドから構成され、
前記押圧手段は、前記保持手段によるブレーキパッドの保持が解除された後に、前記n個のブレーキパッドを第1ブレーキパッドから第nブレーキパッドまで順に、所定の時間間隔をおいて前記固定バーに押圧する多段動作式押圧手段であることを特徴とするリニアモーター用電磁ブレーキ。
【請求項2】
前記ブレーキパッドは、第1ブレーキパッドと第2ブレーキパッドの2個のブレーキパッドから構成され、
前記押圧手段は、前記保持手段によるブレーキパッドの保持が解除された後に、前記第1ブレーキパッドを前記固定バーに押圧し、所定時間経過後前記第2ブレーキパッドを前記固定バーに押圧する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項1に記載のリニアモーター用電磁ブレーキ。
【請求項3】
前記2段動作式押圧手段は、前記第2ブレーキパッドを前記固定バーから離間させて保持されている状態で係止する係止手段と、前記第1ブレーキパッドの前記固定バーへの移動に連動して、前記係止手段による第2ブレーキパッドの係止を解除する係止解除手段により2段動作する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項2に記載のリニアモーター用電磁ブレーキ。
【請求項4】
前記2段動作式押圧手段は、前記ブレーキパッドが前記固定バーから離間保持されている時の前記第2ブレーキパッドと前記固定バーの距離を、前記第1ブレーキパッドと前記固定バーの距離より大きくして、前記第2ブレーキパッドの前記固定バーへの到達を遅らせる遅延手段により2段動作する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のリニアモーター用電磁ブレーキ。
【請求項5】
前記2段動作式押圧手段は、前記押圧手段による前記第2ブレーキパッドの前記固定バーへの移動速度を前記第1ブレーキパッドの前記固定バーへの移動速度より遅くする移動速度制御手段により2段動作する2段動作式押圧手段であることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のリニアモーター用電磁ブレーキ。
【請求項6】
前記移動速度制御手段は、前記第2ブレーキパッドに連結され、流体中を前記固定バーに向けて摺動自在な移動速度制御部材を有し、前記移動速度制御部材が流体中を摺動時に流体から受ける抵抗により第2ブレーキパッドの移動速度を遅くする移動速度制御手段であることを特徴とする請求項5に記載のリニアモーター用電磁ブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−41735(P2010−41735A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197923(P2008−197923)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(591124721)立山マシン株式会社 (36)
【Fターム(参考)】